4-2 当事者 当事者の確定

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1.当事者確定の意義と基準
(1)当事者の特定と当事者の確定
・当事者の特定とは、
誰が誰に対して当該訴えを提起するのかを明らかにする原告の行為をいう。
←処分権主義

・当事者の確定とは、
裁判所が特定の事件の当事者が誰であるかを判断する作業

(2)当事者確定の基準
・形式的当事者概念からは、具体的な事件において、誰が自己の名において訴え又は訴えられているのかを判断する基準は当然には導かれない。
では、どのような基準を採用するか。

・意思説
=特定の者の意思を基準として当事者を確定

・行動説
=訴訟手続上当事者らしく行動した者、または当事者として実際に取り扱われた者が当事者であるとする見解

・表示説
=訴状の記載を基準として当事者を確定すべき

・表示説(実質的表示説)
=当事者欄の記載に限らず、請求の趣旨・原因その他の記載事項も含めて訴状の全体から総合的に当事者を確定すればよい。

・問題となる局面
氏名冒用訴訟
死者を当事者とする訴訟
別会社に対する訴訟

(3)手続段階との関係
当事者の確定という作業の持つ意味は、手続のどの段階において当事者に関する疑義が生じたかによって異なる。

①原告から提出された訴状を受理した段階において当事者の確定は、もっぱら、誰を当事者としてこれからの手続を進めていくかという問題にかかわる。
→処分権主義の原則から、訴えを提起する原告の意思が尊重される必要があるが、原告の意思は訴状によって表示することが要求されているから、訴状の記載によって当事者を確定することが合理的。
訴状の記載以外の事情を当事者確定の判断資料とすることを認めると、被告の地位を不安定なものにするとともに、手続の遅延を招きかねない。

②手続がある程度進行した段階においては、当事者の確定は、誰を当事者としてこれからの手続を進めていくのかという点に加えて、従前の手続の有効性という問題にも影響する。
→任意的当事者変更、表示の訂正

③当該事件が終結し、判決が確定した後の段階においては、これからの手続の進行についてはもはや問題にならず、誰に対して当該判決の効力が及ぶのか、終結した事件の当事者とされる者に対して、再審の訴えなどの救済手段を用意するのかどうかといった事後的な処理が問われる。
従前の手続の効果を維持するのかという問題。
→当事者概念の内容を柔軟なものにする。
→規範分類説
当事者確定基準に関して行為規範の側面と評価規範の側面と評価規範の側面を区別。
①の局面ではもっぱら行為規範が問題となり、基準の明確性が重視されるべきであるから、表示説に従う。
②③の局面では、従前の手続を維持するかという評価規範の考慮が重視されることから、実際に訴訟手続に関与してきた者を当事者として評価するという行動説的な処理をする。

⇔実質的表示説では・・・
訴状の全体を考慮し得るとすることで事後的な解釈の余地を一定程度確保。
②の局面では任意的当事者変更の可否
③の局面では再審の訴えを認めるか

(4)裁判例

・法人格否認の法理と当事者の確定
+判例(S48.10.26)
理由
 上告代理人磯崎良誉、同鎌田俊正の上告理由について。
 原判決が適法に確定したところによれば、
 (一) 石川地所株式会社(旧商号日本築土開発株式会社、以下旧会社と称する。)が昭和四二年一〇月中被上告人から本件居室に関する賃貸借解除の通知を受け、かつ占有移転禁止の仮処分を執行されたところ、同会社代表者Aは、被上告人の旧会社に対する本件居室明渡、延滞賃料支払債務等の履行請求の手続を誤まらせ時間と費用とを浪費させる手段として、同年一一月一五日旧会社の商号を従前の日本築土開発株式会社から現商号の石川地所株式会社に変更して、同月一七日その登記をなすとともに、同日旧会社の前商号と同一の商号を称し、その代表取締役、監査役、本店所在地、営業所、什器備品、従業員が旧会社のそれと同一であり、営業目的も旧会社のそれとほとんど同一である新会社を設立したが、右商号変更、新会社設立の事実を賃貸人である被上告人に通知しなかつたこと、
 (二) 被上告人は右事実を知らなかつたので同年一二月一三日「日本築土開発株式会社(代表取締役A)」を相手方として本訴を提起したこと、
 (三) Aは第一審口頭弁論期日に出頭しないで判決を受け、原審における約一年にわたる審理の期間中も、右商号変更、新会社設立の事実についてなんらの主張をせず、また、旧会社が昭和三八年一二月以降本件居室を賃借し、昭和四〇年一二月一日当時の賃料が月額一六万二二〇〇円であることならびに前記被上告人から賃貸借解除の通知を受けたことをそれぞれ認めていたにもかかわらず、上告人は、いつたん口頭弁論が終結されたのち弁論の再開を申請し、その再開後初めて、上告人が昭和四二年一一月一七日設立された新会社であることを明らかにし、このことを理由に、前記自白は事実に反するとしてこれを撤回し、旧会社の債務について責任を負ういわれはないと主張するにいたつたこと、
 以上の事実が認められるというのであり、論旨は右自白の撤回を許さず、上告人が旧会社の債務について責任を負うとした原審の判断を非難するのである。
 おもうに、株式会社が商法の規定に準拠して比較的容易に設立されうることに乗じ、取引の相手方からの債務履行請求手続を誤まらせ時間と費用とを浪費させる手段として、旧会社の営業財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には、形式的には新会社の設立登記がなされていても、新旧両会社の実質は前後同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であつて、このような場合、会社は右取引の相手方に対し、信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧両会社のいずれに対しても右債務についてその責任を追求することができるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四三年(オ)第八七七号同四四年二月二七日第一小法廷判決・民集二三巻二号五一一頁参照)。
 本件における前記認定事実を右の説示に照らして考えると、上告人は、昭和四二年一一月一七日前記のような目的、経緯のもとに設立され、形式上は旧会社と別異の株式会社の形態をとつてはいるけれども、新旧両会社は商号のみならずその実質が前後同一であり、新会社の設立は、被上告人に対する旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であるというべきであるから、上告人は、取引の相手方である被上告人に対し、信義則上、上告人が旧会社と別異の法人格であることを主張しえない筋合にあり、したがつて、上告人は前記自白が事実に反するものとして、これを撤回することができず、かつ、旧会社の被上告人に対する本件居室明渡、延滞賃料支払等の債務につき旧会社とならんで責任を負わなければならないことが明らかである。これと結論において同旨に出た原判決の判断は、正当として是認することができ、右判断の過程に所論の違法はない。したがつて、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊)

2.表示の訂正と任意的当事者変更
(1)表示の訂正
・表示の訂正とは、
AとBが同一人物を表示している場合に、訴状等におけるAという表示をBと変更することをいう。
表示の訂正は単に訴状等の記載の修正にすぎないものであり、当事者の変更を伴うものではない。
表示の訂正は、訴訟手続き中いつでもすることができる。
表示の訂正をしたからといって、従前の手続の有効性に影響が及ぶことはない。

(2)任意的当事者変更
ⅰ)任意的当事者変更の意義
・従来の当事者がAである場合、当事者の表示をAとは別人格を表示するBへ変更する場合には、訴状の記載だけでなく、当事者そのものをAからBへと変更。

・任意的当事者変更とは、当然承継や参加承継・引受承継の要件に該当しない場合に当事者の申立てによって当事者を変更することをいう。

ⅱ)任意的当事者変更の許容性
・法律構成
神当事者に取る、または神当事者に対する新たな訴えの提起と、旧当事者による、または旧当事者に対する訴えの取り下げが複合されたもの。
→新訴について、旧訴との共同訴訟の要件(38条)を満たすとともに、旧被告による同意など、旧訴の取り下げの要件を満たすことが要求される。

+(共同訴訟の要件)
第三十八条  訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。

+(訴えの取下げ)
第二百六十一条  訴えは、判決が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。
2  訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。ただし、本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、この限りでない。
3  訴えの取下げは、書面でしなければならない。ただし、口頭弁論、弁論準備手続又は和解の期日(以下この章において「口頭弁論等の期日」という。)においては、口頭ですることを妨げない。
4  第二項本文の場合において、訴えの取下げが書面でされたときはその書面を、訴えの取下げが口頭弁論等の期日において口頭でされたとき(相手方がその期日に出頭したときを除く。)はその期日の調書の謄本を相手方に送達しなければならない。
5  訴えの取下げの書面の送達を受けた日から二週間以内に相手方が異議を述べないときは、訴えの取下げに同意したものとみなす。訴えの取下げが口頭弁論等の期日において口頭でされた場合において、相手方がその期日に出頭したときは訴えの取下げがあった日から、相手方がその期日に出頭しなかったときは前項の謄本の送達があった日から二週間以内に相手方が異議を述べないときも、同様とする。

・1審係属中にのみ許される。

・任意的当事者変更が認められた場合の効果
原則として、当事者を異にする事件の弁論が併合された場合に準ずる。
事実主張については承継されないが、証拠調べの結果については承継される。


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