行政法 基本行政法 行政裁量その3 行政裁量に関する諸問題~


5.行政裁量に関する諸問題
(1)専門技術的裁量

+判例(H4.10.29)伊方原発訴訟

ア 最高裁判決のポイント
イ 判決が裁量という語を用いていない理由
=政治的、政策的裁量と同様の広範な裁量を認めたものと誤解されるのを避けるため。

ウ 「現在の科学技術水準」が基準とされる理由
=事実認定の問題だと思えばよい

(2)法律の文言と処分の性質
+判例(S56.2.26)ストロングライフ事件

(3)警察許可と公企業の特許

+判例(S47.5.19)
理由
上告代理人原田香留夫の上告理由第一の一ないし三について。
論旨は、要するに、公衆浴場営業許可は法規裁量事項であるから、右許可をめぐつて競願関係が生じた場合には、先に受理された許可申請に対して優先的に許可を与えるべきものであるところ、本件においては、訴外尾道市吉和漁業協同組合(以下訴外組合という。)の昭和三四年六月六日の許可申請は、同日不受理となつたこと、および上告人の同月八日の許可申請は、同日受理されたことが、いずれも争いなく確定しているのに、右のような場合にも行政庁の自由裁量権が認められるとして、上告人の先願権を無視してなされた知事の処分を維持した原判決は、法令に違背する、また、原判決は、何をもつて自由裁量の対象とするのか、必ずしも明らかではなく、理由不備の違法をおかすものである、というのである。
おもうに、公衆浴場法は、公衆浴場の経営につき許可制を採用し、その二条二項本文において、「都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、前項の許可を与えないことができる。」と規定しているが、それは、主として国民保健および環境衛生という公共の福祉の見地から営業の自由を制限するものである。そして右規定の趣旨およびその文言からすれば、右許可の申請が所定の許可基準に適合するかぎり、行政庁は、これに対して許可を与えなければならないものと解されるから、本件のように、右許可をめぐつて競願関係が生じた場合に、各競願者の申請が、いずれも許可基準をみたすものであつて、そのかぎりでは条件が同一であるときは、行政庁は、その申請の前後により、先願者に許可を与えなければならないものと解するのが相当である。けだし、許可の要件を具備した許可申請が適法になされたときは、その時点において、申請者と行政庁との間に許可をなすべき法律関係が成立したものというべく、この法律関係は、許可が法律上の覊束処分であるかぎり、その後になされた第三者の許可申請によつて格別の影響を受けるべきいわれはなく、後の申請は、上記のような既存の法律関係がなんらかの理由により許可処分に至らずして消滅した場合にのみ、これに対して許可をなすべき法律関係を成立せしめうるにとどまるというべきだからである。
なお、所論は、右の場合における先願後願は申請の受理の順序によつて決すべきであると主張するけれども、さきに述べた公衆浴場営業許可の性質および各申請を公平に取り扱うべき要請から考えれば、右先願後願の関係は、所定の申請書がこれを受け付ける権限を有する行政庁に提出された時を基準として定めるべきものと解するのが相当であつて、申請の受付なし受理というような行政庁の行為の前後によつてこれを定めるべきものと解することはできない
ところで、原審の確定するところによれば、
上告人が本件公衆浴場営業許可申請をしたのは昭和三四年六月八日であつた、一方、訴外組合は、さきに公衆浴場営業許可申請書を提出したところ、添付図面に不備があるとして、閉合トラバース測量による測量図面を添付するようにとの指示のもとに提出書類全部の返戻を受けたので、同月六日に、測量士の有資格者が作成した平板測量による測量図面を添付して、本件公衆浴場営業許可申請書を広島県立尾道保健所に提出した、ところが、同所係員は、補正(計算書の附記)を求めて添付の測量図面を持ち帰らせ、その他の書類はそのまま同保健所に保管した、その後、右係員において広島県の指示を求めた結果、さきに持ち帰らせた測量図面の添付を認めることとしてこれを提出させ、同月一一日にその受付の手続をした、というのである。原審は、右側量図面を添付したことによつて訴外組合の申請が不適法となるものではないとし、結局、訴外組合の右申請書は、同月六日に提出された時点においては、すでに受け付けるべき要件を具備していたとしているのである。そして、右原審の認定・判断は、挙示の証拠に照らし、いずれも正当として首肯しうるところである。
してみると、訴外組合の適式の申請書が権限ある行政庁に提出されたのは同月六日であり(同日、被上告人において右申請を受理しないという処分をしたものではない。)、結局、本件上告人と訴外組合との間の競願関係における先願者は訴外組合であるというべきであるから、同様の判断のもとになされた本件各処分を是認すべきものとした原判決は、その結論において正当である。
以上の次第で、上告人に先願権ありとする所論は、理由がない。また、原判決に所論理由不備の違法も認められないことは、その判文を通読すれば明らかである。結局、論旨は、採用することができない。

同第一の四について。
所論の点に関する原審の認定判断は、正当としてこれを首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第二について。
原判決理由の趣旨からすれば、所論の点に関する審理判断は、必ずしも必要ではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小川信雄 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一 裁判官 岡原昌男)

・原告適格について
+判例(S37.1.19)
理由 
 上告代理人小林為太郎の上告理由について。 
 公衆浴場法は、公衆浴場の経営につき許可制を採用し、第二条において、「設置の場所が配置の適正を欠く」と認められるときは許可を拒み得る旨を定めているが、その立法趣旨は、「公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要欠くべからざる、多分に公共性を伴う厚生施設である。そして、若しその設立を業者の自由に委せて、何等その偏在及び濫立を防止する等その配置の適正を保つために必要な措置が講ぜられないときは、その偏在により、多数の国民が日常容易に公衆浴場を利用しようとする場合に不便を来たすおそれを保し難く、また、その濫立により、浴場経営に無用の競争を生じその経営を経済的に不合理ならしめ、ひいて浴場の衛生設備の低下等好ましからざる影響を来たすおそれなきを保し難い。このようなことは、上記公衆浴場の性質に鑑み、国民保健及び環境衛生の上から、出来る限り防止することが望ましいことであり、従つて、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠き、その偏在乃至濫立を来たすに至るがごときことは、公共の福祉に反するものであつて、この理由により公衆浴場の経営の許可を与えないことができる旨の規定を設け」たのであることは当裁判所大法廷判決の判示するところである(昭和二八年(あ)第四七八二号、同三〇年一月二六日判決、刑集九巻一号二二七頁)。そして、同条はその第三項において右設置場所の配置の基準については都道府県条例の定めるところに委任し、京都府公衆浴場法施行条例は各公衆浴場との最短距離は二百五十米間隔とする旨を規定している。 
 これら規定の趣旨から考えると公衆浴場法が許可制を採用し前述のような規定を設けたのは、主として「国民保健及び環境衛生」という公共の福祉の見地から出たものであることはむろんであるが、他面、同時に、無用の競争により経営が不合理化することのないように濫立を防止することが公共の福祉のため必要であるとの見地から、被許可者を濫立による経営の不合理化から守ろうとする意図をも有するものであることは否定し得ないところであつて、適正な許可制度の運用によつて保護せらるべき業者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益というにとどまらず公衆浴場法によつて保護せられる法的利益と解するを相当とする。!!!! 
 原判決並びに第一審判決がこの理を解せず、本件上告人の本訴請求をもつて訴訟上の利益を欠くものとして、排斥したのは違法であることを免れず、この点において上告は理由あり、よつてその余の上告理由についての判断を省略し、民訴四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条に従い、裁判官奥野健一の反対意見、裁判官池田克の意見ある外裁判官全員一致の意見をもつて、主文のとおり判決する。 
+意見
 裁判官池田克の意見は次のとおりである。 
 わたくしは、多数意見と同様原判決を破棄すべきものと考えるが、その理由を異にするので、この点に関するわたくしの意見を表明することとする。 
 およそ、営業許可は、本来自由なるべき営業に対する禁止を解除しその自由を回復せしめるにとどまり、新らたに独占的な財産権を付与するものではない。公衆浴場の営業許可についても、その本質が右のごとき普通一般の営業許可の本質と異なる所以を見出し得ない。もつとも、公衆浴場法は特に配置の適正ということを許可の要件として規定しているので、濫立の防止によつて既設業者が経済的利益をうけることは事実であるが、右の規定は、専ら、公衆浴場が国民多数の日常生活に必要欠くべからざる厚生施設であることにかんがみ、公衆衛生の維持・向上を図らうとする公益的見地に出たものであつて、直接業者の経済的利益を保護する趣旨に出たものでないことは、本来業者の自由競争に委かさるべき公衆浴場営業を許可制にした同法の立法目的に徴しても、また前叙のごとき営業許可の本質からみても、疑を容れないところであるし従つて、右の規定を有する公衆浴場法の下においても、既設業者のうける利益を、多数説のように一種の法的利益と解することはできず、単なる反射的利益に過ぎないというべきである。 
 しかし、かように既設業者のうける利益が事実上の利益に過ぎないからといつて、新規業者に対して違法に与えられた営業許可により既設業者が甚大な損害を蒙ることがあつても、これが是正のための法的救済を拒否し、違法な行政処分をそのまま放置しておくことは、新憲法が行政庁の違法な処分に対し広く出訴の途を開いた趣旨を全うする所以でないことを看過してはならない。むしろ、「違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタ」者に限り出訴することを許した旧憲法のような規定のない現行行政訴訟制度の下においては、違法な行政処分に対して出訴し得る者は、必ずしも法的権利ないし利益を有する者に限られることなく、事実上の利益を有するに過ぎない者であつても、その利益が一般抽象的なものではなくして具体的な個人的利益であり、しかも当該違法処分により直接且つ重大な損害を蒙つた場合には、その者に対し同処分の取消または無効確認を訴求する原告適格を認めるのを相当とする。本件についてこれをみるのに、上告人らはいずれも公衆浴場を経営している者であつて、京都府知事がAに対して与えた公衆浴場の営業許可が公衆浴場法二条三項に基く京都府公衆浴場法施行条例並びに同条例の実施に関する公衆浴場新設に関する内規に違反するとしてその無効確認を訴求するのであるが、右処分によつて侵害されたという上告人らの利益は、事実上のものに過ぎないとはいえ、具体的な個人的利益であり、またその利益の侵害が直接的で、しかもこれにより上告人らが重大な損害を蒙ることは見易いところであるから、上告人らは本件訴訟の原告適格を有するものといわなければならない。 
 わたくしは、以上の理由により、本件上告はその理由がある、と思料するのである。 
+反対意見
 裁判官奥野健一の反対意見は、次のとおりである。 
 元来公衆浴場営業は何人も自由になし得るものであるが、公衆浴場法は公衆衛生の維持、向上の目的から公衆浴場営業を一般的に禁止し、公衆衛生上支障がないと認められる場合に特定人に対してその禁止を解除し、営業の自由を回復せしめることとしている。しかして、このような制限は専ら公衆衛生上の見地からなされるものであつて、既設公衆浴場営業者の保護を目的とするものではない。尤も公衆浴場営業が許可を要するとされることから、競業者の出現が事実上ある程度の抑制を受け、その結果既設業者が営業上の利益を受けることがあつても、それはいわゆる反射的利益に過ぎないのであつて、決して許可を受けた既設業者に一種の独占的利益を与えようとするものではない。 
 そして、公衆浴場法二条二項は「都道府県知事は、……その設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは前項の許可を与えないことができる。……」と定めているが、これも専ら公衆衛生の維持、向上を目的とする規定であつて、既設業者の営業上の利益の保護を目的とするものではない。従つて、右二条二項の規定は、新規の営業許可にかかる浴場の設置場所が適正を欠くことを理由として、既設業者からその許可の無効を主張することを許す趣旨のものとは到底解することができない。それ故、これと同趣旨の理由により本訴請求は訴の利益がないものとしてこれを棄却した第一審判決及びこれを支持した原判決は正当であつて、本件上告は理由がない。 
 (裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助) 
・特許の仕組みに通常みられるような、許可の際のさまざまな考慮要素や許可業者の事業全般についての監督等の規定は置かれていない
→警察許可の性質
+判例(H1.1.20)
理由 
 弁護人林弘ほか二名の上告趣意は、公衆浴場法二条二項による公衆浴場の適正配置規制及び同条三項に基づく大阪府公衆浴場法施行条例二条の距離制限は憲法二二条一項に違反し無効であると主張するが、その理由のないことは、当裁判所大法廷判例(昭和二八年(あ)第四七八二号同三〇年一月二六日判決・刑集九巻一号八九頁)に徴し明らかである。 
 すなわち、公衆浴場法に公衆浴場の適正配置規制の規定が追加されたのは昭和二五年法律第一八七号の同法改正法によるのであるが、公衆浴場が住民の日常生活において欠くことのできない公共的施設であり、これに依存している住民の需要に応えるため、その維持、確保を図る必要のあることは、立法当時も今日も変わりはない。むしろ、公衆浴場の経営が困難な状況にある今日においては、一層その重要性が増している。そうすると、公衆浴場業者が経営の困難から廃業や転業をすることを防止し、健全で安定した経営を行えるように種々の立法上の手段をとり、国民の保健福祉を維持することは、まさに公共の福祉に適合するところであり、右の適正配置規制及び距離制限も、その手段として十分の必要性と合理性を有していると認められる。もともと、このような積極的、社会経済政策的な規制目的に出た立法については、立法府のとつた手段がその裁量権を逸脱し、著しく不合理であることの明白な場合に限り、これを違憲とすべきであるところ(最高裁昭和四五年(あ)第二三号同四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五八六頁参照)、右の適正配置規制及び距離制限がその場合に当たらないことは、多言を要しない。 
 よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 香川保一 裁判官 奥野久之) 
(4)行政処分の附款
ア 付款の意義と種類
①条件
処分の効果の発生・消滅を発生不確実な事実に係らしめる附款
②期限
処分の効果の発生・消滅を発生確実な事実に係らしめる附款
③負担
法令により課される義務とは別に、作為・又は不作為の義務を課す附款
本体たる処分の効果の発生・消滅に直接かかわるものではない。
負担に違反しても処分の効果が当然に失われるわかではない!!
④撤回権の留保
将来撤回することがあることをあらかじめ宣言しておく附款
法令の解釈により定まるのであり、「撤回権の留保」の附款があるからといって、常に撤回ができるわけではない!
イ 附款の許容性と限界
・法律に附款を許容する明文の規定がなくとも、法律が当該処分につき裁量を認めている場合には、その範囲内で附款を付することが許される。
裁量の範囲内
ウ 本問へのあてはめ
・「条件」という文言が講学上の条件にあたるのかそれとも負担にあたるのか?
+判例(札幌高判H23.5.19)
調べておく!
・条件(負担)の取消訴訟を提起できるか?
=要害附款がなければ当該行政処分自体がなされなかったであろうことが客観的にいえるような場合には、当該処分全体が瑕疵を帯びているものとして当該処分の取消訴訟を提起すべきであり、附款だけの取消訴訟は提起できない!
=本体たる許可処分の効果を直接制限するものではないことからすると、許可処分から切り離して本件条件の取消訴訟を提起することが可能。