民法択一 物権 抵当権 抵当権実行段階の問題


・債権者Gは債務者Sに5000万円の債権を有し、これを担保するためにS所有の甲不動産(時価6000万)及び乙不動産(時価4000万)に第1順位の抵当権の設定を受けた。甲不動産にはXの第2順位の抵当権(被担保債権額4000万円)が設定され、甲不動産及び乙不動産の抵当権が同時に実行される場合、Xは乙不動産から配当を受け取ることはできない!!!
←同時配当(392条1項)の場合、甲不動産と乙不動産の価格の割合が3:2であることから、Gは5000万円の5分の3である3000万円について甲不動産から配当を受けることができる。Xは、甲不動産の価格6000万円からGが配当を受ける3000万円を引いた残りである3000万円の限度で甲不動産から配当を受けることができ、乙不動産から配当を受けることはできない!!!!

+第392条
1項 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。
2項 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。

・上記事例で、甲不動産の抵当権が実行された後に乙不動産の抵当権が実行される場合、Xが乙不動産から受ける配当額は2000万円である。
←異時配当(392条2項前段)の場合、Gは甲不動産から5000万円の配当を受け、Xは甲不動産から1000万円の配当を受けることになる。そして、392条2項後段によってXは、同時配当であればGが乙不動産から受けるであろう配当額である2000万円の限度!!!!でGに代位することができる。

・債権者Gは債務者Sに5000万円の債権を有し、これを担保するために物上保証人L所有の甲不動産(時価6000万円)及び乙不動産(時価4000万円)に第1順位の抵当権の設定を受けた。甲不動産にはXの第2順位の抵当権(被担保債権額4000万円)が設定され、甲不動産の抵当権が実行された後に乙不動産の抵当権が実行される場合、Xが乙不動産から受ける配当額は2000万円である!
+判例(H4.11.6)
共同抵当権の目的たる甲・乙不動産が同一の物上保証人の所有に属し、甲不動産に後順位の抵当権が設定されている場合において、甲不動産の代価のみを配当するときは、後順位抵当権者は、民法三九二条二項後段の規定に基づき、先順位の共同抵当権者が同条一項の規定に従い乙不動産から弁済を受けることができた金額に満つるまで、先順位の共同抵当権者に代位して乙不動産に対する抵当権を行使することができると解するのが相当である。
けだし、後順位抵当権者は、先順位の共同抵当権の負担を甲・乙不動産の価額に準じて配分すれば甲不動産の担保価値に余剰が生ずることを期待して、抵当権の設定を受けているのが通常であって、先順位の共同抵当権者が甲不動産の代価につき債権の全部の弁済を受けることができるため、後順位抵当権者の右の期待が害されるときは、債務者がその所有する不動産に共同抵当権を設定した場合と同様、民法三九二条二項後段に規定する代位により、右の期待を保護すべきものであるからである。甲不動産の所有権を失った物上保証人は、債務者に対する求償権を取得し、その範囲内で、民法五〇〇条、五〇一条の規定に基づき、先順位の共同抵当権者が有した一切の権利を代位行使し得る立場にあるが、自己の所有する乙不動産についてみれば、右の規定による法定代位を生じる余地はなく、前記配分に従った利用を前提に後順位の抵当権を設定しているのであるから、後順位抵当権者の代位を認めても、不測の損害を受けるわけではない。ムムムム!! 所論引用の判例は、いずれも共同抵当権の目的不動産が同一の物上保証人の所有に属する事案に関するものではなく、本件に適切でない。
そして、右の場合において、先順位の共同抵当権者が後順位抵当権者の代位の対象となっている乙不動産に対する抵当権を放棄したときは、先順位の共同抵当権者は、後順位抵当権者が乙不動産上の右抵当権に代位し得る限度で、甲不動産につき、後順位抵当権者に優先することができないのであるから(最高裁昭和四一年(オ)第一二八四号同四四年七月三日第一小法廷判決・民集二三巻八号一二九七頁参照)、甲不動産から後順位抵当権者の右の優先額についてまで配当を受けたときは、これを不当利得として、後順位抵当権者に返還すべきものといわなければならない(最高裁平成二年(オ)第一八二〇号同三年三月二二日第二小法廷判決・民集四五巻三号三二二頁参照)。 ヘーー

++なんかムズイので解説・・。
本件は、Aが、その所有する甲・乙不動産につき、Bの物上保証人として、Yのために共同根抵当権を設定し、次いで、甲不動産につき、Bの物上保証人として、Xのために根抵当権を設定していたところ、Yが乙不動産の根抵当権を放棄した後、甲不動産の根抵当権を実行し、その売却代金から配当を受けたという事実関係の下において、Yの配当金の受領がXに対する関係で不当利得となるのか否かが問題となった事案である。

抵当権者が共同抵当の目的不動産の一部に対する抵当権を放棄し、残余の抵当不動産の後順位抵当権者の民法三九二条二項後段の規定による代位の機会を喪失させた場合には、先順位抵当権者は、後順位抵当権者が右の放棄に係る不動産上の抵当権に代位し得た限度で、残余の抵当不動産につき、後順位抵当権者に優先することができない!!!!ナルホド!!というのが判例で(大判昭11・7・14民集一五巻一七号一四〇九頁ほか、なお、本判決の引用する最一小判昭44・7・3民集二三巻八号一二九七頁も、その判断を踏襲している)、また、不動産の配当手続において、優先権を有しない債権者が配当を受けたために、抵当権者の優先弁済を受ける権利が害されたときは、抵当権者は、右の配当金を不当利得として、債権者に返還を求め得るというのが判例(最二小判平3・3・22民集四五巻三号三二二頁、本誌七五五号二〇頁)であるから、本件において、Yの乙不動産に対する根抵当権の放棄がなく、甲不動産が先に売却されたとした場合に、Xが、民法三九二条二項後段の規定により、Yの乙不動産に対する根抵当権を代位行使し得たのであれば、右の判例に照らして、Xは、Yの乙不動産に対する根抵当権の放棄による代位の機会の喪失を理由に、甲不動産の配当手続でYに優先することができたはずで、YがXの優先額まで配当を受けたときは、これを不当利得として、Xに返還すべきことになる。この点は、本判決が後半部分で判示するところで、本件における論点は、結局、共同抵当の目的不動産が同一の物上保証人の所有に属する場合に民法三九二条二項後段の規定が適用されるのか否かに帰するが、本判決は、判決要旨のとおりの判断を示して、その適用を肯定したものである。従来の判例でこの点を判示したものはなく、最高裁の新判断である本判決が今後の裁判実務、特に執行実務に与える影響は少なくないと思われる。

共同抵当に関しては、これまでに重要な判例がいくつかあるが、これを分類すれば、その第一は、共同抵当の目的不動産が債務者の所有に属する場合に関する判例である。民法三九二条二項後段の規定の適用を認めるが(前掲大判昭11・7・14、最一小判昭44・7・3など)、学説も、この点に異論はみられない。その第二は、共同抵当の目的不動産が債務者及び物上保証人の所有に属する場合又は異なる物上保証人の所有に属する場合に関する判例で、この場合には、民法三九二条二項後段の規定は適用されず、物上保証人の設定した抵当不動産の後順位抵当権者は、抵当権を実行された物上保証人が法定代位によって取得する先順位の共同抵当権にいわば物上代位することによって保護されるとする!!!(前掲最一小判昭44・7・3のほか、最三小判昭53・7・4民集三二巻五号七八五頁、最一小判昭60・5・23民集三九巻四号九四〇頁、本誌五六〇号一一七頁、最二小判平1・11・24集民一五八号二二五頁など)。学説も、異論がないわけではないが、判例を支持する見解が一般である。

以上の判例に照らして、民法三九二条二項後段の規定が適用されるのは、共同抵当の目的不動産が債務者の所有に属する場合に限られ!!!!!、それ以外の場合には、同一の物上保証人の所有に属する場合を含め、民法三九二条二項後段の規定は適用されないとするのが判例であるという誤解もあるようであるが、同一の物上保証人の所有に属する場合に関する判例はこれまでになく、この場合における民法三九二条二項後段の規定の適否は、判例上、未解決の問題であったというのが正確である。学説は、この点を踏まえ、民法三九二条二項後段の規定が適用されると説く見解(佐久間弘道・共同抵当における代価の配当についての研究六九頁、吉原省三・銀行取引法の諸問題(第三集)二〇七頁)と法定代位の物上代位という従来の判例理論の延長として後順位抵当権者の保護が図られると説く見解(古館清吾「共同抵当権の代価の配当」判例・先例金融取引法四二八頁、富越和厚・共同抵当をめぐる判例上の問題点六七六頁)とが対立しているが、いずれにしても後順位抵当権者の保護が図られることに変わりはなく、その適条が異なるにすぎない。フムフム

物上保証人の設定した抵当不動産の後順位抵当権者につき、民法三九二条二項後段の規定する代位が認められるとすると、物上保証人の民法五〇〇条、五〇一条の規定による法定代位との優劣が問題となるが、従来の判例が法定代位の物上代位という理論構成によってその調整を図ったものであるから、共同抵当の目的不動産が同一の物上保証人の所有に属する場合にも、従来の判例に従い、法定代位の物上代位によって後順位抵当権者の保護を図る余地がないわけではない。しかし、債務者と物上保証人との間あるいは異なる物上保証人の間における場合とは異なり、例えば、後順位抵当権者がいない場合には、物上保証人がその所有に係る残余の抵当不動産に対する先順位抵当権者の抵当権を代位行使するという事態は考え難く、右の見解はいささか技巧的にすぎるのではないかと解される。民法三九二条は、共同抵当の目的不動産の所有関係を規定していないので、債務者の所有に属する場合に限って同条二項後段の規定が適用されるとする根拠も乏しく、同一の物上保証人の所有に属する場合にも、端的に民法三九二条二項後段の規定が適用されると解するのが簡明であるように思われる。本判決が三九二条二項後段の規定の適用を肯定しているのも、以上の比較検討を踏まえ、問題のより簡明な解決を期したものと窺われる。

・債権者Gは債務者Sに5000万円の債権を有し、これを担保するために甲不動産(時価6000万円)及び乙不動産(時価4000万円)に第1順位の抵当権の設定を受けた。甲不動産がSの所有、乙不動産が物上保証人Lの所有であり、甲不動産にはXの第2順位の抵当権(被担保債権額4000万円)が設定され、乙不動産の抵当権が実行された後に甲不動産の抵当権が実行される場合、Xが甲不動産から受ける配当額は1000万円である!←物上保証人としては、他の共同抵当物件である甲不動産から自己の求償権の満足を得ることを期待していたものというべく、その後に甲不動産に第二順位の抵当権が設定されたことにより右期待を失わしめるべきではないからである

+判例(S44.7.3)
まず、第二順位の抵当権者と第一順位の共同抵当権者との関係についてみるに、たとえば、債権者が債務者所有の甲、乙二個の不動産に第一順位の共同抵当権を有し、その後右甲不動産に第二順位の抵当権が設定された場合、共同抵当権者が甲不動産についてのみ抵当権を実行したときは、右共同抵当権者は、甲不動産の代価から債権全額の弁済を受けることができるが(民法三九二条二項前段)、これに対応して、第二順位の抵当権者は、共同抵当権者に代位して乙不動産につき抵当権を行なうことができるものとされている(同条同項後段)。したがつて、共同抵当権者が、右抵当権の実行より前に乙不動産上の抵当権を放棄し、これを消滅させた場合には、放棄がなかつたならば第二順位の抵当権者が乙不動産上の右抵当権に代位できた限度で、右第二順位の抵当権者に優先することができないと解すべきである(大審院昭和一一年(オ)第一四八号、同年七月一四日判決、民集一五巻一七号一四〇九頁参照)。

つぎに、第二順位の抵当権者と物上保証人との関係についてみるに、右の例で乙不動産が第三者の所有であつた場合に、たとえば、共同抵当権者が乙不動産のみについて抵当権を実行し、債権の満足を得たときは、右物上保証人は、民法五〇〇条により、右共同抵当権者が甲不動産に有した抵当権の全額について代位するものと解するのが相当である。けだし、この場合、物上保証人としては、他の共同抵当物件である甲不動産から自己の求償権の満足を得ることを期待していたものというべく、その後に甲不動産に第二順位の抵当権が設定されたことにより右期待を失わしめるべきではないからである(大審院昭和二年(オ)第九三三号、同四年一月三〇日判決参照)。これを要するに、第二順位の抵当権者のする代位と物上保証人のする代位とが衝突する場合には、後者が保護されるのであつて、甲不動産について競売がされたときは、もともと第二順位の抵当権者は、乙不動産について代位することができないものであり、共同抵当権者が乙不動産の抵当権を放棄しても、なんら不利益を被る地位にはないのである。したがつて、かような場合には、共同抵当権者は、乙不動産の抵当権を放棄した後に甲不動産の抵当権を実行したときであつても、その代価から自己の債権の全額について満足を受けることができるというべきであり、このことは、保証人などのように弁済により当然甲不動産の抵当権に代位できる者が右抵当権を実行した場合でも、同様である。

+第500条
弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。

・共同抵当権者がその目的不動産の1つに対する抵当権を放棄した後、後順位抵当権が成立している他の不動産を競売した場合、放棄した不動産につき、後順位抵当権者が代位をなし得たはずの負担額の限度において、優先弁済を受けられない!!←504条を類推適用し、優先弁済が制限される!!!
+第504条
第500条の規定により代位をすることができる者がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位をすることができる者は、その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる。

・抵当不動産の代価に先立って債務者の他の財産の代価を配当する場合、その代価が抵当権者以外の債権者の債権額の全額に不足するときでも、抵当権者は当該財産から配当を受けることができる!←抵当権者は抵当不動産以外の一般財産から強制執行によって弁済を受けることができるが、これにより弁済を受けられなくなるおそれのある他の一般債権者を保護するために、弁済を受ける部分が制限されるのが原則である(394条1項)!。もっとも、本件場合では抵当権者は債権全額で配当加入ができる(同条2項前段)。なおほかの一般債権者からは教卓の請求が・・・。
+第394条
1項 抵当権者は、抵当不動産の代価から弁済を受けない債権の部分についてのみ、他の財産から弁済を受けることができる。
2項 前項の規定は、抵当不動産の代価に先立って他の財産の代価を配当すべき場合には、適用しない。この場合において、他の各債権者は、抵当権者に同項の規定による弁済を受けさせるため、抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる