民法択一 物権 抵当権 抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲


・果実に対する抵当権の効力は、被担保債権について不履行があった後に生じたものについて及ぶ(371条)。=差押えうんぬんは関係ない!!!!!。

・抵当権の効力は、抵当権設定時に存在した従物に及ぶ!!=87条2項に照らし、抵当権の効力は、反対の意思表示がない限り、抵当権設定当時建物の常用のために附属させていた債務者所有の動産に及ぶ!

・ガソリンスタンドの店舗用建物に設定された抵当権の効力は、抵当権設定当時に備え付けられていた地下タンクにも及ぶ!←地下タンクは借地上の建物の従物に当たるから。

・建物を所有するために必要な敷地の借地権は、建物所有権に付随し、これと一体となって一つの財産的価値を形成しているものであるから、建物に抵当権が設定されたときは敷地の借地権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含される!!!
+判例
土地賃借人の所有する地上建物に設定された抵当権の実行により、競落人が該建物の所有権を取得した場合には、民法六一二条の適用上賃貸人たる土地所有者に対する対抗の問題はしばらくおき、従前の建物所有者との間においては、右建物が取毀しを前提とする価格で競落された等特段の事情がないかぎり、右建物の所有に必要な敷地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である。
けだし、建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となつて一の財産的価値を形成しているものであるから、建物に抵当権が設定されたときは敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解すべきであるからである。
したがつて、賃貸人たる土地所有者が右賃借権の移転を承諾しないとしても、すでに賃借権を競落人に移転した従前の建物所有者は、土地所有者に代位して競落人に対する敷地の明渡しを請求することができないものといわなければならない。
++・・・。まあ、抵当権実行としての競売がされたときに当該敷地賃借権が当然に移転するわけではなく、賃借権の譲渡には地主の承諾又は承諾にかわる裁判所の許可(借地借家20条)が必要!

・宅地に抵当権が設定されている場合、設定前から宅地上に存する植木や取り外し困難な庭石には、抵当権の効力が及ぶ!!←宅地の構成部分だから!
+判例
本件石灯籠および取り外しのできる庭石等は本件根抵当権の目的たる宅地の従物であり、本件植木および取り外しの困難な庭石等は右宅地の構成部分であるが、右従物は本件根抵当権設定当時右宅地の常用のためこれに付属せしめられていたものであることは、原判決の適法に認定、判断したところである。そして、本件宅地の根抵当権の効力は、右構成部分に及ぶことはもちろん、右従物にも及び(大判大正八年三月一五日、民緑二五輯四七三頁参照)、この場合右根抵当権は本件宅地に対する根抵当権設定登記をもつて、その構成部分たる右物件についてはもちろん、抵当権の効力から除外する等特段の事情のないかぎり、民法三七〇条により従物たる右物件についても対抗力を有するものと解するのが相当である。

++従物
①継続的に主物の効用を助けること
②主物に付属すると認められる程度の場所的関係にあること。
③主物と同一の所有者に属すること
独立性を有すること
←ここが付加一体物と一番違う

・雨具や建物の入り口の扉等建物の内外を遮断する建具類は、建物に備え付けられると、建物の一部を構成し、取り外しが容易であるかにかかわらず独立の動産たる性質を失い、付加一体物となる。

・抵当権の付加物が分離された場合、分離物が抵当不動産の上に存在し、登記の衣に包まれている限り、第三者に対抗できるという見解によれば、分離物が搬出され、第三者がその占有を取得したときは、当該分離物に対しては抵当権の効力は及ばない!

・抵当権の付加物が分離された場合、分離物が第三者に即時取得されるまでは、第三者に対抗できるという見解によれば、分離物が搬出され、第三者が物の占有を取得した場合でも、即時取得(192条)の要件を満たさないときは、抵当権の効力は依然として及んでいる!

・互いに主従関係にない2棟の建物が、工事により1棟の建物となった場合でも、これにより従来の建物に設定されていた抵当権が消滅することはなく、当該抵当権は、完成した建物のうち、従来の建物の価格の割合に応じた持分を目的とするものとして存続する!!!!!←従来の建物の価値は完成建物の価値の一部として存続しているため、不動産の価値を把握することを内容とする抵当権は、従来の建物の価格の割合に応じた持分を目的とするものとして存続する!!
+判例について
本判決は、(1) 甲乙不動産を各別の者が所有している場合には、主従関係のない動産の附合に関する民法二四四条の類推適用により、甲乙建物の各所有者は、甲乙建物の各価格の割合に応じて丙建物を共有し、甲乙建物に抵当権が存在したときは、民法二四七条二項の類推適用により、その抵当権は対応する共有持分上に移行して存続する、
(2) 甲乙建物が同一所有者に属し、抵当権の目的となっている場合には混同に関する民法一七九条一項ただし書きの規定を準用ないしは類推して、丙建物の所有権は、甲建物の価格に応じた共有持分と乙建物の価格に応じた共有持分とが融合することなく存続し、旧建物抵当権はこれに対応する持分上に移行して存続する!!、との考え方に依拠するものであろうかと思われる。

+第244条
付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
+第247条
1項 第242条から前条までの規定により物の所有権が消滅したときは、その物について存する他の権利も、消滅する。
2項 前項に規定する場合において、物の所有者が、合成物、混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その合成物等について存し、物の所有者が合成物等の共有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その持分について存する
+第179条
1項 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない
2項 所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は、消滅する。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
3項 前二項の規定は、占有権については、適用しない。

・抵当権の実行に着手する前に、抵当目的物である家屋が崩壊して動産になった場合、抵当権は消滅する(笑)!!

・抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、賃借人が取得すべき転貸借料債権について物上代位権を行使することはできない!!
+判例
民法三七二条によって抵当権に準用される同法三〇四条一項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。
けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。同項の文言に照らしても、これを「債務者」に含めることはできない。また、転貸賃料債権を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなる。もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきものである。

++この判決に至るまでの考え方
民法三〇四条は、先取特権の「目的物ノ売却、賃貸、滅失又ハ毀損」により「債務者カ受クヘキ金銭其他ノ物」に対しても先取特権を行使することができるとしている。先取特権の目的物から生じた債務者(目的物所有者)が受けるべき給付である限り、これに先取特権を行使されても、債務者は、反面において、自己の物的責任の一部を免れる関係にあり、一定の合理性がある。
同条は、抵当権にも準用される(同法三七二条)が、物上代位を認める理由として価値権説(価値代替物に対する代位)による説明が主流であった(我妻榮・新訂担保物権法)。しかし、賃料は、抵当不動産の元本価値とは異なる法定果実であって、目的物の滅失、毀損によって受ける金銭等のような価値代替物とはやや性質を異にすることから、物上代位の本質と関連して、抵当権に基づく賃料債権に対する物上代位の可否をめぐって論争が展開された(小田原満知子・平1最判解説(民)三五四頁)。
そして、価値権説の立場からは、賃料は抵当権の把握した交換価値の一部の具体化であること(担保価値のなし崩し的実現)が根拠とされ、他方、特権説の立場からは、先取特権におけるような担保権の政策的拡大という説明が弱いこともあって、物権法定主義の原則から、抵当権の効力についてできるだけ民法の条文に忠実に解釈すべきであるとの立場から文理解釈を重視する見解(物権説)による補強がされることとなった。そのような中、最二小判平1・10・27民集四三巻九号一〇七〇頁、本誌七一七号一〇六頁は、抵当不動産が賃貸された場合においては、抵当権者は、民法三七二条、三〇四条の規定の趣旨に従い、賃借人が供託した賃料の還付請求権についても物上代位することができるとして、賃借権設定と抵当権設定との先後に関係なく物上代位を認める肯定説を採ることを明らかにし、この問題に決着をつけた。
右判決後、抵当権に基づき賃料債権に対して物上代位権を行使する例が増加したといわれる。それには、不動産不況下において、不動産の競売によるよりも、賃料債権に対して物上代位権を行使することによって債権の回収を図る方が簡便であるという事情もあった。これに対しては、物上代位を回避するため、転貸借を仮装する者も出現し、賃料債権に対する物上代位の実効性が得られなくなる事態も生じた。そこで問題になったのは、転貸賃料債権に対して物上代位ができるかである(これが本件の争点でもある。)。

+++本決定の詳しい解説
民法三〇四条の「債務者」について、担保権の実行によってその所有物の交換価値を担保権者の優先弁済に供する責任(物的責任)を負う者、すなわち、目的物の交換価値が帰属する者であるとの理解!!!に立って(賃料は厳密には目的物の交換価値の代替物とはいえないが、政策的見地に基づき、民法三〇四条が「債務者」の取得すべき収益(賃料)にまで物上代位の対象を拡張した。)、抵当不動産の所有者や第三取得者は、物的責任を負い、賃料に対して物上代位がされた場合にそれだけ物的責任が軽減されるが、賃借人は、物的責任を負う者ではないという相違があることから、賃借人は「債務者」に当たらないとした。また、物上代位を回避する手段として転貸借が行われる場合(本決定のいう「所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合」)がある反面、正常な取引に基づき転貸借が成立する場合もあり、後者の場合の賃借人を保護する必要があった。他方、前者の場合の賃借人は、民法三〇四条の「債務者」に準ずる者として、転貸賃料債権に対する物上代位を認めても差し支えないとしたのである。これは、「所有者と同視することを相当とする場合」は、貸賃料債権に対する物上代位を認める根拠として信義則や権利の濫用に置くのとは異なると思民法三〇四条の「債務者」に準ずる場合であるから、同条を根拠に物上代位を認めるのであって、執行妨害等要件説が執行妨害等の場合に転われる。そして、「所有者と同視することを相当とする場合」とは、「所有者と同視することができる場合」よりは広く物上代位を認めようとしたものと思われるが、所有者と同視することができなければ、「債務者」にはならないであろうから、それほどの相違はないであろう。

+372条
第296条、第304条及び第351条の規定は、抵当権について準用する。

+304条
1項 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2項 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

・賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡された場合においては、目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅するのであり、このことは、明渡前に賃料債権に対する物上代位権行使としての差押えがあった場合も同様!!

+判例
賃貸借契約における敷金契約は、授受された敷金をもって、賃料債権、賃貸借終了後の目的物の明渡しまでに生ずる賃料相当の損害金債権、その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することとなるべき一切の債権を担保することを目的とする賃貸借契約に付随する契約であり、敷金を交付した者の有する敷金返還請求権は、目的物の返還時において、上記の被担保債権を控除し、なお残額があることを条件として、残額につき発生することになる(最高裁昭和46年(オ)第357号同48年2月2日第二小法廷判決・民集27巻1号80頁参照)。これを賃料債権等の面からみれば、目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅することになる。このような敷金の充当による未払賃料等の消滅は、敷金契約から発生する効果であって、相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではないから、民法511条によって上記当然消滅の効果が妨げられないことは明らかである。
また、抵当権者は、物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえる前は、原則として抵当不動産の用益関係に介入できないのであるから、抵当不動産の所有者等は、賃貸借契約に付随する契約として敷金契約を締結するか否かを自由に決定することができる。したがって、敷金契約が締結された場合は、賃料債権は敷金の充当を予定した債権になり、このことを抵当権者に主張することができるというべきである。

+第511条
支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない

+++
ところで、抵当権の物上代位に基づく抵当不動産に係る賃料債権の差押えと、賃借人が賃貸人に対して有する一般債権を自働債権とする賃料債権との相殺(賃借人が一般債権者の立場で自己の債権の回収手段としてする相殺)との優劣については、最高裁判所第三小法廷が平成一三年三月一三日に「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって抵当権者に対抗することができない。」との判決をした(民集五五巻二号三六三頁、本誌一〇五八号八九頁)。
物上代位は、抵当権の効力として位置付けられ、物上代位の目的となる債権につき「差押えをすることにより物上代位をすることができる権利」が抵当権設定登記によって公示されているとみることができる。この判決は、このような観点から、物上代位による差押え前は、差押えにより優先弁済請求権が現実化していないので、相殺はその自働債権が抵当権設定登記の後に取得されたものであってもなんら制限されるものではない。しかし、物上代位による差押え後は、差押えにより優先弁済請求権が現実化しているので、債権質権と相殺との調整(民法三六四条一項、四六八条。大判大5・9・5民録二二輯一六七〇頁)と同様に考えることができ(抵当権設定登記が質権設定通知と同視できる。)、抵当権設定登記前に取得した自働債権によるとき(少なくとも、その弁済期が各賃料債権の弁済期に先立つとき)は相殺は妨げられないが、そうでない場合は物上代位に劣後することになるとしたものである。

・抵当権設定者が抵当目的物を賃貸したところ、一般債権者により賃料債権の差押えがなされた。その後に抵当権者の物上代位権に基づく上記賃料債権の差押えがなされた場合でも、一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達より先に抵当権設定登記がなされていたときには、抵当権者が優先する
+解説
物上代位権の行使につき差押えが必要とされた趣旨は、差押えを競合債権者に対する対抗要件とすることにあるのではなく、主に第三債務者の保護にあることは、最二小判平10・1・30及び最三小判平10・2・10が判示するところである。すなわち、抵当権の効力が代位の目的となる債権にも法律上当然に及ぶとすれば第三債務者は抵当権者に無断で抵当不動産の所有者に弁済してもよいのかどうか、不安定な地位に置かれるので、抵当権者からの差押えある前は、抵当権者に対して弁済してはならず、抵当不動産の所有者(又は他の差押債権者、債権譲受人)に弁済すれば債権及び物上代位権が消滅する(第三債務者は免責される)という仕組みを採用して第三債務者を保護するというのが、抵当権者による差押えを要求した趣旨であるとされている。
また、物上代位による差押えを競合債権者に対する対抗要件とすることは、「目的債権について一般債権者が差押え又は仮差押えの執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではない」と判示した最二小判昭60・7・19民集三九巻五号一三二六頁の趣旨に反するようにも思われる。抵当権による物上代位の対抗要件は、抵当権の対抗要件である設定登記に求めざるを得ないというのが本判決の考え方であると思われる。

・抵当権者は、物上代位の対象の目的債権が譲渡され対抗要件が 備えられた後でも、物上代位権を行使することができる!!!←第三債務者の保護という304条1項の趣旨目的に照らすと、372条・304条1項ただし書きの「払渡し又は引渡し」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後でも、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる!
+判例
民法三七二条において準用する三〇四条一項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。
右のような民法三〇四条一項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。
けだし、(一)民法三〇四条一項の「払渡又ハ引渡」という言葉は当然には債権譲渡を含むものとは解されないし、物上代位の目的債権が譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、(二)物上代位の目的債権が譲渡された後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合において、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に目的債権の譲渡後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならず、(三)抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができ、(四)対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害するものというべきだからである。
そして、以上の理は、物上代位による差押えの時点において債権譲渡に係る目的債権の弁済期が到来しているかどうかにかかわりなく、当てはまるものというべきである。

・被転付債権が抵当権の物上代位の目的となりうる場合においても、転付命令が第三債務者に送達されるときまでに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは、転付命令の効力を妨げることはできず、抵当権者が被転付債権について抵当権の効力を主張することはできない!!
+判例
転付命令に係る金銭債権(以下「被転付債権」という。)が抵当権の物上代位の目的となり得る場合においても、転付命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは、転付命令の効力を妨げることはできず、差押命令及び転付命令が確定したときには、転付命令が第三債務者に送達された時に被転付債権は差押債権者の債権及び執行費用の弁済に充当されたものとみなされ、抵当権者が被転付債権について抵当権の効力を主張することはできないものと解すべきである。
けだし、転付命令は、金銭債権の実現のために差し押さえられた債権を換価するための一方法として、被転付債権を差押債権者に移転させるという法形式を採用したものであって、転付命令が第三債務者に送達された時に他の債権者が民事執行法159条3項に規定する差押等をしていないことを条件として、差押債権者に独占的満足を与えるものであり(民事執行法159条3項、160条)、他方、抵当権者が物上代位により被転付債権に対し抵当権の効力を及ぼすためには、自ら被転付債権を差し押さえることを要し(最高裁平成13年(受)第91号同年10月25日第一小法廷判決・民集55巻6号975頁)、この差押えは債権執行における差押えと同様の規律に服すべきものであり(同法193条1項後段、2項、194条)、同法159条3項に規定する差押えに物上代位による差押えが含まれることは文理上明らかであることに照らせば、抵当権の物上代位としての差押えについて強制執行における差押えと異なる取扱いをすべき理由はなく、これを反対に解するときは、転付命令を規定した趣旨に反することになるからである。

・抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、当該不動産の賃借人は、抵当権設定登記に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない!!
+判例
抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないと解するのが相当である。
けだし、物上代位権の行使としての差押えのされる前においては、賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが、上記の差押えがされた後においては、抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ、物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はないというべきであるからである。
そして、上記に説示したところによれば、抵当不動産の賃借人が賃貸人に対して有する債権と賃料債権とを対当額で相殺する旨を上記両名があらかじめ合意していた場合においても、賃借人が上記の賃貸人に対する債権を抵当権設定登記の後に取得したものであるときは、物上代位権の行使としての差押えがされた後に発生する賃料債権については、物上代位をした抵当権者に対して相殺合意の効力を対抗することができないと解するのが相当である。

・物上保証人は、被担保債権の弁済期が到来したとしても、あらかじめ求償権を行使することはできない。!!!!!←被担保債権の消滅の有無とその範囲は、抵当不動産の売却代金の配当等によって確定するものであるから、求償権の範囲はもちろん、その存在すらあらかじめ確定することはできないから。
+判例
債務者の委託を受けてその者の債務を担保するため抵当権を設定した者(物上保証人)は、被担保債権の弁済期が到来したとしても、債務者に対してあらかじめ求償権を行使することはできないと解するのが相当である。
けだし、抵当権については、民法三七二条の規定によって同法三五一条の規定が準用されるので、物上保証人が右債務を弁済し、又は抵当権の実行により右債務が消滅した場合には、物上保証人は債務者に対して求償権を取得し、その求償の範囲については保証債務に関する規定が準用されることになるが、右規定が債務者に対してあらかじめ求償権を行使することを許容する根拠となるものではなく、他にこれを許容する根拠となる規定もないからである。
なお、民法三七二条の規定によって抵当権について準用される同法三五一条の規定は、物上保証人の出捐により被担保債権が消滅した場合の物上保証人と債務者との法律関係が保証人の弁済により主債務が消滅した場合の保証人と主債務者との法律関係に類似することを示すものであるということができる。ところで、保証の委託とは、主債務者が債務の履行をしない場合に、受託者において右債務の履行をする責に任ずることを内容とする契約を受託者と債権者との間において締結することについて主債務者が受託者に委任することであるから、受託者が右委任に従った保証をしたときには、受託者は自ら保証債務を負担することになり、保証債務の弁済は右委任に係る事務処理により生ずる負担であるということができる。これに対して、物上保証の委託は、物権設定行為の委任にすぎず、債務負担行為の委任ではないから、受託者が右委任に従って抵当権を設定したとしても、受託者は抵当不動産の価額の限度で責任を負担するものにすぎず、抵当不動産の売却代金による被担保債権の消滅の有無及びその範囲は、抵当不動産の売却代金の配当等によって確定するものであるから、求償権の範囲はもちろんその存在すらあらかじめ確定することはできず、また、抵当不動産の売却代金の配当等による被担保債権の消滅又は受託者のする被担保債権の弁済をもって委任事務の処理と解することもできないのである。したがって、物上保証人の出捐によって債務が消滅した後の求償関係に類似性があるからといって、右に説示した相違点を無視して、委託を受けた保証人の事前求償権に関する民法四六〇条の規定を委託を受けた物上保証人に類推適用することはできないといわざるをえない。!!!!

第351条
他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。
第460条
保証人は、主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる
1号 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
2号 債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない。
3号 債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後十年を経過したとき。

++解説
保証とは、主債務者が債務の履行をしない場合に、その履行をする責に任じるものであり(民法四四六条)、保証の委託(委任)とは、主債務の履行債務(保証債務)を負担すること(将来、主債務者の履行がないときは、保証人が履行をすること)の委任にほかならない。したがって、保証債務の履行は、委任に基づくものであり、それによる出損は、委任事務の処理により生じた費用(生ずべき費用)と理解されることになる。そして、右費用の額は、既に発生している債務については、求償時の債務額と一致することになる。
他方、物上保証とは他人のための担保物権の設定行為であり、担保権設定者に被担保債権の弁済を委任する趣旨は含まれない!!!!!←コレ。担保物権の設定により、当該物件の担保価値は抽象的に担保権者に把握される。担保権の実行は、右担保価値の実現にすぎず、設定者の行為を予定するものではない。その意味で、物上保証の委任は担保物権の設定により終了し、その後に、委任の趣旨に従った行為はなく、費用の発生の余地もない。しかも、当該物件の価値がなく、被担保債権への弁済が全くされなかったとしても、委任の趣旨に反することもない。したがって、物上保証については事前求償を肯定したとしても、求償金額の確定ができないことになる(受託保証人の事前求償についても、求償金額の確定が要件であるとするのは、注釈民法(11)二七七頁〔中川〕)。
物上保証人が担保物の代価により、又は自らの出損によって債務者を免責させたときは、その法律状態は保証債務を履行した保証人に類似するが、免責行為前の法律関係まで同じことにはならないのである。