民法択一 債権各論 契約総論 解除


・XがYに対して、不動産甲を期間10年で賃貸する契約において、期間の経過後、Xが、賃借権の無断譲渡を理由として賃貸借契約を解除したと主張して、不動産甲の返還請求をした場合、Yは、Xが解除権を長期にわたって行使せず、Yにおいてもはやその権利を行使されないものと信頼すべき正当の事由を有することを基礎付ける事実を抗弁として主張することができる!!!
+(判例S30.11.22)
上告代理人成富信夫の上告理由第一点について。
権利の行使は、信義誠実にこれをなすことを要し、その濫用の許されないことはいうまでもないので、解除権を有するものが、久しきに亘りこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使せられないものと信頼すべき正当の事由を有するに至つたため、その後にこれを行使することが信義誠実に反すると認められるような特段の事由がある場合には、もはや右解除は許されないものと解するのを相当とする。ところで、本件において所論解除権が久しきに亘り行使せられなかったことは、正に論旨のいうとおりであるが、しかし原審判示の一切の事実関係を考慮すると、いまだ相手方たる上告人において右解除権がもはや行使せられないものと信頼すべき正当の事由を有し、本件解除権の行使が信義誠実に反するものと認むべき特段の事由があつたとは認めることができない。それ故、原審が本件解除を有効と判断したのは正当であつて、原判決には所論の違法はない。なお、論旨中には憲法二九条違反を主張しているけれども、その実質は、要するに民法上本件解除が許されないという見解に帰着するものであるから、違憲の論旨として採用することはできない。

・売買契約に基づく代金支払い請求訴訟において、被告が履行遅滞に基づく解除の抗弁を主張する場合、被告は催告以前に売買代金の提供をしたこと、または、目的物の引渡しを先履行とする合意の存在を主張立証する必要がある!!!
=売買契約の締結により目的物引渡債務に対して同時履行の抗弁権(533条)が付着していることが基礎付けられるので、履行遅滞解除を主張する者は、同時履行の抗弁権の発生生涯事実を主張立証する必要がある!

履行遅滞により契約を解除するための催告について、履行を請求する債務の同一性が認識できればよく金銭債務であっても金額を明示する必要はない!!!!

・催告の内容は、債務者に対して債務の履行を促すものであれば足り、履行がなければ解除する旨まで付け加える必要はない!!!

・賃貸借契約における賃料延滞を理由とする解除について、賃借人の給付すべき賃料より過大の額を示した過大催告がなされた場合でも、賃貸人が催告金額の全額でなければ受領を拒絶する意思のない限り、当該催告は無効とはならない!!!
+判例(S37.3.9)
上告代理人上原隼三の上告理由第一点について。
原審は、被上告人Aの延滞家賃額七、三五三円に対しこれを二九、九三〇円として催告した上告人の所論過大催告を無効とし、該催告に基く上告人の所論契約解除の主張を排斥しているが、右の無効をいうためには、上告人が右催告に当り前示催告額全額の提供を得なければその受領を拒絶する意思を有した点の認定判断が必要であるところ、原判示過大の程度を以てしては直ちに右受領拒否の意思を推認することはできないし、原判文上右の点の審理判断を尽した跡は見あたらない。原判決には、この点につき理由不備の違法あるものというべく、所論第一点中これを指摘する論旨は理由がある。

・賃貸借契約の継続中に、当事者の一方にその信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為があった場合には、相手方は催告を要せず賃貸借契約を将来に向かって解除することができる。!!!
+(S27.4.25)
上告理由第一点について。
およそ、賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その信頼関係を裏切つて、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には、相手方は、賃貸借を将来に向つて、解除することができるものと解しなければならない、そうして、この場合には民法五四一条所定の催告は、これを必要としないものと解すべきである。
本件において原判決の確定するところによれば、被上告人は上告人に対し昭和一〇年九月二五日本件家屋を畳建具等造作一式附属のまゝ期間の定めなく賃貸したのであるが、上告人は昭和一三年頃出征し、一時帰還したこともあるが終戦後まで不在勝ちでその間本件家屋には上告人の妻及び男子三人が居住していたが、妻は職業を得て他に勤務し昼間は殆んど在宅せず、留守中を男子三人が室内で野球をする等放縦な行動を為すがまゝに放置し、その結果建具類を破壊したり、又これ等妻子は燃料に窮すれば何時しか建具類さえも燃料代りに焼却して顧みず、便所が使用不能となればそのまゝ放置して、裏口マンホールで用便し、近所から非難の声を浴びたり、室内も碌々掃除せず塵芥の推積するにまかせて不潔極りなく、昭和一六年秋たまたま上告人が帰還した時なども、上告人宅が不潔の故を以て隣家に一泊を乞うたこともあり、現に被上告人の原審で主張したごとき格子戸、障子、硝子戸、襖等の建具類(第一審判決事実摘示の項参照)は、全部なくなつており、外壁数ヶ所は破損し、水洗便所は使用不能の状態にある。そして、これ等はすべて、上告人の家族等が多年に亘つて、本件家屋を乱暴に使用した結果によるものであるというのである。(上告人主張の不可抗力の抗弁は原審は排斥している、)かつ、被上告人は上告人に対し、昭和二二年六月二〇日、一四日の期間を定めて、右破損箇所の修覆を請求したけれども、上告人がこれに応じなかつたことも、また、原判決の確定するところである。
とすれば、如上上告人の所為は、家屋の賃借人としての義務に違反すること甚しく(賃借人は善良な管理者の注意を以て賃借物を保管する義務あること、賃借人は契約の本旨又は目的物の性質に因つて定まつた用方に従つて目的物の使用をしなければならないことは民法の規定するところである)その契約関係の継続を著しく困難ならしめる不信行為であるといわなければならない。従つて、被上告人は、民法五四一条の催告を須いず直ちに賃貸借を解除する権利を有するものであることは前段説明のとおりであるから、本件解除を是認した原判決は、結局正当である。論旨は、被上告人がした催告期間の当、不当を争うに帰著するものであるからその理由のないことは明らかである。

+ 藤田裁判官の補足意見
自分は本文の判旨に賛成するものではあるが、更に、本件第一審および原審の判断と同じように、被上告人のした本件解除は、民法五四一条の要件に適つたものとしても有効と解してよいのではないかと考える。すなわち、賃借人は契約又はその目的物の性質によつて定まつた用方に従いその物の使用をしなければならないことは民法六一六条、五九四条の規定するところであり、これに違反した場合、賃貸人はその違反行為の停止を請求し若し賃貸人がこれに応じないときは、賃貸人は民法五四一条に従つて賃貸借契約を解除することのできることは勿論であつて、本件の如く賃借人が原判決認定のように甚しく前記賃借人としての義務に違反し目的物を損壊して、そのまゝ使用を継続するがごとき場合には、賃貸人は右違反行為の停止を求め契約の本旨に適した使用を求める意味において目的物の損壊の修覆を請求する権利があり、賃借人はこれに応ずる義務があるものと解するを相当と思料する従つて本件において被上告人が相当の期間を定めて上告人に対し右義務の履行を求め上告人がこれに応じなかつたためにした本件被上告人の解除はこれを有効と解しなければならない。

+(履行遅滞等による解除権)
第541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

+(使用貸借の規定の準用)
第616条
第594条第1項、第597条第1項及び第598条の規定は、賃貸借について準用する。

+(借主による使用及び収益)
第594条
1項 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない
2項 借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
3項 借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。

・履行期の定めのない債務の履行遅滞を理由とする解除の場合において、債務者を遅滞に付するための催告をした後は、さらに541条所定の催告をする必要はない!=債権者は、相手方に相当な期間を定めて履行を催告し、債務者を遅滞に付すると同時に、その期間内に履行のない場合には、契約を解除することができる!!

・履行すべき相当の期間内を定めない催告も有効であり、催告の後、客観的にみて相当な期間を経過すれば解除権が発生する!
+判例(S29.12.21)
上告代理人藤原一嘉の上告理由(後記)について。
所論一前段の主張である被上告人が残代金支払を昭和二三年八月一日まで猶予したということを前提とする論旨及び二後段の主張である本件不動産のうち家屋一棟は訴外人に所有権移転登記が完了しているから、その抹消登記手続を命ずる原判決は上告人に対し不能を命ずることとなり違法であるという論旨は、原審においてなんら主張せずまた原判決も判断をしなかつた事項であるから、適法な上告理由に当らない。また所論一後段の主張については、債務者が遅滞に陥つたときは、債権者が期間を定めずに催告をした場合でも、その催告から相当の期間を経過すれば解除できると解すべきことは、すでに大審院判例の趣旨とするところであり(大審院大正一五年(オ)第八八二号昭和二年二月二日判決、民集六巻一三三頁参照)今なおこの解釈を改めるの要を認めない。

・ABは、AがBに対し甲不動産を売却する旨の売買契約を締結したが、Bが代金を支払わないので、Aはその支払いを求めて訴えを提起した。Bが、甲の引き渡しの履行を催告したにもかかわらず、履行がなされなかったことを理由とする解除の抗弁を主張する場合、Bは、催告の際に相当の期間を定めたことを主張立証する必要はない!!!!!!
←期間を定めないでした催告、不相当な期間を定めてした催告でも有効!=解除の抗弁の要件事実とはならない!

・催告の期間内に履行しないことを条件として催告と共にした解除の意思表示も有効である!!

・同一当事者間で形式上は2つの契約が締結されていた場合でも、それらを目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、いずれかの契約が履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないというような場合には、一方の契約の債務不履行を理由としてその契約のみならず他方の契約をも解除することが可能である!!!!

+判例(H8.11.12)
上告代理人齋藤護の上告理由について
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、不動産の売買等を目的とする株式会社であり、兵庫県佐用郡に別荘地を開発し、いわゆるリゾートマンションである佐用コンドミニアム(以下「本件マンション」という)を建築して分譲するとともに、スポーツ施設である佐用フュージョン倶楽部(以下「本件クラブ」という)の施設を所有し、管理している。
2(一) 上告人らは、平成三年一一月二五日、被上告人から、持分を各二分の一として、本件マンションの一区分である本件不動産を代金四四〇〇万円で買い受け(以下「本件売買契約」という)、同日手付金四四〇万円を、同年一二月六日残代金を支払った。本件売買契約においては、売主の債務不履行により買主が契約を解除するときは、売主が買主に手付金相当額を違約金及び損害賠償として支払う旨が合意されている。(二)上告人Aは、これと同時に、被上告人から本件クラブの会員権一口である本件会員権を購入し(以下「本件会員権契約」という)、登録料五〇万円及び入会預り金二〇〇万円を支払った。
3(一) 被上告人が書式を作成した本件売買契約の契約書には、表題及び前書きに「佐用フュージョン倶楽部会員権付」との記載があり、また、特約事項として、買主は、本件不動産購入と同時に本件クラブの会員となり、買主から本件不動産を譲り受けた者についても本件クラブの会則を遵守させることを確約する旨の記載がある。(二)被上告人による本件マンション分譲の新聞広告には、「佐用スパークリンリゾートコンドミニアム(佐用フュージョン倶楽部会員権付)」との物件の名称と共に、本件マンションの区分所有権の購入者が本件クラブを会員として利用することができる旨の記載がある。(三)本件クラブの会則には、本件マンションの区分所有権は、本件クラブの会員権付きであり、これと分離して処分することができないこと、区分所有権を他に譲渡した場合には、会員としての資格は自動的に消滅すること、そして、区分所有権を譲り受けた者は、被上告人の承認を得て新会員としての登録を受けることができる旨が定められている。
4(一) 被上告人は、本件マンションの区分所有権及び本件クラブの会員権を販売するに際して、新聞広告、案内書等に、本件クラブの施設内容として、テニスコート、屋外プール、サウナ、レストラン等を完備しているほか、さらに、平成四年九月末に屋内温水プール、ジャグジー等が完成の予定である旨を明記していた。(二)その後、被上告人は、上告人らに対し、屋内プールの完成が遅れる旨を告げるとともに、完成の遅延に関連して六〇万円を交付した。上告人らは、被上告人に対し、屋内プールの建設を再三要求したが、いまだに着工もされていない。(三)上告人らは、被上告人に対し、屋内プール完成の遅延を理由として、平成五年七月一二日到達の書面で、本件売買契約及び本件会員権契約を解除する旨の意思表示をした。

二 本件訴訟は、(1)上告人らがそれぞれ、被上告人に対し、本件不動産の売買代金から前記の六〇万円を控除し、これに手付金相当額を加えた金額の半額である各二三九〇万円の支払を、(2)上告人Aが、被上告人に対し、本件会員権の登録料及び入会預り金の額である二五〇万円の支払を請求するものである。
原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、上告人らの請求を認容した第一審判決を取り消し、上告人らの請求をいずれも棄却した。すなわち、(一)本件不動産と本件会員権とは別個独立の財産権であり、これらが一個の客体として本件売買契約の目的となっていたものとみることはできない。(二)本件のように、不動産の売買契約と同時にこれに随伴して会員権の購入契約が締結された場合において、会員権購入契約上の義務が約定どおり履行されることが不動産の売買契約を締結した主たる目的の達成に必須であり、かつ、そのことが不動産の売買契約に表示されていたときは、売買契約の要素たる債務が履行されないときに準じて、会員権購入契約上の義務の不履行を理由に不動産の売買契約を解除することができるものと解するのが相当である。(三)しかし、上告人らが本件不動産を買い受けるについては、本件クラブの屋内プールを利用することがその重要な動機となっていたことがうかがわれないではないが、そのことは本件売買契約において何ら表示されていなかった。(四)したがって、屋内プールの完成の遅延が本件会員権契約上の被上告人の債務不履行に当たるとしても、上告人らがこれを理由に本件売買契約を解除することはできない。

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 前記一4(一)の事実によれば、本件クラブにあっては、既に完成しているテニスコート等の外に、その主要な施設として、屋外プールとは異なり四季を通じて使用の可能である屋内温水プールを平成四年九月末ないしこれからそれほど遅れない相当な時期までに完成することが予定されていたことが明らかであり、これを利用し得ることが会員の重要な権利内容となっていたものというべきであるから、被上告人が右の時期までに屋内プールを完成して上告人らの利用に供することは、本件会員権契約においては、単なる付随的義務ではなく、要素たる債務の一部であったといわなければならない。
2 前記一3の事実によれば、本件マンションの区分所有権を買い受けるときは必ず本件クラブに入会しなければならず、これを他に譲渡したときは本件クラブの会員たる地位を失うのであって、本件マンションの区分所有権の得喪と本件クラブの会員たる地位の得喪とは密接に関連付けられている。すなわち、被上告人は、両者がその帰属を異にすることを許容しておらず、本件マンションの区分所有権を買い受け、本件クラブに入会する者は、これを容認して被上告人との間に契約を締結しているのである。
このように同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である。 
3 これを本件について見ると、本件不動産は、屋内プールを含むスポーツ施設を利用することを主要な目的としたいわゆるリゾートマンションであり、前記の事実関係の下においては、上告人らは、本件不動産をそのような目的を持つ物件として購入したものであることがうかがわれ、被上告人による屋内プールの完成の遅延という本件会員権契約の要素たる債務の履行遅滞により、本件売買契約を締結した目的を達成することができなくなったものというべきであるから、本件売買契約においてその目的が表示されていたかどうかにかかわらず、右の履行遅滞を理由として民法五四一条により本件売買契約を解除することができるものと解するのが相当である。

四 したがって、上告人らが本件売買契約を解除することはできないとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定した事実によれば、上告人らの請求を認容した第一審判決は正当として是認すべきものであって、被上告人の控訴を棄却すべきである。

++解説
三 まず問題になるのは、本件会員権契約の上で屋内プールの建設がYの債務となっているかどうか(Yは、この点も争っていた)、債務であるとしてそれが付随的義務ではなく要素たる債務であるかどうかである。これがいずれも肯定されなければ、本件会員権契約だけの解除すら認められないということになる。
屋内プールの建設は契約書に明記された義務となっていたわけではないが、新聞広告の記載内容等の本判決がその一4(一)に摘示する事実によれば、本件会員権契約において、スポーツクラブの重要な施設である屋内プールを建設し、これを会員の使用に供することは、Yの債務となっていたと考えるのが当然であろう。
履行遅滞を理由として民法五四一条により契約を解除するには、その債務が付随的義務ではなく、要素たる債務でなければならない(大判昭13・9・30民集一七巻一七七五頁、最三小判昭36・11・21民集一五巻一〇号二五〇七頁、通説)。ただし、外見上は契約の付随的約款で定められている義務の不履行であっても、その不履行が契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるものであるときは、この債務は契約の要素たる債務であり、これを理由に契約を解除することができるとするのが、判例である(最二小判昭43・2・23民集二二巻二号二八一頁)。すなわち、要素たる債務であるか付随的義務であるかは、契約の外見・形式によっては決まらず、その不履行があれば契約の目的が達成されないような債務は、付随的義務ではなく、要素たる債務であるということになる(浜田稔「付随的債務の不履行と解除」契約法大系Ⅰ三一五頁以下ほか。なお、星野英一・民法概論Ⅳ七五頁以下も参照)。この基準によれば、スポーツクラブというものの特質を考えると、屋内プールを建設して会員の使用に供するというYの債務は、要素たる債務であると考えられる。本判決は、その三1において、まずこのことを判示している。

四 次に問題になるのは、会員権契約上の債務不履行(履行遅滞)を理由として売買契約を解除することができるかということであり、本判決の判例要旨とされた点である。
この両契約が、二個の契約ではなく、実は不動産の売買契約にスポーツクラブの入会契約の要素が付加された一個の混合契約であるとすれば、屋内プールを建設して会員の使用に供するというYの債務は、この混合契約においても要素たる債務であるといえるであろうから、Xらは契約の全体を解除することができるということになる。本件マンションの区分所有権の得喪と本件クラブの会員たる地位の得喪とが前記のように密接に関連付けられていることからすれば、一個の混合契約であると見ることが全く不可能というわけでもない。しかし、本件クラブの施設は、本件マンションの共用施設となっているわけではなく、マンションそのものの区分所有権とは別個に、本件クラブに入会することによって初めてこれを使用し得ることになるのであるから、両者は密接に関連付けられているものの、二個の独立した契約であると見るのが相当であろう。本判決は、正面からこれについて論じていないが、両者が二個の独立した契約であることを前提として、前記の問題を論じている。
そこで、両者が二個の独立した契約であっても、一方の契約上の債務不履行(履行遅滞)を理由として他方の契約を解除することができるかという問題になるのであるが、民法五四一条は一個の契約を想定した条文であると考えられ、学説上もこの問題はほとんど論じられていなかったようである(多少参考になる裁判例として、不動産の小口持分の売買とその持分の賃貸借の契約に関する東京地判平4・7・27判時一四六四号七六頁、金法一三五四号四六頁、その控訴審東京高判平5・7・13金法一三九二号四五頁、これらの評釈として星野豊「不動産小口化商品の解約」ジュリ一〇六七号一三一頁がある。)。
しかし、契約解除の可否という観点から同一当事者間の債権債務関係を見る場合に、その間の契約の個数が一個であるか二個以上であるかは、それほど本質的な問題であるとはいえないであろう。形式的にはこれが二個以上の契約に分解されるとしても、両者の目的とするところが有機的に密接に結合されていて、社会通念上、一方の契約のみの実現を強制することが相当でないと認められる場合(一方のみでは契約の目的が達成されない場合)には、民法五四一条により一方の契約の債務不履行を理由に他方の契約をも解除することができるとするのが、契約当事者の意識にも適合した常識的な解釈であると思われる。
本判決は、「要旨一」のとおりの法理を説示して右の問題を肯定した。そして、民法五四一条をこのように解する場合には、原判決のように契約解除の可否を動機の表示の有無に懸からせることも相当ではないから、本件においても、その表示の有無にかかわらず、屋内プールの完成の遅延というYの履行遅滞を理由に、Xらは、民法五四一条により本件売買契約を解除することができるとして、原判決を破棄し、Yの控訴を棄却したのである。

五 本判決は、常識的な内容を説示するものではあるが、基本的である割には先例の乏しい法律問題について最高裁が法理を示したものとして、その意義は少なくないものと思われる。

・履行不能を理由とする解除の場合において、債務者の帰責事由によらない不能であっても、債権者が解除権を有する場合がある!!
債務者の責めに帰すべき事由によって履行期を徒過した後の不能の場合は債権者は解除権を有する!!!
+(履行不能による解除権)
第543条
履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない

・解除原因を明示しないで行った解除の意思表示も有効である!!!
←契約解除の意思表示に解除原因を明示することを必要とする理由はない

・契約を解除すると契約の効力は遡及的に消滅することになるが、民法上、明文により解除の効果が訴求しないことが規定されている契約類型がある!
=賃貸借、雇用、委任及び組合といった継続的契約においては、解除は将来に向かってのみその効力を生ずる!

・直接効果説によれば、解除により契約が遡及的に消滅するから、解除前に目的物と権利関係を有するに至った者もその目的物に対する権利を失うことになるため、その者を保護することを目的として、545条1項ただし書きが解除の遡及効を制限していると解することになる。
第三者が同項ただし書きにより保護されるためには登記を具備しなければならない!!!!!

・解除後に不動産を買い受けたCは、登記を経由しなければAにその所有権の取得を対抗することはできない!
←あたかもBからA、BからCへと二重譲渡があったのと同様に見て、177条を適用するとしている。

+判例(S33.6.14)
上告代理人弁護士森良作、同石川泰三、同飯沢進、同山田尚の上告理由第一点及び第三点について。
原判決はその挙示の証拠によつて、昭和二〇年一〇月九日上告人Aは自己の所有に属し且つ自己名義に所有権取得登記の経由されてある本件土地を上告人Bに売り渡し、上告人Bは同二一年四月一〇日被上告人にこれを転売し、それぞれ所有権を移転したが、上告人両名間の右売買契約は昭和二二年一二月二〇日両者の合意を以て解除されたものと認定し、次いで、右契約解除は合意に基くものであつても民法五四五条一項但書の法意によつて第三者の権利を害することを得ないから、既に取得している被上告人の所有権はこれを害するを得ないとの趣意の下に、被上告人が上告人Bに代位して上告人Aに対し上告人B名義に本件土地の前示売買に因る所有権移転登記手続を求める請求及び右請求が是認されることを前提とした被上告人の上告人Bに対する前示売買に基く所有権移転登記手続請求をそれぞれ容認したものであることは、判文上明らかである。
思うに、いわゆる遡及効を有する契約の解除が第三者の権利を害することを得ないものであることは民法五四五条一項但書の明定するところである。合意解約は右にいう契約の解除ではないが、それが契約の時に遡つて効力を有する趣旨であるときは右契約解除の場合と別異に考うべき何らの理由もないから、右合意解約についても第三者の権利を害することを得ないものと解するを相当とする。しかしながら、右いずれの場合においてもその第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由していないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきである。
けだし右第三者を民法一七七条にいわゆる第三者の範囲から除外しこれを特に別異に遇すべき何らの理由もないからである。してみれば、被上告人の主張自体本件不動産の所有権の取得について登記を経ていない被上告人は原判示の合意解約について右にいわゆる権利を害されない第三者として待遇するを得ないものといわざるを得ない(右合意解約の結果上告人Bは本件物件の所有権を被上告人に移転しながら、他方上告人Aにこれを二重に譲渡しその登記を経由したると同様の関係を生ずべきが故に、上告人Aは被上告人に対し右所有権を被上告人に対抗し得へきは当然であり、従つて原判示の如く被上告人は上告人Aに対し自己の登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有しないものとは論ずるを得ないものである)。のみならず、原判決は上告人Bが上告人Aに対して有する前示両者間の売買契約に基く所有権移転登記請求権を被上告人において代位行使する請求を是認しているのであるから、上告人Aが被上告人に対し右売買契約は上告人Bとの間の合意解約によつてすでに消滅していることを主張し得べきは当然の筋合であると云わなければならない。けだし上告人Aとしては上告人Bから前示移転登記手続方を直接に請求された場合当然に主張し得べき前示合意解約の抗弁を被上告人が上告人Bに代位して移転登記手続を請求してきた場合これを奪わるべき理由がないからである。但し、右合意解約が当事者間の通謀による虚偽の意思表示であるとか、或は被上告人が原審以来主張している事情の立証されたときは格別である。
以上のとおりであるから、本上告論旨は結局理由あるに帰し、従つて本件上告はその理由あり、原判決は到底破棄を免れないものと認める。

・545条1項ただし書きの「第三者」とは、解除の対象となった契約により給付された物につき、解除前に新たな権利を取得した者を指し、契約により発生した債権を譲り受けた者は「第三者」にはあたらない。

・契約当事者が、解除によって金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない!!!!
+(解除の効果)
第545条
1項 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2項 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3項 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

・売主が他人の動産を売買の目的とした場合において、売主が当該動産を買主に引き渡したが、売主が当該動産の所有権を買主に移転することができず、そのことを理由として買主が売買契約を解除したときは、買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間に当該動産を使用したことによる利益を売主に返還する義務を負う!!!!
+判例(S51.2.13)
同三について
原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。
中古自動車の販売業者である上告人は、訴外Aから買い受けた本件自動車を、昭和四二年九月四日被上告人に転売し、被上告人は、同日代金五七万五〇〇〇円全額を支払つてその引渡を受けた。ところが、本件自動車は、訴外いすず販売金融株式会社(以下「訴外会社」という。)が所有権留保特約付で割賦販売したものであつて、その登録名義も訴外会社のままであり、Aは、本件自動車を処分する権限を有していなかつた。そして、訴外会社が、留保していた所有権に基づき、昭和四三年九月一一日本件自動車を執行官の保管とする旨の仮処分決定を得、翌一二日その執行をしたため、本件自動車は、被上告人から引き揚げられた。被上告人は、右仮処分の執行を受けて、はじめて本件自動車が上告人の所有に属しないものであることを知り、上告人に対し、民法五六一条の規定により、同年一二月二二日限り本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
右事実によると、上告人が、他人の権利の売主として、本件自動車の所有権を取得してこれを被上告人に移転すべき義務を履行しなかつたため、被上告人は、所有権者の追奪により、上告人から引渡を受けた本件自動車の占有を失い、これを上告人に返還することが不能となつたものであつて、このように、売買契約解除による原状回復義務の履行として目的物を返還することができなくなつた場合において、その返還不能が、給付受領者の責に帰すべき事由ではなく、給付者のそれによつて生じたものであるときは、給付受領者は、目的物の返還に代わる価格返還の義務を負わないものと解するのが相当である。これと同旨と解される原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同二及び四について
売買契約が解除された場合に、目的物の引渡を受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負うものであり、この理は、他人の権利の売買契約において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず、民法五六一条の規定により該契約が解除された場合についても同様であると解すべきである。
けだし、解除によつて売買契約が遡及的に効力を失う結果として、契約当事者に該契約に基づく給付がなかつたと同一の財産状態を回復させるためには、買主が引渡を受けた目的物を解除するまでの間に使用したことによる利益をも返還させる必要があるのであり、売主が、目的物につき使用権限を取得しえず、したがつて、買主から返還された使用利益を究極的には正当な権利者からの請求により保有しえないこととなる立場にあつたとしても、このことは右の結論を左右するものではないと解するのが、相当だからである。
そうすると、他人の権利の売主には、買主の目的物使用による利得に対応する損失がないとの理由のみをもつて、被上告人が本件自動車の使用利益の返還義務を負わないとした原審の判断は、解除の効果に関する法令の解釈適用を誤つたものというべきであり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、右使用利益の点について更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが、相当である。

+(他人の権利の売買における売主の担保責任)
第561条
前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。

・不動産売買契約に基づいて目的物の引渡しを受けていた買主が、解除までの間に目的物を使用収益して得た利益を売主へ返還する義務は、原状回復義務に基づく一種の不当利得返還義務(×不法占有に基づく損害賠償義務)である。!!

+判例(S34.9.22)
上告代理人森信一の上告理由は末尾記載のとおりである。原審が、本件催告に示された残代金額は金三七五〇〇〇円であり、真の残代金債務金三二五〇〇〇円を超過すること五〇〇〇〇円なる旨認定していることは所論のとおりである。しかし、この一事によつて、被上告人は催告金額に満たない提供があつてもこれを受領する意思がないものとは推定し難く、その他かかる意思がないと推認するに足りる事情は原審の認定しないところであるから、本件催告は、たとえ前記の如く真の債務額を多少超過していても、契約解除の前提たる催告としての効力を失わないものと解すべきである。

次に、原判決の確定するところによると、被上告人は、本件売買契約から約二週間後に支払を受ける約であつた本件残代金につき、履行期到来後再三上告人に支払を求めたが応じないので、遂に履行期から四ケ月余をを経て改めて本件催告に及んだというのである。このような事実関係のもとでは、たとえ三十万円をこえる金員の支払につき定めた催告期間が三日にすぎなくても、必ずしも不相当とはいい難い

更に、特定物の売買により買主に移転した所有権は、解除によつて当然遡及的に売に復帰すると解すべきであるから、その間買主が所有者としてその物を使用収益した利益は、これを売主に償還すべきものであること疑いない(大審院昭一)一・五・一一言渡判決、民集一五卷一〇号八〇八頁参照)。そして、右償還の義務の法律的性質は、いわゆる原状回復義務に基く一種の不当利得返還義務にほかならないのであつて、不法占有に基く損害賠償義務と解すべきではない。ところで、被上告人の本訴における事実上及法律上の陳述中には、不法占拠若しくは損害金というような語が用いられているけれども、その求めるところは前記使用収益による利益の償還にほかならない部分のあることが明らかであるから、その部分の訴旨を一種の不当利得返還請求と解することは何ら違法ではない。
けだし、被上告人は、不当利得返還請求権と損害賠償請求権の競合して成立すべき場合に後者を主張したわけではなく、本来不当利得返還請求権のみが成立すべき場合に、該権利を主張しながら、その法律的評価ないし表現を誤つたにすぎないからである。
されば、以上の諸点に関する原審の判断はすべて正当なるに帰し、これらの点に関する所論はすべて理由がない。その他の論旨は、原審の適法な事実認定を争うのでなければ、原判示にそわない事実又は原審において主張立証しなかつた事実を前提として原判決を非難し、或は、独自の見解に立脚して原審の正当な判断を攻撃するものであつて、採用のかぎりでない。

・解除権の行使につき期間の定めがない場合、相手方が解除権を有する者に対して、相当の期間を定めて、その期間内に解除するかどうかを確答するように催告をなし、その期間内に解除権者から解除の通知を受けなかった場合は、解除権は消滅する!!!
+(催告による解除権の消滅)
第547条
解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅する。

・特定物を目的物とする売買契約が締結され、買主に目的物が引き渡された後、買主が過失により目的物を紛失してしまった場合、その目的物に隠れた瑕疵があったとしても、買主は当該契約を解除することはできない!!!
+(解除権者の行為等による解除権の消滅)
第548条
1項 解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。
2項 契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し、又は損傷したときは、解除権は、消滅しない。

・解除権が発生した後、それを行使するまでの間に、債務者が本来の給付と遅延損害金を合わせて提供したときは、解除権は消滅する!!!!
=売主が買主に対して催告をして相当の期間が経過したとしても、売主が売買契約の解除の意思表示をする前に、買主が代金と遅延損害金を提供した場合には、売主は契約の解除をすることができない!!!

・合意解除前の第三者についても、545条1項ただし書きの類推適用により保護されうる!!!!
法定解除の場合と同様に、第三者は登記がなければ所有権を主張することができない!!!
+判例(S33.6.14)
上告代理人弁護士森良作、同石川泰三、同飯沢進、同山田尚の上告理由第一点及び第三点について。
原判決はその挙示の証拠によつて、昭和二〇年一〇月九日上告人Aは自己の所有に属し且つ自己名義に所有権取得登記の経由されてある本件土地を上告人Bに売り渡し、上告人Bは同二一年四月一〇日被上告人にこれを転売し、それぞれ所有権を移転したが、上告人両名間の右売買契約は昭和二二年一二月二〇日両者の合意を以て解除されたものと認定し、次いで、右契約解除は合意に基くものであつても民法五四五条一項但書の法意によつて第三者の権利を害することを得ないから、既に取得している被上告人の所有権はこれを害するを得ないとの趣意の下に、被上告人が上告人Bに代位して上告人Aに対し上告人B名義に本件土地の前示売買に因る所有権移転登記手続を求める請求及び右請求が是認されることを前提とした被上告人の上告人Bに対する前示売買に基く所有権移転登記手続請求をそれぞれ容認したものであることは、判文上明らかである。
思うに、いわゆる遡及効を有する契約の解除が第三者の権利を害することを得ないものであることは民法五四五条一項但書の明定するところである。合意解約は右にいう契約の解除ではないが、それが契約の時に遡つて効力を有する趣旨であるときは右契約解除の場合と別異に考うべき何らの理由もないから、右合意解約についても第三者の権利を害することを得ないものと解するを相当とする。しかしながら、右いずれの場合においてもその第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由していないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきである。
けだし右第三者を民法一七七条にいわゆる第三者の範囲から除外しこれを特に別異に遇すべき何らの理由もないからである。してみれば、被上告人の主張自体本件不動産の所有権の取得について登記を経ていない被上告人は原判示の合意解約について右にいわゆる権利を害されない第三者として待遇するを得ないものといわざるを得ない(右合意解約の結果上告人Bは本件物件の所有権を被上告人に移転しながら、他方上告人Aにこれを二重に譲渡しその登記を経由したると同様の関係を生ずべきが故に、上告人Aは被上告人に対し右所有権を被上告人に対抗し得へきは当然であり、従つて原判示の如く被上告人は上告人Aに対し自己の登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有しないものとは論ずるを得ないものである)。のみならず、原判決は上告人Bが上告人Aに対して有する前示両者間の売買契約に基く所有権移転登記請求権を被上告人において代位行使する請求を是認しているのであるから、上告人Aが被上告人に対し右売買契約は上告人Bとの間の合意解約によつてすでに消滅していることを主張し得べきは当然の筋合であると云わなければならない。けだし上告人Aとしては上告人Bから前示移転登記手続方を直接に請求された場合当然に主張し得べき前示合意解約の抗弁を被上告人が上告人Bに代位して移転登記手続を請求してきた場合これを奪わるべき理由がないからである。但し、右合意解約が当事者間の通謀による虚偽の意思表示であるとか、或は被上告人が原審以来主張している事情の立証されたときは格別である。
以上のとおりであるから、本上告論旨は結局理由あるに帰し、従つて本件上告はその理由あり、原判決は到底破棄を免れないものと認める。