民法 基本事例で考える民法演習20 危険負担と損害賠償~他人物売買の場合(その2)


1.小問2(1)について(基礎編)
(1)損害賠償責任の根拠と賠償の範囲

+(他人の権利の売買における売主の担保責任)
第五百六十一条  前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない

・無過失責任
・賠償の範囲は信頼利益

・債務不履行責任(415条)の成立について
この場合は履行利益までいける。

+判例(S41.10.8)
理由
上告代理人白上孝千代の上告理由について。
原判決の確定したところによると、上告人と被上告人との本件売買契約は、第三者たる訴外山邑酒造株式会社の所有に属する本件土地を目的とするものであつたところ、原審認定の事情によつて売主たる被上告人が右所有権を取得してこれを買主たる上告人に移転することができなくなつたため履行不能に終つたというのである。
そして、本件売買契約の当時すでに買主たる上告人が右所有権の売主に属しないことを知つていたから、上告人が民法五六一条に基づいて本件売買契約を解除しても、同条但書の適用上、売主の担保責任としての損害賠償請求を被上告人にすることはできないとした原審の判断は正当である。
しかし、他人の権利を売買の目的とした場合において、売主がその権利を取得してこれを買主に移転する義務の履行不能を生じたときにあつて、その履行不能が売主の責に帰すべき自由によるものであれば、買主は、売主の担保責任に関する民法五六一条の規定にかかわらず、なお債務不履行一般の規定(民法五四三条、四一五条)に従つて、契約を解除し損害賠償の請求をすることができるものと解するのを相当とするところ、上告人の本訴請求は、前示履行不能が売主たる被上告人の責に帰すべき自由によるものであるとして、同人に対し債務不履行による損害賠償の請求をもしていることがその主張上明らかである。しかして、原審認定判示の事実関係によれば、前示履行不能は被上告人の故意または過失によつて生じたものと認める余地が十分にあつても、未だもつて取引の通念上不可抗力によるものとは解し難いから、右履行不能が被上告人の責に帰すべき自由によるものとはみられないとした原判決には、審理不尽、理由不備の違法があるといわねばならない。
従つて、この点を指摘する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく原判決は破棄を免れず、本件を原審に差し戻すのを相当とする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)

(2)具体的な賠償額
・担保責任にも416条は及ぶのか?
+(損害賠償の範囲)
第四百十六条  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
416条を契約にかかわるトラブルを合理的に解決するための規定と考える。→及ぶ。
・不法行為の場合
+判例(大正15.5.22)
416条を類推適用
2.小問2(1)について(応用編)
3.小問2(2)について
416条の問題。
・目的物が減失した事案の場合、①減失時の価格を基準としたうえ、②その後の価格の上昇は「特別の事情」として処理。
→価格上昇についての予見可能性が必要
+判例(S37.11.16)
理由 
 上告代理人守屋勝男、同名波倉四郎の上告理由第一点について。 
 控訴審において訴の変更を許すことは違法でなく、かつ憲法に違反しないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二七年(オ)第九七二号第一〇四一号同二八年九月一一日第二小法廷判決、集七巻九号九一八頁参照)。論旨は採用できない。 
 同第二点について。 
 本件は、土地を買戻したことを理由とする所有権移転登記請求訴訟の係属中、控訴人(上告人)が当該土地を他に売却しその所有権移転登記を経由したことを理由に請求を損害賠償請求に変更したものであつて、その請求の基礎に変更がなく、かつ本件訴訟の経過に照し著しく訴訟手続を遅滞させるともいえないから、原審が右訴の変更を許容したことは適法である。論旨は採用できない。 
 同第三点について。 
 所論の点に関する原判決引用の第一審判決の判断は、その所掲の証拠に照し肯認できるから、所論は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰する。論旨は採用できない。 
 同第四点について。 
 債務の目的物を債務者が不法に処分し債務が履行不能となつたとき債権者の請求しうる損害賠償の額は、原則としてその処分当時の目的物の時価であるが、目的物の価格が騰貴しつつあるという特別の事情があり、かつ債務者が、債務を履行不能とした際その特別の事情を知つていたかまたは知りえた場合は、債権者は、その騰貴した現在の時価による損害賠償を請求しうる。けだし、債権者は、債務者の債務不履行がなかつたならば、その騰貴した価格のある目的物を現に保有し得たはずであるから、債務者は、その債務不履行によつて債権者につき生じた右価格による損害を賠償すべき義務あるものと解すべきであるからであるただし、債権者が右債格まで騰貴しない前に右目的物を他に処分したであろうと予想された場合はこの限りでなく、また、目的物の価格が一旦騰貴しさらに下落した場合に、その騰貴した価格により損害賠償を求めるためにはその騰貴した時に転売その他の方法により騰貴価格による利益を確実に取得したのであろうと予想されたことが必要であると解するとしても、目的物の価格が現在なお騰貴している場合においてもなお、恰も現在において債権者がこれを他に処分するであろうと予想されたことは必ずしも必要でないと解すべきである。原判決は、本件土地の時価が控訴人(上告人)の処分当時より現在(原審口頭弁論終結時)まで判示のように騰貴を続け、控訴人が右処分時において本件土地の時価が、このように騰貴することを知つていたか、少くともこれを予見しえたものと認定し、控訴人に対し現在の時価の範囲内で控訴人の本件土地の判示処分により被控訴人(被上告人)の受けた損害の賠償責任を認めたものであるから、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は本件に適切でない。論旨は採用できない。 
 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 裁判官藤田八郎は、退官につき評議に関与しない。 
 (裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助) 
+判例(S47.4.20)
理由 
 上告代理人藤井瀧夫の上告理由第一点について。 
 原審は、訴外Aおよび同Bは、いずれも、弁護士である訴外Cから、被上告人丸文株式会社と上告人との間に一たん成立した本件土地および建物の売買契約がすでに有効に解除され、上告人はもはやその所有者ではない旨の説明を受けたため、これを信用して、右土地および建物を買い受けたものであると認定しているのであり、そして、原審の右認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないわけではない。したがつて、訴外Aおよび同Bが、いずれも、上告人が本件土地および建物の所有者であることを認識しながら、これを買い受けたものであることを前提として、右AおよびBによる右土地および建物の各買受けは公序良俗に違反するものであつて無効であり、また、同人らは上告人の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有しない背信的悪意者であるという上告人の主張は、結局、理由がない。また、訴外Cは、被上告人丸文株式会社と訴外Aとの間の本件土地および建物の売買契約については、契約締結のあつせんをしたものにすぎず、その実質上の買主となつたものではないとする原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないわけではないから、右Cがその実質上の買主であることを前提として、右売買契約は弁護士法二八条に違反するという上告人の主張も、理由がない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を非難するか、または、原審の認定にそわない事実関係を前提として原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。 
 同第二点について。 
 論旨は、要するに、原審が、被上告人丸文株式会社と上告人との間に成立した本件土地および建物の売買契約にもとづく右被上告人の所有権移転義務の履行不能による損害賠償額を、原審の口頭弁論終結時における右土地および建物の価値を基準として算定せず、履行不能時におけるその価格を基準として算定した点に、債務の履行不能による損害賠償額の算定の基準時に関する法令の解釈適用を誤つた違法、ないしは、審理不尽、理由不備の違法があるというにある。 
 そこで、考えるに、およそ、債務者が債務の目的物を不法に処分したために債務が履行不能となつた後、その目的物の価格が騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、債務者が、債務を履行不能とした際、右のような特別の事情の存在を知つていたかまたはこれを知りえた場合には、債権者は、債務者に対し、その目的物の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求しうるものであることは、すでに当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和三六年(オ)第一三五号同三七年一一月一六日第二小法廷判決・民集一六巻一一号二二八〇頁参照。)。そして、この理は、本件のごとく、買主がその目的物を他に転売して利益を得るためではなくこれを自己の使用に供する目的でなした不動産の売買契約において、売主がその不動産を不法に処分したために売主の買主に対する不動産の所有権移転義務が履行不能となつた場合であつても、妥当するものと解すべきである。けだし、このような場合であつても、右不動産の買主は、右のような債務不履行がなければ、騰貴した価格のあるその不動産を現に保有しえたはずであるから、右履行不能の結果右買主の受ける損害額は、その不動産の騰貴した現在の同格を基準として算定するのが相当であるからである。 
 ところで、上告人は、原審において、上告人が被上告人丸文株式会社から買い受けた本件士地および建物の価格は、右被上告人がその所有権移転義務を履行不能とした後も、騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、右被上告人は、不動産業を営む者であつて、右義務を履行不能とした際、右のような特別の事情の存在することを充分に知つていたかまたはこれを知りえたものというべきであるから、上告人は、右被上告人に対し、右土地および建物の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求することができると主張して、右履行不能後の昭和三八年一二月当時における右土地および建物の価格である金六四七万二〇〇〇円に相当する損害額の賠償を請求していたことは、原判文および本件記録に徴して、明らかである。 
 しかるに、原審は、単に、上告人は本件土地および建物を自己の住居の用に供するために買い受けたものであつてこれを他に転売する目的で買い受けたものではなかつたことが明白であるし、本件の所有権移転義務の履行不能はその履行期以後に生じたものであるから、右履行不能の結果上告人の受ける損害額は右士地および建物の履行不能時の価格を基準として算定するのが相当であるという第一審判決の判示をそのまま引用するだけで、右土地および建物の価格の騰貴について上告人の主張するような特別の事情が存在するか否か、また、そのような特別の事情が存在する場合には、被上告人丸文株式会社が、右土地および建物の所有権移転義務を履行不能とした際、その特別の事情の存在を知つていたか否か、または、これを知りえたか否かについては、何らの判断も示すことなく、上告人の右主張を排斥しているのである。 
 しかし、これでは、原審は、上告人の右主張を排斥するにあたり、債務の履行不能による損害賠償額の算定の基準時に関する法令の解釈適用を誤り、ひいては、上告人の被上告人丸文株式会社に対する右損害賠償請求に関する判断につき審理不尽、理由不備の違法をおかしたものといわざるをえないから、原判決の右違法を指摘する本論旨は、理由があるというべきである。 
 したがつて、原判決中上告人敗訴部分のうち上告人の被上告人丸文株式会社に対する右損害賠償請求、すなわちその予備的請求に関する部分は、上告理由第三点について判断するまでもなく、破棄を免れない。附帯上告人丸文株式会社の附帯上告について。 
 附帯上告は、それが上告理由と別個の理由にもとづくものであるときは、民訴規則五〇条の定める当該上告についての上告理由書提出期間内に附帯上告状を裁判所に提出してすることを要するものであり(当裁判所昭和三七年(オ)第九六三号同三八年七月三〇日第三小法廷判決・民集一七巻六号八一九頁参照。)、そして、本件附帯上告状記載の附帯上告理由が本件上告理由書記載の上告理由と別個の理由にもとづくものであることは、右両者を対比して、明らかであるところ、本件記録によれば、本件上告についての上告受理通知書が上告人の代理人藤井瀧夫に送達されたのは昭和四四年一月一三日であり、また、本件附帯上告状が当裁判所に提出されたのは昭和四六年一一月五日であることが認められるから、本件附帯上告状は本件上告についての上告理由書提出期間の経過後に提出されたものであることが明らかである。したがつて、本件附帯上告は、不適法であつて却下を免れない。 
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、三九九条ノ三、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 岸盛一 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三) 
・予見可能性の基準時は、債務の履行期!
←履行期に不履行による損害を予見できた以上、債務者はその責任を負うべきであるから。
・予見可能性の主体について
債務者にとって予見可能であれば十分
←416条は債務者の保護を目的とする規定だから