民法 基本事例で考える民法演習2 受領遅滞と解除~損害賠償の範囲と危険負担(その2)


1.小問2(1)について

+(解除権者の行為等による解除権の消滅)
第五百四十八条  解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。
2  契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し、又は損傷したときは、解除権は、消滅しない。

・請負代金そのものの請求について

+(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2  不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。

+(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

+(請負)
第六百三十二条  請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

・Aが実際に請求できる額
+判例(S52.2.22)
理由
上告代理人莇立明の上告理由について
原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 住宅電気設備機器の設置販売等を業とする被上告人は、昭和四五年五月一二日訴外Aから、上告人所有家屋の冷暖房工事を、代金四三〇万円、工事完成時現金払の約旨で請け負い、上告人は被上告人に対し、Aが被上告人に負担すべき債務につき連帯保証した。
2 右冷暖房工事は、Aが同年五月初旬ころ上告人から請け負つたものであるが、Aは、従来規模の大きい工事を請け負つたときは、みずからこれを施行することなく、更に他と請負契約を締結して工事を完成させ、みずからは仲介料を得ていたところから、本件の場合も、これを被上告人に請け負わせたものである。
3 被上告人は、同年一一月中旬ころ、右冷暖房工事のうちボイラーとチラーの据付工事を残すだけとなつたので、右残余工事に必要な器材を用意してこれを完成させようとしたところ、上告人が、ボイラーとチラーを据え付けることになつていた地下室の水漏れに対する防水工事を行う必要上、その完了後に右据付工事をするよう被上告人に要請し、その後、被上告人及びAの再三にわたる請求にもかかわらず、上告人は右防水工事を行わずボイラーとチラーの据付工事を拒んでいるため、被上告人において本件冷暖房工事を完成させることができず、もはや工事の完成は不能と目される
以上の事実関係のもとにおいては、被上告人の行うべき残余工事は、おそくとも被上告人が本訴を提起した昭和四七年一月一九日の時点では、社会取引通念上、履行不能に帰していたとする原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
そして、Aと被上告人との間の本件契約関係のもとにおいては、前記防水工事は、本来、Aがみずからこれを行うべきものであるところ、同人が上告人にこれを行わせることが容認されていたにすぎないものというべく、したがつて、上告人の不履行によつて被上告人の残余工事が履行不能となつた以上、右履行不能はAの責に帰すべき事由によるものとして、同人がその責に任ずべきものと解するのが、相当である。
ところで、請負契約において、仕事が完成しない間に、注文者の責めに帰すべき事由によりその完成が不能となつた場合には、請負人は、自己の残債務を免れるが、民法五三六条二項によつて、注文者に請負代金全額を請求することができ、ただ、自己の債務を免れたことによる利益を注文者に償還すべき義務を負うにすぎないものというべきである。これを本件についてみると、本件冷暖房設備工事は、工事未完成の間に、注文者であるAの責に帰すべき事由により被上告人においてこれを完成させることが不能となつたというべきことは既述のとおりであり、しかも、被上告人が債務を免れたことによる利益の償還につきなんらの主張立証がないのであるから、被上告人はAに対して請負代金全額を請求しうるものであり、上告人はAの右債務につき連帯保証責任を免れないものというべきである。したがつて、原判決が被上告人はAに対し工事の出来高に応じた代金を請求しうるにすぎないとしたのは、民法五三六条二項の解釈を誤つた違法があるものといわなければならないところ、被上告人は、本訴請求のうち右工事の出来高をこえる自己の敗訴部分につき不服申立をしていないから、結局、右の違法は判決に影響を及ぼさないものというべきである。論旨は、いずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 髙辻正己 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 服部髙顯 裁判官 環昌一)

2.小問2(2)(基礎編)
・仕事の完成がまだ可能である以上、Aは履行義務を負い、履行不能を前提とする危険負担は登場しない。

3.小問2について(応用編)
「履行不能」=債務者にそれ以上の行為を求めることは妥当ではないと判断される場合のこと。