民法 基本事例で考える民法演習 表見代理と脅迫~占有者の保護


1.小問1について(基礎編)

+(無権代理)
第百十三条  代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2  追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

+(代理権授与の表示による表見代理)
第百九条  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

・白紙委任状の補充
+判例(S39.5.23)
理由
上告代理人笠島永之助の上告理由について。
原判決引用の第一審判決は、被上告人は昭和三三年四月一七日訴外Aから一二万円を借り受けるに当り、右債務の担保として本件土地、建物に抵当権を設定することとし、その登記手続のため右土地、建物の権利証および被上告人名義の白紙委任状、印鑑証明書をAに交付したが、Aは自己のための抵当権設定登記手続をすることなく、訴外Bを介して金融を得る目的でこれらの書類をCに交付したところ、Cはこれらの書類を用い、被上告人の代理人であると偽り、上告人と債権極度額一〇〇万円とする本件根抵当権設定契約および停止条件付代物弁済契約を締結したこと、AやCがこのようにこれらの書類を使用することについては上告人が承諾を与えたことがないとの事実を確定したものである。
論旨は、以上の場合において、被上告人は民法一〇九条にいわゆる「第三者ニ対シテ他人ニ代理権ヲ与ヘタル旨ヲ表示シタル者」に当るという。しかしながら不動産所者者がその所有不動産の所有権移転、抵当権設定等の登記手続に必要な権利証、白紙委任状、印鑑証明書を特定人に交付した場合においても、右の者が右書類を利用し、自ら不動産所有者の代理人として任意の第三者とその不動産処分に関する契約を締結したときと異り、本件の場合のように、右登記書類の交付を受けた者がさらにこれを第三者に交付し、その第三者において右登記書類を利用し、不動産所有者の代理人として他の第三者と不動産処分に関する契約を締結したときに、必ずしも民法一〇九条の所論要件事実が具備するとはいえない。けだし、不動産登記手続に要する前記の書類は、これを交付した者よりさらに第三者に交付され、転輾流通することを常態とするものではないから、不動産所有者は、前記の書類を直接交付を受けた者において濫用した場合や、とくに前記の書類を何人において行使しても差し支えない趣旨で交付した場合は格別、右書類中の委任状の受任者名義が白地であるからといつて当然にその者よりさらに交付を受けた第三者がこれを濫用した場合にまで民法一〇九条に該当するものとして、濫用者による契約の効果を甘受しなければならないものではないからである。本件において原判決が前掲の事実を確定しCの判示行為につき民法一〇九条を適用することができないとしたのは相当であり、原判決に所論の法律解釈を誤つた違法はない。所論引用の判例は本件に適切でない。論旨は採用できない。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

・観念の通知である代理権授与の表示にも、性質の許す限り、意思表示の規定が類推適用されるから、AはBの強迫を理由に、Cに対する代理権授与の表示を取り消すことができる。

+(権限外の行為の表見代理)
第百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

2.小問1について(応用編)

+(即時取得)
第百九十二条  取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

・即時取得は有効な契約に基づき、所有者でない者から動産の引渡しを受けた者を保護する制度であり、意思表示の瑕疵や行為能力の制限あるいは無権代理といった取引行為自体の問題を治癒する制度ではない!

・Zにおける善意無過失の対象は、XY間の事情を知らず、かつ、知らなかったことに過失がなかったことに求められる!!

・留置権の成否について
+(留置権の内容)
第二百九十五条  他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2  前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

+判例(S43.11.21)
理由
上告代理人下山昊、同下山量平の上告理由(1)について。
上告人ら主張の債権はいずれもその物自体を目的とする債権がその態様を変じたものであり、このような債権はその物に関し生じた債権とはいえない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
同(2)について。
原判決が適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人が背信的悪意者にあたらず、被上告人の本件明渡請求が権利の濫用でない旨の原審の判断は是認できる。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
同(3)について。
本件家屋は被上告人が訴外株式会社神戸商会から買つたもので、被上告人の所有であり、上告人Aと被上告人との共有でない旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)
要旨
甲所有の建物を乙が競落した後、甲乙間で買戻し契約が締結されたが、甲が買戻代金の一部を支払つたままでいたところ、その建物を乙が丙に売却し、丙が移転登記をしてしまつたという場合に、甲は、乙に対する買戻契約の履行不能を理由とする損害賠償債権、既払代金の不当利得返還請求権に基づく留置権を主張しても、いずれの債権も家屋に関して生じた債権とはいえないから、留置権は認められない

+判例(S51.6.17)
理由
上告代理人西本剛、同大蔵永康の上告理由第一点について
上告人Aが本件各土地の自主占有を開始した時期は、同上告人が国から本件各土地の売渡を受けその売渡通知書が交付された昭和二六年七月一日であるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同第二点について
他人の物の売買における買主は、その所有権を移転すべき売主の債務の履行不能による損害賠償債権をもつて、所有者の目的物返還請求に対し、留置権を主張することは許されないものと解するのが相当である。蓋し、他人の物の売主は、その所有権移転債務が履行不能となつても、目的物の返還を買主に請求しうる関係になく、したがつて、買主が目的物の返還を拒絶することによつて損害賠償債務の履行を間接に強制するという関係は生じないため、右損害賠償債権について目的物の留置権を成立させるために必要な物と債権との牽連関係が当事者間に存在するとはいえないからである。原審の判断は、その結論において正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同第三点について
国が自作農創設特別措置法に基づき、農地として買収したうえ売り渡した土地を、被売渡人から買い受けその引渡を受けた者が、土地の被買収者から右買収・売渡処分の無効を主張され所有権に基づく土地返還訴訟を提起されたのち、右土地につき有益費を支出したとしても、その後右買収・売渡処分が買収計画取消判決の確定により当初に遡つて無効とされ、かつ、買主が有益費を支出した当時右買収・売渡処分の無効に帰するかもしれないことを疑わなかつたことに過失がある場合には、買主は、民法二九五条二項の類推適用により、右有益費償還請求権に基づき土地の留置権を主張することはできないと解するのが相当である。
原審の適法に確定したところによれば、(一)本件土地は、被上告人の所有地であつたが、昭和二三年四月二八日、大阪市城東区農地委員会は、右土地が自作農創設特別措置法三条一項一号に該当する農地であるとして買収時期を同年七月二日とする買収計画を樹立し、公告、縦覧の手続を経たうえ、国がこれを被上告人から買収し、同農地委員会の樹立した売渡計画に従つて、昭和二六年七月一日上告人Aに対し、本件土地を売り渡したこと、(二)右買収計画は、本件土地が自作農創設特別措置法五条五号に該当する買収除外地であるにもかかわらず、これを看過した点において違法なものであつたので、被上告人は、昭和二三年七月右買収計画取消訴訟を提起し、被上告人の請求は、一審で棄却されたが、二審で認容され、その買収計画取消判決は、昭和四〇年一一月五日上告棄却判決により確定したこと、(三)上告人Bは、昭和三四年一一月一九日上告人Aから本件土地を買い受けてその引渡をも受けたが、昭和三五年一〇月被上告人から買収及び売渡は無効であるとして所有権に基づく本件土地明渡請求訴訟を提起され、その訴状は同月二五日上告人Bに送達されたこと、(四)上告人Bは、右明渡訴訟提起後の昭和三六、七年ころ、本件土地の地盛工事に一七万円、下水工事に七万円、水道引込工事に六万円の有益費を支出したこと、がそれぞれ認められるというのである。
土地占有者が所有者から所有権に基づく土地返還請求訴訟を提起され、結局その占有権原を立証できなかつたときは、特段の事情のない限り、土地占有が権原に基づかないこと又は権原に基づかないものに帰することを疑わなかつたことについては過失があると推認するのが相当であるところ、原審の確定した事実関係のもとにおいて、右特段の事情があるとは未だ認められない。したがつて、右事実関係のもとにおいて、上告人Bが、所論の有益費を支出した当時、本件土地の占有が権原に基づかないものに帰することを疑わなかつたことについては、同上告人に過失があるとした原審の認定判断は、正当として是認することができる。そうすると、右のような状況のもとで上告人Bが本件土地につき支出した所論の有益費償還請求権に基づき、本件土地について留置権を主張することが許されないことは、前判示に照らし、明らかであり、これと結論を同じくする原審の判断は正当である。その過程に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)

3.小問2について
(1)DがCを所有者と信じ、かつ、そのように信じた事に過失がなかった場合

(2)DはCを所有者だと信じたが、そのように信じた事に過失があった場合
+(善意の占有者による果実の取得等)
第百八十九条  善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
2  善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。

+(占有者による費用の償還請求)
第百九十六条  占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2  占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

(3)DがCが所有者でないことを知っていた場合
+(悪意の占有者による果実の返還等)
第百九十条  悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
2  前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。

・196条は不当利得の特則とされているから、付合を理由とする償金請求よりも費用償還請求鳥も優先される!!!
+(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)
第二百四十八条  第二百四十二条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第七百三条及び第七百四条の規定に従い、その償金を請求することができる。

・Dの占有は不法行為によって始まったといえるから、期限の許与を問うまでもなく、留置権は認められないことになる!
+(留置権の内容)
第二百九十五条  他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2  前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。