民法 基本で考える民法演習2 27 買戻しと物上代位~抵当権の帰趨と追及効


1.小問1について

+(買戻しの特約)
第五百七十九条  不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。

・買戻しが解除であることについて
+判例(S35.4.26)
理由
上告代理人真田重二の上告理由第一、二点及び同海野普吉、坂上寿夫、内田博の上告理由について。
不動産の買戻権は、わが民法上一種の契約解除権の性質を有するものと解すべきである。ただ、民法は、右不動産買戻権の行使により目的不動産の所有権を取得できる結果に着眼し、これが登記の途を開いて或る程度物権に準ずる取扱をしているので(同法五八一条一項参照)、買戻の特約につき登記がなされた場合には、買戻権の譲渡もまた物権の譲渡と同様に譲渡当事者間の意思表示のみによつて有効にこれをなし得べく、右当事者以外の第三者に譲渡を以て対抗するには譲渡による移転登記を要し且つこれを以て足りると解するのが相当とされるにすぎない。(大審院昭和八年(オ)一二二五号同年九月一二日言渡判決、大審院民事判例集二一五一頁参照。)
それ故、買戻の特約を登記しなかつた場合における不動産買戻権の譲渡は、契約解除権たる本質にかんがみ、売主の地位と共にのみこれをなし得べく、右譲渡を以て買主に対抗するには、民法一二九条四六七条に従い買主に対する通知又はその承諾を要し且つこれを以て足りるものと解すべきである。
然るに、原審が、売主たる訴外Aにおいて本件不動産に対する原判示抵当権設定登記を抹消したときに売買残代金八万五五〇〇円の支払を受くべき旨合意の成立した事実を認定しながら、右抹消をすることが売主の債務として残存するや否やを審究することなくしてたやすく同訴外人から上告人に対する本件買戻権の譲渡を有効と認め、また、右譲渡を以て買主たる被上告人に対抗するにはその旨移転登記を経ることを要する旨判示したのは、いずれも法令の解釈適用を誤つた違法があり、他の上告論旨につき判断するまでもなく、原判決は全部破棄を免れない。
よつて、民訴四〇七条一項に従い、全裁判官一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

+(解除の効果)
第五百四十五条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

+(買戻しの特約の対抗力)
第五百八十一条  売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対しても、その効力を生ずる。
2  登記をした賃借人の権利は、その残存期間中一年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。

・解除の遡及効
+判例(S34.9.22)
理由
上告代理人森信一の上告理由は末尾記載のとおりである。原審が、本件催告に示された残代金額は金三七五〇〇〇円であり、真の残代金債務金三二五〇〇〇円を超過すること五〇〇〇〇円なる旨認定していることは所論のとおりである。しかし、この一事によつて、被上告人は催告金額に満たない提供があつてもこれを受領する意思がないものとは推定し難く、その他かかる意思がないと推認するに足りる事情は原審の認定しないところであるから、本件催告は、たとえ前記の如く真の債務額を多少超過していても、契約解除の前提たる催告としての効力を失わないものと解すべきである。
次に、原判決の確定するところによると、被上告人は、本件売買契約から約二週間後に支払を受ける約であつた本件残代金につき、履行期到来後再三上告人に支払を求めたが応じないので、遂に履行期から四ケ月余をを経て改めて本件催告に及んだというのである。このような事実関係のもとでは、たとえ三十万円をこえる金員の支払につき定めた催告期間が三日にすぎなくても、必ずしも不相当とはいい難い
更に、特定物の売買により買主に移転した所有権は、解除によつて当然遡及的に売に復帰すると解すべきであるから、その間買主が所有者としてその物を使用収益した利益は、これを売主に償還すべきものであること疑いない(大審院昭一)一・五・一一言渡判決、民集一五卷一〇号八〇八頁参照)。そして、右償還の義務の法律的性質は、いわゆる原状回復義務に基く一種の不当利得返還義務にほかならないのであつて、不法占有に基く損害賠償義務と解すべきではない。ところで、被上告人の本訴における事実上及法律上の陳述中には、不法占拠若しくは損害金というような語が用いられているけれども、その求めるところは前記使用収益による利益の償還にほかならない部分のあることが明らかであるから、その部分の訴旨を一種の不当利得返還請求と解することは何ら違法ではない。けだし、被上告人は、不当利得返還請求権と損害賠償請求権の競合して成立すべき場合に後者を主張したわけではなく、本来不当利得返還請求権のみが成立すべき場合に、該権利を主張しながら、その法律的評価ないし表現を誤つたにすぎないからである
されば、以上の諸点に関する原審の判断はすべて正当なるに帰し、これらの点に関する所論はすべて理由がない。その他の論旨は、原審の適法な事実認定を争うのでなければ、原判示にそわない事実又は原審において主張立証しなかつた事実を前提として原判決を非難し、或は、独自の見解に立脚して原審の正当な判断を攻撃するものであつて、採用のかぎりでない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島保 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

・買戻しと物上代位
+判例(H11.11.30)
理由 
 上告代理人大江洋一の上告受理申立て理由について 
 本件は、土地の買戻特約付売買において買戻権が行使されたことにより買主が取得した買戻代金債権について、買主から右土地につき根抵当権の設定を受け、その旨の登記を経由した被上告人が物上代位権の行使としてした差押えと買主の債権者である上告人が右登記の後にした差押えとが競合し、供託された買戻代金の配当手続において、被上告人による差押えが優先するとして配当表が作成されたため、上告人が、被上告人に対し、買戻しにより右根抵当権が消滅したことを理由に買戻代金債権に対する物上代位権の行使は許されないと主張して、右配当表の変更を求めている事案であり、右物上代位権の行使の可否が争点となっている。 
 【要旨】買戻特約付売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は、抵当権に基づく物上代位権の行使として、買戻権の行使により買主が取得した買戻代金債権を差し押さえることができると解するのが相当であるけだし、買戻特約の登記に後れて目的不動産に設定された抵当権は、買戻しによる目的不動産の所有権の買戻権者への復帰に伴って消滅するが、抵当権設定者である買主やその債権者等との関係においては、買戻権行使時まで抵当権が有効に存在していたことによって生じた法的効果までが買戻しによって覆滅されることはないと解すべきでありまた、買戻代金は、実質的には買戻権の行使による目的不動産の所有権の復帰についての対価と見ることができ、目的不動産の価値変形物として、民法三七二条により準用される三〇四条にいう目的物の売却又は滅失によって債務者が受けるべき金銭に当たるといって差し支えないからである。 
 以上と同旨に帰する原審の判断は是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。 
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 元原利文 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道) 
++解説
《解  説》
 一 本件は、買戻特約付売買の目的不動産に設定された抵当権に基づいて、買戻権の行使により買主が取得した買戻代金債権につき物上代位権を行使することができるかが問題となった事案である。
 二 本件の事実関係及び訴訟経過の概要は、次のとおりである。
 1 Aは、昭和六二年六月、Bに対し、A所有の本件土地を代金六億三三六〇万円、期間を五年とする買戻特約付きで売り渡し、その旨の所有権移転登記及び買戻特約登記を経由した。
 2 Yは、平成元年七月、Bから本件土地につき本件根抵当権(極度額一八億円)の設定を受けて、その旨の登記を経由した。
 3 Aは、平成四年三月、Bに対し買戻権を行使した。
 4 Xは、平成六年一二月、Bに対する保証債務履行請求権に基づいて、BのAに対する本件買戻代金債権につき仮差押えをした後、Bに対して右保証債務の履行を求める訴訟を提起して勝訴し、平成八年三月、右債務名義に基づいて、本件買戻代金債権を差し押さえた。
 5 Yは、平成八年四月、本件根抵当権に基づく物上代位権の行使として、本件買戻代金債権を差し押さえた。
 6 本件買戻代金債権について、X、Y及び他の債権者らによる差押えが競合したため、Aは、平成八年九月、買戻代金六億三三六〇万円を供託した。
 7 執行裁判所(神戸地裁尼崎支部)は、平成八年一一月に開かれた右買戻代金の配当期日において、Yによる本件根抵当権に基づく物上代位権に基づく差押えが、一般債権者であるXによる差押えに優先するとして、配当表を作成したが、Xは、右配当期日においてYに対する配当の額につき異議の申出をし、本件配当異議訴訟を提起した。
 8 Xは、本件配当異議訴訟において、Aの買戻権の行使によって本件売買契約が遡及的に消滅し、これに伴って本件根抵当権も消滅したから、本件根抵当権に基づく物上代位権の行使としてされたYによる本件買戻代金債権の差押えは無効であると主張しており、第一審は、Xの右主張を容れて、本件配当表を変更すべきものとしたが、原審は、買戻権の行使による目的不動産上の担保物権の消滅は買戻権者との関係で相対的に生ずるとして、第一審判決を取り消してXの本訴請求を棄却したため、Xから上告及び上告受理申立てがされたところ、最高裁は、上告受理申立てを容れて、上告審として事件を受理した上、買戻特約付売買の目的不動産に設定された抵当権に基づく買戻代金債権に対する物上代位権行使を認めた原審の判断を維持して、Xの上告を棄却した。
 三 買戻特約とは、不動産について売買契約を締結する際に、売主が一定期間内に売買代金と契約費用を返還すれば、目的物を取り戻すことができる旨を約することであり、解除権の留保として構成されているが(民法五七九条)、買戻特約が売買契約と同時に登記(買主に対する所有権移転登記の付記登記の形式による)されたときは、買戻しは第三者に対してもその効力を生ずるものとされている(民法五八一条)買戻権の法的性質については、民法五七九条の文言に忠実にこれを解除権であるとするのが判例(大判昭8・9・12民集一二巻二一五一頁、最三小判昭35・4・26民集一四巻六号一〇七一頁)及び通説(我妻榮・債権各論中巻Ⅰ三二五頁、柚木=高木・新版注釈民法(14)四四五頁)の立場である。そして、解除の法的構成ないし効果につき通説判例の採る直接効果説の立場に従えば、留保解除権たる買戻権の行使によって契約ないし契約自体から生じた法律効果は遡及的に消滅するから、目的不動産の所有権は当然に売主(買戻権者)に復帰し、買戻特約が登記された場合には買戻しは第三者に対してもその効力を生ずるから、買主が目的不動産上に設定した担保権や用益権も消滅することになり(民法五八一条二項はその例外)、買戻権者は、売買契約が解除されて所有権が買主に移転しなかったのと同一の効果(遡及的効果)において目的不動産の所有権を取得すると一般に説かれている。もっとも、買戻特約付売買契約は、買戻しまでの買主による用益を許容しており(民法五七九条ただし書)、買戻期間中に目的不動産が転売されてその旨の登記が経由された場合には、買戻権者は、最終の転得者に対して買戻権を行使すべきであり(大判明39・7・4民録一二輯一〇六六頁、最三小判昭36・5・30民集一五巻五号一四五九頁)、その結果転得者からの移転登記により所有権の遡及的復帰を得るものとされており(不動産登記法五九条の二第二項)、用益と所有権移転という領域において直接効果説の例外が認められている
 買戻代金債権に対する物上代位の可否をめぐっては、(一) 買戻権の行使により売買契約は遡及的に消滅し、買戻特約の登記後にされた処分はすべて効力を失うのであって、買主により設定された抵当権もまたはじめからなかったことになるところ、抵当権に基づく物上代位は抵当権の存在を前提とするものであるから、買戻権の行使により抵当権が遡及的に消滅する以上、物上代位を生ずる余地はないとする物上代位否定説(新田宗吉「物上代位に関する一考察(四)」明治学院論叢三五〇号六七頁)、(二) 買戻権の行使により売買契約に基づく所有権の移転とそれに続く抵当権設定が遡及的に消滅する以上、抵当権の存在を前提とする物上代位の生ずる余地はないが、抵当権設定を買主による転売と同視して、買戻しによる買戻代金債権につき抵当権者に法律上当然優先弁済受領権が生ずるから、売主は、抵当権の被担保債権の限度において代金を抵当権者に優先的に返還しなければならないとする物上代位否定・優先弁済権肯定説(三宅正男・契約法各論上巻五一七頁、同・判評二六二号二七頁)、(三) 買戻権の行使による売買契約に基づく所有権移転とこれに伴う抵当権の遡及的消滅は、買戻権者に完全な不動産所有権を回復するために認められたものであるところ、買戻特約付売買の目的不動産につき有効に設定された抵当権に基づく買戻代金債権への物上代位の可否は、買主の債権者間の利害調整の問題であり、買戻しの効果とは別個の問題であって、これを肯定することは買戻権者の右利益に何ら抵触するものではなく、かえって買主の債権者間の利害調整として妥当である上、目的不動産の担保利用を容易にするものであるから、これを肯定すべきであるとする物上代位肯定説(佐久間弘道・金法一五五一号一〇頁、斎藤和夫・平一〇リマークス下四二頁、角紀代恵・金法一四九二号六三頁、栗田隆・判評四七〇号四三頁、秦光昭・金法一四九六号五頁)がある。この点について明示的判断を示した最高裁判例は見当たらないが、物上代位否定説に立つ下級審裁判例として、東京高判昭54・8・8本誌三九八号一四四頁、判時九四三号六一頁、仙台高決昭55・4・18判時九六六号五八頁があり、物上代位肯定説に立つものとして、本件の原審のほか、千葉地判昭53・9・22判時九一八号一〇二頁(前掲東京高判の原審)がある。
 四 本判決は、買戻特約付売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は、抵当権に基づく物上代位権の行使として、買戻権の行使により買主が取得した買戻代金債権を差し押さえることができる旨判示して、この問題について物上代位肯定説に立つことを明言した。その理由として、買戻特約の登記に後れて目的不動産に設定された抵当権は、買戻しによる目的不動産の所有権の買戻権者への復帰に伴って消滅するが、抵当権設定者である買主やその債権者等との関係においては、買戻権行使時まで抵当権が有効に存在していたことによって生じた法的効果までが買戻しによって覆滅されることはないと解すべきであり、また、買戻代金は、実質的には買戻権の行使による目的不動産の所有権の復帰についての対価と見ることができ、目的不動産の価値変形物として、民法三七二条により準用される三〇四条にいう目的物の売却又は滅失によって債務者が受けるべき金銭に当たるといって差し支えないからであると判示している。
 五1 買戻権は約定解除権であり、その効果は、損害賠償義務が生じない点を除いて法定解除のそれと基本的に同じであり、民法五八一条一項は、買戻権者に目的不動産につき売買契約がされる前と同一の権利を取得させるために、解除前の第三者に対する解除の遡及効の制限を定めた民法五四五条一項ただし書に対する例外を規定したものであるところ、解除の効果に関する直接効果説を前提とする限り、物上代位否定説の方が理論的一貫性を有するとの指摘もあるが(新田前掲六七頁)、買戻しの遡及効があらゆる関係で無制限に貫徹されなければならないわけではない。民法五八一条は、買戻特約後の物権変動を予定し、買戻権者と第三者との対抗問題として買戻特約の物権的効力を明定しているのであり、また、前記のとおり、買戻特約付売買の目的不動産が買戻期間内に転々譲渡された場合における買戻権の行使の相手方は最終の転得者であるとされ、所有権の復帰は当該転得者からの移転登記によるものとされているところ、買戻権行使の物権的遡及効を徹底させると、買戻しの意思表示の相手方としての転得者の地位(転得者の買戻しの意思表示の受領資格)自体が遡及的に覆滅されてしまうことになりかねず、中間果実の買主への帰属は、買戻しまでの買主による所有者としての用益を許容し、買戻権行使における登記の取扱いも買戻しまでに行われた所有権移転の効力を前提としているのである。逆にいえば、転得者に対する買戻権の行使、買戻権行使による所有権の移転登記を認める通説判例及び不動産登記法の規定は、買戻しによる用益及び所有権移転という主要な領域について買戻権行使の効果としての物権的遡及効に既に例外を設けているということができよう。そうすると、買戻権行使の効果として買主が目的不動産上に設定した用益権や担保権がすべて消滅するとはいっても、その意味は、買戻権者が、買戻特約の登記に後れる抵当権者らに買戻しの効果を対抗することができ、抵当権の付着しない所有権を取得するという法律効果を説明するものであり、かつ、実質的にも右の効果がもたらされれば必要かつ十分なはずであろう。直接効果説自身本来は解除の効果として法文上明定されている原状回復義務を導出するための法律構成であって、そこで説かれる契約の遡及的消滅自体に解除の本質的意義を求めようとすることは問題であるし、買戻権行使の効果としての物権的遡及効にも実質的には既に例外が認められていることなどからすれば、端的に、買主とその債権者や抵当権者等の関係では、買戻しまでは有効に抵当権が存在していたことを前提にして、右の者らの法律関係を考えれば足りるとする説明も、十分妥当性を有するものといえよう(原審のように、買戻しによる目的不動産上の担保権の消滅が買戻権者との関係において相対的に生じると解さなければならない必然性はないであろう。)。
 実質論のレベルでみても、買主が目的不動産に抵当権を設定した時点で、目的不動産の交換価値は抵当権によって把握されているのであるから、目的不動産が代金請求権に変換した場合には、これに抵当権の効力が及ぶとするのが抵当権者の合理的期待であり、他方買主としてもこれを甘受すべきものとされてもやむを得ないところであって、買戻権の行使によって買主が右負担を当然に免れるとするのは疑問であるし、買主の一般債権者等との関係でも、抵当権設定登記が経由されており、抵当権の存在が公示されているのであるから、抵当権者に優先されてもやむを得ないといえよう。このように解する方が、買戻し前の段階では有効に存在し、仮に買戻権が行使されなければそのまま目的不動産の交換価値を把握し続けていたであろう抵当権者と買主の一般債権者の間の利害調整としては妥当であろうし、買戻特約付売買の目的不動産の担保利用を容易にするというメリットもある。
 2 買戻代金債権は、約定解除権たる買戻権の行使による原状回復義務という原因から発生するもので、厳密な意味では、売買代金のように目的不動産の交換価値を直接具体化したものとはいえないかもしれないが、もともと目的不動産の売買代金として売主に交付された金銭につき、契約の解除による取引関係の清算ないし巻き戻しとして買主への返還が命じられるもので、実質的には目的不動産の返還(所有権の復帰)についての対価であって、広い意味での抵当権の目的物の価値変形物といって差し支えない。そうすると、買戻代金については、民法三〇四条にいう「目的物ノ売却ニ因リテ債務者カ受クベキ金銭」に準ずるものと見ることができるであろうし、目的不動産の所有権の移転(復帰)に伴って抵当権が消滅するという事態を抵当権者の側から見れば、目的不動産が法律上の原因で消滅(滅失)したのと同様であるともいえようから、買戻代金については、民法三〇四条にいう「目的物ノ滅失ニ因リテ債務者カ受クベキ金銭」に当たるとすることも可能であろう。
 六 本判決は、買戻特約付売買の売主が買戻権を行使した場合に、買主から目的不動産上に設定を受けた抵当権に基づいて買戻代金債権に対する物上代位権の行使が認められるかどうかという、学説上議論が分かれている問題につき、物上代位肯定説を採ることを明示した初めての最高裁判例であり、実務に与える影響も大きいと思われるので、紹介する。
+(留置権等の規定の準用)
第三百七十二条  第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。
+(物上代位)
第三百四条  先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2  債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
2.小問2について(基礎編)
3.小問2について(応用編)
+(売買の一方の予約)
第五百五十六条  売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。
2  前項の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の一方の予約は、その効力を失う。
・追及効を利用する場合と物上代位で行く場合・・・。
4.小問3