民法 事例で考える民法演習2 30 弁済の提供と特定~危険負担と損害賠償


1.小問1について

+(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2  不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。

+(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

+(種類債権)
第四百一条  債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。
2  前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。

+(弁済の提供の効果)
第四百九十二条  債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。

+(弁済の提供の方法)
第四百九十三条  弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる

・取立債務にあっては、売主が目的物を用意して買主が来るのを待っていればそれが「現実の提供」(493条本文)とされる。

2.小問2について(基礎編)

+(受領遅滞)
第四百十三条  債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。

3.小問2について(応用編)

・代償請求権による処理。
+判例(S41.12.23)
理由
上告代理人宗宮信次、同徳永竹夫、同川合昭三の上告理由第一点について。
一般に履行不能を生ぜしめたと同一の原因によつて、債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合には、公平の観念にもとづき、債権者において債務者に対し、右履行不能により債権者が蒙りたる損害の限度において、その利益の償還を請求する権利を認めるのが相当てあり、民法五三六条二項但書の規定は、この法理のあらわれである(昭和二年二月一五日大審院判決、民集六巻二三六頁参照)。されば、論旨は理由なく、採用することができない。
同第二点について。
論旨は、家屋滅失による保険金は保険契約によつて発生したものであつて、債権の目的物に代る利益ではない、というにあるが、本件保険金が履行不能を生じたと同一の原因によつて発生し、目的物に代るものであることは明らかである。論旨は、独自の見解であつて、排斥を免れない。
同第三点について。
本件新建物の所有権がすでに被上告人に移転してしまつても、上告人には賃貸借終了のさいに該建物を被上告人に返還すべき債務があり、該債務が履行不能になつたというのが原判決の判断であり、また被上告人の本件新建物を上告人に賃貸すべき債務は履行不能により消滅したこというまでもないから、原判決には、所論のごとき審理不尽・理由不備の違法は認められない。論旨は採用するに値しない。
同第四点について。
本件新建物が特定物であることはいうまでもない。右建物と同種の規模・構造の建物を再建築することが可能であるとしても、すでに建築完成していた本件新建物が特定物でないとはいえない。論旨は採用することができない。
同第五点について。
上告人の本件新建物返還(または引渡)義務が、新建物の焼失だよつて消滅し、他面上告人が新建物の焼失によつて保険金を取得した以上、被上告人に、その代償請求は認めらるべきで、あつて、新建物の建築費用の負担者が何人であるか、債務者たる上告人が火災によつて損害をうけたかどうかは代償請求とは関係のないことである。新建物を賃貸する義務を免れたことにより被上告人が利益をえたとすれば、上告人は受けた損害の限度において代償請求をなしうべきであるが、かかる事項は上告人が原審で主張していないところであるから、事後審たる当審で審及しうるかぎりでない。論旨は採用するに値しない。
同第六点について。
所論の点に関する原判決の引用する第一審判決の事実認定は、その挙示する証拠関係に照らして是認しえなくはない。論旨は、事実審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、排律を免玖ない。
同第七点について。
相殺適状時における上告人の被上告人に対する債権合計は、原判決によれば、一、一三三、九三七円であること明らかである(原判決四枚目裏一二行目に、遅延損害金二八三、九三七円とあるは、一二五、〇〇〇円の誤記であること計数上明らかである。)。故に、右債権合計が一、二九二、八七四円であることを前提とする論旨は、採用のかぎりでない。
同第八点について。
被と告人が上告人に対し本件新建物を一年間は無償(建築費と相殺)で貸与する義務があつても、その後は有償で賃貸し、もしくは自己が使用しうるわけであるから、被上告人が右建物焼失によつて原判示のような損害を受けた旨の原判決の事実上の判断は正当であつて、これに所論の違法は認められない。論旨は採用することができない。
同第九、第一〇点について。
原判決は、上告人が建築を完成して占有していた新建物の焼失時において、賃貸借が成立していなかつたならば所有権移転に伴なう新建物の引渡義務、もし賃貸借が成立していたならば賃貸借終了時における上告人の被上告人に対する賃借物返還義務、そのいずれかの債務が履行不能になつたと判示しているものであつて、これに所論の違法は認められない。論旨は採用するに値しない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)