民法 事例で考える民法演習2 29 必要費と留置権~転用物訴権との関連(その2)


1。小問2について
(1)196条と留置権(195条1項)

+(占有者による費用の償還請求)
第百九十六条  占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2  占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる

+(留置権の内容)
第二百九十五条  他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2  前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

・196条は248条が準用する不当利得法の特則とされているから、結局196条が優先される!

(2)CのBに対する請負代金債権と留置権
・295条1項本文の「他人」を債務者に限るかどうか。
通説は債務者の限られない。

(3)まとめ

2.小問3について(基礎編)
(1)Cが本件機械を既にBに返還していた場合

・使用貸借
+(借用物の費用の負担)
第五百九十五条  借主は、借用物の通常の必要費を負担する。
2  第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

使用貸借の場合は法律上の原因は存在。

(2)Cが本件機械をまだ占有している場合

3.小問3について(応用編)

+判例(H7.9.19)
理由
上告代理人桑嶋一、同前田進の上告理由について
一 原審の適法に確定した事実関係及び記録によって明らかな本件訴訟の経緯等は、次のとおりである。
1 上告人は、本件建物の賃借人であったAとの間で、昭和五七年一一月四日、本件建物の改修、改装工事を代金合計五一八〇万円で施工する旨の請負契約を締結し、大部分の工事を下請業者を使用して施工し、同年一二月初旬、右工事を完成してAに引き渡した。
2 被上告人は、本件建物の所有者であるが、Aに対し、昭和五七年二月一日、賃料月額五〇万円、期間三年の約で本件建物を賃貸した。Aは、改修、改装工事を施して本件建物をレストラン、ブティック等の営業施設を有するビルにすることを計画しており、被上告人とAは、本件賃貸借契約において、Aが権利金を支払わないことの代償として、本件建物に対してする修繕、造作の新設・変更等の工事はすべてAの負担とし、Aは本件建物返還時に金銭的請求を一切しないとの特約を結んだ。
3 Aが被上告人の承諾を受けずに本件建物中の店舗を転貸したため、被上告人は、Aに対し、昭和五七年一二月二四日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした上、本件建物の明渡し及び同月二五日から本件建物の明渡し済みまで月額五〇万円の賃料相当損害金の支払を求める訴訟を提起し、昭和五九年五月二八日、勝訴判決を得、右判決はそのころ確定した。
4 Aは、上告人に対し、本件工事代金中二四三〇万円を支払ったが、残代金二七五〇万円を支払っていないところ、昭和五八年三月ころ以来所在不明であり、同人の財産も判明せず、右残代金は回収不能の状態にある。また、上告人は、昭和五七年一二月末ころ、事実上倒産した。
5 そこで、本件工事は上告人にこれに要した財産及び労務の提供に相当する損失を生ぜしめ、他方、被上告人に右に相当する利益を生ぜしめたとして、上告人は、被上告人に対し、昭和五九年三月、不当利得返還請求権に基づき、右残代金相当額と遅延損害金の支払を求めて本件訴訟を提起した。

二 甲が建物賃借人乙との間の請負契約に基づき右建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られるものと解するのが相当である。けだし、丙が乙との間の賃貸借契約において何らかの形で右利益に相応する出捐ないし負担をしたときは、丙の受けた右利益は法律上の原因に基づくものというべきであり、甲が丙に対して右利益につき不当利得としてその返還を請求することができるとするのは、丙に二重の負担を強いる結果となるからである。
前記一の2によれば、本件建物の所有者である被上告人が上告人のした本件工事により受けた利益は、本件建物を営業用建物として賃貸するに際し通常であれば賃借人であるAから得ることができた権利金の支払を免除したという負担に相応するものというべきであって、法律上の原因なくして受けたものということはできず、これは、前記一の3のように本件賃貸借契約がAの債務不履行を理由に解除されたことによっても異なるものではない
そうすると、上告人に損失が発生したことを認めるに足りないとした原審の判断は相当ではないが、上告人の不当利得返還請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大野正男 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

++解説
《解  説》
 一 契約上の給付が契約の相手方以外の第三者の利益になった場合に、右給付をした契約当事者が第三者に対してその利益の返還を請求することがあるが、そのような請求権は一般に「転用物訴権」と呼ばれる。本判決は、極めて限定された場合においてのみ転用物訴権の成立を認めることを明らかにしたものであって、最一小判昭45・7・16民集二四巻七号九〇九頁(ブルドーザー事件判決)以後活発に議論されてきた問題について一応の決着をつけたものであり、影響するところの大きい判例である。本判決の評釈として、加藤雅信「転用物訴権の成立範囲」法教一八四号九八頁がある。
 二 本件事実は、次のようなものである。Yは、本件建物(営業用建物)の所有者であり、Aに対してこれを賃貸したが、その際、Aが権利金を支払わないことの代償として、本件建物の修繕、造作の新設・変更等の工事はすべてAの負担とし、Aは本件建物返還時に金銭的請求を一切しないとの特約を結んだ。Xは、Aとの間で本件建物の改修、改装工事を代金五一八〇万円で施工する旨の請負契約を締結し、大部分の工事を下請業者を使用して施工し、工事を完成してAに引き渡した。Aが本件建物中の店舗を無断転貸したため、Yは、Aに対し、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をして、本件建物の明渡しと質料相当損害金の支払を求める訴訟を提起し、その後Y勝訴の判決が確定した。AがXに対して本件工事代金中の二七五〇万円を支払わないまま所在不明になったため、右残代金は回収不能の状態にある。そこで、Xは、Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、右残代金相当額と遅延損害金の支払を求めて本件訴えを提起した。
 一審は、Xの請求を一部認容する判決をしたが、控訴審は、Xに財産と労務の出捐による損失が発生したというためには、本件工事中下請業者を使用した部分については、Xが現実に下請工事代金を支払ったことを要するところ、Xが下請工事代金を完済したとは認めるに足りず、一部支払ったとしてもその金額を確定することはできず、また、自ら施工した工事部分を確定することもできないから、Xの不当利得返還請求は理由がないとして、一審判決を取り消し、Xの請求を棄却した。
 三 Xの上告に対し、最高裁は、冒頭掲記の判決要旨のとおり判示して、Yの受けた利益に法律上の原因がないものということができるのは、YとAとの賃貸借契約を全体としてみて、Yが対価関係なしに右利益を受けたときに限られることを明らかにした上、YがAのした本件工事により受けた利益は、本件建物を営業用建物として賃貸するに際し通常であればAから得ることができた権利金の支払を免除したことに相応するものであって、法律上の原因なくして受けたものということはできないとして(すなわち、Xに損失の発生が認められないという原判決の理由から、Yの受けた利益に法律上の原因がないとはいえないとの理由に、理由を差し換えて)、本件上告を棄却した。
 四 我が国において転用物訴権を認めた判例と一般に解されているのが前掲最一小判昭45・7・16(ブルドーザー事件判決)である。Xは、Y所有のブルドーザーの賃借人Aの依頼により修理をしてこれを引き渡したが、Aが倒産し修理代金の回収が事実上不能となったため、Y(Aからブルドーザーを引き揚げ他に売却)に対して右代金相当額の不当利得の返還を求めたという事件において、最高裁は、「本件ブルドーザーの修理は、一面において、Xにこれに要した財産およぴ労務の提供に相当する損失を生ぜしめ、他面において、Yに右に相当する利得を生ぜしめたもので、Xの損失とYの利得との間に直接の因果関係ありとすることができる」と判示して、因果関係なしとした控訴審判決の判断を誤りであるとした。さらに、「ただ、右の修理はAの依頼によるものであり、したがって、XはAに対して修理代金債権を取得するから、右修理により受ける利得はいちおうAの財産に由来することとなり、XはYに対し右利得の返還請求権を有しないのを原則とするが、Aの無資力のため、右修理代金の全部又は一部が無価値であるときは、その限度において、Yの受けた利得はXの財産および労務に由来したものということができ、Xは、右修理(損失)によりYの受けた利得を、Aに対する代金債権が無価値である限度において、不当利得として、Yに返還を請求することができるものと解するのが相当である(修理費用をAにおいて負担する旨の特約がAとYとの間に存したとしても、XからYに対する不当利得返還請求の妨げとなるものではない)。」と説示した。
 ブルドーザー事件判決以後、どのような要件の下に転用物訴権の成立を認めるべきであるかなどについて議論がされたが、学説においては、全面的否定説(四宮和夫・事務管理・不当利得・不法行為上巻二四二頁、北川善太郎・債権各論二一四頁など)、又は限定的承認説(加藤雅信・財産法の体系と不当利得法の構造七一三頁、鈴木祿弥・債権法講義〔二訂版〕六八一頁など)が多数説となっている。
 加藤雅信教授は、関係当事者の利益状況を、まず、AがYの利得保有に対応する反対債権を有する場合(Ⅰ)と有しない場合とに分類し、さらに、有しない場合を、Yの利得保有がAY間の関係全体から有償とみることができる場合(Ⅱ)と無償とみるべき場合(Ⅲ)とに分類した。そして、(1) Ⅰの場合に転用物訴権の成立を認めると、Aが無資力の場合にXにAの他の一般債権者に優先する立場を認めることになるが、その合理的根拠に乏しい、(2) Ⅱの場合に転用物訴権の成立を認めると、Yは修理費に関して二重の経済的負担を被ることになり合理的でない、(3) Ⅲの場合には、XとYの利益考量が基本的問題であるが、無償行為については保護の程度が弱くなるのはやむを得ないから、無償で利得を保有するYよりもXを保護すべきであるとされ、結局、Ⅲの場合についてのみ転用物訴権の成立を認めるべきであるとされた。
 五 本判決は、「損失と利得との間の因果関係」についてはブルドーザー事件判決の判断を前提とした上で、「法律上の原因なくして」の要件について限定的承認説(加藤説)を採用したものとみることができる。本判決によれば、法律上の原因の有無はYA間における「対価関係」の有無にかかることになるが、その対価関係は、経済的にみて厳密に等価であることを要するものではないであろう。本判決中の「YがAとの間の賃貸借契約において何らかの形で右利益に相応する出捐ないし負担をしたときは、Yの受けた右利益は法律上の原因に基づくものというべきであ(る)」との判示は、この点をいうものと考えることができる。
 また、本件一審判決は、Aの無断転貸を理由に本件賃貸借契約が解除され、Aの支出した修繕費用に見合う収益を回収するだけの期間賃貸借契約が継続しないで終了したことをもって、Yは無償で本件建物の価値の増加という利益を得たものと判断したが、本判決は、本件賃貸借契約がAの債務不履行を理由に解除されたことによって本件賃貸借契約の成立時に形成された対価関係が覆滅されることはない旨を判示している。
+判例(S45.7.16)
理由 
 上告代理人竹中一太郎の上告理由について。 
 記録によれば、上告人が本訴において請求原因として主張したところは、次のような事実関係であると認められる。上告人は、昭和三八年一二月三日、訴外有限会社立花重機よりブルドーザーの修理の依頼を受け、その主クラツチ、オーバーホールほか合計五一万四〇〇〇円相当の修理をして、同月一〇日これを訴外会社に引き渡したが、右ブルドーザーは被上告人の所有であり、上告人の修理により右代金相当の価値の増大をきたしたものであるから、被上告人は上告人の財産および労務により右相当の利得を受け、上告人は右相当の損失を受けたものである。もつとも、上告人は訴外会社に対し修理代金債権を有したが、同会社は修理後二カ月余にして倒産し、現在無資産であるから、回収の見込みは皆無である。右ブルドーザーは、同年一一月二〇日頃訴外会社において被上告人より賃借したものであるが、昭和三九年二月中旬より下旬にかけて被上告人がこれを訴外会社より引き揚げたうえ、同年五月、代金一七〇万円(金利を含み一九〇万円余)で他に売却したもので、上告人の修理により被上告人の受けた利得は、売却代金の一部としてなお現存している。よつて、上告人は被上告人に対し、五一万四〇〇〇円およびこれに対する遅延損害金の支払を求める、というのである。 
 右請求原因の大要は、一審における訴状陳述以来、上告人の主張するところであつて、前記修理代金債権の回収不能により上告人に損失を生じたとする主張は、本件記録中に発見しえないところである。 
 しかるに、原判決の引用する一審判決事実摘示が、あたかも右回収不能により上告人に損失を生じたとするごとくいうのは、上告人の訴旨の誤解に出たものというべきである(もつとも、その記載は必ずしも明確でなく、原審口頭弁論における上告人の陳述が一審判決事実摘示のとおりなされたとしても、これにより上告人の従前の主張が改められたものとするのは相当でない)。 
 そこで、右のごとき上告人の本訴請求の当否につき按ずるに、原判決引用の一審判決の認定するところによれば、上告人のした修理は本件ブルドーザーの自然損耗に対するもので、被上告人はその所有者として右修理により利得を受けており、また、右修理は訴外会社の依頼によるもので、上告人は同会社に対し五一万四〇〇〇円の修理代金債権を取得したが、同会社は修理後間もなく倒産して、右債権の回収はきわめて困難な状態となつたというのである。 
 これによると、本件ブルドーザーの修理は、一面において、上告人にこれに要した財産および労務の提供に相当する損失を生ぜしめ、他面において、被上告人に右に相当する利得を生ぜしめたもので、上告人の損失と被上告人の利得との間に直接の因果関係ありとすることができるのであつて、本件において、上告人のした給付(修理)を受領した者が被上告人でなく訴外会社であることは、右の損失および利得の間に直接の因果関係を認めることの妨げとなるものではない。ただ、右の修理は訴外会社の依頼によるものであり、したがつて、上告人は訴外会社に対して修理代金債権を取得するから、右修理により被上告人の受ける利得はいちおう訴外会社の財産に由来することとなり、上告人は被上告人に対し右利得の返還請求権を有しないのを原則とする(自然損耗に対する修理の場合を含めて、その代金を訴外会社において負担する旨の特約があるときは、同会社も被上告人に対して不当利得返還請求権を有しない)が、訴外会社の無資力のため、右修理代金債権の全部または一部が無価値であるときは、その限度において、被上告人の受けた利得は上告人の財産および労務に由来したものということができ、上告人は、右修理(損失)により被上告人の受けた利得を、訴外会社に対する代金債権が無価値である限度において、不当利得として、被上告人に返還を請求することができるものと解するのが相当である(修理費用を訴外会社において負担する旨の特約が同会社と被上告人との間に存したとしても、上告人から被上告人に対する不当利得返還請求の妨げとなるものではない)。 
 しかるに原判決は、上告人の右の訴旨を誤解し、また右の法理の適用を誤つたもので、審理不尽、理由不備の違法を免れず、論旨は理由あるに帰し、原判決を破棄すべきであるが、本件において上告人の訴外会社に対する債権が実質的にいかなる限度で価値を有するか、原審の確定しないところであるので、この点につきさらに審理させるため、本件を原審に差し戻すべきものとする。 
 よつて、民訴法四〇七条一項により、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)