民法 事例で考える民法演習2 25 債権の譲受人と「第三者」~金銭騙取による不当利得と第三者のためにする契約


1.小問1について(基礎編)
+(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

+(取消しの効果)
第百二十一条  取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

+(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
第四百六十八条  債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2  譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。

・債権は同一性を保ったまま移転し、瑕疵や抗弁も引き継がれる。

2.小問1について(応用編)
+(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

・通謀虚偽表示の場合、債権を譲り受けた丙は「第三者」(94条2項)にあたる!
・売買契約の解除の場合、債権を譲り受けたZは「第三者」(545条1項ただし書き)に当たらない!!
債権譲渡ではなく転売の場合には「第三者」にあたる。

・不当利得の損失について
+判例(H16.10.26)
理由
上告代理人脇山弘の上告受理申立て理由1,2について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) Aは,第1審判決別紙預金目録記載の各金融機関(以下「本件各金融機関」という。)に対し,同目録記載の各預金債権(原審が訂正した後のもの。以下,これらの預金債権を「本件各預金債権」といい,これらの預金を「本件各預金」という。)を有していた。
(2) Aは,平成3年4月30日,死亡した。上告人及び被上告人は,Aの子であり,本件各預金債権を各2分の1の割合で法定相続した。
(3) 上告人は,第1審判決別紙預金目録記載の各払戻年月日に,本件各金融機関から本件各預金の払戻しを受けたが,その際,本件各預金のうち被上告人の法定相続分である2分の1に当たる金員(以下「被上告人相続分の預金」という。)については,何らの受領権限もないのに,その払戻しを受けたものである。
2 本件は,被上告人が,上告人は被上告人相続分の預金を無権限で払戻しを受けて取得し,これにより被上告人は被上告人相続分の預金相当額の損失を被ったなどと主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,被上告人相続分の預金相当額等の支払を求める事案である。
これに対し,上告人は,本件各金融機関は被上告人相続分の預金の払戻しについて過失があるから,上記払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえず,したがって,被上告人が本件各金融機関に対して被上告人相続分の預金債権を有していることに変わりはないから,被上告人には不当利得返還請求権の成立要件である「損失」が発生していないなどと主張して,被上告人の上記請求を争っている
3 そこで検討すると,(1) 上告人は,本件各金融機関から被上告人相続分の預金について自ら受領権限があるものとして払戻しを受けておきながら,被上告人から提起された本件訴訟において,一転して,本件各金融機関に過失があるとして,自らが受けた上記払戻しが無効であるなどと主張するに至ったものであること,(2) 仮に,上告人が,本件各金融機関がした上記払戻しの民法478条の弁済としての有効性を争って,被上告人の本訴請求の棄却を求めることができるとすると,被上告人は,本件各金融機関が上記払戻しをするに当たり善意無過失であったか否かという,自らが関与していない問題についての判断をした上で訴訟の相手方を選択しなければならないということになるが,何ら非のない被上告人が上告人との関係でこのような訴訟上の負担を受忍しなければならない理由はないことなどの諸点にかんがみると,上告人が上記のような主張をして被上告人の本訴請求を争うことは,信義誠実の原則に反し許されないものというべきである。
4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は事案を異にし本件に適切ではない。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖)

++解説
《解  説》
1 本件は,共同相続人間において,相続人の一人が遺産である預金全額の払戻しを受けたことに関し,不当利得の成否が争われた事案である。
Aは,甲信用金庫及び乙,丙銀行(以下「本件各金融機関」という。)に対し,普通預金等(以下「本件各預金」という。)を有していたところ,平成3年4月30日に死亡した。Aの相続人は,子であるXとYの2名であり,本件各預金債権を各2分の1の割合で法定相続した。Yは,平成3年5月から同年7月にかけて,本件各預金を全額払い戻した。
Xは,Yは本件各預金のうちX相続分の預金を無権限で払戻しを受けて取得し,これによりXはX相続分の預金相当額の損失を被ったなどと主張して,Yに対し,不当利得返還請求権に基づき,X相続分の預金相当額等の支払を求めた。これに対し,Yは,本件各金融機関は,X相続分の預金の払戻しについて過失があるから,上記払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえず,したがって,Xが本件各金融機関に対してX相続分の預金債権を有していることに変わりはないから,Xには不当利得返還請求権の成立要件である「損失」が発生していないなどと主張して,Xの上記請求を争った。
2 1審は,Yの上記主張をおおむね認め,Xの請求の大半を棄却した(乙銀行によるX相続分の預金の払戻しは善意無過失でされたものであり,同預金債権は消滅したとして,Yに対し,同預金に相当する約2000円の支払等のみを命じた。)。これに対し,原審は,Yが,Xからの不当利得返還請求に対し,本件各金融機関の払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえないから,本件各金融機関から弁済を受けるべきであると主張して,自らの責任を免れることは信義則上許されないとして,1審判決を変更し,Xの請求をすべて認容した。
第三小法廷は,Yの上告受理の申立てを受理した上で,原審の判断を正当とし,Yの上告を棄却した。

3 本件はいわゆる三者不当利得(多当事者間の不当利得)の事案であるところ,本件のようなケースにおける不当利得の成否に関する大方の理解は次のとおりであると思われる(我妻榮・債権各論下巻1(民法講義Ⅳ)1036頁以下,四宮和夫・事務管理・不当利得・不法行為上巻(現代法律学全集)199頁以下,松坂佐一・事務管理・不当利得〔新版〕(法律学全集)165頁以下等参照)。すなわち,①債務者Aが債権の準占有者Yに対して善意無過失で弁済をした場合(弁済が有効な場合)には,Yの金員受領という「受益(利得)」と債権者Xの債権喪失という「損失」が発生するから,Xは,Yに対し,受領した金員につき不当利得返還請求をすることができる。これに対し,②債務者Aが債権の準占有者Yに対して悪意あるいは善意有過失で弁済をし(弁済が無効な場合),かつ債権者Xが追認もしないときには,債務者Aが債権の準占有者Yに対して不当利得返還請求をしていくことになる。
このような理解に立つと,債務者Aの債権の準占有者Yに対する弁済が有効とならない場合には,債権者XのAに対する債権は消滅しておらず,Xは,Aに対し,無効な弁済を追認しない限り,依然として債権の弁済を求めることができるから,Xには,不当利得返還請求権の成立要件としての「損失」が発生していないということになりそうである(この場合,三者間で「損失」を被ったのは無権限者であるYに弁済をしたAであり,「受益」があるのはYであるから,AがYに対し,不当利得返還請求をしていくことになろう。)。
そして,不当利得返還請求権の成立要件である「損失」の発生については,原告側でこれを主張,立証すべき責任があることについてはおおむね異論をみないところ,この点に上記理解を形式的にあてはめた場合,原告である債権者Xが,債務者Aの債権の準占有者Yに対する弁済は善意無過失でされたものであり,有効であること,あるいは,弁済が無効であるとしてもXがAに対して追認をしたこと,したがって,XのAに対する債権は消滅し,Xに「損失」が発生したことを主張,立証すべき責任があるととらえる余地が生じてくる。

4 しかし,本件において,①Yは,本件各金融機関からX相続分の預金について自ら受領権限があるものとして払戻しを受けておきながら,Xから提起された本件訴訟において,一転して,自らが受けた上記払戻しが無効であるなどと主張するに至ったものであること,②仮に,Yが,本件各金融機関がした上記払戻しの民法478条の弁済としての有効性を争って,Xの本訴請求の棄却を求めることができるとすると,Xは,本件各金融機関が上記払戻しをするに当たり善意無過失であったか否かという,自らが関与していない問題についての判断をした上で,訴訟の相手方を選択しなければならなくなるが,何ら非のないXがYとの関係でこのような訴訟上の負担を受忍しなければならない理由はないことなどの諸点にかんがみると,信義則上,本件各金融機関のYに対するX相続分の預金の払戻しが民法478条の弁済として有効であり(あるいは無効であるとしてもXがAに対して追認をし),Xの本件各金融機関に対する債権が消滅したことまでXに主張,立証責任を負わせることは相当ではなく,Xとしては,X相続分の預金相当額の「損失」が発生したことを主張すれば足り,Yが,この主張を否認した上,上記のような積極主張をして本訴請求を争うことは許されないものと考えられる。
なお,信義則上の配慮等から「受益」についての主張,立証責任の分配の原則を一部変更したものとして最三小判平10.5.26民集52巻4号985頁,判タ976号138頁(平10最判解説(民)(上)532頁)がある。本件とは,考え方として共通するものが含まれているといえよう。
5 本件は,事例判例にすぎないが,不当利得の成否と信義則が交錯する場面において参考となる説示が含まれていることから紹介する次第である。

・不法行為の「損害」について
+判例(H23.2.18)
理 由
上告代理人鈴木堯博の上告受理申立て理由について
1 本件は,上告人が,自己が保険金受取人である簡易生命保険契約につき,被上告人Y1及び同Y2が上告人に無断で保険金及び契約者配当金(以下「保険金等」という。)の支払請求手続を執り,郵便局員である被上告人Y3が上告人の意思確認を怠り支払手続を進めるなどした結果,被上告人Y1及び同Y2に保険金等が支払われ,保険金等相当額の損害を被ったなどとして,被上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) Aは,平成7年9月29日ころ,国との間で,保険金受取人をA,被保険者を上告人,保険金額を500万円,保険期間の終期を平成17年9月28日とする簡易生命保険(普通養老保険)契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
(2) Aは,平成9年▲月▲日に死亡した。その子であるBは,本件保険契約の保険契約者の地位を承継し,保険金受取人をBに変更した。
(3) 日本郵政公社は,平成15年4月1日,本件保険契約上の国の権利義務を承継した。
(4) Bは,平成17年▲月▲日に死亡した。その夫である被上告人Y1は,本件保険契約の保険契約者の地位を承継したが,保険金受取人を新たに指定することのないまま,保険期間の終期が経過した。
(5) 本件保険契約に基づく保険金等の支払請求権(以下,上記保険金等を「本件保険金等」といい,その支払請求権を「本件保険金等請求権」という。)は,簡易生命保険法55条1項1号により,被保険者である上告人に帰属する。
(6) 郵便局員である被上告人Y3は,平成17年10月3日ころ,被上告人Y1及び同Y2に対し,本件保険金等請求権が上告人に帰属する旨説明をした。
(7) 被上告人Y1及び同Y2は,上告人に無断で,上告人名義の委任状(以下「本件委任状」という。)等を作成した上で,平成17年11月28日,被上告人Y3に対し,本件委任状等を提出して,本件保険金等の支払を請求した。本件委任状には,これに記載された上告人の生年月日が本件保険契約の保険証書の記載と明らかに異なっているという不審な点があったが,被上告人Y3は,本件委任状と上記保険証書とを対照せず,これに気付かなかった。もっとも,上記保険証書の被保険者は「甲野花子」となっていたのに対し,本件委任状は「甲田花子」名義で作成されていたことから,被上告人Y3は,被上告人Y2に対し,その旨指摘した上,「甲田花子」と「甲野花子」とが同一人物であることを証する書類が必要である旨申し向けた。ところが,被上告人Y2は,上告人から委任を受けていることは確かであるから,そのまま手続を進めてほしい旨懇願した。そこで,被上告人Y3は,上告人が自ら本件保険金等の支払請求手続を執ったものとして手続を進めることとし,被上告人Y2に,「甲野花子」名義の支払請求書兼受領証を作成するよう指示してこれを作成させた上,実際には確認をしていないのに,上告人名義の国民健康保険被保険者証により本人確認をしたものとして,虚偽の内容を記載した本人確認記録票等を作成し,支払手続を進めた。
(8) 被上告人Y1及び同Y2は,平成17年12月12日,上告人の代理人と称して,本件保険金等合計501万7644円の支払を受けた。
(9) 上告人は,日本郵政公社に対し,本件保険金等の支払を請求したが,日本郵政公社は,被上告人Y1及び同Y2に対する上記(8)の支払は有効な弁済であるとして,これを拒絶した。
(10) そこで,上告人は,本件訴えを提起した。本件訴訟において,被上告人Y3は,上記(8)の支払が有効な弁済とならない場合には上告人は依然として本件保険金等請求権を有していると主張して,上告人に損害が発生したことを否認し,被上告人Y1及び同Y2も,これを否認している。

3 原審は,被上告人らによる前記の行為は上告人に対する共同不法行為に当たるとしたが,次のとおり判断して,上告人の被上告人らに対する請求を棄却した。
本件保険金等の支払については,担当者である被上告人Y3に過失があり,これが有効な弁済とはならない以上,上告人は,依然として本件保険金等請求権を有しているから,本件保険金等相当額の損害が発生したと認めることはできない。

4 しかしながら,原審の上記判断のうち,上告人に損害が発生したと認めることができないとする部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 前記事実関係によれば,被上告人Y1及び同Y2は,被上告人Y3から本件保険金等請求権が上告人に帰属する旨の説明を受けていながら,上告人に無断で,本件委任状を作成した上,本件保険金等請求権の支払請求手続を執り,被上告人Y3から本件委任状の不備を指摘されると,上告人から委任を受けていることは確かであるとして,支払手続を進めるよう懇願し,被上告人Y3の指示を受けて「甲野花子」名義の支払請求書兼受領証を作成するなどして,本件保険金等の支払を受けたものである。その後,上告人は,日本郵政公社に本件保険金等の支払を請求したものの拒絶され,その損害を回復するために本件訴えの提起を余儀なくされた。他方,被上告人Y1及び同Y2が,依然として本件保険金等請求権は消滅していないことを理由に損害賠償義務を免れることとなれば,上告人は,同被上告人らに対する本件保険金等の支払が有効な弁済であったか否かという,自らが関与していない問題についての判断をした上で,請求の内容及び訴訟の相手方を選択し,攻撃防御を尽くさなければならないということになる本件保険金等請求権が本来上告人に帰属するものであった以上は,被上告人Y1及び同Y2は上告人との関係で本件保険金等を保有する理由がないことは明らかであるのに,何ら非のない上告人がこのような訴訟上の負担を受忍しなければならないと解することは相当ではない。以上の事情に照らすと,上記支払が有効な弁済とはならず,上告人が依然として本件保険金等請求権を有しているとしても,被上告人Y1及び同Y2が,上告人に損害が発生したことを否認して本件請求を争うことは,信義誠実の原則に反し許されないものというべきである(最高裁平成16年(受)第458号同年10月26日第三小法廷判決・裁判集民事215号473頁参照)。
(2) また,前記事実関係によれば,被上告人Y3は,被上告人Y1及び同Y2による本件保険金等の支払請求手続に不審な点があったにもかかわらず,上告人の意思を何ら確認せず,それどころか被上告人Y2の懇願を受け,上告人が自ら手続を執ったかのような外形を整えるために,被上告人Y2に「甲野花子」名義の支払請求書兼受領証の作成を指示してこれを作成させ,自らも内容虚偽の本人確認記録票を作成してまで支払手続を進めたのであるから,被上告人Y3においても,共同不法行為責任を負う被上告人Y1及び同Y2と同様に,上告人に損害が発生したことを否認して本件請求を争うことは,信義誠実の原則に反し許されないものというべきである。
5 これと異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人の被上告人らに対する請求に関する部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,上記部分に関する上告人の請求は理由があり,これを認容した第1審判決は正当であるから,上記部分に係る被上告人らの控訴を棄却すべきである。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 須藤正彦 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫 裁判官千葉勝美)

3.小問2について(基礎編)
+(不当利得の返還義務)
第七百三条  法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条  悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

・因果関係について
無資力

・法律上の原因
+判例(S49.9.26)
理由
上告代理人小林健治の上告理由第一点及び第二点について。
原審は、(一)被上告人の農林省農林経済局農業保険課団体班事務費係の農林事務官Aは、かねて職務上知合いであつた上告人連合会経理課長B、同職員Cらと結託し、金券詐取の方法により、昭和二九年六月二日ころから同三一年三月九日ころまでの間に前後十数回にわたり、国庫より各農業共済団体に対して交付すべきいわゆる国庫負担金に充てるべき国庫金のうちから合計七八九五万一八二二円を詐取したため、国庫金に不足をきたし、同三一年四月に入るも、同三〇年度の予算をもつて埼玉県農共組連に割当てられた国庫負担金二〇七八万九四一六円及び兵庫県農共組連に割当てられた国庫負担金一二八〇万六四三四円がいずれも未交付のまま放置され、そのためAの直属上司たる農業保険課長のもとに右両県農共組連から国庫負担金交付の催促がされるに至つたこと、(二)そこで、右犯行の発覚をおそれたAは、当面を糊塗して犯行を隠蔽するため、昭和三一年四月下旬ころ、上告人連合会経理課長Bに対し、「農林省の予算操作上の手違いにより、埼玉、兵庫両県農共組連に交付すべき昭和三〇年度の国庫負担金に不足を来たしたので、新年度予算をもつて一か月以内に返済するから、とりあえず上告人において取引銀行から三五〇〇万円程度の金員を借入れたうえこれを一時農林省に融通してもらいたい。」と申込んだが、その際、Bとしては、右国庫負担金不足の原因が前記の不正な国庫金支出に由来するものであり、かつ、Aの右金員融通申込の意図が、前記国庫金詐取によりあけられていた国庫の会計上の穴を秘かに埋めて、犯行の発覚を未然に防止するにあることを察知することができたこと、しかし、Aから右金員の調達ができなければ前記犯行が発覚するのみならず、不正支出に基づく国庫金によりなされた上告人の簿外会計の赤字補填等の事実も露見し、容易ならぬ事態に立至る旨を説得されるに及んで、結局、Bは自己の一存で上告人名義をもつて銀行から右融通申込金を借受け、これをAに交付することを承諾し、上告人連合会の経理課長の地位にあることを奇貨として、上司の決裁を受けることなく、ほしいままに上告人連合会会長の職印を使用して上告人振出名義の金額一九四六万円及び金額一五〇〇万円の約束手形二通を作成したこと、(三)そして、Bは、まず右約束手形の一通を用いて同年四月二七日三菱銀行水戸支店から、独断で、上告人名義をもつて一九四六万円を借受けたうえ、同日右借入金を資金として同銀行同支店から同銀行本店を支払人とする金額一九三五万七八三三円の小切手一通の振出を受け、即日これを持参して農林省に赴き、Aの指示により同人立会のうえ、上告人の受給国庫負担金のうち手続上の過誤に基づき過払勘定になつていた金員を返納するとの名目のもとに、右小切手をAの上司で情を知らない事務費係長Dに手交したところ、Dが翌二八日右小切手を三菱銀行本店に振込み、同銀行をして右小切手金額に相当する金員を日本銀行国庫の当該口座に振替入金させ、かくして、右金員は同年五月一日他の金員と合わせて二〇七八万九四一六円とされたうえ、埼玉県農共組連に対し昭和三〇年度分の割当国庫負担金として交付されたこと、(四)次いで、Bは、前記約束手形の残りの一通を用いて、同年四月三〇日日本勧業銀行水戸支店から、前同様独断で、上告人名義をもつて一五〇〇万円を借受けたうえ、同日同銀行同支店から右借入金を資金として同銀行本店を支払人とする金額一二八〇万六四三四円の小切手一通の振出を受け、即日これをAに手交したこと、(五)ところで、Bが上司の決裁を受けることなく、ほしいままに上告人会長の職印を使用して上告人振出名義の約束手形二通を作成し、これを用いて、独断で、上告人名義をもつて昭和三一年四月二七日三菱銀行水戸支店から一九四六万円を、同年同月三〇日日本勧業銀行水戸支店から一五〇〇万円をそれぞれ借受けたことは、Bが上告人の経理課長として従前より上告人会長の職印を使用して上告人名義の約束手形を振出す権限を与えられていた等諸般の事情に鑑みるとき、右各銀行支店員において、従来の取引例に照らし、Bに右各金員の借入につき上告人を代理する正当の権限があると信じるのはもつともであつて、上告人は、民法一一〇条の表見代理の法理により、Bのした右各金員借入れにつき責任を負い、各銀行に対し借受金を返還すべき債務を負担するに至つたところ、Bが前記の経緯により三菱銀行水戸支店からの借受金より一九三五万七八三三円をDに、日本勧業銀行水戸支店からの借受金より一二八〇万六四三四円をAに、それぞれ交付したのであるから、上告人に右各交付金額相当の損失が発生したこと、(六)また、叙上の事実によれば、BがAの指示により同人の上司たる農林省農林経済局農業保険課団体事務費係長Dに対し小切手化された一九三五万七八三三円(以下本件(1)の金員と略称する。)を手交し、Dがこれを日本銀行の当該口座に振替入金したことにより、被上告人には右入金額相当の利得が生じたこと、(七)しかし、Bが、本件(1)の金員をD係長に交付したのは、同人がCとともに共同加功したAの国庫金詐取によつて埼玉、兵庫両農共組連に対し交付すべき国庫負担金が不足をきたしたため、右共同犯行の発覚を未然に防止するため、Aの依頼により同人に代わつて、同人の被上告人に対する国庫金詐取に基づく損害賠償債務の一部弁済としてなされたものであつて、上告人の主張するような過払金返納の趣旨でなされたものではなく、かつ、本件(1)の金員調達の経緯につきD係長は善意であつたから、これによつて生じた被上告人の利得には法律上の原因を伴うものであること、を認定判示しており、右認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係とその説示に照らして、首肯しえないものではなく、その過程に所論の違法は認められない。なお、所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。それゆえ、本件(1)の金員に関する論旨は、採用することができない。

同第一点及び第三点について。
原審は、(1)Aは、昭和三一年四月三〇日、Bから小切手化された一二八〇万六四三四円(以下本件(2)の金員と略称する。)を受領したが、これを一時自己の事業資金として流用することを企図し、(1)同年五月一五日まず右金員を東京都民銀行池袋支店に開設していた自己の当座預金口座に振込預金し(右振込前の預金残金は五万五三四七円)、(2)同月八日、当日の預金残から一〇〇〇万円を払戻して、直ちに同銀行同支店に同額の定期預金をし、(3)同月一〇日右定期預金を担保に同銀行から一〇〇〇万円を借受け、これから前払利息を差引いた手取金九九九万一五〇〇円を再び前記当座預金口座に預入れ、(4)同月一一日同口座から九八〇万円を払戻して、そのうち八三〇万円を同月一四日東京相互銀行銀座支店の当座預金口座に預入れ(右預入れ直前の同口座預金残高は七八七四円)、(5)同月一八日、東京都民銀行池袋支店から、自己所有の湯島天神町所在の家屋一棟を担保に三〇〇万円を借受け、内金二九〇万円に、別途工面した現金二四〇万円を加えた合計五三〇万円を、同日東京相互銀行銀座支店の当座預金口座に預入れ、この結果同口座の預金残額が一二九八万七〇〇〇円となつたので、即日これを資金として同銀行振出の金額一二八〇万六四三四円の小切手を得て、これを農林省官房会計課長の名義を冒用し兵庫県農共組連に宛て昭和三〇年度分の割当国庫負担金として直接送金したが、このような預金操作の間においてAは右各銀行の預金口座から頻繁に払戻しをして自己の事業資金に流用し、その額が五〇〇万円を超えたこと、(二)一方、Aから送金を受けた同農共組連は、右送金が国庫金交付の正規の手続を履践していないものとしてその正式受領を留保し、農林省に右金員の処理方について指示を仰いだ結果、昭和三一年七月一〇日ころに至り、農林省、A及び右農共組連の三者間において覚書を作成したうえ、同農共組連は右金員をいつたんAに返還し、Aは右返還を受けた金員を同人が前記国庫金詐取により被上告人国に被らせた損害の一部弁償として国に支払い、農林省より改めて右金員を同農共組連に対し昭和三〇年度分の割当国庫負担金として交付する旨の合意がなされ、次いで右国庫負担金の過年度支出を法律上可能にするため特別の政令(いわゆるA政令)が発せられ、同年一〇月四日右合意がその内容のとおり処理履行されたこと、を認定したうえ、以上認定した事実によれば、Aが兵庫県農共組連に送付した金員と本件(2)の金員との間にはもはや同一性を肯認することができないから、その後、前記の経緯により同年一〇月四日被上告人がAの損害賠償金として受領した一二八〇万六四三四円をもつて社会通念上本件(2)の金員に由来するものとみることはできず、結局、Bが本件(2)の金員をAに交付したことにより、上告人に右交付金額に相当する損失が生じたものということはできるが、右損失と被上告人の同年一〇月四日のAからの金員受領による利得との間には因果関係を認めることができないから、被上告人は上告人の財産によつて利得し、これによつて上告人に損失を被らせたものではないと判示し、被上告人が本件(2)の金員を受領したことによる不当利得の返還を求める上告人の請求部分を棄却した一審判決を是認している。
しかしながら、右の原審の判断はにわかに首肯することができない。
およそ不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、利得者にその利得の返還義務を負担させるものであるが、いま甲が、乙から金銭を騙取又は横領して、その金銭で自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合に、乙の丙に対する不当利得返還請求が認められるかどうかについて考えるに、騙取又は横領された金銭の所有権が丙に移転するまでの間そのまま乙の手中にとどまる場合にだけ、乙の損失と丙の利得との間に因果関係があるとなすべきではなく、甲が騙取又は横領した金銭をそのまま丙の利益に使用しようと、あるいはこれを自己の金銭と混同させ又は両替し、あるいは銀行に預入れ、あるいはその一部を他の目的のため費消した後その費消した分を別途工面した金銭によつて補填する等してから、丙のために使用しようと、社会通念上乙の金銭で丙の利益をはかつたと認められるだけの連結がある場合には、なお不当利得の成立に必要な因果関係があるものと解すべきであり、また、丙が甲から右の金銭を受領するにつき悪意又は重大な過失がある場合には、丙の右金銭の取得は、被騙取者又は被横領者たる乙に対する関係においては、法律上の原因がなく、不当利得となるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原審の確定した前記の事実関係のもとにおいては、本件(2)の金員について、Aの預金口座への預入れ、払戻し、A個人の事業資金への流用、兵庫県農共組連に送金するため別途工面した金銭による補填等の事実があつたからといつて、そのことから直ちにAが右農共組連に送付した金員と本件(2)の金員との間に社会観念上同一性を欠くものと解することはできないのであつて、その後、原審認定の経緯により昭和三一年一〇月四日被上告人がAの損害賠償金として受領した一二八〇万六三四三円は、社会観念上はなお本件(2)の金員に由来するものというべきである。そして、原審の確定した事実関係によれば、本件(2)の金員は、Aが上告人の経理課長Bを教唆し又は同人と共謀し同人をして上告人から横領せしめたものであるか、あるいはBが横領した金銭を同人から騙取したものと解する余地がある。そうすると、被上告人においてAから右損害賠償金を受領するにつき悪意又は重大な過失があつたと認められる場合には、被上告人の利得には法律上の原因がなく、不当利得の成立する余地が存するのである。
しかるに、原審はこれらの諸点を顧慮することなく、AがBから受領した本件(2)の金員とAが兵庫県農共組連に送付した金員との間には同一性がなく、したがつてまた、Bが本件(2)の金員をAに交付することにより上告人が被つた右金額に相当する損失と、被上告人の同年一〇月四日のAからの金員受領による利得との間には因果関係を認めることができないとして、上告人の被上告人に対する本件(2)の金員の不当利得返還請求を排斥した原判決には、不当利得に関する法理の解釈適用を誤つたか又は審理不尽、理由不備の違法があるというべく、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであつて、論旨は結局理由がある。
よつて、原判決中、上告人の被上告人に対する本件(2)の金員の不当利得返還請求に関する控訴を棄却した部分を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、右部分につき本件を原審に差し戻し、上告人のその余の上告は理由がないのでこれを棄却することとし、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官岩田誠は退官につき評議に関与しない。
(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)

・詐害行為取消権について
+判例(S39.11.17)
要旨
債務の弁済について詐害行為取消権が認められるのは、弁済を受けた受益者が悪意、しかも、弁済をした債務者との間に通謀が認められる場合だけ。

4.小問2について(応用編)

5.小問3について
+(第三者のためにする契約)
第五百三十七条  契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2  前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
(第三者の権利の確定)
第五百三十八条  前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
(債務者の抗弁)
第五百三十九条  債務者は、第五百三十七条第一項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる

・受益者Cに96条3項の保護は与えられない。
96条3項を類推という方法はあるかも。