民事訴訟法 基礎演習 自白


1.自白の撤回の理論的位置づけ

+(訴えの取下げ)
第261条
1項 訴えは、判決が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。
2項 訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。ただし、本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、この限りでない。
3項 訴えの取下げは、書面でしなければならない。ただし、口頭弁論、弁論準備手続又は和解の期日(以下この章において「口頭弁論等の期日」という。)においては、口頭ですることを妨げない。
4項 第2項本文の場合において、訴えの取下げが書面でされたときはその書面を、訴えの取下げが口頭弁論等の期日において口頭でされたとき(相手方がその期日に出頭したときを除く。)はその期日の調書の謄本を相手方に送達しなければならない。
5項 訴えの取下げの書面の送達を受けた日から二週間以内に相手方が異議を述べないときは、訴えの取下げに同意したものとみなす。訴えの取下げが口頭弁論等の期日において口頭でされた場合において、相手方がその期日に出頭したときは訴えの取下げがあった日から、相手方がその期日に出頭しなかったときは前項の謄本の送達があった日から二週間以内に相手方が異議を述べないときも、同様とする。

+(証拠の申出)
第180条
1項 証拠の申出は、証明すべき事実を特定してしなければならない。
2項 証拠の申出は、期日前においてもすることができる。

←証拠の申出は証拠調べ実施後には撤回できない。

+(証明することを要しない事実)
第179条
裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

2.自白の根拠
自白=弁論準備手続または口頭弁論においてなされる相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述

裁判所拘束力の根拠←弁論主義
当事者拘束力の根拠←証明不要効の確保

3.自白の要件
・事実についての陳述
←自白は弁論主義の1内容であり、弁論主義とは、判決の基礎となる事実の主張を当事者の権能および責任とする建前だから。
法の解釈適用は裁判所の専権事項

・自白が成立する事実
→主要事実にだけ。
←間接事実と証拠の等質性。事実認定における自由心証主義。

+判例(S41.9.22)
理由
上告代理人渡辺大司の上告理由(一)について。
上告人の父Aの被上告人らに対する三〇万円の貸金債権を相続により取得したことを請求の原因とする上告人の本訴請求に対し、被上告人らが、Aは右債権を訴外Bに譲渡した旨抗弁し、右債権譲渡の経緯について、Aは、Bよりその所有にかかる本件建物を代金七〇万円で買い受けたが、右代金決済の方法としてAが被上告人らに対して有する本件債権をBに譲渡した旨主張し、上告人が、第一審において右売買の事実を認めながら、原審において右自白は真実に反しかつ錯誤に基づくものであるからこれを取り消すと主張し、被上告人らが、右自白の取消に異議を留めたことは記録上明らかである。
しかし、被上告人らの前記抗弁における主要事実は「債権の譲渡」であつて、前記自白にかかる「本件建物の売買」は、右主要事実認定の資料となりうべき、いわゆる間接事実にすぎない。かかる間接事実についての自白は、裁判所を拘束しないのはもちろん、自白した当事者を拘束するものでもないと解するのが相当である。しかるに、原審は、前記自白の取消は許されないものと判断し、自白によつて、AがBより本件建物を代金七〇万円で買い受けたという事実を確定し、右事実を資料として前記主要事実を認定したのであつて、原判決には、証拠資料たりえないものを事実認定の用に供した違法があり、右違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない
よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠)

・不利益要件
敗訴可能性説=その事実が判決の基礎として採用されれば、自己が敗訴する可能性のある事実を当事者が認めることを意味する見解

証明責任説=相手方が証明責任を負う事実を当事者が認める場合を意味する

4.自白の撤回
(1)自白の撤回が認められる場合
①自白の撤回に相手方が同意した場合
←自白の当事者拘束力は、証拠方法を収集・保管しなくても大丈夫であるという相手方の信頼保護を根拠とするから

②自白が刑事上罰すべき他人の行為によってなされた場合
←再審事由にもなってるし。
+(再審の事由)
第三百三十八条
1項 次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
一  法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二  法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三  法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
四  判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。
五  刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと
六  判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。
七  証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。
八  判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
九  判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。
十  不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。
2項 前項第四号から第七号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。
3項 控訴審において事件につき本案判決をしたときは、第一審の判決に対し再審の訴えを提起することができない。

③自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいてなされた場合
←条文の根拠なし(笑)
反真実の証明がなされたときは、証拠方法を収集・保管しなくていいという相手方の信頼は著しく害されないだろう・・・・とか。
反真実の証明がなされれば、自白が錯誤に基づくものであることは推認される!

+判例(S25.7.11)
理由
上告代理人高井吉兵衛上告理由は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。
第一点について。
論旨は、訴訟上自白の徹回は、相手方において其の自白を援用する以上其自白は錯誤に出でたること及び其取消を主張することの二事実があつて初めて裁判所はその自白の取消の適否を判断すべきものであると主張する。しかし記録を調べて見るに、被上告人(被控訴人)は所論三万円の小切手について従前の主張を徹回し之と相容れない事実を主張したことが明らかであるから被上告人(被控訴人)は右三万円の小切手についての自白の取消を主張したものと解すべきは当然である。そして原審においては、被上告人(被控訴人)が右三万円についての主張を徹回したのは錯誤に出でにるものであることが明らかであると認定して居り其の認定は相当であると認められるから、原審において自白の取消につき所論のように判断をしたことは当然であつて何等違法はない。
第二点第三点について。
当事者の自白した事実が真実に合致しないことの証明がある以上その自白は錯誤に出たものと認めることができるから原審において被上告人の供述其他の資料により被上告人の自白を真実に合致しないものと認めた上之を錯誤に基くものと認定したことは違法とはいえない。論旨は独自の見解に基くものであるから採用し難い。
よつて民法第四〇一条、第八九条、第九五条により主文の通り判決する。
以上は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

5.権利自白
権利自白=訴訟物である権利関係の前提となる権利関係や法律効果についての自白。
権利自白を認めるかどうかはケースバイケース
日常的な法概念かどうかとかも。