民事訴訟法 基礎演習 争点効・信義則


1.設問1
(1)相続人と既判力の主観的範囲

(2)既判力の客観的範囲と判決主文中判断限定の理由

理由
当事者が意識的に紛争の対象として審判を求めた訴訟物たる権利関係の存否の判断に既判力を認めることが、当事者の意図に沿うとともに、当面の紛争を解決するのに十分
当事者が前提問題についてある程度自由に処分できる
裁判所も実体法における論理的順序の従うことなく結論に到達しやすい理由により判決を下すことが可能になる

(3)既判力の客観的範囲による帰結

2.設問2
(1)既判力の客観的範囲の限界

(2)判例学説による判決効の客観的範囲の拡張の試み

+判例(S49.4.26)
理由
一、上告人の上告理由第一点について。
被相続人の債務につき債権者より相続人に対し給付の訴が提起され、右訴訟において該債務の存在とともに相続人の限定承認の事実も認められたときは、裁判所は、債務名義上相続人の限定責任を明らかにするため、判決主文において、相続人に対し相続財産の限度で右債務の支払を命ずべきである。
ところで、右のように相続財産の限度で支払を命じた、いわゆる留保付判決が確定した後において、債権者が、右訴訟の第二審口頭弁論終結時以前に存在した限定承認と相容れない事実(たとえば民法九二一条の法定単純承認の事実)を主張して、右債権につき無留保の判決を得るため新たに訴を提起することは許されないものと解すべきである。けだし、前訴の訴訟物は、直接には、給付請求権即ち債権(相続債務)の存在及びその範囲であるが、限定承認の存在及び効力も、これに準ずるものとして審理判断されるのみならず、限定承認が認められたときは前述のように主文においてそのことが明示されるのであるから、限定承認の存在及び効力についての前訴の判断に関しては、既判力に準ずる効力があると考えるべきであるし、また民訴法五四五条二項によると、確定判決に対する請求異議の訴は、異議を主張することを要する口頭弁論の終結後に生じた原因に基づいてのみ提起することができるとされているが、その法意は、権利関係の安定、訴訟経済及び訴訟上の信義則等の観点から、判決の基礎となる口頭弁論において主張することのできた事由に基づいて判決の効力をその確定後に左右することは許されないとするにあると解すべきであり、右趣旨に照らすと、債権者が前訴において主張することのできた前述のごとき事実を主張して、前訴の確定判決が認めた限定承認の存在及び効力を争うことも同様に許されないものと考えられるからである。
そして、右のことは、債権者の給付請求に対し相続人から限定承認の主張が提出され、これが認められて留保付判決がされた場合であると、債権者がみずから留保付で請求をし留保付判決がされた場合であるとによつて異なるところはないと解すべきである。
これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによると、本訴請求中「被上告人Aに対し金一五九万五〇〇〇円及び内金二二万三〇〇〇円に対する昭和三〇年三月二五日以降支払ずみにいたるまで年五分の割合による遅延損害金、被上告人B、同Cに対し各金一〇六万三三三三円三三銭及び内金一四万八六六六円六六銭に対する前同日以降支払ずみにいたるまで年五分の割合による遅延損害金」の支払を求める部分については、先に本件上告人を原告とし亡Dの相続財産管理人Aを被告とする前訴(東京地方裁判所昭和三一年(ワ)第五八六七号、東京高等裁判所昭和三五年(ネ)第一〇八九号、最高裁判所昭和三九年(オ)第八八〇号、第八八一号)において、「相続財産の限度で……支払え」との給付判決が確定しており、Dの相続財産管理人に対する右判決の効力が相続分に応じDの相続人である右被上告人らに及ぶことは明らかである。そして、上告人が本訴で主張する法定単純承認の事由は、前訴の第二審口頭弁論終結時以前に存在していた事実であるというのであるから、上告人の右主張は前訴の確定判決に牴触し、またこれに遮断されて許されず、本訴請求中前記部分は不適法として却下を免れないといわなければならない。 以上のとおりであるから、これと結論を同じくする原判決は正当として是認し得るのであつて、論旨は採用することができない。

二、同第二点について。
訴訟記録に照らすと、本件控訴状には被控訴人として第一審被告Eの氏名、住所の記載はなく、控訴の趣旨にもEに対する請求は記載されておらず、その他記録上控訴期間経過以前において上告人がEに対しても控訴を提起する趣旨であることを窺わせるに足りるものは一切なかつたのであるから、原審が、Eに対する関係においては、適法な控訴がないまま第一審判決が確定したものとし、控訴期間経過後にされた上告人の「控訴状補正申立」を容れなかつたのは正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
三、同第三点について。
被告に対し金銭給付を求める原告の請求を一部棄却した第一審判決に対し、原告(控訴人)が右敗訴部分の取消しを求めて控訴を申し立てたが、控訴の趣旨として、右取消しのうえ被告(被控訴人)に対して右棄却された金額全額ではなく、単にその一部の支払を請求するにすぎないときは、第一審判決の請求棄却部分のうち、原告(控訴人)において右支払を求めなかつた部分については、原告(控訴人)の控訴はなく確定したものと解すべきである。
これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実によると、前掲前訴の第一審において、原告(本件上告人)は被告である前記Aに対し「金四〇〇万円とこれに対する昭和三〇年三月二五日以降支払ずみにいたるまで年五分の割合による損害金」の支払を求めたところ、第一審は「被告は原告に対し、相続財産の限度で金六六万九〇〇〇円とこれに対する昭和三〇年三月二五日以降支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。原告のその余の請求は棄却する。」との判決をし、原告は右敗訴部分の取消しを求めて控訴したが控訴の趣旨において、原告(控訴人)は被告(被控訴人)に対し第一審判決で棄却された金三三三万一〇〇〇円及びこれに対する前述のごとき損害金のうち、金三三三万一〇〇〇円のみについて支払を求め、損害金についての支払は求めなかつたというのであるから、第一審判決中右損害金を棄却した部分については、原告より控訴はなく、第一審判決が確定したというべきである。
そうすると、これと同旨の原審の判断は正当として是認すべきであり、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊)

+判例(S51.9.30)
理由
上告代理人南逸郎、同石田一則、同藤巻一雄の上告理由について
原審が適法に確定した事実及び本件記録によれば、(一)昭和二三年六月ごろ、上告人らの先代訴外亡Aの所有する本件各土地について自作農創設特別措置法による買収処分がされ、かつ昭和二四年七月ごろ、被上告人らの先代訴外亡Bに対する売渡処分がおこなわれたところ、右Aの死後その相続人の一人である上告人Cは、右売渡処分後の昭和三二年五月に、右Bとの間で、右上告人が本件各土地を買い受ける旨の売買契約が成立したとして、右Bの死後、その子である被上告人D、同E及び妻である訴外亡Fに対し、右各土地について右上告人のため、農地法所定の許可申請手続及び許可を条件とする所有権移転登記手続等を求める訴(以下、前訴という。)を提起し、その請求棄却の判決が最高裁判所昭和四〇年(オ)第七九一号同四一年一二月二日第二小法廷の上告棄却の判決の言渡により確定したこと、(二)ところが、翌昭和四二年四月に右Aの共同相続人である上告人らが本訴を提起し、前記買収処分の無効等を理由として、右B及び右訴訟係属中に死亡した右Fの相続人である被上告人D、同E並びに右訴訟係属中に右被上告人らから本件第三土地の売渡をうけた被上告人丸楽紙業株式会社のためにされた本件各土地についての各所有権移転登記の抹消登記手続に代る所有権移転登記手続等を請求していること、(三)ところで、上告人Cは、前訴においても前記買収処分が無効であることを主張し、買収処分が無効であるため本件各土地は当然その返還を求めうべきものであるが、これを実現する方法として、土地返還約束を内容とする、実質は和解契約の性質をもつ前記売買契約を締結し、これに基づき前訴を提起したものである旨を一貫して陳述していたこと、(四)右上告人は、本訴における主張を前訴で請求原因として主張するにつきなんら支障はなかつたことが、明らかである。右事実関係のもとにおいては、前訴と本訴は、訴訟物を異にするとはいえ、ひつきよう、右Aの相続人が、右Bの相続人及び右相続人から譲渡をうけた者に対し、本件各土地の買収処分の無効を前提としてその取戻を目的として提起したものであり、本訴は、実質的には、前訴のむし返しというべきものであり、前訴において本訴の請求をすることに支障もなかつたのにかかわらず、さらに上告人らが本訴を提起することは、本訴提起時にすでに右買収処分後約二〇年も経過しており、右買収処分に基づき本件各土地の売渡をうけた右B及びその承継人の地位を不当に長く不安定な状態におくことになることを考慮するときは、信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。これと結論を同じくする原審の判断は、結局相当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岸盛一 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)

・信義則に反し後訴を遮断すべきかを判断する際の考慮要素
①前訴における請求あるいは主張と後訴における請求あるいは主張とが実質上同一
②後訴で提出されている請求あるいは主張を前訴で提出しえたこと
③勝訴当事者が前訴判決により紛争が解決済みであるとの信頼を抱いており、法的安定性の要求を保護する必要がある
④前訴判決の正当性を確保するほどに前訴において充実した審理が行われていること
⑤前訴において当事者が争う誘因を有していたこと

(3)あるべき判決効の客観的範囲拡張の理論構成

(4)前訴手続過程の具体的経過と1審限りの判断

3.設問3