民事裁判実務の基礎 1 民事訴訟の基本構造




 

1.民事訴訟の基本構造

(1)総論

・民事訴訟は、原告が求める権利または法律関係の存否が認められるかを審理判断する。

・権利法律関係は抽象的

→権利法律関係を発生させる事実を主張させる

・「訴訟物」「主張」「立証」の3つのレベル

訴訟物レベル・・・処分権主義

主張レベル・・・弁論主義

立証レベル・・・自由心証主義

 


2.訴訟物レベル

(1)請求の趣旨および原因

+民事訴訟法(訴え提起の方式)
第百三十三条  訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
2  訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一  当事者及び法定代理人
二  請求の趣旨及び原因

 

請求の趣旨とは、訴訟における原告の主張の結論となる部分であり、原告が勝訴した場合の判決の主文に相当

請求の原因は、訴訟物を特定する事項を記載

・訴訟物が特定されない場合は

+(裁判長の訴状審査権)
第百三十七条  訴状が第百三十三条第二項の規定に違反する場合には、裁判長は、相当の期間を定め、その期間内に不備を補正すべきことを命じなければならない。民事訴訟費用等に関する法律 (昭和四十六年法律第四十号)の規定に従い訴えの提起の手数料を納付しない場合も、同様とする。
2  前項の場合において、原告が不備を補正しないときは、裁判長は、命令で、訴状を却下しなければならない。
3  前項の命令に対しては、即時抗告をすることができる。

 

 

(2)訴訟物

・訴訟物=訴訟上の請求の内容である原告が主張する一定の権利又は法律関係のこと。

・よって書き

訴訟物の内容や、給付確認形成の区別

全部請求か一部請求か

併合態様

 

 

(3)請求の趣旨(訴訟物)に対する答弁

・請求の趣旨を認めると認諾となる。

+(請求の放棄又は認諾)
第二百六十六条  請求の放棄又は認諾は、口頭弁論等の期日においてする。
2  請求の放棄又は認諾をする旨の書面を提出した当事者が口頭弁論等の期日に出頭しないときは、裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、その旨の陳述をしたものとみなすことができる。

 

・認諾がなされると、

+(和解調書等の効力)
第二百六十七条  和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。

 


 

3.主張レベル

(1)請求原因

要件事実

権利を発生させる法律要件の事実の証明、何が法律要件か

・貸金返還請求権の要件事実

+(消費貸借)
第五百八十七条  消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

①返還の約束

②金銭の交付

 

要件事実は抽象的な要件であり、それに該当する具体的な事実が主要事実である。

主要事実のうち、訴訟物たる権利又は法律関係の発生原因事実を「請求原因」と呼ぶ。

 

 

(2)請求原因に対する認否

・認否=主要事実を認めるか否か

・顕著な事実は証明することなく裁判の基礎となる

+(証明することを要しない事実)
第百七十九条  裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

顕著な事実=公知の事実+職務上知り得た事実(訴訟上の出来事)

認否=自白・否認・不知・沈黙

自白=裁判所はこれに反する事実を認定することができず、証拠調べは不要

否認=証拠調べが必要

不知=争ったものと推定

沈黙=弁論の全趣旨によりその事実を争ったものと認めるべき時(否認を前提とした主張をしたり)以外は自白したものとみなされる

+(自白の擬制)
第百五十九条  当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない
2  相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
3  第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

 

・第一回口頭弁論期日に被告が欠席した場合

+(訴状等の陳述の擬制)
第百五十八条  原告又は被告が最初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしないときは、裁判所は、その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし、出頭した相手方に弁論をさせることができる

書類の提出がない場合は沈黙となる。→請求認容

・主張レベルについて、争いがある事実とない事実を整理し、証拠調べをしなければならない事実を確定するのが争点整理。

 

 

(3)立証責任

・立証責任(証明責任)=ある主要事実の存在が真偽不明に終わったために当該法律効果の発生が認められないという一方当事者が負うべき不利益

 

 

(4)抗弁

抗弁=請求原因と両立し、請求原因から発生する法律効果を障害、消滅、阻止する事実

 

(5)請求原因の否認と抗弁の違い

否認=請求原因事実の存在を否定

抗弁=請求原因事実によって発生した法律効果に対し、障害・消滅・阻止といった別の法律効果の発生を主張するもの

 

(6)主張責任

ある法律効果の発生要件に該当する事実が主張されないことによって、当該法律効果の発生が認められないという一方当事者の不利益

 


4.立証レベル

(1)間接事実・証拠

直接証拠=主要事実を直接に証明する証拠

間接事実=主要事実があったことを推認させる事実

間接証拠=間接事実を証明する証拠

 

(2)立証レベルのポイント

・立証レベルでは自由心証主義

間接事実についての自白=裁判所に対しても当事者に対しても拘束力を否定

間接事実は、主要事実を推認させるあるいは推認を妨げる働きを有するものであり、証拠と同じ位置づけ

補助事実についても同様

 

・立証レベルにおいては、主張立証責任は問題とならない。

 


5.まとめ

・処分権主義=審判を求めるか否か、何について求めるか、その訴訟物をいかに処分するかということを当事者の意思に委ねたもの。

・弁論主義=主要事実と証拠の提出を当事者の権能かつ責任とするもの

・自由心証主義

←あらゆる証拠を総合して判断するほうが真実に近づきやすい

 

+間接事実と弁論主義

不意打ち防止の観点。

証拠調べで明らかになった間接事実で当事者が十分に意識していないと考えられるものについては、当事者に対しその事実の評価について弁論を促すなどすべき(釈明義務の問題)

 


6.訴訟経過

(1)第1回口頭弁論期日

・訴状

訴状により訴訟物が明らかにされる

民事訴訟法規則(訴状の記載事項・法第百三十三条)
第五十三条 訴状には、請求の趣旨及び請求の原因(請求を特定するのに必要な事実をいう。)を記載するほか、請求を理由づける事実を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならない。
2 訴状に事実についての主張を記載するには、できる限り、請求を理由づける事実についての主張と当該事実に関連する事実についての主張とを区別して記載しなければならない
3 攻撃又は防御の方法を記載した訴状は、準備書面を兼ねるものとする。
4 訴状には、第一項に規定する事項のほか、原告又はその代理人の郵便番号及び電話番号(ファクシミリの番号を含む。)を記載しなければならない。

 

請求を理由づける事実=主要事実

当該事実に関連する事実で重要なもの=間接事実

 

 

・答弁書→被告は答弁書において、請求の趣旨に対する答弁と請求原因に対する認否を明らかにし、主張をする。

否認をする場合には理由を記載

+規則(準備書面・法第百六十一条)
第七十九条 答弁書その他の準備書面は、これに記載した事項について相手方が準備をするのに必要な期間をおいて、裁判所に提出しなければならない。
2 準備書面に事実についての主張を記載する場合には、できる限り、請求を理由づける事実、抗弁事実又は再抗弁事実についての主張とこれらに関連する事実についての主張とを区別して記載しなければならない。
3 準備書面において相手方の主張する事実を否認する場合には、その理由を記載しなければならない
4 第二項に規定する場合には、立証を要する事由ごとに、証拠を記載しなければならない。

 

・争点整理

準備的口頭弁論、弁論準備手続、書面による準備手続

弁論準備手続き

+(弁論準備手続の開始)
第百六十八条  裁判所は、争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、事件を弁論準備手続に付することができる。

 

・当事者の欠席

欠席判決(すべての請求原因について主張されている場合)

 

(2)弁論準備手続期日

+(証明すべき事実の確認等)
第百六十五条  裁判所は、準備的口頭弁論を終了するに当たり、その後の証拠調べにより証明すべき事実を当事者との間で確認するものとする。
2  裁判長は、相当と認めるときは、準備的口頭弁論を終了するに当たり、当事者に準備的口頭弁論における争点及び証拠の整理の結果を要約した書面を提出させることができる。

+(弁論準備手続における訴訟行為等)
第百七十条  裁判所は、当事者に準備書面を提出させることができる。
2  裁判所は、弁論準備手続の期日において、証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判及び文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べをすることができる。
3  裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限る。
4  前項の期日に出頭しないで同項の手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。
5  第百四十八条から第百五十一条まで、第百五十二条第一項、第百五十三条から第百五十九条まで、第百六十二条、第百六十五条及び第百六十六条の規定は、弁論準備手続について準用する。

 

(3)第二回口頭弁論期日(証拠調べ期日)

+(弁論準備手続の結果の陳述)
第百七十三条  当事者は、口頭弁論において、弁論準備手続の結果を陳述しなければならない。

+(集中証拠調べ)
第百八十二条  証人及び当事者本人の尋問は、できる限り、争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければならない。

 

(4)第三回口頭弁論期日(弁論終結期日)

(5)第4階口頭弁論期日(判決言渡期日)

(6)その他の終局事由

・和解

+(和解の試み)
第八十九条  裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。

+(和解調書等の効力)
第二百六十七条  和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。

 

・訴えの取り下げ

+(訴えの取下げ)
第二百六十一条  訴えは、判決が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる
2  訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。ただし、本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、この限りでない。
3  訴えの取下げは、書面でしなければならない。ただし、口頭弁論、弁論準備手続又は和解の期日(以下この章において「口頭弁論等の期日」という。)においては、口頭ですることを妨げない。
4  第二項本文の場合において、訴えの取下げが書面でされたときはその書面を、訴えの取下げが口頭弁論等の期日において口頭でされたとき(相手方がその期日に出頭したときを除く。)はその期日の調書の謄本を相手方に送達しなければならない。
5  訴えの取下げの書面の送達を受けた日から二週間以内に相手方が異議を述べないときは、訴えの取下げに同意したものとみなす。訴えの取下げが口頭弁論等の期日において口頭でされた場合において、相手方がその期日に出頭したときは訴えの取下げがあった日から、相手方がその期日に出頭しなかったときは前項の謄本の送達があった日から二週間以内に相手方が異議を述べないときも、同様とする。

(訴えの取下げの効果)
第二百六十二条  訴訟は、訴えの取下げがあった部分については、初めから係属していなかったものとみなす
2  本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた者は、同一の訴えを提起することができない。

 

(7)上訴・強制執行