Ⅰ はじめに
Ⅱ 問1について
1.A保有の株式は、XYZにどのように帰属するか
(1)株式が共同相続された場合の法律関係~株式の共有
民法
+(共同相続の効力)
第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
+(準共有)
第二百六十四条 この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。
・株式は共同相続人間の準共有になる。
+判例(H26.2.25)
理 由
上告代理人村井正昭の上告受理申立て理由について
1 原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人ら及び被上告人は,いずれも平成17年9月30日に死亡した亡Aの子である。亡Aの法定相続人は,上告人ら及び被上告人の4名であり,その法定相続分は各4分の1である。
(2) 被上告人は,亡Aの遺産の分割等の審判を申し立て,第1審判決別紙有価証券目録(以下「本件有価証券目録」という。)記載1及び2の国債(以下「本件国債」という。),同目録記載3から5までの投資信託受益権(以下「本件投信受益権」という。)並びに同目録記載6の株式(以下「本件株式」といい,本件国債及び本件投信受益権と併せて「本件国債等」という。)をいずれも上告人ら及び被上告人が各持分4分の1の割合で共有することを内容とする遺産の分割等の審判(以下「本件遺産分割審判」という。)がされ,同審判は,平成21年3月25日,確定した。
2 本件は,上告人らが,被上告人に対し,①主位的請求として,本件国債等の共有物分割を求めるとともに,②主位的請求に係る訴えが不適法とされた場合の予備的請求として,本件国債及び本件投信受益権につき上告人らと被上告人が4分の1ずつ分割して取得することができるようにする手続を行うこと並びに本件株式につき上告人らが4分の1ずつ分割して取得することができるよう名義書換手続を行うことを求める事案である。
3 原審は,①上記主位的請求につき,本件国債等はいずれも亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され,共同相続人の準共有となることがないから,本件遺産分割審判は,本件国債等が4分の1の割合に相当する金額,口数又は数に分割されて上告人ら及び被上告人に帰属している旨を確認したにすぎないものと解するのが相当であるなどとして,主位的請求に係る訴えを不適法なものとして却下し,②上記予備的請求については,上告人らが,被上告人に対し,実体法上,上告人らが主張するような権利を有するものとは認められないとして,予備的請求に係る訴えを不適法なものとして却下した。
4 しかし,上記主位的請求に係る原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 株式は,株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し,株主は,株主たる地位に基づいて,剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号),残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と,株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって(最高裁昭和42年(オ)第1466号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号804頁参照),このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された株式は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁昭和42年(オ)第867号同45年1月22日第一小法廷判決・民集24巻1号1頁等参照)。
(2) 本件投信受益権のうち,本件有価証券目録記載3及び4の投資信託受益権は,委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権であるところ,この投資信託受益権は,口数を単位とするものであって,その内容として,法令上,償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか,信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており,可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された上記投資信託受益権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
また,本件投信受益権のうち,本件有価証券目録記載5の投資信託受益権は,外国投資信託に係る信託契約に基づく受益権であるところ,外国投資信託は,外国において外国の法令に基づいて設定された信託で,投資信託に類するものであり(投資信託及び投資法人に関する法律2条22項),上記投資信託受益権の内容は,必ずしも明らかではない。しかし,外国投資信託が同法に基づき設定される投資信託に類するものであることからすれば,上記投資信託受益権についても,委託者指図型投資信託に係る信託契約に基づく受益権と同様,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものとする余地が十分にあるというべきである。
(3) 本件国債は,個人向け国債の発行等に関する省令2条に規定する個人向け国債であるところ,個人向け国債の額面金額の最低額は1万円とされ,その権利の帰属を定めることとなる社債,株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は,上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(同令3条),取扱機関の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令6条)も,上記金額を基準として行われるものと解される。そうすると,個人向け国債は,法令上,一定額をもって権利の単位が定められ,1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり,このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば,共同相続された個人向け国債は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
(4) 以上のとおり,本件国債等は,亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることがないものか,又はそう解する余地があるものである。そして,本件国債等が亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものでなければ,その最終的な帰属は,遺産の分割によって決せられるべきことになるから,本件国債等は,本件遺産分割審判によって上告人ら及び被上告人の各持分4分の1の割合による準共有となったことになり,上告人らの主位的請求に係る訴えは適法なものとなる。
5 以上と異なる見解の下,本件国債等が亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるとして上告人らの主位的請求に係る訴えを却下した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人らの主位的請求に係る訴えを却下した部分は破棄を免れない。そして,上告人らの主位的請求に係る訴えについて原判決が破棄を免れない以上,予備的請求に係る訴えを却下した部分についても原判決は当然に破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥)
+(共有者による権利の行使)
第百六条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
(2)当然分割説
2.共有株式の権利行使の方法
(1)権利行使者の指定・通知とその権限
+(共有者による権利の行使)
第百六条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
←会社の事務処理上の便宜のため
+判例(H11.12.14)
理由
上告代理人生駒和雄の上告理由について
株式を共有する数人の者が株主総会において議決権を行使するに当たっては、商法二〇三条二項の定めるところにより、右株式につき「株主ノ権利ヲ行使スベキ者一人」(以下「権利行使者」という。)を指定して会社に通知し、この権利行使者において議決権を行使することを要するのであるから、権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠くときには、共有者全員が議決権を共同して行使する場合を除き、会社の側から議決権の行使を認めることは許されないと解するのが相当である。なお、共有者間において権利行使者を指定するに当たっては、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができると解すべきであるが(最高裁平成五年(オ)第一九三九号同九年一月二八日第三小法廷判決・裁判集民事一八一号八三頁参照)、このことは右説示に反するものではない。
これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、(一) 亡林斗用の有していた本件株式は、被上告人を含む亡林斗用の共同相続人が相続により準共有するに至ったが、本件株主総会に先立ち、権利行使者の指定及び上告人に対する通知はされていない、(二) 本件株主総会には、右共同相続人全員が出席したが、被上告人が本件株式につき議決権の行使に反対しており、議決権の行使について共同相続人間で意思の一致がなかった、というのである。そうすると、本件株式については、権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠くものであるから、共同相続人全員が共同して議決権を行使したものとはいえない以上、たとい上告人が本件株式につき議決権の行使を認める意向を示していたとしても、本件株式については適法な議決権の行使がなかったものと解すべきである。
したがって、本件株式について適法な議決権の行使がなく、本件株主総会決議は取り消されるべきであるとした原審の判断は、その結論において是認することができる。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない部分についてその違法をいうものにすぎず、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官奥田昌道 裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣)
++解説
《解 説》
一 本件は、Y会社の株主の一人であるXが株主総会の決議の方法に違法があるとして、総会決議の取消しと取締役会決議の無効確認を求めた事件である(Xは総会決議の無効確認も求めていたが、一審で棄却され控訴をしなかったので右請求については触れない。)。
Y会社は、X(長男)とY会社代表者A(二男)を含む七名の兄妹の父であるBの創業した会社であり、BはY会社の発行済株式四万株のうち三万二〇〇〇株(以下「本件株式」という。)を所有していたが、昭和五五年に死亡した。なお、残りの八〇〇〇株の株式は、X、Aほかが所有していた。Bの死亡後、XとAの間に本件株式の帰属をめぐる争いが生じ(Xは、本件株式がBの遺産であることを争い、本件株式の全部又は一部は自分が所有するとして他の相続人と争っていた。)、また、被告会社の経営をめぐって紛争が生じた。
Y会社は、取締役の選任を議題として、平成八年七月二二日、本件臨時株主総会を開催し、総会にはBの全相続人と全株主ないしその代理人が出席した。議長となったAは、本件株式については法定相続分に従って各相続人の議決権の行使を認める旨述べたが、Xはこれに反対した。しかし、Aは採決を行い、Xを除くBの相続人が議案に賛成して、取締役選任決議がされ、同日、選任された取締役によりAを代表取締役とする取締役会決議がされた。
Xは、共同相続人の準共有に属する本件株式につき、商法二〇三条二項所定の手続を経ることなく議決権の行使を認めた本件決議には決議の方法に違法があり取り消されるべきである、また、取締役会決議は無効であると主張した。これに対して、Y会社は、商法二〇三条二項の規定は、会社の事務処理の便宜を考慮したものであるから、会社が法定相続分に応じた権利行使を認めても同項の趣旨に反するものではなく、総会決議に違法はないなどと主張した。
一審判決はXの請求を認容し、原判決も一審判決をほぼ引用してY会社の控訴を棄却した。これに対して、Y会社が上告をしたのが本件であり、本判決は、要旨「株式が数人の共有に属する場合において、商法二〇三条二項による株主の権利を行使すべき者の指定及び会社に対する通知を欠くときは、共有者全員が議決権を共同して行使する場合を除き、会社の側から議決権の行使を認めることはできない。」との判断を示し、本件の場合、Xの反対により共同して議決権が行使されたとはいえないから、本件株式については適法な議決権の行使はなく、本件総会決議は取り消されるべきであるとして、原判決を結論において是認し、上告を棄却したのである。
二 株式につき共同相続が開始すると、株式は遺産分割が終了するまで各相続人の相続分に応じた共有(準共有)となるのであって、相続分に応じて当然分割されるのではないとするのが確定した判例(最一小判昭45・1・22民集二四巻一号一頁、本誌二四四号一六一頁、最三小判昭52・11・8民集三一巻六号八四七頁、本誌三五七号二二三頁などこれを前提とする判例は多い。)であり、通説である(大野正道「株式・持分の相続準共有と権利行使者の法的地位」鴻還暦・八十年代商事法の諸相二三六頁、青木正一「株式・有限会社持分の共同相続と社員権の行使(1)」判評四九一号二頁など。当然分割を主張する少数説として出口正義「株式の共同相続と商法二〇三条二項の適用に関する一考察」筑波一二号六七頁)。
そして、株式を共有する者は、商法二〇三条二項の定めるところに従い、共有者の中から「株主ノ権利ヲ行使スベキ者一名」(以下「権利行使者」という。)を定めて会社に通知し、権利行使者において議決権等の株主権を行使することを要するのである。同項は、会社に対する通知を定めてはいないが、これを要するとするのが通説である。株式を相続により準共有するに至った共同相続人につき、権利行使者を定めて会社に通知し、権利行使者において株主権を行使することを要することを前提とする判例として、①前掲最一小判昭45・1・22、②最三小判平2・12・4民集四四巻九号一一六五頁、本誌七六一号一五四頁、判時一三八九号一四〇頁、③最三小判平3・2・19裁判集民一六二号一〇五頁、本誌七六一号一五四頁、判時一三八九号一四〇頁、④最三小判平9・1・28裁判集民一八一号八三頁、本誌九三六号二一二頁、判時一五九九号一三九頁がある(②、③判決は、決議不存在確認、合併無効確認の訴えにつき、権利行使者の指定と通知がない場合にも、共有株主の一部に原告適格を肯定すべき特段の事情を認めた判決である。)。
また、権利行使者の指定が、共有者全員一致によってされるべきか、持分価格に従って過半数で定めるべきかについては争いがあったが、④判決(商法二〇三条二項を準用する有限会社の持分の準共有の例)は、共有持分の価格に従い過半数をもって定めることを明らかにしている。右判決は、準共有者の全員が一致しなければ権利行使者を指定することができないとすると、準共有者のうちの一人でも反対すれば全員の社員権の行使が不可能になるのみならず、会社の運営に支障を来すおそれがあり、会社の事務処理の便宜を考慮して設けられた右規定の趣旨にも反する結果となることを理由に挙げている(④判決の評釈として、荒谷裕子・平9重判解一〇一頁、柴田和史・会社判例百選〔第六版〕一九〇頁、片木晴彦・判評四六六号六〇頁、大野正道「商法二〇三条二項と最高裁第三小法廷判決」本誌九三七号七二頁など)。
本件では、権利行使者の指定と通知がない場合に、(1) 会社の側から共有株式に基づく議決権の行使を認めることができるか、(2) できるとすればどのような方法によるべきかが問題となる。
(1)については、商法二〇三条二項は、株式が数人によって共有されている場合、その行使が画一的に明確化されていないと極めて不便であるという会社の事務処理の便宜を考慮して定められたものであるから、会社の側からあえて株主の権利行使を認めることは差し支えないと解されており、これが通説でありほぼ異論がない(新版注釈会社法(3)五二頁〔米津昭子〕、大隅健一郎=今井宏・会社法論上巻〔第三版〕三三四頁、注解会社法上巻二三四頁〔倉沢康一郎〕、基本法コンメ会社法1〔第六版〕一七六頁〔蓮井良憲〕ほか多数。なお、否定説として田中誠二ほか・再全訂コンメンタール会社法四七〇頁、松田二郎=鈴木忠一・条解株式会社法上一一四頁、小室直人=上野泰男・民商六三巻四号九七頁)。
(2)については議論がある。(ア) 多数説は、共有者全員による共同した権利行使のみが許されるとする(米津・前掲、大隅=今井・前掲、倉沢・前掲、蓮井・前掲、片木・前掲、永井和之「商法二〇三条二項の意義」戸田古稀・現代企業法学の課題と展開二一一頁、片木晴彦・判評四六六号六一頁、吉本健一・判評三九七号五八頁、畑肇・リマークス一九九二(上)一〇五頁、青木英夫・金判八八三号四六頁、柳川俊一・昭45最判解説(民)二二頁、榎本恭博・昭53最判解説(民)一七八頁など。下級審判決として徳島地判昭46・1・19下民二二巻一=二号一八頁、本誌二五九号一七六頁)。(イ) これに対して、少数説として、主として個人会社の支配株式が共同相続された場合を念頭に置き、法定相続分に応じた議決権の個別行使を認める見解が唱えられている。少数説の中にも、議決権の行使が株式の内容を変更するような場合(合併、営業譲渡、解散など)は全員一致の行使でなければならないが、それ以外の議案に関する議決権行使は相続分に応じた個別の議決権行使が認められるとの説(山田泰彦「株式の共同相続と相続株主の株主権」早法六九巻四号一七七頁)、会社が認める以上、議案の内容のいかんを問わず、出席した共同相続人が相続分に応じた議決権の行使ができるとの説(田中啓一・ジュリ五五四号一〇九頁、山田攝子「株式の共同相続」本誌七八九号九頁)がある。少数説は、理由の中核として、多数説だと総会への全員出席、全員一致を要求され、総会の開催が困難になり会社運営に支障が生ずることを挙げる。
これに対し、多数説の根拠としては、(a)株式が共有である以上、共有物全体について単一の意思の表れとして議決権が行使される、(b)二〇三条二項の趣旨は、会社に対して株主の権利を行使し得る人格を一個に集約して混乱を避けるというところにある、(c)少数説は、相続による株式の当然分割を認めるに等しい、(d)個別行使を認めると行き詰まった状態を打開できるように見える反面、いっそう収拾のつかない混乱を招くおそれがある、といったところが挙げられよう。多数説では総会の開催が困難になり会社運営に支障が生ずるとの少数説からする批判については、権利行使者の指定は持分価格の過半数ですることができるので、多数決で権利行使者の指定をすれば支障はないとの反論が可能であろう。すなわち、④判決は、共有者の間で協議が整わず総会も開催できないとの事態を回避するために、権利行使者の指定を持分価格の過半数で行うことを肯定したのであり、そのような手段がある以上、権利行使者の指定をしていない場合に、少数説のように各人の個別行使を肯定する必要はないといえるのである。少数説の多数説に対する批判は、④判決が出た後は説得力の乏しいものとなったと思われる。
本判決は、(1)について肯定説、(2)について多数説に立ち、共有者全員が共同して行使する場合を除いて、会社の側から議決権の行使を認めることはできないと判示したものである。本判決は、相続財産である株式につき遺産分割が未了であるため起こりがちな紛争に関し、④判決とともに実務上参考となると思われる判決であるので紹介する。
なお、原判決は、本件株式に基づく議決権の行使が許されない理由として、「権利行使者の指定は全員一致でなければならないから、会社の側から法定相続分に応じた議決権の行使を認めることはできない」旨判示したものであり、上告論旨は、権利行使者の指定は全員一致でなければならないとする判断を争うものであった。原判決の判断は、権利行使者の指定方法について④判決に反しており、また、権利行使者の指定方法の問題と指定がない場合に会社の側から権利行使を認めることの可否の問題とを混同する点においていずれも正当ではないが、本件株式による議決権行使を認めなかった結論は是認し得るので、上告が棄却されたものである。
・+判例(S53.4.14)
理由
上告代理人小川秀一、同島田清の上告理由一及び二について
有限会社の社員総会において、その社員である特定の者を取締役に選任すべき決議をする場合に、その特定の者は、右決議につき特別の利害関係を有する者に当たらず、したがつて、社員として右総会の決議について適法に議決権を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、株式会社において、株主である取締役は、当該取締役の解任に関する株主総会の決議について商法二三九条五項にいう特別の利害関係を有する者に当たらないことは、当裁判所の判例とするところであり(昭和四一年(オ)第八六八号同四二年三月一四日第三小法廷判決・民集二一巻二号三七八頁)、有限会社法四一条において商法二三九条五項の規定を準用する有限会社の社員総会において、社員である特定の者を取締役に選任する場合でも、この理は、同様というべきであるからである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同三について
有限会社において持分が数名の共有に属する場合に、その共有者が社員の権利を行使すべき者一人を選定し、それを会社に届け出たときは、社員総会における共有者の議決権の正当な行使者は、右被選定者となるのであつて、共有者間で総会における個々の決議事項について逐一合意を要するとの取決めがされ、ある事項について共有者の間に意見の相違があつても、被選定者は、自己の判断に基づき議決権を行使しうると解すべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論は、独自の見解であつて、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉田豊 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 本林讓 裁判官 栗本一夫)
(2)権利行使者の指定方法
・過半数説
民法252条本文の管理行為に当たるのだ!
+判例(H9.1.28)
理由
上告代理人田中俊充、同圓山司の上告理由について
有限会社の持分を相続により準共有するに至った共同相続人が、準共有社員としての地位に基づいて社員総会の決議不存在確認の訴えを提起するには、有限会社法二二条、商法二〇三条二項により、社員の権利を行使すべき者(以下「権利行使者」という)としての指定を受け、その旨を会社に通知することを要するのであり、この権利行使者の指定及び通知を欠くときは、特段の事情がない限り、右の訴えについて原告適格を有しないものというべきである(最高裁平成元年(オ)第五七三号同二年一二月四日第三小法廷判決・民集四四巻九号一一六五頁参照)。そして、この場合に、持分の準共有者間において権利行使者を定めるに当たっては、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができるものと解するのが相当である。けだし、準共有者の全員が一致しなければ権利行使者を指定することができないとすると、準共有者のうちの一人でも反対すれば全員の社員権の行使が不可能となるのみならず、会社の運営にも支障を来すおそれがあり、会社の事務処理の便宜を考慮して設けられた右規定の趣旨にも反する結果となるからである。
記録によれば、亡新井重行は、被上告会社らの持分をすべて所有していたものであり、その法定相続人は、妻である上告人新井とよ子(法定相続分二分の一)と子である上告人新井久美子及び同新井千恵子(同各五分の一)の外、亡新井重行と新井幸子との間に生まれた新井吾一(同一〇分の一)の四名であるところ、上告人らは、新井吾一の法定代理人であった新井幸子が権利行使者を指定するための協議に応じないとして、権利行使者の指定及び通知をすることなく、被上告会社らの準共有社員としての地位に基づき、本件各社員総会決議不存在確認の訴えを提起するに至ったことが明らかである。
しかしながら、さきに説示したところからすれば、新井幸子ないし新井吾一が協議に応じないとしても、亡新井重行の相続人間において権利行使者を指定することが不可能ではないし、権利行使者を指定して届け出た場合に被上告会社らがその受理を拒絶したとしても、このことにより会社に対する権利行使は妨げられないものというべきであって、そもそも、有限会社法二二条、商法二〇三条二項による権利行使者の指定及び通知の手続を履践していない以上、上告人らに本件各訴えについて原告適格を認める余地はない。その他、本件において、右の権利行使者の指定及び通知を不要とすべき特段の事情を認めることもできない。
本件各訴えを却下すべきものとした原審の判断は、以上と同旨をいうものとして是認することができる。原判決に所論の違法は認められず、論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官可部恒雄 裁判官園部逸夫 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)
++解説
《解 説》
一 本件は、有限会社の持分の共同相続人が提起した社員総会決議不存在確認の訴えであり、原告適格の有無が争われた事案である。事案の概要等は、次のとおりである。
1 亡Aは、生前、Y社(Y1有限会社及びY2有限会社)の持分をすべて所有しており、その代表取締役を務めていた。
2 Y社は、いずれも平成元年一〇月一八日にAを議長として臨時社員総会を開催し、B1(Aの内縁の妻)を代表取締役に選任する旨の決議等をしたとして、その旨の登記を経ている。
3 Aは、平成元年一一月九日に死亡した。法定相続分は、Xら(Aの妻X1と子X2及びX3)が合計一〇分の九、AとB1との間の未成年の子であるB2が一〇分の一である。
4 B1は、同人がAからY社の持分全部の生前贈与ないし遺贈を受けたから、XらはY社の持分を有していないと主張している。これに対し、Xらは、Aの持分を法定相続分に応じて相続したと主張し、有限会社法二二条、商法二〇三条二項の定める権利行使者の指定及びその通知をすることなく、Y社の持分の準共有者としての地位に基づいて、本件各決議が存在しないことの確認を求める本件各訴えを提起した。
二 通説・判例は、株式ないし有限会社の社員持分について共同相続が開始すると、金銭債権のように法定相続分に応じて当然分割されるのではなく、遺産分割がされるまで共同相続人が相続分に応じてこれを準共有すると解している。そして、株式を相続により準共有するに至った共同相続人は、商法二〇三条二項にいう「株主ノ権利ヲ行使スベキ者」の指定及びその旨の会社に対する通知を欠く場合には、「特段の事情」がない限り、株主総会決議不存在確認の訴えにつき原告適格を有しないとされており(最三小判平2・12・4民集四四巻九号一一六五頁、本誌七六一号一五四頁)、商法二〇三条二項は、有限会社法二二条により有限会社にも準用されている。
Xらは、右の手続を履践することなく本件各訴えを提起しているが、①相続人間で権利行使者を指定するための協議をすることが不可能である、②仮に権利行使者を指定して届け出てもY社が指定届の受理を拒絶することが明白である、との理由で、「特段の事情」が存在すると主張した。しかし、一、二審とも、「特段の事情」は認められないとして、権利行使者の指定・通知のないままに提起された本件各訴えを不適法却下した。
三 有限会社法二二条、商法二〇三条二項の権利行使者の指定については、準共有者全員によってすることを要するという見解(処分行為説ともいわれる。徳島地判昭46・1・19下民二二巻一~二号一八頁、本誌二五九号一七六頁、木内宣彦・判時一一八〇号二一五頁、畑肇・リマークス一九九二〈上〉一〇二頁等)と、持分価格に従って過半数で決すべきであるという見解(管理行為説ともいわれる。東京地判昭60・6・4判時一一六〇号一四五頁、平田浩・昭52最判解説(民)三〇八頁、榎本恭博・昭53最判解説(民)一六六頁、小林俊明・ジュリ九二一号九九頁等)との対立があり、折衷的な見解(出口正義・会社判例百選(第五版)一〇〇頁等)もある。
全員一致説の根拠を要約すると、次のとおりである。すなわち、社員の権利は、利益配当請求権や残余財産分配請求権のような自益権のみならず、議決権やその他の監督是正権のような共益権も包含する。このうち、自益権の行使は、指定された権利行使者にゆだねても他の準共有者の利益に影響を及ぼすことはないが、共益権の行使は、会社の経営を左右しかねないものであり、準共有者の利益に影響を及ぼし、事情によっては、その財産的価値を減少させ、権利の本質に変更を生じさせる可能性がある。しかも、権利行使者に指定された者は、自らの判断に従って社員の権利の全部を行使することができ、それ以外の準共有者は、その潜在的な持分の限度においてすら権利を行使することができない。権利行使者の指定は、このように準共有者の利益に重大な影響を及ぼす共益権の行使を含め、社員としての権利の行使を包括的に権利行使者にゆだねてしまうものである。したがって、権利行使者の指定は、一種の財産管理委託行為ということができ、また、権利行使者に白紙委任をするほどの重要な行為であって、処分行為ないしこれに準ずる行為として全員一致を要すると解すべきである。
これに対し、多数決説は、次のように説く。すなわち、権利行使者の指定は、単に会社に対する関係で権利行使の資格者を決定するものにすぎず、それ以外の者も社員であることには変わりがない。また、権利行使者は、第三者との関係で持分の処分権その他の権限を取得するものでもない。そして、持分の準共有者は、権利行使者を指定することによって初めて権利行使ができるのであるから、指定行為は、準共有者に権利行使の途を開くものであって、すべての準共有者に利益をもたらす行為であるということができ、この限りでは準共有者の利害は一致している。もし全員一致でなければ権利行使者が指定できないとすると、一人の反対によって、全員の社員権の行使が不可能になるのみならず、会社の運営にも支障を来すおそれがあり、不合理であって実際的でない。したがって、権利行使者の指定行為は、管理行為として、多数決ですることができると解すべきである。
このように、全員一致説は、指定された権利行使者の権限からアプローチするもので、共益権とりわけ議決権の行使が会社に及ぼす影響を重視し、これが社員権の本質に変更をもたらす危険があるとする。これに対し、多数決説は、権利行使者の指定行為自体の性質に着目し、指定は、準共有者に権利行使の途を開くものであり、準共有者にとって利益な行為であるとする。
権利行使者の指定には利益と危険という二面があり、指定行為の性質論からいずれの説が妥当かを理論的に決するのは必ずしも容易ではなく、結局、少数派の利益保護(=全員一致説)と会社の円滑な運営(=多数決説)のいずれを優先させるかという政策的判断で決するほかはないと思われる。本判決も、このような理解に立って、多数決説を採用することとしたものであると推測される。
最三小判昭52・11・8民集三一巻六号八四七頁及び最二小判昭53・4・14民集三二巻三号六〇一頁において、最高裁は多数決説を前提にした判断をしていると解する見解もあるが、判文上は必ずしも明確とはいえない。本判決は、最高裁が多数決説を採ることを明確にした点に、重要な意義があるものと思われる。
四 本件について、多数決説に立った場合には、X側の持分価格が九割に達するから、たといBらが協議に応じないとしても、Xらだけでそのうちの一人を権利行使者に指定し、適法に訴えを提起することが可能である。したがって、これが不可能であるとの理解に立って「特段の事情」が存在するという主張は、その前提を欠くものであって失当である。本判決は、本件において、「特段の事情」を認めることはできない旨を判示し、Xらの本件各訴えを却下すべきものとした原審の判断を是認して、上告を棄却した。
五 なお、総会決議不存在確認の訴えを提起しようとする者が、社員持分(株式)の準共有者のうちの少数派に属する者であった場合には、自派の者を権利行使者に指定して訴えを提起することが事実上不可能になるので、「特段の事情」が認められるのではないかが問題となる余地もないではない。会社の円滑な運営を重視するという観点から多数決説が採用されたことからすると、右のような事情があるからといって直ちに「特段の事情」が認められることにはならないように思われるが、いずれにしても、本判決の射程外であり、今後検討されるべき問題の一つといえよう。
ちなみに、前掲最三小判平2・12・4の事案は、共同相続が開始し、株式の準共有状態が発生した後に、被告会社の株主総会が開催されて取締役選任決議等がされ、その旨の登記がされたところ、原告が右決議の不存在確認を求める訴えを提起したというものである。したがって、被告会社は、一方で商法二〇三条二項所定の手続の履践を前提として総会及び決議の有効な成立を主張・立証すべき立場にありながら、他方で、右手続の欠缺を主張して原告適格を争うという矛盾した対応をしており、右判決は、このような被告会社の対応が「訴訟上の防御権を濫用し著しく信義則に反する」との理由により、「特段の事情」が存在するものとして、原告適格を肯定したものである。これに引き続いて出された最三小判平3・2・19本誌七六一号一五四頁も、これと同じ類型の事案である。これに対し、本件事案においては、Xらが瑕疵の存在を主張する総会の決議は、共同相続の開始前にされたものであって、会社側が矛盾した主張を同一手続内で恣意的に使い分けるというものではないから、右先例とは全く事案を異にしている。
・全員一致説
民法251条の共有物の変更に当たるのだ。
(3)Y(少数派)が自己の意思を株主総会に反映させる方法について:議決権の不統一行使
a)問題の所在
b)対会社関係
+(議決権の不統一行使)
第三百十三条 株主は、その有する議決権を統一しないで行使することができる。
2 取締役会設置会社においては、前項の株主は、株主総会の日の三日前までに、取締役会設置会社に対してその有する議決権を統一しないで行使する旨及びその理由を通知しなければならない。
3 株式会社は、第一項の株主が他人のために株式を有する者でないときは、当該株主が同項の規定によりその有する議決権を統一しないで行使することを拒むことができる。
c)共有の内部関係
d)判例との関係
3.対抗関係~相続と株主名簿の書き換え
+(株式の譲渡の対抗要件)
第百三十条 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。
・失念株のケース
+判例(H19.3.8)
理由
上告代理人川島英明の上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 上告人らは、平成12年2月15日、A(以下「A」という。)を通じて、それぞれ、B(以下「B」という。)を転換対象銘柄とする他社株式転換特約付社債を購入し、同年5月18日、その償還として、Bの株式各29株(以下、併せて「本件親株式」という。)を取得した。
(2) 上告人らは、平成12年10月31日、Aから本件親株式に係る原判決別紙1株券目録1(1)及び(2)記載の株券合計58枚の交付を受けたが、その際、本件親株式につき名義書換手続をしなかったため、本件親株式の株主名簿上の株主は、かつて本件親株式の株主であった被上告人(当時の商号はC)のままであった。
(3) Bは、平成14年1月25日開催の取締役会において、同年3月31日を基準日として普通株式1株を5株に分割する旨の株式分割(以下「本件株式分割」という。)の決議をし、同年5月15日、これを実施した。
(4) 被上告人は、本件親株式の株主名簿上の株主として、そのころ、Bから本件株式分割により増加した新株式(以下「本件新株式」という。)に係る原判決別紙1株券目録2記載の株券232枚の交付を受けた(以下、これらの株券を併せて「本件新株券」という。)。
(5) 被上告人は、Bから本件新株式に係る配当金として、1万4235円(税金を控除した額)の配当を受けた。
(6) 被上告人は、平成14年11月8日、第三者に対して本件新株式を売却し、売却代金5350万2409円(経費を控除した額)を取得した。
(7) 上告人らは、平成15年10月10日ころ、Bに対し、本件親株式について名義書換手続を求め、そのころ、被上告人に対し、本件新株券及び配当金の引渡しを求めた。
これに対し、被上告人は、日本証券業協会が定める「株式の名義書換失念の場合における権利の処理に関する規則(統一慣習規則第2号)」により、本件新株券の返還はできないなどとして、上告人らそれぞれに対し、各6105円のみを支払った。
(8) 上告人らは、被上告人は法律上の原因なく上告人らの財産によって本件新株式の売却代金5350万2409円及び配当金8万0590円の利益を受け、そのために上告人らに損失を及ぼしたと主張して、それぞれ、被上告人に対し、不当利得返還請求権に基づき、上記売却代金の2分の1である2675万1204円(円未満切捨て。以下同じ。)及び上記配当金の2分の1である4万0295円の合計金相当額である2679万1499円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴えを提起した。
(9) 第1審は、被上告人は、上告人らに対し、それぞれ、口頭弁論終結時における本件新株式の価格相当額2680万7484円及び配当金1万4670円の2分の1である7335円の合計額である2681万4819円から既払額6105円を差し引いた2680万8714円の不当利得返還義務を負うとして、上記金額の範囲内である上告人らの請求をいずれも認容した。
原審は、平成17年5月18日に口頭弁論を終結したが、その前日である同月17日のBの株式の終値は16万1000円であった。
2 原審は、次のとおり判断して、上告人らの請求をそれぞれ1867万7012円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余をいずれも棄却した。
(1) 被上告人は、本件新株式及び配当金を取得し、法律上の原因なくして上告人らの財産により利益を受け、これによって上告人らに損失を及ぼしたものであるから、その利益を返還すべき義務を負う。
(2) ところで、本件新株式は上場株式であり代替性を有するから、被上告人の得た利益及び上告人らが受けた損失は、いずれも本件株式分割により増加した本件新株式と同一の銘柄及び数量の株式である。
したがって、上告人らが本件新株券そのものの返還に代えて本件新株式の価格の返還を求めることは許されるが、その場合に返還を請求できる金額は、売却時の時価によるのでなければ公平に反するという特段の事情がない限り、被上告人が市場において本件新株式と同一の銘柄及び数量の株式を調達して返還する際の価格、すなわち事実審の口頭弁論終結時又はこれに近い時点における本件新株式の価格によって算定された価格相当額である。
本件においては上記特段の事情は認められないから、上告人らの被上告人に対する請求は、それぞれ、事実審の口頭弁論終結日の前日である平成17年5月17日のBの株式の終値である1株16万1000円に116株を乗じた1867万6000円に配当金1万4235円の2分の1である7117円を加えた額から既払額6105円を差し引いた1867万7012円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
3 しかしながら、原審の上記2(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、受益者にその利得の返還義務を負担させるものである(最高裁昭和45年(オ)第540号同49年9月26日第一小法廷判決・民集28巻6号1243頁参照)。
受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し、その後これを第三者に売却処分した場合、その返還すべき利益を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると解すると、その物の価格が売却後に下落したり、無価値になったときには、受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが、これは公平の見地に照らして相当ではないというべきである。また、逆に同種・同等・同量の物の価格が売却後に高騰したときには、受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが、これも公平の見地に照らして相当ではなく、受けた利益を返還するという不当利得制度の本質に適合しない。
そうすると、受益者は、法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解するのが相当である。大審院昭和18年(オ)第521号同年12月22日判決・法律新聞4890号3頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。
4 以上によれば、上記原則と異なる解釈をすべき事情のうかがわれない本件においては、被上告人は、上告人らに対し、本件新株式の売却代金及び配当金の合計金相当額を不当利得として返還すべき義務を負うものというべきであって、これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。
そして、前記事実関係によれば、上告人らの請求は、それぞれ、被上告人が取得した本件新株式の売却代金5350万2409円の2分の1である2675万1204円及び配当金1万4235円の2分の1である7117円の合計額である2675万8321円から既払額である6105円を差し引いた2675万2216円並びにこれに対する平成16年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却すべきである。したがって、これと異なる原判決を主文のとおり変更することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉徳治 裁判官 才口千晴 裁判官 涌井紀夫)
+(基準日)
第百二十四条 株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。
2 基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から三箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。
3 株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の二週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなければならない。ただし、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときは、この限りでない。
4 基準日株主が行使することができる権利が株主総会又は種類株主総会における議決権である場合には、株式会社は、当該基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を当該権利を行使することができる者と定めることができる。ただし、当該株式の基準日株主の権利を害することができない。
5 第一項から第三項までの規定は、第百四十九条第一項に規定する登録株式質権者について準用する。
+(株主に対する通知等)
第百二十六条 株式会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主の住所(当該株主が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。
2 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
3 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、株式会社が株主に対してする通知又は催告を受領する者一人を定め、当該株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければならない。この場合においては、その者を株主とみなして、前二項の規定を適用する。
4 前項の規定による共有者の通知がない場合には、株式会社が株式の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる。
5 前各項の規定は、第二百九十九条第一項(第三百二十五条において準用する場合を含む。)の通知に際して株主に書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供する場合について準用する。この場合において、第二項中「到達したもの」とあるのは、「当該書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供があったもの」と読み替えるものとする。
+(配当財産の交付の方法等)
第四百五十七条 配当財産(第四百五十五条第二項の規定により支払う金銭及び前条の規定により支払う金銭を含む。以下この条において同じ。)は、株主名簿に記載し、又は記録した株主(登録株式質権者を含む。以下この条において同じ。)の住所又は株主が株式会社に通知した場所(第三項において「住所等」という。)において、これを交付しなければならない。
2 前項の規定による配当財産の交付に要する費用は、株式会社の負担とする。ただし、株主の責めに帰すべき事由によってその費用が増加したときは、その増加額は、株主の負担とする。
3 前二項の規定は、日本に住所等を有しない株主に対する配当財産の交付については、適用しない。
Ⅲ 問2について
1.YZの株式保有状況及び名義書換に関して
名義書き換え未了の株主について
+判例(S30.10.20)
理由
論旨第一点について。
商法二〇六条一項(昭和二五年法律一六七号による改正前の、本件株主総会決議当時の同条項をいう。)によれば、記名株式の移転は、取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載しなければ会社には対抗できないが、会社からは右移転のあつたことを主張することは妨げない法意と解するを相当とする。従つて、本件においては、訴外Aが訴外Bの被上告会社の株式一〇株を譲り受けたことについて、株主名簿に記載してないことは所論のとおりであるが、それは右譲渡をもつて被上告会社に対抗し得ないというに止まり、会社側においては、株主名簿の書換が何らかの都合でおくれていても、右株式の譲渡を認めて譲受人Aを株主として取り扱うことを妨げるものではない。そして仮に所論のとおり、会杜がAを株主名簿の記載により五〇〇株の株主と認めてこれに株主総会招集の通知を発したものであるとしても、原審は、証拠により、Aが昭和一八年一二月一日Bから被上告会社の株式一〇株を譲り受け、その頃被上告会社に名義書換を請求したことを認定しているのであるから、被上告会社が、Aを、その所有株数を何程と認めたかは別として、株主と認めてこれに株主総会招集の通知を発したこと及びこれに基き同人が株主総会に出頭したこと自体は、結局において違法ということはできない。それ故所論は採用できない。
同第二点について。
原審は証拠により昭和一八年一二月一日BよりAへ被上告会社の株式一〇株が譲渡されたことを認定した上、本件株主総会当時Aは少くとも一〇株の株主であつたものと認めるのを相当とすると判示しているのである。それ故原判決には所論のような違法は認められない。
同第三点、第四点について。
原審は、本件において、株主総会の決議事項について特別の利害関係を有する株主の株式を表決から除外する措置をとらなかつたこと、株主でない者に株主総会招集の通知を発したこと等の違法があつたとしても、若しそのような違法がなかつたならば決議の結果が違つたかもしれないと推測されるような事情は、乙一号証によつて認めうる本件株主総会の経過、その他の証拠から見て、存在しないと認定し、そのような場合においては、裁判所は株主総会の決議の取消請求を許容すべきでなく、そのことは、商法二五一条が昭和二五年法律一六七号商法の一部を改正する法律によつて削除されたと否とに拘らない旨を判示した。思うに、商法二五一条は、昭和二五年法律一六七号商法の一部を改正する法律によつて削除されたが、それは、従来の同条の規定が、裁判所に一切の事情の斟酌を許し、従つてその裁量権を余り広汎に認めすぎる如く解されるおそれがあつたため削除されたものであつて、商法二四七条によつて提起された株主総会の決議取消の訴訟において裁判所が合理的な判断の下に右取消請求を認容するか否かを決しうることまでも否定しようとする趣旨と解すベきではなく、たとえ株主総会招集の手続又はその決議の方法が違法であつても、株主総会における議事の経過その他から判断して、その違法が決議の結果に異動を及ぼすと推測されるような事情の存在は認められないと原審の認定した本件のような場合(原審の右認定は当審においても是認できる。)において本件請求を棄却した原判示は正当であつて、所論は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)
2.Zに議決権を行使させたことの適法性
(1)問題の所在
+(共有者による権利の行使)
第百六条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
(2)106条ただし書きの適用範囲についての検討
(3)H27.2.19判決の理解
+
理 由
上告代理人清永敬文,上告復代理人小林敬正の上告受理申立て理由第3の1及び第4について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人は,特例有限会社であり,その発行済株式の総数は3000株である。上記3000株のうち2000株は,Aが保有していたが,Aが平成19年に死亡したため,いずれもAの妹である被上告人及びBが法定相続分である各2分の1の割合で共同相続した。Aの遺産の分割は未了であり,上記2000株は,被上告人とBとの共有に属する(以下,上記2000株を「本件準共有株式」という。)。
(2) Bは,平成22年11月11日に開催された上告人の臨時株主総会(以下「本件総会」という。)において,本件準共有株式の全部について議決権の行使(以下「本件議決権行使」という。)をした。上告人の発行済株式のうちその余の1000株を有するCも,本件総会において,議決権の行使をした。他方,被上告人は,本件総会に先立ち,その招集通知を受けたが,上告人に対し,本件総会には都合により出席できない旨及び本件総会を開催しても無効である旨を通知し,本件総会には出席しなかった。
(3) 本件総会において,上記(2)の各議決権の行使により,①Dを取締役に選任する旨の決議,②Dを代表取締役に選任する旨の決議並びに③本店の所在地を変更する旨の定款変更の決議及び本店を移転する旨の決議がされた(以下,上記各決議を「本件各決議」という。)。
(4) 本件準共有株式について,会社法106条本文の規定に基づく権利を行使する者の指定及び上告人に対するその者の氏名又は名称の通知はされていなかったが,上告人は,本件総会において,本件議決権行使に同意した。
2 本件は,被上告人が,本件各決議には決議の方法等につき法令違反があると主張して,上告人に対し,会社法831条1項1号に基づき,本件各決議の取消しを請求する訴えである。会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたままされた本件議決権行使が,同条ただし書の上告人の同意により適法なものとなるか否かが争われている。
3 原審は,会社法106条ただし書について,同条本文の規定に基づく権利を行使する者の指定及び通知の手続を欠いていても,株式の共有者間において当該株式についての権利の行使に関する協議が行われ,意思統一が図られている場合に限って,株式会社の同意を要件に当該権利の行使を認めたものであるとした。その上で,原審は,本件は上記の場合には当たらないから,上告人が本件議決権行使に同意していても,本件議決権行使は不適法であり,決議の方法に法令違反があることになるとして,本件各決議を取り消した。
4 所論は,会社法106条ただし書は株式会社の同意さえあれば特定の共有者が共有に属する株式について適法に権利を行使することができる旨を定めた規定であるというものである。
5 会社法106条本文は,「株式が二以上の者の共有に属するときは,共有者は,当該株式についての権利を行使する者一人を定め,株式会社に対し,その者の氏名又は名称を通知しなければ,当該株式についての権利を行使することができない。」と規定しているところ,これは,共有に属する株式の権利の行使の方法について,民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(同法264条ただし書)を設けたものと解される。その上で,会社法106条ただし書は,「ただし,株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は,この限りでない。」と規定しているのであって,これは,その文言に照らすと,株式会社が当該同意をした場合には,共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解される。そうすると,共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が同条ただし書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではないと解するのが相当である。そして,共有に属する株式についての議決権の行使は,当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である。
6 これを本件についてみると,本件議決権行使は会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたままされたものであるところ,本件議決権行使の対象となった議案は,①取締役の選任,②代表取締役の選任並びに③本店の所在地を変更する旨の定款の変更及び本店の移転であり,これらが可決されることにより直ちに本件準共有株式が処分され,又はその内容が変更されるなどの特段の事情は認められないから,本件議決権行使は,本件準共有株式の管理に関する行為として,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものというべきである。そして,前記事実関係によれば,本件議決権行使をしたBは本件準共有株式について2分の1の持分を有するにすぎず,また,残余の2分の1の持分を有する被上告人が本件議決権行使に同意していないことは明らかである。そうすると,本件議決権行使は,各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられているものとはいえず,民法の共有に関する規定に従ったものではないから,上告人がこれに同意しても,適法となるものではない。
7 以上によれば,本件議決権行使が不適法なものとなる結果,本件各決議は,決議の方法が法令に違反するものとして,取り消されるべきものである。これと結論を同じくする原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 白木 勇 裁判官山浦善樹 裁判官 池上政幸)
(4)本問の解決
3.Yが決議取り消し訴訟を提起することの可否
+判例(H2.12.4)
理由
一 上告代理人楠田堯爾、同加藤知明、同田中穰の上告理由第一点及び第二点並びに上告補助参加人代理人初鹿野正の上告理由第二点及び第三点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
二 上告代理人楠田堯爾、同加藤知明、同田中穰の上告理由第三点及び上告補助参加人代理人初鹿野正の上告理由第一点について
株式を相続により準共有するに至った共同相続人は、商法二〇三条二項の定めるところに従い、右株式につき「株主ノ権利ヲ行使スベキ者一人」(以下「権利行使者」という。)を定めて会社に通知し、この権利行使者において株主権を行使することを要するところ(最高裁昭和四二年(オ)第八六七号同四五年一月二二日第一小法廷判決・民集二四巻一号一頁参照)、右共同相続人が準共有株主としての地位に基づいて株主総会の決議不存在確認の訴えを提起する場合も、右と理を異にするものではないから、権利行使者としての指定を受けてその旨を会社に通知していないときは、特段の事情がない限り、原告適格を有しないものと解するのが相当である。
しかしながら、株式を準共有する共同相続人間において権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠く場合であっても、右株式が会社の発行済株式の全部に相当し、共同相続人のうちの一人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとしてその旨登記されている本件のようなときは、前述の特段の事情が存在し、他の共同相続人は、右決議の不存在確認の訴えにつき原告適格を有するものというべきである。けだし、商法二〇三条二項は、会社と株主との関係において会社の事務処理の便宜を考慮した規定であるところ、本件に見られるような場合には、会社は、本来、右訴訟において、発行済株式の全部を準共有する共同相続人により権利行使者の指定及び会社に対する通知が履践されたことを前提として株主総会の開催及びその総会における決議の成立を主張・立証すべき立場にあり、それにもかかわらず、他方、右手続の欠缺を主張して、訴えを提起した当該共同相続人の原告適格を争うということは、右株主総会の瑕疵を自認し、また、本案における自己の立場を否定するものにほかならず、右規定の趣旨を同一訴訟手続内で恣意的に使い分けるものとして、訴訟上の防御権を濫用し著しく信義則に反して許されないからである。
記録によれば、(一) 被上告人の本件訴えは、(1) Aは、上告会社の発行済株式の全部である七〇〇〇株(以下「本件株式」という。)を所有していたところ、昭和五七年三月二四日死亡し、妻B及び被上告人(長男)、上告会社代表者C(二男)、上告補助参加人D(三男)外四名の子が本件株式を共同相続し、昭和六〇年二月二三日右Bも死亡して、被上告人外六名がこれを共同相続した、(2) 同年二月二四日開催の上告会社の株主総会においてCの外E及びFを取締役に、Dを監査役にそれぞれ選任する旨の決議(以下「本件決議」という。)がされたとして、同年三月一一日その旨商業登記簿に登記された、(3) しかし、右株主総会が開催されて本件決議がされた事実は存在しない旨主張して、上告会社に対し、本件決議の不存在確認を求めるものであること、(二) これに対し、上告会社は、共同相続人間において、本件株式の遺産分割は未了であり、右株式につき権利行使者を定めてその旨上告会社に通知する手続もされていないとして被上告人の訴えの利益ないし原告適格を争っていることが明らかである。そうすると、前記説示に照らし、本件においては、被上告人が本件決議の不存在確認の訴えを提起しうる特段の事情が存在するものというべきであり、被上告人の原告適格を肯認した原審の判断は、その結論において是認することができる。論旨は、以上と異なる見解に立ち、又は原判決の結論に影響を及ぼさない部分をとらえてその違法をいうものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 坂上壽夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)