行政法 基本行政法 行政立法 法規命令


・行政立法=行政機関によって定立される規範
国民の権利・義務に直接かかわるかどうかによって、法規命令と行政規則に区別される。

1.行政立法の種類と許容性
(1)法規命令
委任命令・執行命令

(2)行政規則

2.法規命令
(1)委任する法律側の問題~白紙委任の禁止

+判例(H24.12.7)
理 由
 1 弁護人小林容子ほか及び被告人本人の各上告趣意のうち,国家公務員法110条1項19号(平成19年法律第108号による改正前のもの),102条1項,人事院規則14-7(政治的行為)6項7号の各規定の憲法21条1項,15条,19条,31条,41条,73条6号違反及び上記各規定を本件に適用することの憲法21条1項,31条違反をいう点について
 (1) 原判決及びその是認する第1審判決並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
 ア 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,厚生労働省大臣官房統計情報部社会統計課長補佐として勤務する国家公務員(厚生労働事務官)であったが,日本共産党を支持する目的で,平成17年9月10日午後0時5分頃,東京都世田谷区(以下省略)所在の警視庁職員住宅であるAの各集合郵便受け合計32か所に,同党の機関紙である「しんぶん赤旗2005年9月号外」合計32枚を投函して配布した。」というものであり,これが国家公務員法(以下「本法」という。)110条1項19号(平成19年法律第108号による改正前のもの),102条1項,人事院規則14-7(政治的行為)(以下「本規則」という。)6項7号(以下,これらの規定を合わせて「本件罰則規定」という。)に当たるとして起訴された。
 イ 被告人が上記公訴事実記載の機関紙の配布行為(以下「本件配布行為」という。)を行ったことは,証拠上明らかである。
 ウ 被告人は,本件当時,厚生労働省大臣官房統計情報部社会統計課長補佐であり,庶務係,企画指導係及び技術開発係担当として部下である各係職員を直接指揮するとともに,同課に存する8名の課長補佐の筆頭課長補佐(総括課長補佐)として他の課長補佐等からの業務の相談に対応するなど課内の総合調整等を行う立場にあった。また,国家公務員法108条の2第3項ただし書所定の管理職員等に当たり,一般の職員と同一の職員団体の構成員となることのない職員であった。
 (2) 第1審判決は,本件罰則規定は憲法21条1項,31条等に違反せず合憲であるとし,本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に当たるとして,被告人を有罪と認め,被告人を罰金10万円に処した。
 原判決は,第1審判決を是認して控訴を棄却した。
 (3) 所論は,① 本件罰則規定は,過度に広汎な規制であり,かつ,規制の目的,手段も相当でないこと,公安警察による濫用や人権侵害を招くことから,憲法21条1項,15条,19条,31条に違反する,② 本法102条1項による「政治的行為」の人事院規則への委任は,白紙委任であるから,本件罰則規定は憲法31条,41条,73条6号に違反する,③ 本件配布行為には法益侵害の危険がなく,これに対して本件罰則規定を適用することは,憲法21条1項,31条に違反すると主張する。
 ア そこで検討するに,本法102条1項は,「職員は,政党又は政治的目的のために,寄附金その他の利益を求め,若しくは受領し,又は何らの方法を以てするを問わず,これらの行為に関与し,あるいは選挙権の行使を除く外,人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」と規定しているところ,同項は,行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することをその趣旨とするものと解される。すなわち,憲法15条2項は,「すべて公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない。」と定めており,国民の信託に基づく国政の運営のために行われる公務は,国民の一部でなく,その全体の利益のために行われるべきものであることが要請されている。その中で,国の行政機関における公務は,憲法の定める我が国の統治機構の仕組みの下で,議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策を忠実に遂行するため,国民全体に対する奉仕を旨として,政治的に中立に運営されるべきものといえる。そして,このような行政の中立的運営が確保されるためには,公務員が,政治的に公正かつ中立的な立場に立って職務の遂行に当たることが必要となるものである。このように,本法102条1項は,公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することを目的とするものと解される。
他方,国民は,憲法上,表現の自由(21条1項)としての政治活動の自由を保障されており,この精神的自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって,民主主義社会を基礎付ける重要な権利であることに鑑みると,上記の目的に基づく法令による公務員に対する政治的行為の禁止は,国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきものである。
このような本法102条1項の文言,趣旨,目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え,同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると,同項にいう「政治的行為」とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し,同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。そして,その委任に基づいて定められた本規則も,このような同項の委任の範囲内において,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為の類型を規定したものと解すべきである。上記のような本法の委任の趣旨及び本規則の性格に照らすと,本件罰則規定に係る本規則6項7号については,同号が定める行為類型に文言上該当する行為であって,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものを同号の禁止の対象となる政治的行為と規定したものと解するのが相当である。このような行為は,それが一公務員のものであっても,行政の組織的な運営の性質等に鑑みると,当該公務員の職務権限の行使ないし指揮命令や指導監督等を通じてその属する行政組織の職務の遂行や組織の運営に影響が及び,行政の中立的運営に影響を及ぼすものというべきであり,また,こうした影響は,勤務外の行為であっても,事情によってはその政治的傾向が職務内容に現れる蓋然性が高まることなどによって生じ得るものというべきである。
そして,上記のような規制の目的やその対象となる政治的行為の内容等に鑑みると,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるかどうかは,当該公務員の地位,その職務の内容や権限等,当該公務員がした行為の性質,態様,目的,内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。具体的には,当該公務員につき,指揮命令や指導監督等を通じて他の職員の職務の遂行に一定の影響を及ぼし得る地位(管理職的地位)の有無,職務の内容や権限における裁量の有無,当該行為につき,勤務時間の内外,国ないし職場の施設の利用の有無,公務員の地位の利用の有無,公務員により組織される団体の活動としての性格の有無,公務員による行為と直接認識され得る態様の有無,行政の中立的運営と直接相反する目的や内容の有無等が考慮の対象となるものと解される。
 イ そこで,進んで本件罰則規定が憲法21条1項,15条,19条,31条,41条,73条6号に違反するかを検討する。この点については,本件罰則規定による政治的行為に対する規制が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかによることになるが,これは,本件罰則規定の目的のために規制が必要とされる程度と,規制される自由の内容及び性質,具体的な規制の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁等)。そこで,まず,本件罰則規定の目的は,前記のとおり,公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することにあるところ,これは,議会制民主主義に基づく統治機構の仕組みを定める憲法の要請にかなう国民全体の重要な利益というべきであり,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為を禁止することは,国民全体の上記利益の保護のためであって,その規制の目的は合理的であり正当なものといえる。他方,本件罰則規定により禁止されるのは,民主主義社会において重要な意義を有する表現の自由としての政治活動の自由ではあるものの,前記アのとおり,禁止の対象とされるものは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為に限られ,このようなおそれが認められない政治的行為や本規則が規定する行為類型以外の政治的行為が禁止されるものではないから,その制限は必要やむを得ない限度にとどまり,前記の目的を達成するために必要かつ合理的な範囲のものというべきである。そして,上記の解釈の下における本件罰則規定は,不明確なものとも,過度に広汎な規制であるともいえないと解される。また,既にみたとおり,本法102条1項が人事院規則に委任しているのは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為の行為類型を規制の対象として具体的に定めることであるから,同項が懲戒処分の対象と刑罰の対象とで殊更に区別することなく規制の対象となる政治的行為の定めを人事院規則に委任しているからといって,憲法上禁止される白紙委任に当たらないことは明らかである。なお,このような禁止行為に対しては,服務規律違反を理由とする
懲戒処分のみではなく,刑罰を科すことをも制度として予定されているが,これは常に刑罰を科すという趣旨ではなく,国民全体の上記利益を損なう影響の重大性等に鑑みて禁止行為の内容,態様等が懲戒処分等では対応しきれない場合も想定されるためであり,あり得べき対応というべきであって,刑罰を含む規制であることをもって直ちに必要かつ合理的なものであることが否定されるものではない。
以上の諸点に鑑みれば,本件罰則規定は憲法21条1項,15条,19条,31条,41条,73条6号に違反するものではないというべきであり,このように解することができることは,当裁判所の判例(最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁,最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁,最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁,最高裁昭和56年(オ)第609号同61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁,最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁,最高裁平成10年(分ク)第1号同年12月1日大法廷決定・民集52巻9号1761頁)の趣旨に徴して明らかである。
 ウ 次に,本件配布行為が本件罰則規定の構成要件に該当するかを検討するに,本件配布行為が本規則6項7号が定める行為類型に文言上該当する行為であることは明らかであるが,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものかどうかについて,前記諸般の事情を総合して判断する。
前記のとおり,被告人は,厚生労働省大臣官房統計情報部社会統計課長補佐であり,庶務係,企画指導係及び技術開発係担当として部下である各係職員を直接指揮するとともに,同課に存する8名の課長補佐の筆頭課長補佐(総括課長補佐)として他の課長補佐等からの業務の相談に対応するなど課内の総合調整等を行う立場にあり,国家公務員法108条の2第3項ただし書所定の管理職員等に当たり,一般の職員と同一の職員団体の構成員となることのない職員であったものであって,指揮命令や指導監督等を通じて他の多数の職員の職務の遂行に影響を及ぼすことのできる地位にあったといえる。このような地位及び職務の内容や権限を担っていた被告人が政党機関紙の配布という特定の政党を積極的に支援する行動を行うことについては,それが勤務外のものであったとしても,国民全体の奉仕者として政治的に中立な姿勢を特に堅持すべき立場にある管理職的地位の公務員が殊更にこのような一定の政治的傾向を顕著に示す行動に出ているのであるから,当該公務員による裁量権を伴う職務権限の行使の過程の様々な場面でその政治的傾向が職務内容に現れる蓋然性が高まり,その指揮命令や指導監督を通じてその部下等の職務の遂行や組織の運営にもその傾向に沿った影響を及ぼすことになりかねない。したがって,これらによって,当該公務員及びその属する行政組織の職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれが実質的に生ずるものということができる
そうすると,本件配布行為が,勤務時間外である休日に,国ないし職場の施設を利用せずに,それ自体は公務員としての地位を利用することなく行われたものであること,公務員により組織される団体の活動としての性格を有しないこと,公務員であることを明らかにすることなく,無言で郵便受けに文書を配布したにとどまるものであって,公務員による行為と認識し得る態様ではなかったことなどの事情を考慮しても,本件配布行為には,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められ,本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当するというべきである。そして,このように公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる本件配布行為に本件罰則規定を適用することが憲法21条1項,31条に違反しないことは,前記イにおいて説示したところに照らし,明らかというべきである。
エ 以上のとおりであり,原判決に所論の憲法違反はなく,論旨は採用することができない。
 2 その余の各上告趣意について
弁護人ら及び被告人本人のその余の各上告趣意は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 3 よって,刑訴法408条により,裁判官須藤正彦の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見がある。

+補足意見
裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見の採る法解釈等に関し,以下の点について,私見を補足しておき
たい。
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 1 最高裁昭和49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁(いわゆ
る猿払事件大法廷判決)との整合性について
 (1) 猿払事件大法廷判決の法令解釈の理解等
猿払事件大法廷判決は,国家公務員の政治的行為に関し本件罰則規定の合憲性と
適用の有無を判示した直接の先例となるものである。そこでは,特定の政党を支持
する政治的目的を有する文書の掲示又は配布をしたという行為について,本件罰則
規定に違反し,これに刑罰を適用することは,たとえその掲示又は配布が,非管理
職の現業公務員でその職務内容が機械的労務の提供にとどまるものにより,勤務時
間外に,国の施設を利用することなく,職務を利用せず又はその公正を害する意図
なく,かつ,労働組合活動の一環として行われた場合であっても憲法に違反しな
い,としており,本件罰則規定の禁止する「政治的行為」に限定を付さないという
法令解釈を示しているようにも読めなくはない。しかしながら,判決による司法判
断は,全て具体的な事実を前提にしてそれに法を適用して事件を処理するために,
更にはそれに必要な限度で法令解釈を展開するものであり,常に採用する法理論な
いし解釈の全体像を示しているとは限らない。上記の政治的行為に関する判示部分
も,飽くまでも当該事案を前提とするものである。すなわち,当該事案は,郵便局
に勤務する管理職の地位にはない郵政事務官で,地区労働組合協議会事務局長を務
めていた者が,衆議院議員選挙に際し,協議会の機関決定に従い,協議会を支持基
盤とする特定政党を支持する目的をもって,同党公認候補者の選挙用ポスター6枚
を自ら公営掲示場に掲示し,また,その頃4回にわたり,合計184枚のポスター
の掲示を他に依頼して配布したというものである。このような行為の性質・態様等
については,勤務時間外に国の施設を利用せずに行われた行為が中心であるとはい
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え,当該公務員の所属組織による活動の一環として当該組織の機関決定に基づいて
行われ,当該地区において公務員が特定の政党の候補者の当選に向けて積極的に支
援する行為であることが外形上一般人にも容易に認識されるものであるから,当該
公務員の地位・権限や職務内容,勤務時間の内外を問うまでもなく,実質的にみて
「公務員の職務の遂行の中立性を損なうおそれがある行為」であると認められるも
のである。このような事案の特殊性を前提にすれば,当該ポスター掲示等の行為が
本件罰則規定の禁止する政治的行為に該当することが明らかであるから,上記のよ
うな「おそれ」の有無等を特に吟味するまでもなく(「おそれ」は当然認められる
として)政治的行為該当性を肯定したものとみることができる。猿払事件大法廷判
決を登載した最高裁判所刑集28巻9号393頁の判決要旨五においても,「本件
の文書の掲示又は配布(判文参照)に」本件罰則規定を適用することは憲法21
条,31条に違反しない,とまとめられているが,これは,判決が摘示した具体的
な本件文書の掲示又は配布行為を対象にしており,当該事案を前提にした事例判断
であることが明確にされているところである。そうすると,猿払事件大法廷判決の
上記判示は,本件罰則規定自体の抽象的な法令解釈について述べたものではなく,
当該事案に対する具体的な当てはめを述べたものであり,本件とは事案が異なる事
件についてのものであって,本件罰則規定の法令解釈において本件多数意見と猿払
事件大法廷判決の判示とが矛盾・抵触するようなものではないというべきである。
 (2) 猿払事件大法廷判決の合憲性審査基準の評価
 なお,猿払事件大法廷判決は,本件罰則規定の合憲性の審査において,公務員の
職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無等を区別せずその政治的
行為を規制することについて,規制目的と手段との合理的関連性を認めることがで
– 11 –
きるなどとしてその合憲性を肯定できるとしている。この判示部分の評価について
は,いわゆる表現の自由の優越的地位を前提とし,当該政治的行為によりいかなる
弊害が生ずるかを利益較量するという「厳格な合憲性の審査基準」ではなく,より
緩やかな「合理的関連性の基準」によったものであると説くものもある。しかしな
がら,近年の最高裁大法廷の判例においては,基本的人権を規制する規定等の合憲
性を審査するに当たっては,多くの場合,それを明示するかどうかは別にして,一
定の利益を確保しようとする目的のために制限が必要とされる程度と,制限される
自由の内容及び性質,これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を具体的に比
較衡量するという「利益較量」の判断手法を採ってきており,その際の判断指標と
して,事案に応じて一定の厳格な基準(明白かつ現在の危険の原則,不明確ゆえに
無効の原則,必要最小限度の原則,LRAの原則,目的・手段における必要かつ合
理性の原則など)ないしはその精神を併せ考慮したものがみられる。もっとも,厳
格な基準の活用については,アプリオリに,表現の自由の規制措置の合憲性の審査
基準としてこれらの全部ないし一部が適用される旨を一般的に宣言するようなこと
をしないのはもちろん,例えば,「LRA」の原則などといった講学上の用語をそ
のまま用いることも少ない。また,これらの厳格な基準のどれを採用するかについ
ては,規制される人権の性質,規制措置の内容及び態様等の具体的な事案に応じ
て,その処理に必要なものを適宜選択して適用するという態度を採っており,さら
に,適用された厳格な基準の内容についても,事案に応じて,その内容を変容させ
あるいはその精神を反映させる限度にとどめるなどしており(例えば,最高裁昭和
58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁(「よど号乗っ取り事件」
新聞記事抹消事件)は,「明白かつ現在の危険」の原則そのものではなく,その基
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本精神を考慮して,障害発生につき「相当の蓋然性」の限度でこれを要求する判示
をしている。),基準を定立して自らこれに縛られることなく,柔軟に対処してい
るのである(この点の詳細については,最高裁平成4年7月1日大法廷判決・民集
46巻5号437頁(いわゆる成田新法事件)についての当職[当時は最高裁調査
官]の最高裁判例解説民事篇・平成4年度235頁以下参照。)。
 この見解を踏まえると,猿払事件大法廷判決の上記判示は,当該事案について
は,公務員組織が党派性を持つに至り,それにより公務員の職務遂行の政治的中立
性が損なわれるおそれがあり,これを対象とする本件罰則規定による禁止は,あえ
て厳格な審査基準を持ち出すまでもなく,その政治的中立性の確保という目的との
間に合理的関連性がある以上,必要かつ合理的なものであり合憲であることは明ら
かであることから,当該事案における当該行為の性質・態様等に即して必要な限度
での合憲の理由を説示したにとどめたものと解することができる(なお,判文中に
は,政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止されることにより失われ
る利益との均衡を検討することを要するといった利益較量論的な説示や,政治的行
為の禁止が表現の自由に対する合理的でやむを得ない制限であると解されるといっ
た説示も見られるなど,厳格な審査基準の採用をうかがわせるものがある。)。ち
なみに,最高裁平成10年12月1日大法廷決定・民集52巻9号1761頁(裁
判官分限事件)も,裁判所法52条1号の「積極的に政治運動をすること」の意味
を十分に限定解釈した上で合憲性の審査をしており,厳格な基準によりそれを肯定
したものというべきであるが,判文上は,その目的と禁止との間に合理的関連性が
あると説示するにとどめている。これも,それで足りることから同様の説示をした
ものであろう。
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 そうであれば,本件多数意見の判断の枠組み・合憲性の審査基準と猿払事件大法
廷判決のそれとは,やはり矛盾・抵触するものでないというべきである。
 2 本件罰則規定の限定解釈の意義等
 本件罰則規定をみると,当該規定の文言に該当する国家公務員の政治的行為を文
理上は限定することなく禁止する内容となっている。本件多数意見は,ここでいう
「政治的行為」とは,当該規定の文言に該当する政治的行為であって,公務員の職
務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,現実的に起こり得るものとして実質的
に認められるものを指すという限定を付した解釈を示した。これは,いわゆる合憲
限定解釈の手法,すなわち,規定の文理のままでは規制範囲が広すぎ,合憲性審査
におけるいわゆる「厳格な基準」によれば必要最小限度を超えており,利益較量の
結果違憲の疑いがあるため,その範囲を限定した上で結論として合憲とする手法を
採用したというものではない。
 そもそも,規制される政治的行為の範囲が広範であるため,これを合憲性が肯定
され得るように限定するとしても,その仕方については,様々な内容のものが考え
られる。これを,多数意見のような限定の仕方もあるが,そうではなく,より類型
的に,「いわゆる管理職の地位を利用する形で行う政治的行為」と限定したり,
「勤務時間中,国の施設を利用して行う行為」と限定したり,あるいは,「一定の
組織の政治的な運動方針に賛同し,組織の一員としてそれに積極的に参加する形で
行う政治的行為」と限定するなど,事柄の性質上様々な限定が考え得るところであ
ろう。しかし,司法部としては,これらのうちどのような限定が適当なのかは基準
が明らかでなく判断し難いところであり,また,可能な複数の限定の中から特定の
限定を選び出すこと自体,一種の立法的作用であって,立法府の裁量,権限を侵害
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する面も生じかねない。加えて,次のような問題もある。
 国家公務員法は,専ら憲法73条4号にいう官吏に関する事務を掌理する基準を
定めるものであり(国家公務員法1条2項),我が国の国家組織,統治機構を定め
る憲法の規定を踏まえ,その国家機構の担い手の在り方を定める基本法の一つであ
る。本法102条1項は,その中にあって,公務員の服務についての定めとして,
政治的行為の禁止を規定している。このような国家組織の一部ともいえる国家公務
員の服務,権利義務等をどう定めるかは,国の統治システムの在り方を決めること
でもあるから,憲法の委任を受けた国権の最高機関である国会としては,国家組織
全体をどのようなものにするかについての基本理念を踏まえて対処すべき事柄であ
って,国家公務員法が基本法の一つであるというのも,その意味においてである。
 このような基本法についての合憲性審査において,その一部に憲法の趣旨にそぐ
わない面があり,全面的に合憲との判断をし難いと考えた場合に,司法部がそれを
合憲とするために考え得る複数の限定方法から特定のものを選び出して限定解釈を
することは,全体を違憲とすることの混乱や影響の大きさを考慮してのことではあ
っても,やはり司法判断として異質な面があるといえよう。憲法が規定する国家の
統治機構を踏まえて,その担い手である公務員の在り方について,一定の方針ない
し思想を基に立法府が制定した基本法は,全体的に完結した体系として定められて
いるものであって,服務についても,公務員が全体の奉仕者であることとの関連
で,公務員の身分保障の在り方や政治的任用の有無,メリット制の適用等をも総合
考慮した上での体系的な立法目的,意図の下に規制が定められているはずである。
したがって,その一部だけを取り出して限定することによる悪影響や体系的な整合
性の破綻の有無等について,慎重に検討する姿勢が必要とされるところである。
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 本件においては,司法部が基本法である国家公務員法の規定をいわばオーバール
ールとして合憲限定解釈するよりも前に,まず対象となっている本件罰則規定につ
いて,憲法の趣旨を十分に踏まえた上で立法府の真に意図しているところは何か,
規制の目的はどこにあるか,公務員制度の体系的な理念,思想はどのようなもの
か,憲法の趣旨に沿った国家公務員の服務の在り方をどう考えるのか等々を踏まえ
て,国家公務員法自体の条文の丁寧な解釈を試みるべきであり,その作業をした上
で,具体的な合憲性の有無等の審査に進むべきものである(もっとも,このこと
は,司法部の違憲立法審査は常にあるいは本来慎重であるべきであるということを
意味するものではない。国家の基本法については,いきなり法文の文理のみを前提
に大上段な合憲,違憲の判断をするのではなく,法体系的な理念を踏まえ,当該条
文の趣旨,意味,意図をまずよく検討して法解釈を行うべきであるということであ
る。)。
多数意見が,まず,本件罰則規定について,憲法の趣旨を踏まえ,行政の中立的
運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持するという規定の目的を考慮した上
で,慎重な解釈を行い,それが「公務員の職務遂行の政治的中立性を損なうおそれ
が実質的に認められる行為」を政治的行為として禁止していると解釈したのは,こ
のような考え方に基づくものであり,基本法についての司法判断の基本的な姿勢と
もいえる。
 なお,付言すると,多数意見のような解釈適用の仕方は,米国連邦最高裁のブラ
ンダイス判事が,1936年のアシュワンダー対テネシー渓谷開発公社事件判決に
おいて,補足意見として掲げた憲法問題回避の準則であるいわゆるブランダイス・
ルールの第4準則の「最高裁は,事件が処理可能な他の根拠が提出されているなら
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ば,訴訟記録によって憲法問題が適正に提出されていても,それの判断を下さない
であろう。」,あるいは,第7準則の「連邦議会の制定法の有効性が問題とされた
ときは,合憲性について重大な疑念が提起されている場合でも,当最高裁は,その
問題が回避できる当該法律の解釈が十分に可能か否かをまず確認することが基本的
な原則である。」(以上のブランダイス・ルールの内容の記載は,渋谷秀樹「憲法
判断の条件」講座憲法学6・141頁以下による。)という考え方とは似て非なる
ものである。ブランダイス・ルールは,周知のとおり,その後,Rescue Army v.
Municipal Court of City of Los Angeles,331 U.S. 549 (1947)の法廷意見におい
て採用され米国連邦最高裁における判例法理となっているが,これは,司法の自己
抑制の観点から憲法判断の回避の準則を定めたものである。しかし,本件の多数意
見の採る限定的な解釈は,司法の自己抑制の観点からではなく,憲法判断に先立
ち,国家の基本法である国家公務員法の解釈を,その文理のみによることなく,国
家公務員法の構造,理念及び本件罰則規定の趣旨・目的等を総合考慮した上で行う
という通常の法令解釈の手法によるものであるからである。
裁判官須藤正彦の反対意見は,次のとおりである。
私は,一般職の国家公務員が勤務外で行った政治的行為は,本法102条1項の
政治的行為に該当しないと解するので,多数意見とは異なり,被告人は無罪と考え
る。その理由は以下のとおりである。
 1 公務員の政治的行為の解釈について
 (1) 私もまた,多数意見と同様に,本法102条1項の政治的行為とは,国民
の政治的活動の自由が民主主義社会を基礎付ける重要な権利であること,かつ,同
項の規定が本件罰則規定の構成要件となることなどに鑑み,公務員の職務の遂行の
– 17 –
政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる(観念的なものにとどまらず,
現実的に起こり得るものとして認められる)ものを指すと解するのが相当と考え
る。
 (2) すなわち,まず,公務員の政治的行為とその職務の遂行とは元来次元を異
にする性質のものであり,例えば公務員が政党の党員となること自体では無論公務
員の職務の遂行の政治的中立性が損なわれるとはいえない。公務員の政治的行為に
よってその職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれが生ずるのは,公務員の
政治的行為と職務の遂行との間で一定の結び付き(牽連性)があるがゆえであり,
しかもそのおそれが観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実
質的に認められるものとなるのは,公務員の政治的行為からうかがわれるその政治
的傾向がその職務の遂行に反映する機序あるいはその蓋然性について合理的に説明
できる結び付きが認められるからである。そうすると,公務員の職務の遂行の政治
的中立性が損なわれるおそれが実質的に生ずるとは,そのような結び付きが認めら
れる場合を指すことになる。進んで,この点について敷えんして考察するに,以下
のとおり,多数意見とはいささか異なるものとなる。
 2 勤務外の政治的行為
 (1) しかるところ,この「結び付き」について更に立ち入って考察すると,問
題は,公務員の政治的行為がその行為や付随事情を通じて勤務外で行われたと評価
される場合,つまり,勤務時間外で,国ないし職場の施設を利用せず,公務員の地
位から離れて行動しているといえるような場合で,公務員が,いわば一私人,一市
民として行動しているとみられるような場合である。その場合は,そこからうかが
われる公務員の政治的傾向が職務の遂行に反映される機序あるいは蓋然性について
– 18 –
合理的に説明できる結び付きは認められないというべきである。
 (2) 確かに,このように勤務外であるにせよ,公務員が政治的行為を行えば,
そのことによってその政治的傾向が顕在化し,それをしないことに比べ,職務の遂
行の政治的中立性を損なう潜在的可能性が明らかになるとは一応いえよう。また,
職務の遂行の政治的中立性に対する信頼も損なわれ得るであろう。しかしながら,
公務員組織における各公務員の自律と自制の下では,公務員の職務権限の行使ない
し指揮命令や指導監督等の職務の遂行に当たって,そのような政治的傾向を持ち込
むことは通常考えられない。また,稀に,そのような公務員が職務の遂行にその政
治的傾向を持ち込もうとすることがあり得るとしても,公務員組織においてそれを
受け入れるような土壌があるようにも思われない。そうすると,公務員の政治的行
為が勤務外で行われた場合は,職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれがあ
るとしても,そのおそれは甚だ漠としたものであり,観念的かつ抽象的なものにと
どまるものであるといえる。
結局,この場合は,当該公務員の管理職的地位の有無,職務の内容や権限におけ
る裁量の有無,公務員により組織される団体の活動としての性格の有無,公務員に
よる行為と直接認識され得る態様の有無,行政の中立的運営と直接相反する目的や
内容の有無等にかかわらず──それらの事情は,公務員の職務の遂行の政治的中立
性に対する国民の信頼を損なうなどの服務規律違反を理由とする懲戒処分の対象と
なるか否かの判断にとって重要な考慮要素であろうが──その政治的行為からうか
がわれる政治的傾向がその職務の遂行に反映する機序あるいはその蓋然性について
合理的に説明できる結び付きが認められず,公務員の政治的中立性が損なわれるお
それが実質的に生ずるとは認められないというべきである。この点,勤務外の政治
– 19 –
的行為についても,事情によっては職務の遂行の政治的中立性を損なう実質的おそ
れが生じ得ることを認める多数意見とは見解を異にするところである。
 (3) ちなみに,念のためいえば,「勤務外」と「勤務時間外」とは意味を異に
する。本規則4項は,本法又は本規則によって禁止又は制限される政治的行為は,
「職員が勤務時間外において行う場合においても,適用される」と規定していると
ころであるが,これは,勤務時間外でも勤務外とは評価されず,上記の結び付きが
認められる場合(例えば,勤務時間外に,国又は職場の施設を利用して政治的行為
を行うような場合に認められ得よう。)にはその政治的行為が規制されることを規
定したものと解される。
 3 必要やむを得ない規制について
 (1) ところで,本法102条1項が政治的行為の自由を禁止することは,表現
の自由の重大な制約となるものである。しかるところ,民主主義に立脚し,個人の
尊厳(13条)を基本原理とする憲法は,思想及びその表現は人の人たるのゆえん
を表すものであるがゆえに表現の自由を基本的人権の中で最も重要なものとして保
障し(21条),かつ,このうち政治的行為の自由を特に保障しているものという
べきである。そのことは,必然的に,異なった価値観ないしは政治思想,及びその
発現としての政治的行為の共存を保障することを意味しているといってよいと思わ
れる。そのことからすると,憲法は,自分にとって同意できない他人の政治思想に
対して寛容で(時には敬意をさえ払う),かつ,それに基づく政治的行為の存在を
基本的に認めないしは受忍すること,いわば「異見の尊重」をすることが望ましい
としているともいえよう。当然のことながら,本件で問題となっている一般職の公
務員もまた,憲法上,公務員である前に国民の一人として政治に無縁でなく政治的
– 20 –
な信念や意識を持ち得る以上,前述の意味での政治的行為の自由を享受してしかる
べきであり,したがって,憲法は,公務員が多元的な価値観ないしは政治思想を有
すること,及びその発現として政治的行為をすることを基本的に保障しているもの
というべきである。
 (2) 以上の表現の自由を尊重すべきものとする点は多数意見と特に異なるとこ
ろはないと思われ,また,同意見が述べるとおり,本法102条1項の規制は,公
務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保
し,これに対する国民の信頼を維持することを目的とするものであるが,公務員の
政治的行為の自由が上記のように憲法上重大な性質を有することに照らせば,その
目的を達するための公務員の政治的行為の規制は必要やむを得ない限度に限られる
というべきである。そうすると,問題は,本法102条1項の政治的行為の解釈が
前記のようなものであれば,このような必要やむを得ない規制となるかどうかであ
る。
 そこで更に検討するに,まず,刑罰は国権の作用による最も峻厳な制裁で公務員
の政治的行為の自由の規制の程度の最たるものであって,処罰の対象とすることは
極力謙抑的,補充的であるべきことが求められることに鑑みれば,この公務員の政
治的行為禁止違反という犯罪は,行政の中立的運営を保護法益とし,これに対する
信頼自体は独立の保護法益とするものではなく,それのみが損なわれたにすぎない
場合は行政内部での服務規律違反による懲戒処分をもって必要にして十分としてこ
れに委ねることとしたものと解し,加うるに,公務員の職務の遂行の政治的中立性
が損なわれるおそれが実質的に認められるときにその法益侵害の危険が生ずるとの
考えのもとに,本法102条1項の政治的行為を上記のものと解することによっ
– 21 –
て,処罰の対象は相当に限定されることになるのである。
 のみならず,そのおそれが実質的に生ずるとは,公務員の政治的行為からうかが
われる政治的傾向がその職務の遂行に反映する機序あるいはその蓋然性について合
理的に説明できる結び付きが認められる場合を指し,しかも,勤務外の政治的行為
にはその結び付きは認められないと解するのであるから,公務員の職務の遂行の政
治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる場合は一層限定されることにな
る。
結局,以上の解釈によれば,本件罰則規定については,政党その他の政治的団体
の機関紙たる新聞その他の刊行物の配布は,上記の要件及び範囲の下で大幅に限定
されたもののみがその構成要件に該当するのであるから,目的を達するための必要
やむを得ない規制であるということが可能であると思われる。
 (3) ところで,本法102条1項の政治的行為の上記の解釈は,憲法の趣旨の
下での本件罰則規定の趣旨,目的に基づく厳格な構成要件解釈にほかならない。し
たがって,この解釈は,通常行われている法解釈にすぎないものではあるが,他面
では,一つの限定的解釈といえなくもない。しかるところ,第1に,公務員の政治
的行為の自由の刑罰の制裁による規制は,公務員の重要な基本的人権の大なる制約
である以上,それは職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められ
るものを指すと解するのは当然であり,したがって,規制の対象となるものとそう
でないものとを明確に区別できないわけではないと思われる。第2に,そのように
おそれが実質的に認められるか否かということは,公務員の政治的行為からうかが
われる政治的傾向が職務の遂行に反映する機序あるいは蓋然性について合理的に説
明できる結び付きがあるか否かということを指すのであり,そのような判断は一般
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の国民からみてさほど困難なことではない上,勤務外の政治的行為はそのような結
び付きがないと解されるのであるから,規制の対象となるかどうかの判断を可能な
らしめる相当に明確な指標の存在が認められ,したがって,一般の国民にとって具
体的な場合に規制の対象となるかどうかを判断する基準を本件罰則規定から読み取
ることができるといえる(最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月1
2日大法廷判決・民集38巻12号1308頁(札幌税関検査違憲訴訟事件)参
照)。
 以上よりすると,本件罰則規定は,上記の厳格かつ限定的である解釈の限りで,
憲法21条,31条等に反しないというべきである。
 (4) もっとも,上記のような限定的解釈は,率直なところ,文理を相当に絞り
込んだという面があることは否定できない。また,本法102条1項及び本規則に
対しては,規制の対象たる公務員の政治的行為が文理上広汎かつ不明確であるがゆ
えに,当該公務員が文書の配布等の政治的行為を行う時点において刑罰による制裁
を受けるのか否かを具体的に予測することが困難であるから,犯罪構成要件の明確
性による保障機能を損ない,その結果,処罰の対象にならない文書の配布等の政治
的行為も処罰の対象になるのではないかとの不安から,必要以上に自己規制するな
どいわゆる萎縮的効果が生じるおそれがあるとの批判があるし,本件罰則規定が,
懲戒処分を受けるべきものと犯罪として刑罰を科せられるべきものとを区別するこ
となくその内容についての定めを人事院規則に委任していることは,犯罪の構成要
件の規定を委任する部分に関する限り,憲法21条,31条等に違反し無効である
とする見解もある(最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法
廷判決・刑集28巻9号393頁(猿払事件)における裁判官大隅健一郎ほかの4
– 23 –
人の裁判官の反対意見参照)。このような批判の存在や,我が国の長い歴史を経て
の国民の政治意識の変化に思いを致すと(なお,公務員の政治的行為の規制につい
て,地方公務員法には刑罰規定はない。また,欧米諸国でも調査し得る範囲では刑
罰規定は見受けられない。),本法102条1項及び本規則については,更なる明
確化やあるべき規制範囲・制裁手段について立法的措置を含めて広く国民の間で一
層の議論が行われてよいと思われる。
 4 結論
 被告人の本件配布行為は,政治的傾向を有する行為ではあることは明らかである
ところ,被告人は,厚生労働大臣官房の社会統計課の筆頭課長補佐(総括課長補
佐)で,本法108条の2第3項ただし書所定の管理職員等に当たり,指揮命令や
指導監督等の裁量権を伴う職務権限の行使などの場面で他の多数の職員の職務の遂
行に影響を及ぼすことのできる地位にあるといえるが,勤務時間外である休日に,
国ないし職場の施設を利用せず,かつ,公務員としての地位を利用することも,公
務員であることを明らかにすることもなく,しかも,無言で郵便受けに文書を配布
したにとどまるものであって,いわば,一私人,一市民として行動しているとみら
れるから,それは勤務外のものであると評価される。そうすると,被告人の本件配
布行為からうかがわれる政治的傾向が被告人の職務の遂行に反映する機序あるいは
蓋然性について合理的に説明できる結び付きは認めることができず,公務員の職務
の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるとはいえないというべ
きである。したがって,被告人が上記のとおり管理職的地位にあること,その職務
の内容や権限において裁量権があること等を考慮しても,被告人の本件配布行為は
本件罰則規定の構成要件に該当しないというべきである。しかるに,第1審判決及
– 24 –
び原判決は,被告人の本件配布行為が本法102条1項の政治的行為に該当すると
するものであって,いずれも法令の解釈を誤ったものであるから,これを破棄する
のが相当であり,被告人を無罪とすべきである。
(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官小貫芳信)

(2)委任を受けた命令側の問題~法の委任の趣旨を逸脱していないか

+行政手続法
(命令等を定める場合の一般原則)
第三十八条  命令等を定める機関(閣議の決定により命令等が定められる場合にあっては、当該命令等の立案をする各大臣。以下「命令等制定機関」という。)は、命令等を定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない。
2  命令等制定機関は、命令等を定めた後においても、当該命令等の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、必要に応じ、当該命令等の内容について検討を加え、その適正を確保するよう努めなければならない。

+判例(H3.7.9)
理由
上告代理人菊池信男、同森脇勝、同金子泰輔、同小林義弘、同大田黒昔生、同中山弘幸、同山口晴夫、同山田文夫、同澤村佳夫、同富山聡、同森幸夫の上告理由について
一 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
1 被上告人は、爆発物取締罰則違反等により起訴され、昭和五〇年七月から東京拘置所(以下「拘置所」といい、その長を「所長」という。)に勾留されているが、昭和五四年一一月一二日第一審で死刑の判決を、昭和五七年一〇月二九日控訴審で控訴棄却の判決を受けた。
2 被上告人は、昭和五八年四月一四日、岩手県に居住する甲野春子と養子縁組をした。右養子縁組は、死刑廃止運動に賛同した春子が被上告人を自己の養子にしたいと決意しその旨を申し入れたことから成立した。したがって、被上告人と甲野一家とは従前生活を共にしたことはないが、それぞれが可能な範囲・方法で接触を保つように努力しており、現に春子及びその長女甲野夏子は何回となく被上告人に面会に来ていた。
3 ところで、従来、拘置所では、在監者と一四歳未満の者(以下「幼年者」という。)との面会をかなり広く認めていた。しかし、昭和五三年後半ころ、特定の事件の支援者が、子供を同伴した上在監者と接見し、その後子供と共に拘置所内でシュプレヒコール等をしたので、拘置所側がこれを排除しようとしたところ、子供の身体に危険が生じたことがあった。そこで、拘置所は、そのころから在監者と幼年者との面会を全面的に禁止した。昭和五四年八月二日、拘置所は、この取扱いを改め、在監者と幼年者との面会は、(ア)在監者の処遇上必要がある場合、及び、(イ) 勾留が長期にわたっていること、面会の相手が在監者の実子であること、進学、進級等子供の教育上必要があるか配偶者の病気、入院等子供の成育上必要があるなど特別の事情があること、年二回程度であることという条件をすべて具備した場合、にのみこれを許可することとした。そして、同日以降この取扱いが定着し、幼年者との面会を希望する在監者は、事前に所長に対し面会の許可の申請をしている。
4 被上告人は、養子縁組の成立前から夏子の長女甲野秋子(昭和四八年八月二六日生)と文通をしていたので、何回となく所長に対し秋子との面会の許可申請をし、その申請書に被上告人と秋子との関係、被上告人が秋子に面会したい理由等を記載したが、毎回不許可となった。被上告人は、昭和五八年五月三〇日、同年四月二七日にした秋子との面会許可申請が不許可となったので、その取消しを求めて法務大臣に情願書を提出し、春子、夏子及び秋子は、所長に上申書を提出するなどした。
5 被上告人は、昭和五九年四月二七日、所長に対し、秋子との面会の許可の申請をしたところ、所長は、翌二八日監獄法施行規則(以下「規則」という。)一二〇条によりこれを許可しない旨の決定(以下「本件処分」という。)をし、同年五月二日被上告人に対し本件処分を告知した。
そして、秋子が同月四日、七日母夏子と共に所長に対し当時未決勾留中であった被上告人との面会の許可の申請をしたが、所長は秋子と被上告人との面会を許さなかった。

二 右事実関係の下において、原審は、所長のした本件処分につき裁量権の範囲を超え又はこれを濫用した違法があり、かつ、国家賠償法一条一項にいう「過失」があると判断した上、被上告人の請求のうち慰謝料五万円及びこれに対する昭和五九年五月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払を求める部分を認容した第一審判決を相当であるとして控訴を棄却し、かつ、被上告人の附帯控訴に基づき弁護士費用一万円の支払請求を認容し、その余の請求を棄却した。

三 しかしながら、原審の右判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものである。そして、未決勾留により拘禁された者(以下「被勾留者」という。)は、(ア) 逃亡又は罪証隠滅の防止という未決勾留の目的のために必要かつ合理的な範囲において身体の自由及びそれ以外の行為の自由に制限を受け、また、(イ) 監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が認められる場合には、右の障害発生の防止のために必要な限度で身体の自由及びそれ以外の行為の自由に合理的な制限を受けるが、他方、(ウ)当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障される(最高裁昭和四〇年(オ)第一四二五号同四五年九月一六日大法廷判決・民集二四巻一〇号一四一〇頁、同昭和五二年(オ)第九二七号同五八年六月二二日大法廷判決・民集三七巻五号七九三頁参照)。

2 ところで、被勾留者の接見に関する法律の定めは、次のとおりである。
(一) 刑事訴訟法八〇条は、勾留されている被告人は弁護人等同法三九条一項に規定する者以外の者と法令の範囲内で接見することができるとしている。
(二) そして、監獄法(以下「法」という。)四五条一項は、「在監者ニ接見センコトヲ請フ者アルトキハ之ヲ許ス」と規定し、同条二項は、「受刑者及ビ監置ニ処セラレタル者ニハ其親族ニ非サル者ト接見ヲ為サシムルコトヲ得ス但特ニ必要アリト認ムル場合ハ此限ニ在ラス」と規定し、「受刑者及ビ監置ニ処セラレタル者」以外の在監者である被勾留者の接見につき許可制度を採用することを明らかにした上、広く被勾留者との接見を許すこととしている。
右に前記1で説示したところを併せ考えると、被勾留者には一般市民としての自由が保障されるので、法四五条は、被勾留者と外部の者との接見は原則としてこれを許すものとし、例外的に、これを許すと支障を来す場合があることを考慮して、(ア) 逃亡又は罪証隠滅のおそれが生ずる場合にはこれを防止するために必要かつ合理的な範囲において右の接見に制限を加えることができ、また、(イ) これを許すと監獄内の規律又は秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が認められる場合には、右の障害発生の防止のために必要な限度で右の接見に合理的な制限を加えることができる、としているにすぎないと解される。この理は、被勾留者との接見を求める者が幼年者であっても異なるところはない。
(三) これを受けて、法五〇条は、「接見ノ立会……其他接見……ニ関スル制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」と規定し、命令(法務省令)をもって、面会の立会、場所、時間、回数等、面会の態様についてのみ必要な制限をすることができる旨を定めているが、もとより命令によって右の許可基準そのものを変更することは許されないのである。

3 ところが、規則一二〇条は、規則一二一条ないし一二八条の接見の態様に関する規定と異なり、「十四歳未満ノ者ニハ在監者ト接見ヲ為スコトヲ許サス」と規定し、規則一二四条は「所長ニ於テ処遇上其他必要アリト認ムルトキハ前四条ノ制限ニ依ラサルコトヲ得」と規定している。右によれば、規則一二〇条が原則として被勾留者と幼年者との接見を許さないこととする一方で、規則一二四条がその例外として限られた場合に監獄の長の裁量によりこれを許すこととしていることが明らかである。しかし、これらの規定は、たとえ事物を弁別する能力の未発達な幼年者の心情を害することがないようにという配慮の下に設けられたものであるとしても、それ自体、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法五〇条の委任の範囲を超えるものといわなければならない
原審は、規則一二〇条(及び一二四条)は幼年者の心情の保護を目的とするものであり、これに対する具体的な危険を避けるために必要な範囲で監獄の長が幼年者と被勾留者との接見を制限することを認めた規定であるという限定的な解釈を施した上、法はそのような制限を容認していると解する余地があるとして、右各規定が法五〇条の委任の範囲を超え、無効であるということはできないと判断した。しかし、前記のとおり、被勾留者も当該拘禁関係に伴う一定の制約の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障されるのであり、幼年者の心情の保護は元来その監護に当たる親権者等が配慮すべき事柄であることからすれば、法が一律に幼年者と被勾留者との接見を禁止することを予定し、容認しているものと解することは、困難である。そうすると、規則一二〇条(及び一二四条)は、原審のような限定的な解釈を施したとしても、なお法の容認する接見の自由を制限するものとして、法五〇条の委任の範囲を超えた無効のものというほかはない。 
そうだとすれば、規則一二〇条(及び一二四条)は、結局、被勾留者と幼年者との接見を許さないとする限度において、法五〇条の委任の範囲を超えた無効のものと断ぜざるを得ない。

4 以上によって本件をみるのに、原審の確定した事実関係によれば、被上告人と秋子とが接見したとしても、(ア) 被上告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれが生ずるとも、(イ) 監獄内の規律又は秩序が乱されるおそれが生ずるとも認められないというのであるから、所長は、法四五条の趣旨に従い、被上告人と秋子との接見を許可すべきであったといわなければならない。ところが、所長は、本件処分をし、これを許可しなかったのであるから、本件処分は法四五条に反する違法なものといわなければならない。
これと異なる見解に立つ上告理由第一点は、採用することができない。

5 そこで、進んで、国家賠償法一条一項にいう「過失」の有無につき検討を加える。
思うに、規則一二〇条(及び一二四条)が被勾留者と幼年者との接見を許さないとする限度において法五〇条の委任の範囲を超えた無効のものであるということ自体は、重大な点で法律に違反するものといわざるを得ない。しかし、規則一二〇条(及び一二四条)は明治四一年に公布されて以来長きにわたって施行されてきたものであって(もっとも、規則一二四条は、昭和六年司法省令第九号及び昭和四一年法務省令第四七号によって若干の改正が行われた。)、本件処分当時までの間、これらの規定の有効性につき、実務上特に疑いを差し挟む解釈をされたことも裁判上とりたてて問題とされたこともなく、裁判上これが特に論議された本件においても第一、二審がその有効性を肯定していることはさきにみたとおりである。そうだとすると、規則一二〇条(及び一二四条)が右の限度において法五〇条の委任の範囲を超えることが当該法令の執行者にとって容易に理解可能であったということはできないのであって、このことは国家公務員として法令に従ってその職務を遂行すべき義務を負う監獄の長にとっても同様であり、監獄の長が本件処分当時右のようなことを予見し、又は予見すべきであったということはできない
本件の場合、原審の確定した事実関係によれば、所長は、規則一二〇条に従い本件処分をし、被上告人と秋子との接見を許可しなかったというのであるが、右に説示したところによれば、所長が右の接見を許可しなかったことにつき国家賠償法一条一項にいう「過失」があったということはできない。 
上告理由第二点は、所長に国家賠償法一条一項にいう「過失」がなかったことを主張する限りにおいて理由がある。

6 以上によれば、前記のとおり被上告人の請求を一部認容すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。そして、右に説示したところによれば被上告人の請求は理由がないから、原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、第一審判決中上告人敗訴の部分を取り消した上、右取消部分に関する被上告人の請求を棄却し、かつ、右破棄部分に関する被上告人の附帯控訴を棄却すべきである。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官坂上壽夫 裁判官貞家克己 裁判官佐藤庄市郎 裁判官可部恒雄)

++解説
《解  説》
一1 本件は、拘置所長が、監獄法施行規則(平成三年法務省令第二二号による改正前のもの。以下「規則」という。)一二〇条に従い、被勾留者とその養親の孫M(義理の姪 当時一〇歳)との接見を許さなかったので、その被勾留者(X)が、国家賠償法一条一項に基づき、国(Y)に対し、慰藉料五〇万円及びこれに対する遅延損害金並びに弁護士費用六〇万円を請求した事件である。
2 第一審判決は、(ア) 規則一二〇条及び一二四条は、幼年者の心情の保護に対する具体的な危険を避けるために必要な範囲で、監獄の長が幼年者と被勾留者との接見を制限することを認めた規定であるという限定解釈をした上、法はそのような制限を容認しているから、右各規定が監獄法(以下「法」という。)五〇条の委任の範囲を超え、無効であるということはできないと判断し、(イ) 所長のした本件処分につき裁量権の範囲を超え又はこれを濫用した違法があり、かつ、所長に国家賠償法一条一項にいう過失があるとし、(ウ) Xの請求のうち、慰藉料五万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める部分を認容し、その余の部分を棄却した。
原判決は、第一審判決とほぼ同旨の説示をした上、これを相当であるとして控訴を棄却し、かつ、Xの附帯控訴に基づき弁護士費用一万円の支払請求を認容し、その余の請求を棄却した。
3 本判決は、要旨のとおり説示して、原判決中Y敗訴の部分を破棄し、第一審判決中Y敗訴の部分を取り消した上、右取消部分に関するXの請求を棄却し、かつ、右破棄部分に関するXの附帯控訴を棄却した。
二1 要旨一について
(一) 法四五条一項は、「在監者ニ接見センコトヲ請フ者アルトキハ之ヲ許ス」と規定しているが、その趣旨は、在監者の接見につき許可制度を採用した趣旨のみを明らかにしたものか、これに加えて原則として許可をするという許可の基準をも示したものか、については見解の分かれるところであろう。
しかし、(1) 被勾留者(在監者)は、当該拘禁関係に伴う制約(逃亡又は罪証隠滅の防止並びに監獄内の規律及び秩序の維持という要請に基づく必要かつ合理的な制限)の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保証される(最大判昭45・9・16民集二四巻一〇号一四一〇頁、最大判昭58・6・22民集三七巻五号七九三頁)。
(2) 刑事訴訟法八〇条は、勾留されている被告人は弁護人等同法三九条一項に規定する者以外の者と法令の範囲内で接見することができるとしている。
(3) 法四五条一項は、「在監者ニ接見センコトヲ請フ者アルトキハ之ヲ許ス」と規定しているが、法は、「之ヲ許ス」(たとえば、法三一条一項、四五条一項)という文言と「之ヲ許スコトヲ得」(たとえば、法二九条、三五条、五三条一項)という文言とを使い分けているようであるが、法は、「之ヲ許ス」という文言には覊束行為的なニュアンスをもたせ、「之ヲ許スコトヲ得」という文言には裁量行為的なニュアンスをもたせていると思われる。
(4) 法四五条二項は「受刑者及ビ監置ニ処セラレタル者ニハ其親族ニ非サル者ト接見ヲ為サシムルコトヲ得ス但特ニ必要アリト認ムル場合ハ此限ニ在ラス」と規定している。したがって、法は、「受刑者及ビ監置ニ処セラレタル者」と被勾留者とを区別した上、「受刑者及ビ監置ニ処セラレタル者」の接見については厳しい態度で臨む(四五条二項)反面、被勾留者の接見については緩やかな態度で臨む(四五条一項)こととしている。
これらの点にかんがみると、法は、後者の見解を採用し、在監者の接見につき、許可制度を採用するとともに、原則としてこれを許可するという許可の基準をも示している(四五条)、と解すべきであろう。
そして、命令(法務省令)には、法律の委任がなければ、国民の権利を制限する規定を設けることができない(国家行政組織法一二条四項参照)ところ、法五〇条は、委任する事項として、「接見ノ立会……其他接見……ニ関スル制限」をあげているが、右に例示としてあげられた「接見ノ立会」とは接見の態様に関する事項であり、接見の許可の基準ではない。そうすると、法は、命令(法務省令)をもって、接見の立会、場所、時間、回数等接見の態様についてのみ必要な制限をすることができることとしている(五〇条)、と解される。
(二) これに対し、規則一二〇条は、「十四歳未満ノ者ニハ在監者ト接見ヲ為スコトヲ許サス」と規定して接見の許可基準そのものを定めているから、接見の時限、度数、手続、場所、立会、外国語の使用等接見の態様について定める規則一二一条ないし一二三条、一二五条ないし一二八条とは異質のものといわざるを得ない。そして、規則一二〇条は、文理に即して、かつ、規則一二四条と併せて解釈すると、原則として被勾留者と幼年者との接見を許さないこととしている(規則一二四条は、その例外として、限られた場合に監獄の長の裁量によりこれを許すこととしている。)、と解される。このような規則一二〇条及び一二四条は、事物を弁別する能力の未発達な幼年者の心情を害さないという目的のために設けられたものであるが、右の目的は、法によって定められた目的ではなく、規則によって定められた目的である。しかも、幼年者の心情の保護は、元来、その監護に当たる親権者等が配慮すべき事柄であるから、その目的の当否自体疑わしい。
(三) そうすると、規則一二〇条及び一二四条は、法律によらないで、被勾留者と幼年者との接見の自由を著しく制限するものであって、法五〇条の委任の範囲を超えた無効のものといわなければならない。法は被勾留者と幼年者との接見を一律に禁止することを容認している訳ではないから、原審のように、規則一二〇条及び一二四条について限定解釈をして、これらの規定が法五〇条の委任の範囲を超えないということもできない。
本判決は、以上のように、主として、被勾留者の側からの接見の自由という観点に立って、すなわち、幼年者の側からの接見の自由という観点に立つまでもなく、規則一二〇条及び一二四条が、被勾留者と幼年者との接見を許さないとする限度において、法五〇条の委任の範囲を超え、無効である、と判断したものと思われる。
(四) なお、本判決が規則一二〇条のみならず規則一二四条も被勾留者と幼年者との接見を許さないとする限度において無効であるとしたのは、規則一二〇条と一二四条とはいわば本文と但書との関係に立つ規定であり(規則一二四条は、規則一二一条ないし一二三条の例外規定でもあるため、立法技術上、規則一二〇条と離れたところに置かれているにすぎない。)、本件の場合、XとMとの接見を許さなかった処分が違法であるというためには、規則一二〇条が右の限度で違法無効であるとしたのでは足りないからであろう。
蛇足ながら、本判決が「被勾留者と幼年者との接見をゆるさない限度において」という説示を加えたのは、本判決は、規則一二〇条及び一二四条の規定する受刑者等の接見の自由についてはなんらふれていないためと思われる。
2 要旨二について
(一) 規則一二〇条及び一二四条が法五〇条の委任の範囲を超え無効であるとした場合、所長に国家賠償法一条一項にいう過失があるかどうかについては、これを肯定する説(請求認容説)と否定する説(請求棄却説)とを考えることができる。
(二) 過失肯定説(請求認容説)は、所長の規則一二〇条及び一二四条の解釈についての注意義務違反(規則一二〇条及び一二四条が法五〇条の委任の範囲を超え無効であることについての注意義務違反)及び本件接見許可申請に対する措置についての注意義務違反をいずれも肯定するものである。
この過失肯定説(請求認容説)としては、次の二つの説が有力と思われる。
(1) 過失を違法性から事実上推定する説
この説は「法律による行政」の原則の下において、公務員の職務の執行が違法であれば、多くの場合、当該公務員に過失があったと推認するを妨げないという経験則に基づくものと思われる。たしかに、通常の場合、被害者は当該公務員の職務の執行の態様を知らないから、右のような推定をすることは被害者の主張立証の負担を軽減し、その救済に役立つことは否定できない。そのような事情も手伝ってか、裁判例のうちには、違法性について詳細な認定判断をした後、過失については比較的簡単にこれを推認し、原告の請求を認容しているものも多い(とくに、違法性の程度が高い場合には、比較的容易に過失の存在を推認しているように思われる。)。
しかし、この説を採用しても、常に違法性から過失を推認することができる訳ではない。とくに、本件の場合、所長は規則一二〇条に従って本件処分をしたのであって、いわば過失の推認を妨げる事情が明らかになっているから、違法性があるからといって過失があることを推認することはできない。本判決は、この説は採用することができないとしたのであろう。
(2) 過失を主観的・具体的に把握せず、客観的・抽象的に把握する説
過失の有無は、もともと職務の執行をした公務員の知識・能力及び具体的な事実の認識によってこれを認定すべきである(具体的過失説)。しかし、この具体的過失説を採用しても、原審は所長の過失を認定するに足りる事実を認定していないから、所長に過失があったということはできない。
これに対し、(ア) そもそも、公務員は、その職務を遂行するにあたり、その職務に応じた注意義務を要求される、(イ) 公務員の公権力の行使が行政処分としてされる場合には、いわば組織として公権力の行使がされるから、その過失の有無も組織として手落ちはなかったか、という点から考える必要がある、(ウ) 被害者が自己の関知しない公務員の知識・能力及び具体的な事実の認識を主張立証することは相当困難である、(エ) 具体的過失説の方が国家賠償法一条一項の文理により親しむことは否定できないが、これによって同条を公正に運用することはできない、等の点を考慮すると、公務員が職務上要求される標準的な注意義務に違反したと認められる場合には、過失を認めることができるし、過失を認めるべきである(抽象的過失説)。
判例をみると、最三小判昭28・11・20民集七巻一一号一一七七頁は「関係検察官又は裁判官」の注意義務を問題としているから具体的過失説を採用したと解されるが、最三小判昭37・7・3民集一六巻七号一四〇八頁は「通常の検察官又は裁判官」の注意義務を問題としているから抽象的過失説を採用したと理解できないではない。また、最二小判昭43・4・19判時五一八号四五頁が「通常公務員に要求される注意義務」をもって過失の有無を判断しているのも抽象的過失説を採用したと解する余地があるし、最一小判昭60・11・21判時一一七七号三頁が「公務員が個別の国民に対して負担する法的義務」を強調しているのも同様に解する余地がある。
この説によれば、所長は、その職務に関し有形力(実力)を行使していつでも被勾留者の権利自由を直接にかつたやすく侵害することができるし、その権利自由の侵害の程度も大きくなる可能性があるから、その職務上の注意義務は相当高度なものといわざるを得ない、そして、所長は、遅くとも前掲最大判昭58・6・22があらわれた後は、規則一二〇条及び一二四条が法五〇条の委任の範囲を超えていることを当然認識すべきであった、したがって、所長に国家賠償法一条一項にいう過失があった、と構成するのであろう。
しかし、本判決は、この説を採用しない、あるいは、この説を採用しても過失を認めることができないとしたものと思われる。
(三) 過失否定説(請求棄却説)
過失とは、権利侵害の結果の発生又はその可能性を認識しないで(認識なき過失)、又は、結果の発生が認容されないのに結果の発生又はその可能性を認識しながら(認識ある過失)、権利侵害の危険性のある行為をすることである。とくに、本件のように公務員が公権力を積極的に行使する場合(認識ある過失の場合)には、通常、私人の権利を侵害するから、権利の侵害を予見しただけでは過失があることにはならず、違法であることを予見できなければ過失があることにはならない。
本判決は、このような考え方に従い、監獄の長には、本件処分当時、規則一二〇条及び一二四条が被勾留者と幼年者との接見を許さないとする限度において法五〇条の委任の範囲を超え、無効であることにつき予見可能性がなかった、したがって、所長に国家賠償法一条一項にいう過失はない、としたものと思われる。そして、本判決は、右の予見可能性がなかった理由として、これらの規則が明治四一年に公布されて以来本件処分当時まで約七六年にわたり法務行政上も裁判上も有効なものとして取り扱われてきたことをあげている。このような場合、法務事務官たる所長(監獄の長)としては、法令(とりわけ法律よりも具体的な法規である規則一二〇条及び一二四条)を遵守し、これに従って職務を遂行してきた筈であるから、所長に右の予見可能性があったとするのは酷に失するとしたのであろう。したがって、所長に過失があるとされるのは、もっぱら本判決により規則一二〇条及び一二四条が前記の限度で無効であることが明らかにされた後のこととなるものと思われる。
三 平成三年法務省令第二二号は、規則一二〇条を削除し、一二四条中に「前四条」とあるのを「前三条」に改めた。この結果、法務行政の実際においても、受刑者等と幼年者との接見も含めて、在監者と幼年者との接見は、大幅に自由になったといえよう。
本判決は、規則(法務省令)が法に違反し無効であるとして法務行政に相当な影響を及ぼした点においても、法令の解釈をめぐる過失の有無が問題となった事案においてこれを否定したという点においても、実務上重要な判例というべきであろう。

+判例(H14.1.31)
理由
上告代理人三住忍、同多田実、同横田保典、同福井英之の上告理由について
1 児童扶養手当法(以下「法」という。)4条1項は、児童扶養手当の支給要件として、都道府県知事は次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において、当該児童の母以外の者がその児童を養育するときは、その母又は養育者に対し、児童扶養手当を支給するとし、支給対象となる児童として、「父母が婚姻を解消した児童」(1号)、「父が死亡した児童」(2号)、「父が政令で定める程度の障害の状態にある児童」(3号)、「父の生死が明らかでない児童」(4号)、「その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」(5号)を規定している(ここに規定する場合を含め、法にいう「婚姻」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含むものとされている(法3条3項)。以下、本判決においても同じ。)。そして、児童扶養手当法施行令(平成10年政令第224号による改正前のもの。以下「施行令」という。)1条の2は、法4条1項5号に規定する政令で定める児童として、「父(母が児童を懐胎した当時婚姻の届出をしていないが、その母と事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下次号において同じ。)が引き続き1年以上遺棄している児童」(1号)、「父が法令により引き続き1年以上拘禁されている児童」(2号)、「母が婚姻(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)」(3号)、「前号に該当するかどうかが明らかでない児童」(4号)を規定している。

2 原審の適法に確定したところによれば、上告人は、婚姻によらないで子を懐胎、出産して、これを監護しており、施行令1条の2第3号に該当する児童を監護する母として平成3年2月分から児童扶養手当の支給を受けていたが、同5年5月12日、子がその父から認知されたため、被上告人は、これにより児童扶養手当の受給資格が消滅したとして、同年10月27日付けで児童扶養手当受給資格喪失処分(以下「本件処分」という。)をしたというのである。

3 上記事実関係の下で、原審は、次のとおり判断し、本件処分の取消しを求める上告人の請求を認容した第1審判決を取り消して、上告人の請求を棄却した。
(1) 施行令1条の2第3号は、「(父から認知された児童を除く。)」との括弧書部分(以下「本件括弧書」という。)を含め、全体として児童扶養手当支給の積極要件である支給対象となる児童を定めた規定であって、本件括弧書が独立した児童扶養手当支給の消極要件を定めたものとはいえない。同号の規定のうち本件括弧書のみを取り出して、それを無効として本件処分を取り消すことは、母が婚姻によらないで懐胎した児童(以下「婚姻外懐胎児童」という。)であって父から認知されていないものを児童扶養手当の支給対象とすることを一体として定めた同号の規定の趣旨に反し、法及び施行令が児童扶養手当の支給対象として規定していない父から認知された婚姻外懐胎児童についても児童扶養手当の支給対象に含める法令が存在するものとし、そのような法令を適用して本件処分を取り消すことと同一の結果となり、立法府又は政令制定者の権限を侵すことになるから、許されない。
(2) のみならず、本件括弧書を設けたことは、憲法に違反するものでもなく、法の委任の範囲内である。法は、法4条1項1号ないし4号に規定する児童に準ずる児童の中から児童扶養手当の支給対象児童の類型を指定することを政令制定者の裁量にゆだねているところ、法4条1項2号及び4号は、父が存在しないため父による扶養を受けることができない類型を定めたものであり、施行令1条の2第3号は、これに準ずるものとして規定されたと解される。父の不存在を指標として児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲を画することは、それなりに合理的なものということができ、その反面として、父の不存在という指標に該当する事実がなくなった場合には、類型的に児童扶養手当の支給対象とする必要性がなくなったものとすることも、それなりに合理的なものということができる。本件括弧書は、帰するところ父の不存在という指標に該当する事実を規定したものであり、本件括弧書を設けたことは、立法府ないし政令制定者の裁量の範囲内に属するものと解され、違憲、違法なものとはいえない。

4 しかしながら、原審の上記判断は、是認することができない。その理由は次のとおりである。
(1) 施行令1条の2第3号の規定は、婚姻外懐胎児童を児童扶養手当の支給対象児童として取り上げた上、認知された児童をそこから除外するとの明確な立法的判断を示していると解することができる。そして、このうち認知された児童を児童扶養手当の支給対象から除外するという判断が違憲、違法なものと評価される場合に、同号の規定全体を不可分一体のものとして無効とすることなく、その除外部分のみを無効とすることとしても、いまだ何らの立法的判断がされていない部分につき裁判所が新たに立法を行うことと同視されるものとはいえない。したがって、本件括弧書を無効として本件処分を取り消すことが、裁判所が立法作用を行うものとして許されないということはできない。
(2) そこで、政令制定者が施行令1条の2第3号において本件括弧書を設けたことが、法の委任の範囲を超えたものということができるか否かについて検討する。
法は、父と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について児童扶養手当を支給し、もって児童の福祉の増進を図ることを目的としている(法1条)が、父と生計を同じくしていない児童すべてを児童扶養手当の支給対象児童とする旨を規定することなく、その4条1項1号ないし4号において一定の類型の児童を掲げて支給対象児童とし、同項5号で「その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」を支給対象児童としている。同号による委任の範囲については、その文言はもとより、法の趣旨や目的、さらには、同項が一定の類型の児童を支給対象児童として掲げた趣旨や支給対象児童とされた者との均衡等をも考慮して解釈すべきである。
法は、いわゆる死別母子世帯を対象として国民年金法による母子福祉年金が支給されていたこととの均衡上、いわゆる生別母子世帯に対しても同様の施策を講ずべきであるとの議論を契機として制定されたものであるが、法が4条1項各号で規定する類型の児童は、生別母子世帯の児童に限定されておらず、1条の目的規定等に照らして、世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童、すなわち、児童の母と婚姻関係にあるような父が存在しない状態、あるいは児童の扶養の観点からこれと同視することができる状態にある児童を支給対象児童として類型化しているものと解することができる。母が婚姻によらずに懐胎、出産した婚姻外懐胎児童は、世帯の生計維持者としての父がいない児童であり、父による現実の扶養を期待することができない類型の児童に当たり、施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において婚姻外懐胎児童を法4条1項1号ないし4号に準ずる児童としていることは、法の委任の趣旨に合致するところである。一方で、施行令1条の2第3号は、本件括弧書を設けて、父から認知された婚姻外懐胎児童を支給対象児童から除外することとしている。確かに、婚姻外懐胎児童が父から認知されることによって、法律上の父が存在する状態になるのであるが、法4条1項1号ないし4号が法律上の父の存否のみによって支給対象児童の類型化をする趣旨でないことは明らかであるし、認知によって当然に母との婚姻関係が形成されるなどして世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもない。また、父から認知されれば通常父による現実の扶養を期待することができるともいえない。したがって、婚姻外懐胎児童が認知により法律上の父がいる状態になったとしても、依然として法4条1項1号ないし4号に準ずる状態が続いているものというべきである。そうすると、施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において、法4条1項1号ないし4号に準ずる状態にある婚姻外懐胎児童を支給対象児童としながら、本件括弧書により父から認知された婚姻外懐胎児童を除外することは、法の趣旨、目的に照らし両者の間の均衡を欠き、法の委任の趣旨に反するものといわざるを得ない
(3) 原判決は、法4条1項2号の「父が死亡した児童」及び4号の「父の生死が明らかでない児童」は、父が存在しないため父による扶養を受けることができない類型を定めたものであり、施行令1条の2第3号は、本件括弧書を含めてこれに準ずるものとして規定されたものであるとし、父の認知によって受給資格が失われるのは、法4条1項2号及び4号により支給対象とされた児童について養父の出現や父の生存の確認によって父の不存在という事実がなくなれば父が扶養義務を尽くすか否かにかかわらず児童扶養手当の支給が打ち切られるのと同様であるとする。しかしながら、上記各号に定める父の死亡や父の生死不明も、単なる法律上の父の不存在ではなく、世帯の生計維持者としての父の不存在の場合を類型化したものということができるのであり、上記各号の場合に養父の出現や父の生存の確認によって世帯の生計維持者としての父の不存在の状態が解消されたとしてその受給資格を喪失させることと、認知により法律上の父が存在するに至ったとの一事をもって受給資格を喪失させることとを同一視することはできないというべきである。
そして、このように解することは、事実上の婚姻関係にある父母の間に出生した児童が、事実上の婚姻関係の解消によって法4条1項1号の支給対象児童となった場合において、その後に父の認知があったとしても、その受給資格に消長を来さないと解されていることとも整合する。

5 以上のとおりであるから、【要旨】施行令1条の2第3号が父から認知された婚姻外懐胎児童を本件括弧書により児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲から除外したことは法の委任の趣旨に反し、本件括弧書は法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件括弧書を根拠としてされた本件処分は違法といわざるを得ない。
以上によれば、原審の前記判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、この趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記説示によれば、上告人の請求を認容した第1審判決は、結論において是認することができるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって、裁判官町田顯の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+反対意見
裁判官町田顯の反対意見は、次のとおりである。
私は、多数意見が本件括弧書は法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効であると解することに、賛成することができない。その理由は、次のとおりである。
多数意見は、法が4条1項各号で規定する児童は世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童を支給対象児童として類型化しているものと解し、婚姻外懐胎児童は世帯の生計維持者としての父がいない児童であり、認知によって世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもないから、父から認知された婚姻外懐胎児童を支給対象児童としない本件括弧書は法の委任の趣旨に反し、無効であるとする。
しかし、児童扶養手当の制度は、多数意見も指摘するとおり、死別母子世帯には母子福祉年金が支給されていたところ、生別の場合も、死別の場合と同様、これにより児童の経済状態が悪化することは異ならないので、死別母子世帯との均衡から、生別母子世帯に対しても同様の施策を講ずることを主眼に創設されたものであり、かつ、これと同視することができる状態にある児童である〈1〉父が死亡した児童、〈2〉父が一定の障害の状態にある児童(事故、疾病等により父が障害者となることも少なくない。)及び〈3〉父の生死が明らかでない児童を支給対象児童として明記し、これらに準ずる状態にある児童で政令で定めるものも支給対象児童とすることができるものとしたものである。法が世帯の生計維持者としての父のいない児童すべてを支給対象児童とするものではないことは、その文言上からも明らかであり、また、このことを前提に、法の議決に当たり衆議院の社会労働委員会が、政府は父と生計を同じくしていないすべての児童を対象として児童扶養手当を支給するよう措置することを求めていること(付帯決議が法的効力を持つものでないことは、いうまでもない。)によっても裏付けることができる。父と生計を同じくしていない児童のすべてではなく、父母の離婚等その児童の経済状態が悪化する特別の事情のある児童に限って児童扶養手当を支給する社会保障立法が、憲法に反するものでないことは、最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁に照らし明らかである。これを、多数意見のように、法は世帯の生計維持者としての父がいない児童を類型化して支給対象児童としているものと解すると、その一つの典型である婚姻外懐胎児童について、法が4条1項に列記しないことの説明が困難と思われる。
このように解すべきものとすれば、内閣は、法4条1項5号の委任に基づき、政令を定める場合に、婚姻外懐胎児童を支給対象児童とすることを義務付けられているものではない。同号が同項1号から4号までに準ずる状態にある児童として政令に定めるものを支給対象児童とすると包括的、抽象的に定める趣旨は、どのような状態にある児童を同項1号から4号までに準ずる状態にあるとして政令に定めるかを、政令の制定権者である内閣の裁量にゆだねているものというべきである。そして、内閣が婚姻外懐胎児童を支給対象児童として政令で定める場合に、父から認知されたものと認知されていないものとで異なった扱いをしても、別異に扱うことに合理的理由があるなら、なお裁量の範囲内にあるものと解される。同じ婚姻外懐胎児童であっても、父から認知されたものは父に対し扶養請求権を持つのに、認知されていないものにはそのような権利はないから、社会福祉制度の一つである本件児童扶養手当の支給について、認知されていないもののみを支給対象児童とすることも合理的な理由があり、施行令1条の2第3号の括弧書部分が法の委任の趣旨に反するものとは解されない。このように解しても、認知を受けた児童が父から引き続き1年以上遺棄されている場合など、法4条1項2号から4号まで又は施行令1条の2第1号若しくは2号に該当する場合には、婚姻関係にある父母の間で出生した児童と同じ事由に基づき児童扶養手当の支給を受けることができるのであるから、格段の不利益を受けるものともいえない。多数意見は、事実上の婚姻関係にある父母の間で出生した児童が事実上の婚姻関係の解消によって児童扶養手当の支給を受けている場合に、その後の父の認知によって受給資格に消長を来さないのに、婚姻外懐胎児童の場合は父の認知により受給資格を欠くこととなるのは、整合性に欠けるようにいうが、事実上の婚姻関係にある父母の間で出生した児童については、法は、父の認知の有無にかかわらず、父があるものとして法を適用するものとしているのであるから、認知によって法の適用上新たに父が出現するものではないのに対し、婚姻外懐胎児童の場合は、父の認知によって初めて父があることになるのであるから、受給資格に関し、認知の取扱いが異なっても、整合性に欠けることとなるものではない。
児童扶養手当は、前記のとおり、離婚等により経済状況が悪化した母子家庭等に支給される社会保障としての給付であるから、その運用は、この趣旨に従って行われるべきものであるところ、従前児童扶養手当を受ける事由となっていた受給資格に該当しなくなった場合でも、他の受給資格がある場合には、受給資格喪失処分をすることは許されないものと解するのが相当である。そして、本件のように父から認知を受けたことにより、施行令1条の2第3号の受給資格を欠くこととなった場合には、同条1号に規定する児童に該当する場合があることも十分予想されるから、児童扶養手当受給資格喪失処分の適否を判断するに当たっては、同号等に該当する事由の有無を釈明、審理する必要があるものというべきである。
よって、この点を判断させるため、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すのが相当である。
(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 町田顯 裁判官 深澤武久)

++解説
《解  説》
一 児童扶養手当は、いわゆる母子家庭の生活安定と自立促進のため、児童扶養手当法に基づき支給されるものであるが、同法四条一項は、その支給対象児童として、父母が婚姻を解消した児童(一号)など一定の類型の児童を定めた上で、同項五号で「その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」と規定し、支給対象児童を定めることを政令に委任しており、同法施行令一条の二は、これを受け、一定の類型の児童を定めている(なお、同法の関係における「婚姻」はいわゆる事実婚を含むものである。)。本件で問題とされたのは、支給対象児童を定める同法施行令一条の二第三号(平成一〇年政令第二二四号による改正前のもの)の規定のうち、「母が婚姻(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)によらないで懐胎した児童」から「父から認知された児童」を除外している括弧書部分(本件括弧書)である。
本件は、婚姻によらないで懐胎した児童(婚姻外懐胎児童)を出産し、同号該当児童を監護する母として平成三年から児童扶養手当の支給を受けていたXが、平成五年に、その子が父に認知されたことにより、Yから児童扶養手当の受給資格喪失通知をされたため、その根拠となった本件括弧書が違憲、違法であるなどとして、処分の取消しを求めた事案である。
なお、本件括弧書自体は、上記平成一〇年改正により既に削除されている。
二 本件の第一審判決は、本件括弧書は、法四条一項一号の定める父母婚姻解消児童に比較して、婚姻外の児童を社会的地位又は身分により差別するもので、差別は合理的な理由によるものとはいえないから、憲法一四条に違反し、無効であるとして処分を取り消した。これに対し、原審は、①施行令一条の二第三号は、本件括弧書を含め、全体として手当支給の積極要件を定めた規定であり、本件括弧書のみを無効として処分を取り消すことは、法及び施行令が規定していない認知された婚姻外懐胎児童をも支給対象に含める法令が存在するとして処分を取り消すことと同一の結果となり、立法府又は政令制定者の権限を侵し許されない、②のみならず、認知の有無、すなわち、父の存否を指標として支給対象児童を画する本件括弧書を設けることは、憲法に違反するものでもなく、法の委任の範囲内であるとし、第一審判決を取り消し、原告の請求を棄却した。
なお、本件括弧書に基づく児童扶養手当の受給資格喪失処分を争う訴訟は、本件以外にもあり、京都事件では、一審(京都地判平10・8・7本誌一〇三七号一二二頁)は本件括弧書を違法であるとしたが、二審(大阪高判平12・5・16訟月四七巻四号九一七頁)は違憲、違法とはいえないとし、広島事件では、一審(広島地判平11・3・31判自一九五号五二頁)はこれを違憲、違法といえないとしたが、二審(広島高判平12・11・16判時一七六五号三七頁)は違憲、違法であるとするなど、判断が分かれていたところである。
三 本判決は、まず、施行令一条の二第三号の規定は、婚姻外懐胎児童を児童扶養手当の支給対象児童として取り上げた上、認知された児童をそこから除外するという明確な立法的判断を示しているといえ、この判断が違憲、違法なものと評価される場合に、同号の規定全体を不可分一体のものとして無効とすることなく、その除外部分のみを無効とすることは、いまだ何らの立法的判断がされていない部分につき裁判所が新たに立法を行うことと同視されるものとはいえないとし、原審の上記①の判断を是認できないとした。
そして、本判決は、本件括弧書が法の委任の範囲を超えたものか否かについて検討し、法は、世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童を類型化していると解することができるところ、婚姻外懐胎児童は、世帯の生計維持者としての父がいない児童で、父の現実の扶養を期待することができない類型の児童に当たるから、施行令が本件括弧書を除いた本文で婚姻外懐胎児童を法の定める支給対象児童に準ずる児童としたことは、法の委任の趣旨に合致するとし、他方で、本件括弧書を設けて認知された婚姻外懐胎児童を除外したことについては、認知がされれば法律上の父が存在する状態になるが、法四条一項一号ないし四号は法律上の父の存否のみによって支給対象児童の類型化をする趣旨ではないし、認知によって当然に世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもなく、また、認知されれば通常父による現実の扶養を期待できるともいえないから、婚姻外懐胎児童が認知されても、依然として法四条一項各号に準ずる状態が続いているといえ、施行令一条の二第三号がその本文で婚姻外懐胎児童を支給対象児童としながら、本件括弧書により父から認知された婚姻外懐胎児童を除外することは、法の委任の趣旨に反するとして、憲法判断をするまでもなく、本件括弧書は無効であるとした(この点には町田裁判官の反対意見が付されている。)。
本判決は、社会保障立法の分野において、支給対象を定める政令の一部を違法無効としたものであるが、第一審判決のように、法四条一項一号が支給対象児童としている父母婚姻解消児童(法四条一項一号)との比較のみによって平等原則違反をいうものではないことは判旨からも明らかであろう。いわゆる社会保障立法において、給付の対象とされた類型と対象とされなかった類型との差異を個別に取り上げ、これだけを比較してその差異に十分に合理的な根拠がない限り直ちに憲法一四条一項違反とするような判断手法は、結局、社会保障立法における立法者の裁量権を極めて狭く解することにもなりかねず、反対意見が参照する最大判昭57・7・7民集三六巻七号一二三五頁、本誌四七七号五四頁(堀木訴訟大法廷判決)の示した判断基準からみても議論のあり得るところであろう。本判決は、他の支給対象児童を定めている法の規定も、準ずる児童を定めることを委任した法の委任の趣旨として考慮し、婚姻外懐胎児童につき、認知の有無、すなわち、法律上の父の有無による線引きをすることは、法の委任の趣旨に反するとしたものであり、認知婚姻外懐胎児童と父母婚姻解消児童との単純な対比ではなく、むしろ、認知婚姻外懐胎児童と未認知婚姻外懐胎児童とを対比し、両者の取扱いを異にすることが、その四条一項で種々の支給対象児童を規定している法の委任の趣旨に反するか否かを検討したものといえよう。
四 なお、前記京都事件及び広島事件についても、上告及び上告受理申立てがされ、前者は第二小法廷に、後者は第一小法廷に係属していたが、広島事件については、本判決と同日に同旨の判決がされ、京都事件については、平成一四年二月二二日に、全員一致でほぼ同旨の判決がされている。
本件は、平成一〇年の改正により既に削除されるに至った本件括弧書の適否が問題となった事案であるが、政令の法適合性について判断を示し、法の委任の趣旨に反するとして政令の一部を無効とした最高裁判決であるので(なお、法の委任の範囲を超えるとして、政令等を無効とした最高裁判例としては、農地法施行令一六条についての最大判昭46・1・20民集二五巻一号一頁、本誌二五七号一一七頁、監獄法施行規則一二〇条及び一二四条についての最三小判平3・7・9民集四五巻六号一〇四九頁、本誌七六九号八四頁がある。)、紹介する。

+判例(H21.11.18)
理由
上告代理人中北龍太郎の上告受理申立て理由及び上告代理人樺島正法、同小西憲太郎、同佐竹明の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 本件は、東洋町選挙管理委員会(以下「処分行政庁」という。)が、東洋町議会議員A(以下「A議員」という。)に係る解職請求者署名簿の署名について、解職請求代表者に非常勤の公務員である農業委員会委員が含まれているとして、そのすべてを無効とする旨の決定をし、さらに、請求代表者等の関係人である上告人らによる異議の申出も平成20年5月20日付けの決定(以下「本件異議決定」という。)により棄却したことから、上告人らにおいて本件異議決定の取消しを求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) 上告人X1を含む6名(以下「本件代表者ら」という。)は、処分行政庁に対し、平成20年3月14日、A議員に係る解職請求書を添えて、本件代表者らがその解職請求代表者である旨の証明書の交付を申請し、同月17日、処分行政庁からその旨の証明書の交付を受けた。当時、上告人X1は、非常勤の公務員である農業委員会委員であった。
(2) 公職選挙法(以下「公選法」という。)89条1項本文所定の公務員は、同項ただし書所定の者を除き、在職中、公職の候補者となることができないが、地方自治法(以下「地自法」という。)及び地方自治法施行令(以下「地自令」という。)は、公選法89条1項を議員の解職の投票に準用するに当たり、「公職の候補者」を「普通地方公共団体の議会の議員の解職請求代表者」と読み替え、かつ、同項ただし書(同項2号に関する部分を除く。)の準用を除外している(地自法85条1項、地自令115条、113条、108条2項、109条。以下、地自令の上記4条項のうち、公選法89条1項を準用することにより議員の解職請求代表者の資格を制限している部分を併せて「本件各規定」という。)。したがって、本件各規定によれば、農業委員会委員は、公職の候補者となることができる場合であると否とを問わず、在職中、議員の解職請求代表者となることができないこととなる。
(3) 本件代表者らは、処分行政庁に対し、同年4月14日、上記解職請求書に係る1124名分の署名簿(以下「本件署名簿」という。)を提出し、同月17日に受理されたが、処分行政庁は、本件各規定により農業委員会委員は議員の解職請求代表者となることができないことを前提に、同年5月2日付けで、本件署名簿の署名をすべて無効とする旨の決定をした。
(4) 上告人らが上記決定に対し異議の申出をしたところ、処分行政庁は、本件署名簿の署名は農業委員会委員を解職請求代表者の1人とする署名収集手続において収集されたものであって、すべて成規の手続によらない署名であるなどとして、同月20日付けで、異議の申出を棄却する本件異議決定をした。

3 原審は、上記事実関係等の下において、次のとおり判断して、上告人らの請求を棄却した。
本件各規定の委任の根拠規定である地自法85条1項は、議員の解職請求に係る投票手続のみならず、これと一連の手続の中で密接に関連する請求手続についても、公務員の職務遂行の中立性を確保し、手続の適正を期する観点から、公選法の規定の準用を認めたものであって、本件各規定はその委任の範囲内の適法かつ有効な定めと解されるから、農業委員会委員を解職請求代表者の1人とする署名収集手続において収集された本件署名簿の署名は、すべて成規の手続によらない署名として無効である。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 普通地方公共団体の議会の議員の選挙権を有する者は、法定の数以上の連署をもって、解職請求代表者から、当該普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該議会の議員の解職の請求をすることができ(地自法80条1項)、選挙管理委員会は、その請求があったときは、直ちに請求の要旨を関係区域内に公表するとともに(同条2項)、これを選挙人の投票に付さなければならないこととされている(同条3項)。このように、地自法は、議員の解職請求について、解職の請求と解職の投票という二つの段階に区分して規定しているところ、同法85条1項は、公選法中の普通地方公共団体の選挙に関する規定(以下「選挙関係規定」という。)を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているのであるから、その準用がされるのも、請求手続とは区分された投票手続についてであると解される。このことは、その文理からのみでなく、〈1〉 解職の投票手続が、選挙人による公の投票手続であるという点において選挙手続と同質性を有しており、公選法中の選挙関係規定を準用するのにふさわしい実質を備えていること、〈2〉 他方、請求手続は、選挙権を有する者の側から当該投票手続を開始させる手続であって、これに相当する制度は公選法中には存在せず、その選挙関係規定を準用するだけの手続的な類似性ないし同質性があるとはいえないこと、〈3〉 それゆえ、地自法80条1項及び4項は、請求手続について、公選法中の選挙関係規定を準用することによってではなく、地自法において独自の定めを置き又は地自令の定めに委任することによってその具体的内容を定めていることからも、うかがわれるところである。
したがって、地自法85条1項は、専ら解職の投票に関する規定であり、これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって、解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできない
(2) しかるに、前記2(2)のとおり、本件各規定は、地自法85条1項に基づき公選法89条1項本文を議員の解職請求代表者の資格について準用し、公務員について解職請求代表者となることを禁止している。これは、既に説示したとおり、地自法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものであって、その資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで無効と解するのが相当である。
したがって、議員の解職請求において、請求代表者に農業委員会委員が含まれていることのみを理由として、当該解職請求者署名簿の署名の効力を否定することは許されないというべきである。
最高裁昭和28年(オ)第1439号同29年5月28日第二小法廷判決・民集8巻5号1014頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。

(3) 処分行政庁は、本件異議決定において、本件署名簿の署名は農業委員会委員を解職請求代表者の1人とする署名収集手続において収集されたものであって、すべて成規の手続によらない署名であるから無効であると判断し、原審も前記のとおり同様の判断をしたものであるところ、上記のとおり、本件各規定は少なくとも請求手続に適用される限りでは違法、無効な定めといわざるを得ないから、これに基づいて上記署名を成規の手続によらない署名であるとすることはできない。
なお、公務員は一般職、特別職を問わず議員の解職請求の請求手続の当初から解職請求代表者となることができないとするのが、地自法85条1項に関する従前からの一貫した行政解釈であり、前記の最高裁昭和29年5月28日第二小法廷判決も、これを是認するものであった。それにもかかわらず、本件代表者らにおいて上告人X1を含めて請求代表者証明書の交付を申請し、処分行政庁もこれを交付した理由は、定かでないが、上記の行政解釈が地自法の法文の文理とは整合しないものであり、解職請求代表者の資格制限を定める本件各規定が明確性を欠いていることも一因であることがうかがわれるところである。地自法の定める直接請求に関し請求代表者の資格制限を設けるのであれば、住民による利用の便宜や制度の運営の適正を図る見地からも、制限の及ぶ範囲は、法律の規定に基づき、可能な限り明確に規定されていることが望ましいことはいうまでもない。

5 以上によれば、本件署名簿の署名をすべて無効とした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記説示によれば、本件異議決定は違法であり、その取消しを求める上告人らの請求は理由があるから、本件異議決定を取り消すこととする。
よって、裁判官堀籠幸男、同古田佑紀、同竹内行夫の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官藤田宙靖、同涌井紀夫の各補足意見、裁判官宮川光治、同櫻井龍子の補足意見がある。

+補足意見
裁判官藤田宙靖の補足意見は、次のとおりである。
私は、多数意見に同調するが、「本件各規定」が地自法85条1項による委任の範囲を超え違法無効であると解すべき理由につき、若干の補足をしておくこととしたい。
1 私は、本件についての最終的判断は、問題となる法令の規定(特に地自法85条1項の規定)の解釈に当たり、解釈作法の在り方(解釈方法選択の視角)をどう考えるかに懸かるものと考える。
厳密な文言解釈による限り、地自法85条1項は、公選法上の普通地方公共団体の選挙に関する規定を「第80条3項・・・の規定による解職の投票」に準用すると定めているのであり、また、地自法80条は、解職の請求(1項)と解職の投票(3項)とを明確に書き分けているのであるから、同法85条1項にいう「解職の投票」の中には「解職の請求」は含まれないこととなるのが、当然の帰結であるといえよう。そうすると、地自法85条を受けた地自令115条が、公選法89条1項の「公職の候補者」を読み替えることによって公務員に「議会の議員の解職請求代表者」たり得る資格を与えないこととしているのは、法律の委任の範囲を超えて違法無効(全面的無効)であるか、あるいは、少なくとも解職請求代表者の「解職の投票」段階における役割を超えて規制する限りにおいて無効(限定合法解釈)、ということにならざるを得ないのであって、多数意見を支えているのは、基本的にはこのような法解釈であるということができる。
しかし、法解釈の方法として、法規定の合目的的解釈ないし立法趣旨の合理的解釈という方法を採用するならば、〈1〉一連の(広義の)解職請求手続の中で、公務員の政治的中立性が保障されなければならないとすれば、それは何よりも請求手続の段階においてであって、投票の段階における代表者の役割については、この見地からして見るべきものはさほど残されていないこと(言葉を換えるならば、地自法が、特に投票の段階に絞って公務員に代表者資格を否定しようとする合理的な根拠は余り無いこと)、〈2〉そもそも、地自法の定める直接請求制度は、住民の側から直接に請求ができるということに制度の根幹があるのであって、投票は、(条例制定における議会の議決などと同様に)直接請求がなされた(有効に成立した)ことの結果行政側が執らなければならない処置として位置付けられているものに過ぎない(そもそも地自法上、解職請求代表者と区別された固有の意味での解職投票代表者なるものの存在は予定されていない。同法82条等参照)こと、等に鑑みて、同法85条1項がいう「解職の投票」とは、少なくとも本件との関係では、あくまでも(広義での)解職請求手続の一環としての投票という意味と解すべきである、との解釈が成り立ち得ないではないようにも思われる。言葉を換えていえば、地自法は、確かに「解職の請求」と「解職の投票」とを制度的に区別してはいるが、しかし、両者は元々一つの目的を追求するためのプロセスの一環を成すものに他ならないのであるから、問題によっては、両者の一体性こそが重視されなければならない側面もあるのであって、「代表者」という制度は、正にこういった意味で両者に共通するものとして制度設計されているのだという考え方をすることもできるのではないか、ということである。
そして、従来の裁判例は全てがこのような解釈を採るものであり、また、国(旧自治省・総務省)においても、少なくともあえてこれに異を唱えるものではないといった状況にあること、また、このような解釈を採った結果に実質的な不都合があるとは必ずしもいえないこと(もとより、あらゆる公務員につきこのような制約を課することが合理的か否かの問題はあるかもしれないが、それは、公務員の概念の外延をめぐる問題であって、地自法85条1項の解釈に関するここでの問題とは、問題の次元を異にする)等を考えれば、昭和29年最高裁判決をあえて変更するまでもなく上告棄却とすべきであるとする反対意見にも、それなりの合理的理由は存在するものと考える。そこで、それにも拘らず、何故本件においては厳密な文言解釈の道を選択しなければならないのかが問題となるが、この点については、理論的には次のような回答がなされ得るであろう。
すなわち、仮に上記の合目的的解釈の立場に立ったときには、地自法85条の上記明文との違いをどう説明するのかが問題となるが、いずれにせよそれは、法令上用いられた概念を通常理解される意味を超えより広い意味に理解するという意味において、一種の拡張解釈をする結果とならざるを得ない。そして、本件の場合には、そのような拡張解釈が、公務員の権利の制限を拡大する目的のために行われることになるのである(もっともこの点、ことは立法技術の問題であって現行85条の明文の下でも「解職の投票」中に「解職の請求」が含まれているものと読める、という考え方をするならば、これは「拡張解釈」ではないことになろうが、ここでは、立法の専門家でなく、上記のように、一般国民の目線でどう読めるかを基準として「拡張解釈」の語を用いている)。
もとより、刑事法の分野に属さない公法の分野において、国民の権利の制限の幅を広げる目的の下に明文規定の拡張解釈をすることが、解釈作法としておよそ禁じられるものとは必ずしもいえず、より大なる公益目的のためにそれもやむを得ないと考えるべき場面が生じ得ないとはいえない。しかし、本件の権利制限の場合には、このような権利制限の拡張を(解釈上)認めないことが、取り返しのつかない重大な公益の侵害をもたらす結果につながるとは、必ずしも考えられない(例えば、直接請求に際しての公務員の政治的中立性を担保する結果をもたらす現行法上の規制は、必ずしも本件における規制のみに止まるわけではない)反面、制限される権利自体は、国民の参政権の行使に関わる、その性質上重要なものであるということができる。そうであるとすれば、権利制限の幅を広げようとする以上、明文の規定についての拡張解釈によってではなく、法的根拠と内容とを明確にした新たな立法によって行うのが本来の筋であるというべきことになろう。
2 問題はさらに、こういった規制の明確化を求めるという目的のために、本件において、あえて最高裁が判例変更の道にまで踏み込むべきであるという判例政策上の決断をすべきか否かである。
今回、当審が本件各規定を法律の委任の枠を超え違法無効と判断する解釈の道を選んだとき、その後始末をどうするのかは、もはや司法権の判断の枠を超えることであるが、仮に立法府(法律)ないし行政府(政令)が、公務員についてはおよそ解職請求代表者への就任資格を持たせないこととする政策自体を不可欠であると考えるのであれば、直ちにそれに対応した立法措置を執ることとなるであろうが、仮に、そのような措置が執られなかったとするならば、それはすなわち、そのような規制は必ずしも不可欠の規制ではなかったことを裏書きするものであるということになるはずである(なお、この点に関し、地自令115条が無効とされることによって、解職請求代表者の資格制限につきいわば空白事態が生じることをどう考えるかという問題もあるが、私自身は、公務員の政治的行為の制限につき、およそあらゆる場面につき一瞬の空白を置くことも無く法令による完全な規制がなされるのでなければ危機的事態が生じるとは考えていない)。国民の権利を制限する法令の規定の上記に見たようなあるべき姿に鑑みるとき、権利を制限される国民の側から問題が提起されている本件を契機として、この点についての再確認を行うことには、それなりに十分な意義があるものと考えられる。
また、本件のような訴訟が起き、また学界においてこれを支持する声が生じるのは、一つには、本件の農業委員会委員等も含め、およそ一切の公務員にこのような権利制限を加えることに果たして合理的な意味があるのかが問題とされるからであることは明らかであり、このような点も含め、改めて資格制限の在り方を検討するきっかけを創出すること自体に意味があると考えることもできよう。
上記の理由により、私は、上記のような決断に基づき昭和29年最高裁判決を変更し、本件各規定の違法を前提とした処理をするとの判断を採用することも一つの合理的判断であると考え、多数意見に同調するものである。

+補足意見
裁判官涌井紀夫の補足意見は、次のとおりである。
私の見解は、多数意見のとおりであるが、反対意見には、本件を処理するに当たっての多数意見の基本的な考え方について誤解を招き兼ねないところがあるように思われるので、念のためにこの点を明らかにしておくこととしたい。
本件では、農業委員会委員が議員の解職請求代表者になることができないものとした処分行政庁の判断の適否が争われているのであるが、その中心的な争点は、議員の解職請求代表者の資格を制限した地自令の本件各規定が委任の根拠規定である地自法85条1項の規定の文理との関係で有効なものと見られるか否かという点にある。そこで、多数意見は、専ら法文の文理からして、この地自法85条1項の規定が解職の投票に関する規定であって、解職の請求についてまで政令で規定することを許容する規定とは解し得ないものとし、このことを理由に、解職請求代表者の資格について定めた本件各規定が法の委任の範囲を超える定めをしたものであって、その効力を認めることができないとしているのである。すなわち、それは純粋な法理の問題であり、それ以上に、解職請求代表者の資格について本件各規定が定めるような制限を加えることが立法政策として相当であるか否かといった実体について判断しているものではない。
もちろん、このように本件各規定の効力が否定されることとなった場合、公務員について解職請求代表者となる資格を制限するためには、改めて法律の規定に基づく明確な定めを置くことが求められることになるが、この場合に、制限等の内容としてどのようなものが許容されるか、あるいはどのような定めが望ましいかといった問題は、立法政策の問題として、関係する当局の権限と責任において検討されるべきものであることは、いうまでもないところである。
裁判官宮川光治、同櫻井龍子の補足意見は、次のとおりである。
私たちは、多数意見に同調するものであるが、更に私たちが考えるところを補足して述べておきたい。
1 本件の経緯をみると、処分行政庁は議員の解職請求に関し農業委員会委員である上告人X1を含めた本件代表者らに対し請求代表者証明書を交付し、かつ、その旨を告示しており、本件代表者らはこれにより署名の収集を開始し、1か月以内に処分行政庁に対し選挙権を有する者の3分の1以上であるとする1124名分の議員の解職請求に係る署名簿を提出し受理されたところ、その後、処分行政庁は、農業委員会委員が請求代表者の一人となった署名簿の署名は成規の手続によらない署名であるという理由で、署名簿の署名をすべて無効とする旨の決定を行ったものである。私たちは、この事態は、住民の直接請求制度の在り方の根幹にかかわる重大な問題を提起しているものと考える。
地方行政の基本は間接(代表)民主制であるが(憲法93条、地自法89条、139条)、住民が主権者として選挙によって代表者を選んだ後、代表者の意思と住民の意思がかい離するという事態が生ずることがある。そのような間接民主制の欠陥を直接民主制の原理により補完するという直接参政制度が地自法において一定の範囲で設けられている。普通地方公共団体に一定の施策の実施を求めるいわゆるイニシアティブ(発案制度)として条例の制定又は改廃の請求(12条1項、74条~74条の4)及び事務の監査の請求(12条2項、75条)があり、いわゆるリコール(解散・解職請求制度)として議会の解散請求(13条1項、76条~79条)及び議員・長その他役員の解職請求(13条2項、3項、80条~88条)がある。後者は、憲法15条1項の「公務員の罷免権」を具現したものとしてみることができる。住民のこうした権利を実現するための重要な手続については、法により疑問の余地なく明確に規定されていなければならない。
そこで、請求代表者の資格制限についての根拠規定をみるに、多数意見において指摘したとおり、これまでの実務上の解釈、運用、また昭和29年最高裁判決が示すところについては明確な根拠を見いだすことは困難であるといわざるを得ない。それが署名簿の署名の効力をすべて失わせるという結果をもたらすということの重大さにかんがみると、私たちは、上記判例を変更せざるを得ないと考えるものである。
2 ところで、公選法において、公務員は、在職中、公職の候補者となることができないと定められているところであるが(89条1項本文)、一定の範囲の公務員についてはその制限が解除されている(同項ただし書)。例えば、非常勤の消防団員・水防団員(同項4号)、臨時又は非常勤の委員等で政令で指定する者(同項3号)がこれに該当する。農業委員会委員は在職のままで市町村の議会の議員及び長の選挙に関してはその候補者となることができる(公職選挙法施行令90条2項1号、別表第2及びその備考欄)。このような資格を有する農業委員会委員に関し、他方で、議員の解職請求については、請求手続段階において代表者となることを否定するといったことが、処分行政庁の実務における混乱の背景にはあるものと考えられる。今日、地方自治体の行政を支える非常勤の特別職公務員は、多種多様にわたっている。特に、地自法制定当時に比べると、各種審議会の数は著しく増え、様々な立場の者がそれらの委員に幅広く任命されるに至っており、中には公募の一般住民を審議会委員に任命する自治体も増えている。本件の東洋町は、記録によれば、人口がおよそ3300人の町であるが、このような規模の普通地方公共団体においては、青壮年者の相当数は何らかの役を担っているものと考えられる。これらの非常勤の特別職公務員について、一般職の常勤公務員と同様に、請求代表者になることを制限しなければならないのであれば、その根拠規定、理由等はできる限り明確で、かつ、一般の住民にも理解され周知されるような形のものであるべきであろう。
3 また、地自法85条1項の立法趣旨も必ずしも明確であるとはいい難い。地自法は、直接参政制度をいずれも請求手続と請求の効果に関する手続の二段階として構成しており、条例の制定・改廃の請求に関する規定を他の請求手続に準用している(75条5項、76条4項、80条4項、81条2項、86条4項)。以上の請求はいずれも代表者により行われる必要があるところ、地自法は、条例の制定・改廃の請求に関し、請求代表者の資格について選挙権を有すること以外に制約を設けていない。こうした構成からすると、他の直接請求に関しても、請求代表者についての請求段階における資格制限を設けるものとすることが地自法の趣旨であったのか否かは容易に断定できないと思われる。
4 直接請求制度は、我が国においては、これまで十分活用されてきたとはいい難い制度であったが、近年、住民の自治意識が高まるに伴い、全国的に件数も増え、重要性を増してきていることがうかがわれる。とりわけ、政策的な地方分権の推進により、都道府県、市町村の行う業務についての自治権限が強まってきているが、このような団体自治の確立と併せて、真の意味の地方自治の発展には、住民が自ら判断し、自ら責任を負うという形の住民自治の拡充が不可欠である。そして、その住民自治の拡充を進めるシステムの一つとして、各種の直接請求制度、住民投票制度などの直接民主制の機能の充実が要請されているところである。本件の直接請求制度における請求代表者の資格要件については、このような地方分権の流れを踏まえながら、住民の基本的な権利行使の問題として法的にも明確な整理を行い、住民自らの決定が滞りなく行われ得る環境を整えることが、法律の立案等に携わる者の責務であることを補足して強調しておきたい。
裁判官堀籠幸男、同古田佑紀、同竹内行夫の反対意見は、次のとおりである(裁判官竹内行夫については、本反対意見のほか、後記の追加反対意見がある。)。
私たちは、原判決は正当であり、最高裁昭和29年5月28日第二小法廷判決を変更すべき理由はなく、本件上告を棄却すべきものと考える。その理由は、以下のとおりである。
1 普通地方公共団体の議会の議員(以下「自治体の議員」という。)についての請求による解職制度(以下「解職制度」という。)は、署名収集等の請求のための手続と投票の手続の二つの部分からなるが、これらは解職制度の一部をなす一連のものである。解職請求代表者は、解職制度全体を通じた存在であり、法の関係規定から、解職制度において、請求者の代表として、解職の実現のため、解職を請求し、署名収集のみならず賛成投票を得るための活動(以下「投票運動」という。)などの一連の活動を主導し、投票の手続に関与する主体として位置付けられていることが認められ、解職制度を構成する重要な主体である。
地自法85条1項は、「政令で特別の定をするものを除く外、公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定は、・・・第80条第3項・・・の規定による解職の投票にこれを準用する。」と規定する。これは、選挙によって選出された自治体の議員の解職は投票によって明らかにされた住民の意思により決すべきものであるところ、その投票が住民の意思を問うという点において、自治体の議員の選挙と実質的に同様の性質を有することにかんがみ、その選挙の場合と同様の公正を確保することが必要であることから、原則として選挙と同様の仕組みによることとしたものである。そして、解職請求代表者に公務員がなることは、その地位を利用して住民の投票に不当な影響を及ぼすおそれがあることなど、選挙において公務員が公職の候補者になる場合と同様、投票の公正を害するおそれがあることから、公選法89条1項の規定等の資格制限規定も除外することなく準用しているものであり、これを受けて、地自令115条は、自治体の議員の解職投票に公選法89条1項を準用する場合に、「公職の候補者」を自治体の議員の「解職請求代表者」と読み替える旨規定しているのであって、これらの規定により、公務員は解職請求代表者となることが禁止されているのである。地自法85条1項にいう「解職の投票」の意味も上記趣旨に照らして解釈しなければならない。同項にいう「解職の投票」とは、公選法の「選挙」に対応する概念として、解職の投票の仕組みの全体をいうものと解すべきである。
2 多数意見は、要旨、地自法85条1項は公選法中の選挙関係規定を同法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているから、準用されるのは請求手続と区分された投票手続についてであると解されることのほか、解職の投票手続が、選挙人による公の投票手続であるという点において選挙手続と同質性を有しており、公選法中の関係規定を準用するのにふさわしい実質を備えていること、請求手続は選挙権を有する者の側から当該投票手続を開始させる手続であって、これに相当する制度は公選法中には存在せず、その選挙関係規定を準用するだけの手続的な類似性ないし同質性があるとはいえないこと、それゆえ、地自法80条1項及び4項は、請求手続について、法に独自の定めを置き又は政令に委任することによってその具体的内容を定めていることを理由として、同法85条1項を受けた政令において、解職の請求について規定することはできず、したがって解職請求代表者の資格制限が請求手続にまで及ぼされる限度において公選法89条1項本文の規定を解職請求代表者の資格に準用することは許されないとする。
しかしながら、前記のとおり、地自法85条1項は、解職投票につき選挙と同様に公正を確保する観点から投票の仕組みを原則として選挙と同様のものとすることとしたものである。同法は請求の要件や署名収集等に関する規定を設けているが、これらは専ら請求に関する事項についての必要な規定を設けたものであって、投票に関する事項については原則として公選法の選挙に関する規定によることとしているものである。多数意見は請求手続と投票手続の区分を強調するが、前記のとおり、両者は一連の不可分のものであり、解職請求代表者は、両者を通じて投票による解職を実現しようとする者として解職投票の仕組みを構成する主体である。したがって、その資格は投票に関するものであり、公選法89条1項の準用があるのは明らかというべきである(多数意見によれば、請求及び投票の事務を管理する選挙管理委員会の委員等も請求手続に関しては代表者になることができることになるが、明らかに不当であろう。)。
多数意見に従えば、解職の実現という目的に向けて行われる一連かつ一体的な活動を主導する法律上1個の主体の資格を分断することになり、そのような主体の資格の決め方として不自然かつ不合理である。署名収集段階においても投票運動が認められていることとも整合しない。また、公務員が解職請求代表者になることにより投票の公正が害されることを防止しようとする法の趣旨に反するものである。公務員が解職請求代表者になれば、投票に不当な影響を及ぼすおそれがあることは、署名収集などの段階においても何ら変わりはない。投票手続に関して代表者になることができない者が解職請求の代表者となることは法の予定するところではない。
3 以上は、地自法85条1項その他法の関係規定から十分理解できるし、また、地自令において、同項の適用に関して、公選法の公職の候補者に関する部分は請求代表者に関する規定とみなす旨の規定が設けられているなど(108条2項等)、その適用関係が明確にされている(地自令は準用規定が多用されて複雑になっているが、これは、請求の種別ごとに規定を設ける必要によるものと思われる。)。
私たちの意見は、地自法85条1項その他法の関係規定から合理的に導かれ、法の趣旨に沿った解釈で、しかも行政実務のみならず、既に当審において是認され、裁判においても長年にわたり確立している解釈が相当であるというものである。多数意見は、解職請求代表者の資格に関して、投票の公正の確保を図る法の趣旨に反して、公務員につき、いかなる公務員であるかを問わず、自治体の議員の解職制度における請求手続段階では無制限であると宣言するものといわざるを得ず、このようなことまでしてあえて前記の昭和29年最高裁判決を変更すべき理由はないと考える。多数意見には到底賛同できない。
裁判官竹内行夫の追加反対意見は、次のとおりである。
私の意見は前記反対意見として述べたとおりであり、これと重複するところもあるが、多数意見に賛同し得ない私の基本的考えを補足して述べておきたい。
1 多数意見は、地自法は、議員の解職請求について、解職の請求と解職の投票という二つの段階に区分して規定しており、同法85条1項は、公選法中の選挙関係規定を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているのであるから、その準用がされるのも請求手続とは区別された投票手続についてのみであるとして、同法85条1項に基づき政令で定めることができるのは専ら投票手続の範囲に限られるのであって、解職請求代表者の資格制限が請求手続にまで及ぶとすることはできないとしている。
地自法85条1項に基づく解職請求代表者の資格制限をこのように専ら投票手続に限定する多数意見の解釈についての諸問題は、前記反対意見において指摘したところであるので、ここではあえて詳述しないが、多数意見の解釈姿勢が、規定の文言や法形式を重視する余り、地自法85条1項の立法趣旨や昭和29年5月28日の最高裁判決(以下「昭和29年最高裁判決」という。)を始めとする裁判例及び実務により定着してきた合理的解釈に十分考慮を払っていないところに根本的な問題があると考える。
2 地自法85条1項及び本件各規定の目的は、普通地方公共団体の議会の議員の解職請求(リコール)に関する手続の適正を確保することにあり、そのために公務員が公務遂行上の中立義務に反して解職請求代表者になることを認めないとする点にその立法趣旨があると解される。このことについて、昭和29年最高裁判決は、地自法85条1項によれば、公選法中の選挙関係規定は村長及び村会議員の「解職請求及びその投票に至る一連の行為に関し準用される」とした上で、「(農業委員会)委員在職中の者が請求代表者のうちに名をつらねていることが署名のしゆう集に影響を及ぼす可能性は常に否定し得ないところであるから、在職中の委員を請求代表者となり得ないものとする法意にかんがみれば、かような手続によりしゆう集された署名は、すべて成規の手続によらない署名として無効と解さざるを得ない。」とした。そして、下級審においても、神戸地裁昭和28年10月9日決定(行裁集4巻12号3149頁)、青森地裁昭和28年10月31日判決(昭和29年最高裁判決の1審判決)、神戸地裁昭和29年4月20日判決(行裁集5巻4号879頁)、広島地裁平成6年4月1日決定(公刊物未登載)、那覇地裁平成16年7月14日判決(最高裁ホームページ)において、一貫して同様の解釈が採られている。また、解職請求に関する実務においても、公務員が請求代表者となることは請求手続段階から否定されてきているところである(地方自治制度研究会編『新訂注釈地方自治関係実例集』119頁以下、同編『地方自治関係実例判例集(第13次改訂版)』341頁以下)。
3 多数意見は、昭和29年最高裁判決が述べた地自法85条1項の「法意」、すなわち、その立法趣旨について言及していないし、公務員の中立義務や解職請求の手続の適正といったことにも触れていない。しかしながら、公務員の中立義務、なかんずく政治的中立性は、憲法が求める極めて重要な原則であり、これを受けて、国家公務員法や地方公務員法等に服務規律が定められ、当然のことながら、公務員に関する法令上、公務員は、解職請求の投票手続の段階のみならず請求手続の段階においても署名運動を主宰したり投票の勧誘運動をしたりすることができないこととされている。そして、地自法はその85条1項において、住民の直接請求制度である解職請求の手続の適正の確保という視点から、解職請求代表者の資格について、中立であるべき公務員は解職請求代表者とはなり得ないとの制限を設けているものと解されるのである。確かに、解職請求代表者の資格制限は、国民の公務員罷免権の行使を制約するという側面を有するものではあるが、一般の国民の参政権に対する制限ではなく、飽くまでも上記のように中立であるべき公務員に対する制限にすぎない。しかも、公務員は、このような制限の下においても、自ら署名や投票を行うことは何ら妨げられていないのみならず、解職請求に係る署名収集受任者となり署名収集活動を行うこともできるのであるから、この程度の制限は、住民の自由な意思の形成に基づく直接請求制度の適正の確保のために、地自法85条1項が当然予定するところであると解される。
多数意見によれば、公務員に関する資格制限は請求手続段階には及ばないこととなるが、そのような新たな解釈は、裁判例や実務により既に定着した合理的な解釈をあえて覆すものであるといわざるを得ない。解職請求代表者は、請求手続の段階において、自ら署名活動を行い又は署名収集受任者にこれを委任するという権限を有し、解職請求者署名簿を選挙管理委員会に提出するという一連の手続についての責任者としての地位にある。このように、解職請求代表者は投票手続よりはむしろ請求手続において、解職請求を主導し、住民を一定の方向へ政治的に方向付けるという重要な役割を担っているのである。公務員が、その中立義務に反して、その地位を利用して、このような権限と地位を有する解職請求の主導者となってそのイニシアティヴをとるようなことは、本来住民の側から自由な意思に基づいて直接請求をすることに制度の根幹があるとされる解職請求の手続の適正を損なうので許されないというのが、地自法85条1項及び関連規定の立法趣旨にのっとった自然かつ合理的な解釈であり、仮に文理上や法形式において多少明確さを欠くことがあるとしても、上記の最高裁判決を始めとする裁判例及び実務により、かかる合理的解釈が既に定着しているのであり、このように確立した合理的解釈をあえて変更する必要は認められない。
4 また、多数意見によれば、国家公務員法の適用又は準用がある公務員及び地方公務員法の適用がある公務員について、結果として、公務員法上の服務規律があることを除けば、およそ公務員が普通地方公共団体の議員の解職請求に関する請求段階の手続において代表者となることを地自法は何ら規制しないこととなる。そして、内閣総理大臣、その他の国務大臣や各省副大臣、大臣政務官、さらに本件で対象となった農業委員会委員とともに公職選挙法施行令90条2項、別表第2に掲げられている中央選挙管理会及び選挙管理委員会の委員、国家公安委員会委員、公害等調整委員会委員、衆議院議員選挙区画定審議会委員、教育委員会委員等が解職請求を主導する代表者となり得ることとなる。公務員が解職請求手続の代表者のうちに名を連ねることが住民の態度に影響を与える可能性は否定できないとの昭和29年最高裁判決の指摘は今もなお重要である。地自法の定める解職請求は、直接民主制に基づき住民が有する重要な権利であり、その制度の根幹は住民がその自由な意思により直接請求をすることができるということにある。上記判例を変更することは、立法趣旨の合理的解釈という解釈方法を後退させ、直接請求制度の根幹を損ないかねないものであると危ぐする。
(裁判長裁判官 竹崎博允 裁判官 藤田宙靖 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 堀籠幸男 裁判官 古田佑紀 裁判官 那須弘平 裁判官 涌井紀夫 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 竹内行夫 裁判官 金築誠志)

++解説
[解 説]
1 事案の概要
本件は,町議会議員に係る解職請求において,公務員につき議員の解職請求代表者となることを禁止している地方自治法施行令(以下「地自令」という。)の規定が地方自治法(以下「地自法」という。)85条1項に違反し無効といえるか否かが争われた事案である。
(1) X1を含む6名(以下「本件代表者ら」という。)は,東洋町選挙管理委員会(以下「処分行政庁」という。)に対し,町議会議員Aに係る解職請求書を添えて,本件代表者らがその解職請求代表者である旨の証明書の交付を申請し,処分行政庁からその旨の証明書の交付を受けた。当時,X1は,非常勤の公務員である農業委員会委員であった。
(2)本件代表者らは,処分行政庁に対し,法定の期間内に上記解職請求書に係る1124名分の署名簿(以下「本件署名簿」という。)を提出し,受理されたが,処分行政庁は,農業委員会委員は議員の解職請求代表者となることができないことを前提に,本件署名簿の署名をすべて無効とする旨の決定をし,Xらの異議の申出も棄却する決定(以下「本件異議決定」という。)をした。これに対し,Xらが本件異議決定の取消しを求めて提訴したのが本件である(なお,本件訴えにおける取消しの対象は,署名を無効とする決定ではなく,本件異議決定である。また,本件訴えに係る地方裁判所の判決に不服がある者は,控訴することはできないが最高裁判所に上告することができるものとされている。地自法80条4項,74条の2第8項参照)。
2 問題の所在
地自法85条1項に基づき定められた地自令108条2項及びこれを準用する113条並びに115条は,普通地方公共団体の議員の解職投票に公職選挙法(以下「公選法」という。)89条1項(公務員の立候補制限)を準用するに当たり,同項中の「公職の候補者」を「普通地方公共団体の議会の議員の解職請求代表者」とみなし又は読み替えている。そうすると,原則として国又は地方公共団体の公務員は解職請求代表者となることができないこととなる。また,同項ただし書に該当する公務員(例外的に公職の候補者となることができる公務員)に限っては代表者となることができることとなるべきところ,地自令113条によって準用される109条は,公選法89条1項ただし書の準用を除外している(ただし,同項第2号に関する部分を除く。)。このため,地自令のこれら各規定によれば,農業委員会委員等は,結局,解職請求代表者にはなることができないこととなる(以下,地自令の上記4条項のうち,公選法89条1項を準用することにより議員の解職請求代表者の資格を制限している部分を併せて「本件各規定」という。)。
もっとも,地自法の規定によれば,議員の解職に関する直接請求の制度は,解職の請求と解職の投票とから構成され,本件各規定は,いずれも,地自法85条(解散解職投票の手続)に基づき,公選法中の普通地方公共団体の選挙に関する規定(以下「選挙関係規定」という。)を解職の投票に関して準用する場合に関する規定である(このことは,本件各規定の文理上明らかである。)。
そこで,本件各規定は,少なくともそれが請求手続に適用される限りでは,地自法85条1項に基づく規定として許される範囲を超え,その限りで違法無効となるのではないかが問題となる(なお,この問題を検討する前提として,本件各規定による請求代表者の資格制限も,解職請求の投票手続についてのみ適用され,請求手続についての適用はないのではないかということも,一応問題となり得る。後記5(4)参照)。
3 原判決
原判決は,本件各規定の委任の根拠規定である地自法85条1項は,議員の解職請求に係る投票手続のみならず,これと一連の手続の中で密接に関連する請求手続についても,公務員の職務遂行の中立性を確保し,手続の適正を期する観点から,公選法中の選挙関係規定の準用を認めたものであって,本件各規定はその委任の範囲内の適法かつ有効な定めと解される旨判断した。
4 本判決
本判決は,次のとおり判示し,本件各規定は少なくとも請求手続に適用される限りでは違法,無効な定めといわざるを得ないから,これに基づいて本件署名簿の署名を成規の手続によらない署名であるとすることはできないと判断した。
(1)地自法は,議員の解職請求について,解職の請求と解職の投票という二つの段階に区分して規定しているところ,同法85条1項は,公選法中の選挙関係規定を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているのであるから,その準用がされるのも,請求手続とは区分された投票手続についてであると解される。このことは,その文理からのみでなく,①解職の投票手続が,選挙人による公の投票手続であるという点において選挙手続と同質性を有しており,公選法中の選挙関係規定を準用するのにふさわしい実質を備えていること,②他方,請求手続は,選挙権を有する者の側から当該投票手続を開始させる手続であって,これに相当する制度は公選法中には存在せず,その選挙関係規定を準用するだけの手続的な類似性ないし同質性があるとはいえないこと,③それゆえ,地自法80条1項及び4項は,請求手続について,公選法中の選挙関係規定を準用することによってではなく,地自法において独自の定めを置き又は地自令の定めに委任することによってその具体的内容を定めていることからも,うかがわれるところである。
したがって,地自法85条1項は,専ら解職の投票に関する規定であり,これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって,解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできない。
(2)しかるに,本件各規定は,地自法85条1項に基づき公選法89条1項本文を議員の解職請求代表者の資格について準用し,公務員について解職請求代表者となることを禁止している。これは,地自法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものであって,その資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで無効と解するのが相当である。
したがって,議員の解職請求において,請求代表者に農業委員会委員が含まれていることのみを理由として,当該解職請求者署名簿の署名の効力を否定することは許されないというべきである。
最二小判昭29.5.28民集8巻5号1014頁,判タ41号29頁(以下「最高裁昭和29年判決」という。)は,以上と抵触する限度において,これを変更すべきである。
5 説明
(1)直接請求の制度(条例の制定改廃の請求,監査の請求,議会の解散の請求並びに議員,長及び主要公務員の解職の請求)は,昭和21年の戦後第一次地方制度改革の際にアメリカの制度を範として直接請求が定められたのを原型として,昭和22年の地自法制定の際に設けられた制度であり,アメリカ,ヨーロッパにおける住民の直接参加制度(イニシアティヴ,リコール,レファレンダム,タウン・ミーティング等)のうち,条例の制定改廃の請求はイニシアティヴに,解散・解職請求はリコールに相当するものである(以下,議会の解散請求及び長の解職請求に関する本件各規定に相当する規定と本件各規定とを併せて「本件各規定等」という。)。直接請求に関しては,地自法12条及び13条に,日本国民たる普通地方公共団体の住民は上記の直接請求をすることができる旨の総則的規定が置かれている(なお,憲法15条1項参照)。
(2)地自法及び地自令によれば,議員の解職請求に係る手続において解職請求代表者が果たす役割の概要は,次のとおりである。
ア 〔請求手続関係〕 議員の解職請求は,解職請求代表者が,請求の要旨その他必要な事項を記載した解職請求書を添えて,当該市町村の選挙管理委員会に対し,文書をもって請求代表者証明書の交付を申請することによって開始される(地自令110条,91条1項)。解職請求代表者は,証明書の交付があった旨の告示(地自令110条,91条2項)のされた日から1か月以内(都道府県の場合は2か月以内。地自令110条,92条4項)に,被請求議員の所属する選挙区において選挙権を有する者の総数の3分の1以上の署名を収集する(地自法80条1項)。署名の収集は,解職請求代表者又はこれから委任を受けた署名収集の受任者によって行われる(地自令110条,92条1項・2項)。解職請求代表者は,解職請求者署名簿を所定の様式に従って調製し(地自令110条,98条の4),署名数が選挙権を有する者の3分の1以上となったときは,所定の期間内に,解職請求者署名簿を市町村の選挙管理委員会に提出し(地自令110条,94条1項),これに署名押印した者が選挙人名簿に登録された者であることの証明を求める(地自法80条4項,74条の2第1項)。解職請求代表者は,選挙管理委員会から所定の審査,縦覧を終えて返付を受けた署名簿の署名の効力の決定に不服がないときは,その返付を受けた日から5日以内に,所定の要件を満たす有効署名があることを証明する書面及び署名簿を添えて,議員の解職請求をする(地自令110条,96条1項。いわゆる本請求)。選挙管理委員会は,上記請求を受理したときは,直ちにその旨を解職請求代表者に通知するとともに,その者の住所,氏名及び請求の要旨を告示し,かつ,公衆の見やすいその他の方法により公表しなければならない(地自法80条2項,地自令110条,98条1項)。
イ 〔投票手続関係〕 議員の解職の投票は,上記告示の日から60日以内に行われる(地自令113条,100条の2第1項)。解職の投票に関する運動に関しては,被請求議員及び解職請求代表者とも,原則として1か所ずつ事務所を設置することが認められている(地自令113条,109条,115条,公選法130条,131条1項5号。なお,解職の投票に関する運動についての期間制限はない。)。解職請求代表者は,解職請求についての開票に当たり,開票立会人となるべき者一人を定め,市町村の選挙管理委員会に届け出ることができる(地自法85条1項,地自令108条2項,115条,公選法62条1項)。投票の結果は,解職請求代表者に通知され,その投票の効力に関して異議のある解職請求代表者は,所定の期間内に異議を申し出ることができる。この解職の投票の効力に関する争訟に関しては,公選法の普通地方公共団体の選挙に関する規定が準用される(地自法85条1項,地自令105条,108条2項,公選法202条1項,206条1項,219条1項)。
ウ 以上のとおり,解職請求代表者は,議員の解職請求に関する一連の手続の中で,解職請求書を作成し,選挙権を有する者に署名押印を求め,その解職請求者署名簿を調製し,その署名について選挙管理委員会の証明を受け,その名簿を選挙管理委員会に提出する責任者としての地位を有しており,請求手続において特に重要な役割を果たしているということができる。
(3)本件各規定等の地自法85条1項適合性という本件の問題点をめぐる裁判例,実務及び学説の状況は,次のとおりである。
ア 〔裁判例〕 裁判例は,最高裁昭和29年判決が,地自法85条1項によれば,公選法中普通地方公共団体の選挙に関する規定は村長及び村議会議員の解職請求及びその投票に至る一連の行為に関し準用されるなどとして,本件各規定が有効であることを前提とする判断をしており,他の下級審判決も,すべて,本件各規定等を違法無効ではないとし,又はそのことを前提とする判断をしていた(①神戸地決昭28.10.9行集4巻12号3149頁,②青森地判昭28.10.31〔最高裁昭和29年判決の1審判決〕,③広島地決平6.4.1〔公刊物未登載〕,④那覇地判平16.7.14〔最高裁HP〕)。
イ 〔実務〕 解散・解職請求に関する実務も,本件各規定等が請求手続にも適用されること及び有効な規定であることを前提として,衆議院議員,都議会議員,町議会議員,最低賃金審議会委員等につき,解散・解職請求の請求代表者となることを否定してきた(地方自治制度研究会編『注釈地方自治関係実例集〔新訂版〕』119頁以下,同編『地方自治関係実例判例集〔第13次改訂版〕』336頁以下参照)。なお,いずれも請求代表者の資格制限が問題とされた案件に関するものではないが,旧自治省は,①「地方自治法第85条1項にいう解散の投票及び解職の投票とは,請求代表者証明書交付の手続に始まる一連の手続をいうものと解せられる」との回答をしたことがあるところ(ただし,解散・解職の投票における届出等の時間〔公選法270条の2〕の準用の有無に関する案件。昭和28年1月28日自丙選発第17号山口県選管宛自治庁選挙部長回答),その後,②解散・解職の賛否の投票運動の許否に関する疑義が問題とされた案件に関し,解散・解職の請求の投票運動と,その前提である署名の収集を成立させ又は成立させない運動とは判然と区別されるべきものであり,地自法85条1項により準用される公選法13章の規制は,投票運動についてのみ適用されるとの回答をした(昭和32年11月18日自丙管発第90号福岡県選管委員長宛選挙局長回答)。ただし,旧自治省ないし総務省は,上記②の回答後も,公務員が解散・解職請求の請求手続においても請求代表者となることができないという解釈自体は改めていない(例えば,昭和39年10月28日和歌山市選管宛電話回答)。
ウ 〔学説〕 学説は,本件各規定等が請求手続にも適用されることを当然の前提とした上で,これを適法とする適法有効説(①綿貫芳源『注解地方自治法Ⅰ』203頁,②角島靖夫=山本鎮夫『直接請求制度の解説』80頁,③石津廣司「議会の解散の請求」古川俊一編『最新地方自治法講座(3)住民参政制度』282頁,④橋本勇「議員及び長等の解職請求」同326頁,⑤松本英昭『新版逐条地方自治法〔第4次改訂版〕』278頁等)と,これを違法とする違法無効説(①和田英夫「上記アの①神戸地判の判批」自研32巻12号79頁,②地方自治総合研究所『コンメンタール直接請求』215頁〔岡田彰執筆部分〕,③杉村敏正ら編『コンメンタール地方自治法』178頁〔浜川清〕,④千葉勇夫「住民の直接参加」『現代行政法大系(8)』345頁,⑤地方自治総合研究所編『逐条研究地方自治法Ⅰ』554頁,⑥安本典夫「非常勤消防団員の解散・解職請求権の制限」立命236号1頁,⑦太田和紀『注解法律学全集(6)地方自治法Ⅰ』189頁,⑧成田頼明ら編『注釈地方自治法〔全訂〕』1252頁,⑨室井力ら編『基本法コンメンタール地方自治法〔第4版〕』81頁〔安本典夫〕,⑩伊東健次「直接請求の署名の効力の確定及び署名に関する罰則」『最新地方自治法講座(3)住民参政制度』374頁等)とに分かれているが,適法有効説は少数であり,違法無効説が多数説といってよい状況にあった。
(4)本件の問題点を検討する前提として,地自法及び地自令において,議員の解職請求は請求手続と投票手続とが区別して規定されており,本件各規定は公選法中の選挙関係規定を解職の投票に準用する場合の定めとして規定されていることから,本件各規定による資格制限は,そもそも解職請求の請求手続には適用されないのではないかということが一応問題となり得る。このような解釈を推し進めていくと,選挙管理委員会は,請求手続の当初において解職請求代表者から請求代表者証明書の交付申請がされた場合,当該代表者が公務員であることを理由としては,その交付を拒絶することはできないということになる。
しかし,地自令115条は,公選法89条1項の「公職の候補者」を「普通地方公共団体の議会の議員の解職請求代表者」と読み替えており,その結果,同項本文は,「国若しくは地方公共団体の公務員……は,在職中,普通地方公共団体の議会の議員の解職請求代表者となることができない。」という規定として,議員の解職請求手続に準用されることになる。上記規定自体には,その適用される手続段階的ないし時期的な制限は付されておらず,また,上記(2)アに見たように,解職請求代表者の地位は,請求手続の当初の時点における請求代表者証明書の交付によって成立し,解職請求代表者は,その後終始一貫して手続に関与する地位が認められているのであるから,上記規定を素直に解釈する限り,それが請求手続の当初から適用される規定であることは,文理上も,事柄の性質上も,当然の前提とされているものといわざるを得ないであろう。また,実質的に考えても,上記(2)ウのとおり,請求代表者の請求手続における地位の重要性は,投票手続におけるものよりも格段に大きいものである。そもそも,本件各規定が公務員を請求代表者の資格者から除外したのは,公務の中立性を確保する趣旨に基づくものと考えられるところ,上記の地位の相違等にかんがみれば,その資格を制限する必要性は投票手続よりも請求手続に関するものの方が大きいというべきであるから,本件各規定が投票手続に関してのみその資格制限を適用する趣旨であったとは解し難い。
したがって,本件各規定の解釈としては,これに基づく資格制限は請求手続の当初から及ぶと解さざるを得ない。この点は,本判決の多数意見及び反対意見が共通の前提とするところであると考えられる。
(5)そこで,次に,本件各規定が請求手続の当初から適用されるとする考え方を前提として,本件各規定が請求手続に適用される限りで,地自法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものとして違法無効となるか否かを検討する。
ア 地自法85条1項は,「政令で特別の定をするものを除く外,公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定は,……第80条第3項……の規定による解職の投票にこれを準用する。」と定めている。このように,地自法85条1項は,基本的には,公選法中の選挙関係規定を議員の解職の投票に準用するとしつつ,投票手続の特殊性等にかんがみ準用するのが相当ではない規定について準用から除外することを地自令に委任したものと解される。その意味において,選挙関係規定の準用除外を定める地自令の規定が地自法85条1項に基づく委任命令(法律の個別の委任に基づいて制定された政令。内閣法11条,内閣府設置法7条4項,国家行政組織法12条3項参照)としての性質を有していることは明らかであり,仮にその規定が委任の範囲を超えていると解される場合には,少なくともその限りで同規定は違法無効ということになる。また,一般的に,政令の立案当局は,法律による個別の委任がなくとも,法律の規定を実施するための手続等の細目を定める執行命令(実施政令)を定めることができると解される(内閣府設置法7条3項,国家行政組織法12条1項,地自法附則21条参照)。本件各規定のうち,少なくとも地自令108条2項及び115条において公職の候補者に関する読替えをしている部分は執行命令の性質を有していると解され,例えば,当該読替規定を置くことによって地自法が制限を想定していない事項にわたって住民の権利を制限するなどの結果になる場合には,少なくともその部分は違法無効と解されよう。
イ そこで,まず,地自法85条1項がどのような事項を地自令の定めに委任したと解されるかについて検討する。上記(2)のとおり,地自法は,議員の解職請求について,解職の請求と解職の投票という二つの段階に区分して規定しているところ,同法85条1項は,公選法中の選挙関係規定を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めている。そもそも,解職の投票手続は,選挙人による公の投票手続であるという点において選挙手続と同質性を有しており,公選法中の選挙関係規定を準用するのにふさわしい実質を備えているのに対し,請求手続は,選挙権を有する者の側から当該投票手続を開始させる手続であって,これに相当する制度は公選法中には存在しないのであるから,その選挙関係規定を準用するだけの手続的な類似性ないし同質性があるとはいい難い。また,そうだからこそ,地自法80条1項及び4項は,請求手続について,公選法中の選挙関係規定を準用することによってではなく,地自法において独自の定めを置き又は地自令の定めに委任することによってその具体的内容を定めていると解されよう。そうすると,地自法85条1項が定めているのは,専ら解職の投票について,公選法中の選挙関係規定の準用することであり,同項が地自令に委任しているのは,その場合における準用除外を定めることであって,同項が解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできないと解される。
ウ また,このような地自法85条1項の解釈を前提とすると,地自令において公選法中の選挙関係規定の準用に伴う読替え等を細目的規定として定める場合において,その定めが解職請求の請求手続の当初から解職請求代表者の資格を制限するようなものとなるときには,もはや地自法の実施上の細目的事項の範囲にとどまるものということはできず,許容されないということになろう。
エ それにもかかわらず,本件各規定は,地自法85条1項に基づき公選法89条1項本文を議員の解職請求代表者の資格について準用し,公務員について解職請求代表者となることを禁止している。そうすると,このような形による資格制限は,上記イ及びウの見地からも,地自法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものであって,その資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで無効と解されることとなる。本判決が本件各規定の一部を無効と説示したのは,以上のような基本的な考え方を前提とするものではないかと考えられる。
(6)このように,本判決は,公選法89条1項並びに公選令90条2項及び別表第2に列挙されている公職の候補者の公務員ごとに資格制限の当否を立法事実にまでさかのぼって実質的に検討したものではなく,解職請求に関する地自法の文理ないし構造に関する法論理的な理解を前提として,上記の結論を導いたものと考えられる。したがって,本件各規定の一部が無効とされた後に,立法当局ないし地自令の立案当局において,解職請求代表者につきどのような立法事実に基づきどのような資格制限を設け又は設けないこととするかという点について,本判決は何ら言及するところではないと考えられる。この点に関し,本判決が,「地自法の定める直接請求に関し請求代表者の資格制限を設けるのであれば,住民による利用の便宜や制度の運営の適正を図る見地からも,制限の及ぶ範囲は,法律の規定に基づき,可能な限り明確に規定されていることが望ましいことはいうまでもない。」と付言していることが注目されよう。
なお,政令等の定めを法律の委任の範囲を超えるとして無効とした最高裁の判例としては,①農地法施行令16条に関する最大判昭46.1.20民集25巻1号1頁,②監獄法施行規則120条及び124条に関する最三小判平3.7.9民集45巻6号1049頁,③児童扶養手当法施行令1条の2第3号に関する最一小判平14.1.31民集56巻1号246頁及び最二小判平14.2.22判タ1089号131頁,④貸金業の規制等に関する法律施行規則15条2項に関する最二小判平18.1.13民集60巻1号1頁がある。
(7)本判決には,藤田裁判官・涌井裁判官の各補足意見,宮川裁判官・櫻井裁判官の補足意見,堀籠裁判官・古田裁判官・竹内裁判官の共同反対意見,竹内裁判官の追加反対意見が付されている。
ア 藤田裁判官の補足意見は,法規定の合目的的解釈ないし立法趣旨の合理的解釈という方法を採用すると,「解職の投票」とは,少なくとも本件との関係では,(広義での)解職請求手続の一環としての投票を意味するとの解釈が成り立ち得ないではないものの,そのような立場は,法令上用いられた概念を通常理解される意味を超えより広い意味に理解するという意味において,一種の拡張解釈をする結果となるところ,本件において,そのような解釈をしなければ取り返しのつかない重大な公益の侵害をもたらす結果につながるとは,必ずしも考えられない反面,制限される権利自体は,国民の参政権の行使にかかわる重要なものであるとして,多数意見に賛意を表するものである。
イ 涌井裁判官の補足意見は,多数意見は専ら法文の文理からして地自令の規定の効力を認めることができないとしているのであり,それ以上に,解職請求代表者の資格について上記のような制限を加えることが立法政策として相当であるか否かといった実体について判断しているものではなく,改めて法律の規定に基づく明確な定めを置く場合に,制限等の内容としてどのようなものが許容されるか,あるいはどのような定めが望ましいかといった問題は,立法政策の問題として,関係する当局の権限と責任において検討されるべきものであるとするものである。
ウ 宮川裁判官・櫻井裁判官の補足意見は,真の意味の地方自治の発展には,住民が自ら判断し,自ら責任を負うという形の住民自治の拡充が不可欠であり,その拡充を進めるシステムの一つとして,各種の直接請求制度,住民投票制度などの直接民主制の機能の充実が要請されているところ,本件の直接請求制度における請求代表者の資格要件については,このような地方分権の流れを踏まえながら,住民の基本的な権利行使の問題として法的にも明確な整理を行い,住民自らの決定が滞りなく行われ得る環境を整えることが,法律の立案等に携わる者の責務であると指摘するものである。
エ 堀籠裁判官・古田裁判官・竹内裁判官の共同反対意見は,請求手続と投票手続は一連の不可分のものであって,解職請求代表者は両者を通じて投票による解職を実現しようとする者として解職投票の仕組みを構成する主体であり,その資格は投票に関するものとして公選法89条1項の準用があることは明らかであるとして,本件各規定を適法有効とした最高裁昭和29年判決を変更すべき理由はないとするものである。
オ 竹内裁判官の追加反対意見は,特に公務員の中立性に焦点を当て,解職請求代表者は,投票手続よりはむしろ請求手続において,解職請求を主導し,住民を一定の方向へ政治的に方向付けるという重要な役割を担っており,公務員が,中立義務に反して,その地位を利用して,このような権限と地位を有する解職請求の主導者となってそのイニシアティヴをとるようなことは,本来住民の側から自由な意思に基づいて直接請求をすることに制度の根幹があるとされる解職請求の手続の適正を損なうもので許されないというのが,地自法85条1項及び関連規定の立法趣旨にのっとった自然かつ合理的な解釈であるとするものである。
(8)本件各規定の地自法85条1項適合性という問題については,既に最高裁昭和29年判決によりこれを有効とする司法判断が確定しており,実務及び下級審の裁判例においても本件各規定を適法有効とする解釈が支配的であったが,学説の多数は,本件各規定は違法無効であるとの見解に立っていた。本判決は,この問題点につき,解職請求に関する地自法の定めを分析して,地自法85条1項が公選法中の選挙関係規定を準用する手続は投票手続に限定されるとした上で,本件各規定の一部を違法無効とし,最高裁昭和29年判決を55年ぶりに変更したものであって,実務上重要な意義を有すると考えられる。

+判例(H25.1.11)
理 由
 上告代理人青野洋士ほかの上告受理申立て理由について
 1 本件は,平成18年法律第69号1条の規定による改正後の薬事法(以下「新薬事法」という。)の施行に伴って平成21年厚生労働省令第10号により改正された薬事法施行規則(以下「新施行規則」という。)において,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与(以下「郵便等販売」という。)は一定の医薬品に限って行うことができる旨の規定及びそれ以外の医薬品の販売若しくは授与又は情報提供はいずれも店舗において薬剤師等の専門家との対面により行わなければならない旨の規定が設けられたことについて,インターネットを通じた郵便等販売を行う事業者である被上告人らが,新施行規則の上記各規定は郵便等販売を広範に禁止するものであり,新薬事法の委任の範囲外の規制を定める違法なものであって無効であるなどと主張して,上告人を相手に,新施行規則の規定にかかわらず郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認等を求める事案である。
 2(1) 新薬事法の関係規定
一般用医薬品(医薬品のうち,その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの。25条1号)は,第一類医薬品(その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品のうちその使用に関し特に注意が必要なものとして厚生労働大臣が指定するもの等。36条の3第1項1号),第二類医薬品(その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品(第一類医薬品を除く。)であって厚生労働大臣が指定するもの。同項2号)及びそれ以外の第三類医薬品(同項3号)に区分される。なお,原審の認定によれば,平成19年当時における一般用医薬品の販売高に占める構成比は,第一類医薬品が約4%,第二類医薬品が約63%,第三類医薬品が約33%となっていた。
27条に規定する店舗販売業者は,厚生労働省令で定めるところにより,第一類医薬品については薬剤師,第二類医薬品及び第三類医薬品については薬剤師又は登録販売者(一般用医薬品の販売又は授与に従事するのに必要な資質を有することを確認するために都道府県知事が行う試験に合格するなどして36条の4第2項の登録を受けた者)に販売させ,又は授与させなければならない(36条の5)。
店舗販売業者は,① その店舗において第一類医薬品を販売し,又は授与する場合には,厚生労働省令で定めるところにより,薬剤師をして,所定の事項を記載した書面を用いて,その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならず(36条の6第1項),② その店舗において第二類医薬品を販売し,又は授与する場合には,厚生労働省令で定めるところにより,薬剤師又は登録販売者をして,その適正な使用のために必要な情報を提供させるよう努めなければならず(同条2項),③ その店舗において一般用医薬品を購入し,若しくは譲り受けようとする者又はその店舗において一般用医薬品を購入し,若しくは譲り受けた者若しくはこれらの者によって購入され,若しくは譲り受けられた一般用医薬品を使用する者から相談があった場合には,厚生労働省令で定めるところにより,薬剤師又は登録販売者をして,その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない(同条3項)。ただし,同条1項の規定は,医薬品を購入し,又は譲り受ける者から説明を要しない旨の意思の表明があった場合には,適用しない(同条4項)。
 (2) 新施行規則の関係規定
店舗販売業者は,当該店舗において,① 第一類医薬品については,薬剤師に,自ら又はその管理及び指導の下で登録販売者若しくは一般従事者をして,対面で販売させ,又は授与させなければならず(159条の14第1項),② 第二類医薬品又は第三類医薬品については,薬剤師又は登録販売者に,自ら又はその管理及び指導の下で一般従事者をして,対面で販売させ,又は授与させなければならないが(同条2項本文),第三類医薬品を販売し,又は授与する場合であって,郵便等販売を行う場合は,この限りでない(同項ただし書)。
店舗販売業者は,当該店舗内の情報提供を行う場所において,① 新薬事法36条の6第1項の規定による第一類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師に対面で行わせなければならず(159条の15第1項1号),② 新薬事法36条の6第2項の規定による第二類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師又は登録販売者に対面で行わせるよう努めなければならず(159条の16第1号),③ 新薬事法36条の6第3項の規定による第一類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師に対面で行わせなければならず(159条の17第1号),④ 新薬事法36条の6第3項の規定による第二類医薬品又は第三類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師又は登録販売者に対面で行わせなければならない(159条の17第2号)。
店舗販売業者は,郵便等販売を行う場合には,第三類医薬品以外の医薬品を販売し,又は授与してはならない(142条,15条の4第1項1号)。

3 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人らは,平成18年法律第69号1条の規定による改正前の薬事法(以下「旧薬事法」という。)の下で店舗を開設してインターネットを通じた郵便等販売を行っていた事業者である。なお,旧薬事法の下においても,厚生省ないし厚生労働省は,各地方自治体に対し,医薬品については対面販売を実施するよう指導することや,郵便等販売は対面販売の趣旨が確保されないおそれがあるからその範囲を一定の薬効群のものに限るよう指導することを求める通知等を度々発出していたが,旧薬事法に郵便等販売を禁止する規定がなかったこともあり,平成18年頃までには多くの事業者がインターネットを通じた郵便等販売を行っており,その対象品目には新薬事法の下における第一類医薬品や第二類医薬品に相当するものが多数含まれていた。
 (2) 内閣府設置法37条2項に基づく合議制の機関として内閣府に設置されていた総合規制改革会議は,平成15年12月,コンビニエンスストアで解熱鎮痛剤等が販売可能となれば消費者の利便性は大幅に向上すること,薬局等において対面で服薬指導をしている実態は乏しい上,薬剤師が不在である例も多いにもかかわらず薬剤師が配置されていない事実に直接起因する副作用等による事故は報告されていないことなどからすれば,人体に対する作用が比較的緩やかな医薬品群については一般小売店でも早急に販売できるようにすべきであるなどとする旨の答申をした。
 (3) 厚生労働大臣の諮問機関である厚生科学審議会は,平成16年4月,医学,薬学,経営学,法律学,消費者保護の分野等関係各界の専門家・有識者等の委員による医薬品販売制度改正検討部会(以下「検討部会」という。)を設置した(なお,郵便等販売を行う事業者やその関係者は委員に加わっておらず,検討部会における意見陳述等の機会もなかった。)。検討部会は,平成17年12月,①旧薬事法は医薬品の販売に際し薬剤師等を店舗に配置することにより情報提供を行うことを求めているが,現実には薬剤師等が不在であったり情報提供が必ずしも十分に行われていない実態があるなどとした上,② セルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち,軽度な身体の不調は自分で手当てをすること)を支援する観点から,安全性の確保を前提とし,利便性にも配慮しつつ,国民による医薬品の適切な選択,適正な使用に資するよう,薬局等において専門家によるリスクの程度に応じた情報提供等が行われる体制を整備することを薬事法改正の理念として掲げ,③ 同改正の内容として,一般用医薬品のリスクの程度に応じた情報提供等の確実な実施を担保するために購入者と専門家がその場で直接やり取りを行い得る対面販売を医薬品販売に当たっての原則とし,他方で情報通信技術の活用には慎重を期すべきであるが,第三類医薬品については一定の要件の下で郵便等販売を認めるなどとする報告書(以下「検討部会報告書」という。)を公表した。
 (4) 厚生労働省は,検討部会報告書の内容等を踏まえて旧薬事法を改正する法案を作成し,上記法案は平成18年3月に内閣から国会に提出された。上記法案の審議において,政府参考人である厚生労働省医薬食品局長は,医薬品については対面販売が重要であり,インターネット技術の進歩はめざましいものの,現時点では検討部会報告書を踏まえて医薬品販売におけるその利用には慎重な対応が必要である旨答弁した。また,参考人として出席した検討部会の部会長は,検討部会の審議の経緯及び検討部会報告書の内容を説明した上,上記法案はこれらを十分に踏まえたものであり,医薬品はその本質として副作用等のリスクを併せ持つから,適切な情報提供が伴ってこそ真に安全で有効なものとなるが,これを対面販売で行っていこうというのが今回の議論の出発点であるなどと述べた。こうした審議を経て,上記法案は,衆参両院で賛成多数により可決成立した。
 (5) 厚生労働省は,平成20年2月,新薬事法に規定された販売の体制や環境の整備を図るために必要な省令等の制定に当たって必要な事項を検討するため,薬学等の学識を有する者,都道府県の関係者及び一般用医薬品に関係する団体の代表を委員とする,医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会(以下「第一次検討会」という。)を設置した。第一次検討会は,同年7月,一般用医薬品に係る郵便等販売は,購入者の利便性やこれまでの経緯に照らして一定の範囲で認めざるを得ないが,販売時に情報提供を専門家が対面で行うことが困難であるから,販売時の情報提供に関する規定のない第三類医薬品を販売する限度で認めるのが適当であるなどとする趣旨の報告書を公表した。
 (6) 厚生労働省は,第一次検討会による上記(5)のような報告書の内容を踏まえ,薬事法施行規則等の一部を改正する省令案(以下「改正省令案」という。うち郵便等販売の規制に係る部分は,下記(7)のとおり新施行規則と基本的に同一である。)の立案作業を行った。他方,総合規制改革会議の後身として内閣府に設置されていた規制改革会議は,平成20年11月,改正省令案につき,新薬事法には郵便等販売を禁止する明示的な規定はなく,郵便等販売が店頭での販売よりも安全性に劣ることも実証されておらず,消費者の利便性を阻害することになるなどの理由から,郵便等販売の規制に係る部分を全て撤回すべきである旨の見解を示した。なお,厚生労働省が改正省令案につき行政手続法39条1項の規定による意見公募手続を実施したところ,郵便等販売に関する意見2353件のうち2303件は,郵便等販売を第三類医薬品以外の医薬品についても認めるべきであるという趣旨のものであった。
 (7) 改正省令案に基づき,薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)が平成21年2月6日に制定・公布され,一部の規定を除き同年6月1日から施行するとされた。他方,厚生労働大臣の指示により,同年2月13日,新制度の下で国民が医薬品を適切に選択し,かつ,適正に使用することができる環境作りのために国民的議論を行うことを目的として,被上告人X1の代表者を含む関係各界の専門家・有識者等を構成員とする,医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会の設置が決定された。同検討会における検討は同年5月まで続けられたが,上記省令の維持を主張する趣旨の意見と上記省令中の郵便等販売に係る規制の緩和を求める趣旨の意見とが対立し,議論は収束しなかった。厚生労働省は,同月,上記省令の附則部分に離島居住者に対する第二類医薬品に係る郵便等販売を一定期間に限り認めるなどの経過措置を追加する等の省令案の作成作業を行い,同年6月1日,同経過措置等に係る部分(平成21年厚生労働省令第114号)を含む新施行規則が施行された。

 4 薬事法が医薬品の製造,販売等について各種の規制を設けているのは,医薬品が国民の生命及び健康を保持する上での必需品であることから,医薬品の安全性を確保し,不良医薬品による国民の生命,健康に対する侵害を防止するためである(最高裁平成元年(オ)第1260号同7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁参照)。このような規制の具体化に当たっては,医薬品の安全性や有用性に関する厚生労働大臣の医学的ないし薬学的知見に相当程度依拠する必要があるところである。なお,上記事実関係等からは,新薬事法の立案に当たった厚生労働省内では,医薬品の販売及び授与を対面によって行うべきであり,郵便等販売については慎重な対応が必要であるとの意見で一致していたことがうかがわれる。
そこで検討するに,上記事実関係等によれば,新薬事法成立の前後を通じてインターネットを通じた郵便等販売に対する需要は現実に相当程度存在していた上,郵便等販売を広範に制限することに反対する意見は一般の消費者のみならず専門家・有識者等の間にも少なからず見られ,また,政府部内においてすら,一般用医薬品の販売又は授与の方法として安全面で郵便等販売が対面販売より劣るとの知見は確立されておらず,薬剤師が配置されていない事実に直接起因する一般用医薬品の副作用等による事故も報告されていないとの認識を前提に,消費者の利便性の見地からも,一般用医薬品の販売又は授与の方法を店舗における対面によるものに限定すべき理由には乏しいとの趣旨の見解が根強く存在していたものといえる。しかも,憲法22条1項による保障は,狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の自由の保障をも包含しているものと解されるところ(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照),旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は,郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである。これらの事情の下で,厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が,これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり,その委任の範囲を逸脱したものではないというためには,立法過程における議論をもしんしゃくした上で,新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て,そこから,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。
しかるところ,新施行規則による規制は,前記2(1)のとおり一般用医薬品の過半を占める第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する内容のものである。これに対し,新薬事法36条の5及び36条の6は,いずれもその文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売,授与及び情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れているわけでもなく,医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。また,新薬事法の他の規定中にも,店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店舗における対面によるものに限るべきであるとか,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。なお,検討部会における議論及びその成果である検討部会報告書並びにこれらを踏まえた新薬事法に係る法案の国会審議等において,郵便等販売の安全性に懐疑的な意見が多く出されたのは上記事実関係等のとおりであるが,それにもかかわらず郵便等販売に対する新薬事法の立場は上記のように不分明であり,その理由が立法過程での議論を含む上記事実関係等からも全くうかがわれないことからすれば,そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。
したがって,新施行規則のうち,店舗販売業者に対し,一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について,① 当該店舗において対面で販売させ又は授与させなければならない(159条の14第1項,2項本文)ものとし,② 当該店舗内の情報提供を行う場所において情報の提供を対面により行わせなければならない(159条の15第1項1号,159条の17第1号,2号)ものとし,③郵便等販売をしてはならない(142条,15条の4第1項1号)ものとした各規定は,いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において,新薬事法の趣旨に適合するものではなく,新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。
 5 以上によれば,新施行規則の上記各規定にかかわらず第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認を求める被上告人らの請求を認容した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官 千葉勝美 裁判官小貫芳信)

+判例(H2.2.1)銃刀法
理由
上告代理人坂本誠一、同小林実、同清水京子の上告理由について
銃砲刀剣類所持等取締法(以下「法」という。)一四条一項による登録を受けた刀剣類が、法三条一項六号により、刀剣類の同条本文による所持禁止の除外対象とされているのは、刀剣類には美術品として文化財的価値を有するものがあるから、このような刀剣類について登録の途を開くことによって所持を許し、文化財として保存活用を図ることは、文化財保護の観点からみて有益であり、また、このような美術品として文化財的価値を有する刀剣類に限って所持を許しても危害の予防上重大な支障が生ずるものではないとの趣旨によるものと解される。このことは、法四条による刀剣類の所持の許可の場合は、危害予防の観点から、これを所持する者が法五条一項各号に該当しない者でなければ許可を受けることができないものとされているのに対し、法一四条一項による登録の場合は、登録を受けようとする者について右のような定めはなく、当該刀剣類それ自体が同項所定の「美術品として価値のある刀剣類」に該当すると認められるときは、その登録を受けることができ、登録を受ければ何人もこれを所持できるものとされており、しかもその登録事務は文化庁長官が所掌していることに照らしても明らかである(最高裁昭和五九年(行ツ)第一七号同六二年一一月二〇日第二小法廷判決・裁判集民事一五二号二〇九頁参照)。
そして、このような刀剣類の登録の手続に関しては、法一四条三項が「第一項の登録は、登録審査委員の鑑定に基いてしなければならない。」と定めるほか、同条五項が「第一項の登録の方法、第三項の登録審査委員の任命及び職務、同項の鑑定の基準及び手続その他登録に関し必要な細目は、文部省令で定める。」としており、これらの規定を受けて銃砲刀剣類登録規則(昭和三三年文化財保護委員会規則第一号。なお、右規則は、昭和四三年法律第九九号附則五項により、文部省令としての効力を有するものとされている。以下「規則」という。)が制定されている。その趣旨は、どのような刀剣類を我が国において文化財的価値を有するものとして登録の対象とするのが相当であるかの判断には、専門技術的な検討を必要とすることから、登録に際しては、専門的知識経験を有する登録審査委員の鑑定に基づくことを要するものとするとともに、その鑑定の基準を設定すること自体も専門技術的な領域に属するものとしてこれを規則に委任したものというべきであり、したがって、規則においていかなる鑑定の基準を定めるかについては、法の委任の趣旨を逸脱しない範囲内において、所管行政庁に専門技術的な観点からの一定の裁量権が認められているものと解するのが相当である(前記最高裁判決参照)。
そして、規則に定められた刀剣類の鑑定の基準をみるに、規則四条二項は、「刀剣類の鑑定は、日本刀であって、次の各号の一に該当するものであるか否かについて行なうものとする。」とした上、同項一号に「姿、鍛え、刃文、彫り物等に美しさが認められ、又は各派の伝統的特色が明らかに示されているもの」を、同項二号に「銘文が資料として価値のあるもの」を、同項三号に「ゆい緒、伝来が史料的価値のあるもの」を、同項四号に「前各号に掲げるものに準ずる刀剣類で、その外装が工芸品として価値のあるもの」をそれぞれ掲げており、これによると、法一四条一項の文言上は外国刀剣を除外してはいないものの、右鑑定の基準としては、日本刀であって、美術品として文化財的価値を有するものに限る旨の要件が定められていることが明らかである。
そこで、右の要件が法の委任の趣旨を逸脱したものであるか否かをみるに、刀剣類の文化財的価値に着目してその登録の途を開いている前記法の趣旨を勘案すると、いかなる刀剣類が美術品として価値があり、その登録を認めるべきかを決する場合にも、その刀剣類が我が国において有する文化財的価値に対する考慮を欠かすことはできないものというべきである。そして、原審の適法に確定するところによると、(1) 我が国がポツダム宣言を受諾して後、連合国占領軍(以下「占領軍」という。)は、日本政府に対し民間の武装解除の一環として昭和二〇年九月二日付け一般命令第一号一一項により一般国民の所有する一切の武器の収集及び占領軍への引渡の準備をすべき旨を命じたが、これに対し、日本政府は愛刀家の鑑賞の対象である日本古来の刀剣類までもが一般の武器と同一視されて接収されることに強く抵抗し、占領軍の理解を求めて折衝した結果、美術品として価値のある刀剣類については、占領軍への引渡の対象から除外されることになり、昭和二一年六月一五日施行された銃砲等所持禁止令(昭和二一年勅令第三〇〇号)により、地方長官の許可を得て所持できることとなった(これが本件登録制度の発端である。)、(2) その後、文化財保護法の制定に伴い、昭和二五年一一月二〇日施行された銃砲刀剣類等所持取締令(昭和二五年政令第三三四号。以下「旧取締令」という。)により、本件登録制度の前身である文化財保護委員会による登録制度が採用され、銃砲等所持禁止令は廃止されるに至ったが、右制度改正の趣旨は、従来、美術刀剣類をも凶器の一種とみて、治安上の取締りの観点から所持許可の対象としていたが、これを文化財に準ずるものとみて、その保存と活用を図るところにあった、(3) 昭和三三年四月一日から現行の法(ただし、当時は「銃砲刀剣類等所持取締法」といい、昭和四〇年法律第四七号により現行の題名に改められた。)が施行され、旧取締令は廃止されたが、登録に関する規定の文言は、法と旧取締令とで差異はない(もっとも、その後の法改正により、登録事務は文化庁長官が所掌することとなった。)、(4) 法施行後は、外国刀剣の登録例は一件もない(法施行前においては、第一審判決添付の別表記載のとおり、外国刀剣の登録例があるが、これは、旧取締令施行前の銃砲等所持禁止令の時代に許可基準の一部にあいまいな点があったために外国刀剣の所持許可がされたものを、旧取締令の施行に伴い、同令に基づく登録として引き継いだものがほとんどである。)、(5) 日本刀は、原材料に玉鋼を主体としたものを用い、折返し鍛練を行い、土取りを施し、焼入れをすることによって製作されるものであり、我が国独自の製作方法と様式美を持った刀剣であるが、その製作方法は奈良時代以後に次第に発達してきたものであって、平安時代以降は刀身に作者名を切るようになり、各派の作風の特徴が刀剣自体に具現されるようになったが、このような様式美を有する日本刀については、古くから我が国において美術品としての鑑賞の対象とされてきた、というのであり、これらの認定事実に照らすと、規則が文化財的価値のある刀剣類の鑑定基準として、前記のとおり美術品として文化財的価値を有する日本刀に限る旨を定め、この基準に合致するもののみを我が国において前記の価値を有するものとして登録の対象にすべきものとしたことは、法一四条一項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めたものというべきであるから、これをもって法の委任の趣旨を逸脱する無効のものということはできない。そうすると、上告人の登録申請に係る本件サーベル二本は上告人がスペインで購入して日本に持ち帰った外国刀剣であって、規則四条二項所定の鑑定の基準に照らして、登録の対象となる刀剣類に該当しないことが明らかであるから、以上と同旨の見解に立って、上告人の右登録申請を拒否した被上告人の本件処分に違法はないとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論違憲の主張は、その実質は原判決の単なる法令違背をいうものにすぎず、原判決に法令違背のないことは右に述べたとおりである。論旨は、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官角田禮次郎、同大堀誠一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+反対意見
裁判官角田禮次郎、同大堀誠一の反対意見は、次のとおりである。
我々は、上告人の本件登録申請を拒否した被上告人の本件処分に違法はないとした原判決を正当として、本件上告を棄却すべきものとする多数意見に賛成することができない。その理由は、次のとおりである。
一 多数意見は、法一四条一項にいう刀剣類は、文言上は外国刀剣を除外しておらず、更に同条五項に基づきいかなる鑑定の基準を定めるかについては、法の委任の趣旨を逸脱しない範囲内において、所管行政庁に専門技術的な観点からの一定の裁量権が認められていると解した上、同項の委任に基づき、規則四条二項において登録の対象を美術品として文化財的価値を有する日本刀に限ることとしているのは、法一四条一項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めたものというべきであるから、規則四条二項は、法の委任の趣旨を逸脱する無効のものということはできないとするものである。我々は、多数意見のうち、法一四条一項にいう刀剣類には外国刀剣が除外されていないという点には異論はないが、規則で登録の対象を美術品として文化財的価値を有する日本刀に限ることとしても、法の委任の趣旨を逸脱するものではなく、規則四条二項は無効ではないという点には賛成できない。すなわち、
(一) 法一四条一項にいう刀剣類には、文理上、外国刀剣を含むものと解される(法二条二項参照)。そして、法一四条一項に規定する登録制度の趣旨は、日本刀、外国刀剣を区別しないで、美術品として価値のある刀剣類で我が国に存するものを我が国の文化財として保存活用を図ることにあると解するのが相当である。そうだとすると、法の段階では、外国刀剣にも美術品として価値のあるものがあることを認めていることになるから、同条五項の委任に基づいて規則を定める場合にも、日本刀・外国刀剣の両者について、同項所定の事項を定めることこそ法の要請するところというべきであり、規則において外国刀剣を登録の対象から除外することを法が期待し、容認しているとは考えられない。換言すれば、登録の対象範囲というような登録制度の基本的事項については、本来、法で定めるべきものであって、登録の対象を日本刀に限るというような登録制度の基本的事項の変更に当たる事柄について、何らの指針を示すことなく規則に委任することが許されるとは考えられない。また、日本刀に限って登録の対象とし、外国刀剣は美術品として価値のあるものであっても登録の対象としないという判断は、政策的判断に属するというべきであり、法は、このような判断を規則に委任していると解すべきではないと考える。
(二) 鑑定の基準を定めるということと、登録の対象範囲を定めるということは、そもそも別の概念であって、鑑定基準を定めることのなかに、登録の対象範囲を定めることが当然に含まれるという解釈は、法文の用語の通常の解釈に反すると思う。更に、法一四条の法文の構成という点からいっても、登録の対象となる刀剣類の範囲を定めたうえで、登録の対象とされた刀剣類が、美術品としての価値があるかどうかは専門家の鑑定によることとし、その鑑定の基準は所管行政庁の規則で定めるというのが、もっとも法理にかなった構成であり、同条の解釈も、そのような構成に即してなされるべきである。
(三) 多数意見は、規則をもって登録の対象を日本刀に限ることができるとする実質的な理由として、本件登録制度の制定経緯、運用の実際、更には日本刀が古くから我が国において美術品として鑑賞の対象とされてきたことを挙げている。しかしながら、右のような理由は、日本刀を登録の対象とすることの合理的な理由にはなり得るとしても、外国刀剣を登録の対象から排除する積極的、合理的な理由にはなり得ないものと考える。
したがって、法一四条一項により登録の対象となる刀剣類を日本刀に限るとしている規則四条二項は、法一四条五項に基づく委任命令としては、委任の限度を超えた違法無効のものというべきであるから、本件サーベルが規則四条二項所定の日本刀に該当しないことを理由として本件登録申請を拒否した被上告人の本件処分は違法であって、取消しを免れないものというべきである。
二 前述したところと異なる見解の下に本件処分を適法とした原審の判断には、法一四条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上によれば、上告人の本訴請求は理由があることが明らかであるから、これを棄却した第一審判決を取り消し、上告人の本訴請求を認容すべきである。
(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一 裁判官佐藤哲郎は、退官のため署名押印することができない。裁判長裁判官 大内恒夫)

++解説
《解  説》
1 X(原告・控訴人・上告人)は、スペインで購入した外国製刀剣であるサーベル二本を鉄砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)一四条一、二項、銃砲刀剣類登録規則(以下「登録規則」という。)一条に基づいて「美術品として価値のある刀剣類」に該当するとして登録申請をした(これにより登録されると銃刀法三条一項六号により所持することができることになる。)が、文化庁長官から右登録に関する事務の委任(銃刀法一九条一項)を受けているY(被告・被控訴人・被上告人)は、本件サーベルが法一四条五項の委任に基づいて定められた登録規則四条二項所定の「日本刀」に該当しないとして、右登録申請の拒否処分(以下「本件処分」という。)を行った。そこで、Yは、本件処分の取消しを求めて、本訴を提起した。
本件処分は、本件サーベルが登録規則四条二項所定の「日本刀」に該当しないとの理由でされたものであり、本件の争点は、右登録規則四条二項の規定が銃刀法一四条五項の委任の趣旨を逸脱し無効というべきものかという点にある。
2 Xは、銃刀法一四条一項は、登録の対象となる刀剣類を「美術品として価値のある」ものであれば足りるとし、他に何らの制限を設けていない、しかるに、銃刀法一四条五項の委任に基づき定められた登録規則四条二項が、銃刀法一四条一項の登録の対象となる「銃剣類」を日本刀に限定しているのは、合理性がなく、法の委任の範囲を超えた制限を課しているものであり、無効であると主張した。
原審は、第一審判決(東京地判昭62・4・20判時一二二八号五五頁)の判決理由をほぼ引用し、銃刀法一四条一項によって「美術品としての価値のある」ものとして登録の対象となる刀剣類とは、我が国の伝統的技法を駆使して制作された、文化財として保護すべき価値のある「日本刀」を意味するものと解するのが相当であるとし、登録規則四条二項が、銃刀法一四条一項所定の登録制度の対象となり得る刀剣類の鑑定基準を定めるに当たって、その基準の一つとして「日本刀であって」と明示したことは、立法の経緯、目的を踏まえて銃刀法一四条一項の趣旨を明確にしたにすぎないというべきであり、しかも、合理的理由を備えたものであって、何ら同条五項の委任の範囲を超えたものではないと判示し、本件サーベルの登録を拒否した本件処分は適法であるとして、Xの請求を棄却した第一審判決を相当とし、Xの控訴を棄却した。そこで、Xが上告した。
3 本判決は、銃刀法一四条一項による登録を受けた刀剣類が、同法三条一項六号により、刀剣類の同条本文による所持禁止の除外対象とされているのは、刀剣類には美術品として文化財的価値を有するものがあるから、このような刀剣類について登録の途を開くことによって所持を許し、文化財として保存活用を図ることは、文化財保護の観点からみて有益であり、また、このような美術品として文化財的価値を有する刀剣類に限って所持を許しても危害の予防上重大な支障が生ずるものではないとの趣旨によるものであるとし、刀剣類の文化財的価値に着目してその登録の途を開いている法の趣旨を勘案すると、いかなる刀剣類が美術品として価値があり、その登録を認めるべきかを決する場合にも、その刀剣類が我が国において有する文化財的価値に対する考慮を欠かすことはできないものというべきであると解した上、本件登録制度の制定の経緯及びその沿革並びに日本刀が我が国独自の製作方法と様式美を持った刀剣であり、古くから我が国において美術品としての観賞の対象とされてきたことなどの諸点に照らすと、登録規則が文化財的価値のある刀剣類の鑑定基準として、美術品として文化財的価値を有する日本刀に限る旨を定め、この基準に合致するもののみを我が国において右価値を有するものとして登録の対象にすべきものとしたことは、銃刀法一四条一項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めたものというべきであるから、これをもって法の委任の趣旨を逸脱する無効のものということはできないと判示し、Xの右登録申請を拒否したYの本件処分に違法はないとした原審の判断は正当として是認することができるとしてXの上告を棄却した。
4 銃刀法一四条所定の登録制度の趣旨については、既に、最二小判昭62・11・20(裁判集民一五二号二〇九頁)が、銃刀法一四条一項が登録の対象としている「美術品若しくは骨とう品として価値のある火なわ式銃砲等の古式銃砲」につき、美術品又は骨とう品として文化財的価値を有する古式銃砲について、その文化財としての保存活用、その保護を図ることに本件登録制度の意義があることを明らかにしているところである。
本件登録制度の歴史的沿革は、本判決においても摘記されているとおりであり、本件登録制度の制定の経緯及びその沿革等に照らすと、右最判が判示するように、本件登録制度は、古式銃砲については美術品又は骨董品としての、刀剣類については美術品としての、文化財的価値に着目し、文化財保護の観点から設けられたものとみるのが相当であろう。本判決が、本件登録制度の趣旨につき、「刀剣類には美術品として文化財的価値を有するものがあるから、このような刀剣類について登録の途を開くことによって所持を許し、文化財として保存活用を図ることは、文化財保護の観点からみて有益であり、また、このような美術品として文化財的価値を有する刀剣類に限って所持を許しても危害の予防上重大な支障が生ずるものではないとの趣旨によるものと解される。」と判示しているのも、同様の見解によるものであろう。
銃刀法一四条一項所定の「美術品として価値のある刀剣類」の意義につき、本件一、二審判決は、同項により「美術品としての価値のある」ものとして登録の対象となる刀剣類とは、我が国の伝統的技法を駆使して製作された、文化財として保護すべき価値のある「日本刀」を意味するものと解されると判示していたが、本判決は、この点につき、「美術品として文化財的価値を有する刀剣類」の意味である旨の判示をしているが、同項の解釈として、それが日本刀に限られるものと断定してはいない。
本判決が、本件一、二審判決のように、本件登録制度の制定の経緯及びその沿革を踏まえた同項の条文解釈のみによって結論を導かず、鑑定基準(登録規則)を定立する上での行政庁の専門技術的な観点からの裁量論をも用いて結論を導いているのは、次のような見解によるものではないかと思われる。
銃刀法一四条一項により「美術品としての価値のある」ものとして登録の対象となる刀剣類とは、本件登録制度の制定の経緯及びその沿革等を考慮すると、文化財として保護すべき価値のある「日本刀」を意味するものと解されるとの本件一、二審判決の見解にも十分首肯すべき面があるが、銃刀法における「刀剣類」の定義を定めた同法二条二項所定の刀剣類には外国刀剣も含まれることが、その定義内容に照らして明らかであることを考慮すると、銃刀法一四条一項の文言上は、同項所定の「美術品として価値のある刀剣類」が日本刀に限られるもの(外国刀剣を一切排除しているもの)と断定することは困難である。もっとも、銃刀法一四条一項が、登録の対象となる刀剣類の範囲を、何の指針も与えず、いわば手放しで登録規則に委任しているものと解すべきではない。右条項が登録の対象としている刀剣類は、美術品として「文化財的価値」を有する刀剣類と解すべきであり、本件登録制度の制定の経緯及びその沿革を考慮すると、右のような美術品として「文化財的価値」を有する刀剣類として登録の対象となるべく本来的に予定されているのは、我が国において文化財的価値を有する刀剣類、すなわち、我が国の歴史、文化と深いつながりを有し、古くから我が国において美術品としての観賞の対象とされてきた日本刀を中心とするものであると解される。換言すれば、銃刀法一四条一項は、一般的に、我が国における文化財的価値の観点からみて差異の認められる日本刀と外国刀剣とを、その登録対象として同価値・同等のものとはみていないものと解される。このことは、登録規則四条二項が委任の趣旨を逸脱しているか否かを判断する上でも十分考慮されるべきである。
本判決が、「法一四条一項の文言上は外国刀剣を除外してはいない」としながらも、登録規則四条二項の定める要件が銃刀法の委任の趣旨を逸脱したものであるか否かをみる場合において、「刀剣類の文化財的価値に着目してその登録の途を開いている前記法の趣旨を勘案すると、いかなる刀剣類が美術品として価値があり、その登録を認めるべきかを決する場合にも、その刀剣類が我が国において有する文化財的価値に対する考慮を欠かすことはできないものというべきである。」と判示した上で、本件登録制度の制定の経緯及びその沿革についての原審が確定した事実関係を摘記しているのは、右のような見解によるものではないかと思われる。
そして、本判決が、銃刀法一四条三項、五項による登録規則(四条二項)への委任の趣旨につき、前掲最二小判昭62・11・20と同様の判示をしているのは、銃刀法一四条五項の委任により制定された登録規則四条所定の鑑定の基準の趣旨につき、その一項と二項とを別異に解すべき合理的根拠はないから、本件においても右最二小判と同様の見解に立たざるを得ないとの見解によるものであろう。
本判決は、銃刀法一四条一項による登録の対象となる刀剣類の意義につき、「美術品として文化財的価値を有する刀剣類」と解し、規定の文言上は外国刀剣を除外してはいないとした上で、登録規則四条二項が登録の際の鑑定の基準として、美術品として文化財的価値を有する日本刀に限る旨を定めていることが、銃刀法一四条一項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めたものというべきであると判示したものであるが、その趣旨を、本来、銃刀法一四条一項において定められるべき事項である登録の対象範囲につき、同条が何らの指針も示さないでこれを登録規則に委任し登録規則により登録の対象範囲を限定することを無条件で是認したものと解するのは相当ではない。すなわち、本判決は、前述のとおり、銃刀法一四条一項は、その登録の対象となる刀剣類の範囲につき、「我が国において文化財的価値を有する刀剣類」という枠を設け、その範囲内で登録規則に「鑑定の基準」を設けることを委任したものと解し、所管行政庁が専門技術的な観点からの裁量権を行使して定めた登録規則四条二項が美術品として文化財的価値を有する日本刀に限る旨を定め、この基準に合致するもののみを我が国において右価値を有するものとして登録の対象にすべきものとしたことが、本件登録制度の制定の経緯及びその沿革、運用の実際、日本刀が古くから我が国において美術品として鑑賞の対象とされてきたことに照らし、銃刀法一四条一項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めたものであり、銃刀法による委任の趣旨を逸脱するものとはいえないと判断したのであって、登録規則による登録対象の限定を無条件で是認したものと理解することは、本判決の趣旨に沿わないものと思われる。
5 本判決には、角田・大堀両裁判官の反対意見が付せられている。右反対意見は、要するに、銃刀法一四条一項にいう刀剣類には、文理上、外国刀剣を含むものと解し(同法二条二項参照)、同法一四条一項に規定する登録制度の趣旨は、日本刀、外国刀剣を区別しないで、美術品として価値のある刀剣類で我が国に存するものを我が国の文化財として保存活用を図ることにあると解した上、登録規則による、登録対象の範囲を日本刀に限定することは、銃刀法一四条五項に基づく委任の限度を超えたものと解すべきであるというものである。右反対意見は、多数意見が本件登録制度の制定の経緯・その沿革等のいわゆる立法事実を重視しているのに対し、銃刀法の規定の文理を重視し、法文に忠実な解釈論を展開し、その帰結として、委任命令たる登録規則四条二項は法の委任の限度を超えた違法無効のものと断定したものであり、その意見の中には、委任命令の法適合性についての司法審査の在り方について、その指針ともなるべき貴重な見解が示されているものと評価することができよう。
6 本判決は、銃刀法一四条一項の登録の対象となる古式銃砲の鑑定基準を定めた登録規則四条一項の法適合性を肯定した前掲最二小判昭62・11・20と基本的に同一の見解に立って、同法一四条一項の登録の対象となる刀剣類の鑑定基準を定めた登録規則四条二項の法適合性を肯定したものである。
本判決は、委任命令等の行政立法の法適合性を判断した数少ない最高裁判決の一つであり、委任命令等の行政立法の法適合性が問題となる同種の事案における重要な先例となるであろう。
本判決についての評釈として、飯村敏明・ひろば一四三巻一〇号六四頁、平岡久・民商一〇三巻五号九四頁、多賀谷一照・ジュリ九八〇号三五頁があり、本件第一審判決の評釈として、南川諦弘・判評三五四号二四頁がある。なお、最二小判昭62・11・20裁判集民一五二号二〇九頁の評釈として、平岡久・民商九九巻二号二三一頁、坂井満・昭和六二年行政関係判例解説二五三頁、北澤晶・本誌七〇六号三四六頁がある。


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