民法択一 物権 留置権 留置権の消滅


・留置物の占有を喪失した場合、原則として留置権は喪失する!!←留置物の占有は成立要件であるとともに存続要件である!!!
+(占有の喪失による留置権の消滅)
第302条
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第298条第2項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。
・留置権者が債務者である当該留置物の所有者の承諾を得ず留置物を賃貸した場合、当該留置物の所有者は、当該違反行為が終了したかどうか、またはこれによって損害を受けたかどうかを問わず、留置権の消滅請求をすることができる!!!
+判例(S38。5.31)
同第二点について。
被控訴人がその占有する本件伐木に関し、前記訴外会社に対し、金一三一万八六七円の請負代金債権を有すること、右債権の弁済がないこと、被控訴人は、控訴人の承諾なくして、昭和三〇年三月一六日、訴外大野木工株式会社に対し原判決添付第二目録の(1)ないし(4)の伐木を売り渡す契約をし、その手付金として金五万円を受領し、同年同月頃、右伐木を担保として、訴外大野信用金庫から金四〇万円を借用したこと、控訴人が昭和三二年九月二五日本件留置権について消減請求の意思表示をしたことは、原審の確定するところであり、民法二九八条三項の法意に照せば、留置権者が同条一項および二項の規定に違反したときは、当該留置物の所有者は、当該違反行為が終了したかどうか、またこれによつて損害を受けたかどうかを問わず、当該留置権の消滅を請求することができるものと解するのが相当である。したがつて、原判決が、前記確定事実に基づいて、本件留置権は、控訴人の消滅請求の意思表示により消滅したと判示したのは正当であり、所論は、右と異なつた見解に立つて原判決を攻撃するに帰するから、採用のかぎりでない。
+(留置権者による留置物の保管等)
第298条
1項 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2項 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3項 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
・留置物の所有権が第三者に移転した場合に、所有権移転につき対抗要件を具備するより前に、留置権者が債務者の承諾を受けて留置物を使用収益したとき、新所有者は、留置物の無断使用又は無断賃貸を理由として留置権の消滅を請求することはできない!!!
+判例(H9。7.3)
上告代理人安藤裕規、同安藤ヨイ子、同齊藤正俊の上告理由第二点について
留置物の所有権が譲渡等により第三者に移転した場合において、右につき対抗要件を具備するよりも前に留置権者が民法二九八条二項所定の留置物の使用又は賃貸についての承諾を受けていたときには、留置権者は右承諾の効果を新所有者に対し対抗することができ、新所有者は右使用等を理由に同条三項による留置権の消滅請求をすることができないものと解するのが相当である。
++解説
三 民法二九八条二項は、留置権者は原則として被担保債権の「債務者」の承諾なく留置物の使用等をすることができない旨規定している。留置権者が右承諾を得ることなく留置物の使用等をした場合に留置物の新所有者が留置権の消滅請求をなし得ること(民法二九八条三項)については、既に最二小判昭38・5・31民集一七巻四号五七〇頁、本誌一五一号七三頁、最一小判昭40・7・15民集一九巻五号一二七五頁、本誌一八三号九七頁が判示していたところであるが、右の承諾がされた場合に新所有者との関係でいかなる効力が生ずるかについては、これまで、見るべき適切な裁判例はなく、学説上も必ずしも十分に論じられていなかった。本判決は、右についての解釈を明らかにしたものである。
1 上告理由は、留置権の本来的な効力は留置権者が被担保債権の弁済を受けるまで留置物の引渡しを拒むことができることにあるとの理解に立脚し、そうであるならば、留置物の使用等の承諾は債権的な効力を有するにとどまると解すべきであるとするものであった。
しかしながら、民法二九七条は、留置権者の果実収取権を定めているところ、留置権者は、留置物の使用等の承諾を得ることによって、消滅請求を受ける懸念なく、留置物を使用等し、これによって得た果実を被担保債権の弁済に充てることができることとなり、その意味で、留置物の使用等の承諾は、留置権者の果実収取権を確定的なものとするとの意味を有する。この点に関し、大判大7・10・29新聞一四九八号一六九頁は、建物を競落した者が同建物の賃借人に賃料の支払を請求し、賃借人が同建物について負担した修繕費の弁済に賃料を充てたとして争った事案において、民法二九七条所定の留置権者の果実収取権は物権である留置権の効力として認められた優先権であって、留置物の新所有者に対しても主張できるとしつつ、留置権者は、「自己が適法に留置物を他人に賃貸したる場合のみならず、自ら留置物を賃借したる場合に於ても、其賃貸人の何人たるを問わず、之が対価として賃貸人の受くべき賃金(注・賃料)に付、同条の規定に従ひ自己に優先弁済を受くる権利ある者と解するを当然とす。」(句読点を補った。)と判示していた。右は、当該事案との関係ではその一部において傍論にとどまるが、前記のような留置物の使用等の承諾の意義を明らかにするものであった。留置権の本来的な効力として上告理由が述べるところは、留置権の内容の理解としては、狭きに失するものであり、その立論の前提に問題があったということになる。
右の点に関し、原判決は、「留置権者は留置物の所有権が第三者に移転されたことを予め知りうる立場にはないのに、第三者に所有権が移転されたことによって、右第三者に対する関係では留置物の旧所有者から与えられた承諾は有効ではなくなり、留置権の使用状態は義務違反となって、右第三者は留置権消滅を請求することができるとすることは、留置権の第三者に対する対抗力を実質上無に帰するものであり採用することは」できないと述べている。右は、前記の趣旨を、別の角度から説明したものと理解することができよう。
2 ところで、民法二九八条二項は、留置物の使用等の承諾をなし得る主体について、「債務者」と規定しているところ、仮にこれを字義どおりに理解すると、留置権の被担保債権の債務者は、その地位にとどまっている限り、留置物の所有権の移転の有無を問わず、留置物の使用等の承諾ができるかのように見えないでもない。しかしながら、前記のとおり、留置物の使用等の承諾も!!留置物に関する右債務者の物権行為の一つ!!であると解すると、右承諾をすることは、当該留置物に関する右債務者の処分権限の帰すうと一種の対抗関係に立つこととなり、被担保債権の債務者であっても、第三者との関係で確定的に留置物に関する処分権限を失った後は、右承諾をすることはできなくなるのが、その論理的な帰結ということになる。本判決が、右承諾について、留置物の所有権の移転に関する対抗要件の具備との先後関係に着目しているのは、右のような考えに基づくものと理解され、これは、民法二九八条二項の文理に限定解釈を加えたことを意味する。!!!
もとより、留置権の被担保債権の債務者が留置物に対していかなる処分権限を有するかは、事案により様々であり、右債務者のなし得る留置物の使用等の承諾の内容がその処分権限との関係でいかなるものとなるかに関しては、学説の対立が見られたところである(注釈民法(8)五五頁(田中整爾)等参照)。本判決は、留置権の被担保債権の債務者が留置物の所有者でもあったという、いわば典型的な事態を踏まえ、前記の法理を明らかにしたものであり、およそ留置権の被担保債権の債務者の立場にありさえすれば、本件におけるような留置物の包括的な使用等の承諾をなし得るとの判断を示したものではないことは当然として、前記の学説の対立点についての解決を示したものとまでも、解し得ないであろう。
  3 ところで、留置権の被担保債権の債務者のする留置物の使用等の承諾が、物権行為としての性格を有するとして、留置物の新所有者に対して留置権者がその効果を主張する場合において、右承諾の存在につき何らかの形での公示を要するものとするかどうかは、一箇の問題である。
右の点に関し、そもそも、右承諾の基礎となる留置権そのものについて、法は、たとい不動産を対象とするものであっても、留置権者による占有以外には、公示を要求していないのであって(民法一七七条、不動産登記法一条)、留置物の使用等の承諾に関しても、民法二九八条二項は、承諾の意思表示のほかに、格別の要件を要求してはいない。留置物の新所有者にしてみれば、いずれにせよ留置物の占有使用は不可能なのであるから、旧所有者のした留置物の使用等の承諾に関して公示が存在しないからといって、これによる新たな不利益が現に発生するわけではなく、かえって、留置権の被担保債権が早期に回収されて留置権の負担からより速やかに解放されるというメリットも期待できる(なお、留置物の使用等の結果、留置権者においてその保存義務に違反した事態が発生すれば、留置物の新所有者は、これを理由に留置権の消滅請求をすることができることは、いうまでもない。民法二九八条一項、三項)。他方、留置権者にしてみれば、留置物の旧所有者から得た承諾を基礎に債権の回収に着手した後、留置権者にとっては予見することのできない留置物の所有権の移転や差押え等によって、その担保権者としての法的地位が左右されるということは、やはり酷というほかないであろう。
本件の原判決は、その結論を導き出す過程で、本件の事案において原告であるXが留置物である係争建物の所有権を取得した前後を通じて留置権者であるY会社がその使用状態を変更していないことに言及しており、留置権の使用等の承諾の公示方法として、留置物の現実の使用を問題としているかのようにも見えるが、そうであるならば、Xの係争建物の所有権取得は競売によるものであったのであるから、差押登記による係争建物に対する処分制限効の発生についての対抗要件の具備と、Y会社の係争建物の使用等の状況との比較も、問題となり得たはずである。本判決は、留置物の使用等の承諾に関しては、民法二九八条二項の文理どおり、意思表示のほかには格別の要件は必要とされないとの判断を示したもので、原判決の右のあいまいな説示については、本件におけるY会社の係争建物の使用等がAの与えた承諾の範囲を超えるものではなかったことを念のため明らかにしたにとどまると理解したものと見られる(なお、原判決の前記説示は、その内容から見て、最一小判昭47・3・30裁集民一〇五号四一三頁を参考としたものと見られないでもないが、右判例の事案は、建物の賃借人が賃借建物の修繕費を負担し、これについて留置権の主張をした場合において、賃借人による建物居住の継続が、「債務者」の承諾なくなし得る留置物の「保存ニ必要ナル使用」(民法二九八条二項ただし書)を超える使用に該当するか否かが問題とされたものであり、本件とは事案が異なっている。)。
・留置権者が留置物の一部の占有を喪失した場合であっても、留置権者は、占有喪失部分につき留置権を失うのは格別として、特段の事情のない限り、当該債権の全部の弁済を受けるまで留置権の残部につき留置権を行使し得る!!!
+判例(H3.7.16)
 1 民法二九六条は、留置権者は債権の全部の弁済を受けるまで留置物の全部につきその権利を行使し得る旨を規定しているが、留置権者が留置物の一部の占有を喪失した場合にもなお右規定の適用があるのであって、この場合、留置権者は、占有喪失部分につき留置権を失うのは格別として、その債権の全部の弁済を受けるまで留置物の残部につき留置権を行使し得るものと解するのが相当である。そして、この理は、土地の宅地造成工事を請け負った債権者が造成工事の完了した土地部分を順次債務者に引き渡した場合においても妥当するというべきであって、債権者が右引渡しに伴い宅地造成工事代金の一部につき留置権による担保を失うことを承認した等の特段の事情がない限り、債権者は、宅地造成工事残代金の全額の支払を受けるに至るまで、残余の土地につきその留置権を行使することができるものといわなければならない。 
 2 これを本件についてみるのに、前記事実関係によれば、上告人は、本件造成地の工事残代金の全額の支払を受けるまで、本件造成地の全部につき留置権を行使し得るところ、本件土地は本件造成地の一部で、上告人はAから本件工事代金中一三〇〇万円の支払を受けていないというのであるから、右の特段の事情の存しない本件において、上告人は、Aから残代金一三〇〇万円全額の支払を受けるに至るまで、本件土地を留置し得るものというべきである。 
 3 そうすると、被上告人の請求は、上告人がAから一三〇〇万円の支払を受けるのと引換えに本件土地上の本件建物を収去してその敷地の明渡しを求める限度で認容し、その余を棄却すべきものである。以上と異なる原判決には、民法二九六条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨をいう論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れず、第一審判決は右の趣旨に変更すべきものである。 
++解説
この点は、留置権の不可分性(民法二九六条)の問題であるが、その不可分性とは、一般に、「物の各部分をもって債権の全部を担保し、物の全部をもって債権の各部分を担保することをいう」などと概念づけられている(梅謙次郎・民法要義巻之二物権篇二七三頁、中島玉吉・民法釈義巻之二下六一八頁、田中整爾・注釈民法(8)四七頁等)。本件は、前記のとおり、本件造成地が三筆の土地からなり、また、造成工事の完了した部分が分筆されて引き渡されているが、このように留置物が可分の物又は数個の物でも、これによって前記の牽連性が否定される場合を除き、右の不可分性に変わりはないものと解される(田中・前掲四八頁等)。薬師寺師光・留置権論三〇頁は、「留置物が一個の場合に於て…留置物が分割された場合には、留置権は各分割物の上に存続し、孰れも債権全部を担保する。留置物が数個の場合に於て…留置物中の一個又は数個が滅失するも、残りの留置物が債権全部を担保する。」と説いて、この点を明らかにしている。原審(一審同旨)は、本件工事代金が本件造成地に関して生じた債権に該当するとしながら、Yが留置権を行使し得る被担保債権の範囲を残代金の一部に限定しているのであるが、その判断は、留置権の不可分性からして、是認し得ないものと思われる。なお、本判決は、特段の事情のない限りという留保を付けているが、具体的な個々の事案において、債権者が留置物の一部を債務者に引き渡す際、留置物の残部で担保される債権の範囲まで減縮するような合意をしている場合も考えられないわけではなく、そのような場合を除く趣旨に解されるが、本件において、もとより右の特段の事情は存しない。
 本件造成地と本件工事代金との牽連性が認められる以上、留置権の不可分性からして、本判決の結論は当然といえるが、留置権者が目的物の一部を債務者に引き渡した場合における被担保債権の範囲を明示する先例もなく、この点を判示した本判決の意義は少なくないものと思われる。
+(留置権の不可分性)
第296条
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。


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