・請負報酬支払請求訴訟の請求原因事実は、①請負契約を締結したこと②仕事が完成したこと、であり、目的物を引き渡したことは請求原因事実ではない!!
・請負報酬請求権発生時を契約成立時と考える判例通説の立場によると、仕事が完成したことが請求原因となるのは、報酬支払と目的物引渡しが同時履行であることから(633条本文)、その前提として仕事の完成が先履行義務となっており、契約成立の主張をすると、仕事の完成の先履行義務があることが表れるため、この義務を履行したこともせり上げて主張立証しなければならないから!!!!!!!
+(報酬の支払時期)
第633条
報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第624条第1項の規定を準用する。
・請負契約は、報酬額が具体的に定められていない場合であっても、報酬額の決定方法が定められていれば成立する!!!!
=報酬基準などの慣行や契約内容に応じて、額が定められれば成立する!
・中途で契約が解除された場合の完成部分の所有権は注文者であるAに帰属するとの特約がある場合で、下請契約に特約のない場合、志儲け人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、特段の事情のない限り、当該出来形部分の所有権は注文者に帰属する!!!!!!
+判例(H5.10.19)
理由
上告代理人右田堯尭雄の上告理由第一点について
一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人は、昭和六〇年三月二〇日、建設業者である住吉建設株式会社との間で、上告人を注文者、住吉建設を請負人とし、代金三五〇〇万円、竣工期同年八月二五日と定めて、上告人所有の宅地上に本件建物を建築する旨の工事請負契約を締結した(以下「本件元請契約」という)。この契約には、注文者は工事中契約を解除することができ、その場合工事の出来形部分は注文者の所有とするとの条項があった。
2 住吉建設は、同年四月一五日、上告人から請け負った本件建物の建築工事を代金二九〇〇万円、竣工期同年八月二五日の約定で、建設業者である被上告人に一括して請け負わせた(以下「本件下請契約」という)。被上告人も住吉建設が上告人から請け負った工事を一括して請け負うものであることは知っていたが、住吉建設も被上告人もこの一括下請負について上告人の承諾を得ていなかった。なお、本件下請契約には、完成建物や出来形部分の所有権帰属についての明示の約定はなかった。
3 被上告人は、自ら材料を提供して本件建物の建築工事を行ったが、被上告人が昭和六〇年六月下旬に工事を取りやめた時点においては、基礎工事のほか、鉄骨構造が完成していたものの、陸屋根や外壁は完成しておらず、右工事の出来高は、工事全体の二六・四パーセントであった(以下、右時点までの工事出来形部分を「本件建前」という)。
4 上告人は、住吉建設との約定に基づき、請負代金の一部として、契約締結時に一〇〇万円、昭和六〇年四月一〇日に九〇〇万円、同年五月一三日に九五〇万円の合計一九五〇万円を支払った。
他方、上棟工事は同年五月一〇日に完了し、それまでの工事分として住吉建設から被上告人に支払が予定されていた第一回の支払分五八〇万円の支払時期は同年六月一五日であったが、その前々日の同月一三日に住吉建設が京都地方裁判所に自己破産の申立てをし、同年七月四日に破産宣告を受けたため、被上告人は、下請代金の支払を全く受けられなかった。
5 上告人は、同年六月一七日ころ、被上告人から聞かされて初めて本件下請契約の存在を知り、同月二一日、住吉建設に対して本件元請契約を解除する旨の意思表示をするとともに、被上告人との間で建築工事の続行について協議したが、工事代金額のことから合意は成立しなかった。そこで、上告人は、同月二九日、被上告人に工事の中止を求め、次いで、同年七月二二日、被上告人を相手に本件建前の執行官保管、建築妨害禁止等の仮処分命令を得て、その執行をした。
6 その後、上告人は、同年七月二九日、株式会社稲富との間で代金二五〇〇万円、竣工期同年一〇月一六日の約定で、本件建前を基に建物を完成させる旨の請負契約を締結し、稲富は、同月二六日までに右工事を完成させ、そのころ上告人から代金全額の支払を受けて本件建物を引き渡し、上告人は、本件建物につき所有権保存登記をした。
二 原審は、右事実に基づき、(一) 本件建前は、いまだ不動産たる建物とはなっていなかった、(二) 住吉建設と被上告人との間では出来形部分の所有権帰属の合意がなく、被上告人は本件元請契約には拘束されないから、本件建前の所有権は、材料を自ら提供して施工した被上告人に帰属する、(三) 本件建物は、本件建前を基に稲富が自ら材料を提供して建物として完成させたものであり、稲富の施工価格とその提供した材料の価格の合算額は本件建前の価格を超えると認められるから、本件建物の所有権は稲富に帰属し、稲富と上告人の合意により上告人に帰属した、(四) 被上告人は、本件建前が本件建物の構成部分となってその所有権を失ったことにより、本件建前の価格相当の損失を被り、他方、上告人は、本件建前を基に建物を完成させることを稲富に請け負わせ、その請負代金も本件建前分を除外した部分に対して支払われたから、本件建前価格に相当する利得を得た、(五) したがって、上告人は被上告人に対し、民法二四六条、二四八条により、本件建前価格に相当する七六五万六〇〇〇円(下請代金二九〇〇万円の出来高二六・四パーセントに相当する額)を支払う義務がある、と判断した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
建物建築工事請負契約において、注文者と元請負人との間に、契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合に、当該契約が中途で解除されたときは、元請負人から一括して当該工事を請け負った下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、注文者と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、当該出来形部分の所有権は注文者に帰属すると解するのが相当である。
けだし、建物建築工事を元請負人から一括下請負の形で請け負う下請契約は、その性質上元請契約の存在及び内容を前提とし、元請負人の債務を履行することを目的とするものであるから、下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場に立つものにすぎず、注文者のためにする建物建築工事に関して、元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはないからである。
これを本件についてみるのに、前示の事実関係によれば、注文者である上告人と元請負人である住吉建設との間においては、契約が中途で解除された場合には出来形部分の所有権は上告人に帰属する旨の約定があるところ、住吉建設倒産後、本件元請契約は上告人によって解除されたものであり、他方、被上告人は、住吉建設から一括下請負の形で本件建物の建築工事を請け負ったものであるが、右の一括下請負には上告人の承諾がないばかりでなく、上告人は、住吉建設が倒産するまで本件下請契約の存在さえ知らなかったものであり、しかも本件において上告人は、契約解除前に本件元請代金のうち出来形部分である本件建前価格の二倍以上に相当する金員を住吉建設に支払っているというのであるから、上告人への所有権の帰属を肯定すべき事情こそあれ、これを否定する特段の事情を窺う余地のないことが明らかである。してみると、たとえ被上告人が自ら材料を提供して出来形部分である本件建前を築造したとしても、上告人は、本件元請契約における出来形部分の所有権帰属に関する約定により、右契約が解除された時点で本件建前の所有権を取得したものというべきである。
四 これと異なる判断の下に、被上告人は上告人と住吉建設との間の出来形部分の所有権帰属に関する合意に拘束されることはないとして、本件建前の所有権が契約解除後も被上告人に帰属することを前提に、その価格相当額の償金請求を認容した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。
そして前記説示に徴すれば、被上告人の上告人に対する償金請求は理由のないことが明らかであるから、これを失当として棄却すべきであり、これと同趣旨の第一審判決は正当であるから、原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、右部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官可部恒雄の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
+補足意見
裁判官可部恒雄の補足意見は、次のとおりである。
一 本件は、注文者甲と元請負人乙及び下請負人丙とがある場合に、乙が倒産したときは甲丙間の法律関係はどのようなものとして理解さるべきか、との論点が中心となる事案で、請負関係について実務上しばしば遭遇する典型的事例の一つであり、本件において下請負人丙(被上告人)の請求を排斥した第一審判決を取り消した上これを認容すべきものとした原判決の理由中に、右甲乙丙三者間の法律関係につき特段の言及をした説示が見られるので、法廷意見に補足して、私の考えるところを述べておくこととしたい。
二 原判決は、その理由の三の1において、上告人甲と乙との間の元請契約には、甲は工事途中で右契約を解除することができ、その場合乙が施工した出来形部分の所有権は甲に帰属する旨の条項が設けられ、その後、右契約は解除されたが、右特約条項は注文者甲と元請負人乙との間の約定であって、下請負人たる被上告人丙を拘束するものではなく、乙丙間の下請契約には、丙が施工した出来形部分の所有権の帰属に関する特約はなされていなかったから、右元請契約の解除により直ちに本件建前の所有権が甲に移転する理はないと解される旨を判示した。
甲乙丙三者間の法律関係は原判決説示のようなものとして理解され得るか、これが本件の問題点である。
三 本件事案の概要は、注文者甲がその所有地上に家屋を築造しようとして乙に請け負わせたところ、乙は注文者甲と関りなくこれを一括して丙に下請させ、丙が乙との間の契約に従って施工中に元請負人乙が倒産した、甲は工事請負代金中の相当部分を乙に支払済みであったが、乙から丙への下請代金は支払われていなかった、というものである。
そして、本件において被上告人丙が建築工事を取り止めた時点における出来形部分の状態は、法廷意見に記述のとおりであるが、本件において工事を施工したのは一括下請負人たる丙のみであり、材料は丙が提供し、工事施工の労賃は丙の出捐にかかるものである。したがって、この点のみに着目すれば、出来形部分は丙の所有というべきものとなろう。工事途中の出来形部分の所有権は、材料の提供者が請負人である場合は、原則として請負人に帰属する、というのが古くからの実務の取扱いであり、この態度は施工者が下請負人であるときも異なるところはない。
四 しかし、此処で特段の指摘を要するのは、工事途中の出来形部分に対する請負人(下請負人を含む)の所有権が肯定されるのは、請負人乙の注文者甲に対する請負代金債権、下請についていえば丙の元請負人乙に対する下請代金債権確保のための手段としてである(注)という基本的な構成についての理解が、従前の実務上とかく看過されがちであったことである。
注 この点をつとに指摘した裁判例として、東京高裁昭和五四年四月一九日判決・判例時報九三四号五六頁を挙げることができよう。
本件において、下請負人丙の出来形部分に対する所有権の帰属の主張が、丙の元請負人乙に対する下請代金債権確保のための、いわば技巧的手段であり、かつ、それにすぎないものであることは、丙が出来形部分の収去を土地所有者甲から求められた局面を想定すれば、容易に理解され得るであろう。
すなわち、元請負人乙に対する丙の代金債権確保のために、下請負人丙の出来形部分に対する所有権を肯定するとしても、敷地の所有者(又は地上権、賃借権等を有する者)は注文者甲であって、丙はその敷地上に出来形部分を存続させるための如何なる権原をも有せず、甲の請求があればその意のままに、自己の費用をもって出来形部分を収去して敷地を甲に明け渡すほかはない。丙が甲の所有(借)地上に有形物を築造し、甲がこれを咎めなかったのは、一に甲乙間に元請契約の存するが故であり、丙による出来形部分の築造は、注文者甲から工事を請け負った乙の元請契約上の債務の履行として、またその限りにおいて、甲によって承認され得たものにほかならない。
五 本件の法律関係に登場する当事者は、まず注文者たる甲及び元請負人乙であり、次いで乙から一括下請負をした丙であるが、この甲、乙、丙の三者は平等並立の関係にあるものではない。基本となるのは甲乙間の元請契約であり、元請契約の存在及び内容を前提として、乙丙間に下請契約が成立する。比喩的にいえば、元請契約は親亀であり、下請契約は親亀の背に乗る子亀である。丙は乙との間で契約を締結した者で、乙に対する関係での丙の権利義務は下請契約によって定まるが、その締結が甲の関与しないものである限り、丙は右契約上の権利をもって甲に直接対抗することはできず(下請契約上の乙、丙の権利義務関係は、注文者甲に対する関係においては、請負人側の内部的事情にすぎない)、丙のする下請工事の施工も、甲乙間の元請契約の存在と内容を前提とし、元請契約上の乙の債務の履行としてのみ許容され得るのである。
このように、注文者甲に対する関係において、下請負人丙はいわば元請負人乙の履行補助者的立場にあるものにすぎず、下請契約が元請契約の存在と内容を前提として初めて成立し得るものである以上、特段の事情のない限り、丙は、契約が中途解除された場合の出来形部分の所有権帰属に関する甲乙間の約定の効力をそのまま承認するほかはない。甲に対する関係において丙は独立平等の第三者ではなく、基本となる甲乙間の約定の効力は、原則として下請負人丙にも及ぶものとされなければならない。子亀は親亀の行先を知ってその背に乗ったものであるからである。ただし、甲が乙丙間の下請契約を知り、甲にとって不利益な契約内容を承認したような場合(法廷意見にいう特段の事情─甲と丙との間の格別の合意─の存する場合)は別であるが、このような例外的事情は通常は認められ難いであろう(甲丙間に格別の合意がない限り、甲が丙の存在を知っていたか否かによって結論が左右されることはない。法廷意見中に、上告人は本件下請契約の存在さえ知らなかったものである旨言及されているのは、単なる背景的事情の説明にほかならない)。
六 しかるに原判決が、前記のように、中途解除の場合の出来形部分の所有権帰属についての特約は甲乙間の約定であって、下請負人丙を拘束するものでないとしたのは、さきに見たような元請契約と下請契約との関係、下請負人丙の地位が注文者甲に対する関係においては、元請負人乙の履行補助者的地位にとどまることを忘れたものとの非難を免れないであろう。
もとより、下請負人丙のための債権確保の要請も考慮事項の一たるを失わない。しかし、この点における丙の安否は、もともと、基本的には元請負人乙の資力に依存するものであり、事柄は乙と注文者甲との間においても共通である。ただ、甲乙間においては、通常、乙の施工の程度が甲の代金支払に見合ったものとなるので(したがって、乙が材料を提供した場合でも、実質的には甲が材料費を負担しているのが実態ということができ、この点を度外視して材料の提供者が乙であるか否かを論ずるのは、むしろ空疎な議論というべきであろう)、出来形部分に対する所有権の乙への帰属の有無がその死命を制することにはならず、もともと甲のための建物としての完成を予定されている出来形部分の所有権の甲への帰属を認めた上で、甲乙間での代金の精算を図ることが社会経済上も理に適い、また、乙にとっても不利益とならないのが通常であるといえよう。
他方、下請の関係についていえば、下請負人丙の請負代金債権は、元請負人乙に対するものであって、甲とは関りがない。一般に、出来形部分に対する所有権の請負人への帰属は、請負代金債権確保のための技巧的手段であるが、最終的には敷地に対する支配権を有する注文者甲に対抗できないことは、さきに見たとおりであって、元請負人乙の資力を見誤った丙の保護を、下請契約に関りのない、しかも乙に対しては支払済みの注文者甲の負担において図るのは、理に合わないことである(注)。
注 これを先例になぞらえていえば、本来丙において乙に対して自ら負担すべき代金回収不能の危険を甲に転嫁しようとするもの、ということができよう(最高裁昭和四九年(オ)第一〇一〇号同五〇年二月二八日第二小法廷判決・民集二九巻二号一九三頁参照)。
七 もし、甲が乙に対して全く代金の支払をせず、又はそれが過少であるのに、倒産した乙からの下請負人丙が一定の出来形を築造していた場合には、現実の出捐をした丙に対する甲の不当利得の成立を考える余地があろう。しかし、問題の多い不当利得による構成よりも、出来形部分の所有権の帰属に関する甲乙間の特約の効力が丙に及ぶことを端的に肯定した上で、甲に対する乙の代金債権の丙による代位行使を認める構成こそ、遥かによく実情に合致する。
これに対し、丙の施工による出来形部分に見合う代金が既に甲から乙に支払済みであるときは、乙の履行補助者的地位にある丙の下請代金債権の担保となるものは、乙の資力のみである(丙の保護、丙のための権利確保の方策は、甲ではなく乙との関係においてこそ考慮されなければならない)。一見酷であるかに見えるこの結論は、元請と下請という契約上の二重構造(子亀は親亀の背の上でしか生きられないという仕細み)から来る、いわば不可避の帰結にほかならず、これと異なる見地に立って、下請契約に関与せずしかも乙に対しては支払済みの注文者甲に請負代金の二重払いを強いることとなる原判決の見解を、丙の本訴請求に対する結論として選択する余地はないものといわなければならない。
八 従前、請負関係の紛争に関する実務の取扱いは、請負人が材料を提供した場合の出来形部分の所有権は原則として請負人に帰属するとの見地に立ち、むしろこれを最上位の指導原理として紛争の処理に当たって来たといえるが、その結果、元請負人の倒産事例において、出来形部分に見合う代金を元請負人乙に支払済みの注文者甲と、乙から下請代金の支払を受けていない下請負人丙との利害の調整に苦しみ、あるいは出来形部分の所有者である丙の注文者甲に対する明渡請求を権利の濫用として排斥し(東京高裁昭和五八・七・二八判決・判例時報一〇八七号六七頁)、あるいは出来高に見合う代金を支払った上で甲のした保存登記の抹消を求める丙の請求を権利の濫用として排斥している(東京地裁昭和六一・五・二七判決・同一二三九号七一頁)。私は、請負人が材料を提供した場合の出来形部分の所有権は原則として請負人に帰属するとの従前の実務の取扱いとの整合性に配慮しつつ、それぞれの事案において妥当な結論を導き出そうとしたこれら裁判例に見られる努力に敬意を表するにやぶさかではないが、丙の請負代金債権確保の手段として出来形部分に対する所有権の丙への帰属を肯定しようとする解釈上の努力が、それにも拘らず当の出来形部分の存在それ自体が甲の収去敷地明渡しの請求に抗する術がないという、より一層基本的な構造の認識に欠けていた点につき改めて注意を喚起し、元請倒産事例についての実務の取扱いが、一種の袋小路を思わせるような状態から脱却して行くことを期待したいと思う。
++解説
《解 説》
本件は、下請が材料を提供して施工した工事出来形の所有権の帰属が争われた事件である。確定された事実関係はおおよそ次のとおりである。注文者Yが自分の土地に建物を建てることを建設業者Aに発注したところ、Aがこの工事を一括して建設業者Xに下請に出し、実際の工事はXが自ら材料を提供して行った。しかし、工事途中でAが倒産してしまったため、YはAとの契約を解除し、他の業者に依頼して建物を完成させた。YとAとの請負契約(元請契約)では、注文者は工事中契約を解除することができ、その場合の工事の出来形部分は注文者の所有とするとの約定があったが、AとXとの契約(下請契約)にはこのような約定はなかった。元請契約も下請契約もその代金は分割支払の約定であり、Yは元請契約に従ってAの倒産時までに代金の約五六パーセントをAに支払っていたが、AはXに下請代金を全く支払わないままに倒産した。Xは工事全体の約二六パーセント程度まで施工していたが、建物といえる段階にまでは達していなかった。ちなみに、注文者の承諾のない一括下請は建設業法で禁止されているところであるが(同法二二条)、本件の一括下請もYの承諾はなく、YはAが倒産するまでXが下請していたことも知らなかった。
右のような事実関係の下で、Xは、Yに対して、完成建物の所有権はXに帰属するとして建物明渡、所有権確認を求め、予備的に、完成建物の所有権はXにないとしても倒産時までに施工した出来形(建前)はXの所有であるとして民法二四八条、二四六条に基づく償金の支払を求めた。第一審(本誌六六〇号一四二頁)は、完成建物はもちろん、出来形(建前)の所有権もYに帰属するとしてXの請求をいずれも棄却したが、第二審(本誌六九五号二一九頁)は、完成建物の所有権は認めなかったものの、出来形の所有権はXに帰属するとして、予備的請求である償金請求を認容したため、Yから上告された。本判決は、出来形(建前)の所有権もYに帰属するとして、第二審判決を破棄し、第一審判決に対するXの控訴を棄却した。
請負契約において、完成建物の所有権が注文者と請負人のいずれに帰属するかについては、判例は、周知のように、特約があればこれに従うが、特約がない場合には、材料を誰が提供したかによって分け、注文者が材料の全部又は主要部分を提供したときは原始的に注文者に帰属するが、請負人が材料の全部又は主要部分を提供したときは、完成建物は原始的に請負人に帰属し、引渡によって注文者に所有権が移転するとの理論を採っている。この理は、下請負人がいる場合も同様であるとされている(大判大4・10・22民録二一輯一七四六頁。なお、最判昭54・1・25民集三三巻一号二六頁もこのことを前提としているものと思われる。)。学説は、かつては判例の立場を支持するのが通説(我妻・債権各論中二・六一六頁)といわれてきたが、近時は、材料を提供したのが請負人であっても原始的に注文者に帰属するとする説がむしろ有力である(広中・注釈民法(16)一〇三頁、加藤・民法教室債権編一二〇頁、来栖・契約法四六七頁など)。
それでは、判例理論を前提にすると、注文者と元請との元請契約には所有権帰属の特約があるが、元請と下請との下請契約には特約がなく、かつ、材料を下請が提供して施工した場合には、所有権は誰に帰属するのであろうか。本件では正にこの点が争われたのである。
下請負人と注文者との間で完成建物の所有権帰属が争われた事例は、判例雑誌に掲載されたものだけをみても、比較的多数ある(大阪高判昭52・7・6ジュリ六五二号六頁、大阪地判昭53・10・30本誌三七五号一〇九頁、東京地判昭57・7・9本誌四七九号一二四頁、判時一〇六三号一八九頁、東京高判昭58・7・28判時一〇八七号六七頁、仙台高決昭59・9・4本誌五四二号二二〇頁、東京高判昭59・10・30判時一一三九号四二頁、東京地判昭61・5・27判時一二三九号七一頁、東京地判昭63・4・22金判八〇七号三四頁など)。その多くは本件と同じように元請業者が倒産し、注文者は代金を支払っているが、下請には下請代金の全部又は一部が支払われていないケースである。このような場合に注文者と下請のどちらを保護すべきかという問題になるが、下級審の裁判例でみる限り、前述の判例理論を前提にしつつも、あるいは注文者、元請、下請の三者間に暗黙の合意があると認定したり、あるいは下請からの所有権の主張は権利濫用であるとしたり、あるいは下請は元請の履行補助者、履行代行者にすぎないとして下請の権利主張を制限するなど、注文者を保護しようとするのが実務の傾向であるといってよい。
本判決は、注文者の承諾がないままに一括下請されたケースにつき、このような下請負人は元請負人の履行補助者的立場にあるものであるから注文者に対して元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはないとして、元請契約の約定によって出来形の所有権帰属も決せられるとした。注文者の関与できない元請や下請など工事をする側の内部事情いかんによって元請契約で定められた注文者の地位や権利が変動し、結果として注文者が代金の二重払いを余儀なくさせられるような事態になることは不合理であるとの判断に基づくものと思われる。紛争事例が多くみられる注文者と下請の関係を扱った最高裁判決であり、実務に与える影響が大きい判例といえよう。なお、本判決には可部裁判官の詳細な補足意見が付されている。
+(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)
第248条
第242条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第703条及び第704条の規定に従い、その償金を請求することができる。
+(加工)
第246条
1項 他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
2項 前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。
・請負人が注文者に対して報酬請求をした場合に、仕事の目的物に瑕疵があり、注文者が瑕疵の修補を請求したときは、注文者は法主の支払いを拒むことができる!!
←注文者の報酬支払義務と請負人の瑕疵修補義務とは、同時履行の関係にある(634条2項・533条)。そして、注文者が瑕疵修補請求をした場合、請負人の債務は、完全に履行されていないのであるから、信義則に反しない限り、注文者は修補が終了するまで、報酬の全部の支払いを拒むことができる!!!!
+(請負人の担保責任)
第634条
1項 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
2項 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第533条の規定を準用する。
+(同時履行の抗弁)
第533条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
・請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも損害を賠償して契約の解除をすることができるが、仕事の内容が可分であり、既にその一部が完成し、完成部分が注文者にとって有益なものである場合には、注文者は、未完成部分に限り契約を解除することができる!!
←「仕事の完成」についての判断。
+(注文者による契約の解除)
第641条
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
・請負契約は有償契約であり、報酬は、目的物の引渡しを要するときはその引渡しと引き換えに支払わなければならない!
+(報酬の支払時期)
第633条
報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第624条第1項の規定を準用する。
・物の引渡しを要しないときは後払いが原則。
=仕事の完成とは同時履行の関係に立たない!
+(報酬の支払時期)
第633条
報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第624条第1項の規定を準用する。
+(報酬の支払時期)
第624条
1項 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
2項 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。
・建物建築を目的とした請負契約において、建物が完成する前に不可抗力によって建物が減失し、完成が不能となった場合、その危険は請負人が負担することになるので、請負人は、注文者に対して報酬の支払いを請求することはできない!!
・建物建築請負契約の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には、注文者は、請負人に対し、建物の建て替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができる!
+判例(H14.9.24)
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人鎌田哲成の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 本件は、建物の建築工事を注文した被上告人が、これを請け負った上告人に対し、建築された建物には重大な瑕疵があって建て替えるほかはないとして、請負人の瑕疵担保責任等に基づき、損害賠償を請求する事案である。建て替えに要する費用相当額の損害賠償を請求することが、民法六三五条ただし書の規定の趣旨に反して許されないかどうかが争われている。
2 原審が適法に確定した事実関係の概要は次のとおりである。
被上告人から注文を受けて上告人が建築した本件建物は、その全体にわたって極めて多数の欠陥箇所がある上、主要な構造部分について本件建物の安全性及び耐久性に重大な影響を及ぼす欠陥が存するものであった。すなわち、基礎自体ぜい弱であり、基礎と土台等の接合の仕方も稚拙かつ粗雑極まりない上、不良な材料が多数使用されていることもあいまって、建物全体の強度や安全性に著しく欠け、地震や台風などの振動や衝撃を契機として倒壊しかねない危険性を有するものとなっている。このため、本件建物については、個々の継ぎはぎ的な補修によっては根本的な欠陥を除去することはできず、これを除去するためには、土台を取り除いて基礎を解体し、木構造についても全体をやり直す必要があるのであって、結局、技術的、経済的にみても、本件建物を建て替えるほかはない。
3 請負契約の目的物が建物その他土地の工作物である場合に、目的物の瑕疵により契約の目的を達成することができないからといって契約の解除を認めるときは、何らかの利用価値があっても請負人は土地からその工作物を除去しなければならず、請負人にとって過酷で、かつ、社会経済的な損失も大きいことから、民法六三五条は、そのただし書において、建物その他土地の工作物を目的とする請負契約については目的物の瑕疵によって契約を解除することができないとした。しかし、請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかはない場合に、当該建物を収去することは社会経済的に大きな損失をもたらすものではなく、また、そのような建物を建て替えてこれに要する費用を請負人に負担させることは、契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって、請負人にとって過酷であるともいえないのであるから、建て替えに要する費用相当額の損害賠償請求をすることを認めても、同条ただし書の規定の趣旨に反するものとはいえない。したがって、建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には、注文者は、請負人に対し、建物の建て替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができるというべきである。
4 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
++解説
《解 説》
一 本件は、建物の建築工事を注文したXが、これを請け負ったYに対し、建築された建物には重大な瑕疵があって建て替えるほかはないとして、請負人の瑕疵担保責任等に基づき、損害賠償を請求した事案である。建て替えに要する費用相当額の損害賠償を請求することが、「建物其他土地ノ工作物」については重大な瑕疵があっても請負契約を解除することはできないと定めている民法六三五条ただし書の規定の趣旨に反して許されないかどうかが争点となった。
二 Xは、Yに対し、本件建物(三世帯居住用の木造ステンレス鋼板葺二階建て建物)の建築工事を代金四三五二万二〇〇〇円で注文した。ところが、Yが建築した本件建物は、その全体にわたって極めて多数の欠陥箇所がある上、主要な構造部分について安全性及び耐久性に重大な影響を及ぼす欠陥があり、地震や台風などの振動や衝撃を契機として倒壊しかねない危険性を有するものであった。このため、本件建物については、個々の継ぎはぎ的な補修によっては根本的な欠陥を除去することはできず、技術的、経済的にみても、建て替えるほかはないというものであった。
三 そこで、Xは、Yに対し、瑕疵担保責任等に基づき建て替え費用等の損害賠償を請求した。これに対し、Yは、瑕疵の存在を争うとともに、仮に、本件建物に欠陥が存在するとしても、すべて補修可能であり、補修が不能であるとしても、民法六三五条ただし書により、建物については瑕疵の存在を理由に契約の解除をすることはできないのであるから、建て替え費用を損害として認めることは、契約の解除以上のことを認める結果となるから許されず、損害賠償の額は、本件建物の客観的価値が減少したことによる損害とされるべきであると主張した。
四 第一、二審とも、本件建物には重大な瑕疵があって建て直す必要があると判断し、瑕疵担保責任に基づき、建て替え費用相当額の損害の賠償をYに命じた。
原審の認定した本件建物の建て替えに要する費用は、建て替え費用三四四四万円のほか、建て替えに伴う引越費用、建て替え工事中の代替住居の借賃等の合計三八三〇万二五六〇円である。そして、原審は、本件建物の居住によってXが受けた利益を六〇〇万円と認め、これと未払残代金等を控除した後の二三二八万一九二四円と弁護士費用二三〇万円の合計額の限度でXの請求を認容した。なお、原判決は、このように解することが民法六三五条ただし書の規定の趣旨に反するとはいえないとの判断を示している。
五 Yの上告受理申立ての理由のうち、民法六三五条ただし書の解釈適用の誤りをいう論旨は、建物その他土地の工作物について請負契約の解除を認めない民法六三五条ただし書の規定の趣旨に照らせば、建物の建て替えに要する費用相当額の損害賠償を認めることは許されないというものであった。
これに対し、本判決は、「建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には、注文者は、請負人に対し、建物の建て替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができる。」との判断を示して、上告を棄却した。
六 民法六三四条に基づく建物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求において、建て替え費用の損害賠償請求を認めることが民法六三五条ただし書の規定の趣旨に反するかという問題について、論旨と同様に建て替え費用の損害賠償請求は許されないとする裁判例として、神戸地判昭63・5・30本誌六九一号一九三頁、判時一二九七号一〇九頁、東京地判平3・6・14本誌七七五号一七八頁、判時一四一三号七八頁がある。また、同旨の学説として、後藤勇「最近の裁判例からみた請負に関する諸問題」本誌三六五号五四頁、同「請負建築建物に瑕疵がある場合の損害賠償の範囲」本誌七二五号八頁がある。
これに対し、瑕疵修補に代わる損害賠償として建物の建て替え費用相当額の損害賠償請求を認めた裁判例として、大阪高判昭58・10・27本誌五二四号二三一頁、判時一一一二号六七頁など(大阪地判昭59・12・26本誌五四八号一八一頁、大阪地判昭62・2・18本誌六四六号一六五頁、判時一三二三号六八頁、大阪高判平1・2・17本誌七〇五号一八五頁、判時一三二三号八三頁)があり、同旨の学説もいくつか発表されている(青野博之「建築請負契約における担保責任と損害賠償」法時六一巻九号一〇四頁、池田恒男「いわゆる欠陥住宅と建築請負人の責任」本誌七九四号四一頁、内山尚三165C山口康夫・叢書民法総合判例研究 請負〔新版〕一七二頁)。
七 本判決は、まず、民法六三五条ただし書の趣旨について、「請負契約の目的物が建物その他土地の工作物である場合に、目的物の瑕疵により契約の目的を達成することができないからといって契約の解除を認めるときは、何らかの利用価値があっても請負人は土地からその工作物を除去しなければならず、請負人にとって過酷で、かつ、社会経済的な損失も大きいことから、民法六三五条は、そのただし書において、建物その他土地の工作物を目的とする請負契約については目的物の瑕疵によって契約を解除することができないとした」と判示している。しかし、その上で、本判決は、「請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかはない場合に、当該建物を収去することは社会経済的に大きな損失をもたらすものではなく、また、そのような建物を建て替えてこれに要する費用を請負人に負担させることは、契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって、請負人にとって過酷であるともいえないのであるから、建て替えに要する費用相当額の損害賠償請求をすることを認めても、民法六三五条ただし書の規定の趣旨に反するものとはいえない」と判示して、建て替え費用相当額の損害賠償を認めた原審の判断を正当として是認した。(なお、民法六三五条ただし書の規定の趣旨については、本判決と同旨を述べるものとして、我妻榮・債権各論2305中二・六四〇頁、幾代通165C広中俊雄編・新版注釈民法16債権(7)一五二頁(内山尚三執筆部分)等がある。)
八 本判決は、裁判例、学説が分かれていた論点について、最高裁判所として初めての判断を示したものであるので、実務上参考となると思われる。
+(請負人の担保責任)
第635条
仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。
・請負契約における仕事の目的物の瑕疵の修補に代わる損害賠償請求権は、建物の引渡しを受けたときに発生し、しかも期限の定めのない債権としてその発生の時から弁済期にある!(注文者が瑕疵の存在を認識したときに発生するわけではない!!)
+判例(S54.3.20)
理由
一 上告代理人新川晴美の上告理由について
本件造塀工事の進行と上告人主張の樹木の枯死によつて上告人が被つたとする損害との間には相当因果関係が認められないとした原審の認定判断は、原審の確定した事実関係及び本件記録中の証拠関係に徴して首肯するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
二 しかしながら、職権をもつて考えると、原判決には次の点において法令の解釈適用を誤つた違法があり、原判決は、結局、破棄を免れない。
1 原審は、被上告人が、昭和五〇年三月一二日に上告人に到達した書面により塀の築造についての原判示の追加工事分を含む請負契約を解除した結果、上告人に対し、二一七万一七四〇円の損害賠償債権(うち金二一〇万四九三〇円が本訴請求債権)を取得した事実、他方、上告人もまた、原判示建物の建築請負契約の注文主として、浄化槽及び排水設備工事の瑕疵について五五万六〇〇〇円、また、ボイラー室工事の瑕疵について一万五〇〇〇円、合計五七万一〇〇〇円の損害賠償債権を取得した事実をそれぞれ確定したうえ、上告人が昭和五一年一一月八日に被上告人訴訟代理人に到達の準備書面によつてした上告人の被上告人に対する右損害賠償債権を自働債権とし、被上告人の上告人に対する右損害賠償債権(本訴請求債権)を受働債権とする相殺の意思表示により、右相殺の日である昭和五一年一一月八日をもつて、自働債権五七万一〇〇〇円のうち二〇万九六八一円がまず受働債権二一七万一七四〇円のうち本訴請求にかかる二一〇万四九三〇円に対する昭和五〇年三月一三日(上告人に対する本件訴状の送達により原判示請負契約が解除された日の翌日)から同五一年一一月八日までの遅延損害金債権に充当され、その残額三六万一三一九円が前示二一〇万四九三〇円の元本債権に充当される結果、上告人は被上告人に対し、右元本の残額一七四万三六一一円及びこれに対する昭和五一年一一月九日以降完済にいたるまで年六分の割合による遅延損害金の支払義務がある旨の判断を示し、上告人に対し、右金額による金員の支払を命じている。
しかしながら、相殺の意思表示は双方の債務が互いに相殺をするに適するにいたつた時点に遡つて効力を生ずるものである(民法五〇六条二項)から、その計算をするにあたつては、双方の債務につき弁済期が到来し、相殺適状となつた時期を基準として双方の債権額を定め、その対当額において差引計算をすべきものである。本件についてこれをみるのに、自働債権である上告人の被上告人に対する債権は、民法六三四条二項所定の損害賠償債権であるから、上告人において注文にかかる建物の引渡を受けた時(原審の確定するところによれば、昭和四八年一二月二五日である。)に発生したもので、しかも期限の定めのない債権としてその発生の時から弁済期にあるものと解すべく、他方、受働債権である被上告人の上告人に対する損害賠償債権は本件請負契約につき解除の効力を生じた昭和五〇年三月一二日に発生したもので、この債権もまた期限の定めがないものとしてその発生と同時に弁済期が到来したものと解すべきである。そうすると、右両債権は昭和五〇年三月一二日をもつて相殺適状となつたものであるから、上告人が昭和五一年一一月八日にした相殺の意思表示により、昭和五〇年三月一二日に遡つて相殺の効力を生じたものというべきである。そして、右相殺により、被上告人主張の損害賠償債権二一〇万四九三〇円のうち五七万一〇〇〇円が消滅し、結局、上告人は、被上告人に対し、残額一五三万三九三〇円及びこれに対する昭和五〇年三月一三日以降支払ずみにいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務を負担するにいたつたものといわなければならない。
しかるに、原審は、上告人が相殺の意思表示をした昭和五一年一一月八日の時点における双方の債権額を計算したうえ、差引計算により被上告人の上告人に対する債権額を算出しているのであつて、右は相殺の効力に関する民法五〇六条二項の規定の解釈適用を誤つたものであつて、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決の上告人敗訴部分中一五三万三九三〇円及びこれに対する昭和五〇年三月一三日以降完済にいたるまで年六分の割合による金額を超えて認容した部分は破棄を免れない。そして、前記説示に徴し、右部分については当審において裁判をするに熟するので、原判決主文第一項を本判決主文第一項1のとおり変更すべきものである。
2 次に、原審は、第一審判決に付された仮執行の宣言に基づく強制執行により、昭和五一年四月二二日、上告人が給付した本訴請求金二一〇万四九三〇円とこれに対する昭和五〇年三月一三日から同五一年三月一二日までの年六分の割合による遅延損害金一二万六二九五円との合計額である二二三万一二二五円及びこれに対する右強制執行による給付の翌日である昭和五一年四月二三日以降支払ずみにいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める旨の民訴法一九八条二項所定の申立について、右事実関係について争いがないとしたうえ、その一部を認容して被上告人に対し五五万六八一四円及び内金三六万一三一九円に対する昭和五一年一一月九日以降支払ずみにいたるまでの年六分の割合による金員の支払を命じ、その余の請求を棄却している。
しかしながら、前記1の説示に照らすと、上告人の申立は、上告人が強制執行を受けたために給付した二二三万一二二五円のうち、当審において原判決を変更し、上告人に支払を命ずべき一五三万三九三〇円とこれに対する昭和五〇年三月一三日以降同五一年三月一二日までの遅延損害金九万二〇三五円との合計額一六二万五九六五円を控除した金額である六〇万五二六〇円は、第一審判決が変更されることにより被上告人から上告人に対し返環義務が生ずる金員であるから、上告人の申立は右金額及びこれに対する仮執行による支払の翌日である昭和五一年四月二三日から支払ずみにいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金相当額の限度で認容されるべきものである。
してみれば、これと異なる原判決には民訴法一九八条二項の解釈適用を誤つた違法があることに帰し、原判決の上告人敗訴部分中上告人の申立額と前記金額との差額を超えて上告人の請求を棄却した部分は破棄を免れない。そして、前記説示に徴し、右部分についても当審において裁判をするに熟するので、原判決主文第二項を本判決主文第一項2のとおり変更すべきものである。
三 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
・仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、瑕疵の修補が可能であっても、修補を請求せずに直ちに修補に代わる損害賠償を請求することができる!!!!
+判例(S54.3.20)同日(笑)
理由
上告代理人能登要の上告理由について
仕事の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は、瑕疵の修補が可能なときであつても、修補を請求することなく直ちに修補に代わる損害の賠償を請求することができるものと解すべく、これと同旨の見解を前提とする原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するにすぎないものであつて、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(高辻正己 江里口清雄 服部高顯 環昌一 横井大三)
上告代理人能登要の上告理由
原判決がその理由において、上告人(第一審原告)(以下原告という)の被上告人(第一審被告)(以下被告という)に対する出来残代金二一七万一七四〇円相当の損害賠償債権を認定していることはその理由の示すとおりであり、正当である。これに対する被告の上告理由の論旨は理由がない。
しかし、原判決は被告の原告に対する五五万六〇〇〇円の損害賠償債権の成立を認定(原判決の理由四項2)したことは以下記載のとおり、釈明不行使、審理不尽の違法があると思料する。
第一点 原判決には釈明不行使、審理不尽の違法がある。
一、すなわち、原判決はその理由(四項2)において、本件建物の浄化槽及び排水設備工事に瑕疵があり、被告が昭和五〇年九月から一〇月頃にかけて訴外三王建設興産株式会社に請負わせて右瑕疵の改修工事をさせ、その代金として金五五万六〇〇〇円を支払つている旨認定したうえ、これを瑕疵の修補に代る損害賠償として原告に請求しうると判断し、被告の相殺抗弁を認容した。
二、瑕疵修補が可能な場合には、民法第六三四条一項の規定によるべきであり、直ちに同条二項を適用することは原則としてできないと解するのが相当である。但し、この場合でも請負人の担保責任を規定した民法第六三四条二項による請求をするためには、同条一項の「相当ノ期間ヲ定メテ其ノ瑕疵ノ修補ヲ請求」しても請負人が修補義務を履行しないときに、注文者は同条二項により修補に代えて損害賠償の請求をすることができることを定めたものと解するのが相当である。
同条二項は本来修補が不能であるか、または瑕疵が重要でなくその修補に過分の費用を要する場合に適用されるもので、瑕疵修補が可能な場合には同条一項による修補を請求することが信義則の要求するところである。瑕疵修補が可能な場合に同条二項が適用されるのは前記のように請負人の修補義務不履行の場合に限定するのが相当と思料する。
民法第六三四条で一項と二項を規定したのは、瑕疵の内容により適用区別したもので、瑕疵修補可能な場合も単純に選択的規定と理解すべきではない。然らざれば、無過失責任の本規定の適用について、請負人に苛酷な結果となる。また、同条一項の立法の趣旨を没却させることにもなるからである。また、請負契約の内容からみても、先づ請負人が目的物を完成させる義務があり、完成後においても先づ瑕疵修補義務があるとするのが当事者双方の合理的な意思であり、公平の理念にも合致する。
三、しかるに、被告は本件建物の浄化槽及び排水設備工事の瑕疵について、原告に対する「相当期間を定めた修補請求」をすることなく、一方的に三王建設興産株式会社に請負わせて改修工事をさせた。
原告が被告から相当期間を定めて瑕疵修補の請求を受けたのであれば、原告の下請をした配管業者に指図して原告の計算によらずして瑕疵の改修工事をさせることができたのである。下請配管業者も原告に対して瑕疵担保責任を負担していたからである。
四、被告は原告に対し、先づ「相当期間を定めて瑕疵修補請求」すべきであるのに、この請求をしないで原告に無断で第三者に修補させたのであるから、民法第六三四条二項を適用する要件を欠いているというべく、その損害額が五五万六〇〇〇円であるとしても、原告に対する請求権は発生しない。
また、原審が損害額の成立を認定するについて、被告が原告に対する「相当期間を定めて瑕疵修補の請求」をしたか否かについて釈明権を行使するなどして、充分なる審理を尽くすべきであるのに、これを看過して前記認定をしたことは釈明不行使、審理不尽の違法があるといわねばならない。
・注文者が請負人に対し修補を請求したが、請負人がこれに応じないので、瑕疵の修補に代えて損害賠償を請求する場合における損害額の算定の基準時は、修補請求の時である。
+判例(S36.7.7)
調べておく
・請負契約の目的物に瑕疵がある場合、修補に代わる損害賠償請求権と請負代金請求権は全体として同時履行の関係に立ち、注文者は、信義則に反する場合を除き、請負人から修補に代わる損害賠償を受けるまでは、報酬全額の支払いを拒むことができる!!!
+判例(H9.2.14)
理由
上告代理人渡部邦昭の上告理由第一点について
一 本件請求は、請負人である上告人が注文者である被上告人に対して工事残代金及びこれに対する約定遅延損害金の支払を求めるものである。
原審の適法に確定したところは、次のとおりである。(1) 上告人は、昭和六一年一二月二四日、被上告人との間に、被上告人が従来有していた納屋を解体して新たに住居を建築する工事について、工事代金を一六五〇万円、その支払遅滞による違約金の割合を一日当たり未払額の一〇〇〇分の一とする請負契約を締結した。(2) 上告人は、昭和六二年一一月三〇日までに、被上告人に対し、右工事を完成させて引き渡したほか、追加工事(工事代金三四万四一四七円)も行った結果、既払分を控除した工事残代金は、合計で一一八四万四一四七円である。(3) 他方、右工事の目的物である建物には、一〇箇所の瑕疵が存在し、その修補に要する費用は、合計一三二万一三〇〇円である。
二 被上告人は、上告人の本件請求に対し、右瑕疵の修補に代わる損害賠償債権との同時履行の抗弁を主張し、上告人は、被上告人が同時履行の抗弁を主張し得るのは、公平の原則上、右損害賠償額の範囲内に限られるべきであり、被上告人が工事残代金全額について同時履行の抗弁を主張するのは、信義則に反し、権利の濫用として許されない旨主張して争っている。
三 請負契約において、仕事の目的物に瑕疵があり、注文者が請負人に対して瑕疵の修補に代わる損害の賠償を求めたが、契約当事者のいずれからも右損害賠償債権と報酬債権とを相殺する旨の意思表示が行われなかった場合又はその意思表示の効果が生じないとされた場合には、民法六三四条二項により右両債権は同時履行の関係に立ち、契約当事者の一方は、相手方から債務の履行を受けるまでは、自己の債務の履行を拒むことができ、履行遅滞による責任も負わないものと解するのが相当である。しかしながら、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等に鑑み、右瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額の支払を拒むことが信義則に反すると認められるときは、この限りではない。そして、同条一項但書は「瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補力過分ノ費用ヲ要スルトキ」は瑕疵の修補請求はできず損害賠償請求のみをなし得ると規定しているところ、右のように瑕疵の内容が契約の目的や仕事の目的物の性質等に照らして重要でなく、かつ、その修補に要する費用が修補によって生ずる利益と比較して過分であると認められる場合においても、必ずしも前記同時履行の抗弁が肯定されるとは限らず、他の事情をも併せ考慮して、瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額との同時履行を主張することが信義則に反するとして否定されることもあり得るものというべきである。
けだし、右のように解さなければ、注文者が同条一項に基づいて瑕疵の修補の請求を行った場合と均衡を失し、瑕疵ある目的物しか得られなかった注文者の保護に欠ける一方、瑕疵が軽微な場合においても報酬残債権全額について支払が受けられないとすると請負人に不公平な結果となるからである(なお、契約が幾つかの目的の異なる仕事を含み、瑕疵がそのうちの一部の仕事の目的物についてのみ存在する場合には、信義則上、同時履行関係は、瑕疵の存在する仕事部分に相当する報酬額についてのみ認められ、その瑕疵の内容の重要性等につき、当該仕事部分に関して、同様の検討が必要となる)。
四 これを本件についてみるのに、原審の適法に確定した事実関係によれば、本件の請負契約は、住居の新築を契約の目的とするものであるところ、右工事の一〇箇所に及ぶ瑕疵には、(1) 二階和室の床の中央部分が盛り上がって水平になっておらず、障子やアルミサッシ戸の開閉が困難になっていること、(2) 納屋の床にはコンクリートを張ることとされていたところ、上告人は、被上告人に無断で、右床についてコンクリートよりも強度の乏しいモルタルを用いて施工し、しかも、その塗りの厚さが不足しているため亀裂が生じていること、(3) 設置予定とされていた差掛け小屋が設置されていないこと等が含まれ、その修補に要する費用は、(1)が三五万八〇〇〇円、(2)が三〇万八〇〇〇円、(3)が一八万二〇〇〇円であるというのであり、また、被上告人は、昭和六二年一一月三〇日までに建物の引渡しを受けた後、右のような瑕疵の処理について上告人と協議を重ね、上告人から翌六三年一月二五日ころ右瑕疵については工事代金を減額することによって処理したいとの申出を受けた後は、瑕疵の修補に要する費用を工事残代金の約一割とみて一〇〇〇万円を支払って解決することを提案し、右金額を代理人である弁護士に預けて上告人との交渉に当たらせたが、上告人は、被上告人の右提案を拒否する旨回答したのみで、他に工事残代金から差し引くべき額について具体的な対案を提示せず、結局、右交渉は決裂してしまったというのである。そして、記録によれば、上告人はその後間もない同年四月一五日に、本件の訴えを提起している。
そうすると、本件の請負契約の目的及び目的物の性質等に照らし、本件の瑕疵の内容は重要でないとまではいえず、また、その修補に過分の費用を要するともいえない上、上告人及び被上告人の前記のような交渉経緯及び交渉態度をも勘案すれば、被上告人が瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって工事残代金債権全額との同時履行を主張することが信義則に反するものとは言い難い。
原判決は、被上告人に対し、工事残代金を損害賠償債権のうち八二万四〇〇〇円と引換えに支払うよう命ずるに当たり、その理由として、単に右損害賠償債権の合計額を工事残代金債権額と比較してこれが軽微な金額とはいえないなどとしたかのような措辞を用いている部分もあるが、その趣旨は右に説示したところと同旨と理解することができ、被上告人の同時履行の抗弁を認めた原審の判断は、これを是認することができる。論旨は、独自の見解に基づき又は原判決を正解しないでその法令違背をいうものであって、採用することができない。
同第二点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)
++解説
《解 説》
本件は、民法六三四条二項後段が請負契約の報酬債権と瑕疵の修補に代わる損害賠償債権との間に同法五三三条を準用していることにつき、その意義が問題とされた事例である。
一 事案の概要 Yは、昭和六一年暮れ、建築業者であるXとの間に、自宅建築につき請負契約を締結した(代金一六五〇万円、その不払の際の遅延損害金は一日当たり残代金の一〇〇〇分の一の割合)。Xは、昭和六二年一一月三〇日までに、工事を完成させてYに建物を引き渡した(この間に、Xは追加変更工事を行い、Yは代金のうち五〇〇万円を支払っている。)。ところが、Yは、工事に幾つかの欠陥があることを指摘して残代金の支払を拒んだため、Xは、昭和六三年四月、残代金一一九六万八六四七円(追加変更工事の代金も含む。)及びこれに対する建物引渡しの日の翌日以降の約定の率による遅延損害金の支払を求めて、本件訴訟を提起した。Yは、工事の瑕疵の修補に代わる損害賠償との同時履行等を主張して争ったが、Xは、右同時履行の抗弁につき、注文者が残代金の支払を拒めるのは瑕疵の修補に代わる損害額に見合う額の範囲に限られると反論していた。第一審判決(平成四年三月言渡し)は、工事の残代金一一五九万八八四七円と瑕疵の修補に代わる損害額八二万四〇〇〇円との引換給付を命じ、遅延損害金請求は棄却した。これに対し、Xが控訴したが、Yは、その直後ころに、第一審判決に付された仮執行宣言に基づくXの仮執行に応じて、支払を行っている。その後の控訴審の審理において、Xは、瑕疵の修補に代わる損害賠償債権に対する工事の残代金債権による相殺の主張を追加した(Xは本件訴訟提起前に相殺の意思表示をしており、そうでなくても、控訴審の口頭弁論期日において相殺の意思表示をするとした。)。本件の原判決は、工事の残代金として一一八四万四一四七円を、一〇箇所に及ぶ瑕疵の修補に代わる損害として一三二万一三〇〇円を認め、Xの相殺の主張を排斥し(訴訟提起前にXが相殺の意思表示をしていたとは認め難く、また、本件においてはYが第一審判決に基づく仮執行に応じた際にXにおいて相殺権を放棄していたものと認められるから控訴審における相殺の意思表示もその効果を認め難いとする。)、不利益変更禁止の原則を適用して、工事の残代金一一八四万四一四七円と瑕疵の修補に代わる損害額のうち八二万四〇〇〇円との引換給付を命じ、遅延損害金請求は棄却した。これに対し、Xが上告した。
二 Xは、上告理由において、請負契約の報酬債権と瑕疵の修補に代わる損害賠償債権との相殺が認められていることからすると、右の間の同時履行関係は、それぞれの見合う額の範囲に限られるべきであると主張した。
これに対し、本判決は、右両債権間の同時履行関係は、原則としてその全額の間に認められるとした上、本件は右の例外には当たらないとして、上告を棄却した。
三 周知のとおり、ある二つの債権が同時履行関係にある場合の効果としては、一方の債権の債務者が訴訟において他方との同時履行を主張した場合に引換給付の判決を得ることができるといういわゆる行使効果のほかに、履行期が到来してもいずれの債務も当然には履行遅滞とはならないといういわゆる存在効果が挙げられる。そして、金銭債権の支払請求に対し、債務者は、債権者の同時履行の抗弁の付着する他の債権をもって相殺に供することはできないとされているが、これについては、債務者の一方的な意思表示により債権者の同時履行の抗弁を失わせることはできないからと説明されている(大判昭13・3・1民集一七巻三一八頁ほか)。
ところで、民法六三四条二項後段は、請負契約の目的物に瑕疵があった場合に請負人の報酬債権と注文者の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権とにつき民法五三三条の規定を準用する旨規定しており、文理上は、右両債権の間には、それぞれの金額のいかんを問わず、前記のような同時履行関係が認められることとなるはずである。ところが、判例は、右両債権は金額の大小にかかわらず相殺できるとしている(最一小判昭51・3・4民集三〇巻二号四八頁、最一小判昭53・9・21裁集民一二五号八五頁、本誌三七一号六八頁)。この判例法理を、前記の同時履行関係についての一般論と整合させようとすると、請負人の報酬債権と注文者の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権とはそれぞれの見合う額の範囲においてのみ同時履行関係に立つという考え方も、成り立たないではない。本件の上告理由は、このような考え方に立脚するものと理解される。
この点に関する立法者の考えは、請負契約において請負人は目的物を瑕疵なく完成させる債務を負うとの理解の下に、注文者が瑕疵の修補を求める場合(民法六三四条一項)は、請負人に本来の債務の完全な履行を求めるものであって、報酬請求との間につき契約の総則規定である民法五三三条が正に適用されるが、注文者が瑕疵の修補に代わる損害の賠償を求める場合(民法六三四条二項)は、請負人の本来の債務の履行を求めるのではないから、報酬請求に対して当然には同時履行を主張し得ないはずであるところ、それでは注文者に酷な結果となるので、民法五三三条の規定を準用した上、最終的には、両債権間の相殺によって清算させて売買契約における代金減額請求(民法五六五条、五六三条参照)に類する結果を実現させようというものであった(法典調査会における民法六四一条案に関する議論等参照)。
実際にも、上告理由の立脚する見解に従うと、瑕疵の修補に要する額が報酬額を下回る場合に、注文者は、瑕疵の修補請求を選択したときには、報酬全額につき履行遅滞の責任を負わないが、請負人が修補に応じないなどの事情によりやむを得ず損害賠償請求を選択したときには、報酬と損害との差額につき当然に履行遅滞に陥ってしまうことになって、不均衡が生ずる。本判決は、右の点を指摘しつつ、民法六三四条二項後段につき、文理に忠実に解釈すべきことを判示するものである。
四 一方、本判決は、右の例外についても判示し、その一つとして、瑕疵の程度や当事者の交渉態度等を考慮し右に述べた原則をそのまま適用することが信義則に反する場合を挙げている。
同時履行の抗弁につき信義則上の制限を認める考え方は、ドイツ法において採用されているものであり、我が国でも多くの学説が支持している(学説の状況につき、新版注釈民法(13)五一二頁〔沢井裕=清水元〕等参照)。請負契約に関しては、最三小判昭38・2・12裁集民六四号四二五頁が、注文者は、工事の未完成部分が未払代金に比し極めて僅少であるときは、信義則上代金支払期日の未到来を主張することが許されないと解すべき旨を判示していた。また、明示的に信義則に言及してはいないが、大判大3・12・1民録二〇輯九九九頁が、民法五三三条の適用に関し、当事者の一方において債務の履行をしない意思が明確な場合には、相手方が債務の履行の提供をしなくても、債務不履行の責任を負うことがある旨判示しているのも、同様の考えに立脚するものと理解される。
本判決は、右の考え方に立脚しつつ、請負契約における信義則の適用について、更に具体的な目安を示している。すなわち、民法六三四条一項ただし書は、「瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補カ過分ノ費用ヲ要スルトキ」には注文者は瑕疵の修補に代わる損害賠償請求のみをし得ることとしているところ、文理上は、この場合にも、同条二項後段の適用があり報酬請求との間に同法五三三条が準用されると解釈すべきことを念頭において、信義則の適用につき、瑕疵の程度に関しては、右の「瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補カ過分ノ費用ヲ要スルトキ」との比較が一応のメルクマールとなるとし、これに当事者の交渉態度等を併せ考慮して判断すべきものとしている。その上で、本件の事実関係の下においては、瑕疵の修補に代わる損害の額は報酬残債権の額の一〇分の一程度であるが、なお信義則に反するとは見難いとしており、事例的にも興味深いものといえよう。
五 なお、本判決は、傍論ながら、同時履行の抗弁の信義則による制限につき、契約が複数の内容から成る一種の複合契約に当たる場合についても考え方を示している。このような場合に同時履行の抗弁の制限が問題となり得ることは、最三小判昭41・11・1裁集民八五号一頁(ただし、信義則については特に言及するところはない。)、最一小判昭63・12・22金法一二一七号三四頁において示唆されていたところである。本判決は、請負契約においても、右の考え方が基本的に妥当することを示すもので、やはり参考となろう。
六 本件は、冒頭に紹介したようなやや特殊な経過の下に、請負人である上告人Xの相殺の主張が認められず、その結果、報酬債権と瑕疵の修補に代わる損害賠償債権との同時履行関係が問題となったのであるが、本判決は、実務上も頻繁に見られる基本的な問題でありながら、従来あまり掘り下げた議論が行われていなかった分野につき、考え方を明確にしたものとして、その意義は小さくないものと考えられる。
+(請負人の担保責任)
第634条
1項 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
2項 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第533条の規定を準用する。
・土地の工作物以外の請負契約における瑕疵担保責任の存続期間は、仕事の目的物の引渡しを受けたときから(引渡しを要しない場合には仕事の終了時から)(×注文者が瑕疵を知った時から)1年以内にしなければならない!!!
+(請負人の担保責任の存続期間)
第637条
1項 前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
2項 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。
・建物の請負契約における請負人の担保責任の存続期間は、原則として引渡しの時より5年である。
+(請負人の担保責任の存続期間)
第638条
1項 建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物又は地盤の瑕疵について、引渡しの後五年間その担保の責任を負う。ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、十年とする。
2項 工作物が前項の瑕疵によって滅失し、又は損傷したときは、注文者は、その滅失又は損傷の時から一年以内に、第634条の規定による権利を行使しなければならない。
・建物の請負契約において、耐震性強化のため、建物としての安全性を保つため必要な太さよりもさらに太い鉄骨を使用することが約定されていた場合において、約定に反する太さの鉄骨が使用されたときは、使用された鉄骨が構造計算上、建物としての安全性に問題がないものであったとしても、当該建物には瑕疵があると認められる!!!!
+(H15.10.10)
理由
1 本件は、上告人から建物の新築工事を請け負った被上告人が、上告人に対し、請負残代金の支払を求めたのに対し、上告人が、建築された建物の南棟の主柱に係る工事に瑕疵があること等を主張し、瑕疵の修補に代わる損害賠償債権等を自働債権とし、上記請負残代金債権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をしたなどと主張して、被上告人の上記請負残代金の請求を争う事案である。
2 上告人の上告受理申立て理由第1点及び第2点のうち南棟の主柱に係る工事の瑕疵に関する点について
(1) 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
上告人は、平成七年一一月、建築等を業とする被上告人に対し、神戸市灘区内において、学生、特に神戸大学の学生向けのマンションを建築する工事(以下「本件工事」という。)を請け負わせた(以下、この請負契約を「本件請負契約」といい、建築された建物を「本件建物」という。)。
上告人は、建築予定の本件建物が多数の者が居住する建物であり、特に、本件請負契約締結の時期が、同年一月一七日に発生した阪神・淡路大震災により、神戸大学の学生がその下宿で倒壊した建物の下敷きになるなどして多数死亡した直後であっただけに、本件建物の安全性の確保に神経質となっており、本件請負契約を締結するに際し、被上告人に対し、重量負荷を考慮して、特に南棟の主柱については、耐震性を高めるため、当初の設計内容を変更し、その断面の寸法三〇〇mm×三〇〇mmの、より太い鉄骨を使用することを求め、被上告人は、これを承諾した。
ところが、被上告人は、上記の約定に反し、上告人の了解を得ないで、構造計算上安全であることを理由に、同二五〇mm×二五〇mmの鉄骨を南棟の主柱に使用し、施工をした。
本件工事は、平成八年三月上旬、外構工事等を残して完成し、本件建物は、同月二六日、上告人に引き渡された。
(2) 原審は、上記事実関係の下において、被上告人には、南棟の主柱に約定のものと異なり、断面の寸法二五〇mm×二五〇mmの鉄骨を使用したという契約の違反があるが、使用された鉄骨であっても、構造計算上、居住用建物としての本件建物の安全性に問題はないから、南棟の主柱に係る本件工事に瑕疵があるということはできないとした。
(3) しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係によれば、本件請負契約においては、上告人及び被上告人間で、本件建物の耐震性を高め、耐震性の面でより安全性の高い建物にするため、南棟の主柱につき断面の寸法三〇〇mm×三〇〇mmの鉄骨を使用することが、特に約定され、これが契約の重要な内容になっていたものというべきである。そうすると、この約定に違反して、同二五〇mm×二五〇mmの鉄骨を使用して施工された南棟の主柱の工事には、瑕疵があるものというべきである。これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
3 上告人の上告受理申立て理由第4点について
(1) 記録によれば、上告人は、被上告人に対し、平成一一年七月五日の第一審第三回弁論準備手続期日において、本件建物の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権二四〇四万二九四〇円を有すると主張して(なお、上告人は、原審において、その主張額を増額している。)、この債権及び慰謝料債権を自働債権とし、被上告人請求の請負残代金債権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(2) 原審は、上記相殺の結果として、上告人に対し、上告人の請負残代金債務一八九三万二九〇〇円(ただし、ローテーションキー二個との引換給付が命じられた一万七五一〇円を除いた金額である。)から瑕疵の修補に代わる損害の賠償額一一一二万七二四〇円及び慰謝料額一〇〇万円の合計一二一二万七二四〇円を控除した残額六八〇万五六六〇円及びこれに対する被上告人が上告人に送付した催告状による支払期限の翌日である平成八年七月二四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を命じた。
(3) しかしながら、原審の遅延損害金の起算点に係る上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
請負人の報酬債権に対し、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負うものと解すべきである(最高裁平成五年(オ)第二一八七号、同九年(オ)第七四九号同年七月一五日第三小法廷判決・民集五一巻六号二五八一頁)。
そうすると、本件において、上告人は上記相殺の意思表示をした日の翌日である平成一一年七月六日から請負残代金について履行遅滞による責任を負うものというべきである。これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
4 以上によれば、論旨は、上記の各趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、瑕疵の修補に代わる損害賠償債権額について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田博 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄 裁判官 滝井繁男)
++解説
《解 説》
一 本件は、被告(上告人)から建物の新築工事を請け負ってその建築をした建築業者である原告(被上告人)が、被告に対し、請負残代金の支払を求めた事案である。被告は、建築された建物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権等を自働債権とし、請負残代金債権を受働債権として対当額で相殺したなどと主張して、原告からの右請負残代金の請求を争っている。
二 注文主である被告は、神戸市内所在の阪神・淡路大震災で倒壊した建物の跡地に、学生向けのワンルームマンションである本件建物を建築することにしたものであったが、右地震の際、大学生が倒壊した下宿の建物の下敷きになるなどして多数死亡した直後であったために、建物の安全性の確保に神経質となっており、本件の建物の一部の主柱については、耐震性を高めるため、当初の設計内容よりも太い鉄骨を使用することを原告に求め、原告もこれを承諾していた。ところが、原告は、この約定に反して、被告の了解を得ないまま、その主柱に、約定よりも細い鉄骨を使用した。
三 原審は、被告主張の瑕疵のうちの一部を認めたが、被告主張の主柱の瑕疵の点については、原告には主柱に約定よりも細い鉄骨を使用したという契約違反があるが、実際に使用された鉄骨であっても、構造計算上、居住用建物としての安全性に問題はないとして、その主柱に係る工事について瑕疵があるということはできないとした。
四 本判決は、本件の請負契約において、原告と被告間で、建物の耐震性を高めるために、一部の主柱につき、当初の設計よりも太い鉄骨を使用することが特に約定されていたもので、この約定よりも細い鉄骨を使用した主柱の工事につき瑕疵があるとし、その他、請負人の請負代金債権に対し、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合の相殺後の請負残代金債権についての遅延損害金の始期についての判例(最三小判平9・7・15民集五一巻六号二五八一頁、本誌九五二号一八八頁)違反の点と合わせ、原審の判断には違法があるとして、原判決を破棄して原審に差し戻した。
五 請負人に瑕疵担保責任が生ずるのは、「仕事ノ目的物ニ瑕疵アルトキ」(民法六三四条一項)であるが、この目的物に瑕疵があるとは、完成された仕事が契約で定めた内容どおりでなく、使用価値又は交換価値を減少させる欠点があるか、又は当事者があらかじめ定めた性質を欠くなど不完全な点を有することであるとされており(我妻栄・債権各論中巻(二)六三一頁)、これが通説といえる。なお、請負契約の仕事の目的物の瑕疵をこのように考えると、請負人の債務不履行責任との差異は、瑕疵担保責任が無過失責任であることにあるといえよう。以上のような立場からすると、(当事者間であらかじめ了解されていた範囲内の変更といえるような、現場の状況に応じて若干の変更がされたなどといえる場合は別として、)建物の請負において設計図に反する工事が行われた場合など、注文者と請負人間であらかじめ定められた内容に反する工事が行われた場合には、瑕疵ある工事であるということになると解される。
ところで、建物建築の請負契約の内容については、一般に、設計図だけで工事内容のすべてが明らかにならない場合が多く、そのような場合には、建築基準法に定める最低基準に達しないような建築請負契約を締結したと認められるような特別の事情がない限り、同基準に適合しない建物は瑕疵ある建物に当たると解されている。このように、建築基準法に定める基準の適合の有無が瑕疵の有無の判定基準とされることがあるが、これは、請負契約当事者の合理的意思として、建築物の安全性等に関する点については、少なくとも同基準に適合する建物を建築することが契約の内容になっていたと解されるということであって、当事者が、より安全性の高い建物にするなどのために、特に工事内容について合意をしていた場合には、その合意に反した工事による建物は、たとえ建築基準法の基準を満たし、一般的な安全性を備えていたとしても、瑕疵があることになると考えられる。
六 本件の主柱の工事内容は、請負契約の当事者間の合意に反するものであり、しかも、その差異は、当事者間であらかじめ了解されていた範囲内の変更といえるようなものではなく、本件のような当初の約定と異なる内容の主柱の工事については、瑕疵があるといわざるを得ないといえよう。
七 本判決は事例判断ではあるが、請負契約における「瑕疵」の内容について、最高裁も前記の通説的な見解に立つことを示したものであって、実務の参考になるものと思われる。
・瑕疵修補請求権が認められるためには単に請負契約の注文者たる資格があれば足り、現に目的物の上に所有権又は占有権その他の権利を有することを要しない!
=請負目的物を他人に譲渡した場合でも、注文者は、瑕疵修補請求権を行使することができる!
・請負契約に関する担保責任の期間は、167条の規定による消滅時効の期間内に限り、契約で伸長することができる!!
+(担保責任の存続期間の伸長)
第639条
第637条及び前条第1項の期間は、第167条の規定による消滅時効の期間内に限り、契約で伸長することができる。
+(債権等の消滅時効)
第167条
1項 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2項 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。
・請負人は、担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない!!!!
+(担保責任を負わない旨の特約)
第640条
請負人は、第634条又は第635条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない。
・請負契約の請負人が目的物につき瑕疵担保責任を負うのは、当該瑕疵が隠れたものであった場合に限られるわけではない!
←634条以下の条文には、570条のように「隠れた瑕疵」という文言がない!
・+(請負人の担保責任)
第635条
仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。
+(請負人の担保責任に関する規定の不適用)
第636条
前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。
・建物の請負契約において、仕事の目的物である建物に瑕疵があり、そのために契約した目的を達することができないときでも、注文者は、そのことを理由として契約の解除をすることはできない!!!!!
+(請負人の担保責任)
第635条
仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。
・注文者が641条に基づいて請負契約を解除するためには、前提として損害賠償の提供をすることを要しない!!
+(注文者による契約の解除)
第641条
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。