民法 気になる判例 境界確定訴訟と時効

+判例(H1.3.28)
理由
 一 上告代理人水野武夫、同尾崎雅俊、同飯村佳夫、同田原睦夫、同栗原良扶の上告理由第一点について
 原判決挙示の証拠関係に照らし肯認するに足る事実関係のもとにおいて、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はないことに帰する。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は判決の結論に影響しない事由若しくは独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 二 同第二点及び第三点について
  1 原審は、上告人らの訴訟被承継人橋垣剛が昭和二九年一二月一〇日以来二〇年間にわたり平穏公然に第一審判決別紙物件目録第一の土地(以下「本件土地」という。)の占有を継続したことによりその所有権を時効取得したとして、被上告人の訴訟被承継人小杉捨四郎に対し、右時効取得を原因とする剛に対する所有権移転登記手続を求める上告人らの本訴請求につき(なお、原審は、上告人らの一〇年の取得時効に基づく所有権移転登記手続請求については、剛が占有の始め無過失とは認められないと判断している。)、(一)前記物件目録第三の土地(以下「一二番一の土地」という。)は捨四郎の所有であり、本件土地は、右一二番一の土地の一部であったが、昭和五一年三月一九日に右土地から分筆された、(二)同物件目録第二の土地(以下「一二番七の土地」という。)は、もと足立幸子所有の一二番二の土地の一部をなしていたもので、佐々木久雄が、昭和一四年ころ、同女と交換契約により、同土地から一二番一の土地に隣接する四一坪の分筆を受けて取得したものであるところ、その当時は一二番一の土地の方が一二番七の土地より若干地盤が高く、両土地の境界は石垣によって判然としており、その石垣の存した線は第一審判決別紙図面〓、〓点を結ぶ直線であった、(三) 佐々木は、その後、一二番七の土地に一二番一の地盤よりも高く盛土をしただけでなく、右〓・〓線を越えてその北側にも盛土をし、そののり面の裾が同図面〓、〓点を直線で結ぶ線にまで及んだため、右石垣の存在も不明となり、外観上は右〓・〓線より南の部分は一二番七の土地の一部であるかのように見える状態となった、(四) 剛は、昭和二九年一二月一〇日、佐々木から本件土地を含む同図面〓、〓、〓、〓、〓点を順次直線で囲んだ範囲の土地を一二番七の土地として買い受け、同日以降居宅の敷地としてその占有を継続した、(五) 捨四郎は、昭和四一年に剛を相手取って京都簡易裁判所に訴えを提起し、分筆前の一二番一の土地と一二番七の土地の境界は前記図面〓、〓点を結ぶ直線であるとして両土地の境界確定を求めるとともに、土地所有権に基づき、本件土地のうち前記図面〓、〓、〓、〓、〓点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「本件土地部分」という。)の明渡を求めたところ、剛は、右境界は、前記〓・〓線であると主張するとともに、仮に、右境界が前記〓・〓線であるとしても、本件土地部分は、剛が一二番七の土地の一部として買い受けたものであって、占有の始め過失はなく、昭和二九年一二月一〇日から一〇年間占有を継続したから、時効によりその所有権を取得したと主張した(以下「前訴」という。)、(六) 前訴控訴審において、京都地方裁判所は、右両土地の境界を前記〓・〓線と確定し、本件土地部分明渡請求については、剛の取得時効の抗弁は理由があり、本件土地部分の所有権は剛の所有に帰したとして、右請求を棄却すべき旨の判決をし、右判決は、そのころ確定した(以下「前訴確定判決」という。)、(七) 剛は、昭和五一年四月一日に本訴を提起したが、同五七年七月四日に死亡し、相続人である上告人らが訴訟を承継した、との事実関係を確定した。

  2 原審は、右の事実関係のもとにおいて、(一) 所有者を異にする相隣接地の一方の所有者甲が、境界を越えて隣接地の一部を自己の所有地として占有し、その占有部分につき時効により所有権を取得したと主張している場合において、右隣接地の所有者乙が甲に対して右時効完成前に境界確定訴訟を提起していたときは、右取得時効は中断するものと解される、(二) 本件において、剛の訴訟承継人である上告人らは、剛が土地境界線である前記〓・〓線の北側の本件土地を昭和二九年一二月一〇日以降自己所有地として占有しているとして、本件土地につき二〇年の取得時効を主張しているが、捨四郎は、右取得時効期間満了前である昭和四一年に分筆前の一二番一の土地と一二番七の土地の境界確定を求める前訴を提起し、前記のとおりに境界を確定する判決を得ているのであるから、前訴の提起によって本件土地についての前記二〇年の取得時効は中断し、剛が本訴を提起した昭和五一年四月一日までには右時効は完成していない、(三)前訴確定判決は、境界確定請求と併合審理された本件土地部分の所有権に基づく明渡請求に関し剛の一〇年の取得時効の抗弁を認めて、本件土地部分の所有権を剛が取得した旨認定判断しているが、右認定判断は判決理由中のそれにすぎないから原審を拘束するものではなく、原審としては、前訴で判断された本件土地部分を含む本件土地について独自に判断した結果、右一〇年の取得時効は認められないとの結論に至ったものであり、この結論に立って前訴確定判決をみれば、その境界確定部分は、所有者の異なる相隣接地の境界を確定するという一般的な境界確定判決をした結果となっているものと評価できるから、前訴確定判決の前記認定判断は、前訴境界確定訴訟提起に前記取得時効を中断する効力を認めることの妨げにならない、(四) 前訴確定判決は、捨四郎主張のとおり境界を確定したものであるから、前訴に取得時効を中断する効力がないとして、捨四郎に対し、別途取得時効を中断する効力を有する手段を講じることを求めることは、殆ど不可能を強いるものというべきである、と判断して、前記請求を排斥し、上告人らの控訴を棄却している。

  3 しかしながら、原審の右判断は、後記部分を除き、にわかに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 一般に、所有者を異にする相隣接地の一方の所有者甲が、境界を越えて隣接地の一部を自己の所有地として占有し、その占有部分につき時効により所有権を取得したと主張している場合において、右隣接地の所有者乙が甲に対して右時効完成前に境界確定訴訟を提起していたときは、右訴えの提起により、右占有部分に関する所有権の取得時効は中断するものと解されるが(大審院昭和一四年(オ)第一四〇六号同一五年七月一〇日判決・民集一九巻一二六五頁、最高裁昭和三四年(オ)第一〇九九号同三八年一月一八日第二小法廷判決・民集一七巻一号一頁参照)、土地所有権に基づいて乙が甲に対して右占有部分の明渡を求める請求が右境界確定訴訟と併合審理されており、判決において、右占有部分についての乙の所有権が否定され、乙の甲に対する前記明渡請求が棄却されたときは、たとえ、これと同時に乙の主張するとおりに土地の境界が確定されたとしても、右占有部分については所有権に関する取得時効中断の効力は生じないものと解するのが相当である。けだし、乙の土地所有権に基づく明渡請求訴訟の提起によって生ずる当該明渡請求部分に関する取得時効中断の効力は、当該部分の関する乙の土地所有権が否定され右請求が棄却されたことによって、結果的に生じなかったものとされるのであり、右訴訟において、このように当該部分の所有権の乙への帰属に関する消極的判断が明示的にされた以上、これと併合審理された境界確定訴訟の関係においても、当該部分に関する乙の所有権の主張は否定されたものとして、結局、取得時効中断の効力は生じないものと解するのが、境界確定訴訟の特殊性に照らし相当というべきであるからである。
 これを本件についてみるに、前記の確定事実によれば、上告人らは、剛が本件土地を昭和二九年一二月一〇日以降二〇年間にわたり平穏公然に占有してきたとして、取得時効による所有権取得を主張するものであるところ、捨四郎が右時効完成前の昭和四一年に提起した前訴において、前記〓・〓線を分筆前の一二番一の土地と一二番七の土地との境界と確定するとともに、本件土地の一部である本件土地部分について、剛の一〇年の取得時効を肯定して捨四郎の所有権を否定し、右部分につき土地所有権に基づく明渡請求を棄却すべき旨の前訴確定判決がされたというのであるから、前記の説示に照らし、前訴境界確定訴訟の提起による取得時効中断の効力は、本件土地のうち本件土地部分を除くその余の部分については生じているものの、本件土地部分については生じていないものというべきである。請求棄却の判決がされたことにより取得時効中断の効力が発生しないとされるのは、当該判決がされたことによるものであるから、前訴における剛の一〇年の取得時効を肯定した認定判断が理由中のそれであって原審を拘束するものでなく、原審としては右取得時効を否定する判断に達したからといって、本件土地部分について前訴境界確定訴訟の提起による時効中断の効力を肯定する理由とすることはできないものというべきである。
 以上によれば、これと異なり、前記のような理由で、前訴境界確定訴訟の提起によって本件土地についての剛の前記取得時効は中断しているとした原判決には、本件土地部分に関する限り、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかというべきであるから、論旨は、右の限度で理由があるものというべきである。そうすると、原判決は、本件土地部分に係る部分について上告人らの控訴を棄却した部分につき破棄を免れないが、本件土地のうち本件土地部分を除くその余の部分についての原審の判断は、結局正当として是認できるものというべきであるから、この部分に関する論旨は理由がない。そして、右破棄部分については、上告人らの前記本訴請求の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
 三 よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条一項、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官坂上壽夫 裁判官伊藤正己 裁判官安岡滿彦 裁判官貞家克己)

++解説
《解  説》
 一、X(甲)は、次の図の一二番七の土地(甲地)の所有者、Y(乙)はこれに隣接する一二番一の土地(乙地)の所有者である(同図(A)(B)(ヘ)(ホ)(A)を順次直線で結んだ範囲内の土地(「本件土地」)は、従来、右のいずれの土地に属するか争われていたものであるところ、本訴に先立ち分筆されたものである。)。
 前訴(昭和四一年提起)において、YはXに対し、甲地と乙地の境界は同図の(ホ)(ヘ)線であると主張してその確定を求めるとともに、土地所有権に基づき、本件土地のうち同(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(ホ)を順次直線で結んだ範囲内の土地(「本件土地部分」)の明渡を求めた(何故、Yが本件土地全部について明渡を求めなかったのかは明らかでない。)。これに対し、Xは、両土地の境界は同図AB線であると主張するとともに、仮に、(ホ)(ヘ)線であるとしても、明渡請求の対象である本件土地部分は、昭和二九年一二月、甲地の一部として買い受けたものであって、Xには占有の始め過失がなく一〇年の時効によってその所有権を取得したと主張した。前訴二審判決は、両土地の境界をY主張のとおり(ホ)(ヘ)線と確定するとともに、Yの本件土地部分の明渡請求については、Xの一〇年の取得時効の抗弁を認め、本件土地部分の所有権はXに帰したとしてこれを棄却し、この判決は確定した。
 本訴(昭和五一年四月提起)は、XのYに対する本件土地の所有権移転登記手続請求であり、所有権取得原因としては、前訴抗弁と同じ一〇年の取得時効及び二〇年の取得時効(控訴審で新たに主張)が主張された。原審は、前訴と異なり、占有の始めにXが無過失であったとは認められないとして、一〇年の取得時効の完成を否定した上、二〇年の取得時効については、Yがその時効期間満了前に前訴の境界確定訴訟を提起し、前記確定判決を得ているのであるから、前訴提起により二〇年の取得時効は中断され、本訴提起時までには未だ時効は完成していない(前訴判決の本件土地部分につき取得時効の抗弁を容れてXの所有権を否定した認定判断部分は、理由中のそれに過ぎないから、後訴裁判所を拘束するものではなく、しかも、原審としてはこれを否定する判断に達したものであり、この結論に立って前訴確定判決をみれば、その境界確定部分は、所有者の異なる隣接地の境界を確定するという一般的な境界確定判決をした結果となっているものと評価できるから、前記認定判断部分は、前訴境界確定訴訟提起に前記取得時効を中断する効力を認めることの妨げにならない。)として、Xの請求を棄却すべきものとした。
 Xの上告に対し、本判決は、境界確定訴訟と取得時効中断の効力に関して、要旨のとおり説示し(その根拠として、「Yの土地所有権に基づく明渡請求の提起によって生ずる当該明渡請求部分に関する取得時効中断の効力は当該部分に関するYの土地所有権が否定され右請求が棄却されたことによって結果的に生じなかったものとされるのであり、右訴訟において当該部分の所有権のYへの帰属に関する消極的判断が明示的にされた以上、これと併合審理された境界確定訴訟の関係においても、当該部分に関するYの所有権の主張は否定されたものとして、結局、取得時効中断の効力は生じないものと解するのが、境界確定訴訟の特殊性に照らし相当というべきである……」と判示した。)、本件土地のうち前訴境界確定訴訟によって取得時効中断の効力の及ぶのは、本件土地部分を除くその余の部分に限られるとし、Xの請求のうち本件土地部分に係る部分につき原判決を破棄して原審に差し戻し、その余の上告を棄却した。
 二、境界確定訴訟の性質に関しては、確認訴訟説、形成訴訟説、私的境界確定訴訟説等様々の議論があるが、通説は、これを、公法上の土地の境界を現地において確認し、その確認が不能のときには具体的に境界を形成するいわゆる形式的形成訴訟であると解している(兼子・民訴法体系一四六頁等)。大審院判例もこの説に立ち(大判大12・6・2民集二巻七号三四五頁)、最高裁もこれを踏襲する(多数の判例がある。その概観として、例えば、昭58最判解説[伊藤調査官]四一九頁以下参照)。そして、境界確定の訴えの提起は「裁判上の請求」として隣接地土地所有者の所有権の取得時効を中断する効力を有するというのが大審院の判例であり(大判昭15・7・10民集一九巻一六号一二六五頁)、最高裁もこれを暗黙の前提としていると解されている(最二小判昭38・1・18民集一七巻一号一頁、昭38最判解説[瀬戸調査官]四頁、我妻・民法総則四六〇頁等。なお、右最高裁判例の趣旨につき異なる理解をするものとして、平田・民商五九巻三号六三頁参照)。
 三、ところで、土地所有権に基づく明渡請求訴訟の提起により民法一六二条の取得時効は中断するとするのが判例である(大判昭16・3・7判決全集八巻一二号九頁)が一般に裁判上の請求による時効中断効は、訴えの却下又は取下のあったときは生じないものとされ(民法一四九条)、右訴えの却下には訴え(請求)が、実質的な理由に基づいて棄却された場合も含むと解されているから(大判明36・9・8民録九輯九五一頁、同明42・4・30民録一五輯四三九頁、我妻・民法総則四六一頁)、本件前訴のように、境界確定訴訟においては提起者主張のとおりに境界が定められたが、これと併合された所有権に基づく明渡訴訟においては請求が棄却された場合に、時効の中断効をどのように解したらよいか、すなわち、境界確定訴訟の提起に一般的に時効の中断効を肯定した場合、同時にされた所有権に基づく明渡訴訟に敗訴し、その面では時効の中断効を享受できないことになったこととの調整をいかに解すべきかという問題を生じる。
 四、本判決は、前記大判及び最二小判を引用して、境界確定訴訟に取得時効の中断効を認めるべきことを明言した上、本件のような場合には、所有権に基づく明渡請求訴訟において提起者の所有権を否定する消極的判断がされた以上、これと併合審理された境界確定訴訟の関係においても同様の判断がされたものとして取得時効の中断効を否定するのが、前記の境界確定訴訟の性質に沿うものと解したものである。
 具体的事案において境界確定訴訟の提起による取得時効中断の効力の限界を明らかにした判例として紹介する。

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