民事訴訟法 基礎演習 基準時後の形成権の行使


1.既判力の遮断効

・+(債務名義)
民事執行法第22条
1項 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う
一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第42条第4項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

+(請求異議の訴え)
第35条
1項 債務名義(第22条第二号、第三号の二又は第四号に掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
2項 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る
3項 第33条第2項及び前条第2項の規定は、第1項の訴えについて準用する。

2.形成権の遮断
・基準時前に発生していた形成権を基準時後に行使して生じた実体的な権利変動(債務の消滅など)を後訴で提出することができるか?

+判例(S36.12.12)
理由
上告代理人平尾廉平の上告理由について。
書面によらない贈与(死因贈与を含む)を請求原因とする訴訟が係属した場合に当事者が民法五五〇条によるその取消権を行使することなくして事実審の口頭弁論が終結した結果、右贈与による権利の移転を認める判決があり同判決が確定したときは、訴訟法上既判力の効果として最早取消権を行使して贈与による権利の存否を争うことは許されなくなるものと解するを相当とする。
原判決の事実認定によれば、本件上告人を控訴人とし本件被上告人Aを被控訴人とする原判示津地方裁判所昭和三一年(レ)二三号不動産所有権保存登記抹消登記等請求控訴事件において本件物件が上告人の被相続人である訴外亡Bから被上告人Aに死因贈与せられたことが判決で認められ該判決は確定したところ上告人は、右死因贈与を書面によらないものとして、右確定判決後である昭和三三年八月一三日これを取消したというのである。してみれば、原判示のとおり訴外Bの死亡により相続人となつた上告人が右確定判決で認められた死因贈与を書面によらないものであることを理由としてなした右取消はその効力を生じないものといわねばならない。さすれば、判示確定判決によつて贈与の事実を認められた以上上告人に取消権を認めるべきでないとした原判示は結局相当である。
論旨後段は、判断遺脱等の違法をいうが、右のような贈与を認めた判決が確定した後は判決確定の一事をもつて贈与を取消すことはてきなくなると解すべきであるから、他に贈与の履行終了の如き取消しえない事由があるか否かは重ねて判示する必要はない。論旨は採用することができない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

+判例(55.10.23)
■27000164
最高裁判所第一小法廷
昭和55年(オ)第589号
昭和55年10月23日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人大矢和徳の上告理由第一点について
所論の点に関する原審の判断は、その説示に照らし、正当として是認することができる。論旨は違憲をいうが、その実質は、独自の見解に基づき前訴確定判決の既判力に関する原判決の解釈の不当をいうものにすぎず、また、所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でなく、採用することができない。

同第二点について
売買契約による所有権の移転を請求原因とする所有権確認訴訟が係属した場合に、当事者が右売買契約の詐欺による取消権を行使することができたのにこれを行使しないで事実審の口頭弁論が終結され、右売買契約による所有権の移転を認める請求認容の判決があり同判決が確定したときは、もはやその後の訴訟において右取消権を行使して右売買契約により移転した所有権の存否を争うことは許されなくなるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原審が適法に確定したところによれば、本件被上告人を原告とし本件上告人を被告とする原判示津簡易裁判所昭和四五年(ハ)第一五号事件において被上告人が上告人から本件売買契約により本件土地の所有権を取得したことを認めて被上告人の所有権確認請求を認容する判決があり、右判決が確定したにもかかわらず、上告人は、右売買契約は詐欺によるものであるとして、右判決確定後である昭和四九年八月二四日これを取り消した旨主張するが、前訴において上告人は、右取消権を行使し、その効果を主張することができたのにこれをしなかつたのであるから、本訴における上告人の上記主張は、前訴確定判決の既判力に抵触し許されないものといわざるをえない。したがつて、これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第三点について
記録にあらわれた本件訴訟の経過に照らせば、原判決に所論審理不尽の違法があるとは認められない。論旨は、採用することができない。
同第四点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本山亨 裁判官 団藤重光 裁判官 藤﨑萬里 裁判官 中村治朗 裁判官 谷口正孝)

+理由
形成原因が訴えの目的である請求権じたいに付着する瑕疵であること
取消権については取消しよりも重大な瑕疵である無効事由の遮断との権衡がとれないこと

3.各種の形成権
(1)取消権
(2)解除権
+判例(大阪高判52.3.30)

(3)相殺権
遮断効否定
←相殺権は訴求債権に付着する瑕疵ではなく、訴求債権とは別個の債権を防御方法として主張し、併せて審判の対象とするものであるから、相殺権の行使については他の形成権以上に被告の決断の自由を尊重すべき!

+判例(S40.4.20)
理由
上告代理人下川好孝の上告理由第一点について。
所論は、原判決の条理、社会通念無視、採証法則違反、理由不備、審理不尽等の違法を縷説するが、記録に当つて検討しても、所論のような違法は原審に存しない。
所論(二)に掲げる当裁判所の判例は事案に適切でないし、所論(三)において指摘する原審の履行不能の判断は正当であり、この点に理由不備をいう所論は独自の見解として採用できない。
その余の所論は、ひつきょう原審の専権たる証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰着し、すべて採用できない。

同第二点の(一)について。
所論指摘の原審判断は正当であつて、この点に関し、相殺は当事者双方の債務が相殺適状に達した時において当然その効力を生ずるものではなくて、その一方が相手方に対し相殺の意思表示をすることによつてその効力を生ずるものであるから、当該債務名義たる判決の口頭弁論終結前には相殺適状にあるにすぎない場合、口頭弁論の終結後に至つてはじめて相殺の意思表示がなされたことにより債務消滅を原因として異議を主張するのは民訴法五四五条二項の適用上許されるとする大審院民事連合部明治四三年一一月二六日判決(民録一六輯七六四頁)の判旨は、当裁判所もこれを改める必要を認めない。
従つて、右連合部判決によつて変更される以前の大審院判例を掲げて原判決の違法をいう所論は採用できない。
また、所論(4)掲記の当裁判所の判例は、事案が本件に適切でないから、同判例違反をいう論旨も採用できない。

同第二点の(二)について。
所論は、原判決につき弁護士法二五条一号ないし三号および五号違反の点を云々するが、同条五号違反の事実関係の主張は、原審においてなされていないと認められるから、同号違反の論旨は採用の限りでない。
そこで、同条一号ないし三号違背の論旨について判断する。本訴において被上告人が主張し、原審が確定した事実関係は、左のとおりである。すなわち、被上告人と内縁関係にあつた訴外Aは、昭和三〇年八月頃被上告人に対し同人の旅館経営上必要な本件土地一一四坪をその所有者訴外Bから無償譲与を受けその所有権を被上告人に移転することを約諾したが、右約旨が履行されないうちに訴外Aと被上告人との内縁関係は解消されることになり、同年一二月二八日両者間に、被上告人は同訴外人に一〇〇万円を贈与することとし、うち五〇万円は即日、残金五〇万円は昭和三一年一月末日までに支払う旨を含む内縁解消に関する契約が締結され、それと同時に未だ履行されていなかつた前示約諾の趣旨を同訴外人においてすみやかに履行することの確約がなされた。被上告人は、右即日五〇万円の支払をしたが、残金五〇万円の支払を遅滞していたところ、訴外Aは、前記契約により被上告人に対して有する債権一切を昭和三三年三月一四日上告人に譲渡し、その頃被上告人に対しその旨の通知をした。その後、上告人は、被上告人を相手どつて右譲受の贈与金債権残額五〇万円の請求訴訟を提起し、同訴訟は上告人の勝訴に確定した。その確定判決が被上告人の本件請求異議訴訟の対象たる債務名義であり、被上告人は、訴外Aがその責に帰すべき事由により本件土地一一四坪の被上告人に対する前示約定の給付義務を履行不能にしたことによる損害賠償債権をもつて相殺を主張し、これを請求異議の原因としているのである。
これに対し、上告人は、訴外Aと被上告人との間の内縁解消に関する前示契約は同訴外人が弁護士Cに調停申立を依頼し該調停によつて成立したものであり、これに関する契約証書も同弁護士の手によつて作成されたものであるから、同弁護士が被上告人の依頼を受けてその訴訟代理人として本訴提起および第一審の訴訟行為をしたことは、弁護士法二五条の前各号の規定に違反し無効である旨を主張するのである。しかし、右述のとおり、本件請求異議は被上告人の上告人に対する訴として提起されているものであり、一方上告人の主張自体から明らかなように、C弁護士が前示調停に関する依頼を受けたのは上告人からではなく訴外Aからであり、その作成にたずさわつた前記契約証書も同訴外人と被上告人間のものであつて、同弁護士は、本件の相手方たる上告人から協議を受けた事実も、協議を受けて賛助し若しくは依頼を受諾した事実もないから、同法条一、二号に触れる余地はなく、また、訴外Aから受任した右調停事件はすでに終了し、現に受任している事件にはあたらないから、その相手方たる被上告人より本件の依頼を受けて訴訟行為をしたからといつて、同条三号に牴触するいわれはない。従つて、右C弁護士の所論訴訟行為を有効とした原審判断の違法をいう論旨は、ひつきょう判決に影響を及ぼさないことをいうに帰着し採用できない。

同第二点の(三)について。
所論指摘の点につき、一般に債権譲渡の通知前に譲渡人に対し反対債権を有し、かつそれが相殺適状にある限りは、右譲渡通知後においても、債務者は右債権を自動債権として、債権を譲り受けた新債権者に対し相殺をもつて対抗することができるとした原審の判断は、正当であり、この点の原審判断に理由不備その他の違法があるとする所論は、独自の見解として採用できない。
同第二点の(四)について。
所論は、民法五五〇条但書に「履行ノ終ハリタル」とは不動産贈与の場合には対抗要件たる所有権移転登記手続をも了することであると主張するが、不動産の贈与にあつてはその引渡により履行が終つたというべきで登記手続を経なければ履行が終つたといえないものでないとした原審の判断は、正当であり(当裁判所昭和二七年(オ)第四八〇号同二九年七月六日第三小判決、裁判集民事一五号三九頁、昭和二九年(オ)第一九五号同三一年一月二七日第二小判決、民集一〇巻一号一頁参照)、この点の法令解釈の誤りをいう所論は、独自の見解であつて採用できない。

同第二点の(五)について。
所論は、原審が弁論更新の手続を怠り、民訴法一八七条二項に違反するというが、記録を検するに、所論裁判官交代後の第七回口頭弁論期日において当事者によつて従前の口頭弁論の結果の陳述がなされていることが同期日の調書の記載上明白であるから、同所論は採用の限りでない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

(4)建物買取請求権

+(建物買取請求権)
第13条
1項 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
2項 前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
3項 前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。

・遮断効を否定
建物買取請求権は建物収去土地明渡請求権に付着した瑕疵ではなく、別個独立した権利であり、行使を認めることで借地人さらには建物の保護にもなるし、被告が原告主張の借地権不存在又は消滅を争う時に予備的抗弁として建物買取請求権の行使を要求することは負担になることを理由とする

+判例(H7.12.15)
理由
上告代理人林正明の上告理由一について
借地上に建物を所有する土地の賃借人が、賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結時までに借地法四条二頃所定の建物買取請求権を行使しないまま、賃貸人の右請求を認容する判決がされ、同判決が確定した場合であっても、賃借人は、その後に建物買取請求権を行使した上、賃貸人に対して右確定判決による強制執行の不許を求める請求異議の訴えを提起し、建物買取請求権行使の効果を異議の事由として主張することができるものと解するのが相当である。
けだし、(1)建物買買請求権は、前訴確定判決によって確定された賃貸人の建物収去土地明渡請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは異なり、これとは別個の制度目的及び原因に基づいて発生する権利であって、賃借人がこれを行使することにより建物の所有権が法律上当然に賃貸人に移転し、その結果として賃借人の建物収去義務が消滅するに至るのである、(2)したがって、賃借人が前訴の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権を行使しなかったとしても、実体法上、その事実は同権利の消滅事由に当たるものではなく(最高裁昭和五二年(オ)第二六八号同五二年六月二〇日第二小法廷判決・裁判集民事一二一号六三頁)、訴訟法上も、前訴確定判決の既判力によって同権利の主張が遮断されることはないと解すべきものである、(3)そうすると、賃借人が前訴の事実訴口頭弁論終結時以後に建物買取請求権を行使したときは、それによって前訴確定判決により確定された賃借人の建物収去義務が消滅し、前訴確定判決はその限度で執行力を失うから、建物買取請求権行使の効果は、民事執行法三五条二項所定の口頭弁論の終結後に生じた異議の事由に該当するものというべきであるからである。これと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない
同二について
原審の適法に確定した事実関係の下において、被上告会社が本件各建物買取請求権を放棄したものとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 福田博)

++解説
《解  説》
一 本件は、建物収去土地明渡請求訴訟(前訴)の事実審口頭弁論終結後に建物買取請求権を行使して、その効果を前訴の請求を認容した確定判決に対する請求異議の事由として主張することができるかという問題すなわち確定判決の既判力の遮断効と基準時後の形成権行使の効果という法律問題が争われた事案である。具体的には、期間満了による賃貸借契約の終了を理由として、土地の賃貸人の賃借人に対する建物収去土地明渡請求(前訴)を認容する判決が確定した後に、賃借人が、借地法四条二項の規定に基づく建物買取請求権を行使して、その効果を右の確定判決に対する請求異議の事由として主張した場合に、これが民執法三五条二項にいう「口頭弁論の終結後に生じた異議の事由」となるか、という点が争われたものである。
建物買取請求権が行使されると、法律上当然に建物の売買契約が成立して建物は賃貸人の所有となり、賃貸人は建物の売買代金を支払う義務が生じ、建物収去土地明渡を命じた確定判決の執行力は、建物退去土地明渡を超える限度において失効するものと解されている。そこで、建物買取請求権行使の効果が請求異議の事由となることを認める肯定説に立つと、請求異議訴訟において、賃借人が建物代金の支払と建物退去土地明渡執行との同時履行を主張し、かつ、民事執行法三六条による執行停止の申立てをした場合には、これがいずれも認められる可能性が高いため、賃貸人は直ちには建物退去土地明渡の執行に着手することができない事態の発生が予想される。これに対し、否定説に立つと、建物買取請求権行使の効果を請求異議の事由として主張すること自体が主張自体失当ということになり、賃貸人は直ちに執行に着手することができるため、肯定説と否定説のいずれを採用するかは、賃貸人と賃借人の利害に大きくかかわる問題ということになる。

二 本件の一審及び原審とも、肯定説を採用した上、建物及び土地の明渡しが既に完了している本件においては、前訴の確定判決の執行力は、建物収去土地明渡を命じた部分において失効し、賃料相当損害金の支払を命じた部分の一部のみが残存していると判断して、原告らの請求を一部認容した。そこで、被告である賃貸人が上告を提起した。
本判決も、要旨次のとおり判示して、肯定説に立つことを明らかにし、原判決を維持して、賃貸人からの上告を棄却した。
建物買取請求権は、前訴確定判決によって確定された賃貸人の建物収去土地明渡請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは異なり、これとは別個の制度目的及び原因に基づいて発生する権利であって、賃借人がこれを行使することにより建物の所有権が法律上当然に賃貸人に移転し、その結果として賃借人の建物収去義務が消滅するに至る。したがって、賃借人が前訴の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権を行使しなかったとしても、実体法上、その事実は同権利の消滅事由に当たるものではなく、訴訟法上も、前訴確定判決の既判力によって同権利の主張が遮断されることはない。そうすると、賃借人が前訴の事実審口頭弁論終結時以後に建物買取請求権を行使したときは、それによって前訴確定判決により確定された賃借人の建物収去義務が消滅し、前訴確定判決はその限度で執行力を失うから、建物買取請求権行使の効果は、民事執行法三五条二項所定の口頭弁論の終結後に生じた異議の事由に該当するものというべきである。」

三 賃借人が前訴の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権を行使しなかったときは、確定判決の既判力の遮断効により、建物買取請求権自体が消滅するのか否かという実体法上の問題については、本判決が引用する最二小判昭52・6・20裁判集民一二一号六三頁が、前訴の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権を行使しなかったとしても、実体法上建物買取請求権は消滅しない旨を判示している。しかしながら、右判例の射程距離はその範囲に止まるものであり、本件の争点である執行法上の問題についてまでは、その射程距離が及ぶものではない。
そこで、建物買取請求権が実体法上は消滅しないとしても、基準時後に建物買取請求権を行使したことを請求異議の事由(民執法三五条二項にいう「口頭弁論の終結後に生じた事由」)として主張し、強制執行の不許を求めることができるかという執行法上の問題については、下級審裁判例及び学説において、肯定説と否定説との見解の対立があり、最高裁判決による解決が待たれていたところである。
取消権のように前訴の訴訟物である請求権自体に内在付着する瑕疵に係る権利については、前訴確定判決によって請求権の存在が確定した以上、既判力の遮断効により、後日その取消権を行使して請求権の存否を争うことは許されないと解するのが相当であり、最一小判昭55・10・23民集三四巻五号七四七頁、本誌四二七号七七頁が、「売買を請求原因とする所有権確認の判決が確定したのちは、後訴において詐欺を理由に右売買を取り消して所有権の存否を争うことは許されない。」旨を判示して、取消権行使の効果を請求異議の事由とすることはできないものとしている。これに対し、相殺権は、前訴の訴訟物である請求権自体に内在付着する瑕疵に係る権利とはいえず、自己の別個独立の債権の消滅という不利益を伴うものであって、これを行使するか否かは債権者の自由であり、前訴において当然なすべき防御方法とはいえないことなどから、取消権とは異なり、請求異議の事由となることを肯定するのが相当であって、最二小判昭40・4・2民集一九巻三号五三九頁、本誌一七八号一〇一頁は、「債務名義たる判決の基礎となる口頭弁論の終結前に相殺適状にあったとしても、右弁論終結後になされた相殺の意思表示により債務が消滅した場合には、右債務の消滅は、請求異議の原因となりうる。」旨を判示して、相殺権行使の効果が請求異議の事由となることを肯定している。
本件で問題となった建物買取請求権は、取消権や相殺権と同じ形成権ではあるが、前訴の確定判決で確定された土地明渡請求権とは別個の独立した権利であって、建物の所有権を賃貸人に移転するという犠牲を伴うものであることなどに照らすと、相殺権に近い性質を有するものと考えられる。本判決も、右のような点にかんがみて、建物買取請求権について相殺権と同様の処理をしたものと考えられる。
本判決は、取消権と相殺権の間のグレイゾーンにある建物買取請求権行使の効果が請求異議事由となることを肯定した初めての最高裁判決であり、実務に与える影響は大きいものと思われる。

(5)白地手形補充権
・既判力により遮断される
+判例(S57.3.30)

■27000093
最高裁判所第三小法廷
昭和54年(オ)第110号
昭和57年03月30日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人宮川典夫、同新井宏明の上告理由について
手形の所持人が、手形要件の一部を欠いたいわゆる白地手形に基づいて手形金請求の訴え(以下「前訴」という。)を提起したところ、右手形要件の欠缺を理由として請求棄却の判決を受け、右判決が確定するに至つたのち、その者が右白地部分を補充した手形に基づいて再度前訴の被告に対し手形金請求の訴え(以下「後訴」という。)を提起した場合においては、前訴と後訴とはその目的である権利または法律関係の存否を異にするものではないといわなければならない。そして、手形の所持人において、前訴の事実審の最終の口頭弁論期日以前既に白地補充権を有しており、これを行使したうえ手形金の請求をすることができたにもかかわらず右期日までにこれを行使しなかつた場合には、右期日ののちに該手形の白地部分を補充しこれに基づき後訴を提起して手形上の権利の存在を主張することは、特段の事情の存在が認められない限り前訴判決の既判力によつて遮断され、許されないものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、(1) 上告人は、本件被上告人を被告として本訴請求にかかる約束手形の振出日欄白地のまま手形上の権利の存在を主張して手形金請求の訴え(手形訴訟)を提起し、該訴訟(前訴)は横浜地方裁判所昭和四九年(手ワ)第二二五号事件として係属した、(2) 同裁判所は、昭和五〇年一月二一日、該約束手形の振出日欄は白地であるから、上告人が右手形によつて手形上の権利を行使することはできないとして、上告人の請求を棄却する旨の判決を言渡した、(3) 上告人は右手形判決に対し異議を申し立てたが、右異議審においても白地部分を補充しないまま昭和五〇年三月一三日同人の訴訟代理人弁護士が右異議を取り下げ、同年四月一四日被上告人がこれに同意して右手形判決は確定した、(4) 上告人は、右判決確定後に前記白地部分を補充した本件手形に基づき昭和五一年七月一七日本訴(後訴)を提起した、(5) 上告人において右前訴の最終の口頭弁論期日までに白地部分を補充したうえで判決を求めることができなかつたような特段の事情の存在は認められない、というのである。右事実関係のもとでは、上告人が、本訴において該手形につき手形上の権利の存在を主張することは、前訴確定判決の既判力により遮断され、もはや許されないものといわざるをえない。したがつて、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。また、記録にあらわれた本件訴訟の経過に照らせば、原判決に所論釈明権不行使、審理不尽の違法があるとは認められない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 環昌一 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己 裁判官 寺田治郎)


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