民事訴訟法 基礎演習 再審


1.民訴法338条1項3号の類推適用~指名冒用訴訟

+(再審の事由)
第三百三十八条  次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
一  法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二  法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三  法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと
四  判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。
五  刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと
六  判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。
七  証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。
八  判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
九  判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。
十  不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。
2  前項第四号から第七号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。
3  控訴審において事件につき本案判決をしたときは、第一審の判決に対し再審の訴えを提起することができない。

・3号の類推適用の事例
+判例(S10.10.28)
要旨
1.偽造委任状による訴訟代理人の提起した訴につき、本人に対して言渡された確定判決の既判力は本人に及ぶ。
2.第三者が他人の氏名を冒用して訴訟代理人を選任、提起した訴訟の判決に対し、被冒用者は再審の訴を提起できる。

・+判例(S43.2.27)
旧法下の督促手続きで
理由
上告代理人松岡末盛・同飯山悦治の上告理由第一点ないし第四点および第七点ないし第九点について。
原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の判示するところによると、訴外Aは、訴外Bと通謀して、振出人重商株式会社、金額八万五〇〇〇円等の記入のある約束手形について、白地の受取人欄にCと記入し、かつ、裏書人欄に桐生市a町bのcB方Cと記入して「C」と刻した有合印を冒捺したうえ、右手形金について、右訴外Cを相手方(債務者)として桐生簡易裁判所に対し支払命令およびこれにもとづく仮執行宣言付支払命令の各申立をしたこと、Aは前記各申立において、Cの住所を桐生市a町b番地のcB(B)方と虚偽の記載をし、その結果、右各申立にもとづいて発せられた支払命令および仮執行宣言付支払命令の各正本は前記B方Cあてに送達され、右BがあたかもCであるように装つて、右各正本を受領したこと、そして、Aは、昭和三二年六月一日右仮執行宣言付支払命令にもとづいて前橋地方裁判所桐生支部に対しC所有の本件土地を含む宅地三〇〇坪について強制競売の申立をし、同支部は、強制競売手続の開始決定をしてその正本を前記債務名義に表示されている前記B方Cあてに送達したこと(その後その競売手続関係で右信夫および上告人らからなんらの異議の申立もなかつた。)、同年九月一四日同支部は被上告人に対し競落許可決定をし、同年一〇月一七日被上告人あてに本件土地の所有権取得登記がされたこと、上告人はこれよりさき同二五年九月四日本件土地を含む前記宅地三〇〇坪(一反歩)をCから買い受けたこと、なおAのCに対する前記手形債権が実体のない仮装の債権との確証はえられないことなどの各事実を確定していることが認められ、右事実にもとづいて、原判決は、おおむね、次のように判示している。すなわち、私法上の請求権が全く存在しない場合は格別、ひとたび仮執行宣言付支払命令が発せられ、その債務名義にもとづいてされた強制競売開始決定の正本が債務名義に表示された執行債務者の住所に送達されて差押の効力が生じ、強制競売手続が進行して、競落許可決定の確定により競落人が差押不動産の所有権を取得し、その競落手続が完結すると、執行当事者もしくは利害関係人は、右差押不動産の所有権の取得について争うことを得なくなると解すべきである。そして、本件では、本件仮執行宣言付支払命令の正本がCの虚偽の住所あてに送達されているから、その送達手続は違法であつても、当然には無効といえず、また、本件の基本たる債務名義も真実の債務者たるCに送達されてはいないけれども、そのように開始された強制競売手続ないし債務者に対する書類の送達がなくしてされたその後の競売手続もまた当然には無効とはいえず、その競売手続の開始決定ないし競落許可決定が取り消されないかぎり、競落人は、その強制競売手続によりその差押不動産の所有権を取得すると解すべきである。なお、本件では債務名義である本件仮執行宣言付支払命令は、のちにCからAに対する再審の訴において、取り消されて、その請求は棄却され、債務名義の効力は遡及的に消滅しているが、本件の強制競売手続はすでに終了している以上、右再審の訴の確定判決の存在をもつて、本件強制競売手続が遡つて失効するものとはいえないと判示し、結局、Cから所有権を譲り受けた上告人は対抗要件たる登記を経ていないから、競落人として所有権取得登記を経た被上告人に対し、その所有権を主張しえないとして、所有権移転登記の抹消登記等を求める本訴請求を排斥する旨を判示している。
しかし甲が乙と通謀のうえ、第三者丙に対して金銭債権を有すると称して丙に対する債務名義を騙取しようと企て、甲は、その主張する債権に関し丙あてにその住所を真実に反し乙方丙として、支払命令ないし仮執行宣言付支払命令の申立等の訴訟行為をし、裁判所がこれに応じた訴訟行為等をし、乙があたかも丙本人のように装つて、その支払命令ないし仮執行宣言付支払命令の正本等の訴訟書類を受領して、なんらの不服申立をすることなく、その裁判を確定させた場合においては、たとえ甲が丙あての金銭債権についての債務名義を取得したような形式をとつたとしても、その債務名義の効力は、丙に対しては及ばず、同人に対する関係では無効であると解するのが相当である。けだし、右のような場合には、当事者たる甲および同人と意思を通じている乙は、故意に、債務名義の相手方当事者と表示されている丙に対し、その支払命令ないし仮執行宣言付支払命令等の存在を知らせないように工作することにより、丙をしてこれに対する訴訟行為をし、その防禦をする手段方法等を講ずる機会を奪つているのであるから、訴訟行為における信義誠実の原則に照らし、甲は、丙に対し相手方当事者たる地位にもとづきその裁判の効力を及ぼしうべきものではないと解するのが相当だからである。なるほど、このような場合には、乙方丙の記載により、一応丙名義の表示がされ、一見丙あての債務名義は成立しているようであるが、前記のように、丙自身は、右の事実を全く知りえない事情にあるのであつて、甲および乙の行為に対し、防禦の訴訟行為をする機会を完全に奪われているのであるから、このような訴訟の実態にかんがみれば、単に丙がたまたまなんらかの事由により事実上訴訟行為等に関与しえなかつたときとは異なるのであつて、丙に対し、到底その裁判の効力が及ぶと解することは許されないのである。 
これを本件についてみれば、前記のように、Aは、Bと通謀してCの住所をいつわり、B方Cとして支払命令および仮執行宣言付支払命令の申立をし、裁判所がその各申立に応じた裁判をなし、BがC本人のように装つてその各正本を受領したというのであるから、本件債務名義の効力がCに及ぶいわれのないことは、前段に説示したところから明らかである。そして、本件債務名義がCに対する関係で効力が及ばない以上、本件債務名義にもとづいて同人所有の本件土地についてされた本件強制競売手続は、同人に対する関係では債務名義がなくしてされたものというべきであるから、その強制競売手続は同人に対する関係では効力を生ぜず、競落人は同人に対してその所有権の取得を主張しえない、と解するのが相当である。
そうだとすれば、原判決は、この点について、法令の解釈をあやまつた違法があり、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、原判決を破棄して本件を東京高等裁判所へ差し戻すこととし、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)

・被害者である被冒用者をして救済の方法の選択を迷わせないよう、再審を選択してきたときはこれを認めるが、再審以外の方法を選択したときはこれを排斥しない趣旨

2.補充送達

+(交付送達の原則)
第百一条  送達は、特別の定めがある場合を除き、送達を受けるべき者に送達すべき書類を交付してする。

+(送達場所)
第百三条  送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。ただし、法定代理人に対する送達は、本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
2  前項に定める場所が知れないとき、又はその場所において送達をするのに支障があるときは、送達は、送達を受けるべき者が雇用、委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(以下「就業場所」という。)においてすることができる。送達を受けるべき者(次条第一項に規定する者を除く。)が就業場所において送達を受ける旨の申述をしたときも、同様とする。

+(補充送達及び差置送達)
第百六条  就業場所以外の送達をすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができる。郵便の業務に従事する者が日本郵便株式会社の営業所において書類を交付すべきときも、同様とする。
2  就業場所(第百四条第一項前段の規定による届出に係る場所が就業場所である場合を含む。)において送達を受けるべき者に出会わない場合において、第百三条第二項の他人又はその法定代理人若しくは使用人その他の従業者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものが書類の交付を受けることを拒まないときは、これらの者に書類を交付することができる。
3  送達を受けるべき者又は第一項前段の規定により書類の交付を受けるべき者が正当な理由なくこれを受けることを拒んだときは、送達をすべき場所に書類を差し置くことができる。

・相当のわきまえ
判例(H4.9.10)
理由
上告代理人大神周一の上告理由第一点について
一 本件は、上告人に被上告人への金員の支払を命ずる確定判決につき、上告人に対する訴状の送達がなかったことが民訴法四二〇条一項三号の事由に該当するとして申し立てられた再審事件である。原審が確定した事実関係の大要は、次のとおりである。
1 右確定判決は、昭和五四年ころ、上告人の妻であった訴外Aが、上告人の名で被上告人の特約店から買い受けた商品の代金の立替払を被上告人に委託し、これに応じて右代金を立て替えて支払った被上告人が上告人に対して立替金及び約定手数料の残額並びにこれに対する遅延損害金の支払を求めた訴え(以下「前訴」という。)に対するものである。
2 上告人の四女(昭和四七年一二月三〇日生・当時七歳九月)は、昭和五五年一〇月四日、上告人方において前訴の訴状及び第一回口頭弁論期日の呼出状の交付を受けたが、上告人に対し、右各書類を交付しなかった
3 上告人が前訴提起の事実を知らないまま、その第一回口頭弁論期日に欠席したところ、口頭弁論は終結され、上告人において被上告人の主張する請求原因事実を自白したものとして、被上告人の請求を認容する旨の判決が言い渡された。
4 Aは、上告人方においてその同居者として、昭和五五年一一月三日に右判決の言渡期日(第二回口頭弁論期日)の呼出状の、同月一七日に判決正本の各交付を受けたが、この事実を上告人に知らせなかったため、上告人が右判決に対して控訴することなく、右判決は確定した。
5 上告人は、被上告人から、平成元年五月、本件立替金を支払うよう請求されて調査した結果、前訴の確定判決の存在を知った。

二 原審は、右事実関係の下において、次の理由で本件訴えを却下した。
1 前訴の訴状及び第一回口頭弁論期日の呼出状の交付を受けた上告人の四女は、当時七歳であり、事理を弁識するに足るべき知能を備える者とは認められないから、右各書類の交付は、送達としての効力を生じない。
2 しかし、前訴の判決正本は上告人の同居者であるAが交付を受けたのであり、本件においては、右判決正本の送達を無効とすべき特段の事情もないから、民訴法一七一条一項による補充送達として有効である。
3 そうすると、上告人は右判決正本の送達を受けた時に1記載の送達の瑕疵を知ったものとみられるから、右瑕疵の存在を理由とする不服申立ては右判決に対する控訴によってすることができたものというべきである。
4 それにもかかわらず、上告人は控訴することなく、期間を徒過したから、本件再審の訴えは、適法な再審事由の主張のない訴えであって、その欠缺は補正することができないものである。

三 しかしながら、原審の右判断を是認することはできない。その理由は、次のとおりである。
1 民訴法一七一条一項に規定する「事理ヲ弁識スルニ足ルヘキ知能ヲ具フル者」とは、送達の趣旨を理解して交付を受けた書類を受送達者に交付することを期待することができる程度の能力を有する者をいうものと解されるから、原審が、前記二1のとおり、当時七歳九月の女子であった上告人の四女は右能力を備える者とは認められないとしたことは正当というべきである。
2 そして、有効に訴状の送達がされず、その故に被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされた場合には、当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はないから、民訴法四二〇条一項三号の事由があるものと解するのが相当である。
3 また、民訴法四二〇条一項ただし書(現338条)は、再審事由を知って上訴をしなかった場合には再審の訴えを提起することが許されない旨規定するが、再審事由を現実に了知することができなかった場合は同項ただし書に当たらないものと解すべきである。けだし、同項ただし書の趣旨は、再審の訴えが上訴をすることができなくなった後の非常の不服申立方法であることから、上訴が可能であったにもかかわらずそれをしなかった者について再審の訴えによる不服申立てを否定するものであるからである。これを本件についてみるのに、前訴の判決は、その正本が有効に送達されて確定したものであるが、上告人は、前訴の訴状が有効に送達されず、その故に前訴に関与する機会を与えられなかったとの前記再審事由を現実に了知することができなかったのであるから、右判決に対して控訴しなかったことをもって、同項ただし書に規定する場合に当たるとすることはできないものというべきである。
4 そうすると、上告人に対して前訴の判決正本が有効に送達されたことのみを理由に、上告人が控訴による不服申立てを怠ったものとして、本件再審請求を排斥した原審の判断には、民訴法四二〇条一項ただし書の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決に影響することは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件においては、なお前訴の請求の当否について審理する必要があるので、これを原審に差し戻すこととする。
四 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平 裁判官 味村治 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達)

++解説
《解  説》
一 本判決は、次の三点について判断を示したものである。
(1) 民訴法一七一条一項の事理を弁識するに足るべき知能を備える者の意義及び七歳九月の児童が事理を弁識するに足るべき知能を備える者に当たるか否か(補充送達の受領能力)。
(2) 訴状の有効な送達がないままされた判決が確定した場合に、同法四二〇条一項三号の再審事由があると解すべきか否か(訴状送達の瑕疵と再審事由)。
(3) 同条一項ただし書の再審事由を知りての意義及び本件事案にその適用があるか否か(再審の補充性)。
そのうち、(2)と(3)に係る部分が判示事項・判決要旨となっている。

二 事案の概要は、次のとおりである。
Xの妻AがXの名で買い受けた商品の代金の立替払をY(信販会社)に委託し、これに応じて右代金の立替払をしたYが、Xに対し、立替金等の支払を求めて訴え(前訴)を提起した。前訴の訴状及び第一回口頭弁論期日呼出状は、当時七歳九月のXの子が交付を受けたが、Xには交付しなかったため、X不知の間に欠席判決がされた。第二回口頭弁論期日(判決言渡期日)呼出状及び前訴判決正本は、AがXの同居者として交付を受けたが、これを隠してしまったため、X不知の間に前訴判決が確定した。その後、前訴確定判決の存在を知ったXがYを相手として、訴状の有効な送達がなかったことが民訴法四二〇条一項三号の事由に該当すると主張して再審を申し立てたのが本件訴えである。
一審は、Xの右主張を容れ、前訴確定判決を取り消した上、XとYとの間で立替払契約が成立したものとは認められないとして、YのXに対する前訴請求を棄却した。しかし、原審は、前訴の訴状については、事理を弁識するに足るべき知能を備える者に交付されていないから、有効に送達されたということはできないが、前訴の判決正本については、民訴法一七一条一項による補充送達として有効であり、そうすると、Xは前訴判決正本の送達を受けた時に訴状等の送達の瑕疵を知ったものとみられるから、右瑕疵の存在を理由とする不服申立ては前訴判決に対する控訴によってすることができたものというべきであるところ、Xはそうしなかったのであるから、本件再審の訴えは、適法な再審事由の主張のない訴えであり、その欠缺は補正することができないものであるとして、一審判決を取り消し、本件再審の訴えを却下した。

三 本判決は、前記の各点について次のように判示し、結局、原審の判断には民訴法四二〇条一項ただし書の解釈適用を誤った違法があるものとして、原判決を破棄して、本件を高松高裁に差し戻した。

(1) 補充送達の受領能力
本判決は、まず、民訴法一七一条一項の事理を弁識するに足るべき知能を備える者の意義につき、「送達の趣旨を理解して交付を受けた書類を受送達者に交付することを期待することができる程度の能力を有する者をいうものと解される」と判示した。通説(菊井=村松・全訂民事訴訟法I九五四頁など)と同様の判断を示したものであり、異論のないところであろうが、最高裁の判断としては最初のものである。
そして、本判決は、「当時七歳九月の女子であったXの四女は右能力を備える者とは認められない」と判示し、前訴において訴状の有効な送達はなかったものとした。未成年者についての補充送達の受領能力の肯定例として、①一三歳一一月余の女子(大判大14・11・11民集四巻一一号五五二頁)、②一三歳四月の男子(東京高判昭52・7・18本誌三六〇号一六二頁、判時八六四号九一頁)、③一〇歳の女子(大阪高決昭56・6・10判時一〇三〇号四四頁)があり、否定例として、④九歳の女子(東京高判昭34・6・20東高民時報一〇巻六号一三三頁)がある。本判決は、七歳九月の女子について補充送達の受領能力を否定したものであり、実務上参考になる。

(2) 訴状送達の瑕疵と再審事由
再審事由は、民訴法四二〇条一項一号ないし一〇号に列挙されているが、再審が非常の不服申立方法であることから、この列挙は例示的なものではなく制限的なものであるとするのが判例(最三小判昭28・10・27集民一〇号三二七頁、最二小判昭29・4・30集民一三号七二三頁、最二小判昭37・6・22集民六一号三七七頁)の立場である。しかし、制限列挙であることをあまりに厳格に貫くときは、再審の制度を認めた法の趣旨を没却することとなりかねないため、慎重な考慮が求められていたところである。
本判決は、判決要旨一のように、① 前訴の被告であるXに対する訴状の有効な送達がなく、② その結果Xには前訴に関与する機会が与えられなかった(Xは、前訴が提起されていることを知らないまま判決が言い渡された。)という事情のある本件において、「当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由がない」との根拠を示して、民訴法四二〇条一項三号の事由があるものと解するのが相当であるとした。
本件は、訴状の有効な送達がない(その結果訴訟係属も生じない)という事案についてのものであり、この点において、不実の申立てによって訴状の送達が公示送達によってされ、被告が訴訟係属の事実を知らなかったという事案と異なる。公示送達は、裁判長の許可を得てするものであり(民訴法一七八条一項)、許可を得てした場合には後日要件の存在しなかったことが判明しても公示送達は有効であるからである。被告の住所を知りながら公示送達の申立てをし、被告欠席のまま勝訴の確定判決を得たとしても、民訴法四二〇条一項三号の再審事由に当たらないとの趣旨を判示した最一小判昭57・5・27集民一三六号一頁、本誌四八九号五六頁と本件とは、事案を異にするものというべきである。
本件と同様の事例において再審を認めた下級審裁判例として、高松高判昭28・5・28高民六巻四号二三八頁、東京地判昭52・2・21判時八六九号六七頁、釧路地判昭61・10・20本誌六四〇号二二二頁がある。なお、右高松高判は、民訴法一七一条一項の補充送達の受領資格者が受送達者の法定代理人の地位に立つことを根拠にして、無資格者が受領したことをもって民訴法四二〇条一項三号所定の法定代理権の欠缺に当たると構成したものであるが、本判決は前記のとおりこのような構成を採用していない。

(3) 再審の補充性(民訴法四二〇条一項ただし書)
本判決は、同項ただし書所定の再審事由を知りてとは、再審事由を現実に了知したことをいう旨を判示した。本判決は、最高裁としてこの点を明言した最初のものであるが、最二小判昭36・9・22民集一五巻八号二二〇三頁、最二小判昭39・6・26民集一八巻五号九〇一頁、本誌一六四号八八頁、最一小判昭41・12・22民集二〇巻一〇号二一七九頁、本誌二〇二号一一一頁などは、同様の解釈を前提にしていたものと思われる。
そして、本判決は、その根拠について、「同項ただし書の趣旨は、再審の訴えが上訴を提起することができなくなった後の非常の不服申立方法であることから、上訴が可能であったにもかかわらずそれをしなかった者について再審の訴えによる不服申立てを否定するものであるからである」と判示した。
本判決は、最後に、判決要旨二のように、前訴の判決正本はXの同居者である妻Aが交付を受けたため、その送達は有効であるが、Aが判決正本を隠してしまったために、Xは、前記の再審事由を現実に了知することができなかったのであるから、Xが控訴しなかったことは同項ただし書に規定する場合に当たらないとした。すなわち、本判決は、前訴の判決正本が有効に送達されたことを前提にしつつ(受送達者と事実上の利害対立のある同居者に対する補充送達の効力を否定した最近の下級審裁判例として、大阪高判平4・2・27本誌七九三号二六八頁があるが、本判決は、このような考え方を採用していないものと思われる。)、前訴の判決正本の送達が有効にされたか否かと再審事由を現実に了知したか否かとは別問題であるとしたのである。
四 近年、同種の紛争も稀ではないようである。本判決は、そのうち、訴状の有効な送達がないために被告が訴訟に関与することができなかったという事案において、最高裁として初めての判断を示したものであり、少なからぬ意義を有するものと思われる。

+判例(H19.3.20)
理由
抗告代理人伊藤諭、同田中栄樹の抗告理由について
1 本件は、抗告人が、相手方の抗告人に対する請求を認容した確定判決につき、民訴法338条1項3号の再審事由があるとして申し立てた再審事件である。
2 記録によれば、本件の経過は次のとおりである。
(1) 相手方は、平成15年12月5日、横浜地方裁判所川崎支部に、抗告人及びAを被告とする貸金請求訴訟(以下「前訴」という。)を提起した。
相手方は、前訴において、〈1〉B1及びB2は、平成9年10月31日及び同年11月7日、Aに対し、いずれも抗告人を連帯保証人として、各500万円を貸し付けた、〈2〉相手方は、Bらから、BらがAに対して有する上記貸金債権の譲渡を受けたなどと主張して、抗告人及びAに対し、上記貸金合計1000万円及びこれに対する約定遅延損害金の連帯支払を求めた。
(2) Aは、抗告人の義父であり、抗告人と同居していたところ、平成15年12月26日、自らを受送達者とする前訴の訴状及び第1回口頭弁論期日(平成16年1月28日午後1時10分)の呼出状等の交付を受けるとともに、抗告人を受送達者とする前訴の訴状及び第1回口頭弁論期日の呼出状等(以下「本件訴状等」という。)についても、抗告人の同居者として、その交付を受けた
(3) 抗告人及びAは、前訴の第1回口頭弁論期日に欠席し、答弁書その他の準備書面も提出しなかったため、口頭弁論は終結され、第2回口頭弁論期日(平成16年2月4日午後1時10分)において、抗告人及びAが相手方の主張する請求原因事実を自白したものとみなして相手方の請求を認容する旨の判決(以下「前訴判決」という。)が言い渡された
(4) 抗告人及びAに対する前訴判決の判決書に代わる調書の送達事務を担当した横浜地方裁判所川崎支部の裁判所書記官は、抗告人及びAの住所における送達が受送達者不在によりできなかったため、平成16年2月26日、抗告人及びAの住所あてに書留郵便に付する送達を実施した。上記送達書類は、いずれも、受送達者不在のため配達できず、郵便局に保管され、留置期間の経過により同支部に返還された。
(5) 抗告人及びAのいずれも前訴判決に対して控訴をせず、前訴判決は平成16年3月12日に確定した。
(6) 抗告人は、平成18年3月10日、本件再審の訴えを提起した。

3 抗告人は、前訴判決の再審事由について、次のとおり主張している。
前訴の請求原因は、抗告人がAの債務を連帯保証したというものであるが、抗告人は、自らの意思で連帯保証人になったことはなく、Aが抗告人に無断で抗告人の印章を持ち出して金銭消費貸借契約書の連帯保証人欄に抗告人の印章を押印したものである。Aは、平成18年2月28日に至るまで、かかる事情を抗告人に一切話していなかったのであって、前訴に関し、抗告人とAは利害が対立していたというべきである。したがって、Aが抗告人あての本件訴状等の交付を受けたとしても、これが遅滞なく抗告人に交付されることを期待できる状況にはなく、現に、Aは交付を受けた本件訴状等を抗告人に交付しなかった。以上によれば、前訴において、抗告人に対する本件訴状等の送達は補充送達(民訴法106条1項)としての効力を生じていないというべきであり、本件訴状等の有効な送達がないため、抗告人に訴訟に関与する機会が与えられないまま前訴判決がされたのであるから、前訴判決には民訴法338条1項3号の再審事由がある(最高裁平成3年(オ)第589号同4年9月10日第一小法廷判決・民集46巻6号553頁参照)。

4 原審は、前訴において、抗告人の同居者であるAが抗告人あての本件訴状等の交付を受けたのであるから、抗告人に対する本件訴状等の送達は補充送達として有効であり、前訴判決に民訴法338条1項3号の再審事由がある旨の抗告人の主張は理由がないとして、抗告人の再審請求を棄却すべきものとした。

5 原審の判断のうち、抗告人に対する本件訴状等の送達は補充送達として有効であるとした点は是認することができるが、前訴判決に民訴法338条1項3号の再審事由がある旨の抗告人の主張は理由がないとした点は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 民訴法106条1項は、就業場所以外の送達をすべき場所において受送達者に出会わないときは、「使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるもの」(以下「同居者等」という。)に書類を交付すれば、受送達者に対する送達の効力が生ずるものとしておりその後、書類が同居者等から受送達者に交付されたか否か、同居者等が上記交付の事実を受送達者に告知したか否かは、送達の効力に影響を及ぼすものではない(最高裁昭和42年(オ)第1017号同45年5月22日第二小法廷判決・裁判集民事99号201頁参照)。
したがって、受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等が、その訴訟において受送達者の相手方当事者又はこれと同視し得る者に当たる場合は別として(民法108条参照)、その訴訟に関して受送達者との間に事実上の利害関係の対立があるにすぎない場合には、当該同居者等に対して上記書類を交付することによって、受送達者に対する送達の効力が生ずるというべきである。
そうすると、仮に、抗告人の主張するような事実関係があったとしても、本件訴状等は抗告人に対して有効に送達されたものということができる。
以上と同旨の原審の判断は是認することができる。
(2) しかし、本件訴状等の送達が補充送達として有効であるからといって、直ちに民訴法338条1項3号の再審事由の存在が否定されることにはならない同事由の存否は、当事者に保障されるべき手続関与の機会が与えられていたか否かの観点から改めて判断されなければならない。 
すなわち、受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との間に、その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるため、同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができない場合において、実際にもその交付がされなかったときは、受送達者は、その訴訟手続に関与する機会を与えられたことにならないというべきである。そうすると、上記の場合において、当該同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が実際に交付されず、そのため、受送達者が訴訟が提起されていることを知らないまま判決がされたときには、当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠いた場合と別異に扱う理由はないから、民訴法338条1項3号の再審事由があると解するのが相当である。
抗告人の主張によれば、前訴において抗告人に対して連帯保証債務の履行が請求されることになったのは、抗告人の同居者として抗告人あての本件訴状等の交付を受けたAが、Aを主債務者とする債務について、抗告人の氏名及び印章を冒用してBらとの間で連帯保証契約を締結したためであったというのであるから、抗告人の主張するとおりの事実関係が認められるのであれば、前訴に関し、抗告人とその同居者であるAとの間には事実上の利害関係の対立があり、Aが抗告人あての訴訟関係書類を抗告人に交付することを期待することができない場合であったというべきである。したがって、実際に本件訴状等がAから抗告人に交付されず、そのために抗告人が前訴が提起されていることを知らないまま前訴判決がされたのであれば、前訴判決には民訴法338条1項3号の再審事由が認められるというべきである。
抗告人の前記3の主張は、抗告人に前訴の手続に関与する機会が与えられないまま前訴判決がされたことに民訴法338条1項3号の再審事由があるというものであるから、抗告人に対する本件訴状等の補充送達が有効であることのみを理由に、抗告人の主張するその余の事実関係について審理することなく、抗告人の主張には理由がないとして本件再審請求を排斥した原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は、以上の趣旨をいうものとして理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、上記事由の有無等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 堀籠幸男 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫)

++解説
《解  説》
1 本件は,再審原告Xが,再審被告YのXに対する請求を認容した前訴確定判決につき,民訴法338条1項3号の再審事由(以下「3号事由」という。)があると主張して申し立てた再審事件である。
2 本件の経過は次のとおりである。
(1) Yは,Bから,BがXの義父であるAに対してXを連帯保証人として金銭を貸し付けたことによる貸金債権を譲り受けたとして,X及びAに対して貸金元金及びこれに対する約定遅延損害金の連帯支払を求める訴訟(以下「前訴」という。)を提起した。
前訴において,Xを受送達者とする訴状及び第1回口頭弁論期日の呼出状等は,Xと同居していた義父AがXの同居者として受領した。X及びAは,前訴の第1回口頭弁論期日に欠席し,答弁書その他の準備書面も提出しなかったため,同期日に口頭弁論が終結され,1週間後の第2回口頭弁論期日において,擬制自白の成立によりYの請求を認容する旨の判決(以下「前訴判決」という。)が言い渡された。X及びAに対する前訴判決の判決書に代わる調書については,その住所における送達が受送達者不在によりできなかったため,付郵便送達が行われた。その後,X及びAのいずれからも控訴がなかったため,前訴判決は確定した。
(2) Xは,前訴判決確定の約2年後に本件再審の訴えを提起し,再審事由として,「Xは,自らの意思で連帯保証人になったことはなく,Xの義父Aが,自己の債務について,Xの氏名及び印章を冒用してBとの間で連帯保証契約を締結したものであるから,前訴に関し,XとAは利害が対立していたというべきである。したがって,AがXあての前訴の訴状等の交付を受けたとしても,これが遅滞なくXに交付されることを期待できる状況にはなく,現にAは交付を受けた前訴の訴状等をXに交付しなかったから,前訴においてXに対する訴状等の送達は補充送達として効力を生じていないというべきである。そうすると,訴状等の有効な送達がないため,Xに訴訟に関与する機会が与えられないまま前訴判決がされたことになるから,前訴判決には3号事由がある。」と主張した。
(3) 1審,原審とも,前訴においてXに対する訴状等の送達は補充送達として有効に行われているから,訴状等の有効な送達がなかったことを前提とするX主張の再審事由は認められないとして,本件再審請求を棄却すべきものとした。Xは,原決定を不服として抗告許可の申立てをし,原審は抗告を許可した。
(4) 本決定は,決定要旨のとおり判示して,原審の判断のうち,前訴におけるXに対する訴状等の送達が補充送達として有効であるとした点は是認することができるが,この点のみを理由として,Xの主張するその余の事実関係について審理することなく,本件再審請求を排斥した原審の判断には違法があるとして,原決定を破棄し,本件を原審に差し戻した。
3 本件でまず問題となるのは,受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた民訴法106条1項所定の同居者等と受送達者との間に当該訴訟に関して事実上の利害関係の対立がある場合に,補充送達としての効力が生じるか否かである。
民訴法106条1項所定の同居者等は,受送達者あての送達書類の受領に限定された代理権を有する訴訟法上の法定代理人であると解するのが一般的であるところ,同居者等が当該書類の送達された訴訟自体において受送達者の相手方当事者又はこれと同視し得る者に当たる場合には,双方代理禁止の原則に照らし,当該同居者等には補充送達を受ける権限がないと解すべきであり,当該同居者等が訴訟関係書類の交付を受けたとしても補充送達の効力が生じないことについては,判例,学説上も異論がないところである。
これに対し,受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との間に当該訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるにすぎない場合の補充送達の効力については,下級審では,有効説(神戸地判昭61. 12. 23判タ638号247頁,名古屋地決昭62. 11. 16判タ669号217頁,判時1273号87頁,札幌簡判平2. 1. 25NBL454号43頁,東京地判平3. 5. 22判タ767号249頁など)と無効説(東京地判昭49. 9. 4判タ315号284頁,釧路簡判昭61. 8. 28NBL433号40頁,大阪高判平4.2. 27判タ793号268頁など)とに判断が分かれており,学説も同様に対立していた。そのような状況の下で,最一小判平4. 9. 10民集46巻6号553頁,判タ800号106頁(以下「平成4年判決」という。)は,有効説を前提としたと思われる判示をした。すなわち,平成4年判決は,受送達者の同居者として前訴の訴状の交付を受けた者が民訴法106条1項の要件を満たしておらず,訴状送達が補充送達として有効に行われなかったため,被告とされた者(再審原告)が前訴提起の事実を知らないまま前訴判決が言い渡され,確定したという事案について,訴状の有効な送達がないため被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされて確定した場合には,当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はないとして,3号事由があると判示したものであるところ,その前提として,再審原告と事実上利害関係の対立がある同居の妻に対する判決正本の交付をもって,判決正本の送達が有効に行われ,前訴判決は確定したと判示した。
裁判所書記官による送達事務は,平成4年判決が有効説を採用したものであるとの理解の下に行われており,実務上は有効説が有力となっていたが,平成4年判決は有効説を採用する旨を明確に判示したものではなかった。本決定は,決定要旨1のとおり,有効説を採用すべきであることを明らかにしたものである。
4 次に問題となるのは,受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等が,当該訴訟に関して事実上の利害関係の対立がある受送達者に対して当該書類を交付しなかった場合,送達自体は補充送達として有効であるとしても,受送達者が自己を被告とする訴訟が提起されていることすら知らないまま欠席判決が言い渡され確定したときに,3号事由があるといえるか否かである。
このような場合の受送達者の救済手段として,民訴法338条1項5号の再審事由による再審請求や,控訴の追完が考えられることについては異論はないが,3号事由を主張して再審請求をすることができるかどうかについては,学説上,①受送達者が訴訟に全く関与できなかった点では,当事者が適法に代理されなかった場合と異なるところはないから,この場合も3号事由に当たると解するべきであるとする3号事由肯定説(森勇・平4重判解149頁,中山幸二「付郵便送達と裁判を受ける権利(下)」NBL505号25頁,三谷忠之・判評412号42頁など)と,②訴状等の補充送達が有効である以上,判決言渡しに至るまでの手続に瑕疵はなく,判決が適法に確定するに至ったことになるので,3号事由には当たらないとする3号事由否定説(井田宏・平4主判解212頁,同・平6主判解234頁,池尻郁夫「補充送達に関する一考察(1)」愛媛20 巻1 号1 頁など)とが対立しており,平成4年判決後も残された問題であった(田中豊・平4最判解説(民)327頁)。
代理人として訴訟行為をした者の代理権の欠缺を再審事由として定めた民訴法338条1 項3号は,当事者に保障されるべき手続関与の機会が与えられなかった点に再審に値する違法事由を認める趣旨の規定であると解され,3号事由の存否は,当事者に保障されるべき手続関与の機会が与えられていたか否かの観点から判断されるべきであり,平成4年判決もこのような考え方を前提としているものと考えられる。
補充送達制度は,民訴法106条1項所定の同居者等の要件を満たす者に訴訟関係書類を交付すれば,それが速やかに受送達者に伝達されることが通常期待できることから,同居者等への交付をもって受送達者への直接交付と同一の効力を認めるものであり,通常の場合には,たとえ同居者等から受送達者に対して何らかの事情によって当該書類が交付されなかったとしても,同居者等への交付をもって受送達者に対して当該書類を了知する機会を与えたということができるものと考えられる。これに対し,受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた者が民訴法106条1項所定の同居者等の要件を満たす者であっても,その訴訟に関して受送達者との間に事実上の利害関係の対立があるため,当該同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができないという例外的な場合において,実際にその交付がされず,そのため受送達者が訴訟が提起されていることすら知らないまま判決がされたときには,受送達者には,訴訟関係書類を了知する機会すら与えられておらず,したがって,その訴訟手続に関与する機会が実質的に与えられたことにはならないから,当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠いた場合と別異に扱う必要はなく,3号事由があると解するのが相当であると考えられる。本決定は,以上の解釈に基づき,決定要旨2 のとおり判示して,3号事由肯定説を採用することを明らかにしたものである。
5 本決定は,下級審及び学説において見解が分かれていた補充送達と再審の問題について最高裁が初めての判断を示したものであり,重要な意義を有するものと思われる。

3.再審の補充性

+(訴訟行為の追完)
第九十七条  当事者がその責めに帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかった場合には、その事由が消滅した後一週間以内に限り、不変期間内にすべき訴訟行為の追完をすることができる。ただし、外国に在る当事者については、この期間は、二月とする。
2  前項の期間については、前条第一項本文の規定は、適用しない。

~~ケース2~~
1.郵便に付する送達

+(書留郵便等に付する送達)
第百七条  前条の規定により送達をすることができない場合には、裁判所書記官は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場所にあてて、書類を書留郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律 (平成十四年法律第九十九号)第二条第六項 に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項 に規定する特定信書便事業者の提供する同条第二項 に規定する信書便の役務のうち書留郵便に準ずるものとして最高裁判所規則で定めるもの(次項及び第三項において「書留郵便等」という。)に付して発送することができる。
一  第百三条の規定による送達をすべき場合
同条第一項に定める場所
二  第百四条第二項の規定による送達をすべき場合
同項の場所
三  第百四条第三項の規定による送達をすべき場合
同項の場所(その場所が就業場所である場合にあっては、訴訟記録に表れたその者の住所等)
2  前項第二号又は第三号の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には、その後に送達すべき書類は、同項第二号又は第三号に定める場所にあてて、書留郵便等に付して発送することができる。
3  前二項の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には、その発送の時に、送達があったものとみなす。

+(公示送達の要件)
第百十条  次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
一  当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
二  第百七条第一項の規定により送達をすることができない場合
三  外国においてすべき送達について、第百八条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
四  第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2  前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3  同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は、職権でする。ただし、第一項第四号に掲げる場合は、この限りでない。

(公示送達の方法)
第百十一条  公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。

(公示送達の効力発生の時期)
第百十二条  公示送達は、前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって、その効力を生ずる。ただし、第百十条第三項の公示送達は、掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2  外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては、前項の期間は、六週間とする。
3  前二項の期間は、短縮することができない。

+判例(H10.9.10)
理由
第一 平成五年(オ)第一二一二号上告代理人小杉丈夫、同志賀剛一、同磯貝英男、同細川俊彦、同高橋秀夫、同飯野信昭、同新居和夫、同石田裕久、同西内聖、同奥野雅彦、同八代徹也、同松尾翼、同奥野〓久、同内藤正明、同森島庸介の上告理由第一について
一 本件は、平成五年(オ)第一二一一号上告人・同第一二一二号被上告人(以下「一審原告」という。)が、平成五年(オ)第一二一一号被上告人・同第一二一二号上告人(以下「一審被告」という。)から提起された訴訟において、訴状等の書留郵便に付する送達(以下「付郵便送達」という。)が違法無効であったため訴訟に関与する機会が与えられないまま一審原告敗訴の判決が確定し、損害を被ったとして、一審被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求めるものである。一審原告は、右訴訟における一審原告への付郵便送達について、一審被告には受訴裁判所からの照会に対して一審原告の就業場所不明との回答をしたことに故意又は重過失がある旨主張している。

二 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
1 一審被告は、一審原告の妻が、昭和五九年八月から同六〇年四月にかけて、一審被告が発行した一審原告名義のクレジットカードを利用したことによる貸金債務及び立替金債務の支払が滞りがちであったため、同年一一月、一審原告に対し、通知書を送付したり、電話をかけたりして、右債務等合計四二万円余の支払を督促した。一審原告は、自分は右契約の存在を初めて知ったものであり、妻が契約したらしいなどと述べつつも、右債務の分割払いに応じる姿勢を示していたが、結局同年一二月に合計四万円が支払われるにとどまった。
2 そこで、一審被告は、昭和六一年三月、一審原告に対し、一審原告の妻が右クレジットカードを利用したことによる一審原告名義の前記貸金の残金二六万五三一二円等及び前記立替金の残金七万九六五二円等の支払を求めて、札幌簡易裁判所に貸金請求訴訟及び立替金請求訴訟をそれぞれ提起した(以下併せて「前訴」という。)。受訴裁判所の担当各裁判所書記官は、一審原告の住所における訴状等の送達が一審原告不在によりできなかったため、一審被告に対し、訴状記載の住所に一審原告が居住しているか否か及び一審原告の就業場所等につき調査の上回答するよう求める照会書をそれぞれ送付した。
3 その当時、一審原告は、釧路市内の株式会社網走交通釧路営業所に勤務していたが、たまたま昭和六一年一月から東京都内に長期出張をして、右勤務先会社が下請をした業務に従事中であり、同年四月二〇日ころ帰ってくる予定であった。右勤務先会社においては、出張中の社員あての郵便物が同社に送付されたときは社員の出張先に転送し、出張中の社員と連絡を取りたいとの申出があったときは連絡先を伝える手はずをとっていた。また、一審原告は、昭和六〇年一一月ころ、一審被告から右勤務先会社気付で一審原告あてに郵送された支払督促の通知書を同営業所長を介して受領したことがあり、一審被告の担当者に対し、一審原告あての郵便物を自宅ではなく右勤務先会社に送付してほしい旨要望していた
4 しかし、一審被告の担当者は、裁判所からの前記照会に際し、裁判所から回答を求められている一審原告の就業場所とは、一審原告が現実に仕事に従事している場所をいうとの理解の下に、昭和六〇年一一月当時に一審原告から稼働場所として伝えられていた富士セメントに問い合わせ、一審原告が本州方面に出張中で昭和六一年四月二〇日ころ帰ってくる旨の回答を受けただけで、更に右勤務先会社に一審原告の出張先や連絡方法等を確認するなどの調査をすることなく、貸金請求事件については、同月一一日、一審原告が訴状記載の住所に居住している旨及び一審原告の就業場所が不明である旨を記載した上、「本人は出張で四月二〇日帰ってきます。家族は訴状記載の住所にいる。」旨を付記して回答し、立替金請求事件については、同月一八日、一審原告が訴状記載の住所に居住している旨及び一審原告の就業場所が不明である旨を記載して回答した。
5 受訴裁判所の担当各裁判所書記官は、いずれも、右各回答に基づき、一審原告の就業場所が不明であると判断し、一審原告の住所あてに各事件の訴状等の付郵便送達を実施した。右送達書類は、いずれも一審原告不在のため配達できず、郵便局に保管され、留置期間の経過により裁判所に還付された。なお、右付郵便送達は、札幌簡易裁判所の昭和五八年四月二一日付け「民事第一審訴訟の送達事務処理に関する裁判官・書記官との申し合わせ協議結果」による一般的取扱いに従って実施されたものである。
6 前訴における各第一回口頭弁論期日では、いずれも一審原告が欠席したまま弁論が終結され、昭和六一年五月下旬、一審原告において請求原因事実を自白したものとして、一審被告の請求を認容する旨の各判決(以下併せて「前訴判決」という。)が言い渡された。右各判決正本は、同年五月末から六月初めにかけて、それぞれ一審原告の住所に送達され、一審原告の妻が受領したが、これを一審原告に手渡さなかったため、一審原告において控訴することなく、前訴判決はいずれも確定した。
7 一審被告は、昭和六一年七月二二日、釧路地方裁判所に対し、前訴貸金請求事件の確定判決を債務名義として一審原告に対する給料債権差押命令の申立てをしたが、同月二七日、右申立てを取り下げた。一審原告は、一審被告に対し、同月二九日に二〇万円、同年一〇月から昭和六二年四月にかけて計八万円の合計二八万円を支払った。
8 一審原告は、昭和六二年一〇月五日に前訴判決の存在及びその裁判経過を知ったとして、同年一一月二日、札幌簡易裁判所に前訴判決に対する再審の訴えを提起したところ、同裁判所は、前訴における訴状等の付郵便送達が無効であり、旧民訴法四二〇条一項三号所定の事由があるとしたが、上訴の追完が可能であったから、同項ただし書により再審の訴えは許されないとして、右再審の訴えをいずれも却下する判決を言い渡した。これに対して一審原告は、札幌地方裁判所に控訴を、更に札幌高等裁判所に上告を提起したが、いずれも排斥されて、右各判決は確定した。

三 原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、一審原告が一審被告に対して支払った二八万円につき、一審被告による不法行為と因果関係のある損害であるとして、右の限度で一審原告の請求を一部認容した。
1 一審被告が、前訴において、一審原告に対する請求権の不存在を知りながらあえて訴えを提起したなど、訴訟提起自体について一審原告の権利を害する意図を有していたとは認められないが、一審被告は、前訴の提起に先立つ一審原告との交渉を通じて、一審原告の勤務先会社を知っていたのであるから、受訴裁判所からの前記照会に対して回答するについては、一審被告において把握していた右勤務先会社を通じて一審原告に対する連絡先や連絡方法等について更に詳細に調査確認をすべきであり、かつ、右調査確認が格別困難を伴うものでなかったにもかかわらず、これを怠り、安易に受訴裁判所に対して、一審原告の就業場所が不明であるとの誤った回答をしたものであって、この点において一審被告には重大な過失がある。
2 前訴における一審原告に対する訴状等の付郵便送達は、右のような一審被告の重大な過失による誤った回答に基づいて実施されたものであるから、付郵便送達を実施するための要件を欠く違法無効なものといわざるを得ず、そのため、前訴においては、一審原告に対し、有効に訴状等の送達がされず、訴訟に関与する機会が与えられないまま一審被告勝訴の判決が言い渡されて確定するに至ったものである。
3 前訴において一審原告に出頭の機会が与えられ、その口頭弁論期日において、一審原告から、一審被告との間のクレジット契約等につき、妻が一審原告の名義を無断で使用して一審被告との間で締結したものである旨の主張が提出されていれば、前訴判決の内容が異なったものとなった可能性が高い。
4 確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾するような不法行為に基づく損害賠償請求が是認されるのは、確定判決の取得又はその執行の態様が著しく公序良俗又は信義則に反し、違法性の程度が裁判の既判力による法的安定性の要請を考慮してもなお容認し得ないような特段の事情がある場合に限られるところ、本件においては、一審被告の訴訟上の信義則に反する重過失に基づき、何ら落ち度のない一審原告が前訴での訴訟関与の機会を妨げられたまま、前訴判決が形式的に確定し、しかも、前訴判決の内容も、一審原告に訴訟関与の機会が与えられていれば異なったものとなった可能性が高いにもかかわらず、一審原告が訴訟手続上の救済を得られない状態となっているなどの諸般の事情にかんがみれば、確定判決の既判力制度による法的安定の要請を考慮しても、法秩序全体の見地から一審原告を救済しなければ正義に反するような特段の事情がある。

四 しかしながら、原審の右三の2ないし4の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 民事訴訟関係書類の送達事務は、受訴裁判所の裁判所書記官の固有の職務権限に属し、裁判所書記官は、原則として、その担当事件における送達事務を民訴法の規定に従い独立して行う権限を有するものである。受送達者の就業場所の認定に必要な資料の収集については、担当裁判所書記官の裁量にゆだねられているのであって、担当裁判所書記官としては、相当と認められる方法により収集した認定資料に基づいて、就業場所の存否につき判断すれば足りる担当裁判所書記官が、受送達者の就業場所が不明であると判断して付郵便送達を実施した場合には、受送達者の就業場所の存在が事後に判明したときであっても、その認定資料の収集につき裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くなどの事情がない限り、右付郵便送達は適法であると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、前訴の担当各裁判所書記官は、一審原告の住所における送達ができなかったため、当時の札幌簡易裁判所における送達事務の一般的取扱いにのっとって、当該事件の原告である一審被告に対して一審原告の住所への居住の有無及びその就業場所等につき照会をした上、その回答に基づき、いずれも一審原告の就業場所が不明であると判断して、本来の送達場所である一審原告の住所あてに訴状等の付郵便送達を実施したものであり、一審被告からの回答書の記載内容等にも格別疑念を抱かせるものは認められないから、認定資料の収集につき裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くものとはいえず、右付郵便送達は適法というべきである。したがって、前訴の訴訟手続及び前訴判決には何ら瑕疵はないといわなければならない。
2 当事者間に確定判決が存在する場合に、その判決の成立過程における相手方の不法行為を理由として、確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求をすることは、確定判決の既判力による法的安定を著しく害する結果となるから、原則として許されるべきではなく当事者の一方が、相手方の権利を害する意図の下に、作為又は不作為によって相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為を行い、その結果本来あり得べからざる内容の確定判決を取得し、かつ、これを執行したなど、その行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限って、許されるものと解するのが相当である(最高裁昭和四三年(オ)第九〇六号同四四年七月八日第三小法廷判決・民集二三巻八号一四〇七頁参照)。
これを本件についてみるに、一審原告が前訴判決に基づく債務の弁済として一審被告に対して支払った二八万円につき、一審被告の不法行為により被った損害であるとして、その賠償を求める一審原告の請求は、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求であるところ、前記事実関係によれば、前訴において、一審被告の担当者が、受訴裁判所からの照会に対して回答するに際し、前訴提起前に把握していた一審原告の勤務先会社を通じて一審原告に対する連絡先や連絡方法等について更に調査確認をすべきであったのに、これを怠り、安易に一審原告の就業場所を不明と回答したというのであって、原判決の判示するところからみれば、原審は、一審被告が受訴裁判所からの照会に対して必要な調査を尽くすことなく安易に誤って回答した点において、一審被告に重大な過失があるとするにとどまり、それが一審原告の権利を害する意図の下にされたものとは認められないとする趣旨であることが明らかである。そうすると、本件においては、前示特別の事情があるということはできない

五 したがって、一審原告の前記請求を認容した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの点において理由があり、その余の上告理由につき判断するまでもなく、原判決中、一審被告敗訴の部分は破棄を免れない。そして、前記説示に照らせば、一審原告の右請求は理由がなく、これを棄却した第一審判決は結論において正当であるから、一審原告の控訴を棄却すべきである。

第二 平成五年(オ)第一二一一号上告代理人宇都宮健児、同今瞭美、同山本政明、同茨木茂、同釜井英法、同米倉勉の上告理由第七及び第八について
一 一審原告が一審被告から前訴判決に基づく給料債権差押えの通告を受けたことによる精神的苦痛に対する慰謝料請求については、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求に帰するものであって、前記第一の四の説示に照らして理由のないことは明らかであるから、右請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響のない説示部分を論難するものであって、採用することができない。
二 一審原告の前訴判決に対する再審訴訟の提起に係る弁護士費用相当額の損害賠償請求については、前記第一の四のとおり、前訴における訴訟手続及び前訴判決には瑕疵はなく、再審は本来成り立ち得ないものであって、右弁護士費用相当額の損害賠償請求は理由がないというべきであるから、これを棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響のない説示部分を論難するか、又は原審において主張しなかった事由に基づいて原判決の不当をいうものであって、採用することができない。
三 一審原告の別紙記載の請求について、原審は、これが確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求であるとの前提に立って、一審原告が主張するような精神的苦痛を受けたとしても、一審原告が前訴判決に基づく債務の弁済として一審被告に対して支払った二八万円につき、一審被告に対し損害賠償を命ずる以上、それを超えて精神的損害の点についてまで賠償請求を認める必要はないとして、これを棄却すべきものと判断した。しかしながら、右請求は、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求には当たらず、しかも、前記第一の四のとおり、一審原告が一審被告に対して支払った二八万円についての損害賠償請求を肯認することはできないのであるから、原審の右判断における理由付けは、その前提を欠くものであって、これを直ちに是認することはできない。
したがって、前記理由付けをもって一審原告の別紙記載の請求を棄却すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中、一審原告の右請求に関する部分は破棄を免れず、損害発生の有無を含め、右請求の当否について更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すこととする。
第三 以上の次第で、原判決中、一審被告敗訴の部分を破棄して、同部分に関する一審原告の控訴を棄却するとともに、一審原告の別紙記載の請求に関する部分を破棄して、同部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻すこととし、一審原告のその余の上告は理由がないから、これを棄却することとする。
よって、判示第二の三につき裁判官藤井正雄の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+反対意見
判示第二の三についての裁判官藤井正雄の反対意見は、次のとおりである。
私は、法廷意見が原判決のうち一審原告の別紙記載の請求を棄却した部分について破棄差戻しを免れないとした点には、賛成することができない。
この点に関する一審原告の請求は、一審被告が前訴の担当各裁判所書記官からの照会に対して誤った回答をしたことに基づき、一審原告に訴状等の付郵便送達が実施されたが、一審原告が実際にその交付を受けるに至らず、前訴の第一審手続に関与する機会を奪われたとして、一審被告に対し、これにより被った精神的損害の賠償を求めるというものである。
民事訴訟は、私法上の権利の存否を国の設ける裁判機構によって確定する手続であり、対立する両当事者に手続への関与の機会を等しく保障することが基本をなすことはもちろんである。しかし、その手続は、争われている権利の存否とは無関係に手続の実施そのものに独自の価値があるというものではない。ある当事者が民事訴訟の訴訟手続に事実上関与する機会を奪われたとする場合において、これにより自己の正当な権利利益の主張をすることができず、その結果、本来存在しないはずの権利が存在するとされ、あるいは存在するはずの権利が存在しないとされるなど、不当な内容の判決がされ、確定力が生じてもはや争い得ない状態となったときに、その者に償うに値する精神的損害が生じるものと解すべきであり、判決の結論にかかわりなく訴訟手続への関与を妨げられたとの一事をもって、当然に不法行為として慰謝料請求権が発生するということはできない。
また、訴訟手続における当事者の権利は、これをわが国の裁判制度の三審制のもとで考えた場合、当事者がたとえ第一審の手続に事実上関与する機会を得られなかったとしても、上訴の機会があり上級審の手続を追行することが可能であったならば、その段階で攻撃防御を尽くすことができ、当事者の手続関与の要請は満たされたことになるのであり、上級審の手続のために特別の費用を要したことは別として、第一審手続に関与できなかったこと自体による精神的損害を考える必要はないというべきである。
本件においては、前訴の第一審判決は一審原告の住所にあてて正規の特別送達が行われ、一審原告の妻が同居者としてその交付を受けたが、一審原告にこれを手渡さなかったために、一審原告の目に触れることなく、判決が確定してしまったのである。しかし、これは、夫婦間に確執があり、相互の意思の疎通を欠いていたためにそうなったことがうかがわれるのであって、上訴の手続をとる時機を逸したことは一審原告の支配領域内における事情によるもので、自らの責めに帰するほかはなく、訴訟への関与の機会を不当に奪われたことにはならない。手続に関して瑕疵があるとするときは、上級審で是正されるのが本筋であり、本件ではそれが可能であったのである。
さらに、記録によれば、一審被告が一審原告に対して昭和六一年四月に起こした別件の立替金請求訴訟においては、一審原告の勤務先会社にあてて訴状等の特別送達が実施され、一審原告は受交付者を介してこれを受領したにもかかわらず、口頭弁論期日に出頭せず、何らの争う手段もとらなかったことがうかがわれ、また、本件の貸金及び立替金についても、一審原告は訴訟前には分割払いに応じる姿勢を示していたことは、原判決の確定するところであり、前訴判決の結論が、本来存在しないはずの権利を存在するとした不当なものであったと認めるに足りないといわざるをえない(原判決は、前訴において一審原告が出頭の機会を与えられていれば、異なった判決になった可能性が高いというが、確かな根拠は示されていない。)。
そうすると、原判決中、一審原告が前訴の第一審手続への関与の機会を不当に奪われたことを理由とする慰謝料請求を棄却した部分は、結論において正当であるから、この点に関する一審原告の上告は理由がないというべきである。
(裁判長裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎)

++解説
《解  説》
一 本件は、Xが、Y1(信販会社)から提起された前訴において、訴状等の付郵便送達が違法無効であったため、訴訟手続に関与する機会が与えられないまま、理由のないX敗訴の判決が確定して損害を被った旨主張し、Y1に対しては、前訴での受訴裁判所からの照会に対しXの就業場所不明との誤った回答をしたことにつき故意又は重過失があるとして(民法七〇九条)、Y2(国)に対しては、裁判所書記官による付郵便送達の要件の認定及びその実施につき過失があり、担当裁判官にもこれを看過した過失があるとして(国家賠償法一条一項)、損害賠償を求めた事案である。第一審はXの請求を全部棄却したが、原審はY1に対する請求を一部認容したため、これに対しX(平成五年(オ)第一二一一号事件)とY1(同第一二一二号事件)がそれぞれ上告したところ、最高裁は、弁論の分離・併合により、XのY2に対する請求(①事件)とXのY1に対する請求(②事件)とに分けて判決をした。
二 本件の事実関係の概要は、次のとおりである(なお、各事件の判文を参照)。
1 Y1は、昭和六一年三月、Xに対し、Xの妻がY1発行のX名義のクレジットカードを利用したことによる貸金及び立替金残元金合計三四万円余の支払を求めて、札幌簡裁に二件の訴訟(前訴)を提起した。受訴裁判所の担当書記官は、X不在により訴状等の送達ができなかったため、Y1に対し、Xの就業場所等につき調査の上回答するよう求める照会書を送付した。
2 当時Xは、釧路市内の勤務先A社から東京に長期出張をしており、昭和六〇年秋にY1の担当者との間でやりとりをした際、Xあての郵便物は自宅ではなく右勤務先に送付してほしい旨要望していた。しかし、Y1の担当者は、右照会に対し、就業場所とはXが現実に仕事に従事している場所をいうとの理解の下に、A社に問い合わせをすることなく、昭和六一年四月、Xの就業場所が不明であり、Xは出張中で家族は訴状記載の住所にいる旨を回答した。
3 担当書記官は、右回答に基づきXの就業場所が不明であると判断し、Xの住所あてに訴状等の付郵便送達を実施したが、留置期間経過により訴状等は裁判所に還付された。前訴では、昭和六一年五月に、X不出頭のまま擬制自白によりY1勝訴の判決が言い渡され、Xの住所に送達された判決正本をXの妻が受領したが、これをXに手渡さなかったため、Xからの控訴はなく、そのまま前訴判決は確定した。
4 Y1は、前訴判決を債務名義として、昭和六一年七月にXのA社に対する給料債権の差押えをしたが、まもなくこれを取り下げ、その後Xから合計二八万円の弁済を受けた。
5 Xは、昭和六二年一一月、前訴判決に対する再審訴訟を提起したが、上訴の追完が可能であったから、旧民訴法四二〇条一項ただし書により再審の訴えは許されないとして却下された。
三 ①事件関係
1 原審(一審も同様)は、前訴におけるXに対する訴状等の付郵便送達が、Y1の重大な過失による誤った回答に基づいて実施されたもので、要件を欠き違法無効であるが、本件の具体的事情の下では、Y1からの回答に基づきXの就業場所が不明であるとした担当書記官の判断が不合理とはいえず、その裁量の範囲を逸脱したものとはいえないとして、担当書記官の国賠法上の過失を否定するとともに、担当裁判官の過失も否定して、XのY2に対する請求を棄却すべきものとした。これに対してXが上告し、担当書記官及び担当裁判官の過失を否定した原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があるなどと主張した。
2 付郵便送達は、受送達者の住居所等が判明しているにもかかわらず、右住居所等における交付送達(補充送達・差置送達を含む)が不奏功であり、かつ、就業場所における交付送達(ただし、代人への差置送達を含まない)ができない場合等に認められる送達方法であるところ(民訴法一〇三条二項、一〇七条一項一号、旧民訴法一六九条二項、一七二条)、右にいう就業場所における送達ができない場合とは、受送達者の就業場所が判明してそこへの送達を実施したが不奏功となった場合のみならず、就業場所が判明しないためそこへの送達を実施すること自体ができない場合をも含むと解されている(三輪和雄・注釈民事訴訟法(3)五七三頁、兼子一ほか・条解民事訴訟法四四三頁)。後者の場合については、送達事務取扱者である担当書記官にとって就業場所が判明しているかどうかが問題であって、就業場所の不存在が要件とされているのではなく、担当書記官が通常の調査方法を講じてもなお判明しないときには、右要件を充足することになるわけである。
3 本判決は、受送達者の就業場所の認定に必要な資料の収集は担当書記官の裁量にゆだねられており、担当書記官は、相当と認められる方法により収集した認定資料に基づいて、受送達者の就業場所の存否につき判断すれば足りるとし、担当書記官が受送達者の就業場所が不明であると判断して付郵便送達を実施した場合には、受送達者の就業場所の存在が事後に判明したときであっても、その認定資料の収集につき裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くなどの事情がない限り、右付郵便送達は適法と解するのが相当である旨の一般論を説示した上で、本件の具体的状況の下では、右のような事情があるとはいえないから、前訴における訴状等の付郵便送達は適法であるとして、Xの上告を棄却したものである。
受送達者の住居所等への送達が不奏功となった場合には、担当書記官が、原告に対し被告の就業場所の有無等につき調査の上書面での回答を求めるなどして積極的な認定資料を収集し、これに基づいて就業場所の存否につき判断することになるが、実務では、各庁で送達事務に関する運用基準が策定され、これに従って送達事務処理が行われているところである(民事裁判資料一五二号、同一九五号、民事訴訟関係書類の送達実務の研究[改訂版]・書記官実務研究報告書二〇巻二号)。付郵便送達は、書留郵便の発送の時に送達の効力が生ずるものであり、留置期間満了により送達書類が裁判所に戻され、受送達者が付郵便送達の実施を現実には知らない場合でも送達は有効とされるから、その運用にあたっては当事者の手続上の利益にも十分配慮する必要がある。本件においては、前訴の貸金請求事件でのY1からの回答中に「Xが出張中で四月二〇日帰ってくる」旨付記されていたというのであり、本判決では、この点は前訴における付郵便送達の適法性を損なうべき事情に当たるとまではいえないとされたものであるが、送達の適否の問題とは別に、実務の運用としては、個々の事案に応じた配慮の行き届いた対応が期待されよう。
本判決の説くところは、格別目新しいものではないが、担当書記官による就業場所の調査ないし認定と付郵便送達の関係について判断を示した上、前訴における付郵便送達を違法とした一、二審とは異なり、右付郵便送達を適法として、理由差替えによりXの上告を棄却したものであって、実務上参考になると思われる。
四 ②事件関係
1 原審は、前訴におけるXに対する訴状等の付郵便送達が、Y1の重大な過失による誤った回答に基づいて実施されたもので、要件を欠き違法無効であるとした上、Y1による前訴判決の取得の態様が著しく信義則に反しており、前訴判決の内容についても、Xに出頭の機会が与えられれば異なったものとなった可能性が高く、Xとしては必要な救済手段を行使していないとも評価できないにもかかわらず、何ら救済が得られない状態となっていることからすると、既判力による法的安定性の要請を考慮しても、法秩序全体の見地からXを救済しなければ正義に反するような特段の事情があると判示し、XがY1に対して支払った二八万円につき、Y1による不法行為と相当因果関係のある損害であるとして、右の限度でXの請求を一部認容したが、Xが前訴の訴訟手続に関与する機会を奪われたことによる精神的苦痛に対する慰謝料請求については、それが確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求であり、前記のとおり財産的損害につき賠償を命ずる以上、精神的損害についてまで賠償請求を認める必要はないとして、これを棄却していた。
2 前記①事件において判示されているように、前訴におけるXに対する訴状等の付郵便送達は適法であるから、前訴の訴訟手続及び判決には瑕疵はなく、前訴確定判決には既判力が生じている(Xとしては、前訴において控訴の追完によって争うほかなかったであろう。)。Y1に対して支払った二八万円につき不法行為による損害賠償を求めるXの請求は、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求であり、いわゆる確定判決の不当取得(騙取)の問題として論じられてきているところである。右のような損害賠償請求は、原則として許されるべきではないが、当事者の一方が相手方の権利を害する意図のもとに、作為又は不作為によって相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為を行い、その結果本来あり得べからざる内容の確定判決を取得し、かつ、これを執行したなど、その行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限って、許されるものとするのが当審判例の立場である(最三小判昭44・7・8民集二三巻八号一四〇七頁参照)。
本判決は、本件では、Y1が安易にXの就業場所不明との誤った回答をした点で重大な過失があるとされるにとどまり、Xの権利を害する意図のもとにされたものとは認められない以上、前記特別の事情があるとはいえないとして、原判決中Y1敗訴部分を破棄してXの控訴を棄却したものであり、確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求の可否に関して、①当事者の目的意図の不当性(相手方の権利を害する意図)、②手続的な不当性(相手方の訴訟手続に対する関与を妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為)、③判決結果の不当性(本来あり得べからざる内容の確定判決)を考慮要素とする当審判例の判断枠組みを踏襲した上で、新たな判断事例を付け加えたものであって、その先例的価値は少なくないと思われる(なお、原判決が、前訴におけるY1のXに対する請求の当否につき審理を尽くさないまま、Xに出頭の機会が与えられていれば前訴判決の内容が異なるものとなった可能性が高い旨判示して、Xの請求を認容すべきものとしている点についても、③との関係で問題があると思われる。)。
3 XのY1に対する請求のうち、Xが前訴の訴訟手続に関与する機会を奪われたことによる精神的苦痛に対する慰謝料請求については、その性質上、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求には当たらないと解される。原判決は、前記四1のような理由付けをもってXの右請求を排斥すべきものとしているが、前記四2及び右で述べたところからすれば、原判決の理由付けは二重の意味でその前提を欠くものといわざるを得ないであろう。本判決は、原判決の右理由付けをもってしてはXの右請求を排斥し得ないとして、原判決中右部分を破棄して原審に差し戻すこととしたものである。訴訟手続への関与の機会の喪失を理由とする慰謝料請求の可否については、これまでほとんど論じられておらず、どのような場合に認められる余地があり得るかにつき一般的な定式化を図ることは困難である上、この点に関する原判決の認定事実も十分でない点が考慮されたものであろう。なお、この差戻しの点については、藤井裁判官の反対意見が付されている。

2.可罰行為を理由とする損害賠償請求
+判例(S44.7.8)
理由 
 上告代理人田辺俊明の上告理由について。 
 原審における上告人の主張によれば、被上告人は、上告人に対する別件貸金等請求事件において、裁判外の和解が成立し、上告人において和解金額を支払つたため、上告人に対して右訴を取り下げる旨約したにもかかわらず、右約旨に反し確定判決を不正に取得し、このような確定判決を不正に利用した悪意または過失ある強制執行によつて、上告人をして右判決の主文に表示された一三万余円の支払を余儀なくさせ、もつて右相当の損害を負わせたので、上告人は、被上告人に対し右不法行為による損害の賠償を求めるというのである。 
 これに対し、原審は、右確定判決は当事者間に有効に確定しているから、その既判力の作用により、上告人は以後右判決に表示された請求権の不存在を主張することは許されず、再審事由に基づいて前示判決が取り消されないかぎり、右確定判決に基づく強制執行を違法ということはできない、したがつて、右強制執行の違法を前提とする上告人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくその理由がないとして、右請求を排斥している。 
 しかしながら判決が確定した場合には、その既判力によつて右判決の対象となつた請求権の存在することが確定し、その内容に従つた執行力の生ずることはいうをまたないが、その判決の成立過程において、訴訟当事者が、相手方の権利を害する意図のもとに、作為または不作為によつて相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔する等の不正な行為を行ない、その結果本来ありうべからざる内容の確定判決を取得し、かつこれを執行した場合においては、右判決が確定したからといつて、そのような当事者の不正が直ちに問責しえなくなるいわれなく、これによつて損害を被つた相手方は、かりにそれが右確定判決に対する再審事由を構成し、別に再審の訴を提起しうる場合であつても、なお独立の訴によつて、右不法行為による損害の賠償を請求することを妨げられないものと解すべきである。 
 本件において、原審の確定するところによれば、被上告人は、上告人に対する別件貸金請求事件において、請求権債権を一部免除したうえで右訴を取り下げる旨の和解をし、右約旨に従つた弁済を受けたが、右訴の取下に関する債務を履行せず、自己の訴訟代理人に対してこの事実を告げなかつたため、右訴訟の手続は、その後に開かれた第一回口頭弁論期日において、上告人不出頭のまま終結され、被上告人側の主張するとおりの判決がなされたというのであり、上告人が右口頭弁論期日に出頭しなかつたのは、右和解契約が締結された結果、上告人としてはその趣旨に従つた弁済をし、被上告人が右訴の取下を約したことによるというのである。そして、原審は、上告人は右判決の送達を受けた後、人を介して被上告人に右訴の取下を申し入れ、その夫が同人に対して訴の取引をすすめていたとの事実を認めているのである。 
 これらの事実によれば、上告人は、和解によつて、もはや訴訟手続を続行する必要はないと信じたからこそ、その後裁判所の呼出状を受けても右事件の口頭弁論期日に出頭せず、かつ、判決送達後もなお控訴の手続をしなかつたものであり、その後に、被上告人が真に右請求権について判決をうるために訴訟手続を続行する気であることを知つたならば、自らも期日に出頭して和解の抗弁を提出し、もつて自己の敗訴を防止し、かりに敗訴してもこれを控訴によつて争つたものと推認するに難くない。しかも、原審は、右和解を詐欺によつて取り消す旨の被上告人の主張は採用し難い旨判示しているのであるから、被上告人において、右和解後上告人に対して特に積極的な欺罔行為を行ない、同人の訴訟活動を妨げた事実がないとしても、被上告人は、他に特段の事情のないかぎり、上告人が前記和解の趣旨を信じて訴訟活動をしないのを奇貨として、訴訟代理人をして右訴訟手続を続行させ、右確定判決を取得したものと疑われるのである。そして、その判決の内容が、右和解によつて消滅した請求権を認容したものである以上、被上告人としては、なお、この判決により上告人に対して前記強制執行に及ぶべきではなかつたものといえるのである。しからば、本件においては、被上告人としては、右確定判決の取得およびその執行にあたり、前示の如き正義に反する行為をした疑いがあるものというべきである。したがつて、この点について十分な説示をすることなく、単に確定判決の既判力のみから上告人の本訴請求を排斥した原判決は、この点に関する法令の解釈を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法を犯したものというべく、その違法は原判決の結論に影響することが明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、さらに右の点について審理を尽くさせるため、これを原審に差し戻すのが相当である。 
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 飯村義美 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 関根小郷) 


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