刑法 刑法各論 傷害の罪 身体の安全に対する罪


一.傷害罪の構成要件
1.傷害罪の保護法益
(1)暴行・障害・傷害致死

+(傷害)
第204条
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

+(傷害致死)
第205条
身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する。

・傷害致死罪では、生命の侵害を理由として加重処罰されるため、身体の安全だけでなく、個人の生命も保護法益となる。

・反対に、犯人が意図した傷害の結果が生じなかった場合は、暴行罪(208条)が成立する!

(2)傷害罪の特例
・特異な共犯形態について
+(現場助勢)
第206条
前2条の犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくても、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

+(同時傷害の特例)
第207条
2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。

・集団犯罪(多衆犯)
+(凶器準備集合及び結集)
第208条の3
1項 2人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2項 前項の場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って人を集合させた者は、3年以下の懲役に処する。

・他にも・・・
+(危険運転致死傷)
第208条の2
1項 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2項 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

2.障害という概念

・生理的機能の障害とみる見解。

・他人の毛髪やひげのように、せいぜい、保護装飾の作用を営むものを切断したり、そり落とした場合にも、被害者の健康状態を不良に変更するわけでもなく、その生理的機能を棄損しないため、暴行罪に当たる!!

+判例(H17.3.29)
理由
弁護人〓昌章の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案の異なる判例を引用するものであって本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお、原判決の是認する第1審判決の認定によれば、被告人は、自宅の中で隣家に最も近い位置にある台所の隣家に面した窓の一部を開け、窓際及びその付近にラジオ及び複数の目覚まし時計を置き、約1年半の間にわたり、隣家の被害者らに向けて、精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら、連日朝から深夜ないし翌未明まで、上記ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、同人に精神的ストレスを与え、よって、同人に全治不詳の慢性頭痛症、睡眠障害、耳鳴り症の傷害を負わせたというのである。以上のような事実関係の下において、被告人の行為が傷害罪の実行行為に当たるとして、同罪の成立を認めた原判断は正当である。
よって、刑訴法414条、386条1項3号、刑法21条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

++解説
《解  説》
1 本件は,住宅街での隣人による騒音について,傷害罪の成否が争われた事件である。事案の概要は決定に要約されているとおりであり,被告人は,自宅から隣家の被害者らに向けて,ラジオの音声や目覚まし時計のアラーム音を,約1年半の間にわたり,連日早朝から深夜・未明まで鳴らし続けるなどして,同人に精神的ストレスを与え,よって,同人に全治不詳の慢性頭痛症等の障害を負わせたとして,傷害罪により起訴された。
1審判決等によると,被告人と被害者は共に主婦であるが,両家の間にはかねてから確執があり,被告人は,嫌がらせのため,隣家に向けてラジオ音等を流し始め,起訴に係る当時は,ラジオを連日朝7~8時から翌午前1~2時まで継続的に大音量で鳴らし,その間や未明に複数の目覚まし音も断続的に鳴らし,家族や警察官の制止も一切きかないという状態であり,隣家でも在宅時間が最も長い被害者に,上記のような症状が生じたものである。その音量の最大値は,地下鉄や電車の車内等の騒音に匹敵すると認定されている。
被告人は,公判で,その行為は暴行の実行行為にも傷害の実行行為にも当たらず,暴行の故意も傷害の故意もないなどと主張したが,1審判決(判時1854号160頁),控訴審判決共に,暴行によらない傷害の実行行為に該当し,その故意もあるとして傷害罪の成立を認め,本決定も,その結論を是認した。
2 本決定は,事例として,無形的方法による傷害罪,すなわち暴行によらない傷害罪の成立を是認したものである。傷害罪は,有形的方法,すなわち「人の身体に対する有形力の行使」である暴行を手段としてなされるのが通例であり,この場合には,暴行について故意があれば,結果的加重犯としての傷害罪が成立する。しかし,傷害罪の実行行為は,条文上「人の身体を傷害」すると規定されているだけで(刑法204条),その手段・方法に制限はなく,無形的方法による傷害も認めるのが判例・通説とされており,現に,最二小判昭27.6.6刑集6巻6号795頁,判タ22号46頁は,「傷害罪は他人の身体の生理的機能を毀損するものである以上,その手段が何であるかを問わない」として,他人に性病を感染させた場合に傷害罪の成立を認めている。この無形的方法による傷害の場合,被告人の行為に傷害の結果発生の現実的危険性がなければ傷害の実行行為とはいえないこと,傷害の結果発生について認識がなければ傷害罪の故意が認められないことは,通常の犯罪の実行行為,故意と同様である。
騒音の場合も,騒音そのものが暴行に当たれば結果的加重犯としての傷害罪が成立し得るが,1審判決は,本件の騒音の程度が被害者の身体に物理的な影響を与えるものとまではいえず,暴行に当たらないとした上で,傷害罪の実行行為は,人の生理的機能を害する現実的危険性があると社会通念上評価される行為であって,そのような生理的機能を害する手段については限定がなく,無形的方法によることも含むとし,被告人の行為は,その期間,時間帯,騒音の程度等に照らすと,被害者に対して精神的ストレスを生じさせ,睡眠障害等の症状を生じさせる現実的危険性のある行為と評価できるから,傷害の実行行為に当たり,その未必的故意もあるとして傷害罪の成立を認め,控訴審判決,本決定もこれを支持している。

3 騒音が暴行と認められた先例として,多数名が室内の被害者の間近で大太鼓等を連打した事例である最二小判昭29.8.20刑集8巻8号1277頁のほか,拡声器を被害者の耳の近くにあてて大声を出し,感音性難聴の傷害を負わせた事例である大阪高判昭59.6.26高検速報昭和59年6号37頁等があり,これらはまさに音波を物理的な空気振動として利用したと見られる場合である。これに対して,通常言われるところの「騒音」は,音としての物理力は弱く,これを暴行と見ることは,暴行の通常の語義から離れ,日常の生活騒音なども暴行に当たりかねない問題があるように思われる(大塚仁ほか編・大コンメンタール刑法(8)251頁〔渡辺咲子〕)。しかし,このような騒音も,過大・不快なもので,長時間反復されるときは,聞く者に精神的ストレスを生じさせ,生理的障害をも引き起こす危険がある行為として,無形的方法による傷害の実行行為に当たり得るものと思われる。ここでの傷害を引き起こす危険性の有無は,音量,音質,時間帯,期間のほか,行為者と被害者の関係や流された経緯等を斟酌して総合的に判断する必要があり,実務上は,上記の危険性を中心とする傷害としての実行行為性のほか,具体的な傷害の結果発生,傷害の故意,因果関係等が争点となり,微妙な認定や判断が要求される場合が多くなるように思われる。本件の1審判決においても,実行行為性の判断に当たって騒音の実測値が詳細に検討され,故意の判断に当たっては,被告人がラジオ等を置いた状況,家族や警察官から受けた警告,被害者との確執等の状況が相当具体的に認定されている。
このような無形的方法による傷害に関する先例は極めて少なく,最高裁判例としては上記最二小判昭27.6.6しかなく,下級審でも,無言電話・嫌がらせ電話等の事例が散見されるほかは(東京地判昭54.8.10判時943号122頁,富山地判平13.4.19判タ1081号291頁,東京地判平16.4.20判時1877号154頁等),被害者宅の周辺を徘徊して怒号するなどの嫌がらせ行為を繰り返して不安及び抑うつ状態に陥れた事例が見られる程度である(名古屋地判平6.1.18判タ858号272頁)。

4 民事事件における騒音問題は,大型の公害・環境訴訟だけでなく,近隣住民間の差止めや損害賠償請求の裁判例も多く,受忍限度論の一場面として議論が深められてきたが,刑事事件としては,基本的に隣人間のトラブルとして警察も介入せず,立件されることも少なかったようである。また,騒音の値に関する公的な規制として,騒音規制法,環境基本法(環境基準,規制基準),風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律,これらを受けた都道府県の条例等に規定があり,本件の1審判決でも,測定された騒音値が規制の基準を超えていたことが認定されているが,これらの公的な基準は,基本的には特定業種の事業者や特定種類の騒音等に向けられた規制や国等の施策目標であり,本件のような近隣騒音等を規制するものではない。そして,騒音に関して端的な処罰規定を設けているものとしては,軽犯罪法1条14号程度しか見当たらない。
しかし,昨今は,本件のほかにも,近隣に対し,長年にわたり騒音を出し続けるという異常な行為に出て傷害で検挙されるなどの報道が相次いでいる。本件も,異常な騒音の内容・態様等に加え,懲役1年の実刑という量刑判断が注目されていた。本件を含め,いずれも,被害者が仮処分や損害賠償請求等に訴えても行為者がやめないなど,民事上の手段による解決が困難なケースであり,刑事事件としての立件も視野に入れざるを得ない事案が現れる時代となっているようである。

5 本件は,このように,社会的にも注目を集めている近隣騒音に関する刑事事件につき,先例の乏しい無形的方法による傷害罪の成立を認めたものであり,これをきっかけとして,今後,暴行や無形的方法による傷害に関し,改めてその意義や成立範囲等が議論されることが期待される。

+判例(S27.6.6)
理由
弁護人堂野達也の上告趣意第一点について
しかし、傷害罪は他人の身体の生理的機能を毀損するものである以上、その手段が何であるかを問はないのであり、本件のごとく暴行によらずに病毒を他人に感染させる場合にも成立するのである。従つて、これと見解を異にする論旨は採用できない(所論引用の判例は暴行を手段とした傷害の案件に関するものであつて、本件には適切でない。)
同第二点について
性病を感染させる懸念あることを認識して本件所為に及び他人に病毒を感染させた以上、当然傷害罪は成立するのであるから論旨は理由なき見解というべく、憲法違反の問題も成立する余地がない。
よつて刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

+判例(S32.4.23)
理由
弁護人今長高雄の上告趣意第一点について。
所論は、原判決の傷害の解釈を非難し大審院判例に違反すると主張する。しかし原判決が、刑法にいわゆる傷害とは、他人の身体に対する暴行によりその生活機能に障がいを与えることであつて、あまねく健康状態を不良に変更した場合を含むものと解し、他人の身体に対する暴行により、その胸部に疼痛を生ぜしめたときは、たとい、外見的に皮下溢血、腫脹又は肋骨骨折等の打撲痕は認められないにしても、前示の趣旨において傷害を負わせたものと認めるのが相当であると判示したのは正当であつて誤りはない。所論引用の各判例は、いずれも前示と同趣旨に帰する判断を示しているものであるから、判例違反というは全く当らない。所論は結局原審の正当にした証拠の取捨判断ないし事実認定を非難するに、判例違反の名をもつてするにすぎず、採用のかぎりでない。
同二点について。
所論は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らないのみならず、第一点について説示したとおり原判決の判断に誤りはない。
同第三点(原本に第二点とあるが誤記と認める)について。
所論は、判例違反をいうが、実質は、量刑不当を主張するにすぎない。そして原審の量刑に不当のかどはない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

+判例(S46.2.2)キスマーク事件
理由
本件控訴の趣意は、弁護人小山隼太および被告人本人提出の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これらを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。
弁護人の控訴趣意第一、二点について
所論は、原判決が被告人において被害者の左乳房部に、いわゆるキスマークと称される、吸引による皮下出血を加えたことをもつて強姦致傷罪にいう傷害と解したことを非難するが、原審証人A、同Bの各供述によれば、本件の二個のいわゆるキスマークは、被害者の左乳房のやや上部にあるものは長さ約二・二センチメートル、幅の一番広いところ約一・二センチメートル、二個の乳房間のやや左よりにあるものは長さ約二・ニセンチメートル、幅の一番広いところ約〇・二センチメートルの楕円形もしくは偏平状の各吸引性皮下出血で、通例のキスマークであれば四日ないし一週間で消退するのに、この場合は一〇日間もかかつたことが認められるのであるから、本件のキスマークは、相当に強度の皮下出血であつたというべきであつて、人体の生活機能に障害を与え、その健康状態を不良に変更したものであることは明らかであり、また被害者本人がこれを自覚せず、一般の日常生活において看過するごとき軽微なものであつたともいえない。従つて原判決が右のキスマークをもつて強姦致傷罪にいう傷害に当たるとしたのは正当であつて、所論は採用することができない。 ((笑))
次に所論は、右キスマークは姦淫行為とは別に独立した行為によつてつけられたものであるから、強姦致傷罪を構成するものではないと主張するが、強姦致傷罪における傷害は、姦淫行為自体または強姦の手段たる暴行脅迫行為によつて生じたものに限らず、強姦行為に随伴する行為によつて発生したものをも含むと解すべきところ、原判決挙示の関係証拠並びに当審における事実取調の結果によれば、被告人は第一回目の姦淫が行なわれてから、暫く時間をおいた後に、被害者に畏怖の状態がつづいている情況のもとで第二回目の姦淫がはじまる直前に、自己の性欲を昂進させるためしいて本件のキスマークをつけたことが認められるから、右の傷害は第二回目の姦淫行為に随伴する行為によつて生じたものというべく、原判決がこれに強姦致傷罪の擬律をしたのは正当である。
従つて論旨は、すべて採用することができない。

+判例(H24.1.30)
弁護人門馬博ほかの上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
  なお,所論に鑑み,職権で判断する。
原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,被告人は,大学病院内において,フルニトラゼパムを含有する睡眠薬の粉末を混入した洋菓子を同病院の休日当直医として勤務していた被害者に提供し,事情を知らない被害者に食させて,被害者に約6時間にわたる意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせ,6日後に,同病院の研究室において,医学研究中であった被害者が机上に置いていた飲みかけの缶入り飲料に上記同様の睡眠薬の粉末及び麻酔薬を混入し,事情を知らない被害者に飲ませて,被害者に約2時間にわたる意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせたものである。
所論は,昏酔強盗や女子の心神を喪失させることを手段とする準強姦において刑法239条や刑法178条2項が予定する程度の昏酔を生じさせたにとどまる場合には強盗致傷罪や強姦致傷罪の成立を認めるべきでないから,その程度の昏酔は刑法204条の傷害にも当たらないと解すべきであり,本件の各結果は傷害に当たらない旨主張する。しかしながら,上記事実関係によれば,被告人は,病院で勤務中ないし研究中であった被害者に対し,睡眠薬等を摂取させたことによって,約6時間又は約2時間にわたり意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせ,もって,被害者の健康状態を不良に変更し,その生活機能の障害を惹起したものであるから,いずれの事件についても傷害罪が成立すると解するのが相当である。所論指摘の昏酔強盗罪等と強盗致傷罪等との関係についての解釈が傷害罪の成否が問題となっている本件の帰すうに影響を及ぼすものではなく,所論のような理由により本件について傷害罪の成立が否定されることはないというべきである。
したがって,本件につき傷害罪の成立を認めた第1審判決を維持した原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

+(昏酔強盗)
第239条
人を昏酔させてその財物を盗取した者は、強盗として論ずる。

+(準強制わいせつ及び準強姦)
第178条
1項 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2項 女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、姦淫した者は、前条の例による。

++解説
調べておく!

+判例(H24.7.24)

 弁護人長谷川紘一,同水野泰孝の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論に鑑み,職権で判断する。
 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,被告人は,本件各被害者を不法に監禁し,その結果,各被害者について,監禁行為やその手段等として加えられた暴行,脅迫により,一時的な精神的苦痛やストレスを感じたという程度にとどまらず,いわゆる再体験症状,回避・精神麻痺症状及び過覚醒症状といった医学的な診断基準において求められている特徴的な精神症状が継続して発現していることなどから精神疾患の一種である外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)の発症が認められたというのである。所論は,PTSDのような精神的障害は,刑法上の傷害の概念に含まれず,したがって,原判決が,各被害者についてPTSDの傷害を負わせたとして監禁致傷罪の成立を認めた第1審判決を是認した点は誤っている旨主張する。しかし,上記認定のような精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害に当たると解するのが相当である。したがって,本件各被害者に対する監禁致傷罪の成立を認めた原判断は正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 
++解説
調べておく!
3.傷害罪と暴行罪
・結果的加重犯の側面もあるため、傷害罪には、暴行の故意があればよいとされる。
+判例(S25.11.9)
弁護人杉本粂太郎の上告趣意第一点について。
しかし、原判決挙示の証拠を綜合すれば原判決の認定を肯認することができる。そして傷害罪は結果犯であるから、その成立には傷害の原因たる暴行についての意思が存すれば足り、特に傷害の意思の存在を必要としないのである。されば、仮りに、所論のように被告人には被害者に傷害を加える目的をもたなかつたとしても、傷害の原因たる判示の暴行についての意思が否定されえない限り、原判決には所論のような理由不備の違法は存しない。論旨は理由がない。
同第二点について。
被害者が打撲傷を負うた直接の原因が過つて鉄棒に躓いて顛倒したことであり、この顛倒したことは被告人が大声で「何をボヤボヤしているのだ」等と悪口を浴せ矢庭に拳大の瓦の破片を同人の方に投げつけ、尚も「殺すぞ」等と怒鳴りながら側にあつた鍬をふりあげて追かける気勢を示したので同人は之に驚いて難を避けようとして夢中で逃げ出し走り続ける中におこつたことであることは判文に示すとおりであるから、所論のように被告人の追ひ掛けた行為と被害者の負傷との間には何等因果関係がないと解すべきではなく、被告人の判示暴行によつて被害者の傷害を生じたものと解するのが相当である。されば、原判決には所論のような法律を誤解して事実を認定した違法は存しない。論旨は理由がない。
よつて旧刑訴四四六条に従ひ裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

・暴行罪と傷害罪は、犯人が暴行の故意又は障害の故意のいずれであっても、客観的に障害の結果を発生させたかで区別。

二.暴行罪と傷害致死罪
1.暴行罪の成立要件
・暴行とは不法な有形力の行使をいうが、暴行罪では、直接に人の身体に向けられた有形力の行使でなければならない(狭義の暴行)!!

・その性質上、当然に障害の結果を引き起こすものである必要はなく、人の身体に対する不法な攻撃方法の一切が含まれる!
+判例(S39.1.28)
理由
弁護人稲本錠之助の上告趣意第一点及び第二点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない(なお、原判決が、判示のような事情のもとに、狭い四畳半の室内で被害者を脅かすために日本刀の抜き身を数回振り廻すが如きは、とりもなおさず同人に対する暴行というべきである旨判断したことは正当である)。同第三点は、事実誤認、量刑不当の主張であつて同四〇五条の上告理由に当らない。
また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

+判例(S25.6.10)
調べておく
←人体に向けられた投石、自動車の幅寄せとか

+暴行の概念
・最広義の暴行=物理的有形力の行使全般をいう(対物暴行を含む。騒乱罪など)

・広義の暴行=およそ人に向けられたもの(間接暴行を含む。公務執行妨害罪など)

・狭義の暴行=直接に人の身体に向けられたもの(暴行罪)

・最狭義の暴行=相手方の反抗を抑圧する程度のもの(強盗罪・強姦罪)

2.傷害致死罪の成立要件
成立要件は、犯人の傷害行為から被害者の死亡結果が生じた事であるが、この加重結果には、暴行・傷害と相当因果関係がなければならない!(判例は条件関係)

+判例(S49.7.5)
要旨
被告人が被害者を地上に突倒し同人の大腿部、腰部等を地下足袋で数回踏付けるなどの暴行を加え、同人に対し左血胸(胸腔内血液貯留)、左大腿打撲症の傷害を負わせたところ、同人の胸腔内貯留液を消滅させるため医師が投与した薬剤の作用により、かねて同人の体内にあった未知の乾酪型の結核性病巣が滲出型に変化し、これが炎症を惹起して左胸膜炎を起こし、これに起因する心機能不全のため同人が死亡した場合において、被告人の暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある


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