会社法 事例で考える会社法 事例10 骨肉の争い


Ⅰ はじめに

Ⅱ 設問1について
+(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条  取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一  取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二  取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三  株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2  民法第百八条 の規定は、前項の承認を受けた同項第二号の取引については、適用しない。

・一般に、利益相反取引に該当するためには、会社と利益の衝突が生じている取締役(利益相反取締役)が会社を代表していることは必要ではない!!

・利益相反取引は原則無効(相対的無効説)
+判例(S43.12.25)
理由
上告代理人山根篤、同下飯坂常世、同海老原元彦、同広田寿徳、同竹内洋の上告理由第一点および第二点について。
商法二六五条は、取締役個人と株式会社との利害相反する場合において、取締役個人の利益を図り、会社に不利益な行為が濫りに行なわれることを防止しようとする法意に外ならないのであるから、同条にいわゆる取引中には、取締役と会社との間に直接成立すべき利益相反の行為のみならず、取締役個人の債務につき、その取締役が会社を代表して、債権者に対し債務引受をなすが如き、取締役個人に利益にして、会社に不利益を及ぼす行為も、取締役の自己のためにする取引として、これに包含されるものと解すべきである(当裁判所第三小法廷判決昭和三八年(オ)第二六一号、同三九年三月二四日裁判集七二号六一九頁の趣旨は、右の限度で、変更されたものというべきである。なお、同小法廷判決昭和三一年(オ)第二五号、同三三年一〇月二一日裁判集三四号三〇三頁は本件に適切でない。)。
そして、取締役が右規定に違反して、取締役会の承認を受けることなく、右の如き行為をなしたときは、本来、その行為は無効と解すべきである。このことは、同条は、取締役会の承認を受けた場合においては、民法一〇八条の規定を適用しない旨規定している反対解釈として、その承認を受けないでした行為は、民法一〇八条違反の場合と同様に、一種の無権代理人の行為として無効となることを予定しているものと解すべきであるからである。
取締役と会社との間に直接成立すべき利益相反する取引にあつては、会社は、当該取締役に対して、取締役会の承認を受けなかつたことを理由として、その行為の無効を主張し得ることは、前述のとおり当然であるが、会社以外の第三者と取締役が会社を代表して自己のためにした取引については、取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要があるから、会社は、その取引について取締役会の承認を受けなかつたことのほか、相手方である第三者が悪意(その旨を知つていること)であることを主張し、立証して始めて、その無効をその相手方である第三者に主張し得るものと解するのが相当である。
本件において、被上告人三栄電機株式会社(以下被上告会社という。)の取締役aが上告人日本ビクター株式会社(以下上告会社という。)に対する自己の債務につき、被上告会社を代表して、その債務の引受をなしたものであり、右引受行為は会社以外の第三者との間で取締役が会社を代表して自己のためにしたものであつて商法二六五条の取引に該当するところ、取締役会の承認を受けなかつたことにつき、相手方である上告会社が悪意であつたことを、被上告会社において主張し、立証をしなければ、右取引の無効を上告会社に主張し得ないものといわなければならない。 
然るに、原判決は、被上告会社がその取締役aの本件債務を引き受けた行為に商法二六五条の適用があるとしながら、取締役会の承認を受けなかつたから、本件債務引受は無効であるとして、たやすく、上告会社の請求の一部を排斥したのは違法であつて、この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の論旨に対する判断をするまでもなく、原判決中上告会社敗訴の部分は破棄を免れない。
そして、本件債務引受は、会社以外の第三者との間で取締役が会社を代表して自己のためにした取引であることは、前叙のとおり明らかなところ、右取引に関し被上告会社の取締役会の承認の決議の不存在について上告会社が悪意であつたことについては、主張・立証がなく、したがつて、被上告会社は、上告会社に対し、その無効を主張しえないのである。それゆえ、本件引受債務の履行を求めている上告会社の本訴請求は、原判決が適法に確定した事実のもとでは、すべて正当であり、これを認容すべきである。
よつて、民訴法四〇八条一号、九六条、八九条に則り、裁判官田中二郎、同大隅健一郎の補足意見および裁判官横田正俊、同草鹿浅之介、同松田二郎、同下村三郎、同色川幸太郎、同松本正雄の意見があるほか、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

+判例(S46.10.13)
理由
上告代理人鈴木七郎の上告理由第一点ないし第三点について。
およそ、約束手形の振出は、単に売買、消費貸借等の実質的取引の決済手段としてのみ行なわれるものではなく、簡易かつ有効な信用授受の手段としても行なわれ、また、約束手形の振出人は、その手形の振出により、原因関係におけるとは別個の新たな債務を負担し、しかも、その債務は、挙証責任の加重、抗弁の切断、不渡処分の危険等を伴うことにより、原因関係上の債務よりもいつそう厳格な支払義務であるから、会社がその取締役に宛てて約束手形を振り出す行為は、原則として、商法二六五条にいわゆる取引にあたり、会社はこれにつき取締役会の承認を受けることを要するものと解するのが相当である。
原審の確定するところによれば、本件(イ)の約束手形は、上告会社がその取締役であるAに宛てて振り出したものであり、同(ロ)の約束手形は、手形上の記載によると、上告会社が右Aを受取人として振り出し、同人が白地裏書をして被上告人がこれを所持していることとなつているが、実際上は、上告会社が受取人欄を白地にして直接被上告人に交付し、被上告人がAをして受取人欄にその氏名を記載し裏書させたものであり、また、同手形は、上告会社がAに宛てて振り出し、同人から被上告人に交付された約束手形の書替手形であるというのである。そして、商法二六五条の適用については、手形上の記載によるべきではなく、現実に行為をした当事者を基準として判断すべきであるから、前記の説示に徴すれば、上告会社による本件(イ)の約束手形および(ロ)約束手形の書替前の約束手形の振出行為はいずれも商法二六五条にいわゆる取引にあたり、上告会社はこれにつき取締役会の承認を受けることを要するが、(ロ)の約束手形自体の振出行為は右にいわゆる取引にあたらないものと解せられる。しかるに、上告会社は(イ)の手形および(ロ)の手形の書替前の手形の振出について取締役会の承認を受けなかつたことは、原審の確定するところである。
ところで、手形が本来不特定多数人の間を転々流通する性質を有するものであることにかんがみれば、取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要があるから、会社がその取締役に宛てて約束手形を振り出した場合においては、会社は、当該取締役に対しては、取締役会の承認を受けなかつたことを理由として、その手形の振出の無効を主張することができるが、いつたんその手形が第三者に裏書譲渡されたときは、その第三者に対しては、その手形の振出につき取締役会の承認を受けなかつたことのほか、当該手形は会社からその取締役に宛てて振り出されたものであり、かつ、その振出につき取締役会の承認がなかつたことについて右の第三者が悪意であつたことを主張し、立証するのでなければ、その振出の無効を主張して手形上の責任を免れえないものと解するのを相当とする(この判旨に反する大審院明治四二年(オ)第二七九号同年一二月二日民事聯合部判決、民録一五輯九二六頁は、これを採らない。)。したがつて、この場合には、手形法一六条二項の適用はなく、その解釈適用につき所論のような論議をなす余地はないのである。
これを本件についてみるに、(イ)の約束手形については、被上告人はAから右手形を取得するに際しその手形の振出につき取締役会の承認がなかつたことを知らなかつたことは、原審の確定するところであるから、上告会社が被上告人に対しその振出の無効を主張して手形上の責任を免れえないことは、右の説示に照らして明らかである。また、(ロ)の約束手形自体の振出については、会社は取締役会の承認を受けることを要しないが、その書替前の約束手形の振出につきこれを必要とすることはさきに述べたとおりであつて、もしこの手形につき、上告会社が、取締役会の承認を受けなかつたことを理由として、被上告人に対しその振出の無効を主張しうるとするならば、ひいてこれを抗弁として、(ロ)の手形についてもその支払を拒むことができることとなるべきところ、原審の確定するところによると、被上告人はAから書替前の手形を取得するに際しその振出につき取締役会の承認がなかつたことを知らなかつたというのであるから、上告会社は書替前の手形について被上告人に対し手形上の義務を負担していたものであり、したがつて、本件(ロ)の手形についても、その支払を拒む理由は存しないものといわなければならない。
以上のとおり、被上告人が上告会社に対し本件手形金の支払を求める本訴請求はいずれも正当である。そして、被上告人の請求を認容すべきものとした原判決は、その理由においては以上説示したところと異なる点もあるが、結論においては正当であり、本件上告は理由がない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条により、裁判官大隅健一郎の補足意見および裁判官岩田誠、同色川幸太郎、同松本正雄、同村上朝一、同関根小郷、同藤林益三、同岡原昌男の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

・一人会社の場合や株主全員の合意がある場合は有効。
+判例(S45.8.20)
理由
上告代理人山崎一雄の上告理由第一点について。
本件土地について上告人Aと被上告会社間に売買契約が成立したものである旨の原審の認定、判断は、その挙示の証拠関係に照らして正当なものとしてこれを肯認することができる。したがつて、原審の右の判断の過程に所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
同第二点について。
原審の確定した事実によれば、本件売買契約は、昭和三三年九月二九日締結されたものであるが、被上告会社は、元来上告人Aの個人営業であつたものを株式会社組織としたものであつて、右売買契約締結当時においては、上告人Aがその株式全部を所有していたものであるが、同会社はその後営業不振となり、そのため、昭和三七年に上告人Aは、当時所有していた同会社の四五パーセントの株式全部を手放して代表取締役を辞任し、全く被上告会社と無関係となり、その後、昭和三八年三月九日被上告会社取締役会は、右売買契約を事後承認のうえ追認したというものである。
原審の確定した右事実関係のもとにおいては、本件売買契約締結当時には、被上告会社は株式会社の形態をとつているとはいえ、その営業は実質上、上告人Aの個人経営のものにすぎないから、被上告会社の利害得失は実質的には上告人Aの利害得失となるものであり、その間に利害相反する関係はない。したがつて、上告人Aがその所有の本件土地を被上告会社に売り渡すことについて、両者の間に実質的に利害相反の関係を生じるものではないというべきである。
ところで、商法二六五条が、会社と取締役との間の同条所定の取引について取締役会の承認を要するものとしている趣旨は、取締役個人と株式会社との利害相反する場合において取締役個人の利益を図り、会社に不利益な行為が行なわれることを防止するにあるのであるから、会社と取締役間に商法二六五条所定の取引がなされた場合でも、前段説示のように、実質的に会社と当該取締役との間に利害相反する関係がないときには、同条所定の取締役会の承認は必要ないものと解するのが相当である。したがつて、被上告会社とその取締役であつた上告人Aとの間になされた本件売買契約は、被上告会社取締役会の承認の有無によつてその効力が左右されるべきものではないから、原審の確定した取締役会の事後承認の効力の有無を争う論旨は、帰するところ原審のした余論に対する攻撃にすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

+判例(S49.9.26)
理由
上告代理人三木善続の上告理由第一点について。
民訴法三八八条は、控訴審が、訴を不適法として却下した第一審判決を取り消す場合には、事件を第一審に差し戻すことを要する旨を定めているところ、原判決は、訴を不適法として却下した第一審判決を是認しているのであるから、本件につき同条の適用はない。また、上告人がいつたん譲り受けた所論の株式を更に他に譲渡したことは、被上告人会社において主張しているのであるから、右事実を認定した原判決に所論の違法はない。それゆえ、論旨は採用することができない。
同第二点について。
一、上告人が、昭和三六年一二月訴外日本毛糸株式会社(以下、単に日本毛糸という。)より被上告人会社の株式九〇〇〇株を譲り受けたが、昭和三七年そのうちの二〇〇〇株を、同三九年八月残りの七〇〇〇株を、いずれもAに譲渡したとの原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができる。それゆえ、右事実の認定を非難する所論は、採用することができない。
二、ところで、原審の適法に確定したところによると、上告人は日本毛糸より株式を譲り受けた際同社の取締役であつたが、右譲受については商法二六五条所定の取締役会の承認はなかつたというのであり、また、被上告人会社が株券を発行していないため、日本毛糸から上告人へ及び上告人からAへの各株式の譲渡は、いずれも商法二〇四条二項にいう株券発行前の譲渡にあたるというのであつて、このような観点から右各譲渡の効力が問題となるので判断する。
1 原判決は、日本毛糸及び被上告人会社は、いずれも形式的には株式会社であるが、その実質は民法上の組合であるから、右株式譲渡には商法二六五条、二〇四条二項の適用はない旨判示する。
すなわち、原審は、日本毛糸は、Aが個人として営んでいた毛糸、洋服、雑貨等の販売業をその弟等同族四名の参加を得て会社組織にし、右五名において、その資産、株式を所有し、共同して経営しているものであり、また被上告人会社は、右五名が、日本毛糸の簿外資産の分散、保全、増殖のため、右資産をもつて設立したものであり、第三者も株主となつてはいるが、それは単なる名義人にすぎず、実質は、右五名において株式、資産を所有し、共同経営しているものであると認め、右のような会社設立の経緯、会社の資産、株式の所有関係及び経営の実体等によると、日本毛糸及び被上告人会社は、いずれも実質においては右五者の共同事業であつて、民法上の組合に外ならないと判断しているのである。
思うに、法律上会社はすべて法人とされているところ、その法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するため濫用される場合のように、法人格を認めることがその本来の目的に照らして許されるべきでないときには法人格を否認することのできることは、当裁判所の判例(昭和四三年(オ)第八七七号、同四四年二月二七日第一小法廷判決民集二三巻二号五一一頁)とするところであるが、右法理の適用は慎重にされるべきであつて、原審認定の会社の設立の経緯、株式、資産の所有関係、経営の実体等前記事実によつて直ちに前記各会社の法人格を否認し、これを民法上の組合であるとした原審の判断は、にわかに首肯することはできない。 
2 しかしながら、商法二六五条が取締役と会社との取引につき取締役会の承認を要する旨を定めている趣旨は、取締役がその地位を利用して会社と取引をし、自己又は第三者の利益をはかり、会社ひいて株主に不測の損害を蒙らせることを防止することにあると解されるところ、原審の適法に確定したところによると、日本毛糸から上告人への株式の譲渡は、日本毛糸の実質上の株主の全員であるAら前記五名の合意によつてなされたものというのであるから、このように株主全員の合意がある以上、別に取締役会の承認を要しないことは、上述のように会社の利益保護を目的とする商法二六五条の立法趣旨に照らし当然であつて、右譲渡の効力を否定することは許されないものといわなければならない
3 また、被上告人会社の株券は未発行であるから、前記各株式の譲渡は商法二〇四条二項にいう株券発行前の譲渡にあたるが、原審認定の事実関係のもとにおいては、同社は不当に株券の発行を遅滞しているものと認められるから、株券発行前であることを理由に株式譲渡の効力を否定することは許されないものというべきである(最高裁昭和三九年(オ)第八八三号、同四七年一一月八日大法廷判決民集二六巻九号一四八九頁参照)。
4 以上によると、日本毛糸及び被上告人会社を民法上の組合とした原審の判断は是認することができないが、本件各株式の譲渡を有効とし、これにより上告人が被上告人会社の株主たる地位を喪失したものと認め同人には本訴の原告適格がなく、本訴は不適法であるとした原判決の結論は正当である。それゆえ、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岸盛一 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康夫)

・利益相反取引の株式の引き受けにかかわる契約であった点について。
+(引受けの無効又は取消しの制限)
第二百十一条  民法第九十三条 ただし書及び第九十四条第一項 の規定は、募集株式の引受けの申込み及び割当て並びに第二百五条第一項の契約に係る意思表示については、適用しない
2  募集株式の引受人は、第二百九条第一項の規定により株主となった日から一年を経過した後又はその株式について権利を行使した後は、錯誤を理由として募集株式の引受けの無効を主張し、又は詐欺若しくは強迫を理由として募集株式の引受けの取消しをすることができない。

→相手方が悪意であったとしても引受けの無効の主張を認めない趣旨。
←211条1項類推。(利益相反取引についても、取締役会の承認がないことは内部事情であるから)

Ⅲ 設問2について
・「自己または第三者のために」
名義説=名において=自己が法的な意味において当事者となる
計算説=計算において=事故が実質的に当該取引による経済的利益を享受する

利益相反取引においては名義説。
←名義説によっては直接取引には含まれないが実質的には会社と取締役の利益が衝突する取引は間接取引として処理すれば足りる。

・上記法的公正の相違は損害賠償責任に関する判断に微妙な違いをもたらす。

Ⅳ 設問3について

+(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条  取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一  取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき
二  取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三  株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2  民法第百八条 の規定は、前項の承認を受けた同項第二号の取引については、適用しない。

・「会社の事業の部類に属する取引」
=会社の実際に行う事業と市場において競合し、会社と取締役との間に利益の衝突と来す可能性のある取引。

・「自己または第三者のために」
計算説

・損害について
+(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条  取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2  取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する
3  第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一  第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二  株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三  当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
4  前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。

+判例(名古屋高判H20.4.17)
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、一審原告の請求は、主位的請求についてはいずれも理由がなく、予備的請求については競業避止義務違反による損害賠償として、一審被告らに対し連帯して1953万円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がないと判断する。その理由は、次の2ないし6のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の「1」及び「2」記載のとおりであるからこれを引用する。
ただし、原判決書25頁11行目の「契約書に」を「平成17年から解約案内に」と改め、同34頁5行目冒頭から同36頁12行目末尾までを削る。

2 一審被告一郎の競業避止義務違反の有無
(1) 一審被告らは、一審被告一郎は同コンボ開発の事実上の主宰者ではないから競業避止義務違反はない旨主張する。
しかし、〈1〉一審被告一郎は、一審被告コンボ開発の出資持分を有していないが、一審被告コンボ開発の運転資金の多くは一審被告一郎からの借入に依っていること、〈2〉コンテナの敷地となる土地の賃貸借について一審被告一郎が連帯保証人となっていること、〈3〉一審被告一郎は一審原告で貸コンテナ事業を担当していたところ、一審被告コンボ開発においては、貸コンテナ事業で重要な土地の賃貸借契約を一審被告一郎が担当し、土地の貸主の紹介、貸コンテナの設置作業、仲介及び集金等については一審原告が利用してきたのと同一の業者を利用していること、〈4〉一審被告コンボ開発の事務所は一審被告一郎の自宅であり、これは一審被告一郎の取締役在任中の一審原告及び高木産業の貸コンテナ事業の事務所と同一であることなどからすれば、一審被告コンボ開発においては、資金調達、信用及び営業について一審被告一郎が中心的役割を果たしているといえる。これに一審被告コンボ開発に出資し業務に従事しているのが一審被告一郎の家族であることからすれば、一審被告一郎は一審被告コンボ開発を事実上主宰して、一審被告コンボ開発において貸コンテナの利用に係る賃貸借契約をして、競業避止義務に違反したというべきである。
(2) なお、一審被告らは、貸コンテナの利用に係る賃貸借契約書に連絡先として一審被告一郎の自宅の住所及び電話番号等が記載された事実はなく、一審被告コンボ開発の連絡先として解約案内に一審被告一郎の住所及び電話番号が記載されるようになったのは平成17年ころからであるから、一審被告一郎が事実上の主宰者とはいえない旨主張し、証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば、上記平成17年以降の解約案内の記載が認められる。しかし、〈1〉平成17年以降、解約案内に一審被告一郎の自宅の住所及び電話番号が記載され、〈2〉貸コンテナ事務所によっては連絡先として一審被告一郎の自宅の電話番号が記載されているところもあること(乙64、76、弁論の全趣旨)からすれば、貸コンテナ事業に関し一審被告一郎の自宅が連絡先となり得ること自体が、同所が一審被告コンボ開発の事務所としての機能を果たしていること、ひいては一審被告一郎が一審被告コンボ開発の事実上の主宰者であることを裏付けるひとつの事実といえ、解約案内に連絡先が記載された時期如何によって前記(1)の認定が左右されるものではない。

3 一審原告の取締役会における承認の有無、信義則違反
(1) 一審被告らは、一審原告においては平成16年までは取締役会が開催されたことはないが、これに代わるものが、一審被告一郎、二郎及び三郎の話合い(平成12年以降は一審被告一郎及び三郎の話合い)であったところ、一審被告コンボ開発の設立、貸コンテナ事業については、二郎及び三郎(あるいは三郎のみ)は了解していた旨主張する。
しかし、一部の取締役が集まって協議をして合意したとしても、これをもって取締役会の事前事後の承認があったとはいえない。
また、兄弟の話合いをもって信義則上取締役会の承諾があったと実質的に同視できる場合が有り得るとしても、〈1〉一審原告及びその関連会社の株式が一審被告一郎、二郎及び三郎とその家族によって概ね3等分して保有されているのとは異なり、一審被告コンボ開発の出資持分は一審被告一郎の家族のみによって保有されており、利益の帰属先が異なっていることから、営業地域を全く異にするのでなければ、一審被告コンボ開発の貸コンテナ事業を許容すべき理由は二郎及び三郎にはないこと、〈2〉二郎及び三郎は、貸コンテナ事業については一審被告一郎に委ねており、また、貸コンテナ事業に関する事務は一審被告一郎の自宅を事務所として遂行されていたことから、その具体的内容を把握していなかったこと、〈3〉平成16年1月に一審被告一郎から代表取締役退任に際し一審原告及び高木産業の貸コンテナ事業を譲り受けたい旨の申出があり、これを巡って一審被告一郎、二郎及び三郎が話し合った際にも、一審被告コンボ開発又はその貸コンテナ事業については全く話題になっていないことからすれば、経理関係の各種帳票及び決算書等の記載にもかかわらず、二郎及び三郎は、平成16年10月ころまで、一審被告コンボ開発が貸コンテナ事業を営んでいることを知らなかったものと認められ、少なくともこれについて重要事項が示されたことはないのであるから、一審被告一郎が競業取引をすることを承諾したと認めるに足りる証拠はない。
(2) 一審被告らは、三郎は平成14年には一審原告の経理を把握しており、一審原告の経理関係の帳票や高木産業の決算書等を見ることにより、一審被告コンボ開発の存在を知っていた旨主張する。しかし、三郎は、一審原告及びその関連企業の布団の製造及び小売りの業務を担当しており、これに関連する経理については把握していたが、貸コンテナ事業には全く関与しておらず、同事業の事務は一審被告一郎の自宅にある事務所で行われていたこと、一審原告及び関連会社の代表取締役は一審被告一郎であったことなどからすれば(<証拠略>)、三郎が貸コンテナ事業、一審被告コンボ開発の存在について知らなかったとしても不自然ではなく、一審被告らの上記主張は採用できない。

4 損害及びその算定について
(1) 第一次主張について
ア 一審原告は、一審被告コンボ開発が第1期から第4期までの期間において利益を得ていたと主張するが、一審被告の上記期間において利益を得ていたと認めるに足りる証拠はない。なお、一審被告コンボ開発の決算に一審原告指摘の偽装や誤りがあるとはいえない。そして、このことは、後記貸コンテナ事業所の収支の分析結果によって左右されるものではない。
イ 一審原告は、今後20年間で一審被告コンボ開発が得られる将来の利益も、競業取引と因果関係があり、一審原告の損害と推定すべきである旨主張する。
しかし、貸コンテナ事業における「営業ノ部類ニ属スル取引」は貸コンテナの利用に係る賃貸借であるから、これと相当因果関係のある一審被告コンボ開発の利益が一審原告の損害と推定されることになる。そして、貸コンテナ事業は安定した収入が得られるとしても、一審原告の貸コンテナの利用に係る賃貸借契約の期間は1年であり、利用者は1か月前に通知すればいつでも契約を解約することができ、コンテナの耐用年数まで同一のコンテナの利用に係る賃貸借が続くわけではないこと、実際利用されなくなった貸コンテナ事業所もあることから、一審被告コンボ開発の貸コンテナ事業による20年間にもわたる将来の利益が一審被告一郎の取締役在任中の競業取引によって得ることのできる利益ということはできない。
また、貸コンテナ事業をするためには貸コンテナを設置する土地を借りることが必要であり、一審原告においては、当初の賃貸借期間を5年とし、その後も1年ごとに自動更新する旨の賃貸借契約をしているが、上記契約は、貸コンテナ事業の維持・便益のために行われる取引であるから、補助的行為であって、「営業ノ部類ニ属スル取引」とはいえない。また、建物所有目的の賃貸借とは異なりコンテナの敷地の貸主は容易に土地の返還を求めることができるから、20年間にもわたる利益が確保されているわけでもない。
ウ さらに、一審原告は、別件訴訟(名古屋地方裁判所平成16年(ワ)第2996号、3232号、名古屋高等裁判所平成18年(ネ)第70号)において認定された損害額と同様の算定方法による利益が、本件においても認められるべきである旨主張する。しかし、別件訴訟における損害は、一審原告が所有していた貸コンテナの占有を失ったことによる逸失利益相当額の損害であり、本件における一審被告コンボ開発が費用を投じて取得したコンテナに係る利益から推定される損害とは、考慮すべき経費を異にしている上、別件訴訟においてはコンテナを返還すればその後の支払義務を免れることができるのであるから、本件で同様の算定方法によらなければならない理由はない。
エ 一審原告は、アイメンが愛知県知多市内で平成18年12月ころ開設した貸コンテナ事業所の収支の分析結果(甲52)に基づき、貸コンテナ事業は安定した収入が得られる旨、これを基にDFC法による将来の利益の推定は正当なものである旨主張する。しかし、取締役在任中の競業取引と相当因果関係がある利益は何かという問題と貸コンテナ事業の収益可能性とは別問題である。また、DFC法についても、〈1〉利用されなくなった貸コンテナ事業所もあること、〈2〉一審原告の貸コンテナ事業の売上げは、平成11年から平成13年の間は月額900万円以上あったが、平成15年からは月額900万円を下回るようになっていることから(甲54)、貸コンテナ事業は競業する業者が出現し稼働率が低下する傾向が窺われること、〈3〉貸コンテナを設置する土地の賃貸借関係が20年間継続する保証がないことからすれば、貸コンテナ事業は必ずしも継続的に安定した収入が得られるわけではなく、長期間にわたる一審被告コンボ開発の利益をDFC法によって推計することには疑義がある。なお、上記分析結果(甲52)は、〈1〉分析対象とした貸コンテナ事業所を選択した根拠が明らかではなく、〈2〉分析において経費として人件費、借入利息及び販売管理費等を除外しており、〈3〉一審被告コンボ開発へのあてはめにおいて人件費(役員報酬を除く。)の売上高に対する標準的経費の指数を6%として考慮しているが、貸コンテナ業に倉庫業(トランクルームを含む。)の指数ではなく不動産賃貸業の指数である6%を適用することの妥当性には疑義があること、販売管理費等が考慮されていないこと、〈4〉稼働率や土地の賃貸借契約の継続可能性等の事業の継続可能性についても考慮されていないことからして、これをもって貸コンテナ事業は安定した収入が得られる、あるいは一審被告コンボ開発において第2期から第4期において利益があったと推定するのは相当ではない。
(2) 第二次主張について
ア 一審被告一郎が競業避止義務違反によって得た利益は、役員報酬又は給与手当が役務の対価又は労務の対価であり、一審被告コンボ開発において一審被告一郎が資金調達、信用及び営業について中心的役割を果たしていることに鑑みれば、原判決別紙6一審被告一郎ら利得一覧表の番号6「給与手当」欄記載の一審被告及びその家族の報酬(乙39の1ないし4)の合計額の5割とするのが相当である。なお、上記報酬額には、一審原告からのコンテナの譲渡が無効とされた分21か所及び取締役退任後に開設された分2か所に対応する役務の提供に係る報酬も含まれているので、結局、競業避止義務違反により一審被告一郎の得た利益は、全報酬額から上記部分を除いたものの概ね5割である1953万円とするのが相当である(〔第1期・〈20万円×2+30万円〉+第2期〈240万円×2+360万円〉×10/24+第3期〈600万円×5+240万円〉×29/49+第4期〈216万円+120万円+650万円+630万円+600万円×2〉×29/52〕×0.5。弁論の全趣旨)。したがって、旧商法266条4項により、一審被告一郎が、競業取引をすることによって一審原告が被った損害額は1953万円となる。
なお、一審被告一郎の実質的な報酬額を算定するに際しては、実際の役務の負担状況に応じて算定するのが合理的であり、また、家族であれば、同居の有無や実際の役務の負担状況とは無関係に所得税等の税金が有利になるように配慮して報酬を決めることもあり得ることからすれば、実質的な報酬額を判断するに際し同居の有無を考慮するのは相当とはいえない。
また、一審被告一郎が一審原告の取締役を退任したのは平成16年4月28日であるが、コンテナの利用に係る賃貸借契約の賃貸期間は1年であるから、競業取引と相当因果関係のある利益は、一審被告コンボ開発の第4期までの報酬額とするのが相当である。
イ 一審被告らは、一審被告一郎以外の家族は、一審被告コンボ開発において、それぞれ役務を負担しているので、これに対する報酬が一審被告一郎の利益となることはない旨主張する。しかし、上記のとおりであって、家族が報酬を得る理由があることと、それがどの程度の金額であるべきかは別問題であるから、上記一審被告らの主張は採用できない。

5 一審被告一郎の不法行為責任の有無
(1) 一審原告は、企業経営における営業秘密、技術ノウハウの重要性から、取締役は在任中はもちろん、退職後であっても一定範囲で忠実義務を負うべきであり、一審被告一郎は、一審原告の利益のために貸コンテナ事業を行うべきであるのに、法に抵触することを知りながら、一審被告コンボ開発をして貸コンテナ事業を行わせ、一審原告及び高木産業の貸コンテナ事業の営業譲渡をして、一審原告及び高木産業の貸コンテナ事業を壊滅させ、一審原告が「利益を得る機会を奪った」のであるから、不法行為責任がある旨主張する。
しかし、民法709条には旧商法266条4項のような損害推定規定がないことから、一審原告において、一審被告一郎の取締役在任中に名古屋市及びその周辺において新たな貸コンテナ事業所を開設することが相当の確実性をもって見込まれる状態にあり、これによって一審原告が得るはずであった利益がいくらであったかについて立証がされるべきところ、これらについての立証が尽くされているとはいえない。したがって、一審被告一郎の不法行為責任の有無を判断するまでもなく、一審被告一郎に対し、不法行為による損害賠償として1953万円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を超えて請求する部分は理由がない(不法行為による損害賠償のその余の請求部分は、選択的に請求している競業避止義務違反による損害賠償請求が一部認容されたことにより、審理の必要がなくなった。)。
(2) 一審原告は、初期投資をした段階で、将来の利益をすべて奪われたとも主張する。しかし、初期投資が、一審原告の関連会社であるアイメンが農協から3億円ないし4億円の借入れをしてこれを農協に貯金していたこと(乙1)を意味するとしても、一次的には農協の組合員に布団等を販売しているアイメン自体の販売促進活動の一環としてされたものであり、二次的に農協から土地を貸す組合員を紹介してもらう効果もあったと見るべきであるから、貸コンテナ事業のための初期投資とはいえない。また、一審被告コンボ開発の運転資金は一審被告一郎及びその家族が提供しており、一審原告が一審被告コンボ開発が貸コンテナの利用に係る賃貸借契約をするために何らかの経済的負担をしたとは認められない。したがって、一審原告の上記主張も理由がない。
6 一審被告コンボ開発の責任
一審被告コンボ開発は、一審被告一郎とは別個の法人格を有している。しかし、一審被告一郎は一審被告コンボ開発を事実上主宰していること、一審被告コンボ開発をして貸コンテナに係る賃貸借契約をさせることにより一審被告一郎に競業避止義務違反による責任が生じることを潜脱しようとしたこと、上記賃貸借契約による利益は一審被告コンボ開発に帰属することからすれば、本件においては、一審被告一郎と一審被告コンボ開発の法人格が異なることを否定して、一審被告コンボ開発にも一審被告一郎と同じ限度で競業避止義務による損害賠償責任を負担させるのが相当である。
第4 結論
よって、原判決は一部相当ではないから、一審原告の控訴に基づき一審原告の敗訴部分を変更し、一審被告一郎の控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項、61条、64条本文、65条1項を、仮執行宣言につき同法310条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
民事第4部
(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 戸田彰子 裁判官 加島滋人)

Ⅴ おわりに


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