会社法 事例で考える会社法 事例1 苦しい台所事情


Ⅰ はじめに
+(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第四百二十九条  役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う
2  次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一  取締役及び執行役 次に掲げる行為
イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録
ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)
二  会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
三  監査役、監査等委員及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
四  会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

・両損害包含説
+判例(S44.11.26)
理由
上告代理人岡本治太郎名義の上告理由一および三について。
商法は、株式会社の取締役の第三者に対する責任に関する規定として二六六条ノ三を置き、同条一項前段において、取締役がその職務を行なうについて悪意または重大な過失があつたときは、その取締役は第三者に対してもまた連帯して損害賠償の責に任ずる旨を定めている。もともと、会社と取締役とは委任の関係に立ち、取締役は、会社に対して受任者として善良な管理者の注意義務を負い(商法二五四条三項、民法六四四条)、また、忠実義務を負う(商法二五四条ノ二)ものとされているのであるから、取締役は、自己の任務を遂行するに当たり、会社との関係で右義務を遵守しなければならないことはいうまでもないことであるが、第三者との間ではかような関係にあるのではなく、取締役は、右義務に違反して第三者に損害を被らせたとしても、当然に損害賠償の義務を負うものではない
しかし、法は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しかも株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを考慮して、第三者保護の立場から、取締役において悪意または重大な過失により右義務に違反し、これによつて第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社がこれによつて損害を被つた結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損害を被つた場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に対し損害賠償の責に任ずべきことを規定したのである。
このことは、現行法が、取締役において法令または定款に違反する行為をしたときは第三者に対し損害賠償の責に任ずる旨定めていた旧規定(昭和二五年法律第十六七号による改正前の商法二六六条二項)を改め、右取締役の責任の客観的要件については、会社に対する義務違反があれば足りるものとしてこれを拡張し、主観的要件については、重過失を要するものとするに至つた立法の沿革に徴して明らかであるばかりでなく、発起人の責任に関する商法一九三条および合名会社の清算人の責任に関する同法一三四条ノ二の諸規定と対比しても十分に首肯することができる。
したがつて、以上のことは、取締役がその職務を行なうにつき故意または過失により直接第三者に損害を加えた場合に、一般不法行為の規定によつて、その損害を賠償する義務を負うことを妨げるものではないが、取締役の任務懈怠により損害を受けた第三者としては、その任務懈怠につき取締役の悪意または重大な過失を主張し立証しさえすれば、自己に対する加害につき故意または過失のあることを主張し立証するまでもなく、商法二六六条ノ三の規定により、取締役に対し損害の賠償を求めることができるわけであり、また、同条の規定に基づいて第三者が取締役に対し損害の賠償を求めることができるのは、取締役の第三者への加害に対する故意または過失を前提として会社自体が民法四四条の規定によつて第三者に対し損害の賠償義務を負う場合に限る必要もないわけである。
つぎに、株式会社の代表取締役は、自己のほかに、他の代表取締役が置かれている場合、他の代表取締役は定款および取締役会の決議に基づいて、また、専決事項についてはその意思決定に基づいて、業務の執行に当たるのであつて、定款に別段の定めがないかぎり、自己と他の代表取締役との間に直接指揮監督の関係はない。しかし、もともと、代表取締役は、対外的に会社を代表し、対内的に業務全般の執行を担当する職務権限を有する機関であるから、善良な管理者の注意をもつて会社のため忠実にその職務を執行し、ひろく会社業務の全般にわたつて意を用いるべき義務を負うものであることはいうまでもない。したがつて、少なくとも、代表取締役が、他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりとし、その業務執行に何等意を用いることなく、ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には、自らもまた悪意または重大な過失により任務を怠つたものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、原審は、
一、訴外aは、訴外菊水工業株式会社の資産状態が相当悪化しており約束手形を振り出しても満期に支払うことができないことを容易に予見することができたにもかかわらず、代表取締役としての注意義務を著しく怠つたため、その支払の可能なことを軽信し、代金支払の方法として右訴外会社代表者としての上告人名義の本件七二万円の約束手形を振り出した上、被上告人をして本件鋼材一六トンを引き渡させ、右約束手形が支払不能となつた結果、被上告人に右金額に相当する損害を被らせたこと
二、右訴外会社の代表取締役である上告人は他の代表取締役であるaの職務執行上の重過失または不正行為を未然に防止すべき義務があるにもかかわらず、著しくこれを怠り、訴外会社の業務一切をaに任せきりとし、自己の不知の間に同人をして支払不能になるような前示訴外会社代表者上告人名義の本件約束手形を振り出して本件取引をさせ、上告人の代表取締役としての任務の遂行について重大な過失があつたことにより、被上告人に前記損害を被らせるに至つたものであること
を認定し、商法二六六条ノ三第一項前段の規定に基づいて、上告人に損害賠償の責任があるとしているのである。原審の右判断は、さきに説示したところに徴すれば、正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同二および四について。
原判決の認定によれば、前記のように、上告人が右訴外会社の代表取締役に就任中重大な過失による任務懈怠により被上告人に損害を被らせたというのであるから上告人には右損害を賠償すべき義務があるものというべく、その後、上告人が所論のように取締役を辞任したとしても、右義務に影響を及ぼさないものというべきである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採ることができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官田中二郎、同松田二郎、同岩田誠、同松本正雄の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

Ⅱ 事後の債権者保護としての会社法429条1項

Ⅲ 両損害包含説の意味(Aの責任について)
1.代金支払いの見込みのない取引・放漫経営

2.直接損害・間接損害
(1)教科書の説明
直接損害=会社が損害を受けたか否かを問わず、取締役の行為によって第三者が直接被った損害
間接損害=第1次的に会社に損害が生じ、その結果第2次的に第三者が被った損害

(2)もし会社法429条1項がなかったら

(3)直接責任限定説・間接損害限定説・両損害包含説

3.代金の支払見込みのない取引と任務懈怠

4.経営悪化時における取締役の注意義務

Ⅳ 監視義務違反に基づく会社法429条1項の責任
1.監視義務の内容
・間接損害構成の場合
=その時期における取締役の業務執行全般が審査の対象になる。
←これに対する監視
・直接損害構成の場合
=業務執行の中の一取引のみを取り出して、その際の取締役の悪意・重過失が問われる
←これに対する監視

2.名目上の取締役
・監視義務
+判例(S48.5.22)
理由
上告代理人逢坂修造の上告理由第一、二点について。
株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行なわれるようにする職務を有するものと解すべきである。
そして、原審の確定した事実関係のもとにおいて、上告人らに右職務を行なうにつき重大な過失があり、そのため被上告人らに本件損害を生じたとする原審の認定・判断は正当として肯認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄)

+判例(S55.3.18)
理由
上告代理人木戸徹夫の上告理由Aの一について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同Aの二について
原審が確定した事実の要旨は、被上告人岸武は、村田満津次(第一審被告)が代表取締役を勤めていた訴外淀川ラセン株式会社(以下「訴外会社」という。)の取引先である宇野工業株式会社の代表取締役であつたが、村田の要請によつて、訴外会社が新株一万株(一株五〇〇円)を発行した際(これによりその資本の額は一〇〇〇万円となる。)、そのうち四〇〇〇株(二〇〇万円)を引き受けるとともに、訴外会社の取締役に就任したものの、右就任は、同被上告人において訴外会社に常勤せずその経営内容にも深く関与しないことを前提とするいわゆる社外重役として名目的にしたものであり、実際にも同被上告人は訴外会社に一度も出社したことがなく、その業務の執行は村田の独断専行に任せこれにつき何ら監視することもなく、村田に対し取締役会を招集することを求めたり、自らそれを招集したりしたこともなかつたところ、その間、村田は、代金支払の見込みもないのに訴外会社を代表して上告会社から液体アルゴン等を買い受け、その代金を支払うことができなかつたため、上告会社に損害を与えた、というのである。
ところで、株式会社の取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事項についてのみならず、代表取締役の業務執行の全般についてこれを監視し、必要があれば代表取締役に対し取締役会を招集することを求め、又は自らそれを招集し、取締役会を通じて業務の執行が適正に行われるようにするべき職責を有するものである(最高裁昭和四六年(オ)第六七三号同四八年五月二二日第三小法廷判決・民集二七巻五号六五五頁)が、このことは、前記被上告人岸武につき原審が認定したような会社の内部的事情ないし経緯によつていわゆる社外重役として名目的に就任した取締役についても同様であると解するのが相当である。そうすると、前記のように同被上告人が取締役として訴外会社の業務執行を監視するにつき何らなすところがなかつたことはその職責を尽くさなかつたものといわなければならないから、これと見解を異にし、同被上告人には村田の業務の執行につきこれを監視する義務はないとしたものと解される原判決は、法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨はこの点において理由がある。もつとも原判決は、村田が被上告人菅以外の者の要求によつて取締役会を招集したことがないことや取締役会が開かれた際にも村田に出席取締役の意見を尊重する態度が全く見られなかつたとの認定事実に基づいて、被上告人岸武において村田が前記のような上告会社からの買入れをすることを事前に阻止すべきであるといつてもそれはいうべくして実際上は不可能であつたから、同被上告人は上告人の被つた前記損害につき責任を負わないことをも付加して判示するのであるが、前記のように、同被上告人が訴外会社の取引先の会社の代表者であり、村田の要請によつて、訴外会社の資本の五分の一に当たる株式を保有する株主となり、かつ、その取締役に就任した事情・経緯にかんがみると、同被上告人の村田に対する影響力は少なくなかつたものと考えられるから、右のような事実があつたからといつて直ちに同被上告人が前記職責を尽くすことが不可能であつたとすることは、たやすく肯認しがたいところといわなければならない。そうすると、結局、原判決中上告会社の同被上告人に対する請求を排斥した部分は破棄を免れず、本件は、以上の点について更に審理を尽くさせるのを相当とするから、右部分につきこれを原審に差し戻すこととする。
同Bについて
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(環昌一 江里口清雄 横井大三 伊藤正己)

・悪意重過失がない、相当因果関係がないことを理由に責任を否定する例もある!!

Ⅴ 直接損害と監視義務


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