不法行為法 2 権利侵害

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1.条文の文言の確認
+(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

・16年改正により「法律上保護される利益」が加わった。

2.「権利侵害」要件策定へのインセンティブ~不法行為責任成立場面の限定~
・権利侵害要件を置くことにより、不法行為責任の成立する場面を限定しようとした

+昔の判例 雲右衛門事件
「即興的・瞬間的創作にすぎず、定型的旋律を成さない浪曲に著作権は認められない」

3.判例の転回~法律上保護された利益への拡大(大学湯事件)~
・具体的権利と同一程度の厳密な意味においてはいまだ権利といえないものであっても、「法律上保護セラルル一ノ利益」であればよい
侵害の対象を「得べかりし利益」とみている。

4.権利侵害から違法性へ~違法性徴表説の登場~
故意または過失ある「違法行為」により被った損害の賠償にこそ不法行為責任の本質がある
→不法行為の客観的要件の中核に「違法性」を据え、権利侵害は違法性の1つの徴表に過ぎない。

5.権利侵害から違法性へ~相関関係論~
「違法性」の有無は、被侵害利益の種類と侵害行為の態様との相関関係によって決まる

6.「違法性」評価基準の修正論~受忍限度論~
主として公害のケースで。
考慮要素
①被侵害利益の性質及び程度
②地域性
③被害者があらかじめ有した知識
④土地利用の先後関係
⑤最善の実際的方法または相当な防止措置
⑥その他の社会的価値および必要性
⑦被害者側の特殊事情
⑧官庁の許認可
⑨法令で定められた基準の順守

・新受忍限度論
上記の諸事情を「違法性」ではなく、「過失」の衡量事情としてとらえる。

7.「違法性」要件不用論~権利侵害要件と故意過失要件による処理~
・「権利侵害」を「法的保護に値する利益」の侵害へと拡張するだけのことであれば、「法的保護に値する利益」をもって709条にいう「権利」だといえばよいのであって、わざわざ違法性などという要件を立てる必要はない。

・被侵害利益面と侵害行為の態様面の衡量は、「故意または過失」という帰責事由の要件の中で行うのが相当。

8.「権利」論の再生~権利侵害要件の再評価~
法秩序によって保障された他人の権利を侵害する行為に対し救済を与えるのが不法行為法の目的であることを再確認し、この不法行為法での権利保護を、憲法を基点とする権利保護秩序の中に位置づけるべき。
憲法により保護された個人の権利が何かを考え、それを基点として、709条にいう「権利」としての要保護性を決定していくべき。

9.平成16年改正後の条文文言
「権利又は法律上保護される利益」と書くことで、どの学説にも文言面で障害となることの内容にした。

・夫婦の一方の不貞行為の相手方に対する他方配偶者の損害賠償請求

+判例(S54.3.30)
理由
 上告代理人信部高雄、同大崎勲の上告理由中上告人Aに関する部分について
 原審は、(1) 上告人Aと訴外Eとは昭和二三年七月二〇日婚姻の届出をした夫婦であり、両名の間に同年八月一五日に上告人Bが、昭和三三年九月一三日に同Cが、昭和三九年四月二日にDが出生した、(2)Eは昭和三二年銀座のアルバイトサロンにホステスとして勤めていた被上告人と知り合い、やがて両名は互に好意を持つようになり、被上告人はEに妻子のあることを知りながら、Eと肉体関係を結び、昭和三五年一一月二一日一女を出産した、(3) Eと被上告人との関係は昭和三九年二月ごろ上告人Aの知るところとなり、同上告人がEの不貞を責めたことから、既に妻に対する愛情を失いかけていたEは同年九月妻子のもとを去り、一時鳥取県下で暮していたが、昭和四二年から東京で被上告人と同棲するようになり、その状態が現在まで続いている、(4) 被上告人は昭和三九年銀座でバーを開業し、Eとの子を養育しているが、Eと同棲する前後を通じてEに金員を貢がせたこともなく、生活費を貰つたこともない、ことを認定したうえ、Eと被上告人との関係は相互の対等な自然の愛情に基づいて生じたものであり、被上告人がEとの肉体関係、同棲等を強いたものでもないのであるから、両名の関係での被上告人の行為はEの妻である上告人Aに対して違法性を帯びるものではないとして、同上告人の被上告人に対する不法行為に基づく損害賠償の請求を棄却した。しかし、夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。
 したがつて、前記のとおり、原審が、Eと被上告人の関係は自然の愛情に基づいて生じたものであるから、被上告人の行為は違法性がなく、上告人Aに対して不法行為責任を負わないとしたのは、法律の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの点において理由があり、原判決中上告人Aに関する部分は破棄を免れず、更に、審理を尽くさせるのを相当とするから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 同上告理由中上告人B、同C、同Dに関する部分について
 妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持つた女性が妻子のもとを去つた右男性と同棲するに至つた結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その女性が害意をもつて父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。けだし、父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右女性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからである。
 原審が適法に確定したところによれば、上告人B、同C、同D(以下「上告人Bら」という。)の父親であるEは昭和三二年ごろから被上告人と肉体関係を持ち、上告人Bらが未だ成年に達していなかつた昭和四二年被上告人と同棲するに至つたが、被上告人はEとの同棲を積極的に求めたものではなく、Eが上告人Bらのもとに戻るのをあえて反対しなかつたし、Eも上告人Bらに対して生活費を送つていたことがあつたというのである。したがつて、前記説示に照らすと、右のような事実関係の下で、特段の事情も窺えない本件においては、被上告人の行為は上告人Bらに対し、不法行為を構成するものとはいい難い。被上告人には上告人Bらに対する関係では不法行為責任がないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができ、この点に関し、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、三八六条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官大塚喜一郎の補足意見、裁判官本林讓の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+判例(H8.3.26)
理由
 上告代理人森健市の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係は次のとおりであり、この事実認定は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。
 1 上告人とaとは昭和四二年五月一日に婚姻の届出をした夫婦であり、同四三年五月八日に長女が、同四六年四月四日に長男が出生した。
 2 上告人とaとの夫婦関係は、性格の相違や金銭に対する考え方の相違等が原因になって次第に悪くなっていったが、aが昭和五五年に身内の経営する婦人服製造会社に転職したところ、残業による深夜の帰宅が増え、上告人は不満を募らせるようになった。
 3 aは、上告人の右の不満をも考慮して、独立して事業を始めることを考えたが、上告人が独立することに反対したため、昭和五七年一一月に株式会社A(以下「A」という)に転職して取締役に就任した。
 4 aは、昭和五八年以降、自宅の土地建物をAの債務の担保に提供してその資金繰りに協力するなどし、同五九年四月には、Aの経営を引き継ぐこととなり、その代表取締役に就任した。しかし、上告人は、aが代表取締役になると個人として債務を負う危険があることを理由にこれに強く反対し、自宅の土地建物の登記済証を隠すなどしたため、aと喧嘩になった。上告人は、aが右登記済証を探し出して抵当権を設定したことを知ると、これを非難して、まず財産分与をせよと要求するようになった。こうしたことから、aは上告人を避けるようになったが、上告人がaの帰宅時に包丁をちらつかせることもあり、夫婦関係は非常に悪化した。
 5 aは、昭和六一年七月ころ、上告人と別居する目的で家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申し立てたが、上告人は、aには交際中の女性がいるものと考え、また離婚の意思もなかったため、調停期日に出頭せず、aは、右申立てを取り下げた。その後も、上告人がAに関係する女性に電話をしてaとの間柄を問いただしたりしたため、aは、上告人を疎ましく感じていた。
 6 aは、昭和六二年二月一一日に大腸癌の治療のため入院し、転院して同年三月四日に手術を受け、同月二八日に退院したが、この間の同月一二日にA名義で本件マンションを購入した。そして、入院中に上告人と別居する意思を固めていたaは、同年五月六日、自宅を出て本件マンションに転居し、上告人と別居するに至った。
 7 被上告人は、昭和六一年一二月ころからスナックでアルバイトをしていたが、同六二年四月ころに客として来店したaと知り合った。被上告人は、aから、妻とは離婚することになっていると聞き、また、aが上告人と別居して本件マンションで一人で生活するようになったため、aの言を信じて、次第に親しい交際をするようになり、同年夏ころまでに肉体関係を持つようになり、同年一〇月ころ本件マンションで同棲するに至った。そして、被上告人は平成元年二月三日にaとの間の子を出産し、aは同月八日にその子を認知した。
 二 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(後記判例参照)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。
 三 そうすると、前記一の事実関係の下において、被上告人がaと肉体関係を持った当時、aと上告人との婚姻関係が既に破綻しており、被上告人が上告人の権利を違法に侵害したとはいえないとした原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例(最高裁昭和五一年(オ)第三二八号同五四年三月三〇日第二小法廷判決・民集三三巻二号三〇三頁)は、婚姻関係破綻前のものであって事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

・契約交渉過程における信義誠実に反する態度と不法行為責任
説明義務・情報提供義務に対する違反
誤認指摘義務
契約交渉の不当破棄
投資取引における適合性の原則に対する違反


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不法行為法 1 不法行為制度

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1.不法行為制度とはどのような制度か?
他人の行為または他人の物により権利を侵害された者(被害者)が、その他人または他人とかかわりのある人に対して、侵害からの救済を求めることのできる制度。

2.不法行為制度のもとでの救済~損害賠償が原則~

+(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

不法行為を理由として、被害者が、他人の行為の差止めを求めたり、自分の権利をもと通りにすること(原状回復)を求めたりすることは、法律に特別の規定がない限り認められない!!!

3.損害賠償の基本原理~どのような場合に損害賠償が認められるのか~
過失責任の原則
加害者に故意または過失がなければ、不法行為を理由とする損害賠償請求権は発生しない。

×原因責任・結果責任

4.過失責任の原則が採用された理由~過失責任を支える基本的な考え方~
・過失責任の原則の背後
私人の行為の自由は、国家により、憲法秩序のもとで基本権として保障される。
過失責任の原則は、
権利侵害の結果を行使者に負担させるための原理であるとともに、行為者に対し行動の自由を保障するための原理でもある。

5.過失責任の原則の例外~無過失責任~
民法に特別の条文があるか、特別の立法で無過失責任が採用されている場合。

6.無過失責任を支える基本的考え方
・危険責任の原理
危険源を創造したり、危険源を管理したりしている者は、その危険源から生じた損害について、責任を負担しなければならない。

・報償責任の原理
自らの活動から利益を上げている者は、その活動の結果として生じた損害について、責任を負担しなければならない。

7.過失責任の枠内での修正へのインセンティブ~過失の主張立証責任~
・過失があったかどうかについての真偽不明のリスクは被害者が負担する。

8.「過失責任の原則」の修正
(1)過失における注意義務の高度化
加害者に課される注意義務を厳しくすればするほど、注意義務違反の事実、つまり加害者に過失があった事実を立証しやすくなる。

(2)過失についての「事実上の推定」
過失があったとの評価を根拠づける具体的事実とはいえないまでも、それに関連する一定の事実(間接事実)があれば経験的に裁判官が、過失があったのではないかという心証を抱く。

+判例(H8.1.23)
要約
医師が医薬品を使用するに当たって医薬品の添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り当該医師の過失が推定される。

・事実上の推定と間接反証
加害者としては裁判官の心証を動揺させ、真偽不明の状態に持ち込めばよい。

(3)過失についての「法律上の推定」(立証責任の転換)
真偽不明の場合には、立証責任の分配に関する原則と違い、真偽不明のリスクは加害者が負担することになる。

9.709条に基づく損害賠償請求
請求原因
①Xの権利(または法律上保護された利益)が侵害されたこと
②Yが行為をするにあたり、Yに故意があったこと、または、Yに過失があったことの評価を根拠付ける事実
③請求原因②の行為(故意行為過失行為)と①の権利侵害との間の因果関係
④Xに生じた損害(およびその金額)
⑤請求原因①の権利侵害と④の損害との間の因果関係

(③⑤を合体させ、②④を1つの因果関係でつなぐ考え方もある)

+α
・法律要件と法律効果
法律要件
法律効果の発生原因のこと。

要件事実
法律要件に該当する事実のこと

・要件事実についての主張責任・立証責任
主張責任
ある事実が弁論で主張されなかったときに、敗訴してしまう不利益を原告被告のいずれが負担するかという問題
主張責任は、要件事実が弁論において主張されなかったことによるリスクを、主張責任を負担する者に課すことで、相手方を不意打ちの危険から保護し、相手方の防御の機会を保障することを目的としたもの。

立証責任
要件事実について真偽不明のときに、その要件事実は存在しないものとして扱われ、その要件事実が存在しておれば適用されたであろう実体法規範が適用されないことをいう。
要するに、真偽不明のリスク負担。


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