1(1)詐欺を理由とする売買契約にかかる意思表示を取消している(96条1項)。したがって、遡及的無効(121条本文)により、買主は無権利者となり、転得者もは買主から土地を承継取得しえないのが原則。
(2)しかし、詐欺の事実について善意無過失で土地の売却を受けた転得者を保護する必要。そこで「善意の第三者」(96条3項)として保護されないか問題となる。
ア.詐欺取消し前に利害関係に入っているから「善意の第三者」に該当しそう。
イ.としても、登記を具備していない。96条3項の第三者は登記を具備している必要があるか 問題となる。
(ア)96条3項の「第三者」は承継取得者に近く、本人と非両立の関係に立つものではないから、対抗関係に立たない。とすれば、対抗要件としての登記は必要ない。
また、被詐欺者は詐欺されたことにつき帰責性がある。とすれば、利益衡量上、96条の「第三者」には権利保護資格要件としての登記も不要であると解される。したがって、96条3項の「第三者」は、登記を具備している必要はない。
(イ)登記を具備していなくとも「第三者」として保護される。
(3)転得者は土地の所有権を有する。
2(1)妻から買い受けた者が土地の所有権を取得するには、妻が代理権を有し、効果が夫に帰属する必要がある。ところが、夫から代理権を授与されていない。しかも、761条本文は「日常の家事」に関して夫婦相互間に法定代理権を付与したものと解されるものの、土地の売却は。客観的に見て、個々の夫婦それぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要とされる事務とはいえないから、「日常の家事」には当たらない。したがって、妻の土地売却行為は、夫の追認(116条本文)がない限り、無権代理行為として夫に効果帰属しないのが原則である。
(2)しかし、妻から買い受けた者が一切保護されないのは取引の安全を害する。そこで、第三者は、761条本文の法定代理権を基本代理権とし、110条の表見代理の成立によって保護されないか問題となる。
ア.たしかに、広く一般的に110条の表見代理の成立を認めると、夫婦の財産的独立(夫婦別産制、762条1項)を著しく損なう。他方、第三者の信頼を一切保護しないと取引の安全を損なう。そこで、両者の調和の観点から、第三者において当該行為が当該夫婦の日常家事に関する法律行為の範囲内に属すると信じるにつき正当な理由があるときに限り、(←信頼の対象を注意!!!)110条の趣旨を類推適用して、第三者は保護される。
イ.本件では、土地の売却は極めて高額な取引。日常家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当な理由なし。
(3)所有権を取得しない。