民法 基本事例で考える民法演習2 23 他人の物の賃貸借と担保責任~賃貸人の義務と損害賠償の範囲


1.小問1(1)について(基礎編)

+(他人の権利の売買における売主の義務)
第五百六十条  他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

2.小問1(1)について(応用編)

・不当利得
+判例(H19.3.8)
理由
上告代理人川島英明の上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 上告人らは、平成12年2月15日、A(以下「A」という。)を通じて、それぞれ、B(以下「B」という。)を転換対象銘柄とする他社株式転換特約付社債を購入し、同年5月18日、その償還として、Bの株式各29株(以下、併せて「本件親株式」という。)を取得した。
(2) 上告人らは、平成12年10月31日、Aから本件親株式に係る原判決別紙1株券目録1(1)及び(2)記載の株券合計58枚の交付を受けたが、その際、本件親株式につき名義書換手続をしなかったため、本件親株式の株主名簿上の株主は、かつて本件親株式の株主であった被上告人(当時の商号はC)のままであった。
(3) Bは、平成14年1月25日開催の取締役会において、同年3月31日を基準日として普通株式1株を5株に分割する旨の株式分割(以下「本件株式分割」という。)の決議をし、同年5月15日、これを実施した。
(4) 被上告人は、本件親株式の株主名簿上の株主として、そのころ、Bから本件株式分割により増加した新株式(以下「本件新株式」という。)に係る原判決別紙1株券目録2記載の株券232枚の交付を受けた(以下、これらの株券を併せて「本件新株券」という。)。
(5) 被上告人は、Bから本件新株式に係る配当金として、1万4235円(税金を控除した額)の配当を受けた。
(6) 被上告人は、平成14年11月8日、第三者に対して本件新株式を売却し、売却代金5350万2409円(経費を控除した額)を取得した。
(7) 上告人らは、平成15年10月10日ころ、Bに対し、本件親株式について名義書換手続を求め、そのころ、被上告人に対し、本件新株券及び配当金の引渡しを求めた。
これに対し、被上告人は、日本証券業協会が定める「株式の名義書換失念の場合における権利の処理に関する規則(統一慣習規則第2号)」により、本件新株券の返還はできないなどとして、上告人らそれぞれに対し、各6105円のみを支払った。
(8) 上告人らは、被上告人は法律上の原因なく上告人らの財産によって本件新株式の売却代金5350万2409円及び配当金8万0590円の利益を受け、そのために上告人らに損失を及ぼしたと主張して、それぞれ、被上告人に対し、不当利得返還請求権に基づき、上記売却代金の2分の1である2675万1204円(円未満切捨て。以下同じ。)及び上記配当金の2分の1である4万0295円の合計金相当額である2679万1499円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴えを提起した。
(9) 第1審は、被上告人は、上告人らに対し、それぞれ、口頭弁論終結時における本件新株式の価格相当額2680万7484円及び配当金1万4670円の2分の1である7335円の合計額である2681万4819円から既払額6105円を差し引いた2680万8714円の不当利得返還義務を負うとして、上記金額の範囲内である上告人らの請求をいずれも認容した。
原審は、平成17年5月18日に口頭弁論を終結したが、その前日である同月17日のBの株式の終値は16万1000円であった。

2 原審は、次のとおり判断して、上告人らの請求をそれぞれ1867万7012円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余をいずれも棄却した。
(1) 被上告人は、本件新株式及び配当金を取得し、法律上の原因なくして上告人らの財産により利益を受け、これによって上告人らに損失を及ぼしたものであるから、その利益を返還すべき義務を負う
(2) ところで、本件新株式は上場株式であり代替性を有するから、被上告人の得た利益及び上告人らが受けた損失は、いずれも本件株式分割により増加した本件新株式と同一の銘柄及び数量の株式である。
したがって、上告人らが本件新株券そのものの返還に代えて本件新株式の価格の返還を求めることは許されるが、その場合に返還を請求できる金額は、売却時の時価によるのでなければ公平に反するという特段の事情がない限り、被上告人が市場において本件新株式と同一の銘柄及び数量の株式を調達して返還する際の価格、すなわち事実審の口頭弁論終結時又はこれに近い時点における本件新株式の価格によって算定された価格相当額である。
本件においては上記特段の事情は認められないから、上告人らの被上告人に対する請求は、それぞれ、事実審の口頭弁論終結日の前日である平成17年5月17日のBの株式の終値である1株16万1000円に116株を乗じた1867万6000円に配当金1万4235円の2分の1である7117円を加えた額から既払額6105円を差し引いた1867万7012円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

3 しかしながら、原審の上記2(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、受益者にその利得の返還義務を負担させるものである(最高裁昭和45年(オ)第540号同49年9月26日第一小法廷判決・民集28巻6号1243頁参照)。
受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し、その後これを第三者に売却処分した場合、その返還すべき利益を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると解すると、その物の価格が売却後に下落したり、無価値になったときには、受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが、これは公平の見地に照らして相当ではないというべきであるまた、逆に同種・同等・同量の物の価格が売却後に高騰したときには、受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが、これも公平の見地に照らして相当ではなく、受けた利益を返還するという不当利得制度の本質に適合しない
そうすると、受益者は、法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解するのが相当である。大審院昭和18年(オ)第521号同年12月22日判決・法律新聞4890号3頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。
4 以上によれば、上記原則と異なる解釈をすべき事情のうかがわれない本件においては、被上告人は、上告人らに対し、本件新株式の売却代金及び配当金の合計金相当額を不当利得として返還すべき義務を負うものというべきであって、これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。
そして、前記事実関係によれば、上告人らの請求は、それぞれ、被上告人が取得した本件新株式の売却代金5350万2409円の2分の1である2675万1204円及び配当金1万4235円の2分の1である7117円の合計額である2675万8321円から既払額である6105円を差し引いた2675万2216円並びにこれに対する平成16年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却すべきである。したがって、これと異なる原判決を主文のとおり変更することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉徳治 裁判官 才口千晴 裁判官 涌井紀夫)

・代金を支払う相手・・・
+判例(H23.10.18)
理 由
 上告代理人小林正の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 本件は,ブナシメジを所有する被上告人が,無権利者との間で締結した販売委託契約に基づきこれを販売して代金を受領した上告人に対し,同契約を追認したからその販売代金の引渡請求権が自己に帰属すると主張して,その支払を請求する事案である。
 なお,上記の請求は,控訴審において追加された被上告人の第2次予備的請求であるところ,原判決中,被上告人の主位的請求及び第1次予備的請求をいずれも棄却すべきものとした部分については,被上告人が不服申立てをしておらず,同部分は当審の審理判断の対象となっていない。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,Aの代表取締役であるBから,その所有する工場を賃借し,平成14年4月以降,同工場でブナシメジを生産していた。
 (2) Bは,平成15年8月12日から同年9月17日までの期間,賃貸借契約の解除等をめぐる紛争に関連して同工場を実力で占拠し,その間,Aが,上告人との間でブナシメジの販売委託契約(以下「本件販売委託契約」という。)を締結した上,被上告人の所有する同工場内のブナシメジを上告人に出荷した。上告人は,本件販売委託契約に基づき,上記ブナシメジを第三者に販売し,その代金を受領した。
 (3) 被上告人は,平成19年8月27日,上告人に対し,被上告人と上告人との間に本件販売委託契約に基づく債権債務を発生させる趣旨で,本件販売委託契約を追認した。

 3 原審は,被上告人が,上記の趣旨で本件販売委託契約を追認したのであるから,民法116条の類推適用により,同契約締結の時に遡って,被上告人が同契約を直接締結したのと同様の効果が生ずるとして,被上告人の第2次予備的請求を認容した。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。なぜならば,この場合においても,販売委託契約は,無権利者と受託者との間に有効に成立しているのであり,当該物の所有者が同契約を事後的に追認したとしても,同契約に基づく契約当事者の地位が所有者に移転し,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解する理由はないからである仮に,上記の追認により,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解するならば,上記受託者が無権利者に対して有していた抗弁を主張することができなくなるなど,受託者に不測の不利益を与えることになり,相当ではない

 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は,破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから,同部分に関する請求を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 那須弘平 裁判官 岡部喜代子 裁判官大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)

+判例(H10.1.30)
理由
上告代理人澤井英久、同青木清志の上告理由について
一 本件は、抵当権者である上告人が物上代位権を行使して差し押さえた賃料債権の支払を抵当不動産の賃借人である被上告人に対して求める事案である。被上告人は、右賃料債権は上告人による差押えの前に抵当不動産の所有者である大協建設株式会社から株式会社大心に譲渡され被上告人が確定日付ある証書をもってこれを承諾したから、上告人の請求は理由がないと主張する。上告人は、右主張を争うとともに、本件債権譲渡の目的は上告人の債権回収を妨害することにあるから右主張は権利の濫用であるなどと主張する。
上告人の本件請求は、大協建設の被上告人に対する平成五年七月分から同六年三月分までの九箇月分の賃料六五三三万六四〇〇円(月額七二五万九六〇〇円)の支払を求めるものである。第一審判決は、賃料月額を二〇〇万円と認定した上、上告人の権利濫用の主張は理由があるから本件においては物上代位が債権譲渡に優先すると判断して、本件請求を一八〇〇万円の限度で認容すべきものとした。双方が各敗訴部分を不服として控訴したが、原判決は、第一審判決と同様の事実を認定した上、債権譲渡が物上代位に優先し、上告人の権利濫用の主張は失当であると判断して、被上告人の控訴に基づき第一審判決中上告人の請求を認容した部分を取り消して右部分に係る請求を棄却し(原判決主文第一、二項)、上告人の控訴を棄却した。
論旨は、専ら、原審認定事実を前提としても、債権譲渡が物上代位に優先し、かつ、上告人の権利濫用の主張は失当であるとした原審の判断には、法令の解釈適用の誤りがあると主張するものである。

二 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 大協建設は第一審判決添付物件目録記載の建物(建物の種類は「共同住宅店舗倉庫」。以下「本件建物」という。)の所有者である。
2(一) 上告人は、平成二年九月二八日、東京ハウジング産業株式会社に対し、三〇億円を、弁済期を同五年九月二八日と定めて貸し付けた。
(二) 上告人と大協建設は、平成二年九月二八日、本件建物について、被担保債権を上告人の東京ハウジング産業に対する右貸金債権とする抵当権設定契約を締結し、かつ、その旨の抵当権設定登記を経由した。
(三) 東京ハウジング産業は、平成三年三月二八日、約定利息の支払を怠り、右貸金債務についての期限の利益を喪失した。
(四) 東京ハウジング産業は、平成四年一二月、倒産した。
3 大協建設は、本件建物を複数の賃借人に賃貸し、従来の一箇月当たりの賃料の合計額は七〇七万一七六二円であったが、本件建物の全部を被上告人に賃貸してこれを現実に利用する者については被上告人からの転貸借の形をとることとし、平成五年一月一二日、本件建物の全部を、被上告人に対して、期間を定めずに、賃料月額二〇〇万円、敷金一億円、譲渡転貸自由と定めて賃貸し、同月一三日、その旨の賃借権設定登記を経由した。
4 大心は、平成五年四月一九日、大協建設に対して七〇〇〇万円を貸し付けた。大協建設と大心は、その翌日である同月二〇日、本件建物についての平成五年五月分から同八年四月分までの賃料債権を右貸金債権の代物弁済として大協建設が大心に譲渡する旨の契約を締結し、被上告人は、同日、これを承諾した。右三者は、以上の趣旨が記載された債務弁済契約書を作成した上、これに公証人による確定日付(平成五年四月二〇日)を得た。
5 東京地方裁判所は、平成五年五月一〇日、抵当権者である上告人の物上代位権に基づき、大協建設の被上告人に対する本件建物についての賃料債権のうち右2記載の債権に基づく請求債権額である三八億六九七五万六一六二円に満つるまでの部分を差し押さえる旨の差押命令を発し、右命令は同年六月一〇日に第三債務者である被上告人に送達された(なお、上告人は、その後、被上告人の転借人に対する本件建物の転貸料債権について抵当権に基づく物上代位権を行使して差押命令を得たので、同六年四月八日以降支払期にある分につき、右賃料債権の差押命令の申立てを取り下げた。)。

三 原審は、右事実関係に基づき、民法三〇四条一項ただし書が払渡し又は引渡しの前の差押えを必要とする趣旨は、差押えによって物上代位の目的債権の特定性を保持し、これによって物上代位権の効力を保全するとともに、第三者が不測の損害を被ることを防止することにあり、この第三者保護の趣旨に照らせば、払渡し又は引渡しの意味は債務者(物上保証人を含む。)の責任財産からの逸出と解すべきであり、債権譲渡も払渡し又は引渡しに該当するということができるから、目的債権について、物上代位による差押えの前に対抗要件を備えた債権譲受人に対しては物上代位権の優先権を主張することができず、このことは目的債権が将来発生する賃料債権である場合も同様であるとして、上告人の本件請求は理由がないものと判断した。

四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 民法三七二条において準用する三〇四条一項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。
2 右のような民法三〇四条一項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。
けだし、(一)民法三〇四条一項の「払渡又ハ引渡」という言葉は当然には債権譲渡を含むものとは解されないし、物上代位の目的債権が譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、(二)物上代位の目的債権が譲渡された後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合において、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に目的債権の譲渡後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならず、(三)抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができ、(四)対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害するものというべきだからである。
そして、以上の理は、物上代位による差押えの時点において債権譲渡に係る目的債権の弁済期が到来しているかどうかにかかわりなく、当てはまるものというべきである。

五 以上と異なる原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって、論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。そして、前記事実関係の下においては、上告人の本件請求は一八〇〇万円(平成五年七月分から同六年三月分までの月額二〇〇万円の割合による賃料)の限度で理由があり、その余は理由がないというべきであるから、第一審判決の結論は正当である。したがって、原判決のうち、第一審判決中被上告人敗訴の部分を取り消して右部分に係る請求を全部棄却すべきものとした部分(原判決主文第一、二項)は破棄を免れず、右部分については被上告人の控訴を棄却すべきであるが、上告人の控訴を棄却した部分は正当であるから、その余の本件上告を棄却すべきである。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

+判例(H17.2.22)
理由
上告代理人中村築守の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) A社は、B社に対し、第1審判決別表6記載のとおり商品を売り渡し、同社は、上告人に対し、同別表3記載のとおりこれを転売した(以下、この転売契約に基づく売買代金債権のことを「本件転売代金債権」という。)。
(2) B社は、平成14年3月1日、東京地方裁判所において破産宣告を受け、C弁護士が破産管財人に選任された。
(3) 上記破産管財人は、平成15年1月28日、破産裁判所の許可を得て、被上告人に対し、本件転売代金債権を譲渡し、同年2月4日、上告人に対し、内容証明郵便により、上記債権譲渡の通知をした。
(4) A社は、東京地方裁判所に対し、動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使として、本件転売代金債権について差押命令の申立てをしたところ、同裁判所は、平成15年4月30日、本件転売代金債権の差押命令を発し、同命令は同年5月1日に上告人に送達された。
2 本件は、上記事実関係の下において、被上告人が、上告人に対し、本件転売代金債権について支払を求める事案である。
3 民法304条1項ただし書は、先取特権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要する旨を規定しているところ、この規定は、抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については、物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである。そうすると、動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。

4 前記事実関係によれば、A社は、被上告人が本件転売代金債権を譲り受けて第三者に対する対抗要件を備えた後に、動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使として、本件転売代金債権を差し押さえたというのであるから、上告人は、被上告人に対し、本件転売代金債権について支払義務を負うものというべきである。以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。所論引用の判例(最高裁平成9年(オ)第419号同10年1月30日第二小法廷判決・民集52巻1号1頁、最高裁平成8年(オ)第673号同10年2月10日第三小法廷判決・裁判集民事187号47頁)は、事案を異にし、本件に適切ではない。論旨は、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖)

++解説
《解  説》
1 本件は,動産売買の先取特権者が,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においても,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるか否かなどが争われた事案である。
A社は,B社に対し,商品(動産)を売り渡したところ,B社は,Y1~Y3に対し,これを転売した。B社は,平成14年3月1日,東京地裁において破産宣告を受け,C弁護士が破産管財人に選任された。C破産管財人は,平成15年1月28日,破産裁判所の許可を得て,B社のY1~Y3に対する転売代金債権をXに譲渡し,同年2月4日,Y1~Y3に対し,内容証明郵便により,上記債権譲渡の通知をした。A社は,東京地裁に対し,動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使として,B社のY1~Y3に対する転売代金債権について差押命令の申立てをしたところ,同裁判所は,平成15年1月20日,B社のY1に対する転売代金債権に対する債権差押命令を,同年4月30日,B社のY2に対する転売代金債権に対する債権差押命令をそれぞれ発令したが,B社のY3に対する転売代金債権に対する債権差押命令の申立ては却下した。Y1を第三債務者とする債権差押命令は同年1月22日に,Y2を第三債務者とする債権差押命令は同年5月1日にそれぞれY1及びY2に送達された。
2 Xは,B社とY1~Y3との間の上記転売契約等に基づき,Y1~Y3に対し,転売代金の支払を求めた。
これに対し,Y1~Y3は,C破産管財人が,Xに対し,上記転売代金債権を譲渡し,その旨をY1~Y3に内容証明郵便により通知したとしても,Y1~Y3がXに対して支払をするまでは,A社は,上記転売代金債権について,動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができるなどと主張し,Xの上記請求を争った。

3 1審がXの請求を棄却する旨の判決をしたことから,Xから控訴。原審は,動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使と目的債権の譲渡とは,債権差押命令の第三債務者に対する送達と債権譲渡の対抗要件の具備との先後関係によってその優劣を決すべきであるなどとして,1審判決を変更し,XのY1に対する請求を棄却したが,XのY2及びY3に対する請求を認容するなどの判決をした。
第三小法廷は,Y2の上告受理の申立てを受理した上,動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないなどと判示して,Y2の上告を棄却した。

4(1) 抵当権,先取特権に基づく物上代位権の行使と債権譲渡,転付命令,一般債権者の差押えの優先関係等をめぐっては,これまで多数の判例が出されている。そして,最一小判昭59.2.2民集38巻3号431頁,判タ525号99頁(昭和59年最一小判)及び最二小判昭60.7.19民集39巻5号1326頁,判タ571号68頁(昭和60年最二小判)は,傍論として,目的債権の譲渡後の先取特権者の物上代位権の行使を否定すべきものとした。この傍論説示によれば,最高裁は,抵当権についても,目的債権の譲渡後の物上代位権の行使を否定するものと推測されるというのが一般的理解であったところ,最二小判平10.1.30民集52巻1号1頁,判タ964号73頁及び最三小判平10.2.10裁判集民187号47頁(平成10年最判)は,この一般的理解を覆し,抵当権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においても,自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるとした。そして,平成10年最判が出された後は,昭和59年最一小判及び昭和60年最二小判の傍論説示が変更されたか否かが議論されている状況にあった。
(2) ところで,抵当権は,第三者に対しても追及効がある担保物権であるとされている。これは,抵当権は,登記という形で公示制度が完備されていることから,第三者に対して追及効を認めても,第三者に不測の損害を与えるおそれがないことによるものである。ところで,債権譲渡により,債権が債務者から第三者に移転すると,債務者が第三債務者から金銭を受け取るべき関係がないことになるから,物上代位権を行使して差し押さえることができなくなるのではないかという疑問が生ずる。しかし,抵当権のみならず,抵当権の物上代位権にも追及効があると考えるならば,譲渡された債権についても有効に差し押さえることができるということになるのであって,平成10年最判は正にこのような考え方に立脚するものである(平10最判解説(民)(上)26頁以下)。そして,平成10年最判の理由付けの中で注目すべき点は,抵当権の効力が物上代位の目的債権にも及ぶことは,抵当権設定登記により公示されているとみることができるとしたことである。その上で,平成10年最判は,債権譲渡の対抗要件の具備が抵当権設定登記に後れる場合には,もともと実体法上は抵当権者が優先すると考えられることから,債権譲渡後の物上代位権の行使を認めても,債権譲受人の立場は害されないと考えているものと推測される(前記最判解説26頁)。
これに対し,動産売買の先取特権は,債務者が,その目的物である動産を第三者に引き渡すと,その動産には先取特権の効力は及ばないこととされている(民法333条)。先取特権は,先取特権者の占有を要件としていないため,目的物が動産の場合には公示方法が存在せず,追及効を制限することにより動産取引の第三者を保護しようとしたのである。そうとすれば,動産売買の先取特権に基づく物上代位権も目的債権が譲渡され,債権が債務者から第三者に移転すると,もはや追及効がなくなるものと解すべきである。このような場合にも追及効があるとすれば,抵当権とは異なり,動産売買の先取特権には公示方法がないことから,第三者(債権譲受人等)の立場を不当に害するおそれがあるものと考えられる。民法304条1項ただし書の規定は,抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については,物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである(内田貴・民法Ⅲ 債権総論・担保物権(第2版)511頁,道垣内弘人「昭和60年最判の判例批評」別冊ジュリ159号175頁等参照)。
以上によれば,本判決が判示するとおり,動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。
5 本判決は,平成10年最判が出されたことにより,動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においても,自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるということになるとする見方があった中で,このような見解を採らないことを初めて正面から明らかにした最上級審の判例であり,実務に与える影響は小さくないものと考えられることから,ここに紹介する次第である。

3.小問1(2)について

+(占有者による費用の償還請求)
第百九十六条  占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2  占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

+(賃借人による費用の償還請求)
第六百八条  賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
2  賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

+(善意の占有者による果実の取得等)
第百八十九条  善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
2  善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
・189条1項の趣旨から占有者の不法行為責任も同時に廃除!

4.小問2について

+(賃貸物の修繕等)
第六百六条  賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
2  賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

+(賃借人による費用の償還請求)
第六百八条  賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
2  賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

+(売主の瑕疵担保責任)
第五百七十条  売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

+(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第五百六十六条  売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2  前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3  前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。