1.小問1(1)について
+(受領遅滞)
第四百十三条 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。
+判例(S40.12.3)
理由
上告代理人伊藤仁の上告理由第一点について。
論旨は、債権者にも信義則の要求する程度において給付の実現に協力すべき法律上の義務があり、給付の不受領はあたかも債務者が履行しない場合と同じく債務不履行となるものと解すべきである、と主張し、債権者は債権の目的物を受領する義務なく債権者の受領遅滞を理由として債務者は契約解除をなしえない旨の原判決の判断は、民法の基本原則である信義則に違反する、という。
しかし、債務者の債務不履行と債権者の受領遅滞とは、その性質が異なるのであるから、一般に後者に前者と全く同一の効果を認めることは民法はの予想していないところというべきである。民法四一四条・四一五条・五四一条等は、いずれも債務者の債務不履行のみを想定した規定であること明文上明らかであり、受領遅滞に対し債務者のとりうる措置としては、供託・自動売却等の規定を設けているのである。されば、特段の事由の認められない本件において被上告人の受領遅滞を理由として上告人は契約を解除することができない旨の原判決は正当であつて、論旨は採用することができない。
同第二点について。
上告人の本訴は損害賠償の請求であつて、請負代金の支払を求めるものでないこと明らかであるから、論旨は無用の論議に帰し、排斥を免れない。よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)
+判例(S46.12.16)
理由
上告代理人浅沼澄次、同神田洋司(以下、上告代理人浅沼澄次らという。)の上告理由第一点および第三点について。
本件記録によれば、原判決の理由第一の一の(四)の事実は当事者間に争いがないとの説示は、相当である。また、所論甲第二号証にいわゆる別紙買鉱契約の成立の有無および甲第二号証の契約と甲第三号証(鉱石売買契約書)との関係に関する原判決の認定判断は、その拳示する証拠に照らして、首肯するに足りる。論旨は、採用しがたい。
同第二点の一、二および上告代理人浜本一夫、同二宮節二郎(以下、上告代理人浜本一夫らという。)の上告理由第一点ないし第三点について。
本件硫黄鉱石売買契約においては、被上告人北海硫黄鉱業株式会社(以下、被上告会社という。)が本件鉱区から採掘する硫黄鉱石の全量が売買の対象となつていたものである旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠および原審が右証拠により適法に認定した諸事実によれば、首肯しえないものではない。そして、記録によれば、被上告人らは、第一審以来、右のとおり被上告会社の採掘する鉱石の全量が売買の対象となつていた旨主張していたものと認めるのが相当であつて、上告代理人浜本一夫らの上告理由が指摘する被上告人らの主張の趣旨は、売買の対象となつていたのは、前述のとおり、採掘鉱石の全量であるが、本件において、被上告人らが上告人にその引取義務があると主張している二四〇〇トン(湿鉱量)の鉱石は、実際に、品位七〇パーセント以上のものであつたというにあるものと解すべきである。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰するものであるか、または、被上告人らの主張を正解しないで、原判決に民訴法二五七条、一八六条の違反があると主張するものであつて、採用することができない。
上告代理人浅沼澄次らの上告理由第四点について。
原審が適法に確定した事実によれば、本件甲第二号証の契約においては、被上告会社が上告人に対し昭和三二年中に引き渡す硫黄鉱石の代金中、前渡金四〇〇万円への充当は、乾鉱量一トンにつき金一〇〇〇円の割合によるとの約旨であつたというのであるから、原審が、所論のいう同年一一月の四車分の鉱石についても、右の割合で計算を行ない、同年末における前渡金残額は金三八三万円となつた旨判示したのは相当であつて、何ら所論の違法はない。
上告代理人浅沼澄次らの上告理由第五点、第六点および第八点ならびに同浜本一夫らの上告理由第四点について。
本件硫黄鉱石売買契約は、その期間が更新されて、昭和三三年一二月末日まで存続することとなつたものである等所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠に照らして、首肯しえないものではない(原判決一三枚目裏末行および一五枚目表三行目に、それぞれ、「昭和三二年」とあるのは「昭和三三年」の誤記と認める。)。所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用のかぎりでない。
上告代理人浅沼澄次らの上告理由第七点、第九点および第一一点ならびに同浜本一夫らの上告理由第六点の一および第七点について。
原判決は、つぎのとおり事実を確定している。すなわち、被上告会社は、昭和三二年四月一六日上告人との間に、期間を同年一二月末日とし、被上告会社が本件硫黄鉱区から採掘する硫黄鉱石の全量(所論は、全量ではなく、品位七〇パーセント以上のものにかぎると主張するが、その採用できないことは、すでに説示したとおりである。)を対象として、原判示硫黄鉱石売買契約(その内容は甲第三号証と同旨)を締結したが、その後、右契約期間は更新されて昭和三三年一二月末日までとなつた。ところで、被上告会社は、右契約に基づいて採掘をはじめ、まず昭和三二年中に鉱石約一七〇トン(乾鉱量)を上告人に引き渡した。ついで同三三年六月鉱石一一三・九一トン(乾鉱量)を出荷し、その旨を上告人に通知したが、上告人から市況の悪化を理由に出荷中止を要請され、ここにおいて被上告会社は、上告人を翻意させるべく折衝したが成功せず、同年九月一一日頃には採掘を中止するのやむなきに至り、採掘分(乾鉱量にして一六一二・六九トン)は集積して出荷を準備したにとどまつた。そして、右一一三・九一トンの鉱石は、ともかく上告人において引き取つたのであるが、その後は引取を拒絶したまま、同年一〇月二九日被上告会社に対し、前渡金の返還を要求する通知書(乙第五号証の一)を発するに至り、右鉱石売買契約の関係は、前記契約期間の満了日である昭和三三年一二月末日の経過をもつて終了するに至つた、というのである。
ところで、右事実関係によれば、前記鉱石売買契約においては、被上告会社が右契約期間を通じて採掘する鉱石の全量が売買されるべきものと定められており、被上告会社は上告人に対し右鉱石を継続的に供給すべきものなのであるから、信義則に照らして考察するときは、被上告会社は、右約旨に基づいて、その採掘した鉱石全部を順次上告人に出荷すべく、上告人はこれを引き取り、かつ、その代金を支払うべき法律関係が存在していたものと解するのが相当である。したがつて、上告人には、被上告会社が採掘し、提供した鉱石を引き取るべき義務があつたものというべきであり、上告人の前示引取の拒絶は、債務不履行の効果を生ずるものといわなければならない。
所論は、被上告会社には、信義にもとる不履行の責任があり、重大な過失があると非難し、その根拠として、被上告会社が昭和三二年の出鉱を遅延したこと、同会社が昭和三三年六月上告人に何の予告もなく鉱石を送つてきたこと、被上告会社は、鉱石価格の下降を辿る業界の実情をよそに、みずから危険を冒して採掘を続行したこと等を列挙し、これらが斟酌されるべきであると主張する。しかし、原判決は、その理由の六において、被上告会社が昭和三二年度中僅少の出鉱をなしたにとどまつた事情について詳細説示しており、また、上告人側が本件鉱石売買契約の存続について明確な認識をもたず、ひいて市況の変化に対処して適切な協議の方法をとらなかつた事実も、原審の認定判示するところであつて、こうした事実関係のもとにおいては、被上告会社において信義則に違反し、重大な過失があるとする所論は、採用のかぎりでない。
よつて、上告人に引取義務を認めた原審の判断は、正当として是認することができる。右のとおりであるから、所論中、売主側が、買主側の要求により、履行の準備に相当の努力を費した場合には信義則上も買主の引取義務を肯定すべきである旨の原判示を非難する部分は、その当否を論ずるまでもなく、原判決に影響を及ぼしえないものとして、排斥を免れない。
論旨は、いずれも採用することができない。
上告代理人浅沼澄次らの上告理由第一〇点および同浜本一夫らの上告理由第六点の二について。
所論は、原判決が、上告人に対し、引取義務の履行不能による損害賠償義務を認めたことを非難する。
しかし、原審の確定した前記事実関係によれば、本件のような継続的供給契約において、被上告会社がその採掘にかかる鉱石を上告人に送付し、上告人がこれを引き取るべき義務を負うのは、本件硫黄鉱石売買契約関係の存続を前提とするものと解されるところ、上告人が、その義務に違反し、前示鉱石一六一二・六九トンの引取を拒絶したまま、昭和三三年末をもつて右契約関係を終了するに至らしめたのである以上、右引取義務は、上告人の責に帰すべき事由により履行不能になつたものというべきであり、所論原判示は正当である。論旨は採用することができない。
上告代理人浅沼澄次らの上告理由第一二点ないし第一五点ならびに同浜本一夫らの上告理由第五点および第八点について。
所論は、被上告会社が被つた損害の額に関する原判決の判断は違法である旨種々主張する。
しかし、被上告会社が引取を拒絶された原判示硫黄鉱石一九四三トン(湿鉱量)には、甲第三号証における純硫黄一〇キログラムにつき九〇円の約定が適用されるべきであるとした原判決の説示は、正当として是認することができる。所論は、昭和三二年七月以降の分については、当事者間の協議によつて価格が定められることを要するのであり、当事者間の協議により右価格が定められなかつた以上、価格のない状態にとどまると主張する。しかし、本件のような採掘される鉱石の全量が対象とされている売買契約において、かような結果を認めることは、却つて不条理である。のみならず、原判示によれば、昭和三二年秋以後、とくに昭和三三年になつてから硫黄の市況がとみに悪化したというのであるから、こうした場合には、むしろ買主の立場にある上告人の側から協議を求めることが期待されるべきである。しかるに、その協議が行なわれなかつた(この旨の原審の認定は是認できる。)というのであるから、右原判示は相当であるというべく、所論は、採ることができない。その他の所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の拳示する証拠に照らして、首肯しえないものではなく、所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰する。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない(原判決一七枚目裏一行目に「一四八一・四立方メートル」とあるのは「一四八五・四立方メートル」の、同五行目に「控訴会社」とあるのは「被控訴会社」の、一九枚目表末行に「金六六八万一八七六円」とあるのは「金六五八万一八七六円」の、同裏九行目に「六八・九一トン」とあるのは「六八・四九トン」の、二〇枚目表六行目および同裏九行目に、それぞれ、「三四六万八二八六円」とあるのは「三三六万八二八六円」の、各明白な誤りであると認める。)。
上告代理人浅沼澄次らの上告理由第一六点および同浜本一夫らの上告理由第九点について。
所論は、被上告会社の上告人に対する原判示損害賠償請求権は成立しないとするその前提において失当であるから、採用のかぎりでない。
なお、右に説示したところによれば、原判決主文第二項に「金三四六万八二八六円」とあるのは、「金三三六万八二八六円」の明白な誤りであるから、民訴法一九四条により、職権で右のとおり更正する。
よつて、民説法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤林益二 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)
+(弁済の費用)
第四百八十五条 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。
+(履行遅滞等による解除権)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
+(弁済の提供の方法)
第四百九十三条 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
2.小問1(2)について(基礎編)
+(解除の効果)
第五百四十五条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
・賠償の範囲は履行利益。
・+(損害賠償の範囲)
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
3.小問1(2)について(応用編)
+(損害賠償による代位)
第四百二十二条 債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。
+(供託)
第四百九十四条 債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。
+(供託に適しない物等)
第四百九十七条 弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも、同様とする。