民法 基本事例で考える民法演習 不動産の物権変動と付合~請負契約における所有権帰属


1.小問1(1)について(基礎編)

・独立した不動産
外気遮断性
+判例(S10.10.1)
要旨
1.屋根がわらをふき荒壁をぬり終えた建物はまだ床および天井を張るに至らなくても不動産として登記しうる。
2.屋根がわらをふき荒壁を塗り終えた建物は、まだ床および天井を張るに至らなくても、不動産たる建物といえる。
3.住宅用建物で屋根がわらをふき、荒壁を付け終つたものは、まだ床および天井を備えていなくてもなお登記しうべき建物といえる。
4.工事中の建物が屋根及び周壁を有し土地に定着する1個の建造物として存在するに至ったときは、床及び天井を備えていなくても、建物として登記をすることができる。(旧不動産登記法関係)
5.一 保存登記における建物の表示が敷地の地番及び建坪において実在の建物と多少相違しても、その建物を表示したものと認めるに足り、かつ申請人がその建物につき保存登記をする意思で申請した場合には、その登記は更正登記前でも有効であるが、右の相違があるために登記簿上の建物の表示が実在の建物を指すものとはとうてい認めがたい場合には、申請人がその建物につき保存登記をする意思で申請したと否とを問わず、その登記は無効である。
二 登記簿における建物の表示が実際の建物とは敷地の地番を異にし、かつ建坪にも著しい相違がある場合には、その表示は実際の建物を指すものとは認めることができない。(旧不動産登記法関係)

・留置権の主張
+(留置権の内容)
第二百九十五条  他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2  前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

履行不能の損害賠償債権を被担保債権としての留置権の主張は認められない!!!!
←物と債権の牽連関係がない。
+判例(S43.11.21)
要旨
1.甲所有の家屋を買受けたと称する乙から代金を支払つて買受けた丙が、乙が甲に対する残代金未払のため移転登記を了することができず、このため、甲に対し改めて右家屋の代金(乙の甲に対する未払代金相当額)を支払い買受けるに至つたという事情の下では、丙は背信的悪意者とはいえない。
2.甲所有の建物を乙が競落した後、甲乙間で買戻し契約が締結されたが、甲が買戻代金の一部を支払つたままでいたところ、その建物を乙が丙に売却し、丙が移転登記をしてしまつたという場合に、甲は、乙に対する買戻契約の履行不能を理由とする損害賠償債権、既払代金の不当利得返還請求権に基づく留置権を主張しても、いずれの債権も家屋に関して生じた債権とはいえないから、留置権は認められない

・留置権の主張
証券請求権を被担保債権とする場合には認められる!!

+(占有者による費用の償還請求)
第百九十六条  占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2  占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

・履行補助者的立場にある者について
+判例(H5.10.19)
理由
上告代理人右田堯尭雄の上告理由第一点について
一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人は、昭和六〇年三月二〇日、建設業者である住吉建設株式会社との間で、上告人を注文者、住吉建設を請負人とし、代金三五〇〇万円、竣工期同年八月二五日と定めて、上告人所有の宅地上に本件建物を建築する旨の工事請負契約を締結した(以下「本件元請契約」という)。この契約には、注文者は工事中契約を解除することができ、その場合工事の出来形部分は注文者の所有とするとの条項があった
2 住吉建設は、同年四月一五日、上告人から請け負った本件建物の建築工事を代金二九〇〇万円、竣工期同年八月二五日の約定で、建設業者である被上告人に一括して請け負わせた(以下「本件下請契約」という)被上告人も住吉建設が上告人から請け負った工事を一括して請け負うものであることは知っていたが、住吉建設も被上告人もこの一括下請負について上告人の承諾を得ていなかった。なお、本件下請契約には、完成建物や出来形部分の所有権帰属についての明示の約定はなかった
3 被上告人は、自ら材料を提供して本件建物の建築工事を行ったが、被上告人が昭和六〇年六月下旬に工事を取りやめた時点においては、基礎工事のほか、鉄骨構造が完成していたものの、陸屋根や外壁は完成しておらず、右工事の出来高は、工事全体の二六・四パーセントであった(以下、右時点までの工事出来形部分を「本件建前」という)。
4 上告人は、住吉建設との約定に基づき、請負代金の一部として、契約締結時に一〇〇万円、昭和六〇年四月一〇日に九〇〇万円、同年五月一三日に九五〇万円の合計一九五〇万円を支払った
他方、上棟工事は同年五月一〇日に完了し、それまでの工事分として住吉建設から被上告人に支払が予定されていた第一回の支払分五八〇万円の支払時期は同年六月一五日であったが、その前々日の同月一三日に住吉建設が京都地方裁判所に自己破産の申立てをし、同年七月四日に破産宣告を受けたため、被上告人は、下請代金の支払を全く受けられなかった
5 上告人は、同年六月一七日ころ、被上告人から聞かされて初めて本件下請契約の存在を知り、同月二一日、住吉建設に対して本件元請契約を解除する旨の意思表示をするとともに、被上告人との間で建築工事の続行について協議したが、工事代金額のことから合意は成立しなかった。そこで、上告人は、同月二九日、被上告人に工事の中止を求め、次いで、同年七月二二日、被上告人を相手に本件建前の執行官保管、建築妨害禁止等の仮処分命令を得て、その執行をした。
6 その後、上告人は、同年七月二九日、株式会社稲富との間で代金二五〇〇万円、竣工期同年一〇月一六日の約定で、本件建前を基に建物を完成させる旨の請負契約を締結し、稲富は、同月二六日までに右工事を完成させ、そのころ上告人から代金全額の支払を受けて本件建物を引き渡し、上告人は、本件建物につき所有権保存登記をした

二 原審は、右事実に基づき、(一) 本件建前は、いまだ不動産たる建物とはなっていなかった、(二) 住吉建設と被上告人との間では出来形部分の所有権帰属の合意がなく、被上告人は本件元請契約には拘束されないから、本件建前の所有権は、材料を自ら提供して施工した被上告人に帰属する、(三) 本件建物は、本件建前を基に稲富が自ら材料を提供して建物として完成させたものであり、稲富の施工価格とその提供した材料の価格の合算額は本件建前の価格を超えると認められるから、本件建物の所有権は稲富に帰属し、稲富と上告人の合意により上告人に帰属した、(四) 被上告人は、本件建前が本件建物の構成部分となってその所有権を失ったことにより、本件建前の価格相当の損失を被り、他方、上告人は、本件建前を基に建物を完成させることを稲富に請け負わせ、その請負代金も本件建前分を除外した部分に対して支払われたから、本件建前価格に相当する利得を得た、(五) したがって、上告人は被上告人に対し、民法二四六条、二四八条により、本件建前価格に相当する七六五万六〇〇〇円(下請代金二九〇〇万円の出来高二六・四パーセントに相当する額)を支払う義務がある、と判断した。

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
建物建築工事請負契約において、注文者と元請負人との間に、契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合に、当該契約が中途で解除されたときは、元請負人から一括して当該工事を請け負った下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、注文者と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、当該出来形部分の所有権は注文者に帰属すると解するのが相当である。けだし、建物建築工事を元請負人から一括下請負の形で請け負う下請契約は、その性質上元請契約の存在及び内容を前提とし、元請負人の債務を履行することを目的とするものであるから、下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場に立つものにすぎず注文者のためにする建物建築工事に関して、元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはないからである。
これを本件についてみるのに、前示の事実関係によれば、注文者である上告人と元請負人である住吉建設との間においては、契約が中途で解除された場合には出来形部分の所有権は上告人に帰属する旨の約定があるところ、住吉建設倒産後、本件元請契約は上告人によって解除されたものであり、他方、被上告人は、住吉建設から一括下請負の形で本件建物の建築工事を請け負ったものであるが、右の一括下請負には上告人の承諾がないばかりでなく、上告人は、住吉建設が倒産するまで本件下請契約の存在さえ知らなかったものであり、しかも本件において上告人は、契約解除前に本件元請代金のうち出来形部分である本件建前価格の二倍以上に相当する金員を住吉建設に支払っているというのであるから、上告人への所有権の帰属を肯定すべき事情こそあれ、これを否定する特段の事情を窺う余地のないことが明らかである。してみると、たとえ被上告人が自ら材料を提供して出来形部分である本件建前を築造したとしても、上告人は、本件元請契約における出来形部分の所有権帰属に関する約定により、右契約が解除された時点で本件建前の所有権を取得したものというべきである。
四 これと異なる判断の下に、被上告人は上告人と住吉建設との間の出来形部分の所有権帰属に関する合意に拘束されることはないとして、本件建前の所有権が契約解除後も被上告人に帰属することを前提に、その価格相当額の償金請求を認容した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。
そして前記説示に徴すれば、被上告人の上告人に対する償金請求は理由のないことが明らかであるから、これを失当として棄却すべきであり、これと同趣旨の第一審判決は正当であるから、原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、右部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官可部恒雄の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+補足意見
裁判官可部恒雄の補足意見は、次のとおりである。
一 本件は、注文者甲と元請負人乙及び下請負人丙とがある場合に、乙が倒産したときは甲丙間の法律関係はどのようなものとして理解さるべきか、との論点が中心となる事案で、請負関係について実務上しばしば遭遇する典型的事例の一つであり、本件において下請負人丙(被上告人)の請求を排斥した第一審判決を取り消した上これを認容すべきものとした原判決の理由中に、右甲乙丙三者間の法律関係につき特段の言及をした説示が見られるので、法廷意見に補足して、私の考えるところを述べておくこととしたい。
二 原判決は、その理由の三の1において、上告人甲と乙との間の元請契約には、甲は工事途中で右契約を解除することができ、その場合乙が施工した出来形部分の所有権は甲に帰属する旨の条項が設けられ、その後、右契約は解除されたが、右特約条項は注文者甲と元請負人乙との間の約定であって、下請負人たる被上告人丙を拘束するものではなく、乙丙間の下請契約には、丙が施工した出来形部分の所有権の帰属に関する特約はなされていなかったから、右元請契約の解除により直ちに本件建前の所有権が甲に移転する理はないと解される旨を判示した。
甲乙丙三者間の法律関係は原判決説示のようなものとして理解され得るか、これが本件の問題点である。
三 本件事案の概要は、注文者甲がその所有地上に家屋を築造しようとして乙に請け負わせたところ、乙は注文者甲と関りなくこれを一括して丙に下請させ、丙が乙との間の契約に従って施工中に元請負人乙が倒産した、甲は工事請負代金中の相当部分を乙に支払済みであったが、乙から丙への下請代金は支払われていなかった、というものである。
そして、本件において被上告人丙が建築工事を取り止めた時点における出来形部分の状態は、法廷意見に記述のとおりであるが、本件において工事を施工したのは一括下請負人たる丙のみであり、材料は丙が提供し、工事施工の労賃は丙の出捐にかかるものである。したがって、この点のみに着目すれば、出来形部分は丙の所有というべきものとなろう。工事途中の出来形部分の所有権は、材料の提供者が請負人である場合は、原則として請負人に帰属する、というのが古くからの実務の取扱いであり、この態度は施工者が下請負人であるときも異なるところはない。
四 しかし、此処で特段の指摘を要するのは、工事途中の出来形部分に対する請負人(下請負人を含む)の所有権が肯定されるのは、請負人乙の注文者甲に対する請負代金債権、下請についていえば丙の元請負人乙に対する下請代金債権確保のための手段としてである(注)という基本的な構成についての理解が、従前の実務上とかく看過されがちであったことである。
注 この点をつとに指摘した裁判例として、東京高裁昭和五四年四月一九日判決・判例時報九三四号五六頁を挙げることができよう。
本件において、下請負人丙の出来形部分に対する所有権の帰属の主張が、丙の元請負人乙に対する下請代金債権確保のための、いわば技巧的手段であり、かつ、それにすぎないものであることは、丙が出来形部分の収去を土地所有者甲から求められた局面を想定すれば、容易に理解され得るであろう。
すなわち、元請負人乙に対する丙の代金債権確保のために、下請負人丙の出来形部分に対する所有権を肯定するとしても、敷地の所有者(又は地上権、賃借権等を有する者)は注文者甲であって、丙はその敷地上に出来形部分を存続させるための如何なる権原をも有せず、甲の請求があればその意のままに、自己の費用をもって出来形部分を収去して敷地を甲に明け渡すほかはない。丙が甲の所有(借)地上に有形物を築造し、甲がこれを咎めなかったのは、一に甲乙間に元請契約の存するが故であり、丙による出来形部分の築造は、注文者甲から工事を請け負った乙の元請契約上の債務の履行として、またその限りにおいて、甲によって承認され得たものにほかならない。
五 本件の法律関係に登場する当事者は、まず注文者たる甲及び元請負人乙であり、次いで乙から一括下請負をした丙であるが、この甲、乙、丙の三者は平等並立の関係にあるものではない。基本となるのは甲乙間の元請契約であり、元請契約の存在及び内容を前提として、乙丙間に下請契約が成立する。比喩的にいえば、元請契約は親亀であり、下請契約は親亀の背に乗る子亀である。丙は乙との間で契約を締結した者で、乙に対する関係での丙の権利義務は下請契約によって定まるが、その締結が甲の関与しないものである限り、丙は右契約上の権利をもって甲に直接対抗することはできず(下請契約上の乙、丙の権利義務関係は、注文者甲に対する関係においては、請負人側の内部的事情にすぎない)、丙のする下請工事の施工も、甲乙間の元請契約の存在と内容を前提とし、元請契約上の乙の債務の履行としてのみ許容され得るのである。
このように、注文者甲に対する関係において、下請負人丙はいわば元請負人乙の履行補助者的立場にあるものにすぎず、下請契約が元請契約の存在と内容を前提として初めて成立し得るものである以上、特段の事情のない限り、丙は、契約が中途解除された場合の出来形部分の所有権帰属に関する甲乙間の約定の効力をそのまま承認するほかはない。甲に対する関係において丙は独立平等の第三者ではなく、基本となる甲乙間の約定の効力は、原則として下請負人丙にも及ぶものとされなければならない。子亀は親亀の行先を知ってその背に乗ったものであるからである。ただし、甲が乙丙間の下請契約を知り、甲にとって不利益な契約内容を承認したような場合(法廷意見にいう特段の事情─甲と丙との間の格別の合意─の存する場合)は別であるが、このような例外的事情は通常は認められ難いであろう(甲丙間に格別の合意がない限り、甲が丙の存在を知っていたか否かによって結論が左右されることはない。法廷意見中に、上告人は本件下請契約の存在さえ知らなかったものである旨言及されているのは、単なる背景的事情の説明にほかならない)。
六 しかるに原判決が、前記のように、中途解除の場合の出来形部分の所有権帰属についての特約は甲乙間の約定であって、下請負人丙を拘束するものでないとしたのは、さきに見たような元請契約と下請契約との関係、下請負人丙の地位が注文者甲に対する関係においては、元請負人乙の履行補助者的地位にとどまることを忘れたものとの非難を免れないであろう。
もとより、下請負人丙のための債権確保の要請も考慮事項の一たるを失わない。しかし、この点における丙の安否は、もともと、基本的には元請負人乙の資力に依存するものであり、事柄は乙と注文者甲との間においても共通である。ただ、甲乙間においては、通常、乙の施工の程度が甲の代金支払に見合ったものとなるので(したがって、乙が材料を提供した場合でも、実質的には甲が材料費を負担しているのが実態ということができ、この点を度外視して材料の提供者が乙であるか否かを論ずるのは、むしろ空疎な議論というべきであろう)、出来形部分に対する所有権の乙への帰属の有無がその死命を制することにはならず、もともと甲のための建物としての完成を予定されている出来形部分の所有権の甲への帰属を認めた上で、甲乙間での代金の精算を図ることが社会経済上も理に適い、また、乙にとっても不利益とならないのが通常であるといえよう。
他方、下請の関係についていえば、下請負人丙の請負代金債権は、元請負人乙に対するものであって、甲とは関りがない。一般に、出来形部分に対する所有権の請負人への帰属は、請負代金債権確保のための技巧的手段であるが、最終的には敷地に対する支配権を有する注文者甲に対抗できないことは、さきに見たとおりであって、元請負人乙の資力を見誤った丙の保護を、下請契約に関りのない、しかも乙に対しては支払済みの注文者甲の負担において図るのは、理に合わないことである(注)。
注 これを先例になぞらえていえば、本来丙において乙に対して自ら負担すべき代金回収不能の危険を甲に転嫁しようとするもの、ということができよう(最高裁昭和四九年(オ)第一〇一〇号同五〇年二月二八日第二小法廷判決・民集二九巻二号一九三頁参照)。
七 もし、甲が乙に対して全く代金の支払をせず、又はそれが過少であるのに、倒産した乙からの下請負人丙が一定の出来形を築造していた場合には、現実の出捐をした丙に対する甲の不当利得の成立を考える余地があろう。しかし、問題の多い不当利得による構成よりも、出来形部分の所有権の帰属に関する甲乙間の特約の効力が丙に及ぶことを端的に肯定した上で、甲に対する乙の代金債権の丙による代位行使を認める構成こそ、遥かによく実情に合致する。
これに対し、丙の施工による出来形部分に見合う代金が既に甲から乙に支払済みであるときは、乙の履行補助者的地位にある丙の下請代金債権の担保となるものは、乙の資力のみである(丙の保護、丙のための権利確保の方策は、甲ではなく乙との関係においてこそ考慮されなければならない)。一見酷であるかに見えるこの結論は、元請と下請という契約上の二重構造(子亀は親亀の背の上でしか生きられないという仕細み)から来る、いわば不可避の帰結にほかならず、これと異なる見地に立って、下請契約に関与せずしかも乙に対しては支払済みの注文者甲に請負代金の二重払いを強いることとなる原判決の見解を、丙の本訴請求に対する結論として選択する余地はないものといわなければならない。
八 従前、請負関係の紛争に関する実務の取扱いは、請負人が材料を提供した場合の出来形部分の所有権は原則として請負人に帰属するとの見地に立ち、むしろこれを最上位の指導原理として紛争の処理に当たって来たといえるが、その結果、元請負人の倒産事例において、出来形部分に見合う代金を元請負人乙に支払済みの注文者甲と、乙から下請代金の支払を受けていない下請負人丙との利害の調整に苦しみ、あるいは出来形部分の所有者である丙の注文者甲に対する明渡請求を権利の濫用として排斥し(東京高裁昭和五八・七・二八判決・判例時報一〇八七号六七頁)、あるいは出来高に見合う代金を支払った上で甲のした保存登記の抹消を求める丙の請求を権利の濫用として排斥している(東京地裁昭和六一・五・二七判決・同一二三九号七一頁)。私は、請負人が材料を提供した場合の出来形部分の所有権は原則として請負人に帰属するとの従前の実務の取扱いとの整合性に配慮しつつ、それぞれの事案において妥当な結論を導き出そうとしたこれら裁判例に見られる努力に敬意を表するにやぶさかではないが、丙の請負代金債権確保の手段として出来形部分に対する所有権の丙への帰属を肯定しようとする解釈上の努力が、それにも拘らず当の出来形部分の存在それ自体が甲の収去敷地明渡しの請求に抗する術がないという、より一層基本的な構造の認識に欠けていた点につき改めて注意を喚起し、元請倒産事例についての実務の取扱いが、一種の袋小路を思わせるような状態から脱却して行くことを期待したいと思う。
(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 大野正男)

++解説
《解  説》
本件は、下請が材料を提供して施工した工事出来形の所有権の帰属が争われた事件である。確定された事実関係はおおよそ次のとおりである。注文者Yが自分の土地に建物を建てることを建設業者Aに発注したところ、Aがこの工事を一括して建設業者Xに下請に出し、実際の工事はXが自ら材料を提供して行った。しかし、工事途中でAが倒産してしまったため、YはAとの契約を解除し、他の業者に依頼して建物を完成させた。YとAとの請負契約(元請契約)では、注文者は工事中契約を解除することができ、その場合の工事の出来形部分は注文者の所有とするとの約定があったが、AとXとの契約(下請契約)にはこのような約定はなかった。元請契約も下請契約もその代金は分割支払の約定であり、Yは元請契約に従ってAの倒産時までに代金の約五六パーセントをAに支払っていたが、AはXに下請代金を全く支払わないままに倒産した。Xは工事全体の約二六パーセント程度まで施工していたが、建物といえる段階にまでは達していなかった。ちなみに、注文者の承諾のない一括下請は建設業法で禁止されているところであるが(同法二二条)、本件の一括下請もYの承諾はなく、YはAが倒産するまでXが下請していたことも知らなかった。
右のような事実関係の下で、Xは、Yに対して、完成建物の所有権はXに帰属するとして建物明渡、所有権確認を求め、予備的に、完成建物の所有権はXにないとしても倒産時までに施工した出来形(建前)はXの所有であるとして民法二四八条、二四六条に基づく償金の支払を求めた。第一審(本誌六六〇号一四二頁)は、完成建物はもちろん、出来形(建前)の所有権もYに帰属するとしてXの請求をいずれも棄却したが、第二審(本誌六九五号二一九頁)は、完成建物の所有権は認めなかったものの、出来形の所有権はXに帰属するとして、予備的請求である償金請求を認容したため、Yから上告された。本判決は、出来形(建前)の所有権もYに帰属するとして、第二審判決を破棄し、第一審判決に対するXの控訴を棄却した。
請負契約において、完成建物の所有権が注文者と請負人のいずれに帰属するかについては、判例は、周知のように、特約があればこれに従うが、特約がない場合には、材料を誰が提供したかによって分け、注文者が材料の全部又は主要部分を提供したときは原始的に注文者に帰属するが、請負人が材料の全部又は主要部分を提供したときは、完成建物は原始的に請負人に帰属し、引渡によって注文者に所有権が移転するとの理論を採っている。この理は、下請負人がいる場合も同様であるとされている(大判大4・10・22民録二一輯一七四六頁。なお、最判昭54・1・25民集三三巻一号二六頁もこのことを前提としているものと思われる。)。学説は、かつては判例の立場を支持するのが通説(我妻・債権各論中二・六一六頁)といわれてきたが、近時は、材料を提供したのが請負人であっても原始的に注文者に帰属するとする説がむしろ有力である(広中・注釈民法(16)一〇三頁、加藤・民法教室債権編一二〇頁、来栖・契約法四六七頁など)。
それでは、判例理論を前提にすると、注文者と元請との元請契約には所有権帰属の特約があるが、元請と下請との下請契約には特約がなく、かつ、材料を下請が提供して施工した場合には、所有権は誰に帰属するのであろうか。本件では正にこの点が争われたのである。
下請負人と注文者との間で完成建物の所有権帰属が争われた事例は、判例雑誌に掲載されたものだけをみても、比較的多数ある(大阪高判昭52・7・6ジュリ六五二号六頁、大阪地判昭53・10・30本誌三七五号一〇九頁、東京地判昭57・7・9本誌四七九号一二四頁、判時一〇六三号一八九頁、東京高判昭58・7・28判時一〇八七号六七頁、仙台高決昭59・9・4本誌五四二号二二〇頁、東京高判昭59・10・30判時一一三九号四二頁、東京地判昭61・5・27判時一二三九号七一頁、東京地判昭63・4・22金判八〇七号三四頁など)。その多くは本件と同じように元請業者が倒産し、注文者は代金を支払っているが、下請には下請代金の全部又は一部が支払われていないケースである。このような場合に注文者と下請のどちらを保護すべきかという問題になるが、下級審の裁判例でみる限り、前述の判例理論を前提にしつつも、あるいは注文者、元請、下請の三者間に暗黙の合意があると認定したり、あるいは下請からの所有権の主張は権利濫用であるとしたり、あるいは下請は元請の履行補助者、履行代行者にすぎないとして下請の権利主張を制限するなど、注文者を保護しようとするのが実務の傾向であるといってよい。
本判決は、注文者の承諾がないままに一括下請されたケースにつき、このような下請負人は元請負人の履行補助者的立場にあるものであるから注文者に対して元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはないとして、元請契約の約定によって出来形の所有権帰属も決せられるとした。注文者の関与できない元請や下請など工事をする側の内部事情いかんによって元請契約で定められた注文者の地位や権利が変動し、結果として注文者が代金の二重払いを余儀なくさせられるような事態になることは不合理であるとの判断に基づくものと思われる。紛争事例が多くみられる注文者と下請の関係を扱った最高裁判決であり、実務に与える影響が大きい判例といえよう。なお、本判決には可部裁判官の詳細な補足意見が付されている。

2.小問1(2)について(基礎編)

3.小問1について(応用編)
・建物の所有権が注文者に原始的に帰属すると解した場合、代金債権担保は留置権によることになり、請負人が所有権を原始取得するとしたときには、所有権の所在を通じて代金債権担保が図られることになる!

4.小問2について
添付=所有権を異にする物が一体化したり、あるいは所有者でない者が目的物に手を加えた場合に適用される制度。
本来、契約関係にない、あるいは当該契約では所有権移転を正統化することのできない場合に登場。

・建物の所有権帰属を動産の付合に関する規定(243条)によって判断するか、加工に関する規定(246条)で判断するか?
+(動産の付合)
第二百四十三条  所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。

+(加工)
第二百四十六条  他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する
2  前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。

+判例(S54.1.25)
理由
上告代理人吉田鐵次郎の上告理由について
建物の建築工事請負人が建築途上において未だ独立の不動産に至らない建前を築造したままの状態で放置していたのに、第三者がこれに材料を供して工事を施し、独立の不動産である建物に仕上げた場合においての右建物の所有権が何びとに帰属するかは、民法二四三条の規定によるのではなく、むしろ、同法二四六条二項の規定に基づいて決定すべきものと解する。けだし、このような場合には、動産に動産を単純に附合させるだけでそこに施される工作の価値を無視してもよい場合とは異なり、右建物の建築のように、材料に対して施される工作が特段の価値を有し、仕上げられた建物の価格が原材料のそれよりも相当程度増加するような場合には、むしろ民法の加工の規定に基づいて所有権の帰属を決定するのが相当であるからである。
これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、(1) 上告人の被相続人であるAは、被上告人から本件建物の建築工事を請け負つた寺岡建設株式会社(旧商号尼新建設工業株式会社)から昭和四〇年六月一六日さらに右工事の下請けをして建築に着手し、同年七月一五日ごろには棟上げを終え、屋根下地板を張り終えたが、寺岡建設が約定の請負報酬を支払わなかつたため、その後は屋根瓦も葺かず、荒壁も塗らず、工事を中止したまま放置した、(2) そこで、被上告人は、寺岡建設との請負契約を合意解除し、同年一〇月一五日、大豊建設工業株式会社に対し、工事進行に伴い建築中の建物の所有権は被上告人の所有に帰する旨の特約を付して右建築の続行工事を請け負わせた、(3) 大豊建設は、右請負契約に従い自らの材料を供して工事を行い、Aの大豊建設に対する仮処分の執行により工事の続行が差し止められた同年一一月一九日までに、右建前に屋根を葺き、内部荒壁を塗り上げ、外壁もモルタルセメント仕上げに必要な下地板をすべて張り終えたほか、床を張り、電気、ガス、水道の配線、配管工事全部及び廊下の一部コンクリート打ちを済ませ、未完成ながら独立の不動産である建物とした、(4) 右未完成の建物の価格は少なく見積つても四一八万円であるのに対し、Aが建築した前記建前のそれは多く見積つても九〇万円を超えるものではなかつたというのである。
右事実によれば、大豊建設が行つた工事は、単なる修繕というべきものではなく、Aが建築した建前に工作を加えて新たな不動産である本件建物を製造したものということができる。ところで、右の場合において民法二四六条二項の規定に基づき所有権の帰属を決定するにあたつては、前記大豊建設の工事によりAが建築した建前が法律上独立の不動産である建物としての要件を具備するにいたつた時点における状態に基づいてではなく、前記昭和四〇年一一月一九日までに仕上げられた状態に基づいて、大豊建設が施した工事及び材料の価格とAが建築した建前のそれとを比較してこれをすべきものと解されるところ、右両者を比較すると前記のように前者か後者を遥かに超えるのであるから、本件建物の所有権は、Aにではなく、加工者である大豊建設に帰属するものというべきである。そして、大豊建設と被上告人との間には、前記のように所有権の帰属に関する特約が存するのであるから、右特約により、本件建物の所有権は、結局被上告人に帰属するものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山亨 裁判官 戸田弘 裁判官 中村治朗)