1.小問1について(基礎編)
+(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
+(取消しの効果)
第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
+(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
+判例(H21.11.9)
理由
上告代理人前田陽司、同長倉香織の上告受理申立て理由について
1 本件は、被上告人が、貸金業者であるA株式会社及び同社を吸収合併した上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の制限利率を超えて利息として支払われた部分を元金に充当すると、過払金が発生しており、かつ、それにもかかわらず、上告人が残元金の存在を前提とする支払の請求をし過払金の受領を続けた行為により被上告人が精神的苦痛を被ったと主張して、不当利得返還請求権に基づき、過払金合計1068万4265円の返還等を求めるとともに、民法704条後段に基づき、過払金の返還請求訴訟に係る弁護士費用相当額の損害賠償108万円とこれに対する遅延損害金の、同法709条に基づき、慰謝料及び慰謝料請求訴訟に係る弁護士費用相当額の損害賠償105万円とこれに対する遅延損害金の各支払を求める事案である。
なお、不当利得返還請求権に基づき過払金の返還等を求める部分は、原審においてその訴えが取り下げられ、また、民法709条に基づき損害賠償の支払を求める部分については、同請求を棄却すべきものとした原判決に対する被上告人からの不服申立てがなく、当審における審理判断の対象とはなっていない。
2 原審は、次のとおり判断して、被上告人の民法704条後段に基づく損害賠償請求を認容すべきものとした。
民法704条後段の規定が不法行為に関する規定とは別に設けられていること、善意の受益者については過失がある場合であってもその責任主体から除外されていることなどに照らすと、同条後段の規定は、悪意の受益者の不法行為責任を定めたものではなく、不当利得制度を支える公平の原理から、悪意の受益者に対し、その責任を加重し、特別の責任を定めたものと解するのが相当である。したがって、悪意の受益者は、その受益に係る行為に不法行為法上の違法性が認められない場合であっても、民法704条後段に基づき、損害賠償責任を負う。
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
不当利得制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が公平の観念に基づいて受益者にその利得の返還義務を負担させるものであり(最高裁昭和45年(オ)第540号同49年9月26日第一小法廷判決・民集28巻6号1243頁参照)、不法行為に基づく損害賠償制度が、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものである(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)のとは、その趣旨を異にする。不当利得制度の下において受益者の受けた利益を超えて損失者の被った損害まで賠償させることは同制度の趣旨とするところとは解し難い。
したがって、民法704条後段の規定は、悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて、不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず、悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではないと解するのが相当である。
4 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。これと同旨をいう論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、上告人が残元金の存在を前提とする支払の請求をし過払金の受領を続けた行為が不法行為には当たらないことについては、原審が既に判断を示しており、その判断は正当として是認することができるから、被上告人の民法704条後段に基づく損害賠償請求は理由がないことが明らかである。よって、被上告人の民法704条後段に基づく弁護士費用相当額の損害賠償108万円及びこれに対する遅延損害金の請求を107万1247円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却した第1審判決のうち上告人敗訴部分を取り消し、同部分に関する被上告人の請求を棄却し、上記請求に係る被上告人の附帯控訴を棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫)
++解説
《解 説》
1 事案の概要
本件は,借主であるXが,貸金業者であるYに対し,Yとの間の継続的な金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法所定の制限を超えて利息として支払われた部分を元金に充当すると過払金が発生しており,かつ,それにもかかわらず,Yが残元金の存在を前提とする支払の請求をし過払金の受領を続けた行為によりXが精神的苦痛を被ったと主張して,その訴訟追行を弁護士に委任の上,次の三つの請求,すなわち,①不当利得返還請求権に基づく約1068万円の過払金返還請求(ただし,第1審判決認容額の全額弁済があり,原審においてその訴えが取り下げられたため,以下,説明を省略する。),②民法704条後段に基づく過払金返還請求訴訟に係る弁護士費用108万円の損害賠償請求,③民法709条に基づく慰謝料及び慰謝料請求訴訟に係る弁護士費用の合計105万円の損害賠償請求をする事案である。判示事項及び判決要旨は,上記②の民法704条後段に基づく損害賠償請求に関するものである。
2 第1審判決及び原判決
第1審は,上記③の民法709条に基づく損害賠償請求につき,Yが残元金の存在を前提とする支払の請求をし過払金の受領を続けた行為は不法行為を構成しないと判断する一方,上記②の民法704条後段に基づく損害賠償請求につき,特段の説示をすることなく,過払金返還請求訴訟に係る弁護士費用として約107万円を認容し,1万円弱を棄却した。
原審は,上記③の民法709条に基づく損害賠償請求につき,第1審と同じく不法行為の成立を否定する一方,上記②の民法704条後段に基づく損害賠償請求につき,民法704条後段の規定を,不法行為責任を定めたものではなく,悪意の受益者に対する責任を加重した特別の責任を定めたものと解して,Xの附帯控訴に基づき,過払金返還請求訴訟に係る弁護士費用としてXの請求額全額の108万円を認容した。
3 本判決
本判決は,判決要旨のとおり,「民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて,不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではない」と判示して,原判決中Y敗訴部分を破棄し,第1審判決中,民法704条後段に基づく損害賠償請求に係るY敗訴部分(約107万円の請求認容部分)を取り消して同部分に関するXの請求を棄却し,民法704条後段に基づく損害賠償請求に係るXの附帯控訴(1万円弱の請求棄却部分についてのもの)を棄却した。
4 説明
(1) 民法704条後段の規定の趣旨を考える実益は,同規定の趣旨の解釈に応じてその損害賠償責任の成立要件が相違することにある。すなわち,民法704条後段の規定の趣旨を,原判決のように,悪意の受益者に対する責任を加重した特別の責任を定めたものと解する見解(以下「特別責任説」という。)によれば,悪意の受益者であれば,それだけで民法704条後段の損害賠償責任を負担することになり,不法行為における故意・過失や違法性の要件は,その損害賠償責任の成立要件とはならないことになる。他方,民法704条後段の規定の趣旨を,本判決のように,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて不法行為責任を負うことを注意的に規定したものと解する見解(以下「不法行為責任説」という。)によれば,仮に悪意の受益者であっても,その不法行為責任の成否は,例えば,一般不法行為であれば民法709条の成立要件を充足するか否かに係り,同条の要件充足性を別途検討する必要があることになる。
(2)下級審裁判例,学説をみると,民法704条後段の規定を根拠とする訴えがほとんどなかったこともあって,従来の下級審裁判例でこの点を判断したものは見当たらないが,近時の過払金返還請求訴訟において,法定利息を定める民法704条前段の規定にとどまらず,損害賠償責任を定める民法704条後段の規定も活用しようとする訴えが相当数提起された結果,この点を判断する下級審裁判例も多くみられるようになった。不法行為責任説を採用したと思われるものが多数であるが,高裁レベルにおいて特別責任説を採用したものも若干存する(例えば,札幌高判平19.11.9判時2019号26頁)。学説は,立法当時の議論までさかのぼってみると,民法704条後段は不法行為法上の規定と同じであるものの,例外であるはずの現存利益の返還義務が不当利得法上の原則規定である民法703条に規定されたため,その拡張的解釈を阻止するために確認的に民法704条後段の規定を置くというものであり,特別責任説を前提とする議論は見当たらない。その後,特別責任説に立つ少数説が登場したものの(例えば,末弘嚴太郎『債権各論』998頁は「此義務ハ本條ニ基ク特別ノ賠償義務ニシテ不法行為ニ基クモノニアラズ。蓋シ損失者ニ損失アル以上敢テ権利侵害ノ如キ要件ヲ必要トセザルヲ以テナリ」とする。),現在は不法行為責任説がほぼ通説,少なくとも多数説を占める状況にある(例えば,潮見佳男『基本講義債権各論Ⅰ』279頁は,「(民法)704条に言う損害賠償は,不当利得を理由とするではなく,むしろ不法行為を理由とするものであって,利得返還によっても填補されない損害につき受益者の故意・過失を要件としてこの者に賠償を命じたものと言うべきです。」とする。)。
(3)特別責任説,不法行為責任説の理論的当否は,規定の位置や文理という形式のみによって決せられるものではなく,不当利得制度,不法行為に基づく損害賠償制度の趣旨の基本的理解に関わる問題である。不当利得制度が財産的価値の移動の矛盾の調整にあるのに対し,不法行為に基づく損害賠償制度が損害のてん補による被害者の救済にあることは本判決の判示するとおりであり,両制度はその趣旨を異にするといわざるを得ない。特別責任説に立つかつての学説の中には,不当利得制度を被害者救済のための制度と位置付けるものがあり,「不当利得制度を支える公平の原理」を根拠として掲げる本件の原判決も,そのような理解に立つものとも推測されるが,判例の理解する不当利得制度の趣旨とは相容れないと思われる。本判決が「不当利得制度の下において受益者の受けた利益を超えて損失者の被った損害まで賠償させることは同制度の趣旨とするところとは解し難い。」と判示するのは,以上のような理解に基づくものと解される。
(4) もっとも,不法行為責任説を前提としても,最二小判平19.7.13民集61巻5号1980頁,判タ1252号110頁,判時1984号26頁,金法1823号85頁,金判1279号27頁等にいう悪意の受益者と推定される貸金業者であれば,故意過失,違法性といった不法行為の帰責要件も充足するはずであるとの主張も予想されるところである。しかし,貸金業者が借主に対し貸金の支払を請求し借主から弁済を受ける行為が不法行為を構成するのは,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られ,この理は当該貸金業者が民法704条所定の悪意の受益者であると推定されるときであっても異ならない旨判示した最二小判平21.9.4民集63巻7号登載予定,判タ1308号111頁,判時2058号59頁,金法1885号32頁(以下「平成21年判決」という。)によれば,貸金業者についての「悪意の受益者」推定法理は不法行為の適用場面にまで妥当するものではないから,上記主張を採用することができないことは明らかである。したがって,過払金返還請求訴訟の原告である借主は,その損害賠償請求を民法704条後段に基づくものと構成した場合であっても,不当利得の適用場面において貸金業者が悪意の受益者と推定されるか否かにかかわらず,不法行為の適用場面においては平成21年判決の示す一般的な判断基準に従って貸金業者の行為が不法行為の要件を充足することを個別具体的に主張立証する必要があることになる。
(5) また,本判決によれば,民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて不法行為責任を負うことを念のために明らかにした注意的規定であるにすぎず,独立した権利根拠規定ではない以上,受訴裁判所としては,原告が専ら特別責任説に基づいて民法704条後段に基づく損害賠償請求をすることが明らかであるなど特段の事情のない限り,その訴訟物は不法行為に基づく損害賠償請求であると善解して審理判断することになると思われる。本判決が,上記②の民法704条後段に基づく損害賠償請求を棄却するに当たり,同請求はそれ自体失当なものであるなどと判示することなく,上記③の民法709条に基づく損害賠償請求が上告審における審理判断の対象とはなっていないにもかかわらず,不法行為に当たらない旨の原審の判断を正当として是認することができるとした上で理由がないと判示したのは,以上のような理解に基づくものと解される。
5 本判決の意義
本判決は,不当利得や不法行為の制度的理解に関わる民法704条後段の規定の趣旨について当審の判断を示したものとして重要な意義を有するものであり,下級審に多数係属する同種訴訟へ与える影響も大きいものと思われる。また,平成21年判決において不法行為の成立が否定された貸金業者の具体的行為が過払金を受領する行為のみであったのに対し,本判決は,平成21年判決の一般的な判断基準を当然の前提としつつ,貸金業者の過払金を請求する行為についても不法行為の成立を否定した点でも事例的意義を有するものとして,実務の参考になるものと思われる。
・錯誤=実際の効果意思と表示行為から推測される効果意思が異なり、かつ、表意者がそのことを自覚していない場合を指す。
2.小問1について(応用編)
・賃借権の即時取得の成否
認められない
←不利益が小さいから認めるほどのことはない。
・動産の場合にも賃貸借契約は移転するのか?
不動産の場合とは少し異なる。
・賃料の請求は?
178条の第三者→指図による占有移転によってされる。
+(指図による占有移転)
第百八十四条 代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。
3.小問2について(基礎編)
4.小問2について(応用編)
+(解除の効果)
第五百四十五条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
・動産賃貸借に対抗力がないとするなら、Dが対抗要件を備えることは理論的にはありえないから、545条1項ただし書きの第三者には当たらないことになる!
・その際、Aは対抗要件を備えている必要もない
←解除の遡及効によって、Cは最初から所有権者ではなかったことになり、Dは無権利者であるCから本件機械を賃借した者とされるため、178条の第三者には当たらないはずだから!!!
・AはDに使用料相当額を請求できるか?
+(善意の占有者による果実の取得等)
第百八十九条 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
2 善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
5.まとめ~特にAD間の関係について
・動産の賃貸借は、対抗力認めてまで保護する必要はないが、詐欺取消しに当たっては、その利益状況に応じた形で、対抗力とは別個独立に、独自の保護が第三者に与えられている!