1.補助参加の利益の意義
+第三節 訴訟参加
(補助参加)
第四十二条 訴訟の結果について利害関係を有する第三者は、当事者の一方を補助するため、その訴訟に参加することができる。
(補助参加の申出)
第四十三条 補助参加の申出は、参加の趣旨及び理由を明らかにして、補助参加により訴訟行為をすべき裁判所にしなければならない。
2 補助参加の申出は、補助参加人としてすることができる訴訟行為とともにすることができる。
(補助参加についての異議等)
第四十四条 当事者が補助参加について異議を述べたときは、裁判所は、補助参加の許否について、決定で、裁判をする。この場合においては、補助参加人は、参加の理由を疎明しなければならない。
2 前項の異議は、当事者がこれを述べないで弁論をし、又は弁論準備手続において申述をした後は、述べることができない。
3 第一項の裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
(補助参加人の訴訟行為)
第四十五条 補助参加人は、訴訟について、攻撃又は防御の方法の提出、異議の申立て、上訴の提起、再審の訴えの提起その他一切の訴訟行為をすることができる。ただし、補助参加の時における訴訟の程度に従いすることができないものは、この限りでない。
2 補助参加人の訴訟行為は、被参加人の訴訟行為と抵触するときは、その効力を有しない。
3 補助参加人は、補助参加について異議があった場合においても、補助参加を許さない裁判が確定するまでの間は、訴訟行為をすることができる。
4 補助参加人の訴訟行為は、補助参加を許さない裁判が確定した場合においても、当事者が援用したときは、その効力を有する。
(補助参加人に対する裁判の効力)
第四十六条 補助参加に係る訴訟の裁判は、次に掲げる場合を除き、補助参加人に対してもその効力を有する。
一 前条第一項ただし書の規定により補助参加人が訴訟行為をすることができなかったとき。
二 前条第二項の規定により補助参加人の訴訟行為が効力を有しなかったとき。
三 被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げたとき。
四 被参加人が補助参加人のすることができない訴訟行為を故意又は過失によってしなかったとき。
2.補助参加の利益に関する判例とその評価
+判例(H15.1.24)
理由
本件抗告中相手方吉永町に関する部分について
本件抗告許可申立理由書には、相手方吉永町に関する抗告理由の記載がないから、本件抗告中相手方吉永町に関する部分は、不適法としてこれを却下すべきである。
その余の相手方らに対する抗告代理人加瀬野忠吉、同松井健二、同大林裕一、同永井一弘の抗告理由について
1 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
(1) 本件の本案訴訟(岡山地方裁判所平成11年(行ウ)第20号産業廃棄物処理施設設置不許可処分取消請求事件)は、抗告人が、岡山県知事に対し、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成9年法律第85号による改正前のもの。以下「廃棄物処理法」という。)15条に基づいてした岡山県和気郡吉永町都留岐字釜ヶ谷所在の土地を設置予定地とする廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(平成9年政令第353号による改正前のもの)7条14号ハ所定の産業廃棄物のいわゆる管理型最終処分場(以下「本件施設」という。)の設置許可申請に対して同知事から受けた不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)について、その取消しを請求する行政訴訟である。
(2) 本案訴訟において、相手方ら(相手方吉永町を除く。以下同じ。)は、本件施設の設置予定地を水源とする水道水ないし井戸水を飲料水等として使用しており、本件施設が設置されればその生命、健康が損なわれるおそれがあるなどと主張して、民訴法42条に基づき、被告を補助するため補助参加を申し出たところ、抗告人はこれに対して異議を述べた。
2 原々審は、相手方らの申出に係る補助参加を許す旨の決定をし、原審も、同決定に対する抗告人の抗告を棄却した。その理由の要旨は、本案訴訟において被告が敗訴した場合には、本件施設が建設され、その操業により、相手方らの生命、身体の安全が脅かされるおそれが生じることなどから、相手方らは、民訴法42条所定の「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」に当たるというにある。
3 本件の本案訴訟において本件不許可処分を取り消す判決がされ、同判決が確定すれば、岡山県知事は、他に不許可事由がない限り、同判決の趣旨に従い、抗告人に対し、本件施設設置許可処分をすることになる(行政事件訴訟法33条2項)。ところで、廃棄物処理法15条2項2号は、産業廃棄物処理施設である最終処分場の設置により周辺地域に災害が発生することを未然に防止するため、都道府県知事が産業廃棄物処理施設設置許可処分を行うについて、産業廃棄物処理施設が「産業廃棄物の最終処分場である場合にあっては、厚生省令で定めるところにより、災害防止のための計画が定められているものであること」を要件として規定しており、同号を受けた廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(平成10年厚生省令第31号による改正前のもの)12条の3は、災害防止のための計画において定めるべき事項を規定している。また、廃棄物処理法15条2項1号は、産業廃棄物処理施設設置許可につき、申請に係る産業廃棄物処理施設が「厚生省令(産業廃棄物の最終処分場については、総理府令、厚生省令)で定める技術上の基準に適合していること」を要件としているが、この規定は、同項2号の規定と併せ読めば、周辺地域に災害が発生することを未然に防止するという観点からも上記の技術上の基準に適合するかどうかの審査を行うことを定めているものと解するのが相当である。そして、人体に有害な物質を含む産業廃棄物の処理施設である管理型最終処分場については、設置許可処分における審査に過誤、欠落があり有害な物質が許容限度を超えて排出された場合には、その周辺に居住する者の生命、身体に重大な危害を及ぼすなどの災害を引き起こすことがあり得る。このような同項の趣旨・目的及び上記の災害による被害の内容・性質等を考慮すると、同項は、管理型最終処分場について、その周辺に居住し、当該施設から有害な物質が排出された場合に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって、上記の範囲の住民に当たることが疎明された者は、民訴法42条にいう「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」に当たるものと解するのが相当である。
以上の見地から考えると、本件施設から排出される有害物質により水源が汚染される事態が生じた場合に、これにより住民が直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲は、いまだ証拠をもって確定されているとはいえないものの、原審が適法に確定した事実関係によれば、相手方らにつき上記の疎明があったといえなくはないから、相手方らが民訴法42条にいう「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」に当たるとした原審の判断に違法があるとはいえず、結論においてこれを是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)
(1)判決の判断の枠組み
①「利害関係」
・法律上の利害関係を有する場合
=当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼす恐れがある場合をいう
+判例(H13.1.30)
理由
抗告代理人野島達雄の抗告理由について
1 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
(1)本件の本案訴訟(名古屋地方裁判所平成11年(ワ)第3675号取締役責任追及事件)は、抗告人の株主である相手方が、抗告人の取締役らに対し、同取締役らが取締役としての忠実義務に違反して、抗告人の第48期及び第49期の各決算における粉飾決算を指示し、又は粉飾の存在を見逃し、その結果、法人税等の過払をし、検査役に報酬を支払い、株主に利益配当するなどして、抗告人に損害を与えたと主張して、商法267条に基づき、損害賠償を請求する株主代表訴訟である。
(2)本案訴訟において、抗告人が取締役らのため補助参加を申し出たところ、相手方はこれに対して異議を述べた。
2 原審は、概要次のとおり判示して、抗告人の補助参加の申出を却下すべきものとした。
(1)補助参加の制度は、被参加人が勝訴判決を受けることにより補助参加人も利益を受ける関係にある場合に参加を認めるものであるから、被参加人が勝訴判決を受けることにより補助参加人が不利益を受ける関係にある場合に参加を認めることは、民事訴訟の構造に反することとなる。
(2)本案訴訟の訴訟物は、抗告人の取締役らに対する損害賠償請求権であり、判決主文における判断について、抗告人は取締役らとは実体法上の利害が相反し対立する関係にあることは明らかである。もし、取締役らへの補助参加を認めると、抗告人は自己に帰属し、自らがその存否について既判力を受ける損害賠償請求権につき、その存在を争う当事者のために訴訟行為をすることが許されるという関係になり、民事訴訟の構造に反する結果となるから、抗告人は、「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」ということはできない。
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1)民訴法42条所定の補助参加が認められるのは、専ら訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られ、単に事実上の利害関係を有するにとどまる場合は補助参加は許されない(最高裁昭和38年(オ)第722号同39年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事71号271頁参照)。そして、法律上の利害関係を有する場合とは、当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいうものと解される。
(2)【要旨】取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された株主代表訴訟において、株式会社は、特段の事情がない限り、取締役を補助するため訴訟に参加することが許されると解するのが相当である。けだし、取締役の個人的な権限逸脱行為ではなく、取締役会の意思決定の違法を原因とする、株式会社の取締役に対する損害賠償請求が認められれば、その取締役会の意思決定を前提として形成された株式会社の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがあるというべきであり、株式会社は、取締役の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を有するということができるからである。そして、株式会社が株主代表訴訟につき中立的立場を採るか補助参加をするかはそれ自体が取締役の責任にかかわる経営判断の一つであることからすると、補助参加を認めたからといって、株主の利益を害するような補助参加がされ、公正妥当な訴訟運営が損なわれるとまではいえず、それによる著しい訴訟の遅延や複雑化を招くおそれはなく、また、会社側からの訴訟資料、証拠資料の提出が期待され、その結果として審理の充実が図られる利点も認められる。
(3)これを本件についてみると、前記のとおり、本件は、抗告人の第48期及び第49期の各決算において取締役らが忠実義務に違反して粉飾決算を指示し又は粉飾の存在を見逃したことを原因とする抗告人の取締役らに対する損害賠償請求権を訴訟物とするものであるところ、決算に関する計算書類は取締役会の承認を受ける必要があるから(商法281条)、本件請求は、取締役会の意思決定が違法であるとして提起された株主代表訴訟である。そして、上記損害賠償請求権が認められて取締役らが敗訴した場合には、抗告人の第48期以降の各期の計算関係に影響を及ぼし、現在又は将来の取引関係にも影響を及ぼすおそれがあることが推認されるのであって、抗告人の補助参加を否定すべき特段の事情はうかがわれない。
4 以上によれば、原審の前記判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は裁判に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、前記説示によれば、抗告人の補助参加を許可すべきである。
よって、裁判官町田顯の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
+反対意見
裁判官町田顯の反対意見は、次のとおりである。
1 本件の本案訴訟は、抗告人の株主である相手方が抗告人の取締役らに対し、同取締役らが抗告人に対する忠実義務に違反し、その結果抗告人に損害を与えたと主張する株主代表訴訟である。したがって、相手方は抗告人のため(商法267条2項)訴訟を遂行するものであり、本案訴訟の訴訟物は抗告人の取締役らに対する損害賠償請求権であるから、抗告人は、訴訟の構造上も、実体法の権利上も取締役らと対立する関係にあるのであって、抗告人が取締役らのため補助参加することが許されないことは、原決定の述べるとおりである。
2 多数意見は、本件請求は取締役会の意思決定が違法であるとして提起された株主代表訴訟であるから抗告人の取締役らに対する補助参加が許されるとするが、本件本案訴訟において審判の対象となるのは、上記のとおり、取締役らの行動が取締役の負う忠実義務に違反するかどうかであって、その行動が取締役会の意思決定の際のものであっても、その意思決定そのものの適否や効力が審判の対象となるものではない。確かに、本件請求のように粉飾決算を指示し、又は粉飾の事実を見逃したことを忠実義務違反の理由とする場合には、粉飾決算の有無が判断されることとなるが、それは取締役個人の忠実義務違反の存否を確定するために判断されるものであって、抗告人がその判断に利害関係を有するとしても、それは事実上のものにとどまり、補助参加の要件としての法律上の利害関係に当たるものと解することはできない。したがって、この意味からも本件補助参加は、許されない。
3 多数意見は、また、本件補助参加を認めることにより抗告人からの訴訟資料等の提出が期待できるともいうが、本案訴訟の被告である取締役らのうちには、抗告人の代表者も含まれていることよりすれば、補助参加を認めなければ適切な訴訟資料等の提出が期待できないとも考えられない。
4 よって、これと同旨の原審の判断は正当であるから、本件抗告は棄却すべきである。
(裁判長裁判官 町田顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎 裁判官 深澤武久)
++解説
《解 説》
一 事案の概要
1 抗告人は、衣料品の製造販売を目的とする非上場株式会社である。本件の基本事件は、抗告人の株主である相手方(原告)が抗告人の取締役である被告らに対し,提起した株主代表訴訟(商法二六七条)である。原告は,被告らが取締役としての忠実義務に違反し、抗告人の第四八期及び第四九期の各決算における粉飾決算を指示し、又は粉飾の存在を見逃し、その結果、法人税等の過払をし、検査役に報酬を支払い、株主に利益配当するなどして、抗告人に損害を与えたと主張して、被告らに対し、損害賠償を請求する。
本件は、基本事件において、抗告人が被告取締役らを補助するため訴訟に参加することを申し出たところ(民訴法四三条一項)、原告がこれに対して異議を述べたため(同法四四条一項)、抗告人の補助参加の許否が問題となったものである。
2 原々決定及び原決定とも、抗告人の補助参加の申出を却下した。
3 原決定に対し、抗告人が抗告許可を申し立て、抗告が許可された。
二 本決定
本決定は、取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された株主代表訴訟において、株式会社は、特段の事情がない限り、取締役を補助するため訴訟に参加することが許されるとして、原決定を破棄し、原々決定を取り消して、抗告人の参加を許可する旨の自判をした。なお、原決定と同じく補助参加を否定する町田裁判官の反対意見がある。
三 説明
1 補助参加の利益
(1) 補助参加制度は、当事者以外の者が訴訟に参加して当事者の一方を補助する訴訟活動をすることによって被参加人に有利な判決を得させることを助け、併せて被参加人に対し敗訴判決がされることによって補助参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に事実上の不利益な影響を受けることを防止することを目的とするものである。
補助参加の利益は「訴訟の結果」について「利害関係」を有する場合に認められる(民訴法四二条)。参加の利益の判断は、判決における「何に関する判断」が補助参加人の「いかなる利害関係」にどのように影響するかという、二点に分けて考察することができる。
(2) 「訴訟の結果」についての学説、裁判例
「訴訟の結果」の意義、すなわち、判決における何に関する判断が法律上の利害関係に影響するかという問題については、以下のとおり、学説に争いがある。
① 「訴訟の結果」を終局判決の主文で判断される訴訟物たる権利関係の存否を指すとし、判決理由中の判断に利害関係があるだけでは足りないとする訴訟物限定説が、従前の通説的見解である。
② これに対し、「訴訟の結果」には、訴訟物たる権利又は法律関係のみならず判決理由中の判断も含まれ、判決理由中の判断につき法律上の利害関係が認められる場合にも補助参加の利益を認めるべきであるとする訴訟物非限定説が、近時有力に主張されるようになった。この中には、参加人の具体的な権利義務への影響から考える見解と当該手続内における手続保障から考える立場がある。
③ この点を一般論として明らかにした最高裁判決はない。補助参加の利益に関する裁判例として、最判昭51・3・30裁判集民一一七号三二三頁、本誌三三六号二一六頁があり、甲の乙丙に対する乙丙の共同不法行為を理由とする損害賠償請求訴訟の第一審において、乙に対する請求を認容し、丙に対する請求を棄却する判決があり、乙が自己に対する判決につき控訴しないときは、乙は、甲丙間の判決について控訴するため甲に補助参加をすることができるとした。この判例に対しては、訴訟物非限定説を採ったものとする評釈もあるが、訴訟物限定説からの説明も可能である。下級審裁判例も、訴訟物限定説、訴訟物非限定説に分かれている。
(3) 「利害関係」の意義
いかなる「利害関係」かについては、事実上の利害関係では足りず、法律上の利害関係であることを要し、法律上の利害関係であれば、財産法上のものに限られず、身分法上のものでも、私法上のものでもよく、さらには公法上のものでもよい(大決昭8・9・9民集一二巻二二号二二九四頁、最判昭39・1・23裁判集民七一号二七一頁)とする点については、判例・学説上ほぼ一致している。
そして、その影響の程度については、法律上の利害関係があれば、判決がその地位の決定に参考となるおそれ(事実上の影響)があればよいといわれている。また、この法律上の利害関係があるというためには、必ずしも判決が直接に参加人の実体権に影響を及ぼすべき場合に限らず(前掲大決昭8・9・9)、判決の効力が直接参加人に及ぶ必要はない(判決の効力が及ぶ場合は共同訴訟的補助参加になる)。
2 株主代表訴訟における会社の取締役側への補助参加の許否に関する学説
(1) 補助参加否定説
補助参加を認めるためには補助参加人と被参加人が共通の利害を有することを必要とするところ、株主代表訴訟の訴訟物は、会社の取締役に対する損害賠償請求権であり、被告が敗訴すれば会社に利益となり、被告が勝訴すれば会社に不利益となる関係にあるから、会社には訴訟物たる権利関係について法律上の利害関係はないとする。そして、補助参加肯定説が法律上の利益として主張するものはいずれも事実上の利害関係であるとする。また、商法は、株主代表訴訟に関し、取締役の責任追及の訴訟の提訴の是非、ひいては会社の意思決定の適法性に関する取締役会・代表取締役・監査役の判断に信頼を置かず、株主の判断を尊重するという態度をとっているから、会社がその判断で被告取締役に補助参加することは許されず、会社は株主の判断を尊重して、中立的な立場を貫くべきであり、会社が提訴株主の訴訟遂行を妨げるような訴訟行為をするのは疑問であるという。
なお、会社の参加を認めることの不都合として、① 会社が被告取締役の弁護士費用を負担することは、会社から取締役への贈与又は報酬の供与にあたり、前者の場合は取締役会の承認が(商法二六五条)、後者の場合は定款の定め又は株主総会による承認決議が(二六九条)それぞれ必要であると考えられるが、被告取締役側に補助参加することで会社が被告取締役の弁護士費用を実質的に負担することとなる危険があること、② 会社の顧問弁護士が被告側の訴訟代理人となることは利益相反行為(弁護士法二五条二号、日弁連弁護士倫理二六条二号)に当たる可能性があること、③ 会社の被告取締役への補助参加を認めると会社が被告に有利な訴訟資料・証拠資料のみを提出する危険があることなどが指摘されている。
(2) 補助参加肯定説
株主代表訴訟における会社の被告取締役への補助参加を肯定する見解は、補助参加の利益につき、訴訟物に限定せず判決理由中の判断を含むとする説を採用する。法律上の利害関係として、① 行政庁から立入検査、業務の停止、解散命令等の公法上の監督処分を受ける可能性があること、② 会社の継続的な業務の方針に影響を与えること、③ 被告取締役が敗訴すれば重要な取引先から取引中止を通告されるおそれがあり、取引が中止されると会社の事業継続に重大な支障が生じるおそれがあること、④ 経営判断に属する事柄について株主代表訴訟が提起され、被告取締役が敗訴すると今後の経営判断に萎縮的効果が生じ、又は会社のイメージに致命的な打撃を受けるおそれがあること、⑤ 原告が勝訴すると、会社が原告株主に対し弁護士費用等の償還義務を負担することになること、⑥ 会社の意思決定の適法性自体が会社の法律上の地位であるとの立場から、株主代表訴訟において、会社に対する責任の根拠として主張されている被告取締役の行為が当該取締役の独自の判断に基づくものではなく、会社の意思決定の結果としてなされている場合には、訴訟の争点としてその意思決定の適法性が争われることになるため、会社の意思決定の適法性という会社自身の組織法上の法的地位が訴訟の争点として判断を受けることになるから、会社の意思決定の適否の判断が会社の業務運営に直接重大な影響を与える場合には、現経営陣が会社を代表して争う機会を与えなければ手続保障を欠くことになること等が挙げられている。
なお、株主代表訴訟においては、原告が株主全体に帰属する権利を行使しているという代表訴訟性が認められるべきであり、会社が被告取締役に補助参加しても自分の権利を行使する訴訟の棄却を求めていることにはならないから、論理矛盾ではないとする。
経済界や自民党からも補助参加を認めるべきであるとする提言がされている(自由民主党法務部会商法に関する小委員会「コーポレート・ガバナンスに関する商法等改正試案骨子」(平成九年九月八日)、経済団体連合会コーポレート・ガバナンス特別委員会「コーポレート・ガバナンスのあり方に関する緊急提言」(平成九年九月一〇日))。
3 株主代表訴訟における会社の取締役側への補助参加の許否に関する下級審裁判例
(1) 補助参加否定説を採るものとして,原決定のほか、名古屋高決平8・7・11本誌九二三号二八四頁、判時一五八八号一四五頁(及びその原審名古屋地決平8・3・29判時一五八八号一四八頁[中部電力事件])がある。
(2) 補助参加肯定説を採るものとして,東京地決平7・11・30本誌九〇四号一九八頁、判時一五五六号一三七頁[東京商銀信用組合事件]、東京高決平9・9・2本誌九八四号二三四頁、判時一六三三号一四〇頁[セイコー事件]、東京地決平12・4・25判時一七〇九号三頁[興銀事件]がある。
4 本決定の意義
(1) 従来の学説、裁判例は、訴訟物限定説即補助参加否定、訴訟物非限定説即補助参加肯定のように図式化されて説明されてきたため、補助参加を認めた本決定が訴訟物非限定説を採ったとの評価もあり得ると思われる。しかし、本件の訴訟物は、単に「会社の取締役らに対する損害賠償請求権」ではなく、判例理論であるところの旧訴訟物理論によれば、「会社の四八期、四九期の決算において取締役らが忠実義務に違反して粉飾決算を指示し又はこれを見逃したことを原因とする会社の取締役らに対する損害賠償請求権」である。本決定が、このような損害賠償請求権が認められて取締役らが敗訴した場合には、会社のそれ以降の各期の計算関係に影響を及ぼし、現在又は将来の取引関係にも影響を及ぼすおそれがあることが推認されると判示しているところからすれば、訴訟物限定説に立ったものとして説明することも可能であると思われる。いずれにせよ、本決定は、この点についていずれの見解を採用するかを明らかにしたものではない。
(2) 原決定を含む補助参加否定説が、株主代表訴訟の訴訟構造上会社と取締役の利害が相反するとしたのに対し、本決定は株主代表訴訟の訴訟構造に触れるところがない。おそらく、補助参加の利益は、訴訟構造にかかわらず、その法律上の利害関係の有無によって定まるものと解したのであろう。
(3) 本決定は、取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された株主代表訴訟においては、取締役会の意思決定の違法を原因とする株式会社の取締役に対する損害賠償請求が認められれば、その取締役会の意思決定を前提として形成された株式会社の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがあるというべきであり、株式会社は、取締役の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を有するということができるとしている。取締役会の意思決定の違法を原因とする株主代表訴訟においては、会社には、原則として、このような法律上の利害関係があるとする趣旨であり、具体的には、本件の場合、会社の四八期以降の各期の計算関係に影響を及ぼし、現在又は将来の取引関係にも影響を及ぼすおそれがあるとしたものである。
(4) 補助参加否定説が挙げる不都合について、本決定は、補助参加をすること自体が取締役の責任にかかわる経営判断の一つであり、補助参加を認めたからといって、株主の利益を害するとか、公正妥当な訴訟運営が損なわれるとまではいえず、それによる著しい訴訟の遅延や複雑化を招くおそれはないこと、また、会社側からの訴訟資料等の提出が期待され、審理の充実が図られること等をも理由として、会社の取締役側への補助参加を認めたものである。
(5) 本決定は、従前、学説・下級審裁判例が分かれていた問題について最高裁判所として初めての判断を示したものであり、実務に大きな影響を及ぼすとともに、経済界からも注目を集めたものであるので、紹介する。
+判例(H14.1.22)
理由
上告代理人洪性模、同許功、同安由美の上告理由について
1 本件訴訟は、被上告人が上告人に対し、家具等の商品(以下「本件商品」という。)の売買代金の支払を求めるものである。原審の確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 上告人は、カラオケボックス(以下「本件店舗」という。)建築のため、平成六年一〇月、白柳美佐男との間で店舗新築工事請負契約を締結した。
(2) 被上告人は、白柳に対し、本件商品を含む家具等の商品を販売したとして、平成七年九月一八日、和歌山地方裁判所にその残代金の支払を求める訴えを提起した(同裁判所平成七年(ワ)第四六六号。以下、同訴訟を「前訴」という。)。
前訴において、白柳は、被上告人が本件店舗に納入した本件商品を含む商品について、施主である上告人が被上告人から買い受けたものであると主張したことから、被上告人は、上告人に対し、平成八年一月二七日送達の訴訟告知書により訴訟告知をした。しかし、上告人は、前訴に補助参加しなかった。
(3) 前訴につき、本件商品に係る代金請求部分について、被上告人の請求を棄却する旨の判決が言い渡され確定したが、その理由中に、本件商品は上告人が買い受けたことが認められる旨の記載がある。
2 以上の事実関係の下において、原審は、旧民訴法七八条、七〇条所定の訴訟告知による判決の効力が被告知人である上告人に及ぶことになり、上告人は、本訴において、被上告人に対し、前訴の判決の理由中の判断と異なり、本件商品を買い受けていないと主張することは許されないとして、被上告人の請求を認容した。
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 旧民訴法七八条、七〇条の規定により裁判が訴訟告知を受けたが参加しなかった者に対しても効力を有するのは、訴訟告知を受けた者が同法六四条にいう訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られるところ、ここにいう法律上の利害関係を有するとは、当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいうものと解される(最高裁平成一二年(許)第一七号同一三年一月三〇日第一小法廷決定・民集五五巻一号三〇頁参照)。
また、旧民訴法七〇条所定の効力は、判決の主文に包含された訴訟物たる権利関係の存否についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶものであるが(最高裁昭和四五年(オ)第一六六号同年一〇月二二日第一小法廷判決・民集二四巻一一号一五八三頁参照)、この判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断とは、判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などをいうものであって、これに当たらない事実又は論点について示された認定や法律判断を含むものではないと解される。けだし、ここでいう判決の理由とは、判決の主文に掲げる結論を導き出した判断過程を明らかにする部分をいい、これは主要事実に係る認定と法律判断などをもって必要にして十分なものと解されるからである。そして、その他、旧民訴法七〇条所定の効力が、判決の結論に影響のない傍論において示された事実の認定や法律判断に及ぶものと解すべき理由はない。
(2) これを本件についてみるに、前訴における被上告人の白柳に対する本件商品売買代金請求訴訟の結果によって、上告人の被上告人に対する本件商品の売買代金支払義務の有無が決せられる関係にあるものではなく、前訴の判決は上告人の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすものではないから、上告人は、前訴の訴訟の結果につき法律上の利害関係を有していたとはいえない。したがって、上告人が前訴の訴訟告知を受けたからといって上告人に前訴の判決の効力が及ぶものではない。しかも、前訴の判決理由中、白柳が本件商品を買い受けたものとは認められない旨の記載は主要事実に係る認定に当たるが、上告人が本件商品を買い受けたことが認められる旨の記載は、前訴判決の主文を導き出すために必要な判断ではない傍論において示された事実の認定にすぎないものであるから、同記載をもって、本訴において、上告人は、被上告人に対し、本件商品の買主が上告人ではないと主張することが許されないと解すべき理由もない。
4 以上によれば、前訴の判決の理由中に本件商品は上告人が被上告人から買い受けたことが認められる旨の記載があるからといって、前訴の判決の効力が上告人に及び、上告人が本件商品の買主であるとして売買代金の支払を認めるべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上告人の本件商品の売買代金支払債務の有無について更に審理を遂げさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)
++解説
《解 説》
一 本件は、家具販売等を業とする会社である原告が、被告が施主となって建築されたカラオケボックスに納入したテーブル等(本件商品)の売買代金一〇〇万円余りの支払を求めた代金請求の事案である(なお、本件は旧民訴法適用の事案である。)。
原告は、本件訴訟に先立ち、同カラオケボックスの建築業者に対し、同建築業者からの注文によりカラオケボックスに本件商品を含む家具等を納入したとして、商品残代金五五〇万円余りの支払を求める別件訴訟を提起したところ、同建築業者は、この納入商品の一部について、注文者は自分ではなく、施主である被告が直接注文したものであるとして争ったため、原告は、被告に対し、訴訟告知をしたが、被告は補助参加しなかった。別件訴訟は、本件商品に係る代金請求部分については請求が棄却されて確定したが、その判決の理由中において、本件商品は別件訴訟の被告である建築業者が購入したものではなく、本件訴訟の被告が購入したものであるとの認定がされた。
二 本件訴訟において、原審は、参加的効力が判決理由中の事実認定や法律判断等にも及ぶ旨を述べる最一小判昭45・10・22民集二四巻一一号一五八三頁、本誌二五五号一五三頁を引用し、訴訟告知による参加的効力(旧民訴法七八条、七〇条)により、被告は、別件訴訟判決の理由中の判断である本件商品の買主が被告であるとの判断と異なる主張をすることは許されないとして、本件商品の買主が被告であるか否かという点について認定をすることなく、原告の本件商品代金請求を認容すべきとした。
これに対し、本判決は、本件訴訟の被告には別件訴訟の参加的効力が及ばないこと、しかも、参加的効力は、傍論において示された判断には及ばないことを述べて、原判決を破棄すべきものとした。なお、本件の判示部分は、このうち、後者の参加的効力の客観的範囲について述べた部分である。
三 訴訟告知による参加的効力は参加利益ある者にのみ生ずると解されるが、その補助参加の利益は、訴訟の結果について「利害関係」を有する場合に認められる(民訴法四二条、旧六四条)。この「利害関係」は、事実上の利害関係では足りず、法律上の利害関係であることを要するとする点では、判例・学説上ほぼ一致しており、最近では、取締役に対し提起された株主代表訴訟において株式会社が取締役を補助するため訴訟に参加することの許否について判断した最一小決平13・1・30民集五五巻一号三〇頁、本誌一〇五四号一〇六頁がその旨を述べている。また、同最高裁決定は、法律上の利害関係を有する場合とは、当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいうものと解されるとしている。本件では、別件訴訟において、原告の建築業者に対する本件商品の売買代金請求が認められないということが決まるだけでは、被告に何ら事実上の影響をも与えるものではなく、被告が法律上の利害関係を有するものとはいえないものといえ、被告には参加的効力が及ぶものではないことになろう。
なお、補助参加の利益が認められる場合の「訴訟の結果」については、終局判決の主文で判断される訴訟物たる権利関係の存否を指すとする訴訟物限定説と、これに限らず、判決理由中の判断も含まれるとする訴訟物非限定説との争いがあるところであるが、本件判決は、訴訟物限定説によった場合は勿論、訴訟物非限定説によっても説明できるものと解され、いずれにしても、本判決は、この点について、いずれの見解に立つものかは明らかにしていないものと思われる。
四 また、前述の昭和四五年最高裁判決は、参加的効力は、判決理由中の事実認定や法律判断にも及ぶ旨を述べるところであるが、この判決の理由とは、判決書の必要的記載事項として挙げられている「理由」(民訴法二五三条一項三号、旧一九一条一項三号)をいうものと解され、これは、主文に掲げる結論を導き出した判断過程をいうものであるから、主文を導き出すために判断を要する攻撃防御方法についての事実認定と法律判断等をもって必要にして十分ということになる。そうであるから、事実認定や判断についての説得力を増すため、あるいは当事者の納得を得るために、判断を要する攻撃防御方法以外の関連事項について示された判断、いわゆる傍論について参加的効力が及ぶものではないといえる。このことは、傍論を説示するか、傍論としていかなる事項を取り上げるのかも判決裁判所の一存に係っていることを考えると、傍論に参加的効力を肯定することは、被告知者の地位を著しく不安定にすることになるもので妥当でないことからも肯定できるものといえる。
なお、学説においては、参加的効力が及ぶのは、前訴における主要事実の存否の判断についてであるとする見解(兼子一ほか編・判例民事法(上)〔増補〕三〇五頁、上原敏夫・注釈民事訴訟法(2)二九七頁等)と、必ずしも主要事実の判断には限らないとすると思われる見解(井上治典・多数当事者訴訟の法理三八一頁等)とがある。
五 本件の判示部分は、旧民訴法についていうものであるが、現行民訴法四六条の参加的効力についても同様にいえるものと解され、参加的効力の客観的範囲についていう前述の昭和四五年最高裁判決の内容を更に明確にし、学説においても見解が分かれていた点について最高裁としての判断を示したものであって、今後の実務の参考になるものと思われる。
+判例(S39.1.23)
②「訴訟の結果」
+判例(仙台高決42.2.28)
理 由
本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。
補助参加の要件たる民事訴訟法第六四条にいわゆる訴訟の結果につき利害関係を有する第三者とは、判決主文における訴訟物自体に関する判断の結果につき法律上の利害関係を有する者をいうのであつて、右利害関係は、判決主文に直接するものであることを要せず、いやしくも判決主文から法論理的に推知される利害関係であれば、たとえ間接的なものであつても、補助参加の利益があるものと解するのが相当である。
本件についてこれを見るに、抗告人が被告を補助するため参加しようとする本訴訟は、「被告は、原告(相手方)が本件各不動産につき所有権移転仮登記の抹消登記手続をなすことを承諾せよ。」との裁判を求めるもので、その請求原因は、要するに、(一)被告は、昭和三六年七月三〇日頃訴外羽田庄司および羽田吉郎治からその各所有にかかる本件各不動産を、福島県知事の許可を条件として買い受け、同年一一月一六日右停止条件付売買契約を登記原因として右各不動産につき仮登記を経由した。(二)一方、原告は、昭和三八年二月一日羽田庄司との間に手形取引および証書貸付契約を締結し、羽田吉郎治は、右契約に基づく羽田庄司の債務につき連帯保証をした。(三)同年二月二三日原告は、右貸付契約に基づき羽田庄司および羽田吉郎治との間に債権極度額金四〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結し、本件各不動産につき根抵当権設定登記を経由した。(四)その後原告は、前記貸付契約に基づき羽田庄司に対し金員を貸し付け、昭和三八年四月一日現在貸付元金総額は金五二三万五、〇〇〇円に達した。(五)しかるに、前記農地法に基づく許可申請は、福島県知事によつて却下されたので、昭和三九年一一月二三日被告と羽田庄司および羽田吉郎治は、合意の上本件各不動産に関する前記停止条件付売買契約を解除した。(六)よつて、原告は、登記上の利害関係人として、予備的に羽田庄司および羽田吉郎治に対する前記貸付金債権に基づき、右両名に代位して、被告に対し本件所有権移転仮登記の抹消登記手続をすることの承諾を求めるため本訴請求に及んだ、というにある。
一方補助参加をしようとする抗告人の参加理由は、要するに、(一)抗告人は、羽田庄司(羽田吉郎治は連帯納税義務者)に対する昭和三九年度分贈与税等合計金九九万九、三二〇円の租税債権に基づき、国税徴収法による滞納処分として、昭和四〇年一月二五日羽田庄司の被告に対する本件各不動産の売買代金債権金一五〇万円のうち金一三〇万円を差し押えた。(二)被告の羽田庄司および羽田吉郎治に対する本件各不動産に関する所有権移転請求権と右両名の被告に対する売買代金債権とは双務契約上の牽連関係にあるので、本訴訟の判決において、右所有権移転請求権が存在しないと判断されるときは、当然に右売買代金債権も存在しないものとして取り扱われる関係にあるから、もし被告が敗訴した場合、抗告人が被告を相手方として前記売買代金につき羽田庄司らを代位して取立訴訟を提起しても抗告人は不利益な取扱を受けるし、該確定判決によつて本件仮登記が抹消されると、順位保全の効力を失い、その結果は、右仮登記後に所有権取得登記を経由した者に対抗し得ないこととなり、また後順位の抵当権者も先順位に浮上することは必然で、そうなると、抗告人の前記租税債権の取立に影響を及ぼすことになるので、右租税債権に基づく債権差押の効力を保持し、満足な取立を確保するため、差押の対象たる権利を擁護する必要がある、というのである。
右事実関係のもとにおいては、原被告間の本訴訟の訴訟物は、本件各不動産に対する仮登記抹消登記請求権であつて、右訴訟における判決の結果如何により直接抗告人の羽田庄司および羽田吉郎治に対する前記租税債権に影響を及ぼすものではないが、登記は、実体上の権利関係を反映すべきもので、実体上の権利関係との不一致を理由に登記の変更訂正を求める訴においては、常に実体上の権利関係の存否自体が請求の主たる内容をなし、判断の対象となるのであるから、本訴訟において被告が敗訴すると、本件所有権移転仮登記が抹消されることになるが、その場合の判決理由は、原告の請求原因に照らし、羽田庄司および羽田吉郎治と被告間の本件各不動産に関する前記売買契約が解除され、その結果、実体上の権利関係と登記とが符合せざるに至つたということになるわけである。そうなると、双務契約たる売買契約解除の当然の結果として、被告の羽田庄司および羽田吉郎治に対する本件各不動産の所有権移転請求権が消滅するとともに、右両名の被告に対する売買代金債権もまた消滅することとなるので、抗告人が前記租税債権を保全するためにした羽田庄司の被告に対する前記売買代金債権の差押は、結局その目的を遂げざるに至るべく、しかも、疎丙第一三号証によると、国税滞納者たる羽田庄司および羽田吉郎治は無資力で、差押にかかる右売買代金債権以外に見るべき財産がないことが疎明されるので、抗告人は、右租税債権を確保するため、右売買代金債権差押の効力を保持する必要があるものといわねばならない。したがつて、抗告人は、原被告間の本訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する第三者に該当するものというべきであるから、抗告人の本件補助参加の申出を許容するのが相当であつたにかかわらず、原審が右と異る見解のもとに右申出を許さない旨の決定をしたのは不当であるので、これを取り消すべきものとし、民事訴訟法第四一四条、第三八六条、第九六条、第九四条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 檀崎喜作 野村喜芳 佐藤幸太郎)
+判例(名古屋高決S44.6.4)
理由
一、抗告人は、「原決定を取消す。本件補助参加の申出を許可する。」との裁判を求め、その理由とするところは別紙抗告の理由記載のとおりである。
二、申請人A外一名・被申請人岐阜三星染整株式会社間の岐阜地方裁判所昭和四三年(ヨ)第二四六号地位保全仮処分申請事件の記録によれば、次の(一)ないし(三)の事実が明らかである。
(一) 抗告組合は、昭和四三年一月一七日仮処分申請人らを組合の統制を乱したものとして除名処分に付し、同日これを被申請会社に通告した。右通告を受けた被申請会社は、「会社の従業員は原則として組合員でなければならない。組合員で組合の除名したる者は、会社は原則として解雇する。」とのユニオン・シヨツプ協定に基づき、翌一八日申請人両名を解雇した。
(二) 申請人両名は昭和四三年七月一六日右解雇の無効を主張して岐阜地方裁判所に対し本件仮処分の申請をなした。その申請の趣旨は、「申請人らが被申請会社の従業員としての地位を有することを仮に定める。被申請会社は、昭和四三年一月一九日以降毎月二五日限り、申請人Aに対しては金三〇、三一三円、申請人Bに対しては金二四、九四一円を仮に支払え。申請費用は被申請会社の負担とする。」との裁判を求めるというのであつて、その申請理由の要旨は、(1)本件解雇の前提たる除名処分は無効であるから解雇も無効である、(2)本件解雇は不当労働行為であるから無効である、(3)本件解雇は解雇権の濫用であるから無効である、というのである。
(三) 右仮処分申請事件の第八回口頭弁論期日において抗告組合は補助参加の申出をしたが、その申出につき申請人らから異議が申立てられ、原審において、抗告組合は判決主文における判断についてはなんら法律上の利害関係を有しないものとして、右参加申出は却下された。
三、ところで抗告組合は、本件の訴訟物は抗告組合の申請人らに対する除名処分の無効を原因とする被申請会社の解雇処分の無効確認ないしはその従業員たる地位の確認であるので、右除名処分に関する判断は、訴訟物に関する判断であつて、単に判決理由中の判断に止まるものではないから、抗告組合は民事訴訟法六四条にいう「訴訟の結果につき利害の関係を有する第三者」に該当する旨主張する。
しかし、前記事実から明らかなとおり、申請人らの主張する解雇無効の理由は、単に除名処分の無効のみに限られるのではなく、不当労働行為および解雇権の濫用をもその理由としているのであつて、抗告組合のなした除名処分の効力の有無のみにより本件解雇の効力が決せられるとは限らないのであり、除名処分の効力とは無関係に解雇の効力の有無が判断されることもあり得るのであるから、本件の訴訟物は従業員たる地位および給料請求権の存否のみに限られ、除名の無効は訴訟物(請求)を理由あらしめる事由に過ぎないものというべきであつて、除名処分に関する判断が本件の訴訟物に関する判断に属するものということはできない。したがつて、仮に除名処分が無効であり、無効な除名に基づきなされた解雇も無効であると判断されて、申請人ら主張のとおりの仮処分がなされたとしても、除名無効の点に関する判断は判決理由中における判断に過ぎないのであつて、主文における判断は従業員たる地位および給料請求権の存在の確定のみに限られるのであるから、右判決から、抗告組合において直ちに申請人らを組合員として扱うべき義務を負うこととなるいわれはないし、また抗告組合において被申請会社または申請人らに対し除名の無効を原因として損害賠償責任を負うことが確定されるいわれもないのである。
抗告組合において、自らのなした除名処分の効力が争われている本件に関心を抱き、その結果につき利害の関係を有するものと考えることは理解し得ないではないが、民事訴訟法六四条にいう「訴訟の結果につき利害の関係を有する第三者」とは、判決の主文における判断につき法律上の利害関係を有する者に限られ、単に判決理由中の判断につき事実上ないし感情上の利害を有するに過ぎない者は、これに含まれないものと解すべきところ、先に説示したところから明らかなとおり、抗告組合は本件の結果につき法律上の利害関係を有する第三者ということはできず、その利害は単に判決理由中の判断に関する事実上ないしは感情上のものといわざるを得ないから、抗告組合の本件参加申出は理由がない。
よつて、右参加申出を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。
(裁判官 県宏 裁判官 西川正世 裁判官 浅香恒久)
+判例(東京高決49.4.17)スモン
理 由
本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。抗告人らが東京地方裁判所昭和四八年(ワ)第八七〇七、第九四八〇、第九四九一号損害賠償請求併合事件に被告国及び同田辺製薬株式会社を補助するため参加することを許可する。」との裁判を求めるというにあり、その理由は、別紙「抗告の理由」(一)(二)に記載のとおりである。
これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。
民事訴訟法六四条に基づき、補助参加をするには、同条に定めている「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル」場合でなければならない。
そして、右「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル」場合とは、補助参加の制度の趣旨と補助参加人に対する判決の効力とを関連させてその意味を理解すべきであるといえる。
補助参加の制度は、第三者(参加申出人)が他人間に係属する訴訟の当事者の一方(被参加人)の敗訴によつて蒙る自己の法律上不利益を守るために、その当事者の一方に協力して訴訟を追行することを認める制度であるが、第三者(参加申出人)が右当事者の一方(被参加人)の訴訟の追行に協力し、又はこれに協力しえたにもかかわらず、当事者の一方(被参加人)が敗訴の確定判決を受けるに至つたときは、その敗訴の責任をその当事者(被参加人)と第三者(参加申出人)との間で公平に分担させようとするものと解される。それで、右他人間の訴訟でなされた判決の第三者(参加申出人)に対する効力は、いわゆる既判力でなく、それとは異なる特殊な効力(いわゆる参加的効力)であり、右効力の及ぶ客観的範囲は、判決の主文に包含される訴訟物たる権利関係についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でなされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶのであるが、右効力の及ぶ主観的範囲は、もとより参加人と被参加人との間に生ずるものであるが、前示参加制度の目的に鑑みると参加人と相手方との間には生ずるものではないと解するのが相当である(最判昭和四五年一〇月二二日・民集二四巻一一号一五八三頁参照)。
そうすると、前述の民事訴訟法六四条にいう「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル」場合とは、本案判決の主文に包含される訴訟物たる権利関係の存否についてだけではなく、その判決理由中で判断される事実や法律関係の存否について法律上の利害関係を有する場合も含まれるといえるが、当該他人間の訴訟の当事者の一方(被参加人)の敗訴によつてその当事者(被参加人)から第三者(参加申出人)が一定の請求をうける蓋然性がある場合及びその当事者の一方(被参加人)と第三者(参加申出人)を当事者とする第二の訴訟で当事者の一方(被参加人)の敗訴の判断に基づいて第三者(参加申出人)が責任を分担させられる蓋然性のある場合でなければならず、第一の訴訟で当事者の一方(被参加人)が相手方から訴えられているのと同じ事実上又は法律上の原因に基づき第二の訴訟で第三者が右相手方から訴えられる立場にあるというだけでは、補助参加の要件を充足しないというべきである。
判決の正確性を高め利害関係者の便宜をはかるためには、広く補助参加を認め証人尋問等の機会を与えるのがよいように思われるが、他方、訴訟が遅延し、複雑化するのを避ける必要があるので、これらの両者の関係を合理的に調整するには、民事訴訟法六四条所定の右要件を前述のとおり解するのを相当と考える。
ところで、一件記録によると、抗告人らが補助参加を申立てている本訴(標記各事件)の各被告ら(被参加人)は、相手方である原告らからキノホルム剤がスモン病の原因であることを前提として、キノホルム剤を製造、販売もしくは製造承認した点を違法として損害賠償を求められているのに対し、抗告人らは別訴(東京地方裁判所昭和四六年(ワ)第六四〇〇号事件)で、右相手方たる原告らからキノホルム剤がスモン病の原因であることを前提として、キノホルム剤を投与した点を違法として損害賠償を求められているものである。そして、抗告人らは、要するに、本訴におけるキノホルム剤がスモン病の原因であるかどうかという因果関係の判断は、別訴の抗告人らに利害関係があるというのである。
しかし、キノホルム剤がスモン病の原因であるかどうかという因果関係についての判断が本訴と別訴とを通じて共通の前提問題となつているというのは、所詮本訴と別訴が同一の事実上の原因に基づいているというものにすぎず、本件において本訴の被告ら(被参加人)の敗訴によつて抗告人らが右被告ら(被参加人)から請求をうけ責任を分担させられる蓋然性がうかがえないばかりか、本訴における判決中の右因果関係の存否についての判断は、抗告人らの補助参加を認めても、いわゆる参加的効力は、別訴における原告らと抗告人らの間に及ぶものではないので、前述のとおり抗告人らが補助参加の要件を充足するとは認めがたい。
そうすると、本件補助参加の申出を不適法として却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 伊藤利夫 小山俊彦 山田二郎)
+判例(13.2.22)
理由
抗告代理人大下慶郎、同納谷廣美、同西修一郎、同石橋達成の抗告理由について
1 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
(1) 本件の本案訴訟(宇都宮地方裁判所平成10年(行ウ)第14号労災不支給処分取消請求事件)は、抗告人の小山工場に勤務していたAの妻である相手方が、Aの死亡は長時間労働の過労によるもので、業務起因性があるとして、栃木労働基準監督署長に対し労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づいて遺族補償給付等の請求をしたところ、これを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたので、その取消しを求める行政訴訟である。
(2) 抗告人は、本案訴訟においてAの死亡につき業務起因性を肯定する判断がされると、相手方から労働基準法(以下「労基法」という。)に基づく災害補償又は安全配慮義務違反による損害賠償を求める訴訟を提起された場合に自己に不利益な判断がされる可能性があり、また、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」という。)12条3項により次年度以降の保険料が増額される可能性があると主張し、栃木労働基準監督署長に対する補助参加を申し出たが、相手方はこれに対して異議を述べた。
2 原審は、概要次のとおり判示して、抗告人の補助参加の申出を却下すべきものとした。
(1) 本案訴訟において業務起因性を肯定する判断がされたとしても、これによって相手方の抗告人に対する安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償請求訴訟において当然に相当因果関係を肯定する判断がされるものではない上、後訴における抗告人の責任の有無、賠償額の範囲は、使用者の故意又は過失、過失相殺等の判断を経て初めて確定されるものであるから、本案訴訟における業務起因性についての判断が後訴における判断に事実上不利益な影響を及ぼす可能性があることをもって抗告人が本件訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない。
(2) 徴収法12条3項は、本案訴訟の結果により当然に保険料が増額されることを定めたものではないから、保険料増額の可能性があることをもって抗告人が本件訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない。
3 しかしながら、原審の判断のうち上記(1)は是認することができるが、(2)は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 労基法84条によると、労災保険法に基づいて労基法の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては、使用者は補償の責を免れるものとされているから、本案訴訟において本件処分が取り消され、相手方に対して労災保険法に基づく遺族補償給付等を支給する旨の処分がされた場合には、使用者である抗告人は、労基法に基づく遺族補償給付等の支払義務を免れることになる。そうすると、本案訴訟において被参加人となる栃木労働基準監督署長が敗訴したとしても、抗告人が相手方から労基法に基づく災害補償請求訴訟を提起されて敗訴する可能性はないから、この点に関して抗告人の補助参加の利益を肯定することはできない。また、本案訴訟における業務起因性についての判断は、判決理由中の判断であって、労災保険法に基づく保険給付(以下「労災保険給付」という。)の不支給決定取消訴訟と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟とでは、審判の対象及び内容を異にするのであるから、抗告人が本案訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない。原決定中、抗告人の上記主張を排斥した部分は、これと同旨をいうものとして、是認することができる。この点に関する論旨は採用することができない。
(2) 徴収法12条3項によると、同項各号所定の一定規模以上の事業については、当該事業の基準日以前3年間における「業務災害に係る保険料の額に第1種調整率を乗じて得た額」に対する「業務災害に関する保険給付の額に業務災害に関する特別支給金の額を加えた額から労災保険法16条の6第1項2号に規定する遺族補償一時金及び特定疾病にかかった者に係る給付金等を減じた額」の割合が100分の85を超え又は100分の75以下となる場合には、労災保険率を一定範囲内で引き上げ又は引き下げるものとされている。そうすると、徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業においては、労災保険給付の不支給決定の取消判決が確定すると、行政事件訴訟法33条の定める取消判決の拘束力により労災保険給付の支給決定がされて保険給付が行われ、次々年度以降の保険料が増額される可能性があるから、当該事業の事業主は、労働基準監督署長の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を有し、これを補助するために労災保険給付の不支給決定の取消訴訟に参加をすることが許されると解するのが相当である。したがって、抗告人の小山工場(小山工場につき徴収法9条による継続事業の一括の認可がされている場合には、当該認可に係る指定事業)が徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業に該当する場合には、本件処分が取り消されると、次々年度以降の保険料が増額される可能性があるから、抗告人は、栃木労働基準監督署長を補助するために本案訴訟に参加することが許されるというべきである。原決定中、これと異なる見解に立って抗告人の補助参加の利益を否定した部分には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨はこの趣旨をいう限度で理由がある。
4 以上の次第で、原決定は破棄を免れず、本件については、抗告人の小山工場(小山工場につき徴収法9条による継続事業の一括の認可がされている場合には、当該認可に係る指定事業)が徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業に該当するかどうかにつき更に審理を尽くす必要があるから、これを原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎 裁判官 町田顯)
++解説
《解 説》
一 事案の概要
本件の本案訴訟は、抗告人の小山工場に勤務していたAの妻である原告が、Aの死亡は長時間労働の過労によるもので、業務起因性があるとして、被告労働基準監督署長に対し、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき遺族補償給付等の請求をしたところ、これを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことから、その取消しを求める行政訴訟である。
抗告人は、第一審において被告労働基準監督署長に対する補助参加の申出をし、本案訴訟において業務起因性を肯定する判断がされると、(1) 原告から労働基準法(以下「労基法」という。)に基づく災害補償又は安全配慮義務違反に基づく損害賠償を求める訴訟を提起された場合に自己に不利益な判断がされる可能性があり、また、(2) 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」という。)一二条三項所定のいわゆるメリット制により次年度の保険料が増額される可能性があると主張したが、原告はこれに対して異議を述べた。
原々決定は、抗告人の補助参加の申出を却下し、原決定(労働判例七九三号七一頁)も、(1) 本案訴訟において業務起因性が肯定されたとしても、これによって当然に安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償請求訴訟における相当因果関係が肯定されるものではないから、本案訴訟における業務起因性についての判断が後訴における判断に事実上不利益な影響を及ぼす可能性があることをもって抗告人が訴訟の結果につき法律上の利害関係があるということはできない、(2) 徴収法一二条三項は、本案訴訟の結果により当然に保険料が増額されることを定めたものではないから、保険料増額の可能性があることをもって訴訟の結果につき法律上の利害関係を有するということはできない、として抗告人の抗告を却下した。そこで、抗告人から許可抗告の申立てがされた。
二 本決定の判断の概要
本決定は、原決定の判断のうち(1)の部分については、① 本案訴訟において本件処分が取り消され、相手方に対して労災保険法に基づく遺族補償給付等を支給する処分がされた場合には、使用者である抗告人は、労基法八四条により同法に基づく遺族補償給付等の支払義務を免れることになるから、本案訴訟において被告労働基準監督署長が敗訴したとしても、抗告人が相手方から労基法に基づく災害補償請求訴訟を提起されて敗訴する可能性はない、② 本案訴訟における業務起因性についての判断は、理由中の判断であって、労災保険給付の不支給決定取消訴訟と安全配慮義務訴訟に基づく損害賠償請求訴訟とでは、審判の対象及び内容を異にするから、抗告人が訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない、としてこれを是認したが、(2)の部分については、徴収法一二条三項各号所定の事業においては、労災保険給付の不支給決定の取消判決が確定すると、行訴法三三条の定める取消判決の拘束力により労災保険給付の支給決定がされて保険給付が行われ、次々年度以降の保険料が増額される可能性があるから、当該事業の事業主は、労働基準監督署長を補助するため訴訟に参加することが許される、として原決定を破棄し、本件を原審に差し戻した。
三 説明
1 補助参加の利益について
補助参加は、「訴訟の結果について利害関係を有する」場合に認められる(民訴法四二条)。「利害関係」の意義については、一般に、事実上の利害関係では足りず、法律上の利害関係であることを要するが、必ずしも判決が直接に参加人の実体権に影響を及ぼす場合に限られず、判決が参加人の地位の決定に参考とされるおそれ(事実上の影響)があれば足りるものと解されており、この点に関し特に異論はみられない。一方、「訴訟の結果」の意義については、従前は、「訴訟の結果」を終局判決の主文で示される訴訟物たる権利関係の存否を指すものと解し、判決理由中の判断に利害関係があるだけでは足りないとする訴訟物限定説(菊井=村松・全訂民事訴訟法〔補訂版〕四〇三頁、注解民事訴訟法〔第二版〕(2)二〇五頁、兼子一・条解民事訴訟法(上)一六二頁、三ヶ月章・民事訴訟法〔第三版〕二七九頁、伊東乾「補助参加の利益」演習民事訴訟法六九八頁、木川統一郎「補助参加の利益」民事訴訟法重要問題講義(上)一〇六頁等)が通説であったが、近時は、判決理由中の判断について利害関係がある場合を含むとする訴訟物非限定説(兼子=松浦=竹下・条解民事訴訟法一七七頁、伊藤眞「補助参加の利益再考」民訴四一巻一頁、井上治典「補助参加の利益」多数当事者訴訟の法理六五頁、同「補助参加の利益・再論」同一七五頁、高橋宏志「補助参加について(二)(三)」法教一九五号八八頁、一九六号七六頁等)が有力に唱えられている。
訴訟物非限定説は、「通説は、判決主文における訴訟物についての判断が、補助参加人を当事者とする将来の訴訟においてその法律上の地位を裁判所が判断する上で不利に参考とされる場合に、補助参加の利益が認められるとする。しかし、補助参加人自身の法律上の地位が争われる場合に事実上不利な影響が生じるという点では、判決主文中の判断であろうと理由中の判断であろうと違いはないはずである。」という通説への批判を契機に唱えられるようになったものであり(伊藤眞・前掲・補助参加の利益再考・四頁、同・民事訴訟法五七〇頁等)、その指摘には鋭いものがあるように思われる。しかし、この批判から直ちに訴訟物非限定説の結論が論理必然的なものとして導き出されるものではないし、訴訟物非限定説には、その論者自身が指摘するように(井上治典「補助参加の利益・半世紀の軌跡」本誌一〇四七号四頁)、① 補助参加の申出の時点では、何が判決理由中の主要な争点となるかは不確定であるから、補助参加の利益の有無の判断が困難になる上、② 補助参加の利益を広く認めると、実際には被参加人と利害関係が相反する補助参加人の参加によって、被参加人の訴訟追行が阻害・撹乱されたり、訴訟引き延ばしに利用されるなどの弊害があるほか、争点の拡散や期日指定の困難、送達手続の煩雑化を招き、訴訟の機動性を失わせるおそれがあるなどの問題点がある。これに加え、③ 訴訟では、補助参加人が利害関係を有する争点について判決理由中で判断が示される保障はないばかりか、理由中の判断に対する不服を理由とする上訴は認められないから、理由中の判断についての利害関係は、訴訟において保護することを予定されたものとはいえないこと、④ 本来、訴訟は当事者のためにあるから、当事者の双方又は一方が第三者の補助参加に反対する以上、当該第三者の手続関与の利益は、当事者の利益の背後に後退すべき問題であること等を考慮すると、訴訟物非限定説に立って第三者の補助参加を広く認めることには問題がないわけではなく、むしろ、訴訟物限定説の立場は、民訴法の構造に沿うものであって、実務の実際にも合致したものといえるようにも思われる。
2 行政処分の取消訴訟における被告行政庁側への補助参加について
ところで、行政処分の取消訴訟においては、取消判決は当事者たる行政庁その他関係行政庁を拘束するものとされているから(行訴法三三条)、第三者が被告行政庁の敗訴により不利益を被るとして補助参加を申し出た場合には、当該不利益が取消判決の拘束力によって生じるものであるとしても、前述のような法律上の利害関係に当たるときは、これを保護する必要があるものと思われる。例えば、申請拒否処分の取消訴訟では、被告行政庁が敗訴すると、取消判決の理由中の判断に沿って改めて行政処分がされることになるから、取消判決の拘束力により新たな行政処分がされることについて法律上の利害関係を有する者に関しては、補助参加の利益が肯定されることになろう。行政処分の取消訴訟においては、訴訟の結果により権利を害される第三者は、職権又は申立てにより訴訟に参加することができるとされているところ(行訴法二二条)、同条にいう「訴訟の結果により権利を害される第三者」とは、取消判決の効力自体によって権利を侵害される場合に限られず、取消判決の拘束力を通じて権利を害される場合を含むものと解されている(杉本良吉・行政事件訴訟法の解説七九頁、園部逸夫編・注解行政事件訴訟法三二八頁、南博方編・注釈行政事件訴訟法二〇四頁、南博方編・条解行政事件訴訟法五七九頁、渡部吉隆園部逸夫編・行政事件訴訟法体系三五八頁等、最三小決平8・11・1本誌九二七号九一頁、判時一五九〇号一四四頁〔ただし特別抗告事件における傍論〕)。この規定と対比しても、民訴法四二条にいう「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」とは、取消判決の拘束力を通じて自己の権利関係に事実上の影響を受ける場合を含むと解するのが相当であろう。そうすると、行政処分の取消訴訟においては、民訴法四二条にいう「訴訟の結果」の意義について訴訟物限定説、訴訟物非限定説のいずれの立場に立ったとしても、取消判決の拘束力を通じて自己の権利関係に事実上の影響を受ける第三者については、補助参加が認められることになるものと思われる。
四 本決定の意義
徴収法一二条三項は、事業主の負担の具体的公平を図るとともに事業主の災害防止努力を促進するため、その事業の業務災害に関して行われた保険給付の額に応じて保険料を変動させるメリット制を採用している。本決定は、徴収法一二条三項各号所定の一定規模以上の事業においては、業務災害に関して行われた保険給付の額が増減した場合には、労災保険率を一定範囲内で引き上げ又は引き下げるものとされているので、労災保険給付の不支給決定の取消判決が確定すると、取消判決の拘束力により労災保険給付の支給決定がされて保険給付が行われ、次々年度以降の保険料が増額される可能性があるから、当該事業の事業主は、労働基準監督署長を補助するために労災保険給付の不支給決定の取消訴訟に参加をすることが許されるとして原決定を破棄したものであり、取消判決の拘束力を通じて自己の権利関係に事実上の影響を受ける場合には補助参加の利益が認められるとする前記見解に立脚するものと考えられる。
また、本決定は、補助参加の利益についての一般論を述べていないが、前述のとおり、本案訴訟における業務起因性についての判断は理由中の判断にすぎないとして、安全配慮義務違反による損害賠償を求める訴訟を提起された場合に不利益な判断がされる可能性があることをもって補助参加の利益があるということはできないとしている。右判示からすると、本決定は、補助参加の利益を広く認める訴訟物非限定説の立場とは一線を画するもののように思われる。
本決定は、従前あまり議論されていなかった労災保険給付の不支給決定取消訴訟において事業主が労働基準監督署長を補助するため訴訟に参加することの許否について最高裁判所として初めての判断を示したものであり、実務上、参考になると考えられるので、紹介する。
③「因果関係」
事実上のもので足りる。
+判例(S63.2.25)
理由
上告補助参加人代理人Aの上告理由について
一 原審が適法に確定した事実及び記録に徴すれば、本件訴訟の経過は次のとおりである。
(一) 坂出市の住民である上告人ら外三名は、昭和五二年五月一六日、同市監査委員に対し、同市の市長である被上告人Bが林田・阿河浜地区工業用地造成事業の施行に伴い関係漁業団体に支出した漁業補償金は違法、不当なものであるとして、同市が被つた損害の返還の措置を求める旨の監査請求をしたところ、同市監査委員は、これに対し、同年七月一三日付けで右監査請求はいずれも理由がない旨の通知をしたので、上告人ら外二名が、同年八月八日地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項四号の規定に基づき、同市に代位して被上告人らに対し前記損害の賠償を求める本件訴訟を提起した。
(二) 坂出市の住民である上告補助参加人は、昭和五二年九月一九日上告人らの右監査請求と同趣旨の監査請求をしたところ、同市監査委員は、上告補助参加人に対し、同年一一月七日付けで右監査請求は理由がない旨の通知をしたので、上告補助参加人は、同年一二月六日本件訴訟について、上告人ら外二名を補助するため参加する旨の本件補助参加の申出をした。
(三) 第一審裁判所は、昭和六〇年一〇月三一日本件訴訟につき、上告人らの請求をいずれも棄却する旨の判決をした。これに対し、上告補助参加人は、同年一一月一三日原審裁判所に控訴を申し立てたところ、上告人らは、昭和六一年五月七日控訴取下書を提出した。
(四) 原審は、上告人らの控訴取下げにより本件訴訟は終了したとして、前文記載の判決をもつて訴訟終了宣言をした。
二 論旨は、要するに本件補助参加につき、いわゆる共同訴訟的補助参加の効力を認めなかつた原審の判断は、法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。
三 法二四二条の二第四項は、同条一項の規定による訴訟(以下「住民訴訟」という。)が係属しているときは、当該普通地方公共団体の他の住民は、別訴をもつて同一の請求をすることができないと規定しているが、右規定は、住民訴訟が係属している場合に、当該住民訴訟の対象と同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象とする適法な監査請求手続を経た他の住民が、同条二項所定の出訴期間内に民訴法七五条の規定に基づき共同訴訟人として右住民訴訟の原告側に参加することを禁ずるものではなく、右出訴期間は監査請求をした住民ごとに個別に定められているものと解するのが相当であるから、共同訴訟参加申出についての期間は、参加の申出をした住民がした監査請求及びこれに対する監査結果の通知があつた日等を基準として計算すべきである。そして、右期間内において、前記の適法な監査請求手続を経た住民が住民訴訟の原告側に補助参加の申出をしたときは、当該住民は右住民訴訟に共同訴訟参加をすることが可能であるところ補助参加の途を選択したものというべく、右補助参加をいわゆる共同訴訟的補助参加と解し、民訴法六二条一項の類推適用など、共同訴訟参加をしたのと同様の効力を認めることは相当ではないというべきである。
本件についてこれをみるに、前記の事実関係によれば、上告補助参加人は、本件訴訟の対象と同一の財務会計上の行為を対象とする適法な監査請求手続を経たうえ、法二四二条の二第二項所定の出訴期間内に、本件訴訟につき、原告である上告人ら外二名を補助するため本件補助参加の申出をしたのであり、本件補助参加の申出は、共同訴訟参加をすることが可能である場合に行われたものであることが明らかであるから、本件補助参加をいわゆる共同訴訟的補助参加と解することはできない。
そうすると、上告補助参加人がした本件補助参加は通常の補助参加と解するのが相当であるから、上告補助参加人がした本件控訴は、上告人らの控訴の取下げによつてその効力を失い(民訴法六九条二項)、本件訴訟は右控訴の取下げにより終了したものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 髙島益郎 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巖)
3.設例についての考え方
+判例(H13.3.13)
理由
上告代理人森永友健の上告受理申立て理由第一ないし第三及び第五について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 上告人らの長男であるA(昭和57年1月13日生)は、昭和63年9月12日午後3時40分ころ、埼玉県上福岡市ab丁目c番d号先路上において、自転車を運転し、一時停止を怠って時速約15㎞の速度で交通整理の行われていない交差点内に進入したところ、同交差点内に減速することなく進入しようとした上告補助参加人川越乗用自動車株式会社の従業員である同B運転に係る普通乗用自動車と接触し、転倒した(以下「本件交通事故」という。)。
(2) Aは、本件交通事故後直ちに、救急車で被上告人が経営する上福岡第二病院(以下「被上告人病院」という。)に搬送された。被上告人の代表者で被上告人病院院長であるC医師は、Aを診察し、左頭部に軽い皮下挫傷による点状出血を、顔面表皮に軽度の挫傷を認めたが、Aの意識が清明で外観上は異常が認められず、Aが事故態様についてタクシーと軽く衝突したとの説明をし、前記負傷部分の痛みを訴えたのみであったことから、Aの歩行中の軽微な事故であると考えた。そして、C医師は、Aの頭部正面及び左側面から撮影したレントゲン写真を検討し、頭がい骨骨折を発見しなかったことから、さらにAについて頭部のCT検査をしたり、病院内で相当時間経過観察をするまでの必要はないと判断し、前記負傷部分を消毒し、抗生物質を服用させる治療をした上、A及び上告人Dに対し、「明日は学校へ行ってもよいが、体育は止めるように。明日も診察を受けに来るように。」「何か変わったことがあれば来るように。」との一般的指示をしたのみで、Aを帰宅させた。
(3) 上告人Dは、Aとともに午後5時30分ころ帰宅したが、Aが帰宅直後におう吐し、眠気を訴えたため、疲労のためと考えてそのまま寝かせたところ、Aは、夕食を欲しがることもなく午後6時30分ころに寝入った。Aは、同日午後7時ころには、いびきをかいたり、よだれを流したりするようになり、かなり汗をかくようになっていたが、上告人らは、多少の異常は感じたものの、Aは普段でもいびきをかいたりよだれを流したりして寝ることがあったことから、この容態を重大なこととは考えず、同日午後7時30分ころ、氷枕を使用させ、そのままにしておいた。しかし、Aは、同日午後11時ころには、体温が39度まで上昇してけいれん様の症状を示し、午後11時50分ころにはいびきをかかなくなったため、上告人らは初めてAが重篤な状況にあるものと疑うに至り、翌13日午前0時17分ころ、救急車を要請した。救急車は同日午前0時25分に上告人方に到着したが、Aは、既に脈が触れず呼吸も停止しており、同日午前0時44分、三芳厚生病院に搬送されたが、同日午前0時45分、死亡した(以下「本件医療事故」という。)。
(4) Aは、頭がい外面線状骨折による硬膜動脈損傷を原因とする硬膜外血しゅにより死亡したものであり、被上告人病院から帰宅したころには、脳出血による脳圧の亢進によりおう吐の症状が発現し、午後6時ころには傾眠状態を示し、いびき、よだれを伴う睡眠、脳の機能障害が発生し、午後11時ころには、治療が困難な程度であるけいれん様の症状を示す除脳硬直が始まり、午後11時50分には自発呼吸が不可能な容態になったものである。
硬膜外血しゅは、骨折を伴わずに発生することもあり、また、当初相当期間の意識清明期が存することが特徴であって、その後、頭痛、おう吐、傾眠、意識障害等の経過をたどり、脳障害である除脳硬直が開始した後はその救命率が著しく減少し、仮に救命に成功したとしても重い後遺障害をもたらすおそれが高いものであるが、早期に血しゅの除去を行えば予後は良く、高い確率での救命可能性があるものである。したがって、交通事故により頭部に強い衝撃を受けている可能性のあるAの診療に当たったC医師は、外見上の傷害の程度にかかわらず、当該患者ないしその看護者に対し、病院内にとどめて経過観察をするか、仮にやむを得ず帰宅させるにしても、事故後に意識が清明であってもその後硬膜外血しゅの発生に至る脳出血の進行が発生することがあること及びその典型的な前記症状を具体的に説明し、事故後少なくとも6時間以上は慎重な経過観察と、前記症状の疑いが発見されたときには直ちに医師の診察を受ける必要があること等を教示、指導すべき義務が存したのであって、C医師にはこれを懈怠した過失がある。
(5) 他方、上告人らにおいても、除脳硬直が発生して呼吸停止の容態に陥るまでAが重篤な状態に至っていることに気付くことなく、何らの措置をも講じなかった点において、Aの経過観察や保護義務を懈怠した過失があり、その過失割合は1割が相当である。
(6) なお、本件交通事故は、本件交差点に進入するに際し、自動車運転手として遵守すべき注意義務を懈怠した、上告補助参加人Bの過失によるものであるが、Aにも、交差点に進入するに際しての一時停止義務、左右の安全確認義務を怠った過失があり、その過失割合は3割が相当である。
(7) 上告人らは、Aの本件交通事故及び本件医療事故による次の損害賠償請求権を各2分の1の割合で相続した。Aの死亡による上告人らの弁護士費用分を除く全損害は、次のとおりである。
逸失利益 2378万8076円
慰謝料 1600万円
葬儀費用 100万円
なお、上告人らは、上告補助参加人川越乗用自動車株式会社から葬儀費用として50万円の支払を受けた。
2 本件は、上告人らが、C医師の診療行為の過失によりAが死亡したとして、被上告人に対し、民法709条に基づき損害賠償を求めている事案である。
原審は、前記事実関係の下において、概要次のとおり判断した。
(1) 被害者であるAの死亡事故は、本件交通事故と本件医療事故が競合した結果発生したものであるところ、原因競合の寄与度を特定して主張立証することに困難を伴うので、被害者保護の見地から、本件交通事故における上告補助参加人Bの過失行為と本件医療事故におけるC医師の過失行為とを共同不法行為として、被害者は、各不法行為に基づく損害賠償請求を分別することなく、全額の損害の賠償を請求することもできると解すべきである。
(2) しかし、本件の場合のように、個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し、その行為類型が異なり、行為の本質や過失構造が異なり、かつ、共同不法行為を構成する一方又は双方の不法行為につき、被害者側に過失相殺すべき事由が存する場合には、各不法行為者は、各不法行為の損害発生に対する寄与度の分別を主張することができ、かつ、個別的に過失相殺の主張をすることができるものと解すべきである。すなわち、被害者の被った損害の全額を算定した上、各加害行為の寄与度に応じてこれを案分して割り付け、その上で個々の不法行為についての過失相殺をして、各不法行為者が責任を負うべき損害賠償額を分別して認定するのが相当である。
(3) 本件においては、Aの死亡の経過等を総合して判断すると、本件交通事故と本件医療事故の各寄与度は、それぞれ5割と推認するのが相当であるから、被上告人が賠償すべき損害額は、Aの死亡による弁護士費用分を除く全損害4078万8076円の5割である2039万4038円から本件医療事故における被害者側の過失1割を過失相殺した上で弁護士費用180万円を加算した2015万4634円と算定し、上告人らの請求をこの金員の2分の1である各1007万7317円及びうち917万7317円に対する本件医療事故の後である昭和63年9月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものである。
3 しかしながら、原審の前記2(2)(3)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
原審の確定した事実関係によれば、本件交通事故により、Aは放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの、事故後搬入された被上告人病院において、Aに対し通常期待されるべき適切な経過観察がされるなどして脳内出血が早期に発見され適切な治療が施されていれば、高度の蓋然性をもってAを救命できたということができるから、本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが、Aの死亡という不可分の一個の結果を招来し、この結果について相当因果関係を有する関係にある。したがって、【要旨1】本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから、各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。本件のようにそれぞれ独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解する理由はないから、被害者との関係においては、各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し、各不法行為者において責任を負うべき損害額を限定することは許されないと解するのが相当である。けだし、共同不法行為によって被害者の被った損害は、各不法行為者の行為のいずれとの関係でも相当因果関係に立つものとして、各不法行為者はその全額を負担すべきものであり、各不法行為者が賠償すべき損害額を案分、限定することは連帯関係を免除することとなり、共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとしている民法719条の明文に反し、これにより被害者保護を図る同条の趣旨を没却することとなり、損害の負担について公平の理念に反することとなるからである。
したがって原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。
4 本件は、本件交通事故と本件医療事故という加害者及び侵害行為を異にする二つの不法行為が順次競合した共同不法行為であり、各不法行為については加害者及び被害者の過失の内容も別異の性質を有するものである。ところで、過失相殺は不法行為により生じた損害について加害者と被害者との間においてそれぞれの過失の割合を基準にして相対的な負担の公平を図る制度であるから、【要旨2】本件のような共同不法行為においても、過失相殺は各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり、他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしん酌して過失相殺をすることは許されない。
本件において被上告人の負担すべき損害額は、Aの死亡による上告人らの損害の全額(弁護士費用を除く。)である4078万8076円につき被害者側の過失を1割として過失相殺による減額をした3670万9268円から上告補助参加人川越乗用自動車株式会社から葬儀費用として支払を受けた50万円を控除し、これに弁護士費用相当額180万円を加算した3800万9268円となる。したがって、上告人ら各自の請求できる損害額は、この2分の1である1900万4634円となる。
5 以上によれば、上告人らの本件請求は、各自1900万4634円及びうち1810万4634円に対する本件医療事故の後である昭和63年9月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから棄却すべきである。したがって、これと異なる原判決は、主文第1項のとおり変更するのが相当である。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 元原利文 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)
++解説
《解 説》
一 事案の概要
本件は、Xらが、その子Aが交通事故後搬送されたY病院の医師Bの医療過誤により死亡したと主張して、Yに対し不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
Aは、自転車を運転中タクシーと接触して転倒し、頭部等を打撲し、頭蓋骨骨折を伴う急性硬膜外血腫の傷害を負った。急性硬膜外血腫は、当初は、意識清明期が存在するものの、その後に頭痛、おう吐、傾眠、意識障害等が発生し、脳障害が始まって死亡するに至るものであり、脳障害が始まってからの救命率は著しく低いものの早期に血腫の除去手術を行えば高い確率での救命の可能性がある。しかし、Aが搬送されたY病院の医師は、経過観察をするかあるいは看護者に対し、急性硬膜外血腫の具体的症状等を説明し、経過観察を怠らないよう注意する義務があるのにこれを怠り、頭部打撲挫傷などと診断し、「明日も診察を受けに来るように」「何か変わったことがあれば来院するように」等の指示をしただけで帰宅させた。そのため、Xらは、帰宅後におう吐してそのまま食事もせずに、いびきをかくなどして寝てしまったAの容態を重大なことと考えず、夜半、けいれん様の症状が出るなどして初めて異常に気付き、救急車でAを病院に搬送したものの、Aはまもなく死亡した、というものである。
二 一審、原審
一審は、Aの死亡は本件交通事故と本件医療過誤が競合した結果発生し、本件交通事故における運転者の行為と本件医療過誤における医師の行為は共同不法行為であるとし、被告に、発生した全損害の賠償責任を負わせた。
しかし、原審は、各行為が共同不法行為であるとしながら、「個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し、しかもその行為類型が異なり、行為の本質や過失構造が異なり、かつ、共同不法行為とされる各不法行為につき、その一方又は双方に被害者側の過失相殺事由が存する場合には、各不法行為者の損害発生に対する寄与度の分別を主張、立証でき、個別的に過失相殺の主張をできるものと解すべきであり、このような場合は、個々の不法行為の寄与度を定め、個々の不法行為についての過失相殺をした上で、各不法行為者が責任を負うべき賠償額を分別して認定するのが相当である。」とした上で(なお、原審は、交通事故の関係でAに三割の、Yとの関係でXらに一割の過失相殺事由があるとした。)、本件において、本件医療過誤の寄与度は五割とし、全損害の五割相当額について、一割の過失相殺をする等して、被告が責任を負うべき損害額を算定した。Xの申立てにより受理決定がされた
三 本判決
本判決は、本件交通事故と本件医療過誤とは、いずれもがAの死亡という不可分一個の結果を招来し、この結果について相当因果関係を有する関係にあって、本件交通事故における運転行為と本件医療過誤における医療行為とは共同不法行為に当たるから、各不法行為者は連帯責任を負うべきものであり、結果発生に対する各不法行為者の寄与度の割合をもって被害者の被った損害額を案分し、責任を負うべき損害額を限定することは許されないとして、原判決を破棄し、一割の過失相殺をして賠償額を算定して、自判した。
四 交通事故と医療過誤の競合事案における各不法行為者の責任
1 下級審裁判例、学説の状況
交通事故による被害者が、その後に受けた医師の医療行為の過誤によって死亡したり、後遺障害を負うなどの結果が生じた場合、交通事故の加害者の責任と医師の責任との関係をどのように把握するか、という、一般に「交通事故と医療過誤の競合」と言われる問題は、原因競合の一類型として、従来から、種々の点から議論がされている。従来、実務においては、民法七一九条一項前段について、各人の行為が客観的に関連共同していればよいと解する従来の通説の見解に立ち、交通事故と医療過誤の競合事案においては、両者は一連のものと評価できるから客観的関連共同性があるから共同不法行為に当たるとして両者に全額の連帯責任を課し、寄与度減額の抗弁自体を否定し、損害の発生、拡大についての各加害者の寄与度は加害者間の求償の関係で意味を持つにすぎないとみるのが大勢であった(福永政彦・民事交通事件の処理に関する研究三三九頁、東京高判昭57・2・17判時一〇三八号二九五頁、札幌高判昭58・7・7交民一六巻四号九一六頁、福岡地判昭59・8・10判時一一四〇号一一〇頁、東京地判昭60・5・31判時一一七四号九〇頁、横浜地判平3・3・19本誌七六一号二三一頁など。宮川博史「交通事故と医療過誤の競合」現代民事裁判の課題⑧一四四頁等)。これに対し、近時は、共同不法行為の成立は認めるものの、それぞれの過失行為の全損害に対する寄与度による損害賠償の分割を認める考え方、あるいは、交通事故と医療過誤との時間的近接の程度、医療過誤の態様等を総合的に斟酌して全額責任と寄与度に応じた分割責任を認める場合に分けて妥当な解決を図るべきであるとする見解(塩崎勤「因果関係(1)」裁判実務大系(17)医療過誤三二七頁、本田純一「交通事故と医療過誤の競合」ジュリ八六一号一三三頁、西島梅治「交通事故と医療過誤との競合」ジュリ八六九号一二〇頁)などが有力になっている。さらには、共同不法行為理論の適用自体を否定し、独立した不法行為が競合しているとする見解もある(稲垣喬「自賠法三条と医療過誤」裁判実務大系(8)三九頁、木ノ元直樹「交通事故と医療過誤」本誌九四三号一四九頁)。
そもそも、民法七一九条一項に規定する共同不法行為の意義そのものについてその要件、効果について議論が多岐にわたって錯綜しており、近時はますます混迷を深めていると評されている状況にあり、交通事故と医療過誤の競合の場合の議論も複雑である。しかし、学説は、法律構成上の違いはあるものの、各不法行為者の責任について寄与度の立証による責任の分割の余地を認める見解が多数になっているといってよい状況にある。寄与度減額による分割責任を肯定した下級審裁判例も現れていた。原判決は、このような最近の学説に流れに沿ったものと思われる。
2 本判決の意義
一口に交通事故と医療過誤の競合といっても、例えば、交通事故により、死亡するに至らない程度の傷害を負った被害者が、病院の医師の医療過誤により死亡するに至った場合など、いろいろの態様が考えられるのであり、事案によっては、各不法行為の損害を区分し、不法行為の独立性を肯定し得る場合があると考えられ、常に共同不法行為に当たるとはいえない。しかし、競合する不法行為による損害が渾然一体となっている場合に個別損害を特定主張すべしということは被害者に不可能を強いるに等しい上、また、交通事故と医療過誤の競合の事案において、共同不法行為に当たるとしながら、寄与度による分割責任が公平の見地から要請されるといえるかどうかは、そのデメリットもつとに指摘されているところであり(宮川博史「医療過誤との競合」現代裁判法大系(6)一二一頁、西島・前掲一二〇頁)、慎重な検討が必要であろう。
本件交通事故と本件医療事故とは、前述のとおり、そのいずれもの行為が被害者の死亡という渾然一体となった一個の損害を招来しているのであり、この損害を交通事故の加害者と医師とに区分することはできず、各行為と結果との間に相当因果関係の存在が認められず、医師の行為と因果関係のない結果を特定することはできない。このような場合には、原則としてそれぞれが全損害について責任を負うべきものであって、他方の不法行為があることによってそれぞれ責任が軽減されるのはいかにも不合理と考えられよう。本判決は、共同不法行為についての一般論は明らかにしていないが、前記の関係にある本件各不法行為は共同不法行為として各不法行為者は民法七一九条の明文どおり連帯責任を負うとし、損害に対する寄与の割合をもって責任を分別することはできないことを明らかにした。
3 過失相殺の方法
次に、交通事故加害者との関係でのAの過失をYとの関係で過失相殺をすることができるかどうかが第二の問題である。
この点について、甲、乙の各不法行為が順次競合した場合の、実務における過失相殺の方法をみると、①甲との関係での過失を乙との関係でもしん酌し、共通の割合により過失相殺をするもの、②甲との関係での過失を乙との関係ではしん酌せず、個別の割合で相対的に過失相殺を行うもの、の二方法が見られる。
本判決は、過失相殺は加害者と被害者との間においてそれぞれの過失の割合を基準として相対的な負担の公平を図る制度であるから、本件のような侵害行為を異にする不法行為行為が順次競合し不可分の損害を生ずる場合については、過失相殺は各不法行為の加害者と被害者との間における過失の割合に応じてすべきものであるとし、②の方法によるとの判断を示した。その結果、各自の負担する賠償額に差が生じたときは重なる限度での一部連帯債務となることになる。①は、乙が負担すべき損害額を、本来考慮すべきでない甲との関係での過失を理由に減少させることになり適当ではない、と考えたものと思われる。
五 まとめ
本判決は、従来から多数の議論がされている交通事故と医療過誤との競合事案における一類型について、共同不法行為の成立を認めて各不法行為者の賠償責任の範囲等について判示したものである。あくまで不法行為の競合の一類型における判断であって、これとは異なる類型における競合事案において、共同不法行為の成否、責任の範囲等についてどのように考えるべきかは、今後の裁判例の集積、議論の発展に待つということになろう。この論点に関する最高裁としての初めての判決であり、実務に与える影響は小さくないものと思われるので紹介する。
+判例(S51.3.30)
理由
上告代理人中林裕一、同安田忠の上告理由第一点について
記録によれば、被上告人は、本訴により、補助参加人の保有し運転する自動車と上告人成田精吉の保有し同下山正二の運転する自動車が交差点で衝突した反動により傷害を負つたことに基づき、補助参加人及び上告人らを共同被告として損害賠償を請求したが、第一審においては補助参加人に対する請求はほぼ全部認容され、上告人らに対する請求は棄却されたところ、補助参加人が、自己に対する第一審判決については控訴しなかつたが、上告人らもまた右事故につき損害賠償責任を免れないとして、被上告人のため補助参加を申し立てると同時に、原審に対し被上告人を控訴人とする控訴を提起したことが認められる。右の場合においては、被上告人と上告人らの間の本件訴訟の結果いかんによつて補助参加人の被上告人に対する損害賠償責任に消長をきたすものではないが、本件訴訟において上告人らの被上告人に対する損害賠償責任が認められれば、補助参加人は被上告人に対し上告人らと各自損害を賠償すれば足りることとなり、みずから損害を賠償したときは上告人らに対し求償し得ることになるのであるから、補助参加人は、本件訴訟において、被上告人の敗訴を防ぎ、上告人らの被上告人に対する損害賠償責任が認められる結果を得ることに利益を有するということができ、そのために自己に対する第一審判決について控訴しないときは第一審において相手方であつた被上告人に補助参加することも許されると解するのが、相当である。これと同旨の見解のもとに、補助参加人の補助参加の申立及び控訴の提起を適法とした原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第二点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(髙辻正己 天野武一 江里口清雄 服部髙顯)