1.不利益変更禁止の原則の意義
+(第一審判決の取消し及び変更の範囲)
第三百四条 第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。
+(附帯控訴)
第二百九十三条 被控訴人は、控訴権が消滅した後であっても、口頭弁論の終結に至るまで、附帯控訴をすることができる。
2 附帯控訴は、控訴の取下げがあったとき、又は不適法として控訴の却下があったときは、その効力を失う。ただし、控訴の要件を備えるものは、独立した控訴とみなす。
3 附帯控訴については、控訴に関する規定による。ただし、附帯控訴の提起は、附帯控訴状を控訴裁判所に提出してすることができる。
・自己の不服申し立ての限度を超えて自己に不利益に第1審判決を変更されることがない。
2.控訴裁判所における終局判決の種類
①控訴却下判決
+(控訴期間)
第二百八十五条 控訴は、判決書又は第二百五十四条第二項の調書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に提起しなければならない。ただし、その期間前に提起した控訴の効力を妨げない。
+(口頭弁論を経ない控訴の却下)
第二百九十条 控訴が不適法でその不備を補正することができないときは、控訴裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、控訴を却下することができる。
②控訴棄却判決
+(控訴棄却)
第三百二条 控訴裁判所は、第一審判決を相当とするときは、控訴を棄却しなければならない。
2 第一審判決がその理由によれば不当である場合においても、他の理由により正当であるときは、控訴を棄却しなければならない。
(控訴権の濫用に対する制裁)
第三百三条 控訴裁判所は、前条第一項の規定により控訴を棄却する場合において、控訴人が訴訟の完結を遅延させることのみを目的として控訴を提起したものと認めるときは、控訴人に対し、控訴の提起の手数料として納付すべき金額の十倍以下の金銭の納付を命ずることができる。
2 前項の規定による裁判は、判決の主文に掲げなければならない。
3 第一項の規定による裁判は、本案判決を変更する判決の言渡しにより、その効力を失う。
4 上告裁判所は、上告を棄却する場合においても、第一項の規定による裁判を変更することができる。
5 第百八十九条の規定は、第一項の規定による裁判について準用する。
③控訴認容判決
+(第一審判決が不当な場合の取消し)
第三百五条 控訴裁判所は、第一審判決を不当とするときは、これを取り消さなければならない。
+(上告の理由)
第三百十二条 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。
3 高等裁判所にする上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる。
+第三百八条 前条本文に規定する場合のほか、控訴裁判所が第一審判決を取り消す場合において、事件につき更に弁論をする必要があるときは、これを第一審裁判所に差し戻すことができる。
2 第一審裁判所における訴訟手続が法律に違反したことを理由として事件を差し戻したときは、その訴訟手続は、これによって取り消されたものとみなす。
+(第一審の判決の手続が違法な場合の取消し)
第三百六条 第一審の判決の手続が法律に違反したときは、控訴裁判所は、第一審判決を取り消さなければならない。
+(事件の差戻し)
第三百七条 控訴裁判所は、訴えを不適法として却下した第一審判決を取り消す場合には、事件を第一審裁判所に差し戻さなければならない。ただし、事件につき更に弁論をする必要がないときは、この限りでない。
+(第一審の管轄違いを理由とする移送)
第三百九条 控訴裁判所は、事件が管轄違いであることを理由として第一審判決を取り消すときは、判決で、事件を管轄裁判所に移送しなければならない。
3.設問1について
+判例(福岡高判18.6.29)
調べておく。
・第1審判決の認容額を下回る金額に第1審判決を変更することはできず、あくまで控訴棄却にとどめざる得ない。
・ただ、釈明権を行使するという考え方も。
4.設問2について
不利益変更禁止の原則について
判例通説→
「判決(取消し・変更)」の範囲を不服の範囲内に制限するものと考える!!
反対説→
判決以前に「審理」の範囲を実質的な不利益の枠内に制限するものと考える!
+判例(S61.9.4)
理 由
上告代理人祝部啓一の上告理由二について
貸与される金銭が賭博の用に供されるものであることを知つてする金銭消費貸借契約は公序良俗に違反し無効であると解するのが相当であるところ(最高裁昭和四六年(オ)第一一七七号同四七年四月二五日第三小法廷判決・裁判集民事一〇五号八五五頁)、原審の適法に確定した事実によれば、被上告人は、上告人甲野に対し本件金銭が賭場開帳の資金に供されるものであることを知りながら、本件金銭を貸与したというのであるから、本件金銭消費貸借契約は公序良俗に違反し無効であるというべきである。したがつて、本件金銭消費貸借契約は無効とはいえないとした原審の判断には、民法九〇条の解釈適用を誤つた違法があり、この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、これと同旨に帰着する論旨は理由があり、原判決は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、原審の確定した事実及び右の説示によれば、被上告人の請求は、上告人らの主張する相殺の抗弁について判断するまでもなく、原審における請求の拡張部分を含めて、その全部につき理由がなく、棄却すべきことが明らかである。
ところで、本件訴訟の経緯についてみるに、記録によれば、(一) 第一審は、被上告人の本件貸金請求につき本件金銭消費貸借契約は公序良俗に違反しないなどとして貸金債権が有効に成立したことを認めたものの、右貸金債権は、上告人らの主張する反対債権である売買代金返還請求債権と対当額で相殺されたことによりその全額につき消滅したとして、被上告人の本件貸金請求を棄却する旨の判決をした、(二) 第一審判決に対しては、被上告人のみが控訴し、上告人らは控訴も附帯控訴もしなかつた、(三) 原審は、被上告人の貸金債権については、第一審判決と同じく公序良俗違反などの抗弁を排斥してその有効な成立を認めたうえ、上告人らの主張する相殺の抗弁については、反対債権は認められないとしてこれを排斥し、被上告人の本件貸金請求(原審における請求の拡張部分を含む。)を認容する判決をした、(四) 上告人らは、原判決の全部につき上告の申立をした、というものであるところ、本件のように、訴求債権が有効に成立したことを認めながら、被告の主張する相殺の抗弁を採用して原告の請求を棄却した第一審判決に対し、原告のみが控訴し被告が控訴も附帯控訴もしなかつた場合において、控訴審が訴求債権の有効な成立を否定したときに、第一審判決を取り消して改めて請求棄却の判決をすることは、民訴法一九九条二項に徴すると、控訴した原告に不利益であることが明らかであるから、不利益変更禁止の原則に違反して許されないものというべきであり、控訴審としては被告の主張した相殺の抗弁を採用した第一審判決を維持し、原告の控訴を棄却するにとどめなければならないものと解するのが相当である。そうすると、本件では、第一審判決を右の趣旨において維持することとし、被上告人の本件控訴を棄却し、また被上告人の原審における請求の拡張部分を棄却すべきことになる。
よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎 裁判官 大内恒夫)