会社法 事例で考える会社法 事例11 不採算店舗の売却の段取り


Ⅰ はじめに

++(取締役会の権限等)
第三百六十二条  取締役会は、すべての取締役で組織する。
2  取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一  取締役会設置会社の業務執行の決定
二  取締役の職務の執行の監督
三  代表取締役の選定及び解職
3  取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。
4  取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一  重要な財産の処分及び譲受け
二  多額の借財
三  支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四  支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五  第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
六  取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
七  第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
5  大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。

+(事業譲渡等の承認等)
第四百六十七条  株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。
一  事業の全部の譲渡
二  事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)
二の二  その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)
イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。
ロ 当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき。
三  他の会社(外国会社その他の法人を含む。次条において同じ。)の事業の全部の譲受け
四  事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更又は解約
五  当該株式会社(第二十五条第一項各号に掲げる方法により設立したものに限る。以下この号において同じ。)の成立後二年以内におけるその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用するものの取得。ただし、イに掲げる額のロに掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合を除く。
イ 当該財産の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額
ロ 当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額
2  前項第三号に掲げる行為をする場合において、当該行為をする株式会社が譲り受ける資産に当該株式会社の株式が含まれるときは、取締役は、同項の株主総会において、当該株式に関する事項を説明しなければならない。

+(反対株主の株式買取請求)
第四百六十九条  事業譲渡等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、事業譲渡等をする株式会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
一  第四百六十七条第一項第一号に掲げる行為をする場合において、同項の株主総会の決議と同時に第四百七十一条第三号の株主総会の決議がされたとき。
二  前条第二項に規定する場合(同条第三項に規定する場合を除く。)
2  前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主をいう。
一  事業譲渡等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
イ 当該株主総会に先立って当該事業譲渡等に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該事業譲渡等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主
二  前号に規定する場合以外の場合 全ての株主(前条第一項に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)
3  事業譲渡等をしようとする株式会社は、効力発生日の二十日前までに、その株主(前条第一項に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)に対し、事業譲渡等をする旨(第四百六十七条第二項に規定する場合にあっては、同条第一項第三号に掲げる行為をする旨及び同条第二項の株式に関する事項)を通知しなければならない。
4  次に掲げる場合には、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
一  事業譲渡等をする株式会社が公開会社である場合
二  事業譲渡等をする株式会社が第四百六十七条第一項の株主総会の決議によって事業譲渡等に係る契約の承認を受けた場合
5  第一項の規定による請求(以下この章において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
6  株券が発行されている株式について株式買取請求をしようとするときは、当該株式の株主は、事業譲渡等をする株式会社に対し、当該株式に係る株券を提出しなければならない。ただし、当該株券について第二百二十三条の規定による請求をした者については、この限りでない。
7  株式買取請求をした株主は、事業譲渡等をする株式会社の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる。
8  事業譲渡等を中止したときは、株式買取請求は、その効力を失う。
9  第百三十三条の規定は、株式買取請求に係る株式については、適用しない。

Ⅱ 最判昭和40年判決
1.問題の所在

+判例(S40.9.22) これは事件は同じだけど別の論点のほう。(笑)
理由
上告代理人広瀬通、同一松弘の上告理由第二点について。
株式会社の一定の業務執行に関する内部的意思決定をする権限が取締役会に属する場合には、代表取締役は、取締役会の決議に従って、株式会社を代表して右業務執行に関する法律行為をすることを要するしかし、代表取締役は、株式会社の業務に関し一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する点にかんがみれば、代表取締役が、取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々的取引行為を、右決議を経ないでした場合でも、右取引行為は、内部的意思決定を欠くに止まるから、原則として有効であって、ただ、相手方が右決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしときに限って、無効である、と解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原判決の認定したところによれば、上告会社の代表取締役上原が本件物件を売却するには、重要事項として上告会社の取締役会の決議を経ることを要したにもかかわらず、右決議を経ていなかったのであるが、買主である被上告組合が右決議を経ていなかったことを知りまたは知り得べかりし事実は本件の全証拠によっても認められない、というのであり、原判決の右事実認定は、本件関係証拠に照らし首肯するに足り、右認定には所論のような違法はない
所論は、判示と異なる見解のもとに原判決を論難するか、または原審の裁量に属する事実認定を非難するものであって、採用できない。
同第三点について。
上告人が原審において所論の本件売買契約が通謀虚偽表示である旨の抗弁を提出していないことは、記録に徴して明らかであるから、所論は、原審において主張しなかった事実をもって、原判決に判断遺脱、理由不備の違法があるとするものであって、採用するに由ない。
同第四点について。
中小企業等協同組合の業務執行に関する内部的意思決定は、法令、定款または規約をもって、総会または総代会の権限とされているものを除いて、理事会の権限に属する。しかし、中小企業等協同組合は、理事会に属する右の権限のうち、法令が特に理事会において決議すべき事項であると定めたものを除いては、定款をもって、代表理事に委任することができる、と解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原判文は、その措辞にやや足りないところがあり、不明確の嫌いがないわけではないが、その挙示の証拠を照合すれば、その趣旨とするところは、被上告組合の定款は、理事会に属する業務執行に関する内部的意思決定の権限のうち、法令または定款が特に理事会の決議事項であると定めたものを除いて、代表理事に委任しており、本件売買契約の締結についての内部的意思決定は、被上告組合の総会、総代会および理事会の決議事項ではないから、代表理事に委任された事項であり、従って、本件売買契約は、被上告組合の理事会の決議を経ていないため、無効となるものではない、というにあるものと解されるから、原判決には所論の違法はない。
所論は、ひっきょう、判示と異なる見解のもとに原判決を論難し、かつ、原審の裁量に属する事実認定を非難するに帰し、採用できない。
なお、同第一点および上告代理人小林俊三、同曽根信一の上告理由第一点の論旨の理由がないことは、前記大法廷判決の判断したところである。
よって、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)

+こっち。
理由
論旨は、要するに、原判決が、上告会社と被上告組合との間の本件売買契約をもつて、商法二四五条一項一号にいう「営業ノ全部又ハ重要ナル一部ノ譲渡」(以下単に「営業の譲渡」という。)にあたらず、したがつて、本件売買契約については上告会社の株主総会の特別決議を経ることを要しないとしたのは、(一)同号にいう営業の譲渡の解釈を誤り、かつ、(二)本件売買契約の目的物について経験則および採証の法則に違背して事実を認定した違法がある、というにある。
(一)よつて、まず、右(一)の所論(法令違反)について判断する。商法二四五条一項一号によつて特別決議を経ることを必要とする営業の譲渡とは、同法二四条以下にいう営業の譲渡と同一意義であつて、営業そのものの全部または重要な一部を譲渡すること、詳言すれば、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによつて、譲渡会社がその財産によつて営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法二五条に定める競業避止業務を負う結果を伴うものをいうものと解するのが相当である。
所論は、要するに、右判示のような見解を採るときは、譲渡会社またはその株主の利益が害される危険があることを力説した上、営業の譲渡とは、いわゆる機能的財産の移転を目的とする契約であり、営業が譲受人に移転し受継されるのを通例とするが、必ずしもそのように狭く解すべきではなく、かかる機能的財産を構成している重要な営業用財産が一括して譲渡され、その結果譲渡会社の運命に重大な影響を及ぼすような場合、たとえば譲渡会社がその結果営業を遂行できなくなるような場合において、当事者がその結果を予見しているときは、いわゆる狭義の「営業譲渡」の場合に準じて、該当会社の株主総会の特別決議を要するものと解するのが相当である、というにある。
しかしながら、商法二四五条一項一号の規定の制定およびその改正の経緯に照しても、右法条に営業の譲渡という文言が採用されているのは、商法総則における既定概念であり、その内容も比較的に明らかな右文言を用いることによつて、譲渡会社がする単なる営業用財産の譲渡ではなく、それよりも重要である営業の譲渡に該当するものについて規制を加えることとし、併せて法律関係の明確性と取引の安全を企図しているものと理解される。前示所論のように解することは、明らかに前示法条の文理に反し、法解釈の統一性、安定牲を害するばかりでなく、その譲渡が無効であるかどうかが、譲渡の相手方または第三者にとつては必ずしも詳らかにしえない譲渡会社の内部的事情によつて左右される結果を認めることとなり、前判示のように解する場合に比較して、法律関係の明確性ないし取引の安全を害するおそれも多く、右所論のような拡張解釈は、法解釈の限度を逸脱するものというほかはない。所論は、立法政策としては考慮の余地があるとしても、現行法の解釈論としては、とうてい採用することをえない。
されば、右判示と見解を同じくする原判決には、商法二四五条一項一号の解釈を誤つた違法はない。
(二)つぎに、前示(二)の所論(事実誤認)について判断する。所論は、要するに、本件売買契約の目的物である本件物件が上告会社の組織的一体かつ唯一無二の全営業用財産であることが証拠上明白であるのに、原判決がこれを認めなかつたのは、経験則および採証の法則に違反して事実を認定した違法がある、というにある。
しかしながら、原判決を通読すれば、原審は、本件物件は譲渡会社である上告会社がこれによつて製材業を営んでいた木曾工場を構成するものであつたが、本件売買契約に当つては、いずれの当事者も本件物件を有機的一体として機能する財産として売買する意思はなく、とくに譲受人である被上告組合にとつては、製材業を譲り受けることは目的の範囲外の行為であり、被上告組合が本件物件のうちの不動産を買い受けたのは、被上告組合の目的である組合員その他の者の出品する木材および製材品の市売等を行うための土場および事務所に使用するためであり、本件物件のうちの機械器具類に至つては、これだけ除外しても、上告会社がその処置に窮するであろうことを思いやり、これを本件売買契約の目的物のうちに加えたものにすぎず、したがつて、本件売買は、営業を構成していた各個の財産の譲渡であつて、営業の譲渡に当らない旨を判示しているのであり(本件物件が上告会社の重要な営業用財産ではないから、本件売買が営業の譲渡に当らないと判断しているものではない。)、原審の右認定、判断は、これに対応する挙示の証拠関係に照して首肯できないわけではなく、その認定、判断には、所論の違法はない。
所論は、原判決を正解せず、かつ、原審の裁量に属する事実認定を非難するものであつて、採用できない。
よつて、裁判官奥野健一の補足意見、裁判官山田作之助、同草鹿浅之介、同柏原語六、同田中二郎、同松田二郎、同岩田誠の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+補足意見
裁判官奥野健一の補足意見は次のとおりである。
営業譲渡は、単なる営業用財産の譲渡とその概念を異にする。営業を構成する各個の財産の譲渡は、それが如何に重要なものであつても、また一括譲渡であつても、それだけでは営業譲渡とはいえない。営業譲渡とは、多数意見もいうように、「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」の移転であり、それにより譲受人は譲渡人と同様の営業者たる地位を取得することをいう。すなわち、営業の譲渡とは、譲受人をして営業用財産の取得と経営者たる地位引継の権利を取得せしめ、譲渡人と社会通念上同じ状態にて営業を継続し得る地位を得せしめるものをいう(譲受人が実際上営業的活動を承継実行すると否とを問わない)。さればこそ、その効果として、譲渡人は一定範囲の競業避止の義務を負うのである。このことは、商法が株式会社の営業譲渡について、会社の合併と同様な法律的規制(株主総会の特別決議を必要とし、かつ、反対株主に対し株式買取請求権を認める)を定めているところがらも、営業譲渡を企業の承継的移転と実質的に同視していることが窺われる。
例えば、会社の工場、設備その他の機械器具を更新する必要があるため、これらを一括売却しても、いわゆる営業譲渡ではないことは明らかであると同様に、本件における土地建物および機械器具等の譲渡が、従来の営業たる製材業とは、全然別個の用途に使用するため行われたものであることは、原審の確定するところであり、かかる営業用財産の譲渡が営業譲渡に当らないことも明らかである。
会社の取締役が株主総会の決議を経ることなく、会社の重要財産を恣に処分し得ることとすれば、会社および株主に甚大な損害を蒙らせ、会社の運命に重大な影響を及ぼす危険があるという理由で、営業用財産の譲渡も営業の譲渡に当ると解せんとするが如きは、商法の営業譲渡の概念を不明確にするものであつて、採るを得ない。かかる場合に、現行法上の取締役に対する責任追及の規定のみでは足りないとすれば、宜しく立法により明確に解決すべきである。更にまた、多数意見に従えば、営業の譲渡であるか否かは、譲渡契約の内容によつて、形式的に定まるのを通常とするから、譲受人は、当該譲渡が相手方会社にとつて特別決議を必要とするか否かを容易に判別することができ、従つて、取引の安全を害する恐はない。これに反し、営業用財産の譲渡も営業の譲渡に当ると解する立場をとれば、単なる営業用財産の全部又は重要な一部の譲渡がされた場合にあつては、それが果して会社の営業用財産の全部であるか又は譲渡会社にとつて重要な一部の財産であるかは、譲渡会社の内部事情であるから、譲受人にとつては不明であるにもかかわらず、後日に至り特別決議を経なかつたことを理由として、譲渡会社より譲渡契約の無効を主張されることとなり、従つて、譲渡人の利益と取引の安全とが著しく害せられる結果となる。また、営業用財産の全部又は重要な一部の譲渡の場合も「営業の全部又は重要なる一部の譲渡」に当ると解するとすれば、譲渡人の競業避止義務、反対株主の株式買取請求権の有無、範囲についても、解釈上相当困難な問題が生ずるであろう。
これを要するに、営業用財産の譲渡が営業譲渡に当ると解することは、文理解釈上も無理であり、商法上の営業譲渡の既定概念にも反し、また取引の安全をも害するから、本件上告論旨は採るを得ない。

+反対意見
裁判官山田作之助の反対意見は次の通りである。
一、わたくしは、本件において唯一ともいうべき争点(従つて上告代理人が上告理由として主張する点)は、本件上告会社(払込資本金百五十万円)の当時の代表取締役であつたAが株主総会にはからないで(特別決議を得ないで)長野県西筑摩郡上松町所在の同社製材工場(この工場は、同社の唯一ともいうべき工場であつて、その敷地面積は約千六百余坪、工場建物は約六棟建坪約三百余坪、備付の機械器具類は約数十点におよぶ)を、一括して有姿のまま~代金五百八十万円で被上告組合に譲渡し、組合は右代金をもつてこれを譲り受けたとの事実(社会的事象)をどう法律的に評価し、その法律的効果を認めるべきかの問題であると考える。
二、思うに、商法二四五条一項一号は、会社の代表取締役が会社の「営業ノ全部又ハ重要ナル一部」を他に譲渡するには、株主総会の特別決議を経ることを要するとし、その特別決議なしでなされた譲渡行為は当然無効であるとしているのである。その立法趣旨は、いうまでもなく、会社は営利を目的として存在し、従つて営業をすることが存在の基礎なので、会社の営業を他に譲渡するような所為は会社の存続の基礎に影響をおよぼすものであるから、株主及び会社の利益を保護するため、みだりにその会社の取締役が単独でこれらの所為をすることを禁じている趣旨に外ならない。そして、現代の株式会社型態による企業にあつては、その会社の営業の目的如何によつては、例えば本件上告会社のような生産業を営むものにあつては、その生産設備を操業ずることが営業の主要部分を構成するものであり、換言すれば、その会社の生産工場が会社の目的である営業を遂行する物的基礎となつているもので、会社の営業の基礎は、その工場を経営することにあり、従つてその工場を敷地や備付の機械器具類等と一括して他に譲渡するようなことは、その工場における会社の営業活動を廃止することを結果するもので、すなわち会社の営業ひいては会社の存続の基礎に重大な影響を及ぼすものであるから、商法二四五条一項一号の前記立法趣旨に照らし、株主及び会社の利益保護のため、株主総会の特別決議を要する「営業の譲渡」に包含されるものと解するのが相当であり、かように解することが現代の株式会社企業の実体を正確に把握し、現時の産業界経済界の実情に即するものというべきである。
なお一言すべきは、私的独占禁止法一六条が、会社の営業の譲受等を規制するに当つて、法文上営業の譲渡と営業上の固定資産の譲受とを同列に規定し、両者を同一に取り扱い、法律上同一視されるべきものとして立法していることである。このことに徴しても、会社型態の企業における営業の譲渡の意義を前記のように解することの正当であることを首肯するに足るであろう。
三、これに反し、原判決は、商法二四五条一項一号にいう営業の譲渡の意義を、商法総則の規定である同法二四条以下にいう営業の譲渡の意味と同様に解し、毫も株式会社企業の実態を顧慮することなく、形式的観点によつて営業なる観念を構成し、本件事案を律した嫌があり、物の生産を業とする株式会社の営業の実態をきわめないで判断した結果、製材業を営む上告会社の唯一ともいらべき本件生産工場を有姿のまま他に譲渡した所為を目して商法二四五条一項一号に該当するものでないとしたのは、右法条の趣旨を理解しない違法があるといわなくてはならない。
四、この様に生産会社がその営業の基礎をなす生産工場を譲渡することが、特段の事情がないかぎり、商法二四五条一項一号にいう営業の譲渡に該当すると解するとすれば、工場の譲渡取引に際し、一一その実体について調査する必要を生じ、善意で工場を譲り受けた相手方に不測の損害を与える恐れがあり、取引の安全を害するとの批判が予想されるが、株式会社にあつては、その会社の資産状態は、毎決算期毎に財産目録貸借対照表等財務諸表が公表されており、明白になつているのであるから、工場の譲渡取引に当つて、その工場が譲渡会社の営業にとつて如何に値しているかは、相手方において容易に知ることができるものと推認されることに徴すれば、毫も、取引の安全を害するという問題は生ぜず、右の批判は当らない。
よつて、本件は、本件譲渡取引の実体について更に審理判断させる必要があるものと考えられるから、原判決を破棄し、これを原裁判所に差し戻すのを相当とする。

+反対意見
裁判官松田二郎の反対意見は次のとおりである。
一、私は、多数意見が商法二四五条一項一号に規定する「営業の譲渡」について採る見解に反対するものである。
多数意見は、次のとおり主張する。曰く「商法二四五条一項一号によつて特別決議を経ることを必要とする営業の譲渡とは、同法二四条以下にいう営業の譲渡と同一意義であつて、営業そのものの全部または重要な一部を譲渡すること、詳言すれば、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによつて、譲渡会社がその財産によつて営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法二五条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうものと解するのが相当である」というまでもなく、商法二四条以下に規定する「営業」の意義をいかに解するかについては、学説が対立し、これに従つて「営業譲渡」の性質についても見解が多岐に分れている。多数意見は、そのうちで、営業譲渡について、「営業的活動の承継」を必要とする説を採り、かつ商法二四五条一項一号の「営業譲渡」についても、同様に解するのである。しかし、商法総則において論ぜられる営業譲渡について、かかる見解をとること自体に是非の論があるのみならず、商法二四五条一項一号の「営業譲渡」を商法二四条以下の営業譲渡と必ずしも同一に解しなければならないものではない。これは法域によりその目的を異にすることによつて生ずる法律概念の相対性として、当然のことなのである。
二、思うに、経済上より観察すれば、営業譲渡の場合、譲受人が譲渡人の営業的活動を承継することが少なくない。しかし、法律上の問題として、商法二四五条一項一号の「営業譲渡」の意義をいかに解するかについては、別個の考察を必要とする。私はまず右条文の「営業譲渡」には「営業的活動の承継」を要件としないことを明らかにしたい。今もし多数意見に従うときは、次のような不当な結果を生ずからである。
(一)まずこの問題を営業の全部の譲渡について論じたい。
(1)多数意見によれば、譲受人による営業的活動の承継がある場合とない場合とを截然と区別し、その承継のない限り、譲渡会社の代表取締役は何等株主総会の決議を経ることなく、自己の裁量により、「会社の全財産」を譲渡し得るのである。ただこの場合、代表取締役はその譲渡について、会社に対して取締役としての責任を負うことがあるに止まることとなる。同様の理由により、会社の代表取締役は何等株主総会の決議を経ることなく、会社の全財産を譲渡担保となし得ることとなる。要するに、代表取締役はこの点において、きわめて広汎な権限を有するというのである。しかるに、多数意見に従えば、一旦、譲受人が譲渡会社の営業的活動を承継するときは、代表取締役の権限はたちまちその偉力を失い、その譲渡について、株主総会の特別決議を経ることを要することとなるのである。何故に、営業活動の承継がある場合には株主総会の特別決議を必要とするにかかわらず、その承継のない場合にはこれを不必要とするのか。おそらく、何人もその間に存する著しい不均衡を感ずるであろう。さらに、会社の全財産を譲渡するについて、何等株主総会の決議を必要としない場合を認めることは、毎決算期に計算書類の承認(商法二八三Ⅰ)にさえ、定時株主総会の決議を要することと比較しても、理解し得ないところである。畢竟、多数意見は、会社企業の存立の基礎たる全財産の処分を代表取締役の恣意に委ねることすら生ぜしめるものであつて、「企業維持」の点より見て、きわめて危険な考えであるといわざるを得ない。
次に、多数意見は、株主保護の点より見ても、到底是認し得ない。けだし、多数意見によるときは、営業的活動の承継のない限り、会社の全財産の譲渡も株主総会の決議を経ることを要しないから、譲渡会社の株主の全く不知の間に、その処分が行われ得ることとなるからである。そして、その結果として、商法二四五条一項一号の営業譲渡に反対する株主の有する株式の買取請求権(商法二四五ノ二)のごときも、著しくその機能を失うこととなるのである。
(2)さらに不当と思われるのは、多数意見がその見解をもつて商法二四五条一項一号の制定の沿革およびその改正の経緯に照して正当であると主張することである。
昭和一三年法律七二号による改正商法の制定以前において、通説上、株式会社はその存続中、「営業の全部の譲渡」契約をなし得ないものとされ、また、営業譲渡とは客観的意義における営業、すなわち営業財産の譲渡であると解されていた。従つて、通説上、会社はその「存続中」、その全財産を譲渡し得ないものと解されていたのである。
換言すれば、株主総会の特別決議を以ても、「営業の全部の譲渡」は認められず、まして取締役によるその譲渡のごときは、予期しなかつたところといえる。その後、昭和一三年の右改正法律は、株主総会の特別決議による「営業の全部の譲渡」を認める(右改正後の二四五条一項一号)と同時に、右「営業の全部の譲渡」を会社の当然の解散事由であるとした(右改正後の四〇四条三号)。しかるに、昭和二五年法律一六七号による商法の改正によつて、右四〇四条三号が削除された結果、会社の存続中における「営業の全部の譲渡」すなわち営業財産全部の譲渡も可能となつたのである。これは一面において存続中における会社の全財産の譲渡を可能とすることによつて企業集中に基づく経済の変遷に傾応しつつ、しかも他面においてその譲渡には株主総会の特別決議を要するものとして、会社自体の利益の害されないよう配慮したものである。
さらに右昭和二五年法律一六七号による商法改正は、従来の商法二四五条一項一号が「営業の全部又は一部の譲渡」と規定していたのを、「営業の全部又は重要なる一部の譲渡」と改めるとともに、新たに商法二四五条ノ二の規定を設け、その営業譲渡に反対する株主に対して株式買取請求権を附与するに至つた。これはアメリカ法にならつて、株主の地位を強化し、その保護を増大せしめようとしたのに基づくのであるが、多数意見はこの点の改正の意図、経緯にも背反するものというべきである。
要するに、「営業の全部の譲渡」とは、いわゆる客観的意義における営業、すなわち、会社の営業財産の全部の譲渡を意味し、営業的活動の承継は営業譲渡の要件でないと解すべきである。このことは、営業の一部譲渡についても同様である。
(二)次に、前記法条の「営業の重要なる一部の譲渡」の場合における「重要」という点について述べたい。この点についても、私は多数意見と見解を異にするからである。
いうまでもなく、営業は単なる個々的財産の集合ではなく、営業の目的のために組織化されて有機的一体をなす財産であり、従つて、それを構成する個々的財産の極値の総和よりも高い価値を有するものである。営業譲渡とは、かかる有機的一体としての価値を有する財産の譲渡を意味する。このことは、営業の全部の譲渡のときでも、その重要な一部の譲渡のときでも同様である。そして、たとえば、製造業を営む株式会社が数個の工場を有する場合も、の会社企業全体の見地よりする価値判断において「重要」と認められる工場を譲渡することは、まさに「営業の重要なる一部」の譲渡である。問題となるのは、その工場における重要な機械を他に譲渡することをいかに解すべきかということである。
思うに、その機械がその重要工場の機能を発揮するため、きわめて重要性を有するものであれば、その機械の譲渡は、決して一個の機械の譲渡と解すべきものでなく、実質上、その譲渡はその工場自体の価値―工場が有機的のものとして有する高度の価値―を破壊することとなろう。すなわち、会社の見地よりすれば、その機械の譲渡によつて蒙る価値の変動は、その機械のすえつけられている工場自体の譲渡によつて蒙る価値の変動と異らないものといい得るのである(その機械の売却は、その企業の製品の売却とは全く趣を異にする。)。そしてこのように解することによつて、会社企業は維持され、また株主の利益も保護されるのである。この見地に立つとき、重要工場の重要な機械の譲渡は、代表取締役の専権に委ねられたものでなく、その譲渡には株主総会の特別決議を要すると解することが、むしろ当然であると思われるのである。
しかるに、これに反する見解を採るときは、会社企業より見てきわめて重要な生産のための機械の譲渡をも、単なる個々的財産の譲渡として取り扱い、代表取締役がこれをなし得ることとなろう。そして、このような見解を是認するときは、代表取締役が会社としてきわめて価値ある重要財産をも、形式上、個々的に譲渡するごとく偽装することによつて、檀にこれを処分する弊を増大せしめるであろう。
(三)さらに次の点について、一言すべき必要を感じる。多数意見は「営業的活動の承継」の有無を基準とすることが、「取引の安全」に資すると主張するからである。しかし、このような主張は、全く理解できないところである。
思うに、株式会社は、その営業上の商取引(たとえば製品たる商品の売買)においては、相手方保護のため、取引の安全が強く要請されるべきことは当然である。しかしながら、会社の営業自体は、本来、譲渡されることを目的とするものではなく、その譲渡は、むしろ、例外的な事例である。従つて、その譲渡については、商取引におけるがごとき取引の安全を強調すべきでなく、却つて譲渡会社自体の利益の保護を高度に考えなければならないのである。いわば、動的安全よりも静的安全を重視すべきものといえよう。この点でも、多数意見の考え方は誤りを含むものと思われる。
さらに、「営業の一部の譲渡」の場合には、たとえ多数意見に従つても、必ずしも取引の安全に役立つものでないことを指摘したい。けだし、営業の一部の譲渡に当つては、それが「重要」なる一部であるか否かが、会社企業全体の見地よりする価値判断によつて決せられるから、「重要」の有無は個々の具体的場合によつて異ることとなり、あるいは株主総会の特別決議を必要とし、あるいはこれを不必要とするからである。
三、今本件についてみるに、原審の認定したところによれば、被上告組合は上告会社から、その所有する木曾工場の建物、敷地その機械器具を買受けたというのである。しかも、原判決の判示によれば、本件木曾工場の物件が上告会社の重要な営業用財産であることが窺知されるのである。しかるに、原審は右物件の譲渡には「営業的活動の承継が伴わず」、かつ右物件の譲渡は「営業を構成している各個の財産の譲渡」すなわち、その個々的な譲渡に過ぎないものとして、右譲渡は商法二四五条一項一号の「営業譲渡」に当らないものとした。原審は、このような見解に立つて、その譲渡には株主総会の特別決議を要しないとしたのである。そして多数意見は、営業譲渡に関し原審と同様の見解をとるのである。
しかしながら、かかる見解を採る多数意見の失当なことは、私の既に述べたところによつてきわめて明白であり、私はこれに反対せざるを得ないのである。
裁判官草鹿浅之介、同柏原語六、同田中二郎、同岩田誠は、裁判官松田二郎の右反対意見に同調する。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)

3.昭和40年判決の読み方

Ⅲ 問1について
1.B社(譲受会社について)

+(事業譲渡等の承認等)
第四百六十七条  株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。
一  事業の全部の譲渡
二  事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)
二の二  その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)
イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。
ロ 当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき。
三  他の会社(外国会社その他の法人を含む。次条において同じ。)の事業の全部の譲受け
四  事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更又は解約
五  当該株式会社(第二十五条第一項各号に掲げる方法により設立したものに限る。以下この号において同じ。)の成立後二年以内におけるその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用するものの取得。ただし、イに掲げる額のロに掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合を除く。
イ 当該財産の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額
ロ 当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額
2  前項第三号に掲げる行為をする場合において、当該行為をする株式会社が譲り受ける資産に当該株式会社の株式が含まれるときは、取締役は、同項の株主総会において、当該株式に関する事項を説明しなければならない。

2.3つの要件について

Ⅳ 問2について
+(事業譲渡等の承認を要しない場合)
第四百六十八条  前条の規定は、同条第一項第一号から第四号までに掲げる行為(以下この章において「事業譲渡等」という。)に係る契約の相手方が当該事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社(ある株式会社の総株主の議決権の十分の九(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社をいう。以下同じ。)である場合には、適用しない
2  前条の規定は、同条第一項第三号に掲げる行為をする場合において、第一号に掲げる額の第二号に掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないときは、適用しない。
一  当該他の会社の事業の全部の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額
二  当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額
3  前項に規定する場合において、法務省令で定める数の株式(前条第一項の株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)を有する株主が次条第三項の規定による通知又は同条第四項の公告の日から二週間以内に前条第一項第三号に掲げる行為に反対する旨を当該行為をする株式会社に対し通知したときは、当該株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。

(反対株主の株式買取請求)
第四百六十九条  事業譲渡等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、事業譲渡等をする株式会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
一  第四百六十七条第一項第一号に掲げる行為をする場合において、同項の株主総会の決議と同時に第四百七十一条第三号の株主総会の決議がされたとき。
二  前条第二項に規定する場合(同条第三項に規定する場合を除く。)
2  前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主をいう。
一  事業譲渡等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
イ 当該株主総会に先立って当該事業譲渡等に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該事業譲渡等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主
二  前号に規定する場合以外の場合 全ての株主(前条第一項に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)
3  事業譲渡等をしようとする株式会社は、効力発生日の二十日前までに、その株主(前条第一項に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)に対し、事業譲渡等をする旨(第四百六十七条第二項に規定する場合にあっては、同条第一項第三号に掲げる行為をする旨及び同条第二項の株式に関する事項)を通知しなければならない。
4  次に掲げる場合には、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
一  事業譲渡等をする株式会社が公開会社である場合
二  事業譲渡等をする株式会社が第四百六十七条第一項の株主総会の決議によって事業譲渡等に係る契約の承認を受けた場合
5  第一項の規定による請求(以下この章において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
6  株券が発行されている株式について株式買取請求をしようとするときは、当該株式の株主は、事業譲渡等をする株式会社に対し、当該株式に係る株券を提出しなければならない。ただし、当該株券について第二百二十三条の規定による請求をした者については、この限りでない。
7  株式買取請求をした株主は、事業譲渡等をする株式会社の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる。
8  事業譲渡等を中止したときは、株式買取請求は、その効力を失う。
9  第百三十三条の規定は、株式買取請求に係る株式については、適用しない。

Ⅴ 問3について
1.はじめに
2.決議取消しの訴え
①特別利害関係人が議決権を行使
②そのことにより決議が成立
③当該決議の内容が著しく不当

+(株主総会等の決議の取消しの訴え)
第八百三十一条  次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)、監査役若しくは清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役又はそれ以外の設立時取締役)又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。
一  株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二  株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。
三  株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき
2  前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。

特別利害関係人
=問題となる総会議案の成立により他の株主と共通しない特殊な利益を獲得し、もしくは不利益を免れる株主!

3.決議を欠く事業譲渡の効力
・取り消されると遡って無効(839条の反対解釈)
+(無効又は取消しの判決の効力)
第八百三十九条  会社の組織に関する訴え(第八百三十四条第一号から第十二号まで、第十八号及び第十九号に掲げる訴えに限る。)に係る請求を認容する判決が確定したときは、当該判決において無効とされ、又は取り消された行為(当該行為によって会社が設立された場合にあっては当該設立を含み、当該行為に際して株式又は新株予約権が交付された場合にあっては当該株式又は新株予約権を含む。)は、将来に向かってその効力を失う。

・譲受人の善意悪意を問わず、総会決議を欠く事業譲渡を無効!
+判例(S61.9.11)
理  由
上告代理人吉永多賀誠の上告理由第一点及び第五点について
一 原審の確定した本件の事実関係は、次のとおりである。
1 被上告会社は、たばこ製造機械及び小型ディーゼルエンジンの製造販売を業とし三つの工場を有する株式会社であつたところ、専ら小型ディーゼルエンジンの製造販売に当たつていた長岡工場の営業を一括して他に譲渡しようと考え、昭和三三年末ころ訴外増田勝治に対し新会社を設立して長岡工場の営業を買い取るよう働きかけたところ、増田との間で昭和三四年三月三一日、(一) 被上告会社は、新会社の設立発起人代表である増田に対し長岡工場に属する一切の営業(ただし、固定資産である土地・建物・機械設備については別途賃貸借契約を締結する。)を譲渡する、(二) 譲渡代金は一六〇〇万円とし、昭和三四年九月から昭和三八年六月まで三か月ごとに分割して支払う、(三) 新会社が設立されたときは、新会社が右契約に基づく増田の権利義務の一切を引継ぐものとする旨の営業譲渡契約(以下「本件営業譲渡契約」という。)を締結した。
被上告会社は本件営業譲渡契約をするについて株主総会の決議による承認手続をとらなかつたが、それは契約担当者らが商法二四五条による規制を知らなかつたことによるもので、右手続をとろうとすれば、容易に実現しうる状況にあつた。
2 かくして、上告会社は、昭和三四年五月二一日代表取締役を増田とする株式会社として設立登記を了し、本件営業譲渡契約に基づくすべての財産の引渡を受けて営業を承継した。本件営業譲渡契約について上告会社の原始定款には商法一六八条一項六号の定める事項は記載されなかつたが、増田は、実質的には上告会社の全株式を所有し、上告会社の設立及び当初の経営を掌理していたものであり、所定事項を記載しなかつたのは、商法一六八条による規制を知らなかつたことによるもので、反対者の存在などの特別の障害があつたからではなかつた。
3 上告会社は、被上告会社から譲り受けた製品・原材料等を販売又は消費し、売掛債権等の債権を回収し、従業員・仕入先・得意先・商標等及び被上告会社から賃借した土地・建物・機械設備を使用し、小型ディーゼルエンジンの製造販売を行い、当初は順調な営業を続け、その間被上告会社に対し本件営業譲渡契約につきなんら苦情を述べたことがなく、被上告会社との間で昭和三四年六月譲渡代金一六〇〇万円につき債務承認並びに分割弁済契約をし、被上告会社に対し譲渡代金として昭和三四年一〇月から昭和三五年二月までの間に合計二六四万円を分割して支払つた。
4 被上告会社は、上告会社に対し昭和三五年四月未払譲渡代金一四一二万四七七三円の支払を五年間猶予したうえ、これを分割して支払うことを認めたが、上告会社は、経営者の内紛や従業員の大量退職などによつて、昭和四二年九月ころ事実上営業活動を停止するに至つた。
5 上告会社は、昭和四三年一〇月一七日の本件第一審の第四回口頭弁論期日において初めて本件営業譲渡契約について原始定款に所定事項の記載がないことを理由とする無効事由を主張し、さらに、昭和五四年二月一四日の原審の第二回口頭弁論期日において初めて被上告会社が本件営業譲渡契約をするについて株主総会の特別決議による承認手続を経由しなかつたことを理由とする無効事由を主張するに至つた。
そして、被上告会社及び上告会社は、いずれもその株主・債権者等の会社の利害関係人から本件営業譲渡契約が無効であるなどとして問題にされたことは一度もなかつた。
以上の原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

二1 原審の確定した右の事実関係によれば、増田が被上告会社との間で締結した本件営業譲渡契約は、その契約の実質的な目的及び内容等にかんがみるならば、増田が上告会社の発起人組合の代表者として設立中の上告会社のために会社の設立を停止条件としてした積極消極両財産を含む営業財産を取得する旨の契約であると認められるから、本件営業譲渡契約は、商法一六八条一項六号の定める財産引受に当たるものというべきであるそうすると、本件営業譲渡契約は、上告会社の原始定款に同号所定の事項が記載されているのでなければ、無効であり、しかも、同条項が無効と定めるのは、広く株主・債権者等の会社の利害関係人の保護を目的とするものであるから、本件営業譲渡契約は何人との関係においても常に無効であつて、設立後の上告会社が追認したとしても、あるいは上告会社が譲渡代金債務の一部を履行し、譲り受けた目的物について使用若しくは消費、収益、処分又は権利の行使などしたとしても、これによつて有効となりうるものではないと解すべきであるところ、原審の確定したところによると、右の所定事項は記載されていないというのであるから、本件営業譲渡契約は無効であつて、契約の当事者である上告会社は、特段の事情のない限り、右の無効をいつでも主張することができるものというべきである。

2 つぎに、本件営業譲渡契約が譲渡の目的としたものは、原審の確定したところによると、たばこ製造機械・小型ディーゼルエンジンの製造販売を目的とする被上告会社の有する三工場のうち専ら小型ディーゼルエンジンの製造販売に当たつていた長岡工場の営業一切であるというのであるから、商法二四五条一項一号にいう営業の「重要ナル一部」に当たるものというべきである。そうすると、本件営業譲渡契約は、譲渡をした被上告会社が商法二四五条一項に基づき同法三四三条に定める株主総会の特別決議によつてこれを承認する手続を経由しているのでなければ、無効であり、しかも、その無効は、原始定款に記載のない財産引受と同様、広く株主・債権者等の会社の利害関係人の保護を目的とするものであるから、本件営業譲渡契約は何人との関係においても常に無効であると解すべきである。しかるところ、原審の確定したところによると、本件営業譲渡契約については事前又は事後においても右の株主総会による承認の手続をしていないというのであるから、これによつても、本件営業譲渡契約は無効であるというべきである。そして、営業譲渡が譲渡会社の株主総会による承認の手続をしないことによつて無効である場合、譲渡会社、譲渡会社の株主・債権者等の会社の利害関係人のほか、譲受会社もまた右の無効を主張することができるものと解するのが相当である。けだし、譲渡会社ないしその利害関係人のみが右の無効を主張することができ、譲受会社がこれを主張することができないとすると、譲受会社は、譲渡会社ないしその利害関係人が無効を主張するまで営業譲渡を有効なものと扱うことを余儀なくされるなど著しく不安定な立場におかれることになるからである。したがつて、譲受会社である上告会社は、特段の事情のない限り、本件営業譲渡契約について右の無効をいつでも主張することができるものというべきである。

3 そこで、上告会社に本件営業譲渡契約の無効を主張することができない特段の事情があるかどうかについて検討するに、原審の確定した事実関係によれば、被上告会社は本件営業譲渡契約に基づく債務をすべて履行ずみであり、他方上告会社は右の履行について苦情を申し出たことがなく、また、上告会社は、本件営業譲渡契約が有効であることを前提に、被上告会社に対し本件営業譲渡契約に基づく自己の債務を承認し、その履行として譲渡代金の一部を弁済し、かつ、譲り受けた製品・原材料等を販売又は消費し、しかも、上告会社は、原始定款に所定事項の記載がないことを理由とする無効事由については契約後約九年、株主総会の承認手続を経由していないことを理由とする無効事由については契約後約二〇年を経て、初めて主張するに至つたものであり、両会社の株主・債権者等の会社の利害関係人が右の理由に基づき本件営業譲渡契約が無効であるなどとして問題にしたことは全くなかつた、というのであるから、上告会社が本件営業譲渡契約について商法一六八条一項六号又は二四五条一項一号の規定違反を理由にその無効を主張することは、法が本来予定した上告会社又は被上告会社の株主・債権者等の利害関係人の利益を保護するという意図に基づいたものとは認められず、右違反に藉口して、専ら、既に遅滞に陥つた本件営業譲渡契約に基づく自己の残債務の履行を拒むためのものであると認められ、信義則に反し許されないものといわなければならない。したがつて、上告会社が本件営業譲渡契約について商法の右各規定の違反を理由として無効を主張することは、これを許さない特段の事情があるというべきである。
4 以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の認定にそわない事実に基づいて原判決を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎 裁判官 佐藤哲郎)

4.取締役の行為の差止め

+(株主による取締役の行為の差止め)
第三百六十条  六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主は、取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該株式会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。
2  公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。
3  監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社における第一項の規定の適用については、同項中「著しい損害」とあるのは、「回復することができない損害」とする。

Ⅵ 結びに代えて