行政法 基本行政法 行政調査


1.任意調査・間接強制調査(準強制調査)・強制調査

+判例(S63.12.20)
理  由
上告代理人藤井俊彦、同松村利教、同宮崎直見、同岡光民雄、同田邉安夫、同寺島健、同西川賢二、同高田敏明、同足立孝和、同清水文雄、同友滝英治、同岸本卓夫、同山田吉隆の上告理由について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし首肯するに足り、右事実及び原審が適法に確定したその余の事実関係のもとにおいて、原判示の国税調査官が税務調査のため本件店舗に臨場し、被上告人の不在を確認する目的で、被上告人の意思に反して同店舗内の内扉の止め金を外して第一審判決別紙図面〈6〉地点の辺りまで立ち入つた行為は、所得税法二三四条一項に基づく質問検査権の範囲内の正当な行為とはいえず(最高裁昭和四五年(あ)第二三三九号同四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集二七巻七号一二〇五頁参照)、国家賠償法一条一項に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実関係を前提として独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判官 伊藤正己 安岡滿彦 坂上壽夫 貞家克己)

+判例(S48.7.10)荒川民商事件
理由
一、弁護人上田誠吉、同池田輝孝、同秋山昭一、同澁田幹雄、同西嶋勝彦、同福田拓、同鶴見祐策の上告趣意(昭和四六年四月三〇日付上告趣意書記載のもの。)第一点について所論は、原認定にそわない事実関係を前提とする違憲(一一条、一三条、一四条、一五条、二一条、三一条)の主張および訴訟手続に関する単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
二、同第二点について
所論のうち、所得税法二三四条一項、二四二条八号の規定が不当な拡大解釈と濫用の可能性を有する条項であり、質問検査に対する不協力がすべて所定の重刑の対象とされていることは不合理であるとして右規定の違憲(三一条)をいう点は、右規定の不当解釈と濫用を招来すべき危険性が右規定上明白に存するものとは認めがたく、また、質問検査制度の趣旨目的にてらし、同法二四二条所定の刑が著しく不合理、不均衡であるとも認められないから、所論の前提を欠き、所論のうち、調査目的を達するについて他に可能な調査手段が存する場合には質問検査は許されないと解すべきであるとして違憲(三一条)および法令解釈の誤りをいう点は、実質は所得税法の前記規定の解釈に関する単なる法令違反の主張に尽き、いずれも上告適法の理由とならない。

三、同第三点について
所論は、質問検査権の行使は明白かつ現在の必要性の存在を要件としなければ許されないとしたうえ、被告人に対する本件質問検査は差し迫つた必要もないのに、事前の通知もなく、かつ調査の理由および範囲を明白に示すことなく行なわれようとしたものであり、いまだ適法な質問検査の着手にいたらなかつたものであるとして違憲(三一条、三五条、三八条一項)および法令解釈の誤りをいうが、実質はすべて所得税法の前記規定の解釈に関する単なる法令違反、事実誤認の主張であり、適法な上告理由にあたらない。

四、同第四点について
所論のうち、所得税法の前記規定の違憲(三五条一項、三八条一項)をいう点は、実質は前記規定の解釈に関する単なる法令違反の主張であり、また、前記規定の犯罪構成要件としての不明確性を主張して違憲(三一条)をいう点は、右規定の文言の意義は後記一〇 、において示すとおりであつてなんら明確を欠くものとはいえないから、その前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。

五、同第五点について
所論は、所得税法の前記規定は、「当該職員」の範囲を定める法令が存せず、白地刑法を許容する結果となるとして右規定の違憲(三一条)をいうが、「当該職員」の意義は、後記一〇、に示すとおり規定上明確であり、前記規定はなんらいわゆる白地刑罰規定と目すべきものではないから、所論の前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。

六、同第六点について
所論のうち、質問検査に応ずるか否かを相手方の自由に委ねる一方においてその拒否を処罰することとしているのは不合理であるとし、所得税法の前記規定の違憲(三一条)をいう点は、前記規定に基づく質問検査に対しては相手方はこれを受忍すべき義務を一般的に負い、その履行を間接的心理的に強制されているものであつて、ただ、相手方においてあえて質問検査を受忍しない場合にはそれ以上直接的物理的に右義務の履行を強制しえないという関係を称して一般に「任意調査」と表現されているだけのことであり、この間なんら実質上の不合理性は存しないから、所論の前提を欠き、所論のその余の点は、すべて前記規定の解釈に関する単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。

七、同第七点について
所論は、違憲(三一条、三二条、三七条)をいうが、実質は原審における裁判長の具体的訴訟指揮を非難する単なる法令違反の主張であり、上告適法の理由にあたらない。
八、同第八点について
所論のうち、原裁判所は被告人に無罪を言い渡した第一審判決を事件の核心たる主要な事実について実質的な事実の取調を行なうことなく破棄し、自判において有罪を言い渡したものであるとして判例違反をいう点は、記録によれば、原審において右の点に関する事実の取調が行なわれていることが明らかであるから、その前提を欠き、また、原審における自判の結果被告人の審級の利益が害されたとして判例違反をいう点は、引用の各判例はなんら所論のごとき趣旨の判断を示したものではないから、本件に適切でなく、また、所論のうち、原審における訴訟手続が直接審理主義、口頭弁論主義に反するとして違憲(三一条、三七条)をいう点は、記録によれば、原審における事実の取調は適法な公判手続において行なわれ、証人に対する弁護人の尋問も尽されていることが認められるから、その前提を欠き、被告人の審級の利益が害されたとして違憲(三一条、三七条)をいう点は、実質は刑訴法四〇〇条但書の解釈適用に関する単なる法令違反の主張であつて、所論はいずれも上告適法の理由にあたらない。
九、同第九点、第一〇点、第一一点について
所論第九点は、単なる法令違反の主張であり、同第一〇点、第一一点は、各事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。

一〇、所得税法二三四条一項の規定の意義についての当裁判所の見解は、次のとおりである。
所得税の終局的な賦課徴収にいたる過程においては、原判示の更正、決定の場合のみではなく、ほかにも予定納税額減額申請(所得税法一一三条一項)または青色申告承認申請(同法一四五条)の承認、却下の場合、純損失の繰戻による還付(同法一四二条二項)の場合、延納申請の許否(同法一三三条二項)の場合、繰上保全差押(国税通則法三八条三項)の場合等、税務署その他の税務官署による一定の処分のなされるべきことが法令上規定され、そのための事実認定と判断が要求される事項があり、これらの事項については、その認定判断に必要な範囲内で職権による調査が行なわれることは法の当然に許容するところと解すべきものであるところ、所得税法二三四条一項の規定は、国税庁、国税局または税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には、前記職権調査の一方法として、同条一項各号規定の者に対し質問し、またはその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行なう権限を認めた趣旨であつて、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、また、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない。そして、質問検査制度の目的が適正公平な課税の実現を図ることにあり、かつ、前記法令上の職権調査事項には当然に確定申告期間または暦年の終了の以前において調査の行なわれるべきものも含まれていることを考慮し、なお所得税法五条においては、将来において課税要件の充足があるならばそれによつて納税義務を現実に負担することとなるべき範囲の者を広く「所得税を納める義務がある」との概念で規定していることにかんがみれば、同法二三四条項にいう「納税義務がある者」とは、以上の趣意を承けるべく、既に法定の課税要件が充たされて客観的に所得税の納税義務が成立し、いまだ最終的に適正な税額の納付を終了していない者のほか、当該課税年が開始して課税の基礎となるべき収入の発生があり、これによつて将来終局的に納税義務を負担するにいたるべき者をもいい、「納税義務があると認められる者」とは、前記の権限ある税務職員の判断によつて、右の意味での納税義務がある者に該当すると合理的に推認される者をいうと解すべきものである。
一一、以上のとおりであつて、所論は、すべて刑訴法四〇五条の適法な上告理由にあたらない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 関根小郷 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

2.行政調査と令状主義・供述拒否権

・質問検査のような間接強制調査については、一般に、法律は令状発付を要件としていない。これが憲法35条に違反しないか?

+判例(S47.11.22)川崎民商事件
理由
弁護人山内忠吉、同岡崎一夫、同増木一彦、同陶山圭之輔、同根本孔衛の上告趣意(昭和四四年六月二五日付上告趣意書記載のもの。なお、その余の上告趣意補充書は、いずれも趣意書差出期間経過後に提出されたものであり、これを審判の対象としない。)第一点について。
所論は、昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法(以下、旧所得税法という。)七〇条一〇号の罪の内容をなす同法六三条は、規定の意義が不明確であつて、憲法三一条に違反するものである旨主張する。
しかし、第一、二審判決判示の本件事実関係は、被告人が所管川崎税務署長に提出した昭和三七年分所得税確定申告書について、同税務署が検討した結果、その内容に過少申告の疑いが認められたことから、その調査のため、同税務署所得税第二課に所属し所得税の賦課徴収事務に従事する職員において、被告人に対し、売上帳、仕入帳等の呈示を求めたというものであり、右職員の職務上の地位および行為が旧所得税法六三条所定の各要件を具備するものであることは明らかであるから、旧所得税法七〇条一〇号の刑罰規定の内容をなす同法六三条の規定は、それが本件に適用される場合に、その内容になんら不明確な点は存しない。
所論は、その前提を欠き、上告適法の理由にあたらない。

同第二点について。
所論のうち、憲法三五条違反をいう点は、旧所得税法七〇条一〇号、六三条の規定が裁判所の令状なくして強制的に検査することを認めているのは違憲である旨の主張である。たしかに、旧所得税法七〇条一〇号の規定する検査拒否に対する罰則は、同法六三条所定の収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴なうものであるが、同法六三条所定の収税官吏の検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない、 
また、右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。けだし、この場合の検査の範囲は、前記の目的のため必要な所得税に関する事項にかぎられており、また、その検査は、同条各号に列挙されているように、所得税の賦課徴収手続上一定の関係にある者につき、その者の事業に関する帳簿その他の物件のみを対象としているのであつて、所得税の逋脱その他の刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められているのではないからである。
さらに、この場合の強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、同法七〇条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたいところである。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定しがたいものであるところ、その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。
憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではないしかしながら、前に述べた諸点を総合して判断すれば、旧所得税法七〇条一〇号、六三条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとすることはできず、前記規定を違憲であるとする所論は、理由がない
所論のうち、憲法三八条違反をいう点は、旧所得税法七〇条一〇号、一二号、六三条の規定に基づく検査、質問の結果、所得税逋脱(旧所得税法六九条)の事実が明らかになれば、税務職員は右の事実を告発できるのであり、右検査、質問は、刑事訴追をうけるおそれのある事項につき供述を強要するもので違憲である旨の主張である。
しかし、同法七〇条一〇号、六三条に規定する検査が、もつぱら所得税の公平確実な賦課徴収を目的とする手続であつて、刑事責任の追及を目的とする手続ではなく、また、そのための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものでもないこと、および、このような検査制度に公益上の必要性と合理性の存することは、前示のとおりであり、これらの点については、同法七〇条一二号、六三条に規定する質問も同様であると解すべきである。そして、憲法三八条一項の法意が、何人も自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものであると解すべきことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二七年(あ)第八三八号同三二年二月二〇日判決・刑集一一巻二号八〇二頁)とするところであるが右規定による保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、ひとしく及ぶものと解するのを相当とする。しかし、旧所得税法七〇条一〇号、一二号、六三条の検査、質問の性質が上述のようなものである以上、右各規定そのものが憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」を強要するものとすることはできず、この点の所論も理由がない
なお、憲法三五条、三八条一項に関して右に判示したところによつてみれば、右各条項が刑事手続に関する規定であつて直ちに行政手続に適用されるものではない旨の原判断は、右各条項についての解釈を誤つたものというほかはないのであるが、旧所得税法七〇条一〇号、六三条の規定が、憲法三五条、三八条一項との関係において違憲とはいえないとする原判決の結論自体は正当であるから、この点の憲法解釈の誤りが判決に影響を及ぼさないことは、明らかである。

同第三点について。
所論のうち、憲法一四条、一九条、二一条、一二条違反をいう点は、第一、二審判決の判示にそわない事実関係を前提とする主張であつて、いずれも上告適法の理由にあたらない。
所論は、また、憲法二八条違反を主張するが、同条が、使用者対勤労者の関係にたつ者の間において勤労者の団結権および団体行動権を保障した規定であると解すべきことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日判決・刑集三巻六号七七二頁)とするところであつて、被告人の判示検査拒否の所為が、右団体行動権の行使とは認められないとした原判断は相当であるから、この点の所論は理由がない。
同第四点および第五点について。
所論は、憲法三五条違反をいうような点もあるが、実質はいずれも事実誤認または単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
なお、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない(原判決中、第一審判決を破棄するにあたり適用した法条に「刑事訴訟法第三九七条、第三八一条」とあるのは、「刑事訴訟法第三九七条、第三八〇条」の単なる誤記と認める。)。
よつて同法四一〇条一項但書、四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
検察官 横井大三、同木村喬行各公判出席
(裁判長裁判官 石田和外 裁判官 田中二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 下村三郎 裁判官 色川幸太郎 裁判官 大隅健一郎 裁判官 村上朝一 裁判官 関根小郷 裁判官 藤林益三 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝)

・犯則調査手続きについて
+判例(S59.3.27)
理由 
 弁護人林川毅の上告趣意第一について 
 憲法三八条一項の規定によるいわゆる供述拒否権の保障は、純然たる刑事手続においてばかりでなく、それ以外の手続においても、対象となる者が自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を求めることになるもので、実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続にはひとしく及ぶものと解される(最高裁昭和四四年(あ)第七三四号同四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五五四頁。なお、同昭和二七年(あ)第八三八号同三二年二月二〇日大法廷判決・刑集一一巻二号八〇二頁参照)。 
 ところで、国税犯則取締法は、収税官吏に対し、犯則事件の調査のため、犯則嫌疑者等に対する質問のほか、検査、領置、臨検、捜索又は差押等をすること(以下これらを総称して「調査手続」という。)を認めている。しかして、右調査手続は、国税の公平確実な賦課徴収という行政目的を実現するためのものであり、その性質は、一種の行政手続であつて、刑事手続ではないと解されるが(最高裁昭和四二年(し)第七八号同四四年一二月三日大法廷決定・刑集二三巻一二号一五二五頁)、その手続自体が捜査手続と類似し、これと共通するところがあるばかりでなく、右調査の対象となる犯則事件は、間接国税以外の国税については同法一二条ノ二又は同法一七条各所定の告発により被疑事件となつて刑事手続に移行し、告発前の右調査手続において得られた質問顛末書等の資料も、右被疑事件についての捜査及び訴追の証拠資料として利用されることが予定されているのである。このような諸点にかんがみると、右調査手続は、実質的には租税犯の捜査としての機能を営むものであつて、租税犯捜査の特殊性、技術性等から専門的知識経験を有する収税官吏に認められた特別の捜査手続としての性質を帯有するものと認められる。したがつて、国税犯則取締法上の質問調査の手続は、犯則嫌疑者については、自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項についても供述を求めることになるもので、「実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する」ものというべきであつて、前記昭和四七年等の当審大法廷判例及びその趣旨に照らし、憲法三八条一項の規定による供述拒否権の保障が及ぶものと解するのが相当である。 
 しかしながら、憲法三八条一項は供述拒否権の告知を義務づけるものではなく、右規定による保障の及ぶ手続について供述拒否権の告知を要するものとすべきかどうかは、その手続の趣旨・目的等により決められるべき立法政策の問題と解されるところから、国税犯則取締法に供述拒否権告知の規定を欠き、収税官吏が犯則嫌疑者に対し同法一条の規定に基づく質問をするにあたりあらかじめ右の告知をしなかつたからといつて、その質問手続が憲法三八条一項に違反することとなるものでないことは、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一〇一号同年七月一四日大法廷判決・刑集二巻八号八四六頁、昭和二三年(れ)第一〇一〇号同二四年二月九日大法廷判決・刑集三巻二号一四六頁)の趣旨に徴して明らかであるから(最高裁昭和三七年(あ)第一四九五号同三九年八月二〇日第一小法廷判決・裁判集刑事一五二号四九九頁、同昭和四八年(あ)第一八七二号同年一二月二〇日第一小法廷判決・裁判集刑事一九〇号九八九頁、同昭和五七年(あ)第六六六号同五八年三月三一日第一小法廷判決・裁判集刑事二三〇号六九七頁参照)、憲法三八条一項の解釈の誤りをいう所論は理由がない。 
 同第二について 
 所論は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。 
 なお、原判決は、第一審判決を破棄し自判するにあたり、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律が施行された同年五月二七日より前の行為である被告人の原判示所為につき、同法附則五条を引いて同法による改正前の所得税法二三八条一項を適用しているところ、右附則五条は、罰則の適用についての経過措置を規定したものではなく、同附則には右の点についての経過規定が置かれていないのであるから、刑法六条、一〇条の規定により軽い行為時法たる右改正前の所得税法二三八条一項を適用すべきものであつて、原判決には右の点で法令の解釈適用を誤つた違法があるが、原判決も結局右改正前の所得税法の規定を適用しているのであるから、右違法は判決に影響を及ぼさない。 
 よつて、刑訴法四〇八条により、主文のとおり判決する。 
 この判決は、裁判官横井大三の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。 
+意見
 裁判官横井大三の意見は、次のとおりである。 
 私は、上告趣意第一についての法廷意見に対し、若干見解を異にする点があるので、それを述べておきたい。 
 かつて、外国人登録法違反被告事件の判決(最高裁昭和五五年(あ)第一一二二号同五七年三月三〇日第三小法廷判決、刑集三六巻三号四七八頁)において、私は、同法三条一項、一八条一項の規定を本邦に不法に入国した外国人にも適用することが憲法上是認されるのは、外国人登録申請手続が、刑事責任の追及を目的とする手続でも、そのための資料の収集に直接結びつく作用を一般的に有するものでもないうえ、同法一条所定の行政目的を達成するために必要かつ合理的な制度と考えられるからであつて、その限度をこえて入国の秘密の開示を求め、その開示がないと申請を受理しないという取扱いがされると、憲法三八条一項の保障を実質的に害するおそれがあり、いわゆる適用違憲の問題を生ずる余地があるとの補足意見を述べたことがある。 
 この意見は、外国人登録法による登録申請手続は行政目的達成のため定められたものであるから、形式的には憲法三八条一項にいわゆる供述拒否権の保障はないが、実質的にはその適用があるとするもので、問題を後に残すものであつたといえなくはない。 
 本件は、国税犯則取締法による犯則調査手続に憲法三八条一項の供述拒否権の保障が及ぶかどうかが問題とされた事件であるが、焦点は、収税官吏が犯則事件につき犯則嫌疑者に質問をする場合憲法上供述拒否権の告知を要するかどうかということであつて、刑事事件では、被疑者を取り調べる際あらかじめ供述拒否権のあることを告げなければならないとされてはいるものの(刑訴法一九八条二項)、その義務は憲法三八条一項に由来するものではないとされており、この点は法廷意見も認めるところなので、国税犯則取締法による収税官吏の犯則嫌疑者取調の場合にも、憲法上供述拒否権の告知を要しないこととなるのはいうまでもないといえよう。しかし、供述拒否権の保障はあるがこれを告知することまで必要はないと考えるか、供述拒否権の保障はないのでその告知も必要でないと考えるかは、結論は同じであつても、思考の過程が異る。そこに、法廷意見が国税犯則取締法による収税官吏の犯則嫌疑者に対する調査手続の性質まで踏み込んで判示した理由があるのであろう。 
 しかし、私は、この点になると、法廷意見と見解を異にし、前述した外国人登録法違反被告事件の判決における私の意見を一歩進め、憲法三八条一項にいわゆる供述拒否権の保障は、要するに、自己が刑事責任を問われることとなるような事項について供述を強要されないことを保障するものであるから、そのような事項について供述を強要することになるものである限り、刑事手続はもちろん刑事手続に準ずるものとされる国税犯則取締法による調査手続のみならず、私が前に若干のためらいを示した外国人登録法による登録手続のような行政手続にも及ぶものと考えることとしたいのである。そうすれば、形式的には及ばないが実質的には及ぶというようなためらいの議論をする必要もなくなるし、法廷意見のように、国税犯則取締法の刑事手続との直結性を強調する必要もなくなるであろう。 
 憲法三八条一項にいわゆる供述拒否権の保障は、刑事手続にのみ適用があるとか、法廷意見のように準刑事手続には適用があるという意見は、憲法の右規定が憲法の刑事に関する諸規定の中に置かれているとか、アメリカ合衆国憲法修正五条が刑事事件においては何人も自己に不利益な供述を強要されないという趣旨の規定を置いていることに由来するものと思われる。これは、それなりに十分理由のある見解であり、私もこれまでその意見に耳を傾けて来たのであつた。しかし、考えてみると、何れも決定的な理由とはいえないように思う。現に、外国人登録法による登録申請義務ばかりでなく、道路交通法による交通事故申告義務、税法による納税申告義務、麻薬取締法による麻薬営業者の記帳義務などについて、憲法三八条一項の供述拒否権の保障との関係が裁判例上問題として取り上げられているのも、これら行政手続にも憲法上の供述拒否権の保障が及ぶという意見が強く主張されたからであつて、必ずしも当を得ない問題提起とは思われない。民訴法では証人に刑訴法と同様の証言拒否権を与えてあやしまないのも、憲法三八条一項の保障が刑事手続以外にも及ぶことを示す最も典型的な例ではなかろうか。 
 このように、一般の行政手続にまで憲法三八条一項の供述拒否権の保障が及ぶとすると、行政の運営に支障を来たすことにならないかとの危倶がある。もつともな面もあるが、供述拒否権の保障は、黙秘権の保障と異り(その異同の詳細は、ここでは触れない)、「自己が刑事責任を問われることとなるような供述」の強要が禁ぜられるのであるから、一般の行政手続の過程に問題として現われることは少ないであろう。しかも、憲法上保障される供述拒否権は、放棄又は不行使の許される権利であるから、行政上特別に許可された者のみが行うことのできる業務などでは、特別許可に付随する義務としてある程度罰則をもつて供述を強要することも可能と考えられるので、右に述べたような危倶も少ないと思われる。もし、右のような特別な事由もないのに、行政上の必要があるという理由だけで、一般国民に、自己が刑事責任を問われるような供述を罰則をもつて強制するような手続があれば、それは刑事手続に準ずるものでなくても、憲法三八条一項に違反するというべきであろう。 
 (裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 横井大三 裁判官 木戸口久治 裁判官 安岡滿彦) 
5.行政調査の要件・手続
+判例(S48.7.10)荒川民商事件
①客観的な必要性
②実施の細目について合理的な裁量にゆだねられるが、比例原則による制約
③事前通知や調査理由の開示は一律の要件とはされていない・・・
・手続について
行政手続法
+(適用除外)
第三条  次に掲げる処分及び行政指導については、次章から第四章の二までの規定は、適用しない。
一  国会の両院若しくは一院又は議会の議決によってされる処分
二  裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行としてされる処分
三  国会の両院若しくは一院若しくは議会の議決を経て、又はこれらの同意若しくは承認を得た上でされるべきものとされている処分
四  検査官会議で決すべきものとされている処分及び会計検査の際にされる行政指導
五  刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官又は司法警察職員がする処分及び行政指導
六  国税又は地方税の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて国税庁長官、国税局長、税務署長、収税官吏、税関長、税関職員又は徴税吏員(他の法令の規定に基づいてこれらの職員の職務を行う者を含む。)がする処分及び行政指導並びに金融商品取引の犯則事件に関する法令に基づいて証券取引等監視委員会、その職員(当該法令においてその職員とみなされる者を含む。)、財務局長又は財務支局長がする処分及び行政指導
七  学校、講習所、訓練所又は研修所において、教育、講習、訓練又は研修の目的を達成するために、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、講習生、訓練生又は研修生に対してされる処分及び行政指導
八  刑務所、少年刑務所、拘置所、留置施設、海上保安留置施設、少年院、少年鑑別所又は婦人補導院において、収容の目的を達成するためにされる処分及び行政指導
九  公務員(国家公務員法 (昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項 に規定する国家公務員及び地方公務員法 (昭和二十五年法律第二百六十一号)第三条第一項 に規定する地方公務員をいう。以下同じ。)又は公務員であった者に対してその職務又は身分に関してされる処分及び行政指導
十  外国人の出入国、難民の認定又は帰化に関する処分及び行政指導
十一  専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分
十二  相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的として法令の規定に基づいてされる裁定その他の処分(その双方を名宛人とするものに限る。)及び行政指導
十三  公衆衛生、環境保全、防疫、保安その他の公益に関わる事象が発生し又は発生する可能性のある現場において警察官若しくは海上保安官又はこれらの公益を確保するために行使すべき権限を法律上直接に与えられたその他の職員によってされる処分及び行政指導
十四  報告又は物件の提出を命ずる処分その他その職務の遂行上必要な情報の収集を直接の目的としてされる処分及び行政指導
十五  審査請求、異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決、決定その他の処分
十六  前号に規定する処分の手続又は第三章に規定する聴聞若しくは弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において法令に基づいてされる処分及び行政指導
2  次に掲げる命令等を定める行為については、第六章の規定は、適用しない。
一  法律の施行期日について定める政令
二  恩赦に関する命令
三  命令又は規則を定める行為が処分に該当する場合における当該命令又は規則
四  法律の規定に基づき施設、区間、地域その他これらに類するものを指定する命令又は規則
五  公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について定める命令等
六  審査基準、処分基準又は行政指導指針であって、法令の規定により若しくは慣行として、又は命令等を定める機関の判断により公にされるもの以外のもの
3  第一項各号及び前項各号に掲げるもののほか、地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(前条第七号の通知の根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定は、適用しない。
+(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一  法令 法律、法律に基づく命令(告示を含む。)、条例及び地方公共団体の執行機関の規則(規程を含む。以下「規則」という。)をいう。
二  処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。
三  申請 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
四  不利益処分 行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。
イ 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分
ロ 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分
ハ 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分
ニ 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの
五  行政機関 次に掲げる機関をいう。
イ 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関若しくは内閣の所轄の下に置かれる機関、宮内庁、内閣府設置法 (平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項 若しくは第二項 に規定する機関、国家行政組織法 (昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項 に規定する機関、会計検査院若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法律上独立に権限を行使することを認められた職員
ロ 地方公共団体の機関(議会を除く。)
六  行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
七  届出 行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)をいう。
八  命令等 内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう。
イ 法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。次条第二項において単に「命令」という。)又は規則
ロ 審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
ハ 処分基準(不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
ニ 行政指導指針(同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項をいう。以下同じ。)
・立入検査は事実上の行為!
4.行政調査で得られた資料を刑事責任追及のために用いることはできるか。
+判例(H16.1.20)
理由
被告人3名の弁護人松本恒雄、同東俊一、同高田義之、同中川創太の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、引用の判例は所論のような趣旨を判示したものではないから、前提を欠き、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論にかんがみ、職権により判断する。
法人税法(平成13年法律第129号による改正前のもの)156条によると、同法153条ないし155条に規定する質問又は検査の権限は、犯罪の証拠資料を取得収集し、保全するためなど、犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使することは許されないと解するのが相当である。しかしながら、上記質問又は検査の権限の行使に当たって、取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても、そのことによって直ちに、上記質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならないというべきである。
原判決は、本件の事実関係の下で、上記質問又は検査の権限が、犯則事件の調査を担当する者から依頼されるか、その調査に協力する意図の下に、証拠資料を保全するために行使された可能性を排除できず、一面において、犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたものと評することができる旨判示している。しかしながら、原判決の認定及び記録によると、本件では、上記質問又は検査の権限の行使に当たって、取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたにとどまり、上記質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたものとみるべき根拠はないから、その権限の行使に違法はなかったというべきである。そうすると、原判決の上記判示部分は是認できないが、原判決は、上記質問又は検査の権限の行使及びそれから派生する手続により取得収集された証拠資料の証拠能力を肯定しているから、原判断は、結論において是認することができる。
よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 滝井繁男)

+解説
《解  説》
1 本件は法人税ほ脱の事案であり,争点に関する事実関係,1審判決,原判決,本決定の判断は,次のようなものである。
(1) 本件は,次のとおりの経過で発覚している。
(ⅰ) 今治税務署は,高松国税局調査査察部による内偵調査を察知した被告会社2社の経営者である被告人が,税理士を介して,修正申告を申し出てきたため,直ちに被告会社2社に対する税務調査を行って,必要な資料の提供を受けたところ,その後,今治税務署の職員は,高松国税局調査査察部に上記税務調査を連絡した上,提供を受けた資料の一部をファックス送信した。
(ⅱ) 高松国税局調査査察部は,上記連絡を受けたため,予定していた強制調査を繰り上げて,内偵調査で取得収集していた資料に今治税務署から送信を受けた資料の一部を加えて,臨検捜索差押許可状を請求し,その発付を得て,被告会社2社等を臨検捜索し,有罪認定に必要な証拠資料を押収した。
(2) 被告人らは,1審以来,総勘定元帳等の有罪認定に供された証拠が,税務調査のための質問検査権を犯則調査のための手段として行使して違法に収集されたものであるから,証拠能力を欠く旨主張していたところ,1審判決,原判決は,次のとおりの判断を示している。
(ⅰ) 1審判決は,本件では,税務調査に藉口して犯則調査のための証拠資料が取得収集されたことはなかったから,証拠収集過程に違法はなく,適法な税務調査の過程で犯則調査が探知された場合には,それを端緒として犯則調査に移行することが禁じられているわけではなく,それに伴う限度で情報提供,資料の送付を行うことも許されるとして,その主張を排斥した。
(ⅱ) 原判決は,税務調査で取得収集された資料を犯則調査のため利用することはできるとしながら,本件では,税務調査のための質問検査権が,犯則調査の証拠資料を保全する目的で行使された可能性を排除することができず,法人税法156条に違反したものというほかないとした上,その違法は重大なものではないから,有罪認定に供された証拠の証拠能力を肯定できるとして,1審判決を是認した。
(3) これに対して,本決定は,本件では,質問検査権の行使に当たって,取得収集される証拠資料が後に犯則調査の証拠として利用されることが想定できたにとどまり,質問検査権が犯則調査のための手段として行使されたとみるべき根拠はないから,証拠の収集過程に違法があったとした原判決の判示部分は是認できないが,有罪認定に供された証拠の証拠能力を肯定した原判決の結論は是認できるとしている。

2 法人税法等の各税法は,税務調査に当たって納税義務者等に対し質問検査権を行使することができるとした上(例えば,法人税法153条ないし155条),その質問検査権の行使に虚偽の答弁をし,検査を拒むなどした者に対する罰則を定めており(例えば,法人税法162条2号,3号),法人税法156条等の各税法の規定は,質問検査権が犯罪捜査のため認められたものと解してはならない旨定めている。
最高裁の判例(最大判昭47.11.22刑集26巻9号554頁,本誌285号141頁)は,このような質問検査権の制度が,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく手続で認められたものではなく,租税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続で認められたものであることなどから,憲法35条,38条の趣旨に反するものではないとしている。
判例,学説は,前記最高裁の判例等を踏まえて,税務調査と犯則調査の関係について,次のように解している。
(1) 質問検査権の行使と法人税法156条の関係について判示した最高裁の判例はないが,高裁段階の判例(福岡高判昭62.4.27税刑資158号319頁)は,質問検査権が,犯則調査の手段として行使され,税務調査に藉口して刑事事件の証拠資料を取得収集することは許されず,法人税法156条は,そのことを明文化したものであるとしている。
また,最高裁の判例(最二小決昭51.7.9裁判集刑201号137頁)は,法人税法156条が,税務調査中に犯則事件が探知された場合,それが端緒になって犯則調査に移行することを禁止する趣旨のものとは解されないとしており,高裁段階の判例(高松高判平9.10.9税刑資233号707頁)は,税務調査が犯則調査に利用する資料を取得収集するために行われていない限り,税務調査によって取得収集された資料を犯則調査のための強制調査に流用できるとしている。
(2) 学説は,質問検査権を犯則調査の手段として行使することが許されないと解することでは一致しているが,質問検査権の行使によって取得収集された資料を犯則調査に利用できるかどうかについては,それを否定する立場(金子宏・租税法〔第7版〕570頁,松沢智・租税処罰法120頁,中村勲「税務訴訟と刑事裁判の関係(1)」裁判実務大系(20)租税争訟法565頁)とそれを積極に解する立場(小島建彦「租税法」注釈特別刑法経済法編Ⅱ69頁,草川十郎ほか「調査・査察税務」現代税務全集(29)395頁)がある。

3 本決定は,質問検査権は犯罪捜査のための手段として行使することは許されないとして,法人税法156条に関する高裁段階の判例,学説の一致した立場に立つことを確認した上,質問検査権の行使に当たって,取得収集される証拠資料が後に犯則調査の証拠として利用されることが想定できたとしても,そのことによって直ちに,質問検査権が犯則調査のための手段として行使されたことにはならないとして,本件での質問検査権の行使に違法はなかったとしている。
原判決は,質問検査権の行使が,税務調査の必要性に照らして相当な範囲内のものであったとしながら,税務調査の担当者が,税務調査に先立って,犯則調査の担当者に情報を提供していた可能性がある上,被告人らによる罪証隠滅に配慮していたことを根拠にして,質問検査権が犯則調査の証拠資料を保全する目的で行使された可能性を排除することができないとしている。しかしながら,このような原判決の認定した事実関係からすると,質問検査権が犯則調査のための証拠資料を保全する目的で行使されたというのは困難であると考えられ,せいぜい,質問検査権の行使に当たって取得収集される証拠資料が後に犯則調査の証拠として利用されることが想定できたにすぎないというべきものと考えられる。
質問検査権が犯則調査の証拠資料を保全する目的で行使されたのであれば,犯則調査の手段として利用されたものと評価されると考えられるが,質問検査権の行使の必要性,相当性が肯定される限り,取得収集された資料が後に犯則調査で利用されることを想定できたという質問検査権の行使に当たっての主観的な要因だけから,質問検査権の行使が違法になるとは考えられないであろう。
本決定は,質問検査権を犯罪の証拠資料を取得収集し,保全するために行使することは違法であるとしながら,質問検査権の行使に当たって,取得収集される証拠資料が後に犯則調査の証拠として利用されることが想定できたにとどまるときは,質問検査権の行使に違法はないとして,その趣旨を明らかにしていると考えられる。本件の事実関係からすると,本決定は,質問検査権の行使によって取得収集された資料を後の犯則調査に利用することが一律に禁止されるものではないという立場に立つもののようにも思われるが,その点について明示の判断を示したものではなく,どのような資料の利用が許容されるかは,今後の判断の集積に待つべきものと考えられる。
このように,本決定は,これまでの高裁段階の判例,学説の立場に従って,法人税法156条の趣旨を確認し,1審判決と原判決で判断の分かれた質問検査権の行使の許容限度を明らかにしたものである上,質問検査権の行使によって取得収集された資料を後の犯則調査の証拠として利用することの許否にも関わる判断を示しており,今後の税務調査,犯則調査の実務に与える影響が大きいものと考えられる。

+判例(S63.3.31)

5.行政調査の瑕疵が処分の取消事由になるか

+判例(S48.8.8)

・適正手続の観点から調査に重大な違法性があるときは、当該調査を経てなされた処分も違法として取り消されるべき。

6.任意調査の限界

+判例(S53.9.7)
理由
(本件の経過)
一 第一審裁判所は、本件公訴事実中、第一審判決判示第一ないし第四の各事実につき被告人を有罪とし、懲役一年六月・三年間執行猶予に処したが、「被告人は、昭和四九年一〇月三〇日午前零時三五分ころ、大阪市a区b町c番地先路上において、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末〇・六二グラムを所持した」との事実(以下「本件覚せい剤所持事実」という。)については、右日時場所において被告人から差し押えた物として検察官から取調請求のあつた覚せい剤粉末(以下「本件証拠物」という。)は、警察官が被告人に対する職務質問中に承諾を得ないまま被告人の上衣ポケツト内を捜索して差し押えた物であり、違法な手続により収集された証拠物であるから証拠能力はない、また、検察官から取調請求のあつた本件証拠物の鑑定結果等を立証趣旨とする証人は、本件証拠物自体証拠とすることが許されないのであるからその取調をする必要はない、としてこれら証拠申請を却下し、捜査段階及び第一審公判廷における被告人の自白はこれを補強するに足りる適法な証拠が存在しないので、結局犯罪の証明がないことに帰するとして、被告人を無罪とした。

二 第一審判決全部に対し検察官から控訴の申立があつたところ、原裁判所は、第一審判決中有罪部分につき検察官の控訴を容れ、量刑不当の違法があるとしてこの部分を破棄し、被告人を懲役一年の実刑に処したが、無罪部分については、次の理由で、検察官の控訴を棄却した。
(一)一般的に、警察官が職務質問に際し異常な箇所につき着衣の外部から触れる程度のことは、事案の具体的状況下においては職務質問の附随的行為として許容される場合があるが、さらにこれを超えてその者から所持品を提示させ、あるいはその者の着衣の内側やポケツトに手を入れてその所持品を検査することは、相手方の人権に重大なかかわりのあることであるから、前記着衣の外部から触れることなどによつて、人の生命、身体又は財産に危害を及ぼす危険物を所持し、かつ、具体的状況からして、急迫した状況にあるため全法律秩序からみて許容されると考えられる特別の事情のある場合を除いては、その提示が相手方の任意な意思に基づくか、あるいはその所持品検査が相手方の明示又は黙示の承諾を得たものでない限り許されない。
(二)本件においては、a巡査長とb巡査において、被告人が覚せい剤中毒者ではないかとの疑いのもとに、被告人に所持品の提示を求めてから被告人の上衣とズボンのポケツトを外から触つた段階までの右警察官の被告人に対する行為は、職務質問又はこれに附随する行為として許容されるが、被告人の上衣の左側内ポケツトを外部から触つたことによつて、同ポケツトに刃物ではないが何か堅い物が入つている感じでふくらんでいたというに止まり、刃物以外の何が入つているかは明らかでない状況で、被告人の左側内ポケツトに手を入れて本件証拠物を包んだちり紙の包みを取り出したb巡査の右所持品検査については、被告人の明示又は黙示の承諾があつたものとは認められず、他に右所持品検査が許容される特別の事情も認められないから、警察官職務執行法(以下「警職法」という。)二条一項に基づく正当な職務行為とはいいがたく、右所持品検査に引き続いて行われた本件証拠物の差押は違法である。
(三)右違法の程度は、憲法三五条及び刑訴法二一八条一項所定の令状主義に違反する極めて重大なものであるうえ、弁護人は、本件証拠物を証拠とすることにつき異議を述べているのであるから、かかる証拠物を証拠として利用することは許されない。
(四)本件覚せい剤所持の事実を認めるべき証拠としては、被告人の自白があるのみで、他に右自白を補強するに足りる適法な証拠は存在しない。
三 これに対し、検察官は原判決全部に対し上告を申し立て、被告人も原判決中破棄自判部分に対し上告を申し立てた。

(検察官の上告趣意第一点について)
一 所論は、要するに、本件証拠物の差押を違法であるとした前記原判決の判断は、警職法二条一項の解釈を誤り、最高裁判所及び高等裁判所の判例と相反する判断をしている、というのである。しかし、所論引用の判例は、いずれも本件とは事案を異にし適切でないから、所論判例違反の主張は前提を欠き、その余の所論は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。
二 そこで、所論にかんがみ職権をもつて調査するに、本件証拠物の差押を違法であるとした原判決の判断は、次の理由により、その結論において、正当である。
(一)原判決の認定した本件証拠物の差押の経過は、次のとおりである。(1)昭和四九年一〇月三〇日午前零時三五分ころ、パトカーで警ら中のb巡査、a巡査長の両名は、原判示ホテルc附近路上に被告人運転の自動車が停車しており、運転席の右横に遊び人風の三、四人の男がいて被告人と話しているのを認めた。(2)パトカーが後方から近付くと、被告人の車はすぐ発進右折してホテルcの駐車場に入りかけ、遊び人風の男達もこれについて右折して行つた。(3)b巡査らは、被告人の右不審な挙動に加え、同所は連込みホテルの密集地帯で、覚せい剤事犯や売春事犯の検挙例が多く、被告人に売春の客引きの疑いもあつたので、職務質問することにし、パトカーを下車して被告人の車を駐車場入口附近で停止させ、窓ごしに運転免許証の提示を求めたところ、被告人は正木良太郎名義の免許証を提示した(免許証が偽造であることは後に警察署において判明)。(4)続いて、b巡査が車内を見ると、ヤクザの組の名前と紋のはいつたふくさ様のものがあり、中に賭博道具の札が一〇枚位入つているのが見えたので、他にも違法な物を持つているのではないかと思い、かつまた、被告人の落ち着きのない態度、青白い顔色などからして覚せい剤中毒者の疑いもあつたので、職務質問を続行するため降車を求めると、被告人は素直に降車した。(5)降車した被告人に所持品の提示を求めると、被告人は、「見せる必要はない」と言つて拒否し、前記遊び人風の男が近付いてきて、「お前らそんなことする権利あるんか」などと罵声を浴びせ、挑戦的態度に出てきたので、b巡査らは他のパトカーの応援を要請したが、応援が来るまでの二、三分の間、b巡査と応対していた被告人は何となく落ち着かない態度で所持品の提示の要求を拒んでいた。(6)応援の警官四名くらいが来て後、b巡査の所持品提示要求に対して、被告人はぶつぶつ言いながらも右側内ポケツトから「目薬とちり紙(覚せい剤でない白色粉末が在中)」を取り出して同巡査に渡した。(7)b巡査は、さらに他のポケツトを触らせてもらうと言つて、これに対して何も言わなかつた被告人の上衣とズボンのポケツトを外から触つたところ、上衣左側内ポケツトに「刃物ではないが何か堅い物」が入つている感じでふくらんでいたので、その提示を要求した。(8)右提示要求に対し、被告人は黙つたままであつたので、b巡査は、「いいかげんに出してくれ」と強く言つたが、それにも答えないので、「それなら出してみるぞ」と言つたところ、被告人は何かぶつぶつ言つて不服らしい態度を示していたが、同巡査が被告人の上衣左側内ポケツト内に手を入れて取り出してみると、それは「ちり紙の包、プラスチツクケ」ス入りの注射針一本-であり、「ちり紙の包」を被告人の面前で開披してみると、本件証拠物である「ビニール袋入りの覚せい剤ようの粉末」がはいつていた。さらに応援のd巡査が、被告人の上衣の内側の脇の下に挾んであつた万年筆型ケース入り注射器を発見して取り出した。(9)そこで、b巡査は、被告人をパトカーに乗せ、その面前でマルキース試薬を用いて右「覚せい剤ようの粉末」を検査した結果、覚せい剤であることが判明したので、パトカーの中で被告人を覚せい剤不法所持の現行犯人として逮捕し、本件証拠物を差L押えた。
(二)ところで、警職法二条一項に基づく職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみると、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合があると解すべぎである
(最高裁判所昭和五二年(あ)第一四三五号同五三年六月二〇日第三小法廷判決参照)。
(三)これを本件についてみると、原判決の認定した事実によれば、b巡査が被告人に対し、被告人の上衣左側内ポケツトの所持品の提示を要求した段階においては、被告人に覚せい剤の使用ないし所持の容疑がかなり濃厚に認められ、また、同巡査らの職務質問に妨害が入りかねない状況もあつたから、右所持品を検査する必要性ないし緊急性はこれを肯認しうるところであるが、被告人の承諾がないのに、その上衣左側内ポケツトに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査した同巡査の行為は、一般にプライバシイ侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類するものであるから、上記のような本件の具体的な状況のもとにおいては、相当な行為とは認めがたいところであつて、職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱したものと解するのが相当である。してみると、右違法な所持品検査及びこれに続いて行われた試薬検査によつてはじめて覚せい剤所持の事実が明らかとなつた結果、被告人を覚せい剤取締法違反被疑事実で現行犯逮捕する要件が整つた本件事案においては、右逮捕に伴い行われた本件証拠物の差押手続は違法といわざるをえないものである。これと同旨の原判決の判断は、その限りにおいて相当であり、所論は採ることができない。

(検察官の上告趣意第三点について)
一 所論は、要するに、本件証拠物の証拠能力を否定した原判決の判断は、憲法三五条の解釈を誤り、かつ、最高裁判所及び高等裁判所の判例と相反する判断をしている、というのである。しかし、所論のうち憲法違反をいう点は、その実質において、証拠物の証拠能力に関する原判決の判断を論難する単なる法令違反の主張に帰するものであつて、適法な上告理由にあたらない。また、最高裁判所の判例の違反をいう点は、所論引用の当裁判所昭和二四年(れ)第二三六六号同年一二月一三日第三小法廷判決(刑事裁判集一五号三四九頁)は、証拠物の押収手続に極めて重大な違法がある場合にまで証拠能力を認める趣旨のものであるとまでは解しがたいから、本件証拠物の収集手続に極めて重大な暇疵があるとして証拠能力を否定した原判決の判断は、当裁判所の右判例と相反するものではないというべきであつて、所論は理由がなく、高等裁判所の判例の違反をいう点は、最高裁判所の判例がある場合であるから、所論は適法な上告理由にあたらない。

二 そこで、所論にかんがみ職権をもつて調査するに、本件証拠物の証拠能力を否定した原判決の判断は、次の理由により、法令に違反したものというべきである。
(一)違法に収集された証拠物の証拠能力については、憲法及び刑訴法になんらの規定もおかれていないので、この問題は、刑訴法の解釈に委ねられているものと解するのが相当であるところ、刑訴法は、「刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」(同法一条)ものであるから、違法に収集された証拠物の証拠能力に関しても、かかる見地からの検討を要するものと考えられる。ところで、刑罰法令を適正に適用実現し、公の秩序を維持することは、刑事訴訟の重要な任務であり、そのためには事案の真相をできる限り明らかにすることが必要であることはいうまでもないところ、証拠物は押収手続が違法であつても、物それ自体の性質・形状に変異をきたすことはなく、その存在・形状等に関する価値に変りのないことなど証拠物の証拠としての性格にかんがみると、その押収手続に違法があるとして直ちにその証拠能力を否定することは、事案の真相の究明に資するゆえんではなく、相当でないというべきである。しかし、他面において、事案の真相の究明も、個人の基本的人権の保障を全うしつつ、適正な手続のもとでされなければならないものであり、ことに憲法三五条が、憲法三三条の場合及び令状による場合を除き、住居の不可侵、捜索及び押収を受けることのない権利を保障し、これを受けて刑訴法が捜索及び押収等につき厳格な規定を設けていること、また、憲法三一条が法の適正な手続を保障していること等にかんがみると、証拠物の押収等の手続に、憲法三五条及びこれを受けた刑訴法二一八条一項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その認拠能力は否定されるものと解すべきである。
(二)これを本件についてみると、原判決の認定した前記事実によれば、被告人の承諾なくその上劇左側内ポケツトか引本件証拠物を取り出したb巡査の行為は、職務質問の要件が存在し、かつ、所持品検査の必要性と緊急性が認められる状況のもとで、必ずしも諾否の態度が明白ではなかつた被告人に対し、所持品検査として許容される限度をわずかに超えて行われたに過ぎないのであつて、もとより同巡査において令状主義に関する諸規定を潜脱しようとの意図があつたものではなく、また、他に右所持品検査に際し強制等のされた事跡も認められないので、本件証拠物の押収手続の違法は必ずしも重大であるとはいいえないのであり、これを被告人の罪証に供することが、違法な捜査の抑制の見地に立つてみても相当でないとは認めがたいから、本件証拠物の証拠能力はこれを肯定すべきである。
(三)してみると、本件証拠物の収集手続に重大な違法があることを理由としてその証拠能力を否定し、また、その鑑定結果等を立証趣旨とする証人もその取調をする必要がないとして、これら証拠申請を却下した第一審裁判所の措置及びこれを是認した原判決の判断は法令に違反するものであつて、その誤りは判決に影響を及ぼしており、原判決中検察官の控訴を棄却した部分及び第一審判決中無罪部分はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
(結論)
よつて、検察官の上告趣意中のその余の所論及び弁護人の上告趣意に対する判断を省略し、なお、本件覚せい剤所持の事実とその余の第一審判決及び原判決が有罪とした事実どは併合罪の関係にあるものとして公訴を提起されたものであるから、刑訴法四一一条一号により原判決及び第一審判決の各全部を破棄し、同法四一三条本文により本件を第一審裁判所である大阪地方裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。
検察官古川健次郎、同稲田克巳 公判出席
(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山亨 裁判官岸盛一は退官につき署名押印することができない。裁判長裁判官 岸上康夫) 


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