行政法 基本行政法 行政裁量その2 裁量審査の方法 太郎杉 小田急高架化訴訟


4.裁量審査の方法
(1)社会観念審査
・行政庁の判断が全くの事実の基礎を欠き、または社会観念上著しく妥当を欠く場合に限って処分を違法とする

+判例(S52.12.20)神戸税関事件

+判例(S53.10.4)マクリーン事件

(2)判断過程審査

+判例(東京高判48.7.13)日光太郎杉事件
事実
控訴人ら代理人は「原判決を取り消す。控訴人らに対する被控訴人の各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、左記のほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
第一 被控訴人の主張
一、被控訴人は本件事実認定の違法事由として、さらに、起業者である栃木県知事が本件事業執行の権限を有しないことを追加しで主張する(なお、この点は、本件土地細目の公告及び本件収用裁決の違法事由として主張する。)。
1、控訴人は、当審において、本件事業における起業者県知事の事業施行の権限の法的根拠について、本件道路拡幅工事は自然公園法一四条二項に基づいて厚生大臣の承認を受けて、公園事業の一部の執行として行なうものであると主張し、その詳細を次のとおり述べている。すなわち、
(一) 昭和一一年一二月二六日内務省告示第六八七号をもつて、本件事業に係る国道一二〇号のうち、神橋・馬返間についで国立公園法三条に基づく国立公園計画及び国立公園事業の決定がなされた。これらの国立公園計画及び国立公園事業は、自然公園法附則4項により、それぞれ同法一二条一項に基づいて決定された国立公園に関する公園計画及び公園事業とみなされている。
(二) 起業者県は、まずこの公園事業のうち、日光市安川町地内延長一九五メートルの道路改良事業を行なうべく、自然公園法一四条に基づき厚生大臣に公園事業執行の承認の申請をし、昭和三四年一二月一七日その承認を受けた。
(三) その後次々に厚生大臣の承認を受けて本件道路(神橋ー馬返間道路を指す。)の拡幅改良を行ない、最後に残された本件係争地を含む二八〇メートルの区間につき拡幅改良を行なうべく、昭和三八年七月五日付け承認の申請をし、昭和三九年四月一日にその承認を受けた。
(四) その際の手続は、公園事業の執行承認に関する事務処理の慣例にしたがつて、自然公園法施行令(昭和三二年政令第二九八号)二〇条において準用する同令一〇条に基づき「昭和三四年一二月一七日付け承認事項」の変更の承認として処理されたものである。
かように主張している。
ところが、前記昭和三九年四月一日付の厚生大臣の承認書(乙第一号証の一〇、同第九号証の一も同じ。)には、厚生大臣は昭和三三年八月一日付け公園事業の承認事項の変更を承認する旨記載されている。そうしてこの昭和三三年八月一日付け厚生大臣の承認事項というのは、神橋・馬返間の国道のうち「清滝・馬返間」の道路改良事業法一四条二項に基づく執行の承認である。
しかし、本件起業は前記国道のうち、日光市大字山内字旅所(字中山の俗称)における二八〇メートルの道路に関するものであつて、「清滝・馬返間」の道路とは全然地域を異にする(ちなみに、清滝は本件地域から西方五キロメートル余の地点にあり、馬返ば更にその西方二キロメートル余の地点にある。)。すなわち、控訴人が、昭和三九年四月一日承認を受けたのは、本件起業地とは全然別の地域に関する事業の承認である。右のような、「清滝・馬返間」の道路の拡幅事業の承認が、五キロ乃至七キロメートル余も離れた本件道路の拡幅事業の承認となり得る道理はない。
これを要するに、本件起業にあたり起業者県知事が執行の承認を得たのは、全然別個の地域における事業であつて、本件起業地における事業については、適法に厚生大臣の承認を受けたことは、これを認めることかできないのである。
そうして、本件は土地収用法(本件当時施行のものを指す。以下特に断らない限り同じ。)一八条二項六号により、事業の施行に関し行政機関の許認可等の処分を必要とする場合にあたるが、叙上のとおりであるから起業者県知事は所要の承認を得ていないことに帰する。このような当該事業施行の権限を有しない起業者の申請に基づいてなされた本件事業認定は違法である(従つて、これを前提とする本件土地細目の公告及び収用裁決もまた違法である。)。
2、ところで控訴人らは後記のとおり、叔上の被控訴人の指摘にかかる点は、単なる記載上のミスにすぎず、本件土地に対する承認として有効である。と主張する。
承認という行政行為の内容である承認の目的事項が、本来甲事項であるべきを乙事項と誤つたというのに、これを以て単なる記載上のミスとして処理することは本来許さるべきものではないはずであるが、それはさておき、行政行為は、表示行為によつて成立するのであつて、当該行政行為が、本件承認のように書面によつて表示されたときは、書面の作成によつて行政行為は成立し、その書面の到達によつて行政行為の効力を生ずるものである。そうして、表示行為が正当の権限ある者によつてなされたものである限り、その書面に表示されたとおりの行政行為があつたものと認めなければならない。ところで、前記乙第一号証の一〇の文書には、控訴人ら主張のように昭和三四年一二月一七日付け承認事項の変更を承認するという趣意はどこにも表示されていないのである。そうして、文書で行なわれた行政行為の単なる「記載上のミス」というのは(誤字・誤植、その他、文章の前後の続き合い等、当該文書の記載面自体、すなわち、文章の外観から明白にミスであることが判明する場合にかぎるというべきところ、控訴人ら主張のようなミスは、右のとおり書面の記載上ミスとしてあらわれていないのであるから、これを単なる記載上のミス(訂正も要しないミス)などといえないことはいうまでもない。
控訴人らは、また、前記乙第一号証の一〇そのものからは記載上のミスであることが判らないとしても、右承認に至るその主張の関係文書と合せて考えれば、単なる誤記であることが当然判明するとも主張するが、他の文書によつてはじめて記載上のミスであることが判明するような場合は、これを控訴人らのいうような単純な記載上のミスなどということはできない。
更に、控訴人らは、叙上の点は単なる記載上のミスであつて本来訂正を要しないものであるが、その誤りはその主張のとおり厚生大臣によつて訂正されたと主張するが、このような訂正は許されないし、また、この訂正によつて本件事業認定の違法性が治癒されるものではない。けだし、事業認定は、告示によつて効力を生ずるものであるから、事業認定に瑕疵があつて、その効力の発生に法的障害があるかどうかは、もつぱら、効力発生の時、すなわち告示の時を基準として決すべきである。従つて、その告示の後、半年余を経過し、しかも、当該事業認定の取消訴訟が裁判所に係属中に、行政庁相互の交渉によつて、隠秘の間に瑕疵が弥縫せられ、これによつて事業認定の瑕疵が告示の時に遡及して修正されるとするならば、事業認定のような関係多方面に重大な効力を及ぼす行政行為の法的安定は、到底期待することはできないというべきだからである。
最後に、仮りに、百歩を譲り、控訴人ら主張のとおり起業者県知事が昭和三九年四月一日前記乙第一号証の一〇によつて昭和三四年一二月一七日付執行の承認を受けた事項の変更の承認を受けたとしても、右一二月一七日付で承認されたのは、控訴人ら主張のとおり日光市安川町地内延長一九五メートルの道路改良工事に関するものであつて、本件係争地である日光市山内字中山は右の道路に包含されていないから、これを以て本件土地に対する執行承認ということはできない。
3、土地収用法二〇条二号は、起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること、と規定し、また同法一八条二項四号は、事業認定の申請書には、事業の施行に関して行政機関の免許等の処分を必要とする場合には処分のあつたことを証明する書類を添付しなければならないと規定する。
しかるに、右に述べたとおり、本件起業者たる県知事は、本件事業の執行に関して、適法に、自然公園法一四条二項所定の厚生大臣の承認を得たことを証明することができず、従うて、本件事業施行の権限を有しないものである以上、このことは、とりもなおさず、土地収用法二〇条二号の規定する、起業者が事業を遂行する能力、すなわち法律上の能力を有しない場合に該当するのであつて、かかる起業者の申請についてなされた本件事業認定は、土地収用法二〇条二号の規定にも違反するものというべきである。
二、本件事業認定が土地収用法四条に違反するものであることは、既に原審において主張したとおりであるが、この点をさらに次のとおり補足する。
昭和二六年法律第二一九号による改正前の土地収用法(明治三三年法律第二九号、以下旧土地収用法という。)二条は「土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業ハ左ノ各号ノ一ニ該当スルモノナルコトヲ要ス(一~三省略)四、鉄道・・・・・・道路・・・・・・河川・・・・・・国立公園二関スル事業」と規定し、又同決二条ノ二は、土地収用法四条と同じく「現ニ土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業ノ用ニ供スル土地ハ特別ノ必要アル場合二非レバ之ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ズ」と規定していたのであるが、ここにいう「土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業」は、前示のように「国立公園ニ関スル事業」を含む結果、本件土地のように現に国立公園の用に供せられている土地は、これを土地収用法にもとづいて収用するためには、同法二条ノ二にいう「特別の必要」がある場合でなければならないことはあきらかである。そうして、そう解することがもとより土地収用法の本旨に適うものであることはいうまでもない。けだし、土地を収用又は使用することができる事業の種類として、国立公園に関する事業を除外するがごときは、土地収用法の本旨に戻るものであることは土地収用法全般の趣旨からあきらかであるからである。
土地収用法は「土地を収用又は使用することのできる事業」に関する旧法二条の規定の体裁を改めて、三条のとおり、各事業を個別的に一々、列挙する形式を採つたのであるが、旧法二条の「国立公園ニ関スル事業」については、これを二項目に分けて、三条に
二九 国立公園法(後に昭和三二年法律第一六一号自然公園法の制定に伴い自然公園法と改正)による公園事業
三二 国又は地方公共団体が設置する公園・・・・・・その他公共の用に供する施設
と規定し、旧法の「国立公園ニ関スル事業」は、右の両項目によつて全部「土地を収用又は使用することのできる事業」中に包含されたのである。
新法改正の趣意は、同法によつて土地の収用又は使用の利益を享受し得べき事業の種類、範囲を明確化するにあつたのであつて、国立公園に関する事業についてその範囲を縮少する法意は、まつたく見られないのみならず、土地収用法全般の趣旨から見て、ひとり公園に関する事業についてのみ、そのようにその意義を限局して解釈すべき何らの理由も存しないのである。
ところで、本件土地は、昭和九年一二月四日、日光国立公園に指定され(内務省告示第五六九号)、昭和二八年一二月二二日厚生省告示第三九四号を以て、当時の国立公園法八条の二第一項により、国立公園日光山内特別保護地区に指定されている区域の一部に属し、現行の自然公園法(昭和三二年法律第一六一号)附則3・4・5項によつて、同法に基いて指定された国立公園の特別保護地区とみなされた土地である。
よつて、本件土地は、国立公園内特別保護地区として土地収用法の適用においても、同法四条にいう「土地を収用又は使用することができる事業の用に供している土地」に該当するものである。
従つて、本件土地を収用するには、土地収用法四条にいう「特別の必要」がある場合でなければならないことはあきらかである。
そうして、本件において、右にいう「特別の必要」の存在をみとめることのできないことは、原審において被控訴人か主張したとおりである。
従つて、本件事業認定は、土地収用法四条所定の要件を具備しない違法の処分であるのみならず、本件事業認定に当たつては、かような「特別の必要」の点については、全然審査されなかつた。しかも土地収用法一八条二、三項、二一条一項の規定によれば、本件のように起業地内に同法四条に規定する土地があるとき、すなわち、これを収用するために「特別の必要」を要する場合には、特に慎重な審査を要し、建設大臣は、当該土地の管理者の意見を徴しなければならない旨を規定するところ、本件土地はすべて被控訴人東照宮の境内地であり、被控訴人は当該土地の所有者として「管理者」であるにかかわらず、右事業認定について、同法一八条二項四号所定の意見書の提出を求められたことはないのみならず、これにつぎ被控訴人の意見を徴せられたことは全くないのである。国立公園内の土地の所有者の権利は、自然公園法の適用によつて各種の制約を受けるにしても、所有者はその土地に対する管理権を失なうものでない。ことに自然公園法は、同三条において公園内土地所有者の権利はこれを尊重すべきことを明定しているのである。このように、法律の規定に違反して所有者の意見を聞くこともなく、権力を以て一方的に所有権を侵奪しようとすることは、デユー・プロセスの大法則に反するものというべきである。
以上のとおり、本件事業認定は、実質的に収用法に定める「特別の必要」の要件を欠く違法があるのみならず、審査手続の面においても、重要な法規違反をあえてするものであつて違法であり取消しを免れないものである。
三、本件事業認定は、これを必要とする理由を失なつている。
すなわち、原審において控訴人らが主張したところによれば、本件事業計画は、そもそも立案の当初から事業認定に至るまで常に控訴人らのいうA、B、C、Dの四案について比較検討が行なわれ、結局B、C、Dの三案は排斥され、A案によるほかないとしてこれが採択されたという四案択一の関係にあつたことが明らかであるから、もしB、C、Dの三案のうちどれかが採用されれば、A案は採用されず廃案に帰すべきものであつた。ところで、昭和四五年五月一日、日本道路公団は、昭和四五年度事業計画における「新規着手」の一般有料道路として、宇都宮市徳次郎町から日光市細尾町までの三二キロを、総予算一七〇億円をもつて、昭和五〇年に完成する旨を発表しその計画はその後年を遂うて着々実行、進捗せられている。この道路公団の計画路線は、国道一二〇号に対しては、いわゆるバイパスの道路に該当するものであり、C案の路線とほぼその軌を一にするものである。C案は本件計画においては、実現不能として排斥されたけれども、この度、日本道路公団の力によつて、総額一七〇億円という巨額の国費を投じて、遠からず実現されることに確定したものといわなければならない。
本件計画が前述のごとく四案択一の関係にあり、しかも、その内の一であるC案の実現が確定的となつた以上、もはやA案を固持する理由はないから、本件事業認定はこれを必要とする理由を失つたというべきである。
四、本件事業認定が土地収用法二〇条三号、四号に違反することは既に述べたとおりであるが、当審における控訴人らの主張にかんがみなお次のとおり補足する。1、土地収用の基準としての適正と合理性は、土地収用の大原則であつて、土地収用法は、第一章総則において、この大原則を宣示し(二条)、二〇条三号はこれをうけて、事業認定め具体的要件について規定したものであつて、その趣旨は、たとえ公用のためとはいえ、他人の土地を収用するについては、不適正、不合理な土地の利用は絶対に許さないとすることにあるのであるから、この点の判断に当たつてはひろく諸般の事情を参酌し、社会通念にもとづいて、その土地利用の適正・合理性を判断すべきである。
2、行政庁がその裁量により同法二〇条四号の「土地を収用する公益上の必要があること」について判断をするに当たつても、無制限にこれをすることが許されるものでなく、被控訴人が、原審以来主張するとおり、これについては、昭和二六年一二月一五日付建設省管理局長の「土地収用法第三章、事業認定の規定の運用に関する件」なる通牒(建設管発第一二二〇号)のいうとおり、「事業の公益性は一般に納得し得る客観性があるかどうかを、具体的の事業及び当該特定の土地について精査してしなければならないのである。
しかるに、本件事業の公益性については、一般的な客観性を欠くことは、原判決の説示するとおりであり、かつ、本件土地は、右通牒にいう「当該特定の土地」としては、国立公園の特別保護地区に指定された特異の土地であることにかんがみ、原判決各段の説示する状況の下に、わずか一三億ばかりの出費を惜しみ、オリンピツクという「際物」に迎合して、いたずらに工事を急ぎ、天下の至宝である本地域の景観を無残に損壊せんとする本件事業認定は、社会通念上著しく妥当を欠き、行政権の裁量の範囲を逸脱して違法のものというべきである。

第二、控訴人らの主張
一、被控訴人の前記主張一(起業者栃木県知事は本件事業執行の権限を有しないとの主張)について。
本件事業における起業者栃木県知事の事業施行の権限の法的根拠の詳細が被控訴人の主張するとおりであること、ならびに昭和三九年四月一日付厚生大臣の承認書の記載及び昭和三三年八月一日付厚生大臣の承認事項がそれぞれ被控訴人主張のとおりであることは、いずれも認める。
しかし、起業者栃木県知事は昭和三八年七月五日付国立公園事業の執行承認事項変更承認申請書(乙第二〇号証の二)において、施設の位置欄に変更前「日光市安川町字下河原(太郎杉附近)一変更後「同左」と記載し、また、同申請書の添付図面(乙第二〇号証の三及び四)も太郎杉附近の約二八〇メートルの区間についての道路改良計画を表示して、本件起業地についての道路事業の執行承認を申請したものであり、これに対し、厚生大臣は、昭和三九年四月一日付収国第六一九号(乙第九号証の一)をもつて右申請を承認したものであるから、右承認が本件起業地約二八〇メートルの区間の道路改良事業の執行承認であることは明らかである。このこまは、右の承認書と同日付けの厚生省大臣官房国立公園部長から栃木県知事宛の文書(乙第九号証の二)、厚生省大臣官房国立公園部計画課長から栃木県商工労働部長宛の文書(乙第九号証の三)、さらに、右承認後において厚生省・栃木県間に取り交わされた往復文書(乙第二一号証の一乃至四、乙第二二号証、乙第二三号証の一乃至三、乙第二四号証)の文面からみても疑いの余地がない。被控訴人は、前記収国第六一九号の承認書の文面中、「昭和三三年八月一日付け承認」との記載のみを捉えて、右承認は本件事業認定にかかる起業地についての執行承認ではない旨主張するのであるが、およそ申請に基づく行政行為の意思解釈は、当該行政行為が表示された文書の一部の記載のみによつてなすべきではなく、その内容の全体・申請書等を参照することによつてなすべきものであり、本件の場合も申請書及びその添付図面等を参照すれば、厚生大臣が栃木県知事に対して本件起業地についての公園事業の執行を承認したことは明白である。そうして、本件公園事業のように、長区間の道路改良事業を執行する場合には、一度にその全区間についての執行の承認を受けないで、当初はその一部区間について執行承認を受け、残区間については事業の進捗状況等に応じて逐次当初の承認事項の変更として承認を受けつつ事業を進めて行くのが通例であり、本件変更承認の場合も、厚生省におけるこの事務処理の慣例に従い当初の承認事項の変更承認という形式をとつているのである。そして、本件道路改良事業に関する当初の一部区間の執行承認は、昭和三四年一二月一七日付厚生省栃国第一七一九号をもつてなされたのであるから、本件起業地についての執行承認申請としての前記昭和三八年七月五日付け変更承認申請書において、当初の承認(変更の基礎となるべき承認)を表示するには右厚生省栃国第一七一九号と記載すべきであつたところ、誤つて昭和三三年八月「日付け厚生省栃国第五八八号と記載し、これを承認した厚生省収国第六一九号にも同様の誤りがあつたのであつて、この誤りについては控訴人らもこれを認めないわけではない。然し前述のとおり右申請および承認にかかる起業地が本件起業地であることが明白である以上、その誤りは単なる記載上のミスにすぎず、右承認を違法ならしめるようなものではないというべきである。
以上を要するに、右の誤りは単なる記載上のミスであつて、本来何らの訂正を要しないものである。従つて、厚生省はその後昭和三九年一二月四日付発国第八一九号を以て、前記収国第六一九号の承認書を、前記栃国第一七一九号による承認事項の変更の承認として処理する旨の通知をしたが、これは、以上の記載上のミスを訂正するものにすぎないから、それが本件事業認定後、しかも、これに対する本件取消しの訴提起後になされたものであつても、何ら本件承認の効力に消長を来すものではない。
二、同二(本件事業認定が土地収用法四条に違反するという主張の補足)の被控訴人の主張に対し次のとおり反論する。
1、本件土地は、自然公園法による公園事業(土地収用法三条二九号)または国の設置する公園(同条三三号)の用に供している土地には該当しない。土地収用法三条二九号所定の収用可能な公益事業としての公園事業とは、自然公園法二条六号、同法施行令四条に定める各公園施設に関する事業に限るものであることは、規定上明らかであつて、国立公園の特別保護地区に指定されているというだけでは、また土地収用法三条二九号によつて該地域内の土地を収用することはできず、またその必要も存しないのである。
すなわち、国立公園の特別保護地区は、公園の景観を維持するために特に必要があるとぎに、厚生大臣が指定するのであるが、景観維持の方法としては、その区域内における工作物の設置、木竹の植栽、伐採、鉱物の採掘、土石の採取、土地の形質の変更その他一定の行為を制限することによつて(講学上の公用制限)、その目的の達成を図ることとしているのであつて(自然公園法一八条以下)、その地区内の土地について何らかの権原を取得して、これに基づいてこれを管理することは予定していないのである(この点が公の営造物である都市公園-都市公園法-と自然公園法による国立公園の最も大きな相違点である。)。従つて、特別保護地区の景観を維持し、これを管理するためには、地区内の土地を収用あるいは使用する必要は存しないのである。
もつとも国立公園の管理者は、単に公園の景観を維持するにとどまらず、積極的に公園の利用、保護のための施設(自然公園法一二条以下、同法施行令四条)を公園事業として設置することを要するのであるが、これら事業を施行するためには、その施設の用地につぎ所有権または使用権を取得する必要があり、この段階になつて、はじめて、土地を収用する必要性が生じるのである。さればこそ、土地収用法三条二九号は、自然公園法による公園事業な収用可能な公益事業と規定しているのである。
被控訴人は、さらに旧土地収用法においては、土地を収用又は使用することを得る事業の種類としては、単に「国立公園ニ関スル事業」と規定するにとどまり、現行法のように自然公園法による公園事業と限定されていなかつたのであつて、現行法の解釈についても、自然公園法による公園事業に限らず、広く国立公園に関する事業と解すべきであると主張する。しかしながら、旧国立公園法による国立公園も、いわゆる営造物公園ではないという点においては現行自然公園法による国立公園と何ら変るところはないのであつて、従つて、その景観維持の方法は、現行法におけると同じく、単に公用制限を課するにとどまり、地域内の土地につき権原を取得することは考えていなかつたのであり、国立公園法所定の公園事業施行のための施設の用地につき所有権あるいは使用権を取得する以外には、「国立公園ニ関スル事業」につき土地を収用または使用する必要は生じなかつたのである。以上のとおり、自然公園法による公園事業という文言の有無にかかわらず、国立公園に関する収用可能事業の範囲は、新旧土地収用法において何ら変りはないものである。
2、本件土地が土地収用法四条所定の土地に該当しないと解しても、本件特別保護地区の景観の維持に欠けるところはない。
いうまでもなく、同法四条の法意は、現に公益事業の用に供している土地等を、別の公益事業のために収用または使用する必要を生じた場合には、両事業の公益性の重要度を比較して、一層重要な公益のために収用、使用のやむをえない必要がある場合に限り、収用、使用を認めようとするものである。そうして、両事業の公益性は、当然事業認定権者である建設大臣または都道府県知事の判断しうるところであるから、両事業の公益性の比較による特別の必要の有無は事業認定権者の判断に委ねられているのであつて、事業認定権者が特別の必要があると認めて事業の認定をすれば、起業者は、収用または使用の裁決を得て当該土地をその事業の用に供しうることとなる。他方国立公園の特別保護地区のように土地の利用について法令の規定による制限があるときは、右土地について事業認定の申請をするためには、当該法令の施行について権限を有する行政機関の意見書を添付することを要し(同法一八条二項五号、二一条一項)、事業認定に際しては、その要件の有無の判断について、これら意見は十分参酌されることとなつているのであるが、さらにまた、仮りに事業の認定がなされ、収用または使用の裁決がなされても、事業の施行が当該法令の制限に抵触するときには、起業者は、これを以て直ちに当該土地を事業の用に供しうることとはならず、さらに権限を有する行政機関による、制限の解除を受けることを要し、これを得てはじめて当該土地を事業の用に供しうることとなるのである。そうして、右土地の利用についての制限の解除を認めるかどうかは専ら、当該法令の施行力権限を有する行政機関の判断に委ねられ、これにより当該法令が意図するところが完全に達成されることとなるのである。これを特別保護地区についていえば、仮りに、起業者が地区内の土地について収用裁決を得てその所有権を取得しても、自然公園法の見地からする厚生大臣の許可がなければ、右土地について同法一八条により制限された行為をすることはできないのである。
以上述べたとおり、国立公園の特別保護地区の景観を保護するためには、右地区内の土地は、土地収用法四条所定の土地に該当し、特別の必要がなければ収用または使用できないとする考え方は、とるに値しないものであり、むしろ、上述のとおり他法令の制限によつて、より以上にその目的を達しうるのである。
三、同三(本件事業認定はこれを必要とする理由を失なつたという主張)について。
日本道路公団が、昭和四六年四月に着工し昭和五一年三月末日完成を目途として、現在日光・宇都宮道路を建設中であることは認める。しかし、右日光・宇都宮道路の新設は、本件事業計画の公益性、必要性になんらの影響を与えるものではない。すなわち、本件事業計画にかかる国道一二〇号は、日光橋において接続する国道一一九号とあわせて、宇都宮から今市市、日光市を経て群馬県沼田市に至る幹線道路であるのみならず、日光市内を貫く幹線道路として市民生活に多大の便益を与えており、さらに、東照宮、二荒山神社および輪王寺ならびに神橋など日光国立公園内の観光地区に通ずる唯一の道路である。ところで、前記日光・宇都宮道路は、東北縦貫自動車道の宇都宮インターチエンジを起点とし、日光市清滝桜ケ丘町を終点とする有料の自動車専用道路であり、今市市、日光市の市街を避けて、その外側を迂回し、前記終点において清滝バイパスに通じているのであるが、沼田市、奥日光方面などを目的とする、いわゆる通過交通量を処理するために建設される迂回路であるから、日光市民の生活に直結する業務用車両はもとより、日光杉並木街道をはじめ神橋、東照宮などを目的とする観光用車両は、国道一一九号および一二〇目方(以下「現道」という。)を利用することによりはじめてその目的を達するのである。そうして、日光・宇都宮道路が完成しても、現道に残る自動車交通量は減少しないものと予測される。被控訴人は、日光・宇都宮道路はいわゆるC案とほぼ同様の効果を生ずる旨主張するが、いわゆるC案と日光・宇都宮道路とを対比してみると、C案ルートは、本件係争地のわずか五〇メートル程度の区間の現道拡幅に代替するルートとして考慮されたものであるのに対し、日光・宇都宮道路は、前述のように、東北縦貫自動車道の開通に伴なう将来交通需要に応じ、かつ、現道の観光シーズンにおげる恒常的まひ状態を緩和するため、主として通過交通を所理するために設けられるものであり、路線の性格においても、また、その通過経路においても、本件係争地の交通渋滞や混雑解消のためのC案と同様の効果を生ずるものではなく、本件拡幅事業の必要性は依然として残るのである。
従つて、日光・宇都宮道路が完成しても、その沿道に多くの観光地をもつ現道は、東照宮参拝ルートとして、全国でも有数の観光道路として、また、地域住民の唯一の生活道路として、重要な機能を果たすものであつて、その交通量は、現状に比していささかも減少しないものとみられるのである。
なお、被控訴人は、日光・宇都宮道路の完成により現道はもつぱら日光山内社寺を中心とする観光道路としてローカル線化する旨主張するが、この点について付言すれば、昭和四四年五月に調査した本件係争地における交通解析によると、全体交通量の四七パーセントは東照宮、二荒山神社、輪王寺および神橋の観光用車両ならびに神橋附近を往復する業務用車両等であり、また、昭和四六年五月九日の調査では、その割合が五五パーセントと上昇している。この傾向は、最近のモータリーゼーシヨンの普及と観光ブームとがあいまつてさらに増加することが明白であるから、バイパス完成による現道のローカル線化という傾向は、とうてい考えられない。
以上のとおり、本件事業計画にかかる道路拡幅事業は、日光・宇都宮道路の完成によつても、その公益性、必要性になんらの影響を受けるものではない。
四、本件事業計画は、「土地の適正且つ合理的な利用に寄与するもの」である。すなわち、本件事業によつて増進される公共の福祉と本件土地の現在の利用状況とを比較衡量するとき、本件事業の高度の公共性、必要性は、本件土地の現在の利用状況の価値を上廻ることが明らかである。以下に控訴人らの従前の主張を整理補足してその理由を明らかにする。
1、本件事業計画は、高度の公共的必要性を有し、欠くことをえないものである。
(一) 前述のように、本件事業計画にかかる国道一二〇号は、日光橋において接続する国道一一九号とあわせて、宇都宮から今市市、日光市を経て沼田市に至る幹線道路であり、東照宮、二荒山神社、輪王寺、神橋、中禅寺湖、戦場ケ原、湯元温泉等日光国立公園内の観光地区および古河鉱業株式会社、古河電気工業株式会社等の産業施設がある清滝地区に通ずる唯一の道路として、観光的産業的に重要な機能を果しでいるのみならず、日光市内の縦貫道路としても市民生活に多大の便益を与えている道路である。したがつて、その交通量は年々激増し、自動車交通量は、一日平均で昭和三七年度、約六、四〇〇台、昭和四三年度は約一〇、〇〇〇台となつており(なお、以上の交通量は、年間を通じた平均であつて、春秋の観光シーズンにおける交通量ははるかに多く、例えば、昭和四三年秋のピークにおいて約一九、〇〇〇台で、その増加分の大半は観光を目的とするのである。今後の道路整備の進捗と観光旅行増大の傾向からみれば、一層増加の傾向は強まるものと考えられる。)、このうち約五五パーセントが日光国立公園の利用を目的とする自動車であつて、さらに、その六四パーセントすなわち全体の約三五パー七ントは、東照宮、二荒山神社および輪王寺の二社一寺ならびに神橋の観光を直接の目的としており、また、その他全体の約一二パーセントか日光橋を往来してする日光市街地における業務を目的とするものである(以上の自動車交通量及びその分析の詳細は別紙(一)のとおりである。)。換言すれば、全自動車交通量の約四七パーセントが本件地点を往来することによつてその目的を達成する交通なのであるが、さらにそのほかに歩行者として一日平均で昭和三七年度は、二、九〇〇人、昭和四三年度で三、一〇〇人の者の交通があり、それらの者は、歩道がないため、ひしめく自動車交通によつて危険にさらされ、またその交通を妨げられているのである。しかも、現道は、神橋の北側の袖勾欄の一方を取り毀したままの状態になつているから、将来由緒ある神橋を完全な姿にするときは、その幅はさらに狭くなり、交通は一層困難になることは必至である。
本件道路がこのような特質を有するものである以上、その改築方法もこれに即したものでなければならないことは当然である。もし、前述のように自動車交通量の約半数が本件土地付近の現道またはその至近の場所を通行する必要があることを無視して、現道とはなれてバイパスを建設しても、右自動車交通量および歩行者が現道に残るのはもちろん、バイパスを有料道路にするときは、他の自動車交通量のバイパスへの振替えも顕著にいかず、将来ますます増加する自動車交通量に対処して、運輸の公共的目的、東照宮等の観光客の利便、安全を確保すべき社会的要請は全く達せられないこととなる
(二) しかも、バイパスを考えるについては、それが景観等文化的価値に及ぼす影響、家屋等の除却移転等の社会的影響、および事業費等も考慮されなければならないものであつて、起業者である栃木県知事は、原審において詳述したとおり、本件事業認定を申請するに際して事業計画である現道の拡幅案(A案)のほか技術的に可能な案としてB案、C案、D案の三案を慎重に比較検討した結果(なお比較検討した事項の詳細は別紙(二)のとおりである。)、右述の本件道路の特質からする交通量処理の効果、景観等文化的価値に及ぼす影響、家屋等の移転の社会的影響、事業費、工事期間等の」ずれの点からしても本件事業計画にまさる案はなかつたのでこれを採用したものである。
なお、原判決はC案によることが可能であるとの口吻をもらしているので、特にC案が実現困難であるゆえんを詳細にのべる。
(1) C案は、昭和二九年二月一五日旧都市計画法(大正八年法律第三六号)に基づき日光市の都市計画として決定された街路の路線の一部を利用し、日光市役所手前から山側にトンネルで入るよう計画されているものである。
この街路に関する都市計画決定においては当街路が地域交通の処理を目的とした区画街路であり通過交通の処理を目的とした道路でないため、全幅員一二メートルという地域交通量に見合つた幅員とされており、歩道も設けないこととされている。これを国道として利用する場合においては、当然に交通量の増大が予想されるため、沿道住民の利用及び交通安全対策上、両側各二・五メートルの歩道を設置する必要があり、したがつて、全幅員一六メートルを要することとなる。ところで、この都市計画決定街路の一部については、すでに全幅員一二メートルの街路としてほぼ完成し、両側には新しい家屋が建ち並んでいる。この部分の造成は土地区画整理法(昭和二九年法律第一一九号)による土地区画整理事業によつて行なわれたものであり、右事業は昭和三五年度に着手され、すでに、仮換地の指定が行なわれ、昭和四五年度中には換地処分を行なうべく準備中である。仮換地の指定が行なわれた場合においては、特段の事情がない限り、その仮換地を換地とする換地処分が行なわれることが通例であり、関係権利者はその期待の下に仮換地に家屋を新築する等仮換地の使用収益を行なつているのである。しかるに、この部分を全幅員一六メートルに拡幅しなければならないとすれば、土地区画整理事業の事業計画を変更したうえで仮換地の指定の変更を行ない、若しくは仮換地と異なる換地を定める換地処分を行ない、又は土地区画整理事業完了後別途の方法で用地を取得することが必要となる。いずれの方法によるにせよ、この街路の全幅員が一二メートルであることを前提に、現に仮換地の上で平穏な生活を営んでいる地域住民の平和を害することは明白であり、その社会的影響は大きく、実施は極めて困難である。
次に、都市計画決定街路のうち、未着手の部分については、日光市がこれを含む地域について土地区画整理事業を施行すべく計画中であり、すでに土地区画整理法五五条一項に基づき事業計画が公衆の縦覧に供された。この部分については、昭和二九年の都市計画決定以来、全幅員一二メートルとして住民に認識され、当然のことながら、都市計画制限もこの一二メートルの範囲内についてのみ行なわれてきている。また、前述の公衆の縦覧に供された土地区画整理事業の事業計画においても、この部分は全幅員一二メートルの街路として計画されている。したがつて、この部分も全幅員一六メートルにしなければならないとすれば、都市計画ならびに土地区画整理事業の事業計画を変更しなければならないが、これは地域住民に与える影響が大きいため、実現は困難である。
以上のとおり、国道のバイパスとして本都市計画路線を利用することは極めて困難であり、まして)この地域において本都市計画路線以外の場所にバイパスの路線を求めることは人家の連なる地域のため不可能である。
(2) C案の建設には一三億五、一〇〇万円の事業費を要するが、この金額は、栃木県が昭和四一年度から昭和四四年度までの四年間に県内の交通安全施設の整備のために投じ、又は投じようとしている事業費の合計額に相当するものであり、限られた財源により全国にわたる安全かつ円滑な交通の確保を期するため、効率的な公共投資をなすべき責務を国民に対して負つている国及び地方公共団体としては、この金額の約三〇分の一である四、三〇〇万円の事業費をもつて本来道路の有する問題を解決することができる現道拡幅案という有効適切な手段があるにもかかわらず、わずか二八〇メートルの区間の道路の改良のためにこのような巨額の事業費を投ずることは到底容認することはできない。
これに対し、被控訴人は、原審において、C案は事業費が高くなるという難点があるとしても、金精道路や第二いろは坂が日本道路公団の手により有料道路として完成していることにかんがみれば、起業者としても、かような方法によるべく努力するのが本筋である旨主張し、原判決もまた、建設に高額の費用を要する道路の新設については、日本道路公団がこれを建設し、その通行につき料金を徴収する等の方法によつてこれを実現するという方法も考えられる旨判示している。しかし、これらは、いずれも有料道路制度の特質を理解しない考え方といわねばならない。
有料道路の建設は、道路整備特別措置法(昭和三一年法律第七号)に基づいて行なわれるが、同法は、元来道路は国民生活にとつて不可欠かつ基本的な交通手段を提供するものであるため、無料公開を原則とするという考え方から、その対象とする道路並びに料金の額及び徴収期間について極めて厳格な制限を設けている。その詳細の説明は省略するが、日本道路公団が一般国道の新設又は改築を行なう場合にその道路の通行又は利用について徴収することができる料金の額については、(ア)当該道路の通行又は利用により通常受ける利益の限度、すなわち、通行若しくは利用の距離若しくは時間の短縮、路面の改良、屈曲若しくは勾配の減少等道路の構造の改良又は通行若しくは利用の方法の変更に伴ない、車両の運転費(燃料費、油脂費、タイヤ及びチユーブ費、修繕費、償却費、乗務員の人件費等)、輸送費、旅行費、荷役費、積卸費、包装費等について通常節約することのできる額をこえないこと(同法一一条二項及び同法施行令一条の四第一項)、
(イ) 当該道路の料金街収総額が、当該道路の新設又は改良に要する費用、当該道路の維持及び修繕に要する費用その他の当該道路の管理に要する費用並びにこれらの費用の財源に充てるための借入金等の利息の支払に要する費用の合算額に見合う額となるようにすること(同法施行令二条)
という制度がある。
そこで、かりにC案を日本道路公団が建設して、その通行につき料金を徴収するとしても、C案の延長は、七七六メートルであつて、これに対応する現道の延長と大差なく、走行時間も、幾分は短縮されるものの、距離が短いため大差なく、さらに路面等道路の構造についても、現道と大差ないため、これを通行する者の受ける便益は極めて小さいものであり、したがつて、前記(ア)の基準に照らせば、その料金は極めて低額とせざるを得ない。
他方、この道路の建設のためには前述の如き巨額の事業費を要するから、その元利償還分だけでも毎年度多額にのぼり、その他維持及び修繕に要する費用その他の管理に要する費用を考慮すれば、前記低額な料金をもつてしては到底これらの費用を償い得ず、結局本道路は有料道路としては採算が合わないものであることは明らかであり、有料道路として建設することができないものである。
以上のとおり、C案は一般の道路としてはもちろん、有料道路としても建設することができないものである。
2、本件事業計画の影響は、局部的にとどまり、東照宮の神域の尊厳の保持に支障を生ぜしめないのはもちろん、付近の景観を著しく損うこともない。
(一) 本件土地は、東照宮の境内の表玄関ともいうべき場所に位置し、その上に、巨杉が群生し、巨杉の間に背後丘陵上の優美な御旅所の社が散見しているが、本件事業計画が実施されると、本件土地の部分は削り取られ、これにあわせて同地上に成育する一五本の杉は伐採され、その跡地には高さ三米および五米の二段の石垣が長さ四〇米にわたつて構築される。そのため相当の修景がなされるものの、御旅所の社は相当程度その姿をあらわし、蛇王権現もその敷地を若干後方(北方)に移転を余儀なくされることは避けられない。
このような状態になることは、もちろん、好ましいことではないが、本件土地は、東照宮の林地の一部であつて、広大な境内に比すればわずかの部分であり、右一五本の杉を伐採しても、境内地には、なお数多くの巨杉が生い茂つているのであり、従つて、右のような本件事業計画が実施されても、これにより東照宮の神域の尊厳性はいささかも損われることはなく、また、その宗教的文化的値価にもなんら支障を及ぼすものではない。
(二) また、本件事業計画の実施は、本件土地を含む付近の景観にもさしたる影響を及ぼすものではない。
(1) 元来、本件土地は、自然のままの地形、景観ではなく、相当人工度の高い地形、景観である。本件土地を含む東照宮境内入口付近は、境内地が自然の傾斜をなして大谷川に迫つているというような状態ではなくて、その前面(南側)には大谷川との間にすでに一般国道一二〇号が通つており、その上、本件事業認定当時は、右国道に東武鉄道日光軌道線の軌道があり、昭和四二年二月二四日までは路面電車が走つていた状態であり、また、右国道と境内との境界は、自然の傾斜ではなく、すでに相当高い間知石積がなされている状態である。なお、日光山内においても参拝者の利便のために自動車の乗入れが可能なように道路の舗装拡幅等がなされている。
(2) また、本件土地上の樹林はすでに良好な状態にない。およそ、立木には寿命があり、枯損はその必然であるが、本件土地においても昭和三八年三月二五日未明の強風により東照宮表参道長坂付近に成育する杉一八五本のうち四二本が倒木し、また多数の杉が損傷し、本件土地上に残存する一五本の杉も風により倒れるのを予防するため、ワイヤーロープにより辛うじて保護されている状態である。そのため、本件土地およびその付近の土地の景観はすでに相当損われており、また、蛇王権現の社も同強風による倒木によつて倒壊され、いまだにその復元がなされていないのである(当初本件事業計画に反対した自然公園審議会がその実施もやむをえないとしたのは、このような事実を認識した結果であると考えられる)。
(3) 以上のような本件土地の現況に照らすとき、現存の国道の六米の幅員をさらに一六米に拡幅して、その結果四〇米にわたり約一〇米幅に丘陵部をさらに切断して、その前面を現在の石積よりは高い三米と五米の石垣を構築しても、植樹その他の修景に十分意を用いる以上、景観にはさしたる影響はないものと考えられる。
(4) 元来日光の景観は、二社一時等建造物の文化景観と自然景観とが渾然一体となつているところにあるが、これを本件地域について見れば、この地域の景観の一方の核である建造物が神橋であることは万人の認めるところであり、この神橋の美に対応し、これと一体をなすにふさわしい他方の核としての自然美は、大谷川右岸の広葉樹林をおいて他にはないのである。けだし、大谷川右岸の広葉樹林は人為の加わらない自然の美を示し、とくに秋季の紅葉時の美しさは目を奪うばかりであつて、この広葉樹林と神橋とが一体となつて作り出す景観こそが日光国立公園の入口としてふさわしい傑出した美しさを示しているのである。被控訴人東照宮の発行したパンフレツトを含めて、日光市内及び二社一寺内で売り出されている観光絵はがき、パンフレツト類のうち、神橋附近を表わすものの多くが、神橋と大谷川右岸の景観を中心としていることは、このことを雄弁に物語つている。これに対し、本件土地をはじめとする大谷川左岸の景観は前叙のとおりすでに相当に人為的な改変が加えられており、さらにこれに幾分の人工を加えたとしても、この地域の景観に本質的な影響を及ぼすものではない。従つて、この地域において、原判決のいうように、自然の推移による場合のほかは現状のままで維持され保存がはかられなければならないものがあるとすれば、それは神橋と大谷川右岸の広葉樹林を中心とした景観であつて、本件土地を含む大谷川左岸の景観ではない。本件事業計画を実施すれば本件土地付近の景観に影響を及ぼすことは避けられないが、神橋及び大谷川右岸が現状のまま保存される以上、本件事業計画実施の結果としての人工は、周囲と調和して一本化するものというべく、その影響はこの地域の景観を本質的に改変するものではない。
3、本件事業計画の実施は、日光発祥の史実、伝説になんらの影響を及ぼすものではない。
(一) 日光発祥の史実・伝説とは、原判決の認定によれば、「日光山は、今から約一、二〇〇年の昔、勝道上人によつて開山されたものといわれているが、その際、勝道上人が、本件土地付近の大谷川の絶壁を渡り得ずに困却しているところ、深沙大王が現われて大蛇を橋となし、その渡河を導いたという伝説に基づいて、神橋が架せられ、その正面には深沙大王を祀るための蛇王権現の社を建立した。」ということである。してみれば、本件土地は、その一部が蛇王権現の社の敷地となつているという意味においてのみ、前記史実・伝説と関係しているのである。ところで、その蛇王権現の社は、昭和三八年三月の強虱による倒木により破壊されたまま再建されていないが、本件事業計画の実施によりその位置は多少(北方)に後退するものの、輪王寺によつて再建される計画となつているものである。社の位置が多少現在のそれより後方に移転することが前述の史実・伝説になんらの影響を及ぼすものでないことはいうまでもないであろう。
(二) また、本件土地に成育する一五本の杉は、日光杉並木街道の出発点等の歴史的文化的価値を有するものではない。すなわち、本件地上に成育する一五本の杉は、山内の無数の杉群の一部を構成するにすぎないのであつて、並木杉として道路に並行的に植栽されたものではない。たまたま、前述の昭和三八年三月の強虱に2よる倒木を免れたものが、道路に沿つて植栽されたかのような形態で残つたにすぎないのである。もともと、杉並木は、街道の全線にわたつて植栽されたものではなく、途中の集落の部分には植栽されなかつたのであるから、本件土地の東側の寄進碑の杉並木は日光山山菅橋付近から植栽された旨の碑文は、日光がかつても集落地であつたことを考えれば、その今市側のはずれを起点として植栽されたことを意味するものと解すべきである(なお、日光杉並木街道寄進碑は、このほか旧御成街道の大沢、旧例幣使街道の小倉、旧会津街道の大桑の三地点にも建立されているが、これらの碑文は、いずれも同文で小倉、大沢、大桑から日光に至るまでの間に植栽したものである旨記されているのであつて、とくに日光山山菅橋まで植栽した旨を記していない。)。
したがつて、本件土地に成育する杉が日光杉並木街道の出発点であると考えることはできない。日光杉並木街道が史跡、特別史跡、あるいは天然記念物、特別天然記念物に指定されているにかかわらず、本件地上の杉がこれらの指定からもれていることは、それと同程度の史的価値を有するものでないことを何より雄弁に物語るものといえよう。
五、以上述べたところにより、本件事業計画による国道拡幅事業の公益性必要性が、本件土地の現在の利用状況と比較して一層重要であることは明らかであるから、本件事業計画は土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものである。
そうして、土地収用法二〇条三号に定める「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること」という要件を具備するかどうかの判断が行政庁の自由な裁量に委ねられているものでないことは、控訴人もこれを争うものではないが、本件のように事業計画が高度の公共的必要性を具備し、しかも、その公共的必要性と当該土地の有する景観その他の価値との比較衡量に極めて微妙かつ高度な価値判断を要する事案については、専門的技術的な行政庁の判断を尊重されて然るべきものと解する。ところで、本件事業計画については、控訴人建設大臣が、起業者栃木県知事の申請を専門的にし細に検討した結果、右事業計画による道路拡幅の公共的必要性が、本件土地およびその付近の景観、史的文化的価値等と比較衡量して、前者がまさると判断して、本件事業の認定をしたものであり、また、自然公園審議会の調査検討を経た答申に基づいて厚生大臣も公園事業の執行の承認をなしたものである。このように、本件事業計画が道路改良の面のみならず、景観の保持等の観点からも、専門的技術的な知識を傾けた慎重な比較検討を経て決定されたものであるから、この判断は、当然尊重されるべきものである。

第三、新しい証拠(省略)

理由

第一、本案前の主張について。
一、当裁判所も、本件事業認定及び土地細目の公告は取消訴訟の対象となる行政処分であり、また、被控訴人は本件各行政処分の取消を求める訴の利益を有するものであつて、これらの点に関する控訴人らの主張(控訴人らの本案前の抗弁一及び二)は理由がないと判断するものであるが、その理由は、左に付加するほか、原判決が四二丁表一一行目から四五丁裏一〇行目までに説示するところと同一であるから、これを引用する。
「なお、控訴人らは、本件事業の認定及び土地細目の公告によつて被控訴人は形質変更禁止の制限をうけるが、これは本来権利に内在する制限にすぎず、このような制限は法律上保護された利益の侵害とはいえない旨主張するけれども、右の形質変更の禁止は、土地収用法が、収用にかかる事業と収用手続の円滑な遂行に障害が生ずるのを防止するため、特に認めた効果であつて、被控訴人の権利(本件においては、前記引用にかかる部分において判断したとおり、本件土地の所有権である。)がその性質上最初からそのような制約を内在しているものとは考えられず、被控訴人はこの形質変更の禁止によつて、その権利(所有権)の行使を制限されるものであるから、被控訴人が訴の利益を有することはいうまでもない。この主張も理由がなく採用できない。」
二、控訴人らは、更に、被控訴人らが本件事業認定及び土地細目の公告の取消訴訟にあわせて本件収用裁決の取消を訴求することは、二重訴訟を追行することとなり、そうでなくとも、いずれか一方の訴訟は訴訟追行の具体的利益を欠くに至つたものと解すべきである、と主張する。
しかし、以上の三つ力行政処分は、一連の手続の一環をなす処分とはいえ、それぞれその主体、要件及び効果をことにするものであるばかりでなく、本件においてはこの三つの処分に共通な違法事由のほかに、各別の違法事由もまた主張されているのであるから、本件における事業認定、土地細目公告取消の訴(これが原裁判所昭和三九年(行ウ)第四号事件である。)と収用裁決取消の訴(これは同昭和四二年(行ウ)第二号事件である。)とが、控訴人らのいうように、二重訴訟となるいわれはないのであつて、右主張のうち二重訴訟であることを前提とする部分は理由がない。
つぎに、収用裁決は、前記一連の手続における最終処分であるから、その取消しを求める訴を提起した以上、もはや同一の違法事由を主張してこれに先行する処分の取消しを求める訴の利益は通常は認め難いものというべきである。しかし、本件のように、まず先行処分である事業認定、土地細目の公告の取消を求める訴が提起され、その係属中に収用裁決がなされたため、その取消を求める訴が更に提起されたときは、前段に述べたとおり前記三個の処分はそれぞれ相異なるものであること、その違法事由として共通のもののほか各別の違法事由もまた主張されていること及び前記引用にかかる原判決が判示するとおり、事業認定処分及び土地細目の公告処分もそれぞれ独立して取消訴訟の対象たる行政処分であることを考えると、最終処分である収用裁決の取消を求める訴が提起され(なお、本件においては、この訴は、先行処分の取消を求める訴と併合されていることは記録上明らかである。)たという一事によつて、直ちに先行処分の取消しを求める訴はその利益を失なうものというのは相当ではなく、しかも各個の処分の取消しを求める請求のそれぞれについて判断を示すことは、行訴法三三条に規定する裁判の効力を明確にするうえにおいても有用であるから、本件において収用裁決の取消しを求める訴が提起され(しかもそれが前記のとおり併合され)たからといつて、これを理由に先行処分である事業認定及び土地細目の公告の取消しを求める訴につき、被控訴人の訴の利益を否定すべきいわれはないというべきである。
従つて、控訴人らのこの主張も理由がなく採用できない。

第二、本案について。
一、被控訴人主張の請求原因第一の事実はすべて当事者間に争いがない。
二、土地収用手続のように、一連の処分からなる手続を経てはじめて終局的な効果を生ずる場合には、先行の行政処分が適法に行なわれることが、後続する処分の要件をなし、先行処分に瑕疵があつて違法であるときは、後続の処分は当然に違法となるものというべきであるから、本件においては、最も先行する行政処分である本件事業認定について、まず判断するのが相当である。
そうして、被控訴人は原審及び当審において本件事業認定の違法事由として種々の主張をしているが、そのうち「本件事業計画は、土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものとはいいがたいから、本件事業認定は、土地収用法第二条、第二〇条第三号に違反する。」との主張が最も基本的な違法事由の主張と考えられるので、当裁判所はまずこの主張について判断することとする。
ところで、土地収用法は「公共の利益の増進と私有財産一の調整をはかり、もつて国土の適正且つ合理的な利用」を目的とする(同法一条参照)ものであるが、この法の目的に照らして考えると、同法二〇条三号所定の「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること」という要件は、その土地がその事業の用に供されることによつて得らるべき公共の利益と、その土地がその事業の用に供されることによつて失なわれる利益(この利益は私的なもののみならず、時としては公共の利益をも含むものである。)とを比較衡量した結果前者が後者に優越すると認められる場合に存在するものであると解するのが相当である。そうして、控訴人建設大臣の、この要件の存否についての判断は、具体的には本件事業認定にかかる事業計画の内容、右事業計画が達成されることによつてもたらされるべき公共の利益、右事業計画策定及び本件事業認定に至るまでの経緯、右事業計画において収用の対象とされている本件土地の状況、その有する私的ないし公共的価値等の諸要素、諸価値の比較衡量に基づく総合判断として行なわるべきものと考えられるので、以下これらの点について順次検討を加える。
1、まず本件事業計画の内容であるが、この点について当裁判所が認定するところは、原判決が五六丁裏九行目かち五八丁表三行目までに説示するところと同一であるから、これを引用する。
2、それでは、この事業計画の実施がどのような公共の利益をもたらすべきものであろうか。
(一) 成立に争いのない乙第一号証の一、二によると、本件事業認定にあたり起業者栃木県知事は、控訴人建設大臣に提出した事業認定申請書及びこれに添付の事業計画書において、「本件土地付近は、日光国立公園の入口に位置し、近時、観光施設が整備されて交通量が急激に増大したうえに、県境金精有料道路の開通等による奥地資源の開発および東京オリンピツクの開催とあいまつて、ますます交通量が増加することが予想される。しかるに、本件土地付近の道幅は五・七メートルと狭少であるうえ、加えて線形が悪く、歩車道の区別のない混合交通の状態にあるため、交通の支障は著しく、観光は光の大ネツクとなつている。そこで、今回、本件事業計画によつて該道路が拡幅されれば、これによつて一日一五、八〇〇台の自動車交通が可能となり、歩道の設置による混合交通の解消・事故の防止・所要時間の短縮等、産業経済上並びに観光上受ける利益は極めて大なるものがある。」と述べていることが認められるが、これによれば起業者県知事が本件事業によつて意図したところは、現在及び将来の交通量増加に対処して、交通渋滞を緩和し、交通の安全と人的物的損害の防止をはかるため、本件道路を拡幅しようとするにあることが明らかである。
(二) そうして、本件事業計画が果して起業者が意図したような必要性及び公共性を持つているかどうかについての当裁判所の認定判断は、原判決が五九丁表一行目から六七丁裏六行目までに説示するところと同一である(なお、当審における検証の結果はこの認定判断をますます強固ならしめるものである。)から、これを引用する。
3、つぎに本件事業計画策定及び本件事業認定に至るまでの経緯であるが、この点についての当裁判所の認定は、左記のとおり一部付加訂正するほかは、原判決が六七丁裏七行目から七四丁表八行目まで同上、四一四頁八行目から四一八頁一五行目まで)に認定するところと同一であるから、これを引用する(なお、上記引用にかかる部分中に、「前記認定」とか「前述の」とあるのは、いずれも、前記2(二)において引用にかかる部分を指すものである。)。
原判決六九丁表四行目から同丁裏四行目までを次のとおりあらためる。
「ところでで昭和二九年に至り、太郎杉を含む杉群の一部を伐採して道路を拡幅し、軌道をつけかえることが再び計画、提唱され、同年七月二三日被控訴人、日光市、東武鉄道等関係者の間に、杉群の伐採、道路の拡幅等に関し覚書(乙第四号証の一、二)が作成され、被控訴人を代表して宮司Aもこれに調印したが、その後被控訴人東照宮においては意をひるがえし、文部省、厚生省等に対し陳情書を提出して、右覚書による地形変更に反対するに至つた。」
4、最後に本件土地の状況、その有する価値ないし利益について検討する。
(一) 本件土地が、昭和九年一二月四日、内務省告示第五六九号によつて日光国立公園に指定され、かつ、昭和二八年一二月二二日、厚生省告示第三九四号をもつて、当時の国立公園法第八条の二第一項により、国立公園日光山内特別保護地区に指定された区域の一部に属していることは、当事者間に争いがない。そうして右の地区は、自然公園法附則3、4、5項により現行の自然公園法に基いて指定された国立公園日光山内特別保護地区とみなされるものであるが、成立に争いのない甲第一三号証によると日光山内特別保護地区は、「東照宮・二荒山神社本宮および別宮・輪王寺・輪王寺大猷院霊廟の各境内および神橋並びに背後の森林一帯」をその区域とするものであり、かかる区域を特別保護地区に指定した理由は、「本地区は、東照宮・二荒山神社本宮および別宮・輪王寺・大猷院霊廟・神橋等を含む一帯で、比較的狭い自然の地形に制約されながらも、地形を巧みに利用し、江戸時代初期の文化の精粋を集めて豪華絢爛たる建造物群を建設して、大自然と人工とを混然一体とせしめた稀にみる地区であり、従つて、万民偕楽の地として、大いに世人に親しまれて国立公園利用上重要なものであり、又、建築・美術・工芸等学術上からも永久に保存保護されなければならない地区である。」からであると認められる。ところで、自然公園法によると、国立公園とは、「わが国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地であつて、厚生大臣が自然公園審議会の意見を聞いて指定するもの」をいい(同法二条二号)、厚生大臣は、「国立公園の風致を維持するため、公園計画に基いて、その区域内に特別地域を指定することができ」(同法一七条一項)、さらに、「国立公園の景観を維持するため、特に必要があるときは、公園計画に基いて、特別地域内に特別保護地区を指定することができる」(同法一八条一項)とされているが、これによれば、特別保護地区とは、わが国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地の中から、特に風致、景観を維持する必要があるとして指定された地区であるというべきである。そうして成立に争いのない甲第九号証(厚生省国立公園部作成にかかるパンフレツト)によると、特別保護地区の概念および所管行政庁におけるその取扱方針について、つぎのように述べられていることが認められる。すなわち、「特別保護地区は、国立公園の主眼とする自然風景保護の観点から、自然公園区域内の極めて限定された最高の素質を保有する部分において、最も厳正な保存を図るため、必要な措置を講ずべき地区であり、国立公園のエツセンスともいうべき部分である。従つて、特別保護地区は、国立公園区域中でも、何らかの意味で、特に傑出した景観又は特異な事物を保有する部分であつて、それを構成する環境との一体性において保存を図るべきものである。さらにまた、長い歴史を有する我が国においては、貴重な人文的景観が国立公園を特徴づけている場合が多いので、その貴重なものについてはそれを抱擁する地域として保存を図らなければならないものがある。」従つて、「特別保護地区内においては、このような景観を維持するために、強い法的制限が課せられ」ており、その主旨とするところは、「特別地域の如く、産業開発等と協調的なものでなく、国民の貴重な文化財として、限られた優れた自然景観を、人為的作為を加えることなく、厳正に原状を保護保存すること・・・・即ち、可及的自然の推移にまかせて、人為的な作為による改変を施さないもので、従つて、森林の経済的経営を行なわず、鉱業および水力発電の開発並びに開拓を実施しないことは勿論、その他原状を改変する行為はさ細なものであつても、極力認めない方針をとる。」と述べられている。
(二) そうして本件土地付近の人文、景観及び本件土地付近に存する史実、伝説についての当裁判所の認定は、原判決が七七丁裏五行目から八〇丁裏一〇行目までに説示するとおりである(なお、当審における証人B、同C、同Dの各証言はいまだこの認定を左右するに足るものではない。)から、これを引用する。
つぎに、日光杉並木街道が特別史蹟及び特別天然記念物に指定されたいきさつは、原判決が八一丁表二行目から同丁裏八行目までに認定するとおりであつて、当裁判所もこれを引用するが、本件土地上の太郎杉を含む杉群が右の指定の対象に含まれていないことは弁論の全趣旨によつて明らかである。
しかし、右引用にかかる部分に掲記の各証拠(原判決八一丁表二行目から四行目に記載のもの。)に弁論の全趣旨を総合すると、本件土地上に成育する一五本の巨杉群は、いずれも本件道路に沿つてほぼ並列的に成育し、かつ、右は、本件土地の西側に接する東照宮表参道の両側に同様に並列的に成育している巨杉群に連なつていること、本件土地の東側には、日光杉並木街道寄進の碑が建立されており、同碑によると、右杉並木は日光山山菅橋(即ち神橋)付近から植栽されていることがうかがわれ、これらの事実に前記日光杉並木街道の歴史を総合して判断すれば、本件土地上に成育する巨杉群は、日光杉並木街道のそれと時を同じくして植栽されたもの(但し太郎杉についてはそれ以前から成育していたものとみるべきである。)であつて、日光杉並木街道の出発点にあたるとする見解もそれ相応の理由があるものというべきであり、仮りにこの見解が厳密な歴史的、学術的考証にたえるものではないとしても、少なくとも一般国民の意識の上では、その史的・文化的価値の点で、特別史跡・特別天然記念物としての日光杉並木街道のそれと同じ程度の価値を有するものと評価されていると認めることができる。

三、以上認定の事実を基礎として本件事業計画が土地収用法二〇条三号にいう「土地の適正且つ合理的な利用に寄与するもの」と認められるべきかどうかについての、控訴人建設大臣の判断の適否につき考察する。
控訴人建設大臣が、この点の判断をするについて、或る範囲において裁量判断の余地が認めらるべきことは、当裁判所もこれを認めるに吝かではないしかし、この点の判断が前認定のような諸要素、諸価値の比較考量に基づき行なわるべきものである以上、同控訴人がこの点の判断をするにあたり、本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当、安易に軽視し、その結果当然尽すべき考慮を尽さず、または本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れもしくは本来過大に評価す、べきでない事項を過重に評価し、これらのことにより同控訴人のこの点に関する判断が左右されたものと認められる場合には、同控訴人の右判断は、とりもなおさず裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして、違法となるものと解するのが相当である。この見地から考えてみる。

1、既に認定したとおり、本件事業計画は、計画策定当時存在し、かつ将来も存続すると予測される交通量の増加に対処するため、国道一二〇号の本件事業計画にかかる部分(以下本件道路という。)を拡幅することを目的とするものであるが、この計画実現の暁においては、本件道路付近における交通渋滞が緩和され、交通の安全と人的物的な損害の防止がはかられ得るものと認められるから、本件事業計画がそれ自体公共性を有していることは明らかである。
しかし、他方、本件土地付近は、国の重要文化財たる朱塗の神橋および御旅所の社等の人工美と、これをとりまく鬱蒼たる巨杉群や闊葉樹林帯および大谷川の清流等の自然美とが、渾然一体となつて作り出す荘重・優美な景観の地として、国立公園のエツセンスともいうべき特別保護地区に指定された地域に属するうえ、この土地付近は、日光発祥の地としての史実・伝説を有し、宗教的にも由緒深い地域であるのみならず、太郎杉を初めとする本件土地上の巨杉群は、特別史跡・特別天然記念物として指定されている日光杉並木街道のそれと同じ程度の文化的価値を有するものと一般国民に意識され評価されていることはさきに認定したとおりである。かように本件土地付近が国立公園区域内の特別保護地区に指定されている趣旨から考えても、その風致・景観は、国民にとつて貴重な文化的財産として、自然の推移による場合以外は、現状のままの状態が維持・保存さるべきであるとの見地の下に、最も厳正に現状の保護・保全が図らるべきことは当然である。しかも、本件土地付近は、かような景観・風致上の価値に加えて、前述のような宗教的・歴史的・学術的価値をも同時に併有しており、それだけに、かけがいのない高度の文化価値を有しているものというべきである。そうして、このような文化的価値は、長い自然的、時間的推移を経て初めて作り出されるものであり、一たび入為的な作為が加えられれば、人間の創造力のみによつては、二度と元に復することは事実上不可能であることにかんがみれば、本件土地の所有権こそ被控訴人の私有に属するとはいえ、その景観的・風致的・宗教的・歴史的諸価値は、国民が等しく共有すべき文化的財産として、将来にわたり、長くその維持、保存が図らるべぎものと解するのが相当である。
さらにそればかりでなく、本件土地付近は、国民憩いの場所ともいうべき日光国立公園の、いわば表玄関にあたる地域であつて、自然環境保全の見地から考えても、また観光資源保全の見地から考えても、できるかぎり静かな、自然のままの環境が保全さるべきことが望ましいことも、いうまでもないところである。
ところが、一旦、本件事業計画が実施されると、神橋正面に位置する丘陵部は相当程度削りとられ、これにあわせて、同地上に成育する太郎杉を初めとする一五本の巨杉群は伐採され、蛇王権現はその敷地を後方(北方)に後退させられることを余儀なくせられ、その跡地には、高さ一二メートルおよび同五メートルの二段の石垣が長さ約四〇メートルにわたつて構築され、巨杉群にとり囲まれていた御旅所の社も、前面の巨杉群が伐採される結果、直接にその姿を表わすに至り、かくては、本件土地付近の有する前記景観は著しく損われ、日光発祥の地としての史実・伝説を有する土地の地形は著しく変更されることは明らかである。もつとも、本件事業計画によると、工事後所要の修景がなされることになつてはいるが(修景計画とその内容については、原判決八九丁表四行目から同丁裏九行目までの認定をここに引用する。)、しかしその修景というのも所詮は人工にすぎないから、一旦生じた前記地形の変更や風致景観への影響を完全に消去し得るものとは認め難いところである。
そればかりではなく、本件道路の拡幅に伴なう自動車交通量の増加が環境の静謐を害し、必然的に、その荒廃、破壊をもたらすことも、当然、予測しうるところである。
2、してみると、控訴人建設大臣において、本件事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するといろ土地収用法二〇条三号所定の要件をみたすものと判断するためには、単に本件計画が前記のとおり本件国道一一九号および一二〇号の交通量増加に対処することを目的とする点において公共性を有するというだけでは足りず、それに加えて、本件計画がどうしてもそれによらざるを得ないと判断し得るだけの必要性、換言すれば、本件土地付近の有する前記のような景観、風致、文化的諸価値を犠牲にしてもなお本件計画を実施しなければならない必要性、ないしは環境の荒廃、破壊をかえりみず右計画を強行しなければならない必要性があることが肯定されなければならないというべきである。けだし、前記のようなかけがいのない景観、風致、文化的諸価値ないし環境の保全の要請は、国民が健康で文化的な生活を営む条件にかかわるものとして、行政の上においても、最大限度に尊重さるべきものであるからである。
ところが、本来、道路というものは、人間がその必要に応じて、自からの創造力によつて建設するものであるから、原則として、「費用と時間」をかけることによつて、「何時でも何処にでも」これを建設ずることは可能であり、従つて、それは代替性を有しているということができる。現に、起業者栃木県知事が、本件事業計画を立案するに際しては、右案(A案)の外に、B案・C案およびD案についてその得失を比較し、結局、事業費が最も安く、かつ工期が最も短くてすむうえに、工事が簡単であるとして、本件事業計画案(A案)を採用したものであることは、控訴人等の主張および前記認定に照らして明らかであり、このことは、本弁事業計画以外にも、より以上の時間と費用をかけることによつて、本件土地のもつ前記の諸価値を毀損することなく、その必要を満すに足りる道路を建設することが可能であることを示すものである。
もとより、これにかけるべき費用が無制限でありうるはずはなく、そこには、財源的におのずから一定の制約があることは当然であり、また時間的要素もまつたく無視さるべきではあるまい。しかし、起業者の算定によれば、右四案のうちで、最も事業費を要するのはC案の一三億五、一〇〇万円であり、右は、本件事業に要する四、三〇〇万円の約三一・四倍に相当するところ、本件土地の有する前述のような文化的価値の保全のために、いくばくの費用が支出さるべきかは、本来、国民経済的観点から考慮すべきものであることを考えれば、右一三億円余りという金額は決して高価とは解されず、有料道路としてこれを建設することの可能性を考慮に容れれば、なおさら、経済的理由は、A案(本件事業計画)の実施を必要、やむをえないとすることの理由となるものではない。
また、本件土地付近の有する前記のようなかけがいのない諸価値ないしは環境を保全するため適切、抜本的な対策を講ずるについて、数年ないし仮りに一〇年程度の日子を要するとしても、それはまた、やむをえないところというべぎであり、その間交通安全のため差し迫つた対策が必要であるというならば、交通制限の実施もしくは被控訴人提案の桟道(歩行者用の、日光山内の一部を通り抜ける通路、甲第四六号証の一ないし七参照。)の仮設等の方策により対処するこども不可能とは考えられない。
控訴人らは、なお、C案に、大谷川右岸の景観を破壊する点でも難点がある上に、その実施上過去において既に実施中の都市計画路線の拡幅を必要とするため社会的影響が大きいこと、有料道路とすべき区間が短かいため有料道路としては採算がとれないこと等の理由からこれを実現することは不可能である、と主張する。しかし、仮りにそうだとしても、C案と同様の効用をもつバイパスの路線としては、C案が唯一のものとは考えられず、これと別個の路線を考えることによつて、右のような難点を解決することは、決して不可能ではないと考えられる。
いずれにしても、本件土地付近の有するかけがいのない前記諸価値ないし環境の保全の要請が行政の上においても最大限度に尊重さるべきものであるとの見地に立つて考えれば、A案以外の前記諸案に、それぞれ控訴人ら主張のような難点があるということだけで、ただちにA案(本件事業計画)の実施を必要、やむをえないものとすることは相当でなく、その実施を必要、やむをえないものとする起業者栃木県知事の見解を是認する控訴人建設大臣の判断は、ひつきよう、本件土地付近の有するかけがいのない諸価値ないし環境の保全という本来最も重視すべきことがらを不当、安易に軽視し、その結果、本件道路がかかえている交通事情を解決するための手段、方法の探究において、尽すべき考慮を尽さなかつたという点で、その裁量判断の方法ないし過程に過誤があつたものというべきである。

3、控訴人らは、更に、国道一一九号および一二〇号(以下現道という。)を利用する自動車交通量の四七パーセントは日光山内の社寺および神橋め観光を目的とする車両ならびに本件道路を往復する業務用車両等であり、これらの自動車交通量はなお増加の傾向をたどつているので、仮りにC案その他のバイパスが建設されたとしても、本件事業計画にかかる拡幅事業の必要性は失なわれない、とも主張する。しかし、前述のように、本件土地付近は、日光国立公園の表玄関にあたり、本来、できるかぎり自然のままの静かな環境が保存さるべきことが望ましい場所であるから、本件土地付近を通過する現道は、日光奥地の産業開発ないしは観光開発を目的とする道路路線としては、もともと、不適切なものであることは明らかである(前認定のように、昭和二九年八月一六日に開催された国立公園審議会の意見において、既に、このことが指摘されている。)。従つて、現道とは別個に日光奥地の産業開発ないしは観光開発の使命をもつ道路が建設さるべきことを前提とすれば(この前提に立つ場合には、現道は、主として、日光山内の社寺および神橋等の観光を目的とする道路としての性格を付与されることとなる。)、現道の拡幅事業が必要、やむをえないものとされるかどうかは、右使命をもつ道路が現道とは別個に建設さるべきかどうかということとにらみ合わせて、かつ、本件土地付近のもつかけがいのない諸価値ないし環境保全の要請が最大限度に尊重さるべきものであるとの見地において、あらためて検討さるべきこととなるのは当然であり、そうなれば、本件土地付近については自動車交通を制限もしくは禁止し、これを遊歩道とすべきであるとの見解が有力となるべきことも、当然、予測されるところである(前記国立公園審議会の意見においても、この見解がとられている。)。けだし、現道が日光山内の社寺、神橋等の観光を主目的とする道路であることを前提とすれば、観光目的のための道路の整備拡充のために、肝心の観光資源自体を破壊することの愚挙であることは、何人の目にも明らかであるからである。かように、日光奥地の産業開発ないし観光開発の使命をもつ道路が現道とは別個に建設さるべきことを前提として、現道拡幅事業の必要性の有無を考える場合と、現道が日光奥地に通ずる唯一の幹線道路であることを前提として右拡幅事業の必要性の有無を考える場合とでは、採らるべき結論が異なる可能性がある以上、控訴人建設大臣としては、本件事業認定をする際において、既に、関係行政庁とも十分協議した上、近い将来日光奥地の産業開発ないし観光開発の使命をもつ道路が現道とは別個に建設さるべきかどうかにつき明確な方針、計画を策定した上で、この計画とにらみ合わせて、かつ、本件土地のもつかけがいのない前記諸価値ないし環境の保全の要請を最大限度に尊重する見地に立つて、本件事業計画の必要性の有無を十分慎重に判断すべきであつたといわねばならない。してみると、控訴人建設大臣がこの点につきなんら明確な方針、計画をもつことなく、漫然、日光奥地に通ずる道路が別個に建設さるべきかどうかにかかわらず現道拡幅事業の必要性が是認さるべきものと判断したのは、とりもなおさず、本件土地付近のもつ前記のようなかけがいのない諸価値ないしは環境の保全という本来最も重視すべきことがらを、不当、安易に軽視し、その結果、右諸価値ないし環境の保全の要請と自動車道路の整備拡充の必要性とをいかにして調和さすべきかについての手段、方法の探究において、当然尽すべき考慮を付さなかつたという点で、その裁量判断の過程に過誤があつたものと認めざるをえない。なお、被控訴人は、本件処分後である昭和四五年五月一日、日本道路公団において「日光・宇都宮道路」(東北縦貫道路の宇都宮インターチエンジを起点として日光市清滝桜が丘町を終点とする有料道路)の建設計画(昭和五〇年完成予定)を発表し(以上の事実は、控訴人らにおいて完成予定日を昭和五一年三月三一日と主張するほかは、当事者間に争いがないところである。)、右計画はその後年を追うて着々実行、進捗されている(この事実は、控訴人らにおいて明らかに争わないところである。)ところ、右「日光・宇都宮道路」はC案と同様の効用をもつものであるから、右道路計画の実現が確定的となつた現在、A案(すなわち本件事業計画)を固持する根拠は失なわれた、と主張する。
しかし、行政処分の適否は、処分当時を基準として判定さるべきものである(昭和二七年一月二五日最高裁第二小法廷判決、民集六巻一号二二頁、昭和三五年九月一五日同第一小法廷判決、民集一四巻一一号二一九〇頁等)から、被控訴人の右主張の趣旨が「『日光・宇都宮道路』の建設計画の確定という処分後の事情により控訴人建設大臣の本件事業認定処分が当然に違法となつた」、との趣旨であるならば、当裁判所はこの見解に左祖することができない。しかしながら、右の事情は、本件土地付近のもつかけがいのない文化的価値ないしは環境の保全の要請と自動車道路の整備拡充の必要性とを調和させる手段、方法が決して前記諸案に限定されるものでないことを示すとともに、控訴人建設大臣においても、本件処分当時において、既に、数年ないし一〇年程度の将来において「日光・宇都宮道路」のような道路の建設(少くともその計画の樹立)が必要となるべきことにつき明確な見透しと方針を定め、この計画との関連において現道拡幅事業の必要性の有無を判断すべきものであつたことを示唆するものというべきであり、その意味において、右の事情は、本項及び前項の判断を支持する間接事情と目することができる。

4、既に認定したとおり、起業者栃木県知事が本件事業認定の申請にあたり、右事業計画にかかる拡幅事業の必要性を理由づける事由の一つとして、オリンピツクの開催に伴なう交通量増加の予想ということを挙げていることと、控訴人建設大臣が右必要性を理由づける事由の一つとして前記A案(本件事業計画)が工期が最も短かいことを主張していること等から推して、オリンピツクの開催に伴なう外人観光客による自動車交通量増加の予想ということが、控訴人建設大臣が本件事業計画をもつて土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものと判断するにつき、その一つの原因となつたものと推認することができる。
しかし、本件土地付近のもつ前記のようなかけがいのない諸価値ないしはそのもつすぐれた環境が国民共有の財産として、長く将来にわたり保全さるべきことにかんがみれば、オリンピツクの開催に伴なう一時的な自動車交通量増加の予想というような、目前、臨時の事象は、本件事業計画が土地の利用上適正かつ合理的なものと認めらるべきかどうかの判断にあたつては、本来、考慮に容れるべきことがらではなかつたというべきである。

5、更に、本件事業計画の確定に先立つて昭和三九年三月一九日に開催された自然公園審議会において、本件道路の拡幅のために、本件土地付近の形質、風致、景観等の現状に変更を加えることの可否が審議され、杉等の伐採は最少限度に止めること、所要の修景を施すこと等の条件の下にこれが可決されたことは既に認定したとおりであり、当審証人Dの証言及び弁論の全趣旨によると、右審議会においても前記AないしDの四案の利害得失が検討されたうえ、A案が採られるに至つたことが認められる。しかし、右決議のなされた当時においては、既に認定したとおり、本件土地付近は前年である昭和三八年三月の暴風による倒木等の被害がなお癒えておらず、景観は荒廃し、本件土地上の杉群の樹勢もおとろえていた状況にあつたのであるが、この状況を現認した審議会の構成員の大多数によつて(審議会の委員が本件土地付近を見分したことは前示D証人の証言からうかがい知られる。)、本件土地付近の状況は将来もおそらく右のような状態であらうと推測されたことが審議会の前記結論、ひいてはこの結論を尊重してなされたものと認められる控訴人建設大臣の判断にかなりの影響を及ぼしたものと推認することができる。しかし、原審及び当審における検証の結果によれば、この推測は必ずしも的中していたとは考えられないこと及び本件土地付近のもつ前記のようなかけがいのない諸価値ないしはそのすぐれた環境ができるかぎり自然のままで、長く将来にわたり保全さるべきことにかんがみれば、暴風による倒木の可能性(これに伴なう交通障害の可能性)、樹勢の衰ろえの可能性というようなことがらは、本件事業計画が土地の利用上適正かつ合理的なものと認められるべきかどうかの判断にあたつては本来過重に評価すべきものではなかつたというべきである。従つて、本件土地付近の現状変更につき自然公園審議会の答申に基づく厚生大臣の承認があつたということだけでは、本件事業認定に関する控訴人建設大臣の裁量判断になんらの過誤がなかつたものとすることはできない。

6、以上1ないし5の判断を総合していえば、本件事業計画をもつて、土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものと認めらるべきであるとする控訴人建設大臣の判断は、この判断にあたつて、本件土地付近のもつかけがいのない文化的諸価値ないしは環境の保全という本来最も重視すべきことがらを不当、安易に軽視し、その結果右保全の要請と自動車道路の整備拡充の必要性とをいかにして調和させるべきかの手段、方法の探究において、当然尽すべき考慮を尽さず(1ないし3)、また、この点の判断につき、オリンピツクの開催に伴なう自動車交通量増加の予想という、本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れ(4)、かつ、暴風による倒木(これによる交通障害)の可能性および樹勢の衰えの可能性という、本来過大に評価すべきでないことがらを過重に評価した(5)点で、その裁量判断の方法ないし過程に過誤がありこれらの過誤がなく、これらの諸点につき正しい判断がなされたとすれば、控訴人建設大臣の判断は異なつた結論に到達する可能性があつたものと認められる。してみれば、本件事業計画をもつて土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものと認められるべきであるとする控訴人建設大臣の判断は、その裁量判断の方法ないし過程に過誤があるものとして、違法なものと認めざるをえない

四、以上のとおり、控訴人建設大臣のした本件事業認定は土地収用法二〇条三号の要件をみたしていないという違法があるというべきであるから、被控訴人主張の、その余の違法事由についてさらに立ち入つて判断するまでもなく、すでにこの点において本件事業認定処分は取消を免れない。
そうして、前記二において述べたとおり、一連の手続をなす土地収用手続における先行の処分である本件事業認定が、前記のとおり違法であつて取消さるべきである以上、後続の処介である本件土地細目の公告及び収用裁決は当然に違法であつて、これまた取消を免れない。
第三、結び
叙上のとおり、本件各処分の取り消しを求める被控訴人の本訴請求はすべて理由があるから、これらを認容した原判決は相当であつて、本件各控訴はいずれも理由がない。よつて、民訴法三八四条、九五条、九三条、八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。
第3民事部
(裁判官 白石健三 裁判官 杉山孝 裁判官 川上泉)

+判例(S48.9.14)地方公務員分限処分事件
理由
上告代理人田中真次の上告理由、同堀家嘉郎、同中場嘉久二の上告理由および同真野毅、同堀家嘉郎の上告理由について。
論旨は、まず、本件降任処分を不適法であるとした原判決の判断には、降任処分につき任命権者に与えられた裁量権の範囲および地方公務員法二八条一項三号の定める降任処分の要件に関して法令の解釈を誤つた違法がある、と主張する。
一 おもうに、地方公務員法二八条所定の分限制度は、公務の能率の維持およびその適正な運営の確保の目的から同条に定めるような処分権限を任命権者に認めるとともに、他方、公務員の身分保障の見地からその処分権限を発動しうる場合を限定したものである。分限制度の右のような趣旨・目的に照らし、かつ、同条に掲げる処分事由が被処分者の行動、態度、性格、状態等に関する一定の評価を内容として定められていることを考慮するときは、同条に基づく分限処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められるけれども、もとよりその純然たる自由裁量に委ねられているものではなく、分限制度の上記目的と関係のない目的や動機に基づいて分限処分をすることが許されないのはもちろん、処分事由の有無の判断についても恣意にわたることを許されず、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断するとか、また、その判断が合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権の行使を誤つた違法のものであることを免れないというべきである。そして、任命権者の分限処分が、このような違法性を有するかどうかは、同法八条八項にいう法律問題として裁判所の審判に服すべきものであるとともに、裁判所の審査権はその範囲に限られ、このような違法の程度に至らない判断の当不当には及ばないといわなければならない。これを同法二八条一項三号所定の処分事由についてみるに、同号にいう「その職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因してその職務の円滑な遂行に支障があり、または支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうものと解されるが、この意味における適格性の有無は、当該職員の外部にあらわれた行動、態度に徴してこれを判断するほかはない。その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連づけてこれを評価すべく、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素をも考慮する必要があり、これら諸般の要素を総合的に検討したうえ、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連においてこれを判断しなければならないのである。そしてこの場合、ひとしく適格性の有無の判断であつても、分限処分が降任である場合と免職である場合とでは、前者がその職員が現に就いている特定の職についての適格性であるのに対し、後者の場合は、現に就いている職に限らず、転職の可能な他の職をも含めてこれらすべての職についての適格性である点において適格性の内容要素に相違があるのみならず、その結果においても、降任の場合は単に下位の職に降るにとどまるのに対し、免職の場合には公務員としての地位を失うという重大な結果になる点において大きな差異があることを考えれば、免職の場合における適格性の有無の判断については、特に厳密、慎重であることが要求されるのに対し、降任の場合における適格性の有無については、公務の能率の維持およびその適正な運営の確保の目的に照らして裁量的判断を加える余地を比較的広く認めても差支えないものと解される。

二 本件は、地方公務員法二八条一項三号の規定に該当するとして、被上告人を公立学校校長から公立学校教員教諭に降任した処分の取消訴訟であり、上告人は、被上告人が公立学校校長の職に必要な適格性を欠くことの徴表たる事実として数多くの事実を主張している。
ところが、原判決は、右上告人主張の諸事実については、必ずしも個々の事実関係の存否を確定することなく、右主張にあらわれた被上告人の一連の行為の背景をなす諸問題につき、その客観情勢の推移、被上告人の置かれた立場およびそのとつた見解、態度等の概略を認定したうえ、かりに被上告人に上告人主張のような具体的言動(その一部については、原判決認定の限度で一部否定ないし修正された範囲内における言動)があつたとしても、右各事実はいずれも被上告人が校長の職に必要な適格性を欠くことの徴表であるとは認めがたいとし、結局、総合的見地から考察して、被上告人には包容力、協調性において若干欠ける点があつたのではないかと疑う余地は存するとしても、それだけで校長としての適格性なしと判定することは許しがたいものであるとし、本件降任処分を取り消すべきものとしている。

三 しかしながら、原審の右認定判断は、その認定事実に対する独自の解釈と見解のもとに上告人の具体的な各主張事実を観察評価したうえ、被上告人の適格性の有無について一定の結論を下し、これと異なる上告人の判断を裁量権の行使を誤つた違法のものと断じているのであつて、原審の判断には、上告人が本件降任処分の事由の存否について上記のような裁量的判断権を有することを無視したか、ないしは裁判所のなすべき審査判断の範囲を超えて処分庁の裁量の当否に立ち入つた違法があるといわなければならない。すなわち、
(一) 学校統合問題につき、原判決の確定するところによれば、右統合は、長束小学校の廃校を招来するものであつて、同校の児童、その父兄の利害に直接関係するところから、右統合につき町議会の議決を経たのちにおいて統合賛成派と統合反対派の対立はなお激しく、それは単なる意見の対立にとどまらず、両者互いに相手方の見解、行動を非難、誹謗し合うという醜い対立を生むにいたつたというのである。
町立小学校の校長は、当該町区域在住の児童に対し義務教育たる初等普通教育を施すことを目的とする教育機関である小学校において、校務を掌り、所属職員を監督する立場にある者であるから、右のような事態において、校長が、統合反対派に加担するような言動に出るときは、両派の対立の激化を助長し、児童、父兄等の校長および学校に対する信頼、所属職員の校長に対する信頼を大いに失墜させ、ひいては学校経営に重大な支障をきたす結果となることは、見易いところである。したがつて、このような場合に、長束小学校長の地位にある者が、教育上の見地から右統合に反対の見解をもつことはやむをえないことであり、また、立場上学校統合問題と無関係ではありえないとしても、右校長たる者は、行動、態度の上では校長としての品格と節度を保持すべきであつて、いやしくも校長たるの立場を利用して反対派に加担し、これに便宜を与えるものと認められるような行為に出るときは、校長たるの適格性に欠けるところがあるとの評価を免れないものといわなければならない。
しかして、この点に関しては、原判決の認定の限度で一部否定ないし修正された範囲において考えても、なお、相当程度、被上告人が、同校の所属職員に協力させ、同校の児童、施設、行事を利用して、統合反対のために便宜をはかつた事実が、上告人によつて主張されているのである。したがつて、右主張につき、認定しうる言動の程度、態様のいかんによつては、これを被上告人が校長たる適格性を欠くことの徴表であると評価しても、不相当であるとはいいえない場合があることは、否定しえないところである。
(二) 職員が、ある程度客観性、合理性の認められるその所信に従つて、あえて職務命令違反の行為に出たような場合には、それが直ちに持続性のあるその性格等に基因するものであるとはいいえないという意味において、右行為が懲戒事由とはなりえても、直ちにその職に必要な適格性を欠くことの徴表であるとはいいえない場合もありえよう。こうした見地からすれば、勤務評定問題につき原判決の確定する事実関係のもとにおいては、特に被上告人において、所属職員が人事上の不利益を受けることをおそれたこと、任命権者の人事管理上の支障を回避すべきものであると考えたこと等から、本来の義務履行に代わる措置を講じていることをも考慮した場合、勤務評定書の提出を多少遅延したこと自体をもつて直ちに被上告人が校長たる適格性を欠くことの徴表とみることは、あるいは相当でないといいうるかも知れない。
しかし、校長たる者は、管理者的職務を担当するのであるから、特に対人関係の処理については相手方に顕著な欠陥があるというような特段の事情がある場合は格別、自己と個人的、感情的には対立関係にある者との接触をも含めて、職務上予測されるあらゆる場面において、職務の円滑な遂行に支障をきたさない程度にこれを処理しうる能力が要求されるというべきであるところ、この点に関連するものとして上告人の主張する被上告人の言動は、それが対立関係にある者の交渉の場におけるものであることを考慮しても、なお、校長たるの職にある者の上司である町教育長に対する言動としては、粗暴、不遜、非礼にわたる点があり、そのうちには、ことさらにA教育長を困惑させる目的に出たものであることを疑わせるようなものもあるのであつて、右主張につき認定しうる言動の程度、態様のいかんによつては、これを被上告人が校長たる適格性を欠くことの徴表であると評価しても、不相当であるとはいいえない場合があることは、否定しえないところである。
(三) 原判決の確定する公立学校予算の執行の実情からすれば、予算の事前執行等をしたこと自体をもつて被上告人が校長たるの適格性を欠くことの徴表とみることはできないという余地はあるけれども、それが全体的な学校予算の不十分に由来するものであることから考えれば、同町内の他校との関連において、事前執行等による支出の予算規模に対して占める割合、あえて支出の事前執行等に出る必要性についての判断の当否といつた点において、上告人主張のような事実の存在は、事情によつては、企画力、協調性などの面から、なお、被上告人が校長たる適格性を欠くことの徴表であると評価しても、不相当であるとはいいえない場合があることは、否定しえないところである。
(四) 校長たるの職に適合する言動は、通常の場合においてのみ要求されるものではない。右三の(一)(二)で説示したところからすれば、被上告人の小学校長としての日常行動に関連して上告人の主張するところを、原判決説示のような理由によつて校長たるの適格性を欠くことの徴表と認めることはできないものと解することはできない。
(五) 本訴提起後の行為についての主張には、学校日誌の記載の抹消等が含まれており、行為の性質からすれば、原判決説示のように軽視してよいものではない。それは、本件降任処分後の行為ではあるけれども、右処分の事由は個々具体的の行為ではなく、その職に必要な適格性を欠くことであるから、少くとも、上告人主張の被上告人の各行為のうち右処分以前になされたものを不適格性の徴表とみうるか否かを判断するための資料となりうるものというべきである。
四 なお、被上告人が昭和二四年以来校長を勤めている者であることは、上告人も認めるところであり、被上告人が校長の職に必要な適格性を欠くことの徴表たる事実として上告人の主張する事実の大部分は学校統合問題が発生した昭和三二年以降の限られた時期に集中しているけれども、それだからといつて、直ちに、本件降任処分時において被上告人がその職に必要な適格性を欠いていたという事実が否定されるべきことになるわけではない。
結局、上告人主張の徴表たる事実を認めうる程度いかんによつては、本件降任処分を違法とはいいえないことになるのであるから、原判決には、法令の解釈を誤り、その結果審理を尽くさなかつた違法があつて、その違法が原判決に影響を及ぼすものであることは、明らかである。したがつて、論旨は、この点においてすでに理由がある。
五 以上の次第で、原判決は、その余の論旨について判断するまでもなく破棄を免れない。そして、本件は、さらに被上告人の本訴請求の当否について審理する必要があるので、本件を原審に差し戻すのが相当である。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小川信雄 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎)

+判例(H8.3.8)エホバ

+判例(H18.2.7)呉市公立高校施設使用不許可事件

+判例(H18.11.2)小田急訴訟本案判決
理由
上告代理人斉藤驍ほかの上告受理申立て理由(原告適格に係る所論に関する部分を除く。)について
第1 事案の概要等
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 建設大臣は、昭和39年12月16日付けで、旧都市計画法(大正8年法律第36号)3条に基づき、世田谷区喜多見町(喜多見駅付近)を起点とし、葛飾区上千葉町(綾瀬駅付近)を終点とする東京都市計画高速鉄道第9号線(昭和45年の都市計画の変更以降の名称は「東京都市計画都市高速鉄道第9号線」である。)に係る都市計画(以下「9号線都市計画」という。)を決定した。
(2) 被上告参加人は、9号線都市計画について、都市計画法(平成4年法律第82号による改正前のもの)21条2項において準用する同法18条1項に基づく変更を行い、平成5年2月1日付けで告示した(以下、この都市計画の変更を「平成5年決定」という。)。平成5年決定は、小田急小田原線(以下「小田急線」という。)の喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの区間(以下「本件区間」という。)について、成城学園前駅付近を掘割式とするほかは高架式を採用し、鉄道と交差する道路とを連続的に立体交差化することを内容とするものであり、小田急線の複々線化とあいまって、鉄道の利便性の向上及び混雑の緩和、踏切における渋滞の解消、一体的な街づくりの実現を図ることを目的とするものである。
(3) 平成5年決定がされた経緯等は、次のとおりである。
ア 東京都は、9号線都市計画に係る区間の一部である小田急線の喜多見駅から東北沢駅までの区間において、踏切の遮断による交通渋滞や市街地の分断により日常生活の快適性や安全性が阻害される一方、鉄道の車内混雑が深刻化しており、鉄道の輸送力が限界に達しているとして、上記区間の複々線化及び連続立体交差化に係る事業の必要性及び緊急性について検討するため、昭和62年度及び同63年度にわたり、建設省の定めた連続立体交差事業調査要綱(以下「本件要綱」という。)に基づく調査(以下「本件調査」という。)を実施した。
本件要綱は、連続立体交差事業調査において、鉄道等の基本設計に当たって数案を作成して比較評価を行うものとし、その評価に当たっては、経済性、施工の難易度、関連事業との整合性、事業効果、環境への影響等について比較するものとしている。
本件調査の結果、成城学園前駅付近については掘割式とする案が適切であるとされるとともに、環状8号線と環状7号線の間については、高架式とする案が、一部を地下式とする案に比べて、工期・工費の点で優れており、環境面では劣るものの、当該高架橋の高さが一般的なものであり、既存の側道の有効活用などでその影響を最小限とすることができるので、適切な案であるとされた。
なお、本件調査の結果、本件区間の東側に当たる環状7号線と東北沢駅の間(以下「下北沢区間」という。)の構造については、地表式、高架式、地下式のいずれの案にも問題があり、その決定に当たっては新たに検討する必要があるとされたが、平成5年決定に係る9号線都市計画においては、従前どおり地表式とされた。もっとも、その後、東京都の都市計画局長は、平成10年12月、都議会において、下北沢区間の線路の増加部分を地下式で整備する案を関係者で構成する検討会に提案して協議を進めている旨答弁し、東京都は、同13年4月、下北沢区間を地下式とする内容の計画素案を発表した。
イ 被上告参加人は、本件調査の結果を踏まえた上で、本件区間の構造について、〈1〉 嵩上式(高架式。ただし、成城学園前駅付近を一部掘割式とするもの。以下「本件高架式」という。)、〈2〉 嵩上式(一部掘割式)と地下式の併用(成城学園前駅付近から環状8号線付近までの間を嵩上式(一部掘割式)とし、環状8号線付近より東側を地下式とするもの)、〈3〉 地下式の三つの方式を想定した上で、計画的条件(踏切の除却の可否、駅の移動の有無等)、地形的条件(自然の地形等と鉄道の線形の関係)及び事業的条件(事業費の額)の三つの条件を設定して比較検討を行った。その結果、上記〈3〉の地下式を採用した場合、当時の都市計画で地表式とされていた下北沢区間に近接した本件区間の一部で踏切を解消することができなくなるほか、河川の下部を通るため深度が大きくなること等の問題があり、上記〈2〉の方式にも同様の問題があること、本件高架式の事業費が約1900億円と算定されたのに対し、上記〈3〉の地下式の事業費は、地下を2層として各層に2線を設置する方式(以下「2線2層方式」という。)の場合に約3000億円、地下を1層として4線を並列させる方式の場合に約3600億円と算定されたこと等から、被上告参加人は、本件高架式が上記の3条件のすべてにおいて他の方式よりも優れていると評価し、環境への影響、鉄道敷地の空間利用等の要素を考慮しても特段問題がないと判断して、これを本件区間の構造の案として採用することとした。
なお、上記の事業費の算定に当たっては、昭和63年以前に取得済みの用地に係る取得費は算入されておらず、高架下の利用等による鉄道事業者の受益分も考慮されていない。また、2線2層方式による地下式の事業費の算定に当たっては、シールド工法(トンネルの断面よりわずかに大きいシールドという強固な鋼製円筒状の外殻を推進させ、そのひ護の下で掘削等の作業を行いトンネルを築造する工法)による施工を本件区間全体にわたって行うことは前提とされていないが、被上告参加人は、途中の経堂駅において準急線と緩行線との乗換えを可能とするために、1層目にホーム2面及び線路数3線を有する駅部を設置することを想定しており、そのために必要なトンネルの幅は約30mであったところ、平成5年当時、このような幅のトンネルをシールド工法により施工することはできなかった。
ウ 上記のように本件高架式が案として選定された本件区間の複々線化に係る事業及び連続立体交差化に係る事業について、それぞれの事業の事業者であるA株式会社及び東京都は、東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成10年東京都条例第107号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づく環境影響評価に関する調査を行い、平成3年11月5日、環境影響評価書案(以下「本件評価書案」という。)を被上告参加人に提出した。本件評価書案によれば、本件高架式を前提として工事完了後の鉄道騒音について予測を行ったところ、地上1.2mの高さでの予測値は、高架橋端からの距離により現況値を上回る箇所も見られるが、高架橋端から6.25mの地点で現況値が82から93ホンのところ予測値が75から77ホンとされるなど、おおむね現況とほぼ同程度かこれを下回っているとされている。
本件評価書案に対し、被上告参加人は、鉄道騒音の予測位置を騒音に係る問題を最も生じやすい地点及び高さとすること、騒音防止対策の種類とその効果の程度を明らかにすること等の意見を述べ、これを受けて、東京都及びA株式会社は、予測地点の1箇所につき高架橋端から1.5mの地点における高さ別の鉄道騒音の予測に関する記載を付加した環境影響評価書(以下「本件評価書」という。)を同4年12月18日付けで作成し、被上告参加人に提出した。本件評価書によれば、上記地点における鉄道騒音の予測値は、地上10mから30mの高さで88ホン以上、地上15mの高さでは93ホンであるが、事業実施段階での騒音防止対策として、構造物の重量化、バラストマットの敷設、60kg/mレールの使用、吸音効果のある防音壁の設置等の対策を講じるとともに、干渉型の防音装置の設置についても検討し、騒音の低減に努めることとされ、これらによる騒音低減効果は、バラストマットの敷設により軌道中心から6.25mの地点で7ホン、60㎏/mレールの使用により現在の50㎏/mレールと比べて軌道中心から23mの地点で5ホン、吸音効果のある防音壁により防音壁だけの場合に比べ1ホン程度、防音壁に干渉型防音装置を設置した場合3ないし4ホンであるとされている。
以上の環境影響評価は、東京都環境影響評価技術指針が定める環境影響評価の手法を基本とし、一般に確立された科学的な評価方法に基づいて行われた。
なお、高架橋より高い地点での現実の騒音値は、線路部分において生じる騒音が走行する列車の車体に遮られることから、上記予測値のような実験値よりも低くなるとされている。また、平成5年決定当時の鉄道騒音に関する唯一の公的基準であった「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(昭和50年環境庁告示第46号)においては、騒音を測定する高さは地上1.2mとされていた。
一方、小田急線の沿線住民らは、小田急線による鉄道騒音等の被害について、平成4年5月7日、公害等調整委員会に対し、公害紛争処理法42条の12に基づく責任裁定を申請し、同委員会は、同10年7月24日、申請人の一部が受けた平成5年決定以前の騒音被害が受忍限度を超えることを前提として、A株式会社の損害賠償責任を認める旨の裁定をした。
エ 被上告参加人は、本件調査及び上記の環境影響評価を踏まえ、本件高架式を採用することが周辺地域の環境に与える影響の点でも特段問題がないと判断して、本件高架式を内容とする平成5年決定をした。
オ 東京都は、公害対策基本法19条に基づき、東京地域公害防止計画を定めていたところ、平成5年決定は、その目的、内容において同計画の妨げとなるものではなく、同計画に適合している。
(4) 建設大臣は、都市計画法(平成11年法律第160号による改正前のもの)59条2項に基づき、平成6年5月19日付けで、東京都に対し、平成5年決定により変更された9号線都市計画を基礎として、本件区間の連続立体交差化を内容とする別紙事業認可目録1記載の都市計画事業(以下「本件鉄道事業」という。)の認可(以下「本件鉄道事業認可」という。)をし、同6年6月3日付けでこれを告示した。
また、建設大臣は、世田谷区が同5年2月1日付けで告示した東京都市計画道路・区画街路都市高速鉄道第9号線付属街路第9号線及び第10号線に係る各都市計画を基礎として、同項に基づき、同6年5月19日付けで、東京都に対し、上記各付属街路の設置を内容とする別紙事業認可目録2及び3記載の各都市計画事業の認可(以下「本件各付属街路事業認可」という。)をし、同年6月3日付けでこれを告示した。上記各付属街路は、本件区間の連続立体交差化に当たり、環境に配慮して沿線の日照への影響を軽減すること等を目的として設置することとされたものである。
2 本件は、本件鉄道事業認可の前提となる都市計画に係る平成5年決定が、周辺地域の環境に与える影響、事業費の多寡等の面で優れた代替案である地下式を理由もなく不採用とし、いずれの面でも地下式に劣り、周辺住民に騒音等で多大の被害を与える本件高架式を採用した点で違法であるなどとして、建設大臣の事務承継者である被上告人に対し、上告人らが本件鉄道事業認可の、別紙上告人目録2記載の上告人らが別紙事業認可目録2記載の認可の、別紙上告人目録3記載の上告人らが別紙事業認可目録3記載の認可の、各取消しを求めている事案である。

第2 本件鉄道事業認可の取消請求について
1 平成5年決定が本件高架式を採用したことによる本件鉄道事業認可の違法の有無について
(1) 都市計画法(平成4年法律第82号による改正前のもの。以下同じ。)は、都市計画事業認可の基準の一つとして、事業の内容が都市計画に適合することを掲げているから(61条)、都市計画事業認可が適法であるためには、その前提となる都市計画が適法であることが必要である。
(2) 都市計画法は、都市計画について、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条)、都市施設の整備に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを一体的かつ総合的に定めなければならず、当該都市について公害防止計画が定められているときは当該公害防止計画に適合したものでなければならないとし(13条1項柱書き)、都市施設について、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めることとしているところ(同項5号)、このような基準に従って都市施設の規模、配置等に関する事項を定めるに当たっては、当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると、このような判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきであって、裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。

(3) 以上の見地に立って検討するに、前記事実関係の下においては、平成5年決定が本件高架式を採用した点において裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとはいえないと解される。その理由は以下のとおりである。
ア 被上告参加人は、本件調査の結果を踏まえ、計画的条件、地形的条件及び事業的条件を設定し、本件区間の構造について三つの方式を比較検討した結果、本件高架式がいずれの条件においても優れていると評価し、本件条例に基づく環境影響評価の結果等を踏まえ、周辺地域の環境に与える影響の点でも特段問題がないとして、本件高架式を内容とする平成5年決定をしたものである。
イ そこで、上記の判断における環境への影響に対する考慮について検討する。
(ア) 前記のとおり、都市計画法は、都市施設に関する都市計画について、健康で文化的な都市生活の確保という基本理念の下で、公害防止計画に適合するとともに、適切な規模で必要な位置に配置することにより良好な都市環境を保持するように定めることとしている。公害防止計画は、環境基本法により廃止された公害対策基本法の19条に基づき作成されるものであるが、相当範囲にわたる騒音、振動等により人の健康又は生活環境に係る著しい被害が発生するおそれのある地域について、その発生を防止するために総合的な施策を講ずることを目的とするものであるということができる。また、本件条例は、環境に著しい影響を及ぼすおそれのある一定の事業を実施しようとする事業者が、その実施に際し、公害の防止、自然環境及び歴史的環境の保全、景観の保持等(以下「環境の保全」という。)について適正な配慮をするため、当該事業に係る環境影響評価書を作成し、被上告参加人に提出しなければならないとし(7条、23条)、被上告参加人は、都市計画の決定又は変更の権限を有する者にその写しを送付し(24条2項)、当該事業に係る都市計画の決定又は変更を行うに際してその内容について十分配慮するよう要請しなければならないとしている(25条)。そうすると、本件鉄道事業認可の前提となる都市計画に係る平成5年決定を行うに当たっては、本件区間の連続立体交差化事業に伴う騒音、振動等によって、事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境に係る著しい被害が発生することのないよう、被害の防止を図り、東京都において定められていた公害防止計画である東京地域公害防止計画に適合させるとともに、本件評価書の内容について十分配慮し、環境の保全について適正な配慮をすることが要請されると解される。本件の具体的な事情としても、公害等調整委員会が、裁定自体は平成10年であるものの、同4年にされた裁定の申請に対して、小田急線の沿線住民の一部につき平成5年決定以前の騒音被害が受忍限度を超えるものと判定しているのであるから、平成5年決定において本件区間の構造を定めるに当たっては、鉄道騒音に対して十分な考慮をすることが要請されていたというべきである。
(イ) この点に関し、前記事実関係によれば、〈1〉 本件区間の複々線化及び連続立体交差化に係る事業について、本件調査において工期・工費の点とともに環境面も考慮に入れた上で環状8号線と環状7号線の間を高架式とする案が適切とされたこと、〈2〉 本件高架式を採用することによる環境への影響について、本件条例に基づく環境影響評価が行われたこと、〈3〉 上記の環境影響評価は、東京都環境影響評価技術指針が定める環境影響評価の手法を基本とし、一般に確立された科学的な評価方法に基づき行われたこと、〈4〉 本件評価書においては、工事完了後における地上1.2mの高さの鉄道騒音の予測値が一部を除いておおむね現況とほぼ同程度かこれを下回り、高架橋端から1.5mの地点における地上10mないし30mの高さの鉄道騒音の予測値が88ホン以上などとされているものの、鉄道に極めて近接した地点での値にすぎず、また、上記の高さにおける現実の騒音は、走行する列車の車体に遮られ、その値は、上記予測値よりも低くなること、〈5〉 本件評価書においても、騒音防止対策として、構造物の重量化、バラストマットの敷設、60kg/mレールの使用、吸音効果のある防音壁の設置等の対策を講じるとともに、干渉型防音装置の設置も検討することとされ、現実の鉄道騒音の値は、これらの騒音対策を講じること等により相当程度低減するものと見込まれるとされていること、〈6〉 平成5年決定当時の鉄道騒音に関する公的基準は地上1.2mの高さで騒音を測定するものにとどまっていたこと、〈7〉 被上告参加人は、本件調査及び上記の環境影響評価を踏まえ、本件高架式を採用することが周辺地域の環境に与える影響の点でも特段問題がないと判断して、平成5年決定をしたこと、〈8〉 平成5年決定は、東京地域公害防止計画に適合していること等の事実が認められる。
そうすると、平成5年決定は、本件区間の連続立体交差化事業に伴う騒音等によって事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境に係る著しい被害が発生することの防止を図るという観点から、本件評価書の内容にも十分配慮し、環境の保全について適切な配慮をしたものであり、公害防止計画にも適合するものであって、都市計画法等の要請に反するものではなく、鉄道騒音に対して十分な考慮を欠くものであったということもできない。したがって、この点について、平成5年決定が考慮すべき事情を考慮せずにされたものということはできず、また、その判断内容に明らかに合理性を欠く点があるということもできない。
(ウ) なお、被上告参加人は、平成5年決定に至る検討の段階で、本件区間の構造について三つの方式の比較検討をした際、計画的条件、地形的条件及び事業的条件の3条件を考慮要素としており、環境への影響を比較しないまま、本件高架式が優れていると評価している。しかしながら、この検討は、工期・工費、環境面等の総合的考慮の上に立って高架式を適切とした本件調査の結果を踏まえて行われたものである。加えて、その後、本件高架式を採用した場合の環境への影響について、本件条例に基づく環境影響評価が行われ、被上告参加人は、この環境影響評価の結果を踏まえた上で、本件高架式を内容とする平成5年決定を行っているから、平成5年決定が、その判断の過程において考慮すべき事情を考慮しなかったものということはできない
ウ 次に、計画的条件、地形的条件及び事業的条件に係る考慮について検討する。
被上告参加人は、本件区間の構造について三つの方式の比較検討をした際、既に取得した用地の取得費や鉄道事業者の受益分を考慮せずに事業費を算定しているところ、このような算定方法は、当該都市計画の実現のために今後必要となる支出額を予測するものとして、合理性を有するというべきである。また、平成5年当時、本件区間の一部で想定される工事をシールド工法により施工することができなかったことに照らせば、被上告参加人が本件区間全体をシールド工法により施工した場合における2線2層方式の地下式の事業費について検討しなかったことが不相当であるとはいえない。
さらに、被上告参加人は、下北沢区間が地表式とされることを前提に、本件区間の構造につき本件高架式が優れていると判断したものと認められるところ、下北沢区間の構造については、本件調査の結果、その決定に当たって新たに検討する必要があるとされ、平成10年以降、東京都から地下式とする方針が表明されたが、一方において、平成5年決定に係る9号線都市計画においては地表式とされていたことや、本件区間の構造を地下式とした場合に河川の下部を通るため深度が大きくなるなどの問題があったこと等に照らせば、上記の前提を基に本件区間の構造につき本件高架式が優れていると判断したことのみをもって、合理性を欠くものであるということはできない。
エ 以上のほか、所論にかんがみ検討しても、前記アの判断について、重要な事実の基礎を欠き又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことを認めるに足りる事情は見当たらない。
(4) 以上のとおり、平成5年決定が本件高架式を採用した点において裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるということはできないから、これを基礎としてされた本件鉄道事業認可が違法となるということもできない。

2 本件鉄道事業認可に係るその余の違法の有無について
原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件鉄道事業認可について、その余の所論に係る違法は認められない。
3 なお、原判決は、本件鉄道事業認可の取消請求に係る訴えを却下すべきものとしているが、本件各付属街路事業認可の取消請求に関して、前記第1の1の事実関係に基づき、平成5年決定の適否を判断している。原審の判示には、上記説示と異なる点もあるが、原審は、被上告参加人が、本件の環境影響評価の結果を踏まえ、本件高架式の採用が周辺地域の環境に与える影響の点でも特段問題がないと判断したことに不合理な点は認められず、最終的に本件高架式を内容とする平成5年決定を行ったことに裁量権の範囲の逸脱又は濫用はなく、平成5年決定を前提とする本件鉄道事業認可がその他の上告人ら指摘の点を考慮しても適法であると判断しており、この判断は是認することができるものである。
4 以上によれば、上告人らによる本件鉄道事業認可の取消請求は棄却すべきこととなるが、その結論は原判決よりも上告人らに不利益となり、民訴法313条、304条により、原判決を上告人らに不利益に変更することは許されないので、当裁判所は原判決の結論を維持して上告を棄却するにとどめるほかはない。
第3 本件各付属街路事業認可の取消請求について
原審の適法に確定した事実関係の下において、本件各付属街路事業認可に違法はないとした原審の判断は、是認することができ、原判決に所論の違法はない。
第4 結論
以上によれば、論旨はいずれも採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉徳治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎)

++解説
《解  説》
1 本判決は,小田急小田原線の一部区間を高架化すること等を内容とする各都市計画事業の認可につき沿線住民がその取消しを求めた訴訟について,いわゆる論点回付により原告適格の有無につき判断をした最高裁大法廷判決(最大判平17.12.7民集59巻10号2645頁,判タ1202号110頁。以下「本件大法廷判決」という。)を受けて,最高裁第一小法廷が都市計画事業の認可の適否について実体判断をしたものである。
2 本件の事案は,建設大臣が,小田急小田原線のうち世田谷区内の喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの区間(以下「本件区間」という。)を高架式(嵩上式,一部掘割式。以下「本件高架式」という。)により連続立体交差化することを内容とする都市計画事業の認可(以下「本件鉄道事業認可」という。)及び本件区間に沿って付属街路(側道)を設置することを内容とする各都市計画事業の認可(以下「本件各付属街路事業認可」といい,本件鉄道事業認可と併せて「本件各認可」という。)をしたのに対し,本件区間の沿線に居住するX(上告人)らが,本件鉄道事業認可は環境面,事業面において優れた地下式を採用せず,周辺住民に騒音等で多大の被害を与える本件高架式を採用したこと等により違法であるとして,建設大臣の事務承継者であるY(被上告人)に対して本件各認可の取消しを求めたものである。事案の詳細については,本件大法廷判決の解説(判タ1202号110頁)を参照されたい。
本件の争点は,Xら沿線住民の本件各認可の取消しを求める原告適格の有無と,本件各認可の適否とに大別される。後者の争点については,Xらから多岐にわたる違法事由が主張されたが,特に争われたのは,Z(被上告参加人東京都知事)が平成5年に本件鉄道事業認可の前提となる都市計画(東京都市計画都市高速鉄道第9号線)について行った変更(以下「平成5年決定」という。)が,鉄道の構造として地下式でなく本件高架式を採用した点で違法となるかという点であり,本判決の判示事項もこの点に関するものである。
3(1)第1審判決(東京地判平13.10.3判タ1074号91頁)は,Xらには本件各付属街路事業認可に係る事業地内の不動産につき権利を有する者がいるところ,これらの者に本件各認可全部の取消しを求める原告適格を認めた上で,本件各認可は違法であるとしてこれらの者の請求を認容した。
第1審判決は,平成5年決定について,当時の小田急小田原線の騒音に違法状態が生じているとの疑念への考慮を欠いた点においてその考慮要素に著しい欠落があるとし,その判断内容にも,高架式を採用すれば相当広範囲にわたって違法な騒音被害の発生するおそれがあったのにこれを看過するなど東京都環境影響評価条例(以下「本件条例」という。)に基づく環境影響評価を参酌するに当たって著しい過誤があり,事業費についてより慎重な検討をすれば高架式と地下式の優劣が逆転し又はその差がかなり小さいものとなる可能性が十分あったにもかかわらず十分な検討を経なかった点にも著しい誤りがあるなどとした。そして,騒音につき違法状態が生じているとの疑念への配慮を欠いたまま都市計画を定めることは,単なる利便性の向上という観点を違法状態の解消という観点よりも上位に置くという結果を招きかねない点で法的に到底看過し得ないものであり,事業費について慎重な検討を欠いたことは,確たる根拠に基づかないで優れた方式を採用しなかった点においてかなり重大な瑕疵といわざるを得ず,これらの一方のみでも優に本件各認可を違法とするに足りるとした。また,第1審判決は,本件鉄道事業認可自体も,事業地の範囲について実際に事業の一部である工事を行う地域を事業地としていないこと等の過誤があること,事業施行期間の相当性の判断が不合理であることから違法であるとした。
(2) これに対して,原判決(東京高判平15.12.18訟月50巻8号2332頁,判自249号46頁)は,本件各付属街路事業認可に係る事業地内の不動産につき権利を有する者に当該付属街路事業の認可のみの取消しを求める原告適格を肯定した上で,当該付属街路事業の認可は適法であるとしてその請求を棄却した。
原判決は,当該付属街路事業の認可の適否を判断する前提として,平成5年決定の適否について検討し,本件高架式と地下式との事業費の比較に係る考慮要素,判断内容に過誤,欠落はなく,騒音問題の解決を構造形式の決定において重視しなかったことが考慮すべき事項の欠落であるとまではいい難いなどとして,平成5年決定に裁量権の逸脱又は濫用による違法はないとした。また,原判決は,第1審判決が本件鉄道事業認可自体を違法として指摘した点についても違法はないとした。

4 本判決は,本件大法廷判決が原告適格を肯定したXらの本件鉄道事業認可の取消しの訴えに係る請求と,原判決が原告適格を肯定した本件各付属街路事業の事業地内の不動産につき権利を有するXらの当該付属街路事業の認可の取消しの訴えに係る請求について,上記の各認可に所論の違法はないとして,これらを棄却すべきものとした。平成5年決定が本件高架式を採用したことの適否に関する判断の要旨は,次のとおりである。
(1) 裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては,当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。
(2) Zは,建設省の定めた連続立体交差事業調査要綱に基づく調査の結果を踏まえ,計画的条件,地形的条件及び事業的条件を設定した上で,本件区間の鉄道の構造について,本件高架式,高架式と地下式の併用,地下式の3つの方式を比較検討をした結果,本件高架式がいずれの条件においても優れていると評価し,本件条例に基づく環境影響評価の結果等を踏まえ,周辺地域の環境に与える影響の点でも特段問題がないと判断したものである。上記判断における環境への影響に対する考慮について検討すると,平成5年決定は,本件区間の連続立体交差化事業に伴う騒音等によって事業地の周辺住民に健康又は生活環境に係る著しい被害が発生することの防止を図るという観点から,本件条例に基づく環境影響評価書の内容に十分配慮し,環境の保全について適切な配慮をしたものであり,公害対策基本法に基づく公害防止計画にも適合するものであって,鉄道騒音に対して十分な考慮を欠くものであったとはいえないから,考慮すべき事情の考慮を欠いたり,判断内容に明らかに合理性を欠く点があるとはいえない。前記の3条件に係る考慮についても,取得済みの用地の取得費等を考慮せずに事業費を算定したことには今後必要となる支出額を予測するものとして合理性が認められること等から,合理性を欠くとはいえない。平成5年決定が本件高架式を採用した点において裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえないから,本件鉄道事業認可が違法となるともいえない。
5 本判決は,都市施設の規模,配置等に関する事項を定めるに当たっての行政庁の判断に広範な裁量を認めた上で,都市施設に関する都市計画の決定又は変更に関する司法審査の方法について,前記4(1)のとおり一般論を示している。
都市計画は,いわゆる行政計画の1つであるところ,その策定は,法の執行というよりも,政策的決断に基づく創造的な行為としての色彩が強いものであることから,行政計画の策定には政策的な裁量が認められ(計画裁量と呼ばれる。),その範囲は広範であるとされる(塩野宏『行政法(1)(第4版)』198頁,原田尚彦『行政法要論(全訂第6版)』122頁,芝池義一『行政法総論講義(第4版)』71頁等)。都市施設に関する都市計画決定については,下級審裁判例も,決定権者に広範な裁量が認められるとして,裁量権の逸脱又は濫用がある場合に限り違法となるとしてきたところ(東京高判平7.9.28行集46巻8=9号790頁,名古屋高判平9.4.30判時1631号14頁,東京高判平15.9.11判時1845号54頁等多数),本判決は,最高裁が同様の見解に立つことを示して,裁量権の逸脱又は濫用の具体的な審査基準を明らかにしたものである。
本判決による裁量権の逸脱又は濫用の具体的な審査基準は,一般的な裁量処分に対する司法審査に関する判例の見解(最三小判昭52.12.20民集31巻7号1101頁,判タ357号142頁,最大判昭53.10.4民集32巻7号1223頁,判タ368号196頁等)とほぼ同様であるが,行政計画の策定に関する裁量については,判断の形成過程の適否の審査に重点を置くべきであるとする見解もあるところ(原田・前掲129頁等),判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないことを審査に当たっての考慮要素とする本判決は,このような審査の在り方の方向性を示唆しているとも考えられる。
6 次に,本判決は,上記の審査基準の下で,平成5年決定が本件高架式を採用した点における裁量権の逸脱又は濫用の有無を検討している。
第1審判決及び原判決も,一般論としては,本判決と同様に,都市計画の変更に広範な裁量が認められるとした上で,裁量権の逸脱又は濫用の有無を検討すべきであるとしたが,その具体的な検討内容は大きく異なっている。第1審判決は,平成5年決定について,密度の高い踏み込んだ審査を行い,単なる利便性の向上という観点を鉄道騒音に係る違法状態の解消という観点よりも上位に置く結果を招きかねないことは法的には到底看過し得ないといった評価を行った上で,本件高架式を採用したことに裁量権の逸脱があるとした。これに対して,原判決は,行政庁の第一次的な裁量判断が既に存在することを前提として裁量権の逸脱又は濫用の有無を検討し,都市施設の構造につき複数の代替案がある場合に各考慮要素を総合考量して1つを選択する上での条件設定の仕方や判断順序について,各考慮要素のうちどの要素に重きを置き,価値序列をどのように設けるかは必ずしも一義的に決することはできないなどとして,平成5年決定に裁量権の逸脱又は濫用はないとした。
本判決は,平成5年決定が裁量権の行使としてされたことを前提として,前記4(1)の審査基準により検討した結果,原判決と同様に,裁量権の逸脱又は濫用はないとしたものである。もっとも,本判決は,本件大法廷判決が周辺住民の健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがある者に原告適格を肯定したことを受けて,本件区間の構造を定めるに当たっても,本件の鉄道事業に伴う騒音,振動等によって,事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境に係る著しい被害が発生することのないよう被害の防止を図ること等が要請されていたとした上で,本件高架式を採用したことがこのような要請に反しないかについて具体的な検討を行っており,平成5年決定以前の小田急小田原線の騒音被害の実情等を踏まえて,環境への影響に対する考慮について比較的密度の高い司法審査をしたものということができよう。
なお,最高裁が都市施設に係る都市計画の決定につき裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとはいえないとした原審の判断に違法があるとして事件を原審に差し戻した最近の判決として,最二小判平18.9.4裁判集民登載予定,判タ1223号127頁がある。
7 Xらの本件鉄道事業認可の取消しを求める訴えについては,原判決が原告適格を否定して訴えを却下したのに対し,本件大法廷判決が原告適格を肯定したが,本判決は,この訴えにつき差戻しとすることなく,実体面を検討した結果請求を棄却すべきであるとした上で,不利益変更禁止の原則(民訴法313条,304条)により上告を棄却することとしている。これは,本件鉄道事業認可における違法事由の有無について,既に第1審,原審での審理,判断を経ていることから,審級の利益を保障するために差し戻す必要がないとしたものと思われる。上告審において下級審の訴え却下の判断を違法としたにもかかわらずこれを差し戻すことなく上告を棄却した例としては,最一小判昭49.9.2裁判集民112号517頁,判時753号5頁,最三小判昭60.12.17民集39巻8号1821頁,判タ589号87頁,最二小判平1.2.17民集43巻2号56頁,判タ694号73頁等がある。
8 本判決は,最高裁が,都市計画事業の認可の適否を判断するに当たり,その基礎とされた都市施設に係る都市計画の変更について,裁量権の逸脱又は濫用の有無に関する審査基準を示した上で,これに基づく具体的な検討を行ってその有無を判断したものであり,行政庁の裁量行為に対する司法審査の在り方を具体的に示した例として,実務上重要な意義を有するものと思われる。


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