民法択一 債権各論 契約総論 有償契約の問題=担保責任


・目的物に地上権による制限があった場合の担保責任の追及には期間制限があるが、抵当権の行使によって買主が権利を失った場合の担保責任の追及には期間制限がない!!!!!!ヘエエエエ
+(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第566条
1項 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2項 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3項 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

+(抵当権等がある場合における売主の担保責任)
第567条
1項 売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。
2項 買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。
3項 前二項の場合において、買主は、損害を受けたときは、その賠償を請求することができる。

・担保責任を免除する特約を結ぶことはできるが、その場合でも、目的物について売主が自分で第三者のために設定した権利があったときは、売主は担保責任を免れない!!!!
+(担保責任を負わない旨の特約)
第572条
売主は、第560条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない

瑕疵担保の規定は強行規定ではないから、瑕疵担保責任を負わない旨の特約も有効である。ただし、売主が目的物の瑕疵を知りながら買主に告げなかった場合には、免責特約の効力は否定される!!←572条

・売買契約の目的たる権利が他人のものである場合、買主は売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、善意悪意を問わず契約の解除をすることができ、善意の買主についてのみ、損害賠償請求をすることも認められている。
そして、この売主の担保責任に期間制限はない!!!
+(他人の権利の売買における売主の担保責任)
第561条
前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない

・売主が契約時にその売却した動産の所有権が自己に属しないことを知らず、買主もそのことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は損害を賠償して契約の解除をすることができる。
+(他人の権利の売買における善意の売主の解除権)
第562条
1項 売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる
2項 前項の場合において、買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは、売主は、買主に対し、単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して、契約の解除をすることができる。

・売買の目的である権利の一部が他人に属しているため、売主が買主にこれを移転することができない場合、買主は、残存する部分のみであればこれを買い受けなかったときには、当該事情を知っていたときは、代金の減額請求はできても、契約の解除はすることはできない!!!

+(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
第563条
1項 売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2項 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3項 代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。

・565条によって準用される564条所定の除斥期間は、買主が善意の場合は、同人が売買の目的物の数量不足を知った時から起算される!!!!

・買主が数量不足については既に知っているものの、その責めに帰すべきでない事由により売主が誰であるかを知りえなかった場合は、買主が売主を知った時から起算される!!!!
←564条の「事実を知った時」とは、買主が売主に対し担保責任を追及し得る程度の確実な事実関係を認識したことを要する!!

+判例(H13.2.22)
1 上告代理人小室貴司の上告理由について
民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法三一二条一項又は二項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。

2 以下、職権により、上告人の本件請求について判断する。
(1) 原審の確定した事実関係は次のとおりである。
ア 上告人は、平成二年六月一一日、被上告人との間で、被上告人から第一審判決別紙物件目録記載一の土地(以下「一三七番一の土地」という。)を、同土地の南側に隣接する同物件目録二の土地(以下「一三六番一の土地」という。)との境界は第一審判決別紙図面のイ、ロ、ハの各点を直線で結ぶ線であるとし、実測面積68.90平方メートル、代金一坪当たり九〇〇万円、総額一億八七五八万円で買い受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同年八月八日ころ、その引渡しを受けた。
イ 一三六番一の土地の所有者である丸山博久は、平成三年四月ころ、両土地の境界は同図面のイ、ロ、ホ、ニの各点を直線で結ぶ線であるとして、その線上にブロック塀を建築し、同図面のロ、ハ、ニ、ホ、ロの各点を直線で結んだ範囲の12.26平方メートル(約3.71坪)の土地(以下「本件土地」という。)は一三六番一の土地に属するものであると主張するに至った。
ウ 上告人は、平成三年七月末ころ、丸山に対し、ブロック塀の建築に抗議したが、同人はこれを受け入れなかった。そこで、上告人は、同年一一月、丸山を相手方として、ブロック塀の撤去等を求める旨の仮処分を申し立てたところ、丸山は、同年一二月一六日付けの答弁書によって、本件土地が一三六番一の土地に属する旨を主張した。同仮処分申立てについては、平成四年二月二四日、丸山に対して本件土地につき占有移転を禁止する旨の仮処分命令が発せられた。
エ 上告人は、平成三年一二月、丸山を被告として、所有権に基づき、ブロック塀の撤去、本件土地の明渡しを求める訴訟を提起した。これについては、平成六年一一月二八日上告人の請求を棄却する旨の第一審判決がされ、同七年九月一三日上告人の控訴を棄却する旨の判決が、同八年三月五日上告人の上告を棄却する旨の判決がされた。
オ 上告人は、平成七年一一月一〇日ころ、被上告人に対して本件売買契約に基づく売主としての責任を問う旨の意思を表明し、同八年四月一九日、本件訴訟を提起した。
(2) 本件において、上告人は、被上告人に対し、主位的には民法五六三条又は五六五条に基づく代金減額請求、予備的には不当利得返還請求として、本件売買契約に基づいて上告人が支払った代金のうち本件土地の面積分に相当する三三三九万円及び遅延損害金の支払を求め被上告人は、代金減額請求について、民法五六四条所定の一年の除斥期間が経過していると主張して争った。
原審は、次のとおり判断し、上告人の請求を棄却すべきものとした。
ア 本件土地は、本件売買契約の目的の一部とされたが、丸山所有の一三六番一の土地に属するものであると認められる。そして、丸山には本件土地を被上告人に対して譲渡する意思がないので、本件売買契約の売主である被上告人は、これを買主である上告人に移転することができない
イ 上告人の被上告人に対する代金減額請求は、民法五六三条又は五六五条に基づくものであるところ、同法五六四条所定の善意の買主の権利に係る除斥期間の起算点は、買主が、単に売買の目的である権利の一部が他人に属し、又は数量を指示して売買した物が不足していたことを知っただけでなく、売主においてこれを買主に移転することができないことをも知った時であると解するのが相当である。
ウ 前記事実関係の下においては、上告人は、仮処分申立て事件につき、丸山から、本件土地は一三六番一の土地の一部であることを明確に主張する平成三年一二月一六日付けの答弁書が提出された時に、本件土地は丸山の所有に属し、又は本件売買契約の目的である土地の面積に不足があることのみならず、被上告人が丸山から本件土地を取得してこれを上告人に移転することができないことをも知ったものと解するのが相当である。そうすると、上告人は、その時点から一年内に被上告人に対して代金減額請求権を行使していないから、同請求権は、民法五六四条所定の除斥期間の経過によって消滅していることになる。
エ 代金減額請求権が消滅した以上、上告人の主張する不当利得返還請求権も発生する余地がない。
(3) しかし、原審の判断のうち(2)のウの部分は、これを是認することができない。その理由は、次のとおりである。
売買の目的である権利の一部が他人に属し、又は数量を指示して売買した物が不足していたことを知ったというためには、買主が売主に対し担保責任を追及し得る程度に確実な事実関係を認識したことを要すると解するのが相当である。本件のように、土地の売買契約が締結された後、土地の一部につき、買主と同土地の隣接地の所有者との間で所有権の帰属に関する紛争が生起し、両者が裁判手続において争うに至った場合において、隣接地の所有者がその手続中で係争地が同人の所有に属することを明確に主張したとしても、買主としては、その主張の当否について公権的判断を待って対処しようとするのが通常であって、そのような主張があったことから直ちに買主が係争地は売主に属していなかったとして売主に対し担保責任を追及し得る程度に確実な事実関係を認識したということはできない。以上説示したところによれば、上告人の本件代金減額請求権について、仮処分申立て事件において丸山から答弁書が提出された時点をもって、民法五六四条所定の除斥期間の起算点と解するのが相当であるとした原審の判断は、同条の解釈を誤ったものといわざるを得ない。
以上のとおりであって、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから、原判決を職権をもって破棄し、更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

+判例(S48.7.12)
上告代理人大道寺和雄、同中西英雄の上告理由第一、について。
原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)によると、原審の認定した事実は次のとおりである。すなわち、本訴は、本件山林の買主である被上告人がその坪数不足を知つた時から一年を経逸したのちに提起されているが、本訴の提起が右のようにおくれたのは、上告人が、売主の自己であることを秘匿し、本件山林の前主であるAより預つていた印章を用いて同人名義の売買契約書を作成し、これを同人の権利証とともに本件売買の仲介人であるBを介し被上告人に交付してAを売主のごとく装つていたため、被上告人がAを売主と誤信して同人を相手どつて代金減額請求訴訟を提起、追行していたからである。そして、被上告人は、右訴訟の経緯により売主はあるいは上告人であるかもしれないとの疑念を抱くようになり、念のために同人に対して本訴を提起したところ、間もなくAに対する訴についての判決の送達を受けて売主が上告人であることを知つたのである。
原審の右事実の認定は、原判決挙示の証拠に照らし首肯することができる。
ところで、民法五六五条によつて準用される同法五六四条所定の除斥期間は、買主が善意のときは、同人が売買の目的物の数量不足を知つた時から起算されるが、買主が数量不足についてはすでに知つているものの、その責に帰すべきでない事由により売主の誰れであるかを知りえなかつたときは、買主が売主を知つた時から起算すべきであると解するを相当とする。そして前記事実関係のもとにおいては、被上告人はその責に帰すべきでない事由により売主が上告人であることを知りえなかつたものというべきであるから、これを知つた時から一年内に提起されれば、訴は右除斥期間を遵守した適法なものであると解すべきところ、前述のような事情で右知つた時にはすでに提起されていた本訴はもとより適法であるといわなければならない。
してみると、これと同旨の原審の判断は正当として肯認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

+(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
第565条
前二条の規定は、数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。

+(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
第564条
前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ一年以内に行使しなければならない。

・Aは自己所有の甲土地を敷地面積が100平方メートルと表示し、1平方メートル当たり1万円として賃料月額100万円でBに賃貸したところ、実際には甲土地の面積が90平方メートルであったことが判明した場合、Bは、面積の不足につき善意であれば賃料の減額を請求することができる!!!
+(有償契約への準用)
第559条
この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

+(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
第565条
前二条の規定は、数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。

+(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
第563条
1項 売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2項 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3項 代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。

+判例(S43.8.20)数量指示売買とは・・・
上告代理人岩本健一郎の上告理由第一点について。
民法五六五条にいう「数量ヲ指示シテ売買」とは、当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、重量、員数または尺度あることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買を指称するものである。ところで、土地の売買において目的物を特定表示するのに、登記簿に記載してある字地番地目および坪数をもつてすることが通例であるが、登記簿記載の坪数は必ずしも実測の坪数と一致するものではないから、売買契約において目的たる土地を登記簿記載の坪数をもつて表示したとしても、これでもつて直ちに売主がその坪数のあることを表示したものというべきではない
ところで、原審が本件売買を数量指示売買と認定判断するについて挙げた証拠方法は、甲第六号証(不動産売渡代金領収書)、第一、二審の被上告人本人尋問の各結果、第二審の上告人A本人尋問の結果および弁論の全趣旨であるが、右甲第六号証には、売買の目的物として、「長崎市a町b番のc宅地八六坪五合(原判決もこのように認定しているが、成立に争ない甲第七号証((登記簿謄本))によれば、長崎市a町b番のcは宅地八六坪五勺とある)、同上b番の二宅地七坪四合、同市同町b番のc建設家屋番号同町第d番木造瓦葺平家建居宅一棟建坪二五坪、塀・井戸・畳・建具其他付属定着物・従物等一切有姿の儘」、その売買代金額として「一四五万円」と記載されているのみであり、その他の前記証拠方法には、本件売買の目的物のうちb番のc宅地八六坪五合(登記の記載上は正しくは八六坪五勺)、同番の二宅地七坪四合は、「買主たる控訴人(被上告人)においてはもちろん、そのとおりの実測面積があるものと信じ、また売主たる被控訴人(上告人)ら側においても、売買の目的たる本件宅地の実測面積は登記簿表示の坪数より少なくないことを認め、当事者双方ともこれを基礎として代金額を定めたものである」との証拠はない。そして、第一審裁判所のした検証の結果には、本件売買の目的である土地は周囲を石垣等で囲まれているとある。そこで、右かつこ部分を除くその他の原審の確定した事実を冒頭の説示に照らして判断すれば、本件売買は、いまだいわゆる数量指示売買にあたるものとはいえず、これを数量指示売買と判断したことは、証拠に基づかないで事実を認定したか、民法五六五条の解釈適用を誤つたものというべく、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 ヘーー
よつて、論旨は理由あり、上告理由中その他の点についての判断を省略し、本件について更に審理を尽くさせるため、事件を原審に差し戻すべきものとし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

・数量指示売買において数量が超過していた場合、売主は、民法の担保責任の規定の類推適用を根拠として代金増額を請求することはできない!!!!!

+判例(H13.11.27)
上告代理人上谷佳宏、同木下卓男、同幸寺覚、同福元隆久、同山口直樹、同今井陽子、同松元保子の上告受理申立て理由第一の二、三、第二について
1 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
(1) A(以下「A」という。)は、第1審判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有し、これを上告人及びB(以下「上告人ら」という。)に建物所有目的で賃貸していた。
平成4年3月ころ、Aと上告人らとの間で、1坪当たりの単価を52万円(1㎡当たり15万7296円)とし、これに実測面積を乗じた額を代金額として、本件土地を上告人らが買い取る話が進み、A側で測量を行うことになった。
(2) Aは、本件土地の測量をC測量設計事務所ことC(以下「C」という。)に依頼し、Cはこれを株式会社D(以下「D」という。)に依頼した。
Dは、本件土地の測量を実施したが、真実の面積が399.67㎡であったのに、求積の際の計算の誤りにより59.86㎡少ない339.81㎡を実測面積と記載した求積図を作成し、Cを介してAに交付した。
(3) Aと上告人らは、平成4年7月30日、本件土地につき売買契約を締結したが、その契約書には、取引は実測によるものと記載されて上記の求積図が添付され、本件土地の実測面積が339.81㎡と明記された上、この面積に前記の単価を乗じた5345万0800円が売買代金とされた(以下「本件売買契約」という。)。なお、上告人とBが取得する持分は各2分の1とされた。
(4) その後、測量結果の誤りを知ったAは、平成5年4月ころ、仲介業者をして、上告人らに対して、売買代金が不足しているとして支払交渉をさせたが、物別れに終わった。なお、真実の面積によって計算した代金額と、本件売買契約の代金額との差額は、上記の1㎡単価15万7296円に59.86㎡を乗じた941万5738円である。
(5) Cは、測量結果に誤りがあったことによる損害賠償として、平成9年3月から同年5月にかけて、上記の差額に迷惑料を加算した1000万円をAに支払った(ただし、うち660万0200円は、CのAに対する債権と相殺された。)。
(6) Dは、平成9年12月4日、Cとの間で、測量結果に誤りがあったことによる損害賠償として、Cに対して600万円を支払う旨の示談をした。
(7) 被上告人は、Dとの間で測量士賠償責任保険契約を締結していたところ、平成9年12月18日、上記示談に係るDのCに対する債務のうち550万円を、Dに代わってCに支払った。

2 本件は、(1) 被上告人が上告人に対して、民法565条の類推適用により、又は本件売買契約の際に成立した清算の合意に基づき、Aが上告人らに対して有していた上記差額に相当する941万5738円の代金請求権について、損害賠償者の代位(民法422条)及び保険者の代位(商法662条)によって、内金550万円を取得したとして、その半額である275万円と遅延損害金の支払を求める反訴事件と、(2) 上告人が被上告人に対して、上記代金債務の不存在確認を求める本訴事件である。
原審は、上記事実関係の下において、次のとおり判示し、被上告人の反訴請求を認容し、上告人の本訴請求を棄却した。
(1) 本件売買契約は、民法565条にいういわゆる数量指示売買に当たる
(2) 数量指示売買で目的物の数量が指示された数量を超える場合において、当該売買契約に至る経緯や代金額が決定された経緯等の事情から、代金の増額を認めないことが公平の理念に反し、かつ、その増額を認めることが買主にとっても対応困難な不測の不利益を及ぼすおそれがないものと認めるべき特段の事情が存するときには、民法565条、563条1項を類推適用して、超過部分について、売主の代金増額請求権を認めるのが相当である。本件では、上記の特段の事情が存するから、Aは代金増額請求権を行使することによって、上告人らに対して941万5738円の代金請求権を取得した。
(3) Cは、Aに対して債務不履行に基づく損害賠償義務を履行したので、損害賠償者の代位(民法422条)によって、Aの上告人らに対する代金請求権を取得した。Dは、Cに対して債務不履行に基づく損害賠償義務を履行したので、同じく賠償者の代位によって、同人から600万円の限度で上記代金請求権を取得した。さらに、被上告人は、測量士賠償責任保険契約に基づき550万円を支払ったので、保険者の代位(商法662条)によって、Dから550万円の限度で上記代金請求権を取得した。

3 しかしながら、原審の上記判断のうち(2)及び(3)は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 原審の上記判断(2)について
民法565条にいういわゆる数量指示売買において数量が超過する場合、買主において超過部分の代金を追加して支払うとの趣旨の合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもない。しかしながら、同条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎないから、【要旨】数量指示売買において数量が超過する場合に、同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできないと解するのが相当である。原審の上記判断(2)は、当事者間の合意の存否を問うことなく、同条の規定から直ちに売主の代金増額請求権を肯定するものであって、同条の解釈を誤ったものというべきであり、この判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(2) 原審の上記判断(3)について
本件において、仮に、Aが上告人らに対して、契約書に記載された面積を超過する部分について代金請求権を有するとすれば、上告人らが任意の支払を拒んでいたとしても、上告人らが無資力であって上記代金請求権が無価値である等の特段の事情がない限り、Aには上記代金請求権相当額について損害が発生しているということはできない。そうすると、上記特段の事情の存在について主張、立証のない本件においては、Aに損害が発生したことを前提とした損害賠償者の代位によるC及びDに対する権利移転の効果を認めることはできないし、さらにはDが損害賠償義務を負うことを前提とした保険者の代位による被上告人への権利移転の効果が生ずるともいえない。したがって、原審の上記判断(3)には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。なお、被上告人の主張は、結局、Aの上告人らに対する代金請求権の順次移転をいうものであって、前記1の(5)、(6)及び(7)のC、D、被上告人の各支払又は支払約束に際して、Aが有した代金請求権の全部又は一部を順次譲渡する旨の合意があったとの主張を含むものと解する余地がある。

4 以上のとおり、論旨はいずれも理由があり、原判決は破棄を免れない。
そして、被上告人は、数量超過の場合に買主において超過部分の代金を追加して支払う旨の合意がAと上告人らとの間に存在した旨の主張をしており、また、被上告人の本件請求に係る権利の取得原因を明らかにさせる必要があるから、これらの点について審理判断させるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

++解説
三 数量指示売買において数量が超過する場合に、民法五六五条を類推適用して、売主の代金増額請求権を肯定し得るか否かという問題は、古くから議論の存したところであるが、通説は、代金の増額請求権を認めることができるかどうかは当事者の意思解釈の問題であり、当事者間に、数量超過の場合には追加代金を支払う、ないしは過不足の場合には清算をするとの趣旨の合意を認めることができる場合には、代金増額請求権を認めることができるが、そのような意思解釈ができない場合には、民法五六五条を類推適用して代金増額請求権を認めることはできないとしており、その旨を判示した大審院判決として、前掲大判明41・3・18がある。

通説はその理由として、(1)売主の無過失責任を認めて取引の安全を保護しようとする民法五六五条の趣旨から、売主の代金増額請求権を認めるという反対解釈は許されない(2)わが国では、登記簿の記載と実際とが符合せず実際の面積が多い場合も少なくないので、数量超過は問題にしないのが普通である、(3)本来売主側で調査しておくべき事項であり、売主を保護する必要はない、(4)旧民法財産取得編は、フランス民法にならって代金増額請求権を認めていたが、法典調査会において、これらの規定は意識的に削除されたという立法の沿革からすると、代金増額請求権を認めることはできないこと、などを挙げる(我妻榮・債権各論(中)1二八二頁、柚木馨・注釈民法(14)一五四頁、末川博・契約法(下)四六頁、川井健・民法教室・債権法Ⅳ六六頁、船越隆司・基本法コンメ債権各論第三版八四頁など多数)。
通説に対して、古くは、①売主は代金増額請求又は超過部分の返還請求権を有するとの説(石田文治郎・債権各論七八頁)、②代金増額請求権は認められないが、買主は超過部分を返還すべきであるとの説(勝本正晃・契約各論(1)八三頁、宗宮信次・債権各論一四九頁)が存在したが、近年、新たな根拠を挙げて売主の代金増額請求権を肯定する説が現れている。すなわち、③三宅正男・契約法(各論)(上)三〇六頁は、契約の基礎ないし前提の欠落の理論を理由として、④松岡久和・新版注釈民法(14)二三九頁は、代金補正の意思的根拠があることを理由として、⑤半田正夫・担保責任の再構成六九頁は、当事者間の衡平を理由として、⑥平野裕之・契約法一二三頁は、買主が実質的に不当利得をしていることを理由として、それぞれ売主の代金増額請求権を肯定する(③、④、⑥は、買主は、契約を解除するか、代金増額に応ずるかを選択できるとする。その他、代金増額請求権を肯定する見解として、山下末夫「売主の担保責任」新版・判例演習民法(4)五六頁、水本浩=遠藤浩編・債権各論改訂版九一頁〔柳澤秀吉〕など)。

・売買の目的物が地上権の目的である場合、地上権につき善意の買主は、常に契約の解除をすることができるわけではない!!
+(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第566条
1項 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2項 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3項 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

・売買の目的物である土地に抵当権が設定されており、この抵当権が実行されたために、買主が土地を失った場合、買主は、抵当権が設定されていることにつき善意悪意を問わず、解除と損害賠償を請求することができる!!!
+(抵当権等がある場合における売主の担保責任)
第567条
1項 売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる
2項 買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。
3項 前二項の場合において、買主は、損害を受けたときは、その賠償を請求することができる

・強制売買の場合、担保責任は通常の売買と同じようには生じない!!!!
+(売主の瑕疵担保責任)
第570条
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない

+(強制競売における担保責任)
第568条
1項 強制競売における買受人は、第561条から前条までの規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。
2項 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
3項 前二項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる

・570条の瑕疵には、売買の目的物がある性能を具備することを売主において特に保証したにもかかわらずこれを具備していない場合も含まれる!

・見本品を提示して行った特定物売買において、給付された目的物がも見本品と異なる場合、民法570条の「瑕疵」に当たる!!

・Aは、居宅の敷地として使用する目的で、Bから甲土地を買い受けたが、公法上の規制により、甲土地には居宅を構築することができなかった。この場合、これを過失なく知らなかったAは、瑕疵担保責任を理由に売買契約を解除することができる!!!
+判例(S41.4.14)
上告代理人守屋和郎の上告理由第一点について。
原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定した事実によれば、被上告人は本件土地を自己の永住する判示規模の居宅の敷地として使用する目的で、そのことを表示して上告人から買い受けたのであるが、本件土地の約八割が東京都市計画街路補助第五四号の境域内に存するというのである。かかる事実関係のもとにおいては、本件土地が東京都市計画事業として施行される道路敷地に該当し、同地上に建物を建築しても、早晩その実施により建物の全部または一部を撤去しなければならない事情があるため、契約の目的を達することができないのであるから、本件土地の瑕疵があるものとした原判決の判断は正当であり、所論違法は存しない。
また、都市計画事業の一環として都市計画街路が公示されたとしてもそれが告示の形式でなされ、しかも、右告示が売買成立の一〇数年以前になされたという原審認定の事情をも考慮するときは、被上告人が、本件土地の大部分が都市計画街路として告示された境域内にあることを知らなかつた一事により過失があるとはいえないから、本件土地の瑕疵は民法五七〇条にいう隠れた瑕疵に当るとした原判決の判断は正当である。
所論はすべて採用できない。

・AはBから、Bが借地上に所有する甲建物とその敷地の賃借権を買い受けたが、敷地に物理的な欠陥があった場合、売買の目的物に瑕疵があるとして、Bに瑕疵担保責任を追及することはできない!!!!!
+判例(H3.4.2)
上告代理人増渕實の上告理由について
一 原審は、(一) 被上告人は、昭和五五年三月二〇日、上告人から本件建物の所有権及び本件借地権(本件建物敷地の賃借権)を買い受け、代金六五〇万円を支払った、(二) 本件土地は、南側が幅員六メートルの公道に接し、北側は高さ約4.4メートルの崖に臨む地形となっていた、(三) 本件土地北側の崖は、基部が高さ二メートル弱のコンクリート擁壁で、その上に高さ約2.4メートルの大谷石の擁壁が積み上げられたいわゆる二段腰の構造となっていた、(四) 昭和五六年一〇月二二日、台風に伴う大雨により、右擁壁(以下「本件擁壁」という。)に傾斜、亀裂を生じ、崖上の本件土地の一部に沈下及び傾斜が生じ、構造耐力上及び保安上著しく危険な状態となったため、同年一一月四日、東京都北区長は、本件土地所有者らに対して、本件擁壁の新規築造又は十分な改修補強等、安全上必要な措置を早急に採るよう文書をもって勧告した、(五) そのころ、被上告人も本件土地所有者らに対して同様の申入れをしたが、本件土地所有者らが何らの措置も採らなかったので、被上告人は、本件建物の倒壊の危険を避けるため、やむなく、これを取り壊した、(六) 被上告人は、上告人に対して、昭和五七年七月三一日到達の書面により、民法五七〇条、五六六条一項の規定に基づき本件売買契約を解除する旨の意思表示をした、(七) 本件擁壁がこのような状態となったのは、擁壁に通常設けられるべき水抜き穴が設けられていなかったため、土中に含まれた雨水の圧力が加わり、大谷石の擁壁がこれに耐えきれなかったことによるが、被上告人が本件借地権と本件建物を買い受けた際、本件擁壁の右構造的欠陥について何の説明も受けず、水抜き穴の欠如がこのような重大な結果をもたらすことに全く想到し得なかったことは、通常人として無理からぬことであった、との各事実を適法に確定した上、右事実関係の下において、借地権付建物の買主が当該売買契約当時知らなかった事情によりその土地に建物を維持することが物理的に困難であるということが事後に判明したときは、その借地権には契約上当然に予定された性能を有しない隠れた瑕疵があったものといわざるを得ず、これにより建物所有という所期の目的を達し得ない以上、借地権付建物の買主は、民法五七〇条、五六六条一項により売買契約を解除することができるとして、上告人は被上告人に対して、本件売買代金六五〇万円、本件売買に伴い支出した登記費用及び建物火災保険料の金額の合計額並びにこれに対する昭和五七年一〇月一六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう命じた。

二 しかし、原審の右判断は、これを是認することができない。その理由は、次のとおりである。
すなわち、建物とその敷地の賃借権とが売買の目的とされた場合において、右敷地についてその賃貸人において修繕義務を負担すべき欠陥が右売買契約当時に存したことがその後に判明したとしても、右売買の目的物に隠れた瑕疵があるということはできない。
けだし、右の場合において、建物と共に売買の目的とされたものは、建物の敷地そのものではなく、その賃借権であるところ、敷地の面積の不足、敷地に関する法的規制又は賃貸借契約における使用方法の制限等の客観的事由によって賃借権が制約を受けて売買の目的を達することができないときは、建物と共に売買の目的とされた賃借権に瑕疵があると解する余地があるとしても、賃貸人の修繕義務の履行により補完されるべき敷地の欠陥については、賃貸人に対してその修繕を請求すべきものであって、右敷地の欠陥をもって賃貸人に対する債権としての賃借権の欠陥ということはできないから、買主が、売買によって取得した賃借人たる地位に基づいて、賃貸人に対して、右修繕義務の履行を請求し、あるいは賃貸借の目的物に隠れた瑕疵があるとして瑕疵担保責任を追求することは格別、売買の目的物に瑕疵があるということはできないのである。なお、右の理は、債権の売買において、債権の履行を最終的に担保する債務者の資力の欠如が債権の瑕疵に当たらず、売主が当然に債務の履行について担保責任を負担するものではないこと(民法五六九条参照)との対比からしても、明らかである。
これを本件についてみるのに、前記事実関係によれば、本件土地には、本件擁壁の構造的欠陥により賃貸借契約上当然に予定された建物敷地としての性能を有しないという点において、賃貸借の目的物に隠れた瑕疵があったとすることは格別(民法五五九条、五七〇条)、売買の目的物に瑕疵があったものということはできない。

三 そうすると、賃貸借の目的物たる土地の瑕疵をもって、建物と共に売買の目的とされた賃借権の瑕疵であるとして、本件売買に民法五七〇条の規定を適用して、その契約の解除を認め、上告人に対して現状回復及び損害賠償の支払を命じた原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この趣旨をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、右説示に徴すれば、被上告人の請求は棄却すべきものであり、これと同旨に出た第一審判決は正当であり、被上告人の控訴は棄却すべきものである。

++解説
二、売買の目的たる債権に瑕疵があるときは、一般原則に従って担保責任が生ずることに異論はない。
債権の売買について瑕疵担保(五七〇条)の規定の適用があるかどうかについては、説が分かれる。同条が「売買の目的物」と規定することからみると、そこで予定したものは契約の目的たる有体物であるといえるし(来栖・契約法九五頁、我妻・債権各論中の(一)二八八頁等、通説である。)、瑕疵とは売買の目的の物質的な瑕疵のみを指すとする学説もある(我妻・前掲二九二頁、広中・債権各論講義上七〇頁)。しかし、有体物の売買以外にも瑕疵担保の規定の適用を肯定する判例があり(白紙委任状付き株式の売買につき大判大8・5・6民録二五輯七四七頁、試掘権につき大判昭5・12・8新聞三二一一号一一頁、試掘出願権につき大判昭13・12・14民集一七巻二三号二四一二頁、地上権につき東京高判昭23・7・19高民集一巻二号一〇六頁)、多くの学説も同様に解している(柚木・注釈民法(14)二三六頁、鳩山・増補・日本債権法(各論)上三四三頁、末川・債権各論・第一部八一頁、勝本・債権法概論・各論三九頁、宗宮・債権各論一五九頁、担保権又は人的保証があるものとして売買された債権に右担保権又は保証がなかった場合に、柚木・注釈民法(14)一六七頁、永田・新民法要義第三巻下・債権各論一三一頁は、瑕疵担保の規定を適用すべしとし、我妻・前掲二九二頁、二八四頁は五六六条によるべしとする)。なお、建物及び敷地賃借権の売買において、賃借権の譲渡に関する地主の承諾がなかった場合に、瑕疵担保の規定の適用があるとしても、買主の善意の主張がない(承諾は買主において取りつけることとなっていた)ことを理由として右規定の適用を否定した下級審判例がある(名古屋高判昭39・1・17高民集一七巻一号七頁)。

三、ところで、賃貸目的物の欠陥が賃貸人において修繕義務(民法六〇六条一項)を負担するもの(賃貸借契約の履行関係において解決すべき欠陥)であるときは、かかる修繕請求権を含む権利である賃借権そのものに欠けるところはないことになる。
そして、債権の売主は、債務の履行を最終的に担保する債務者の資力を原則として担保せず(民法五六九条)、債務者の資力不足は売買目的たる債権の瑕疵ではないと解される(梅・要義五二二頁、柚木・前掲一六七頁、我妻・前掲二九二頁)。すなわち、賃貸借契約上の借主の地位の売買において、賃貸借の目的土地に売買契約において予定された使用ができないような客観的な(賃貸借の履行関係外の)不足又は欠陥(数量の不足、改築に関する公法的規制等)があったときには、これは売買契約の目的物の不足又は欠陥と解することができるが、貸主の義務に属すべき修繕義務違反があっても、売買の目的たる右地位の瑕疵ということはできないということになろう。
四、二審判決は、本件建物の倒壊の危険を回避するためXが止むなく本件建物を取り壊したことを理由に、売買目的の滅失によっても解除権は失われないと説示する(民法五四八条二項)。もっとも、本件売買代金の大半を占めると二審判決が指摘する本件土地賃借権が、売買契約の解除によって売主に復帰するのかどうか、これを肯定した場合に、復帰する賃借権の内容が売主と地主との旧賃貸借なのか、これと切り換えられて新規に締結された買主と地主との賃貸借なのかといった点は明らかではない。

+(賃貸物の修繕等)
第606条
1項 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
2項 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

+(債権の売主の担保責任)
第569条
1項 債権の売主が債務者の資力を担保したときは、契約の時における資力を担保したものと推定する。
2項 弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは、弁済期における資力を担保したものと推定する。

・売主の瑕疵担保責任は、売買の時点で買主が当該瑕疵を知っていればこれを問うことはできないが、買主が当該瑕疵を知っていたということは、売主において主張立証しなければならない!!!!

・代金の一部だけを支払った段階で目的物について隠れた瑕疵があったことが明らかになり、損害賠償請求が認められる場合には、買主は、残代金の支払いについて、損害賠償との同時履行の抗弁を主張することができる!!!!!ヘーーーー
+(売主の担保責任と同時履行)
第571条
第533条の規定は、第563条から第566条まで及び前条の場合について準用する。

・買主の売主に対する瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権は、167条1項にいう「債権」に当たることから消滅時効の規定の適用がある!!!
子の消滅時効は、買主が売主の目的物の引き渡しを受けたときから(×目的物の瑕疵を知った時から)進行する!!!!
+判例(H13.11.27)
上告代理人秋山昭一の上告理由第二、一について
1 原審の確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 昭和48年2月18日、被上告人は、上告人から、第1審判決添付物件目録一記載の土地(以下「本件宅地」という。)及びその地上建物等を買い受け、その代金を支払った。同年5月9日、本件宅地につき上告人から被上告人への所有権移転登記がされ、そのころ、被上告人は上告人からその引渡しを受けた。
(2) 本件宅地の一部には、柏市昭和47年10月27日第157号をもって道路位置指定がされている。このため、本件宅地上の建物の改築に当たり床面積を大幅に縮小しなければならないなどの支障が生ずるので、道路位置指定がされていることは、民法570条にいう「隠レタル瑕疵」に当たる
(3) 被上告人は、平成6年2月ないし3月ころ、上記道路位置指定の存在を初めて知り、同年7月ころ、上告人に対し、道路位置指定を解除するための措置を講ずるよう求め、それができないときは損害賠償を請求する旨を通知した。

2 本件は、被上告人が上告人に対して瑕疵担保による損害賠償を求めた事案である。上告人は、被上告人の損害賠償請求権は時効により消滅したと主張し、本訴において消滅時効を援用した。
原審は、次のとおり判示して上告人の消滅時効の抗弁を排斥し、被上告人の損害賠償請求を一部認容した。
売主の瑕疵担保責任は、法律が買主の信頼保護の見地から特に売主に課した法定責任であって、売買契約上の債務とは異なるから、これにつき民法167条1項の適用はない。また、同法570条、566条3項が除斥期間を定めているのは、責任の追及を早期にさせて権利関係を安定させる趣旨を含むものであるが、他方で、その期間の起算点を「買主カ事実ヲ知リタル時」とのみ定めていることは、その趣旨が権利関係の早期安定だけでないことを示しているから、瑕疵担保による損害賠償請求権に同法167条1項を準用することも相当でない。このように解さないと、買主が瑕疵の存在を知っているか否かを問わずに損害賠償請求権の時効消滅を認めることとなり、買主に対し売買の目的物を自ら検査して瑕疵を発見すべき義務を負わせるに等しく、必ずしも公平といえない。

3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって、これが民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかである。!!!!この損害賠償請求権については、買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条、566条3項)、これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから、この除斥期間の定めがあることをもって、瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法167条1項の適用が排除されると解することはできない。さらに、買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば、遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し、瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると、買主が瑕疵に気付かない限り、買主の権利が永久に存続することになるが、これは売主に過大な負担を課するものであって、適当といえない。 
したがって、【要旨】瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である。
(2) 本件においては、被上告人が上告人に対し瑕疵担保による損害賠償を請求したのが本件宅地の引渡しを受けた日から21年余りを経過した後であったというのであるから、被上告人の損害賠償請求権については消滅時効期間が経過しているというべきである。

4 以上によれば、消滅時効の抗弁を排斥した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、上告人による消滅時効の援用が権利の濫用に当たるとの被上告人の再抗弁等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

++解説
一 本件は、Yから土地を購入したXが、この土地に隠れた瑕疵があったと主張して、Yに対し瑕疵担保による損害賠償を請求した事案である。Xがこの請求したのは、瑕疵を発見してから一年以内であり、民法五七〇条、五六六条三項所定の除斥期間内であったが、売買契約及び土地引渡しから二〇年以上経過した後であったため、Xの損害賠償請求権につき消滅時効の規定の適用があるかどうかが争点となった。
原審は、売主の瑕疵担保責任は法律が買主の信頼保護の見地から特に売主に課した法定責任であること、時効による権利の消滅を認めると、買主に対し売買の目的物を自ら検査して瑕疵を発見すべき義務を負わせるに等しく、公平といえないことなどを根拠に、消滅時効の抗弁を排斥して、Xの損害賠償請求を一部認容した。
これに対し、本判決は瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用がある旨を判示して、原判決を破棄したものである。このように解すべき根拠としては、(1)瑕疵担保による損害賠償請求権が民法一六七条一項にいう「債権」に当たることは明らかであること、(2)買主が事実を知った日から一年という除斥期間の定めは、法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから、除斥期間の定めがあることをもって、消滅時効の規定の適用が排除されるとはいえないこと、(3)買主が目的物の引渡しを受けた後であれば、遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないのに対し、消滅時効の規定の適用がないとすると、買主が瑕疵に気付かない限り、その権利が永久に存続することになるが、これは売主に過大な負担を課するものであって、適当といえないことが挙げられている。

二 瑕疵担保による損害賠償請求権につき、除斥期間に加え、消滅時効の規定の適用があるかについては、必ずしも深く論じられていないが、学説上は、肯定説を採るのが通説的見解と思われる(梅謙次郎・民法要義(3)五〇二頁、末弘厳太郎・債権各論三九八頁、柚木馨ほか編・新版注釈民法(14)二二二、二三三頁〔松岡久和〕、内田貴・民法Ⅱ債権各論一三六、一五一頁等。ただし、権利の一部が他人に属することや、数量不足又は目的物の一部滅失を理由とする担保責任についての文献を含む。)。他方、この点に関連する下級審の裁判例としては、いわゆる数量指示売買において数量が不足していた場合の代金減額請求権につき、責任の追及を早期にさせて権利関係をなるべく早く安定させるという民法五六四条の趣旨に照らし消滅時効の規定の適用がある旨を判示した大阪高判昭55・11・11判時一〇〇〇号九六頁がある。これに対し、本件の原判決のほか、担保責任が買主保護の規定であることを理由に、消滅時効の規定の適用を否定する裁判例もあり(目的物の一部が他人に属する場合の代金減額請求権に関する東京地判平9・8・26本誌九八一号一三〇頁)、下級審裁判例が分かれているといえる(このほか、東京高判昭54・8・28判時九四〇号四一頁は、売買契約から一〇年以上経過した後に買主が数量不足を知った事案につき、契約締結後長期間を経過したという事実のみをもって損害賠償を請求し得ないと解すべき合理的理由はない旨を判示するが、消滅時効の援用がされていなかった事案のようである。)。
このような状況の下で、本判決は、前記の理由により、瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があると判示したものである。
肯定説に対しては、瑕疵が隠れたものであることから、その存在に気付かない買主の保護に欠けるのでないかという批判も考えられる。しかし、この点については、瑕疵の性質(発見することの困難さの程度)、売主の悪意又は重過失、損害賠償請求をするまでの期間の長短等の事情によっては、売主による時効の援用が権利濫用に当たるなどとして、個別の事案ごとに買主の救済を図ることが可能と考えられる。本件においても、この点を更に審理させるために事件を原審に差し戻している。

三 なお、前記大阪高判昭55・11・11は、消滅時効の起算点は買主が目的物の引渡しを受けた時である旨を判示しており、学説上も同様に解するものが多い。本判決も、本件の消滅時効は引渡し時から進行する旨を述べている消滅時効の起算点については、権利を行使することにつき法律上の障害がなくなった時であるとするのが通説(我妻栄・新訂民法総則四八四頁)、判例の立場とされるが、権利の種類によっては、権利の性質上その行使を現実に期待できる時から進行すると解されている(弁済供託における供託金取戻請求権につき最大判昭45・7・15民集二四巻七号七七一頁、自動車損害賠償保障法七二条一項前段に基づく損害てん補請求権につき最三小判平8・3・5民集五〇巻三号三八三頁。なお、数量指示売買における代金減額請求権の除斥期間につき最一小判昭48・7・12民集二七巻七号七八五頁参照)。瑕疵担保による損害賠償請求権については、目的物引渡し前でも瑕疵に気付けば行使し得ることからすると、契約締結時を起算点とする考え方もあり得よう。他方、担保責任の規定の趣旨が買主の保護にあること、引渡しの前に隠れた瑕疵を発見するのは通常の場合著しく困難であることを考慮すると(時効による権利の消滅を認めると、実質的に、瑕疵発見の義務を買主に負わせることとなろうが、買主に検査及び瑕疵通知の義務が課せられている商人間の売買においても、この義務が生ずるのは「目的物ヲ受取リタルトキ」である。商法五二六条一項)、引渡し時を起算点とすることもできると思われる(もっとも、本件は、契約の締結及び引渡しから二〇年以上経過した後に損害賠償請求がされた事案であり、起算点をどう解するかは結論に影響しないといえる。)。フムフム
四 以上のとおり、本判決は、下級審裁判例が分かれていた民法の基本的な条項の解釈について最高裁の判断を示したものであるので、ここに紹介する。

・瑕疵担保責任を負う者に対する損害賠償請求権を保存するには、1年の除斥期間内に瑕疵担保責任を問う意思を裁判外で告げるだけで足り、裁判上の権利行使をする必要はない!!!!!
+判例(H4.10.20)
上告代理人藤井正博の上告理由第一点について
一 被上告人は、昭和六一年一〇月八日に破産宣告を受けていたが、原審口頭弁論終結後の平成二年三月二八日に破産廃止決定があり、その後右決定が確定している。
二 被上告人は上告人に対し、上告人から購入したパンティーストッキングに瑕疵があったと主張して、本訴で、その損害賠償請求額の残額四〇七万四六〇〇円とこれに対する遅延損害金の支払を請求している。

三 右請求に対し、上告人は、次のとおり主張した。本件売買は商人間の取引であるから、買主である被上告人には、商品の引渡しを受けた時点で遅滞なくその検査を行い、瑕疵があったときは、これを売主である上告人に通知すべき義務があった。しかるに、被上告人は、昭和五四年九月二七日に上告人から目的物の引渡しを受けその後相当の期間を経過したにもかかわらず、右通知を怠った。したがって、被上告人は上告人に対し、本件損害賠償請求権を有しない。商法五二六条によれば、商人間の売買において目的物に瑕疵があった場合、その損害賠償請求権は遅くとも六か月以内に行使されなければならないが、被上告人は、本件売買による損害の最終発生日である昭和五五年三月四日から三年以上も経過した昭和五八年一二月七日に本件訴状を提出して本件損害賠償請求権を行使したのであるから、被上告人の本訴請求は不適法である。

四 上告人の右主張に対し、原審は、被上告人は、昭和五四年一二月末ないし翌五五年一月初めに本件売買目的物の転売先から通知を受けて瑕疵を発見し、直ちに上告人に対しその通知をしたとの事実を認定した上、商法五二六条は、商人間の売買における買主の目的物に対する検査及び瑕疵ある場合の通知義務に関する規定であり、これを怠ったときは損害賠償を請求し得なくなるというものであって、権利の不行使による損害賠償請求権の消滅に関する規定ではないから、商法五二六条を根拠とする上告人の主張はそれ自体失当であるとして右主張を排斥し、請求に係る損害金全額とこれに対する遅延損害金の一部を認容した一審判決を支持して、上告人の控訴を棄却した。

五 しかし、原審の右判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
商法五二六条は、商人間の売買における目的物に瑕疵又は数量不足がある場合に、買主が売主に対して損害賠償請求権等の権利を行使するための前提要件を規定したにとどまり、同条所定の義務を履行することにより買主が行使し得る権利の内容及びその消長については、民法の一般原則の定めるところによるべきである。したがって、右の損害賠償請求権は、民法五七〇条、五六六条三項により、買主が瑕疵又は数量不足を発見した時から一年の経過により消滅すると解すべきであり、このことは、商法五二六条の規定による右要件が充足されたこととは関わりがない。そして、この一年の期間制限は、除斥期間を規定したものと解すべきであり、また、右各法条の文言に照らすと、この損害賠償請求権を保存するには、後記のように、売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り、裁判上の権利行使をするまでの必要はないと解するのが相当である。
これを本件についてみるのに、原審の確定したところによれば、被上告人は昭和五四年一二月末ないし翌五五年一月初めに、本件売買目的物に瑕疵があることを知ったものであるところ、その瑕疵があったことに基づく損害賠償を求める本訴を提起したのは、右の最終日から一年以上を経過した昭和五八年一二月七日であったことが記録上明らかである。そうすると、除斥期間の経過の有無について何ら判断することなく、被上告人の請求を認容すべきものとした原判決には理由不備の違法があり、原判決はこの点において破棄を免れない。そして、右に説示したところによれば、一年の期間経過をもって、直ちに損害賠償請求権が消滅したものということはできないが、右損害賠償請求権を保存するには、少なくとも、売主に対し、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある。本件についても、被上告人が売買目的物の瑕疵の通知をした際などに、右の態様により本件損害賠償請求権を行使して、除斥期間内にこれを保存したものということができるか否かにつき、更に審理を尽くさせるため、上告人の民訴法一九八条二項の裁判を求める申立てを含め、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

・契約の要素に錯誤がある場合は、錯誤の規定のみが適用され、瑕疵担保の規定は排除される!!
+判例(S33.6.14)
上告代理人岡田実五郎、同佐々木熈の上告理由第一点について。
しかし、原判決の適法に確定したところによれば、本件和解は、本件請求金額六二万九七七七円五〇銭の支払義務あるか否かが争の目的であつて、当事者である原告(被控訴人、被上告人)、被告(控訴人、上告人)が原判示のごとく互に譲歩をして右争を止めるため仮差押にかかる本件ジャムを市場で一般に通用している特選金菊印苺ジャムであることを前提とし、これを一箱当り三千円(一罐平均六二円五〇銭相当)と見込んで控訴人から被控訴人に代物弁済として引渡すことを約したものであるところ、本件ジャムは、原判示のごとき粗悪品であつたから、本件和解に関与した被控訴会社の訴訟代理人の意思表示にはその重要な部分に錯誤があつたというのであるから、原判決には所論のごとき法令の解釈に誤りがあるとは認められない。

同第二点について。
しかし、原判決は、本件代物弁済の目的物である金菊印苺ジャムに所論のごとき暇疵があつたが故に契約の要素に錯誤を来しているとの趣旨を判示しているのであり、このような場合には、民法瑕疵担保の規定は排除されるのであるから(大正一〇年一二月一五日大審院判決、大審院民事判決録二七輯二一六〇頁以下参照)、所論は採るを得ない。

・商事売買契約において、目的物に瑕疵があった場合には、瑕疵担保責任の内容として、買主は売主に対し、代金減額請求をすることはできない!!!
+(S29.1.22)
上告理由について。
売買の当事者双方が商人である、いわゆる商事売買の場合でも、売買の目的物の瑕疵又は数量の不足を理由として、契約を解除し、又は損害賠償若しくは代金の減額を請求するのは、民法の売買の規定に依拠すべきものである。しかして、民法の規定によれば、買主が売買の目的物に瑕疵あることを理由とするときは、契約を解除し、又は損害賠償の請求をすることはできるけれども、これを理由として代金の減額を請求することはできない。商法五二六条は以上民法で認められた売買の担保責任に基く請求権を保存するための要件に関する規定であつて、民法の規定するところ以外に新な請求権をみとめたものではないのである。原判決もこれと同趣旨であつて、論旨は理由はない。 !!!!

・債権の売主は、原則として債務者の資力を担保せず、例外的に売主が債務者の資力を担保するという特約をした場合のみ、債務者の資力を担保する責任を負う!!!!

・売主が債務者の資力を担保する特約をしたときは、契約の時における資力を(×弁済期)担保するものと推定される!!
+(債権の売主の担保責任)
第569条
1項 債権の売主が債務者の資力を担保したときは、契約の時における資力を担保したものと推定する
2項 弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは、弁済期における資力を担保したものと推定する。

・売主の瑕疵担保責任の法的性質に関する契約責任説は、売買の目的物が特定物か不特定物であるかを問わず、売主は契約で合意された完全な物を給付する債務を負うとする見解であり、瑕疵担保責任を債務不履行責任の特則とする。

・売主の瑕疵担保責任の法的性質に関する法定責任説によれば、売買の目的物が不特定物の場合、給付された物に瑕疵があれば、売主は、債務不履行責任のみを負うことになる。

・法廷責任説によると、特定物売買において、目的物に隠れた瑕疵があったときは、原則として法律上規定された損害賠償請求権及び解除権のみ認められることになり、瑕疵修補請求権は認められない!!!!

・法廷責任説によれば、買主が有する損害賠償請求権の範囲は、原則として信頼利益に限られる!!!!!!
←法廷責任説によれば、特定物売買においては、売主に瑕疵のない物を引渡す義務はないから(483条)、

・契約責任説によれば、不特定物売買か特定物売買かを問わず、売主は原則として瑕疵担保責任を負い、買主の瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権等の主張期間は、買主が瑕疵の存在を知った時から1年間となる。

・買主Aと売主Bの不特定物売買において、給付された物に隠れた瑕疵があった場合、Aが瑕疵の存在を認識したうえでこれを履行として認容したときには、AはBに対して瑕疵担保責任を問いうる!!!!!!
+判例(S36.12.15)
同第四点について。
所論は、不特定物の売買においては、売買目的物の受領の前と後とにそれぞれ不完全履行の責任と瑕疵担保の責任とが対応するという立場から、本件売買では被上告人が本件機械を受領したことが明らかである以上もはや不完全履行の責任を論ずる余地なきにかかわらず、原判決が債務不履行による契約解除を認めたのは、法令の違背であると論じている。
しかし、不特定物を給付の目的物とする債権において給付せられたものに隠れた瑕疵があつた場合には、債権者が一旦これを受領したからといつて、それ以後債権者が右の瑕疵を発見し、既になされた給付が債務の本旨に従わぬ不完全なものであると主張して改めて債務の本旨に従う完全な給付を請求することができなくなるわけのものではない債権者が瑕疵の存在を認識した上でこれを履行として認容し債務者に対しいわゆる瑕疵担保責任を問うなどの事情が存すれば格別、然らざる限り、債権者は受領後もなお、取替ないし追完の方法による完全な給付の請求をなず権を有し、従つてまた、その不完全な給付が債務者の責に帰すべき事由に基づくときは、債務不履行の一場合として、損害賠償請求権および契約解除権をも有するものと解すべきである。
本件においては、放送機械が不特定物として売買せられ、買主たる被上告人会社は昭和二七年四月頃から同年七月頃までこれを街頭宣伝放送事業に使用していたこと、その間雑音および音質不良を来す故障が生じ、上告人会社側の技師が数回修理したが完全には修復できなかつたこと、被上告人会社は昭和二七年六月初め上告人会社に対し機械を持ち帰つて完全な修理をなすことを求めたが上告人会社はこれを放置し修理しなかつたので、被上告人会社は街頭放送のため別の機械を第三者から借り受け使用するの止むなきに至つたこと、被上告人会社は昭和二七年一〇月二三日本件売買契約解除の意思表示をしたことが、それぞれ確定されている。右確定事実によれば、被上告人会杜は、一旦本件放送機械を受領はしたが、隠れた瑕疵あることが判明して後は給付を完全ならしめるよう上告人会社に請求し続けていたものであつて瑕疵の存在を知りつつ本件機械の引渡を履行として認容したことはなかつたものであるから、不完全履行による契約の解除権を取得したものといらことができる。原判決はこの理に従うものであつて所論の違法はない。