民法択一 債権各論 契約各論 消費貸借


・消費貸借契約は、借主のみが返済義務を負うことから、片務契約である(587条)。そして、利息付消費貸借契約の場合は、一定期間物を使用することができないという貸主の経済的損失に対応して、借主が利息という対価的関係を有する出損をすることから、有償契約である!

+(消費貸借)
第587条
消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
・消費貸借契約 要件事実
①金銭返還の合意②金銭の交付③弁済期の合意と考えられています。消費貸借契約や賃貸借契約といった賃借型と呼ばれる契約類型の場合には、一定の価値をある期間借主に利用させることに目的があるのですから、契約の目的物を受け取るや否や直ちに返還すべきことを内容とする賃借は無意味のはずです。したがって、消費貸借契約のような賃借型の契約は、その性質上、貸主において一定期間その目的物の返還を請求できないという拘束を伴う契約関係であるというべきです。このように解すると、③返還時期(弁済期)の合意は、賃借型の契約にとって不可欠の要素であると考えるべきです。これに対して、売買契約の場合には、契約が締結されれば直ちに履行期にあるとされるのが原則ですので、弁済期の合意は契約の本質的要素ではありません。

・消費貸借の予約は、その後に当事者の一方が破産開始の決定を受けたときは、その効力を失う!!
+(消費貸借の予約と破産手続の開始)
第589条
消費貸借の予約は、その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。
←理由としては
貸主が金銭等を貸与し、借主が返還の義務を負わせるという信用の基礎が損なわれるため。

・貸主が買主に対して自己の銀行口座の預金通帳と印章を交付すれば、消費貸借契約は成立する!!!!ヘーーーー
←現実に金銭の授受がなかったとしても、借主をして現実の授受と同一の経済上の利益を得させるような場合には、消費貸借契約が成立する!!!

・金銭の授受前に公正証書が作成されたとしても、授受時から債務名義としての効力を生ずるとして、金銭の授受の2か月半前に作成した公正証書の債務名義としての効力を認めている!!

・民法上の消費貸借契約は書面に基づいて締結される必要はない!

・AのBに対する利息請求が認められるためには、AはBとの間で利息支払いの合意をしたことを主張立証する必要がある!

・貸金返還請求訴訟において、貸金元本の請求では、消費貸借契約に基づく貸金返還請求権
利息の請求では、利息契約に基づく利息請求権
遅延損害金の請求では、履行遅滞に基づく損害賠償請求権
が訴訟物となる!!
=1個の訴訟物の中に包含されるわけではない!!

・原告が、貸金返還請求訴訟で一部請求をしており、これに対し被告が、請求の全部棄却の判決を得るために弁済の抗弁を主張する場合、原告が請求している部分のみではなく、請求していない部分全体についても弁済の事実を主張立証しなければならない!!!!

+判例(S48.4.5)
同第二点について。
記録によれば、本件の経過は、次のとおりである。すなわち、
被上告人Bは、第一審において、療養費二九万六二六六円も逸失利益一一二八万三六五一円、慰藉料二〇〇万円の各損害の発生を主張し、療養費、慰藉料の各全額と逸失利益の内金一五〇万円との支払を求めるものであるとして、合計三七九万六二六六円の支払を請求したところ、第一審判決は、療養費、慰藉料については右主張の全額、逸失利益については九一六万〇六一四円の各損害の発生を認定し、合計一一四五万六八八〇円につき過失相殺により三割を減じ、さらに支払済の保険金一〇万円を差し引いて、上告人の支払うべき債務総額を七九一万九八一六円と認め、その金額の範囲内である同被上告人の請求の全額を認定した。
上告人の控訴に対し、原審において、被上告人Bは、第一審判決の右認定のとおり、逸失利益の額を九一六万〇六一四円、損害額の総計を一一四五万六八八〇円と主張をあらためたうえ、みずから過失相殺として三割を減じて、上告人の賠償すべき額を八〇一万九八一六円と主張し、附帯控訴により請求を拡張して、第一審の認容額との差額四二二万三五五〇円の支払を新たに請求した(弁護士費用の賠償請求を除く。以下同じ。)ところ、これに対し、上告人は右請求拡張部分につき消滅時効の抗弁を提出した。原判決は、療養費および逸失利益の損害額を右主張のとおり認定したうえ、その合計九四五万六八八〇円から過失相殺により七割を減じた二八三万七〇六四円について上告人が支払の責を負うべきものであるとし、また、慰藉料の額は被上告人Bの過失をも斟酌したうえ七〇万円を相当とするとし、支払済の保険金一〇万円を控除して、結局上告人の支払うべき債務総額を三四三万七〇六四円と認め、第一審判決を変更して、右金額の支払を命じ、その余の請求を棄却し、さらに、附帯控訴にかかる請求拡張部分は、右損害額をこえるものであるから、右消滅時効の抗弁について判断するまでもなく失当であるとして、その部分の請求を全部棄却したものである。
右の経過において、第一審判決がその認定した損害の各項目につき同一の割合で過失相殺をしたものだとすると、その認定額のうち慰藉料を除き財産上の損害(療養費および逸失利益。以下同じ。)の部分は、(保険金をいずれから差し引いたかはしばらく措くとして。)少なくとも二三九万六二六六円であつて、被上告人Bの当初の請求中財産上の損害として示された金額をこえるものであり、また、原判決が認容した金額のうち財産上の損害に関する部分は、少なくとも(保険金について右と同じ。)二七三万七〇六四円であつて、右のいずれの額をもこえていることが明らかである。しかし、本件のような同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは、原因事実および被侵害利益を共通にするものであるから、その賠償の請求権は一個であり、その両者の賠償を訴訟上あわせて請求する場合にも、訴訟物は一個であると解すべきである。したがつて、第一審判決は、被上告人Bの一個の請求のうちでその求める全額を認容したものであつて、同被上告人の申し立てない事項について判決をしたものではなく、また、原判決も、右請求のうち、第一審判決の審判および上告人の控訴の対象となつた範囲内において、その一部を認容したものというべきである。そして、原審における請求拡張部分に対して主張された消滅時効の抗弁については、判断を要しなかつたことも、明らかである。
次に、一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に、過失相殺をするにあたつては、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額をこえないときは右残額を認容し、残額が請求額をこえるときは請求の全額を認容することができるものと解すべきである。このように解することが一部請求をする当事者の通常の意思にもそうものというべきであつて、所論のように、請求額を基礎とし、これから過失割合による減額をした残額のみを認容すべきものと解するのは、相当でない。したがつて、右と同趣旨において前示のような過失相殺をし、被上告人Bの第一審における請求の範囲内において前示金額の請求を認容した原審の判断は、正当として是認することができる
以上の点に関する原審の判断の過程に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

+判例(H6.11.22)
同二について
特定の金銭債権のうちの一部が訴訟上請求されているいわゆる一部請求の事件において、被告から相殺の抗弁が提出されてそれが理由がある場合には、まず、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである
けだし、一部請求は、特定の金銭債権について、その数量的な一部を少なくともその範囲においては請求権が現存するとして請求するものであるので、右債権の総額が何らかの理由で減少している場合に、債権の総額からではなく、一部請求の額から減少額の全額又は債権総額に対する一部請求の額の割合で案分した額を控除して認容額を決することは、一部請求を認める趣旨に反するからである。
そして、一部請求において、確定判決の既判力は、当該債権の訴訟上請求されなかった残部の存否には及ばないとすること判例であり(最高裁昭和三五年(オ)第三五九号同三七年八月一〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一七二〇頁)、相殺の抗弁により自働債権の存否について既判力が生ずるのは、請求の範囲に対して「相殺ヲ以テ対抗シタル額」に限られるから、当該債権の総額から自働債権の額を控除した結果残存額が一部請求の額を超えるときは、一部請求の額を超える範囲の自働債権の存否については既判力を生じない!!!!。したがって、一部請求を認容した第一審判決に対し、被告のみが控訴し、控訴審において新たに主張された相殺の抗弁が理由がある場合に、控訴審において、まず当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額が第一審で認容された一部請求の額を超えるとして控訴を棄却しても、不利益変更禁止の原則に反するものではない
そうすると、原審の適法に確定した事実関係の下において、被上告人の請求債権の総額を第一審の認定額を超えて確定し、その上で上告人が原審において新たに主張した相殺の自働債権の額を請求債権の総額から控除し、その残存額が第一審判決の認容額を超えるとして上告人の控訴を棄却した原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

・原告の貸金返還請求に対して弁済の抗弁を主張する場合、被告は、弁済の事実として、債務の本旨に従った金銭の交付当該金銭交付がその債権についてなされたことを主張立証する必要がある!!!!
+判例(S30.7.15)
上告代理人弁護士高橋義一郎、同鈴木紀男の上告理由第一点について。
弁済の抗弁については、弁済の事実を主張する者に立証の責任があり、その責任は、一定の給付がなされたこと及びその給付が当該債務の履行としてなされたことを立証して初めてつくされたものというべきであるから、裁判所は、一定の給付のなされた事実が認められても、それが当該債務の履行としてなされた事実の証明されない限り、弁済の点につき立証がないとして右抗弁を排斥することができるのであつて、右給付が法律上いかなる性質を有するかを確定することを要しないものと解するを相当とする
そこで本件の場合はどうかというと、原判決は、証拠により上告人等から被上告人に対して所論各金員の給付がなされたことはあるが、右はいづれも本件消費貸借債務の弁済として給付がなされたものでなかつたことを認めることができるものとしているのであるから、積極的に右給付の法律上の性質までも判示する必要がないものといわなければならない。されば、原判決が上告人の弁済の抗弁を排斥したことは正当であつて、論旨は理由がない。

・原告の貸金返還請求に対し、被告が弁済の抗弁を主張しそれが第三者の弁済である場合、当事者が反対の意思表示をしたこと(474条1項ただし書き)の主張立証責任は、第三者弁済の無効を主張する原告側にある!!!

・旧債務に付着していた同時履行の抗弁権が消滅するか否かは、準消費貸借契約を締結した当事者において、新旧債務の同一性を維持する意思があるか否かによって決定される!!!

・準消費貸借上の債務の消滅時効は、旧債務の消滅時効と関係なく、準消費貸借が商行為であった場合、商行為上の債権として5年の時効にかかる!

・将来において発生する金銭債務を目的としても準消費貸借契約は成立する!!!!
+判例(S40.10.7)
上告代理人高橋万五郎の上告理由第一について。
当事者間において将来金員を貸与することあるべき場合、これを準消費貸借の目的とすることを約しうるのであつて、その後該債務が生じたとき、その準消費貸借契約は当然に効力を発生するものと解すべきである。しかして、所論の準消費貸借は所論の金四万円の貸与前に締結されたものであるが、その後右金四万円の貸与のあつたことは、原判文上明らかである。それ故、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用に値しない。
同第二について。本件当事者間において、昭和三三年二月二二日準消費貸借契約締結の際、所論の(イ)及び(ロ)の各貸金五万円に対する利息の合意が成立したことは原判文上明らかであり、かつその利率が利息制限法所定の制限をこえるものでなかつたことは、同法一条の規定に照らして明らかである。所論は、畢竟、原判決を正解しないでこれを非難するに帰する。原判決には何等所論の違法はなく、論旨は採用に値しない。
同第三について。
原審の認定したところによれば、昭和三四年二月二日本件当事者間において、既存債務を目的として、準消費貸借契約が成立したというのであつて、右認定は挙示の証拠によつて肯認しうるところである。しかして、準消費貸借は既存債務の存在を前提とするものであるから、既存債務が存在せず、または無効のときは、新債務はその有効に存したる範囲に減縮されるべきであるが、所論既存債務についての主張は単に右準消費貸借の成立過程に関するものであつて、この点に関し原判示のごとき認定をしても、何等所論の違法があるものとは認め難く、結局論旨は理由なきに帰し、採用しえない。

+++準消費貸借について
<民法>
(準消費貸借)
第588条
消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。

(1)Aが、Bから自動車を買って 代金(売掛金)を支払う義務を負っているところ、Aが支払えないものだから、A・B間で「お金を貸した・借りた事にする」と契約したときは、同日付をもって、「代金支払債務」が「借入金債務」になる(振り替わる)のです。
(2)Aは返済期の延長をする事のために 準消費貸借契約を利用出来ます。
Bは、売買代金に当初の弁済期までの利息相当額が上乗せされていたが、それを過ぎて支払いが猶予される場合は、準消費貸借契約締結に際して、「利息の定め」を契約する事によって、以後の(弁済期までの)利息・損害金を確保出来ます。
(3)「売買契約による代金債権」の効力と、「消費貸借契約による貸金債権」の効力には、法律上 差異があります。
Aにとっては、民法591条が適用されるので、お金が工面出来た時点でいつでも期限前弁済が出来ます。又、Aにとって、Bの有する代金債権には 売買物(売った車)に対する先取特権が存在するが、準消費貸借契約をする事によって 先取特権が無くなる(消滅する)というメリットが あります。ヘーーーー
(3)元の代金債務と 準消費貸借債務の間には、「債務の同一性」が有るとされ、担保や、同時履行の抗弁権といった法律関係は、そのまま新債務(準消費貸借債務)に移行し(引き継がれ)ます。

+(返還の時期)
第591条
1項 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
2項 借主は、いつでも返還をすることができる。

・既存の消費貸借契約上の債務を旧債務としても、準消費貸借契約は成立する!!!!

・準消費貸借契約は、目的とされた旧債務が存在しないときはその効力を生じない!!!
+判例(S43.2.16)
同第一の三について。
準消費貸借契約は目的とされた旧債務が存在しない以上その効力を有しないものではあるが、右旧債務の存否については、準消費貸借契約の効力を主張する者が旧債務の存在について立証責任を負うものではなく、旧債務の不存在を事由に準消費貸借契約の効力を争う者においてその事実の立証責任を負うものと解するを相当とするところ、原審は証拠により訴外居藤と上告人間に従前の数口の貸金の残元金合計九八万円の返還債務を目的とする準消費貸借契約が締結された事実を認定しているのであるから、このような場合には右九八万円の旧貸金債務が存在しないことを事由として準消費貸借契約の効力を争う上告人がその事実を立証すべきものであり、これと同旨の原審の判断は正当であり、論旨は理由がない。

・原告が準消費貸借の成立を主張していない場合には、裁判所は、原告の消費貸借に基づく支払い請求を、準消費貸借に基づく請求として認容することができる!!!!!!!!
+判例(S41.10.6)
上告代理人清水正雄の上告理由について。
原審の事実認定は挙示の証拠によつて肯認し得るところである。しかして本件訴訟の第一審以来の経過にかんがみるときは、原審が上告人申請の証人及び上告人本人を取調べなかったことをもつて、民訴法二五九条の証拠採否の裁量の範囲を逸脱したものと認め難く、また本件金三万円の債権につき原審は所論のごとき認定をしたのであるが、当事者が金銭消費貸借に基づき金員支払を求める場合において、その貸借が現金の授受によるものでなく、既存債務を目的として成立したものと認めても、当事者の主張に係る範囲内においてなした認定でないとはいい得ないから、畢竟、原判決には何等所論の違法はなく、論旨は採用に値しない。

・準消費貸借契約に基づく債務は、既存債務と同一性を維持し、既存契約成立後であって準消費貸借成立前に特定債権者のためになされた債務者の行為は、詐害行為としてこれを取り消すことができる!!!
+判例(S50.7.17)

 上告代理人菅生浩三の上告理由第二点について。 
 準消費貸借契約に基づく債務は、当事者の反対の意思が明らかでないかぎり、既存債務と同一性を維持しつつ、単に消費貸借の規定に従うこととされるにすぎないものと推定されるのであるから、既存債務成立後に特定債権者のためになされた債務者の行為は、詐害行為の要件を具備するかぎり、準消費貸借契約成立前のものであつても、詐害行為としてこれを取り消すことができるものと解するのが相当である。これと見解を異にする所論引用の大審院大正九年(オ)第六〇二号同年一二月二七日判決・民録二六輯二〇九六頁の判例は、変更すべきものである。ところで、原審の確定したところによれば、被上告人日機工業株式会社は、昭和四〇年二月一五日債務超過により倒産した訴外興和機械株式会社(以下訴外会社という。)に対し、昭和三九年九月一〇日から昭和四〇年一月三〇日までの間に生じた貸金債権金二九九万二八四〇円及び売買代金債権金五一一万五七四〇円を有していたが、同年二月二四日、訴外会社との間で、右各債権の合計金八一〇万八五八〇円を消費貸借の目的とする準消費貸借契約を締結したところ、訴外会社は、右契約締結前の同年二月一九日に、債権者の一人である上告人に対し、他の債権者を害する意思をもつて、自己の被上告人椿本興業株式会社に対する請負代金債権を譲渡し、右譲渡の通知書は同年二月二一日同被上告人に到達したというのであり、右事実によれば、右債権譲渡行為を詐害行為として取消を求める被上告人日機工業株式会社の請求を認容した原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。 
・準消費貸借契約は、旧債務の存否については、旧債務の不存在を事由に準消費貸借契約の効力を争う者においてその事実の立証責任を負う!!!
+判例(S43.2.16)
 同第一の三について。 
 準消費貸借契約は目的とされた旧債務が存在しない以上その効力を有しないものではあるが、右旧債務の存否については、準消費貸借契約の効力を主張する者が旧債務の存在について立証責任を負うものではなく、旧債務の不存在を事由に準消費貸借契約の効力を争う者においてその事実の立証責任を負うものと解するを相当とするところ、原審は証拠により訴外居藤と上告人間に従前の数口の貸金の残元金合計九八万円の返還債務を目的とする準消費貸借契約が締結された事実を認定しているのであるから、このような場合には右九八万円の旧貸金債務が存在しないことを事由として準消費貸借契約の効力を争う上告人がその事実を立証すべきものであり、これと同旨の原審の判断は正当であり、論旨は理由がない。
+準消費貸借の要件事実
 準消費貸借契約についての証明責任の分配
 本件において原告Xは、準消費貸借契約に基づく貸金返還請求をしているのであるから、まず準消費貸借契約の成立を主張することが考えられる。そこで、準消費貸借契約成立の要件事実はなにかが問題となる。
 民法588条の条文によると、準消費貸借契約は①旧債務が準消費貸借契約の合意時点で存在したこと、②旧債務をを消費貸借の目的とすることについて合意したことの2つが要件事実となり、これらがXが証明責任を負う請求原因事実であるかのように見える。
 たしかに上記の見解は条文の表現に合致するが、準消費貸借契約では旧証書が破棄され新証書にはあたかも新たな消費貸借契約が行われたかのような表示がなされるのが通常であるといわれており、そのような実情のものと①について旧債務の存在についての証明責任を債権者が負うことになると、旧債務の存在を立証することは困難である場合が多く、通常の消費貸借契約の場合の債権者の負う証明責任の範囲が重くなり妥当ではない。また、準消費貸借は旧債務関係の単純化を図る目的を持つから債権者の証明の容易化も意図されているといえる。
 よって、①の事実は請求原因事実にはあたらず、原告Xは②について請求原因事実として証明責任を負う。そうすると、準消費貸借契約の合意時点での旧債務の不存在については抗弁となり債務者が証明責任を負う。
・売買代金債務につき準消費貸借契約を締結した場合、買主の売主に対する所有権移転登記手続請求に対して、売主は、買主が当該準消費貸借契約上の未払債務を弁済するまでは、所有権移転登記手続債務の履行を拒むことができる!!!
+判例(S62.2.13)
 同第二点について 
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人の上告人三沢紀昭に対する第一審判決添付の物件目録(二)記載の土地についての所有権移転登記手続債務と同上告人の被上告人に対する本件準消費貸借契約上の債務とが同時履行の関係に立ち、被上告人は、同上告人が本件準消費貸借契約上の未払債務を弁済するまでは、右所有権移転登記手続債務の履行を拒むことができるものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の認定に副わない事実に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。