民法 基本事例で考える民法演習 不動産物権変動と賃貸人の地位の移転~契約の解除と第三者


1.小問1について(基礎編)

+(解除の効果)
第五百四十五条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

・「第三者」=当事者間に契約があることを前提として、解除前に法律関係に入った者

+判例(S33.6.14)
理由
上告代理人弁護士森良作、同石川泰三、同飯沢進、同山田尚の上告理由第一点及び第三点について。
原判決はその挙示の証拠によつて、昭和二〇年一〇月九日上告人Aは自己の所有に属し且つ自己名義に所有権取得登記の経由されてある本件土地を上告人Bに売り渡し、上告人Bは同二一年四月一〇日被上告人にこれを転売し、それぞれ所有権を移転したが、上告人両名間の右売買契約は昭和二二年一二月二〇日両者の合意を以て解除されたものと認定し、次いで、右契約解除は合意に基くものであつても民法五四五条一項但書の法意によつて第三者の権利を害することを得ないから、既に取得している被上告人の所有権はこれを害するを得ないとの趣意の下に、被上告人が上告人Bに代位して上告人Aに対し上告人B名義に本件土地の前示売買に因る所有権移転登記手続を求める請求及び右請求が是認されることを前提とした被上告人の上告人Bに対する前示売買に基く所有権移転登記手続請求をそれぞれ容認したものであることは、判文上明らかである。
思うにいわゆる遡及効を有する契約の解除が第三者の権利を害することを得ないものであることは民法五四五条一項但書の明定するところである。合意解約は右にいう契約の解除ではないが、それが契約の時に遡つて効力を有する趣旨であるときは右契約解除の場合と別異に考うべき何らの理由もないから、右合意解約についても第三者の権利を害することを得ないものと解するを相当とする。しかしながら、右いずれの場合においてもその第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由していないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきであるけだし右第三者を民法一七七条にいわゆる第三者の範囲から除外しこれを特に別異に遇すべき何らの理由もないからである。してみれば、被上告人の主張自体本件不動産の所有権の取得について登記を経ていない被上告人は原判示の合意解約について右にいわゆる権利を害されない第三者として待遇するを得ないものといわざるを得ない右合意解約の結果上告人Bは本件物件の所有権を被上告人に移転しながら、他方上告人Aにこれを二重に譲渡しその登記を経由したると同様の関係を生ずべきが故に、上告人Aは被上告人に対し右所有権を被上告人に対抗し得へきは当然であり、従つて原判示の如く被上告人は上告人Aに対し自己の登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有しないものとは論ずるを得ないものである)。のみならず、原判決は上告人Bが上告人Aに対して有する前示両者間の売買契約に基く所有権移転登記請求権を被上告人において代位行使する請求を是認しているのであるから、上告人Aが被上告人に対し右売買契約は上告人Bとの間の合意解約によつてすでに消滅していることを主張し得べきは当然の筋合であると云わなければならない。けだし上告人Aとしては上告人Bから前示移転登記手続方を直接に請求された場合当然に主張し得べき前示合意解約の抗弁を被上告人が上告人Bに代位して移転登記手続を請求してきた場合これを奪わるべき理由がないからである。但し、右合意解約が当事者間の通謀による虚偽の意思表示であるとか、或は被上告人が原審以来主張している事情の立証されたときは格別である。
以上のとおりであるから、本上告論旨は結局理由あるに帰し、従つて本件上告はその理由あり、原判決は到底破棄を免れないものと認める。
よつて、爾余の論点に対する判断を省略し民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

2.小問1について(応用編)
+(他人の権利の売買における売主の義務)
第五百六十条  他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
+(有償契約への準用)
第五百五十九条  この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
・履行不能になる
+判例(S42.6.22)
理由 
 上告代理人身深正男の上告理由について。 
 賃貸借の目的物たる家屋が滅失した場合には、賃貸借の趣旨は達成されなくなるから、これによつて賃貸借契約は当然に終了すると解すべきであるが、家屋が火災によつて滅失したか否かは、賃貸借の目的となつている主要な部分が消失して賃貸借の趣旨が達成されない程度に達したか否かによつてきめるべきであり、それには消失した部分の修復が通常の費用では不可能と認められるかどうかをも斟酌すべきである。ところで、本件建物は、大正末期頃建築された建物を昭和二六年六月頃戦災復興区画整理のため現在地に移築されたものであつて、後記類焼を受けた昭和三八年一一月二六日当時すでに相当古い建物であり、上告人壽雄は被上告人からこれを昭和二七年一一月一七日賃借し、その二階部分を写真の写場、応接室とし、階下部分を住居として使用し、写真館を経営していたところ、昭和三八年一一月二六日本件建物の隣家からの出火により、本件建物は類焼をうけ、そのため、スレート葺二階屋根と火元隣家に接する北側二階土壁は殆んど全部が焼け落ち、二階の屋根に接する軒下の板壁はところどころ燻焼し、二階内側は写場、応接室ともに天井の梁、軒桁、柱、押入等は半焼ないし燻焼し、床板はその一部が燻焼し、二階部分の火災前の建築材は殆んど使用にたえない状態に焼損し、階下は、火元の隣家に接する北側土壁はその大半が破傷し、火災の直接被害をうけなかつたのは、火元の隣家に接する北側の階上階下の土壁を除いた三方の外板壁と階下の居住部分だけであり、本件建物は罹災のままの状態では風雨を凌ぐべくもない状況で、倒壊の危険さえも考えられるにたち至り、そのため火災保険会社は約九割の被害と認めて保険金三〇万円のうち金二七万円を支払つたこと、また本件建物を完全に修復するには多額の費用を要し、その将来の耐用年数を考慮すると、右破損部分を修復するよりも、却つてその階上階下の全部を新築する方がより経済的であること、もつとも、右のとおり、本件建物の階下居住部分は概ね火災を免れていて、全焼とみられる二階部分をとりこわし、屋根をつけるなどの修繕をして本件の建物を一階建に改造することは物理的に不可能ではないが、一階建に改造したのでは、階下部分の構造や広さに鑑み、写真館として使用することが困難であることは、原判決が、適法に認定判断したところである。 
 この認定事実を前記説示に照らして考えれば、本件建物は類焼により全体としてその効用を失ない滅失に帰したと解するのが相当である。してみれば、本件建物が滅失したことにより被上告人と上告人壽雄との間の賃貸借契約は終了したとして被上告人の上告人らに対する本訴請求を認容した原判決は正当であつて、何ら所論の違法はない。論旨は理由がない。 
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 大隅健一郎) 
+判例(H14.3.28)
理由 
 上告代理人桑島英美、同川瀬庸爾の上告受理申立て理由について 
 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 
 (1) 被上告人は、昭和50年初めころ、ビルの賃貸、管理を業とする日本ビルプロヂェクト株式会社(以下「訴外会社」という。)の勧めにより、当時の被上告人代表者が所有していた土地の上にビルを建築して訴外会社に一括して賃貸し、訴外会社から第三者に対し店舗又は事務所として転貸させ、これにより安定的に収入を得ることを計画し、昭和51年11月30日までに原判決別紙物件目録記載の1棟のビル(以下「本件ビル」という。)を建築した。本件ビルの建築に当たっては、訴外会社が被上告人に預託した建設協力金を建築資金等に充当し、その設計には訴外会社の要望を最大限に採り入れ、訴外会社又はその指定した者が設計、監理、施工を行うこととされた。 
 (2) 本件ビルの敷地のうち、小田急線下北沢駅に面する角地に相当する部分51.20㎡は、もとAの所有地であったが、被上告人代表者は、これを本件ビル敷地に取り込むため、訴外会社を通じて買収交渉を行い、訴外会社がAに対し、ビル建築後1階のA所有地にほぼ該当する部分を転貸することを約束したので、Aは、その旨の念書を取得して、上記土地を被上告人に売却した。 
 (3) 被上告人は、昭和51年11月30日、訴外会社との間で、本件ビルにつき、期間を同年12月1日から平成8年11月30日まで(ただし、被上告人又は訴外会社が期間満了の6箇月前までに更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、更新される。)とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。被上告人は、本件賃貸借において、訴外会社が本件ビルを一括又は分割して店舗又は事務所として第三者に転貸することをあらかじめ承諾した。 
 (4) 訴外会社は、昭和51年11月30日、Aとの間で、本件ビルのうちAの従前の所有地にほぼ照合する原判決別紙物件目録記載一及び二の部分(以下「本件転貸部分」という。)につき、期間を同日から平成8年11月30日まで、使用目的を店舗とする転貸借契約(以下「本件転貸借」という。)を締結した。 
 (5) Aは、昭和51年11月30日に被上告人及び訴外会社の承諾を得て、株式会社京樽(以下「京樽」という。)との間で、本件転貸部分のうち原判決別紙物件目録記載二の部分(以下「本件転貸部分二」という。)につき、期間を同年12月1日から5年間とする再転貸借契約(以下「本件再転貸借」という。)を締結し、京樽はこれに基づき本件転貸部分二を占有している。京樽については平成9年3月31日に会社更生手続開始の決定がされ、上告人らが管財人に選任された。 
 (6) 訴外会社は、転貸方式による本件ビルの経営が採算に合わないとして経営から撤退することとし、平成6年2月21日、被上告人に対して、本件賃貸借を更新しない旨の通知をした。 
 (7) 被上告人は、平成7年12月ころ、A及び京樽に対し、本件賃貸借が平成8年11月30日に期間の満了によって終了する旨の通知をした。 
 (8) 被上告人は、本件賃貸借終了後も、自ら本件ビルを使用する予定はなく、A以外の相当数の転借人との間では直接賃貸借契約を締結したが、Aとの間では、被上告人がAに対し京樽との間の再転貸借を解消することを求めたため、協議が調わず賃貸借契約の締結に至らなかった。 
 (9) 京樽は昭和51年12月から本件転貸部分二において寿司の販売店を経営しており、本件ビルが小田急線下北沢駅前という立地条件の良い場所にあるため、同店はその経営上重要な位置を占めている。 
 2 被上告人の本件請求は、上告人らに対し所有権に基づいて本件転貸部分二の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めるものであるところ、上告人らは、信義則上、本件賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人である京樽に対抗することができないと主張している。 
 原審は、上記事実関係の下で、被上告人のした転貸及び再転貸の承諾は、A及び京樽に対して訴外会社の有する賃借権の範囲内で本件転貸部分二を使用収益する権限を付与したものにすぎないから、転貸及び再転貸がされた故をもって本件賃貸借を解除することができないという意義を有するにとどまり、それを超えて本件賃貸借が終了した後も本件転貸借及び本件再転貸借を存続させるという意義を有しないこと、本件賃貸借の存続期間は、民法の認める最長の20年とされ、かつ、本件転貸借の期間は、その範囲内でこれと同一の期間と定められているから、A及び京樽は使用収益をするに足りる十分な期間を有していたこと、訴外会社は、その採算が悪化したために、上記期間が満了する際に、本件賃貸借の更新をしない旨の通知をしたものであって、そこに被上告人の意思が介入する余地はないことなどを理由として、被上告人が信義則上本件賃貸借の終了をA及び京樽に対抗し得ないということはできないと判断した。 
 3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 
 前記事実関係によれば、被上告人は、建物の建築、賃貸、管理に必要な知識、経験、資力を有する訴外会社と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に、訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し、その全体を一括して訴外会社に貸し渡したものであって、本件賃貸借は、訴外会社が被上告人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり、被上告人による転貸の承諾は、賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく、自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識、経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに、被上告人も、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、訴外会社から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきである。他方、京樽も、訴外会社の業種、本件ビルの種類や構造などから、上記のような趣旨、目的の下に本件賃貸借が締結され、被上告人による転貸の承諾並びに被上告人及び訴外会社による再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。そして、京樽は現に本件転貸部分二を占有している。 
 【要旨】このような事実関係の下においては、本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的を達成するために行われたものであって、被上告人は、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、京樽による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから、訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても、被上告人は、信義則上、本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず、京樽は、本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。このことは、本件賃貸借及び本件転貸借の期間が前記のとおりであることや訴外会社の更新拒絶の通知に被上告人の意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されるものではない。 
 これと異なり、被上告人が本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗し得るとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、この趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の請求を棄却した第1審判決の結論は正当であるから、上記部分についての被上告人の控訴を棄却すべきである。 
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 町田顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子) 
++解説
《解  説》
 本件は、一棟のビルを所有し賃貸していた会社が、賃借人からの更新拒絶によって賃貸借が終了したとして、ビルの一室の再転借人に対し、貸室の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めた事案である。
 原告は、昭和五〇年初めころ、ビルの賃貸、管理を業とする訴外甲株式会社の勧めにより、原告代表者所有の土地上にビルを建築して甲に一括して賃貸し、甲から第三者に店舗又は事務所として転貸させ、賃料の支払を受けるということを計画し、本件ビルを建築した。このような経緯から、本件ビルの建築に当たっては、甲の拠出した建設協力金が建築資金に充てられ、設計、施工は甲の要望を採り入れて行われた。原告は、昭和五一年に期間二〇年の約定で本件ビル全体を甲に賃貸し、それと同時に、甲は、原告承諾の下に、その一室である本件店舗部分を期間二〇年間の約定で訴外乙に転貸し、さらに乙は、原告と甲の承諾の下に、同部分を期間五年の約定で丙に再転貸した。その後、この再転貸借は更新され、現在も丙が同部分を店舗として使用している。
 甲は、平成八年に原告との賃貸借の期間が満了するに際し、転貸方式による本件ビルの経営が採算に合わないとして、更新拒絶をした。原告は、賃貸借が終了した以上、再転借人である丙は本件店舗部分の占有権原を原告に対抗できないと主張して、丙の更生管財人である被告らに対して同部分の明渡しを求めた。これに対し、被告らは、原告は信義則上賃貸借の終了を丙に対抗できないと反論した。
 第一審は、賃貸借の期間満了による終了により、特段の事情がない限り、転貸借は終了するが、賃借人が賃貸借を当然更新できるのにあえて更新を拒絶することは、賃借権の放棄と解する余地もあり、抵当権の目的である地上権の放棄をもって当該抵当権者に対抗することができない旨を定めた民法三九八条の趣旨や、原告が本件店舗部分の明渡しを求める必要に比べて丙の営業継続の必要が大であることを考慮すると、上記特段の事情があるというべきであるから、原告は本件賃貸借の終了をもって丙に対抗できないとして、請求を棄却した。
 これに対して、原審は、旧借家法四条の文理からは、期間の満了による賃貸借の終了は、それが賃借人からの更新拒絶によるものであるとしても、特段の事情がない限り、転借人に対抗することができるものというべきであり、このことは、本件がいわゆるサブリースの事案であることによっても異なるものではなく、原告による転貸及び再転貸の承諾は、丙に対して甲の有する賃借権の範囲内で貸室を使用収益する権限を付与したものにすぎず、賃貸借の終了後も転貸借や再転貸借を存続させるという意義を有するものではないから、特段の事情があるとはいえないなどとして、原告は、賃貸借の終了を丙に対抗し得ると判断し、請求を認容した。
 これに対して、被告らが上告受理申立てをしたのが本件であり、本判決は、本件事実関係の下においては、原告は、賃貸借の終了を信義則上丙に対抗することができないとして、原判決を破棄し、請求を棄却した第一審判決に対する原告の控訴を棄却する旨の自判をした。
 一般に、転借権は、賃借権の上に成立しているものであり、賃借権が消滅すれば、転借権はその存在の基礎を失うとされている(我妻榮・債権各論(中)Ⅰ四六三頁、金山正信・契約法大系(7)一頁等)。
 もっとも、賃貸借と転貸借は別個の契約であり、賃貸借が消滅すれば転貸借も当然に消滅するというわけではなく、賃貸人の承諾を得て適法な転貸借が成立した以上は、転借人の利益も一定の保護に値する。そこで、判例は、賃貸借の合意解除の場合は信義則上原則として転借人に対抗できないとしている(最一小判昭37・2・1裁判集民五八号四四一頁、最三小判昭62・3・24裁判集民一五〇号五〇九頁、本誌六五三号八五頁)。また、抵当権の目的である地上権を放棄しても抵当権者に対抗することができないところ(民法三九八条)、判例は、同条の趣旨の類推や信義則を根拠として、地上権の放棄や借地契約の合意解除をもって地上建物の抵当権者や賃借人に対抗することができないとしている(大判大11・11・24民集一巻七三八号、大判大14・7・18新聞二四六三号一四頁、最一小判昭38・2・21民集一七巻一号二一九頁、本誌一四四号四二頁)。
 しかし、まず、賃貸人は賃借人との人的信頼関係を基礎とする賃貸借が存続する範囲で転貸を承諾するというのがその通常の意思であり、転借人は転貸であることを承知の上で借り受けたのであるから、転貸の承諾があったことから一般的に、賃貸人は信義則上賃貸借の終了後も転借人による使用収益を甘受すべきであるということにはならないであろう。また、賃借人からの更新拒絶は、賃貸人にとって防ぎようのない事態であることからすると、それによる賃貸借の終了を賃貸人が転借人に対して主張することが転貸の承諾と矛盾した態度であるとはいい難く、これを合意解除と同視することもできないと思われる。さらに、民法三九八条は、自己の権利(地上権)を他人の権利(抵当権)の目的に供した者は、自己の権利の放棄をもって当該他人に対抗できないというにとどまり、放棄がなかった場合以上に当該権利の相手方(所有者)の権利を制限するものではないから、例えば、当該地上権が地代の支払を伴う場合に、放棄後の地代の不払いを理由とする所有者からの消滅請求が妨げられるものではないと解されるところ、賃借人による賃貸借契約の更新拒絶は、賃借人の権利だけでなく賃料支払等の義務も消滅させるものである点において、単なる賃借人による権利(=使用収益権)の放棄と同視することはできず、これについて直ちに民法三九八条の趣旨を類推し転借人を保護すべきであるということはできないであろう。しかも、旧借家法四条が賃貸人と賃借人のいずれが更新拒絶をしたかを区別せずに、賃貸借が期間満了により終了したときは、その旨を賃貸人が転借人に通知してから六箇月が経過することによって転貸借が終了するとしていることからすると、同条は、期間満了によって賃貸借が終了したときは、それが賃貸人、賃借人いずれの側からの更新拒絶によるかを問わず、転借人にこれを主張できることを前提にした上で、転借権は上記の限度でしか保護されないことを明らかにしたものと解釈するのが素直であると思われる。原判決は、本件の賃貸借を通常の賃貸借と同視した上、以上のような点から、原告は本件賃貸借の終了を丙に対抗し得ると判断したものと解される。
 しかし、本件賃貸借は、いわゆるサブリースと呼ばれるものの一つである。サブリースについては、学説・裁判例の上で一義的な定義があるわけではないが、賃借人自身による使用収益を目的とする通常の賃貸借とは異なり、いわゆるデベロッパーなどの事業者が、第三者に転貸して収益を上げる目的の下に、不動産の所有者からその全部又は一部を一括して借り上げ、所有者に対して収益の中から一定の賃料を支払うことを保証することをおおむね共通の内容としていると考えられる。学説においては、サブリースの場合に借地借家法による保護の要請が働くのは、賃借人ではなく、むしろ転借人についてであるとして、例えば、この場合における転貸借を賃貸人と賃借人から成る共同事業体との間の賃貸借と見たり、あるいは賃貸人から賃貸権限を委譲された賃借人との間の賃貸借と見るなどの法律構成によって、基礎となる賃貸借が期間満了や債務不履行解除によって終了しても、転借人の使用収益権を保護すべきであるとする見解(下森定・金法一五六四号四九頁、亀井洋一・銀法五七九号八二頁)が唱えられている。
 本判決は、このような学説の法律構成を採ったものではないが、本件のような賃貸借では、転借人による使用収益が本来的に予定されていること、賃貸人も転貸によって不動産の有効活用を図り、賃料収入を得る目的で賃貸借を締結し、転貸を承諾していること、他方、転借人及び再転借人はそのような目的で賃貸借が締結され、転貸及び再転貸の承諾がされることを前提に転貸借ないし再転貸借を締結し、再転借人がこれを占有していることなどの事実関係があり、このような事実関係の下では、賃借人の更新拒絶による賃貸借の終了を理由に再転借人の使用収益権を奪うことは信義則に反し、賃貸借の終了を再転借人に対抗できないとして、再転借人を保護すべきものとしたものである。
 賃貸借の合意解除をもって転借人に対抗できない場合の法律関係については、学説は分かれており、①賃貸借の合意解除が効力を生じないとする見解(金山正信・契約法大系(7)一一頁)、②転借人との関係では転借権を存立せしめるのに必要な範囲で賃貸借も存続するとする見解(我妻榮・債権各論(中)Ⅰ四六四頁)、③賃貸人が賃借人の地位を引き継ぐとする見解(星野英一・借地借家法三七七頁、鈴木禄彌・借地法(上)〔改訂版〕一一九九頁、原田純孝・新版注釈民法(15)別冊注釈借地借家法九五九頁)、④転借人が賃借人の地位を引き継ぐとする見解(石田喜久夫・判評二九五号一六四頁)などがあり、下級審の裁判例には、③の見解を採るものが多い(東京高判昭38・4・19下民集一四巻四号七五五頁、東京高判昭58・1・31判時一〇七一号六五頁等)。本件において、信義則適用の根拠をサブリースが賃貸人と賃借人との間の共同事業契約ないし賃貸権限の委譲という実質を有する点に求めるとすれば、より一層③の見解が妥当するということができよう。
 本件は、いわゆるサブリースの事案について、賃貸人が賃貸借の終了をもって信義則上転借人に対抗できない場合のあることを判示した初めての最高裁判例であり、その基本的な考え方は、他の同種事案にも当てはまると考えられ、実務上重要な意義を有すると思われる。
+(抵当権の目的である地上権等の放棄)
第三百九十八条  地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。
・94条2項の「第三者」
=転得者も第三者に当たる。
+判例(S45.7.24)
理由 
 上告代理人皆川泉の上告理由第一点について。 
 被上告人が原審において、原判決事実摘示記載のような主張をしていることは、記録に徴し明らかである。所論の訴外Dの善意に関する主張は、同人が上告人Bとの間の売買を民法五六二条によつて解除した旨の再抗弁の前提として、予備的に主張されたものにほかならず、右主張事実と観念上相容れないからといつて、他の主張がなされなかつたことになるものといわなければならないものではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、被上告人の主張およびこれを摘示した原判決の趣旨を正解しないものであつて、採用することができない。 
 同第二点ないし第四点について。 
 原審の認定によれば、「本件不動産中二一筆については、訴外EからDに対し、昭和二五年五月五日付の売買を原因とする所有権移転登記がなされているが、右不動産はもともと被上告人の所有に属し、登記簿上の所有名義のみを一時前記Eに移していたもので、被上告人がEからその所有名義の回復を受けるにあたり、自己の二男Dの名義を使用して前記移転登記を経由したものであり、また、その余の二筆については、訴外Fから右Dに対し、同年六月一二日の売買を原因とする所有権移転登記がなされているが、右不動産は、被上告人がFから買い受けて所有権を取得したものでありながら、同じくDの名義を使用して右移転登記を経由したものであつて、いずれについても、被上告人からDに所有権をただちに移転する合意はなく、同人は登記簿上の仮装の所有名義人とされたにすぎないものであるところ、昭和三二年一〇月一二日に至り、右Dは、本件各不動産を目的として、上告人Bの代理人たる訴外Gとの間で売買契約を締結して、同上告人に対する所有権移転登記を経由し、現に同上告人が自己の所有不動産であると主張しているけれども、右買受当時、同上告人の代理人たる前記Gは、本件各不動産がDの所有に属しないことを知つていた、というのであつて、原審の右認定は、挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。 
 ところで不動産の所有者が、他人にその所有権を帰せしめる意思がないのに、その承諾を得て、自己の意思に基づき、当該不動産につき右他人の所有名義の登記を経由したときは、所有者は、民法九四条二項の類推適用により、登記名義人に右不動産の所有権が移転していないことをもつて、善意の第三者に対抗することができないと解すべきことは、当裁判所の屡次の判例によつて判示されて来たところである(昭和二六年(オ)第一〇七号同二九年八月二〇日第二小法廷判決、民集八巻八号一五○五頁、昭和三四年(オ)第七二六号同三七年九月一四日第二小法廷判決、民集一六巻九号一九三五頁、昭和三八年(オ)第一五七号同四一年三月一八日第二小法廷判決、民集二〇巻三号四五一頁参照)が、右登記について登記名義人の承諾のない場合においても、不実の登記の存在が真実の所有者の意思に基づくものである以上、右九四条二項の法意に照らし、同条項を類推適用すべきものと解するのが相当である。けだし、登記名義人の承諾の有無により、真実の所有者の意思に基づいて表示された所有権帰属の外形に信頼した第三者の保護の程度に差等を設けるべき理由はないからである。 
 したがつて、前記のような事実関係を前提として、本件不動産の所有権の帰属は、上告人BがDとの間の売買契約締結当時、右不動産がDの所有に属しないことを知つていたか否かにかかるとした上で、同上告人の代理人として右契約の締結にあたつたGが悪意であつたと認められるため、同上告人をもつて善意の第三者ということはできないとして、右不動産が自己の所有に属するとする被上告人の主張を是認した限度においては、原審の判断の過程およびその結論は、正当ということができる。 
 本件不動産がDの所有名義に登記されたのちにそのことが被上告人からDに通知された事実を認定してこれに対する法律的評価を示した原審の判断の違法をいい、また、右登記の経由に同人が全く介入していないから通謀虚偽表示として把握されるべき表示行為が実在しないとして、原判決に擬律錯誤、理由不備等の違法があるとする各論旨は、叙上の見地からは、いずれも、原審の結論の当否に影響のない議論というべきであり、まして、前記のように上告人Bが悪意であつたとする原審の認定判断を前提とすれば、右論旨が原判決を違法とすべき理由として採用しうるかぎりでないことは明らかである。もつとも、論旨には、第三者の善意・悪意にかかわらず、不実の登記を存置せしめた被上告人の所有権の主張は許されるべきでないとする趣旨に解される部分もあるが、到底左袒しえない独自の見解というほかはない。また、論旨は、悪意の対象たる事実が明確でないともいうが、ここにいう悪意が、原審の正当に判示しているとおり、本件不動産が登記名義人たるDの所有に属しないことを知つていたことを意味することは明らかであつて、右論旨も採用することができない。 
 同第五点について。 
 本件不動産中、第一審判決添付第一物件目録記載の一一筆は上告人Aに、また第二物件目録記載の一二筆は上告人Cに、それぞれ上告人Bから売り渡されたとして各所有権移転登記が経由されたが、被上告人が上告人Aおよび同Cを債務者として、各譲受不動産につき、それが被上告人の所有に属することを主張して、その処分および地上立木の伐採搬出等を禁止する仮処分の執行をした後において、右各売買契約の合意解除を理由に所有権移転登記が抹消されたことは、原審において当事者間に争いのなかつたところであり、売買契約により一たん本件不動産の所有権を取得したとする上告人Aおよび同Cにおいても、現に本件不動産上に自己の権利が存することを主張するものではなく、右契約が合意解除されたことを自認し、右不動産は上告人Bの所有に属するものとして、被上告人の所有権を争つているものにほかならない。 
 してみれば、上告人Aおよび同Cは、原審口頭弁論終結時における法律関係として本件不動産所有権の帰属を確定するについては、上告人Bから独立した固有の利害関係を有しないものというべきであるから、原審が、右所有権を主張する被上告人の本訴請求を認容すべきものとするにあたつて、同上告人の悪意を認定するにとどまり、上告人Aおよび同Cの善意・悪意について判示しなかつたからといつて、右本訴請求に関するかぎり、両上告人に対する関係においても、原判決に所論の理由不備、擬律錯誤等の違法はなく、論旨は採用することができない。 
 しかし、本件において、上告人Aは被上告人に対し、上告人Bと上告人Aとの間の売買契約の解除前に被上告人のした前記仮処分の執行が、同上告人の取得した所有権を侵害する不法行為を構成するとして、それによつて被つた損害の賠償を求める反訴請求をしているので、この請求の当否の前提として、右仮処分が同上告人に対する不法行為を構成するか否かを決するためには、右仮処分執行時を基準として、被上告人が同上告人に対し自己の所有権を主張しうる関係にあつたか杏かが判断されるければならない。 
 ところで民法九四条二項にいう第三者とは、虚偽の意思表示の当事者またはその一般承継人以外の者であつて、その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至つた者をいい(最高裁昭和四一年(オ)第一二三一号・第一二三二号同四二年六月二九日第一小法廷判決、裁判集民事八七号一三九七頁参照)、虚偽表示の相手方との間で右表示の目的につき直接取引関係に立つた者のみならず、その者からの転得者もまた右条項にいう第三者にあたるものと解するのが相当である。そして、同条項を類推適用する場合においても、これと解釈を異にすべき理由はなく、これを本件についていえば、上告人Aは、その主張するとおり上告人Bとの間で有効に売買契約を締結したものであれば、それによつて上告人Aが所有権を取得しうるか否かは、一に、被上告人において、本件不動産の所有権が自己に属し、登記簿上のDの所有名義は実体上の権利関係に合致しないものであることを、同上告人に対して主張しうるか否かにのみかかるところであるから、同上告人は、右売買契約の解除前においては、ここにいう第三者にあたり、自己の前々主たるDが本件不動産の所有権を有しない不実の登記名義人であることを知らなかつたものであるかぎり、同条項の類推適用による保護を受けえたものというべきであり、右時点での同上告人に対する関係における所有権帰属の判断は、上告人Bが悪意であつたことによつては左右されないものと解すべきである。 
 そうすると、上告人Aは、原審において、目的不動産に関する登記簿上の表示が真実の権利関係と異なることは知らないでこれを上告人Bから買い受けた旨主張しているのであるから、上告人Aの反訴請求の当否を判断するにあたつては、右主張事実の有無が認定判示されるべきであつたにもかかわらず、原審は、これをなすことなく、上告人Bの悪意を認定しただけで、ただちに、被上告人のした仮処分が被保全権利を欠くものということはできないと断じ、上告人Aの反訴請求は失当であるとの判断を下しているのであつて、原判決には、この点において、理由不備の違法があるものといわざるをえないことは、上述したところにより明らかである。それゆえ、論旨は、この限度において理由があり、原判決中、上告人Aの右反訴請求に関する部分は破棄を免れず、右請求の成否についてはなお審理の必要があるので、この部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。 
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条、九二条に則り、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一) 
・110条の第三者は無権代理の直接の相手方のみを指し、直接の相手方と取引をした転得者はこの「第三者」には当たらない。
+判例(S36.12.12)
理由 
 上告代理人鍜治利一名義、同増岡正三郎の上告理由について。 
 論旨は要するに、上告人は、本件約束手形が正当の権限の下に振出されたものであると信ずべき正当の理由を有して居つたので、受取人よりその裏書譲渡を受けたものであるに拘らず、原審は、上告人の善意による取得を否定する判断をしたが、これに経験則違反、採証法則違反、審理不尽、民法一一〇条の解釈適用の誤りがあり、ひいては原判決に理由不備の違法を招いたものである旨主張するにある。 
 しかしながら、約束手形が代理人によりその権限を踰越して振出された場合、民法一一〇条によりこれを有効とするには、受取人が右代理人に振出の権限あるものと信ずべき正当の理由あるときに限るものであつて、かゝる事由のないときは、縦令、その後の手形所持人が、右代理人にかゝる権限あるものと信ずべき正当の理由を有して居つたものとしても、同条を適用して、右所持人に対し振出人をして手形上の責任を負担せしめ得ないものであることは、大審院判例(大審院大正一三年(オ)第六〇一号、同一四年三月一二日判決、同院民集四巻一二〇頁)の示す所であつて、いま、これを改める要はない。 
 而して原判決によれば、原審は、被上告寺の経理部長Aの代理人であつた訴外Bがその権限外であるにも拘らず、右経理部長の記名印章を冒用して本件約束手形を振出し、その受取人である訴外Cが、本件約束手形の交付を受けた当時、右Bにおいて何等正当の権限なくしてこれを作成交付したものであることを十分察知して居つたものであるとの事実を認定して居る。 
 されば右判例の趣旨よりすれば、右認定の事実関係の下においては、本件約束手形の被裏書人である上告人が、仮に所論の如く、右Bに、本件約束手形振出を代理する権限あるものと信ずべき正当の理由を有して居つたとしても、被上告寺は、上告人に対し本件約束手形上の責任を負担しないものとなすべきである。原判決は結局これと同趣旨に出て居るのであるから正当であつて、何等所論の違法はない。 
 論旨は、すべて理由がない。 
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 五鬼上堅磐) 
・では545条の「第三者」の場合はどうか?
→「第三者」の解釈に当たっては、その者が解除の遡及効を受ける者であるかどうかによって決せられるべき。
・賃貸人の地位の移転について
+判例(S46.4.23)
理由 
 上告代理人真木洋、同浜田正義の上告理由について。 
 被上告人がAに対し、本件土地の所有権とともに上告人に対する賃貸人たる地位をもあわせて譲渡する旨約したものであることは、原審の認定した事実であり、この事実認定は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。 
 ところで、土地の賃貸借契約における賃貸人の地位の譲渡は、賃貸人の義務の移転を伴なうものではあるけれども、賃貸人の義務は賃貸人が何ぴとであるかによつて履行方法が特に異なるわけのものではなく、また、土地所有権の移転があつたときに新所有者にその義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとつて有利であるというのを妨げないから、一般の債務の引受の場合と異なり、特段の事情のある場合を除き、新所有者が旧所有者の賃貸人としての権利義務を承継するには、賃借人の承諾を必要とせず、旧所有者と新所有者間の契約をもつてこれをなすことができると解するのが相当である。 
 叙上の見地に立つて本件をみると、前記事実関係に徴し、被上告人と上告人間の賃貸借契約関係はAと上告人間に有効に移行し、賃貸借契約に基づいて被上告人が上告人に対して負担した本件土地の使用収益をなさしめる義務につき、被上告人に債務不履行はないといわなければならない。したがつて、これと同趣旨の原判決の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。 
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄) 
・賃貸人たる地位を主張するに当たり
+判例(S49.3.19)
理由 
 上告代理人樫本信雄、同竹内敦男の上告理由第一点について。 
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠に照らして肯認することができ、その過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。 
 同第二点及び第三点について。 
 原判決は、訴外Aは昭和二五年四月原審控訴人Bから第一審判決添付目録第一記載の宅地(以下本件宅地という。)を買い受けたがその所有権移転登記をしなかつたところ、昭和二九年三月本件宅地を被上告人に売り渡したが、その所有権移転登記は中間を省略してBから直接被上告人に対してされる旨の合意が右三者間に成立し、被上告人は同年九月一二日主文第一項記載の仮登記を経由したこと、一方、上告人は本件宅地上に右目録第二記載の建物(以下本件建物という。)を所有しているが、そのうち家屋番号六七番の二、三木造瓦葺二階建店舗一棟床面積一階七坪六合九勺、二階七坪九勺については昭和二七年七月四日これを他から買い受けるとともに、当時本件宅地の所有者であつたAから本件宅地を建物所有の目的のもとに賃借し、右建物につき同月五日所有権移転登記を経由したこと、被上告人は昭和四六年六月一五日到達の書面をもつて上告人に対し昭和二九年九月一四日以降昭和四六年五月末日までの賃料を四日以内に支払うよう催告し、上告人がこれに応じなかつたので、同年六月二一日到達の書面をもつて上告人に対し賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことを、それぞれ確定したうえ、右賃貸借契約は同日解除されたとして、被上告人が土地所有権に基づき主文第一項の所有権移転登記完了と同時に上告人に対して本件建物の収去を求める本訴請求を認容したものである。 
 しかしながら、本件宅地の賃借人としてその賃借地上に登記ある建物を所有する上告人は本件宅地の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者であるから、民法一七七条の規定上、被上告人としては上告人に対し本件宅地の所有権の移転につきその登記を経由しなければこれを上告人に対抗することができず、したがつてまた、賃貸人たる地位を主張することができないものと解するのが、相当である(大審院昭和八年(オ)第六〇号同年五月九日判決・民集一二巻一一二三頁参照)。 
 ところで、原判文によると、上告人が被上告人の本件宅地の所有権の取得を争つていること、また、被上告人が本件宅地につき所有権移転登記を経由していないことを自陳していることは、明らかである。それゆえ、被上告人は本件宅地につき所有権移転登記を経由したうえではじめて、上告人に対し本件宅地の所有権者であることを対抗でき、また、本件宅地の賃貸人たる地位を主張し得ることとなるわけである。したがつて、それ以前には、被上告人は右賃貸人として上告人に対し賃料不払を理由として賃貸借契約を解除し、上告人の有する賃借権を消滅させる権利を有しないことになる。そうすると、被上告人が本件宅地につき所有権移転登記を経由しない以前に、本件宅地の賃貸人として上告人に対し賃料不払を理由として本件宅地の賃貸借契約を解除する権利を有することを肯認した原判決の前示判断には法令解釈の誤りがあり、この違法は原判決の結論に影響を与えることは、明らかである。したがつて、この点に関する論旨は理由があるから、その余の論旨について判断を示すまでもなく、原判決中本判決主文第一項掲記の部分は破棄を免れない。そして、右部分につきなお審理の必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。 
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 
 (裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄 裁判官 髙辻正己) 
3.小問2について


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