労働法 雇用平等


第1節 概説:雇用平等法の全体像

1.憲法との関係
・14条には私人間効力はない!!!!
+判例(S48.12.12)三菱樹脂本採用拒否事件
理由
上告代理人鎌田英次、中島一郎の上告理由について。
第一、本件の問題点
一、本件は、被上告人が、東北大学在学中昭和三七年上告人の実施した大学卒業者の社員採用試験に合格し、翌年同大学卒業と同時に上告人に三か月の試用期間を設けて採用されたが、右試用期間の満了直前に、上告人から右期間の満了とともに本採用を拒否する旨の告知を受け、その効力を争つている事案である。被上告人に対する右本採用拒否の理由として上告人の主張するところによれば、被上告人は、上告人が採用試験の際に提出を求めた身上書の所定の記載欄に虚偽の記載をし、または記載すべき事項を秘匿し、面接試験における質問に対しても虚偽の回答をしたが、被上告人のこのような行為は、民法九六条にいう詐欺に該当し、また被上告人の管理職要員としての適格性を否定するものであるから、本採用を拒否するというのであり、さらに、被上告人が秘匿ないし虚偽の申告(以下、秘匿等という。)をしたとされる事実の具体的内容は、(1)被上告人は、東北大学に在学中、同大学内の学生自治会としては最も尖鋭な活動を行ない、しかも学校当局の承認を得ていない同大学川内分校学生自治会(全学連所属)に所属して、その中央委員の地位にあり、昭和三五年前・後期および同三六年前期において右自治会委員長らが採用した運動方針を支持し、当時その計画し、実行した日米安全保障条約改定反対運動を推進し、昭和三五年五月から同三七年九月までの間、無届デモや仙台高等裁判所構内における無届集会、ピケ等に参加(参加者の中には住居侵入罪により有罪判決を受けた者もある。)する等各種の違法な学生運動に従事したにもかかわらず、これらの事実を記載せず、面接試験における質問に対しても、学生運動をしたことはなく、これに興味もなかつた旨、虚偽の回答をした、(2)被上告人は、上記大学生活部員として同部から手当を受けていた事実がないのに月四、〇〇〇円を得ていた旨虚偽の記載をし、また、純然たる学外団体である生活協同組合において昭和三四年七月理事に選任されて、同三八年六月まで在任し、かつ、その組織部長の要職にあつたにもかかわらず、これを記載しなかつた、というのである。

二、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)は、上告人と被上告人との間に締結された試用期間を三か月とする雇傭契約の性質につき、上告人において試用期間中に被上告人が管理職要員として不適格であると認めたときは、それだけの理由で雇傭を解約しうるという解約権留保の特約のある雇傭契約と認定し、右留保解約権の行使は、雇入れ後における解雇にあたると解したうえ、上告人が被上告人の解雇理由として主張する上記秘匿等にかかる事実は、いずれも被上告人の政治的思想、信条に関係のある事実であることは明らかであるとし、企業者が労働者を雇傭する場合のように一方が他方より優越する地位にある場合には、その一方が他方の有する憲法一九条の保障する思想、信条の自由をその意に反してみだりに侵すことは許されず、また、通常の会社においては、労働者の思想、信条のいかんによつて事業の遂行に支障をきたすとは考えられないから、これによつて雇傭関係上差別をすることは憲法一四条、労働基準法三条に違反するものであり、したがつて、労働者の採用試験に際してその政治的思想、信条に関係のある事項について申告を求めることは、公序良俗に反して許されず、応募者がこれにつき秘匿等をしたとしても、これによる不利益をその者に課することはできないものと解すべきであるとし、それゆえ、被上告人に上告人主張のような秘匿等の行為があつたとしても、民法九六条の詐欺にも該当せず、また、上告人において、あらかじめ応募者に対し、申告を求める事項につき虚偽の申告をした場合には採用を取り消す旨告知していたとしても、これを理由に雇傭契約を解約することもできないとして、本件本採用の拒否を無効としたものである。

三、上告論旨は、要するに、憲法一九条、一四条の規定は、国家対個人の関係において個人の自由または平等を保障したものであつて、私人間の関係を直接規律するものではなく、また、これらの規定の内容は、当然にそのまま民法九〇条にいう公序良俗の内容をなすものでもないのに、これと反対の見解をとり、かつ、上告人が被上告人に申告を求めた事項は、被上告人の過去の具体的行動に関するものであつて、なんらその思想、信条に関するものでないのに、そうであると速断し、右のような申告を求め、これに対する秘匿等を理由として雇傭関係上の不利益を課することは、上記憲法等の各規定に違反して違法、無効であるとした原判決には、これらの法令の解釈、適用の誤りまたは理由不備もしくは理由齟齬の違法があり、また、上告人との間にいまだ正式の雇傭契約の締結がなく、単に試用されているにすぎない被上告人の地位を雇傭関係に立つものと解し、これに対する本採用の拒否を解雇と同視して、労働基準法三条に違反するとした原判決には、法律の解釈、適用の誤りまたは理由齟齬の違法がある、というのである。

第二、当裁判所の見解
一、まず、本件本採用拒否の理由とされた被上告人の秘匿等に関する上記第一の一の(1)の事実につき、これが被上告人の思想、信条に関係のある事実といいうるかどうかを考えるに、労働者を雇い入れようとする企業者が、労働者に対し、その者の在学中における右のような団体加入や学生運動参加の事実の有無について申告を求めることは、上告人も主張するように、その者の従業員としての適格性の判断資料となるべき過去の行動に関する事実を知るためのものであつて、直接その思想、信条そのものの開示を求めるものではないがさればといつて、その事実がその者の思想、信条と全く関係のないものであるとすることは相当でない。元来、人の思想、信条とその者の外部的行動との間には密接な関係があり、ことに本件において問題とされている学生運動への参加のごとき行動は、必ずしも常に特定の思想、信条に結びつくものとはいえないとしても、多くの場合、なんらかの思想、信条とのつながりをもつていることを否定することができないのである。企業者が労働者について過去における学生運動参加の有無を調査するのは、その者の過去の行動から推して雇入れ後における行動、態度を予測し、その者を採用することが企業の運営上適当かどうかを判断する資料とするためであるが、このような予測自体が、当該労働者の過去の行動から推測されるその者の気質、性格、道徳観念等のほか、社会的、政治的思想傾向に基づいてされる場合もあるといわざるをえない。本件において上告人が被上告人の団体加入や学生運動参加の事実の有無についてした上記調査も、そのような意味では、必ずしも上告人の主張するように被上告人の政治的思想、信条に全く関係のないものということはできないしかし、そうであるとしても、上告人が被上告人ら入社希望者に対して、これらの事実につき申告を求めることが許されないかどうかは、おのずから別個に論定されるべき問題である。

二、原判決は、前記のように、上告人が、その社員採用試験にあたり、入社希望者からその政治的思想、信条に関係のある事項について申告を求めるのは、憲法一九条の保障する思想、信条の自由を侵し、また、信条による差別待遇を禁止する憲法一四条、労働基準法三条の規定にも違反し、公序良俗に反するものとして許されないとしている。
(一) しかしながら憲法の右各規定は、同法第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではないこのことは、基本的人権なる観念の成立および発展の歴史的沿革に徴し、かつ、憲法における基本権規定の形式、内容にかんがみても明らかである。のみならず、これらの規定の定める個人の自由や平等は、国や公共団体の統治行動に対する関係においてこそ、侵されることのない権利として保障されるべき性質のものであるけれども、私人間の関係においては、各人の有する自由と平等の権利自体が具体的場合に相互に矛盾、対立する可能性があり、このような場合におけるその対立の調整は、近代自由社会においては、原則として私的自治に委ねられ、ただ、一方の他方に対する侵害の態様、程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合にのみ、法がこれに介入しその間の調整をはかるという建前がとられているのであつて、この点において国または公共団体と個人との関係の場合とはおのずから別個の観点からの考慮を必要とし、後者についての憲法上の基本権保障規定をそのまま私人相互間の関係についても適用ないしは類推適用すべきものとすることは、決して当をえた解釈ということはできないのである。
(二) もつとも、私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるをえない場合があり、このような場合に私的自治の名の下に優位者の支配力を無制限に認めるときは、劣位者の自由や平等を著しく侵害または制限することとなるおそれがあることは否み難いがそのためにこのような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきであるとする見解もまた、採用することはできない何となれば、右のような事実上の支配関係なるものは、その支配力の態様、程度、規模等においてさまざまであり、どのような場合にこれを国または公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であるばかりでなく、一方が権力の法的独占の上に立つて行なわれるものであるのに対し、他方はこのような裏付けないしは基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優劣の関係にすぎず、その間に画然たる性質上の区別が存するからである。すなわち、私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。そしてこの場合、個人の基本的な自由や平等を極めて重要な法益として尊重すべきことは当然であるが、これを絶対視することも許されず、統治行動の場合と同一の基準や観念によつてこれを律することができないことは、論をまたないところである。
(三) ところで、憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、二二条、二九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。憲法一四条の規定が私人のこのような行為を直接禁止するものでないことは前記のとおりであり、また、労働基準法三条は労働者の信条によつて賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であつて、雇入れそのものを制約する規定ではない。また、思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他これを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできない
右のように、企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。もとより、企業者は、一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあるから、企業者のこの種の行為が労働者の思想、信条の自由に対して影響を与える可能性がないとはいえないが、法律に別段の定めがない限り、右は企業者の法的に許された行為と解すべきである。また、企業者において、その雇傭する労働者が当該企業の中でその円滑な運営の妨げとなるような行動、態度に出るおそれのある者でないかどうかに大きな関心を抱き、そのために採否決定に先立つてその者の性向、思想等の調査を行なうことは、企業における雇傭関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようにいわゆる終身雇傭制が行なわれている社会では一層そうであることにかんがみるときは、企業活動としての合理性を欠くものということはできない。のみならず、本件において問題とされている上告人の調査が、前記のように、被上告人の思想、信条そのものについてではなく、直接には被上告人の過去の行動についてされたものであり、ただその行動が被上告人の思想、信条となんらかの関係があることを否定できないような性質のものであるというにとどまるとすれば、なおさらこのような調査を目して違法とすることはできないのである。
右の次第で、原判決が、上告人において、被上告人の採用のための調査にあたり、その思想、信条に関係のある事項について被上告人から申告を求めたことは法律上許されない違法な行為であるとしたのは、法令の解釈、適用を誤つたものといわなければならない。

三、(一) 右に述べたように、企業者は、労働者の雇入れそのものについては、広い範囲の自由を有するけれども、いつたん労働者を雇い入れ、その者に雇傭関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、肩入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない労働基準法三条は、前記のように、労働者の労働条件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される
このことは、法が、企業者の雇傭の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階との間に区別を設け、前者については企業者の自由を広く認める反面、後者については、当該労働者の既得の地位と利益を重視して、その保護のために、一定の限度で企業者の解雇の自由に制約を課すべきであるとする態度をとつていることを示すものといえる。
(二) 本件においては、上告人と被上告人との間に三か月の試用期間を付した雇傭契約が締結され、右の期間の満了直前に上告人が被上告人に対して本採用の拒否を告知したものである。原判決は、冒頭記述のとおり、右の雇傭契約を解約権留保付の雇傭契約と認め、右の本採用拒否は雇入れ後における解雇にあたるとし、これに対して、上告人は、上告人の見習試用取扱規則の上からも試用契約と本採用の際の雇傭契約とは明らかにそれぞれ別個のものとされているから、原判決の上記認定、解釈には、右規則をほしいままにまげて解釈した違法があり、また、規則内容との関連においてその判断に理由齟齬の違法があると主張する。
思うに、試用契約の性質をどう判断するかについては、就業規則の規定の文言のみならず、当該企業内において試用契約の下に雇傭された者に対する処遇の実情、とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかんをも重視すべきものであるところ、原判決は、上告人の就業規則である見習試用取扱規則の各規定のほか、上告人において、大学卒業の新規採用者を試用期間終了後に本採用しなかつた事例はかつてなく、雇入れについて別段契約書の作成をすることもなく、ただ、本採用にあたり当人の氏名、職名、配属部署を記載した辞令を交付するにとどめていたこと等の過去における慣行的実態に関して適法に確定した事実に基づいて、本件試用契約につき上記のような判断をしたものであつて、右の判断は是認しえないものではない。それゆえ、この点に関する上告人の主張は、採用することができないところである。したがつて、被上告人に対する本件本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない
(三) ところで、本件雇傭契約においては、右のように、上告人において試用期間中に被上告人が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権が留保されているのであるが、このような解約権の留保は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他上告人のいわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行ない、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであつて、今日における雇傭の実情にかんがみるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ、右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない。
しかしながら、前記のように法が企業者の雇傭の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階とで区別を設けている趣旨にかんがみ、また、雇傭契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考え、かつまた、本採用後の雇傭関係におけるよりも弱い地位であるにせよ、いつたん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入つた者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。
(四) 本件において、上告人が被上告人の本採用を拒否した理由として主張するところは、冒頭記述のとおり、被上告人が入社試験に際して一定の事実につき秘匿等をしたこと、なかんずく、被上告人が東北大学在学中に違法、過激な学生運動に関与した事実があるのにこれを秘匿したということであり、上告人は、このような被上告人の秘匿等の行為に照らすときは、信頼関係をとくに重視すべき上告人の管理職要員である社員としての適格性を欠くものとするに十分であると主張するのである。
思うに、企業者が、労働者の採用にあたつて適当な者を選択するのに必要な資料の蒐集の一方法として、労働者から必要事項について申告を求めることができることは、さきに述べたとおりであり、そうである以上、相手方に対して事実の開示を期待し、秘匿等の所為のあつた者について、信頼に値しない者であるとの人物評価を加えることは当然であるが、右の秘匿等の所為がかような人物評価に及ぼす影響の程度は、秘匿等にかかる事実の内容、秘匿等の程度およびその動機、理由のいかんによつて区々であり、それがその者の管理職要員としての適格性を否定する客観的に合理的な理由となるかどうかも、いちがいにこれを論ずることはできない。また、秘匿等にかかる事実のいかんによつては、秘匿等の有無にかかわらずそれ自体で右の適格性を否定するに足りる場合もありうるのである。してみると、本件において被上告人の解雇理由として主要な問題とされている被上告人の団体加入や学生運動参加の事実の秘匿等についても、それが上告人において上記留保解約権に基づき被上告人を解雇しうる客観的に合理的な理由となるかどうかを判断するためには、まず被上告人に秘匿等の事実があつたかどうか、秘匿等にかかる団体加入や学生運動参加の内容、態様および程度、とくに違法にわたる行為があつたかどうか、ならびに秘匿等の動機、理由等に関する事実関係を明らかにし、これらの事実関係に照らして、被上告人の秘匿等の行為および秘匿等にかかる事実が同人の入社後における行動、態度の予測やその人物評価等に及ぼす影響を検討し、それが企業者の採否決定につき有する意義と重要性を勘案し、これらを総合して上記の合理的理由の有無を判断しなければならないのである。

第三、結論
以上説示のとおり、所論本件本採用拒否の効力に関する原審の判断には、法令の解釈、適用を誤り、その結果審理を尽さなかつた違法があり、その違法が判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は、この点において理由があり、原判決は、その余の上告理由について判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、本件は、さらに審理する必要があるので、原審に差し戻すのが相当である。
よつて、民訴法四〇七条にしたがい、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 村上朝一 裁判官 大隅健一郎 裁判官 関根小郷 裁判官 藤林益三 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 岸上康夫 裁判官 江里口清雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 髙辻正己 裁判官 吉田豊)

・民法90条を媒介にして。
+判例(S56.3.24)
理由
上告代理人小倉隆志の上告理由第一点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同第二点ないし第七点について
上告会社の就業規則は男子の定年年齢を六〇歳、女子の定年年齢を五五歳と規定しているところ、右の男女別定年制に合理性があるか否かにつき、原審は上告会社における女子従業員の担当職種、男女従業員の勤続年数、高齢女子労働者の労働能力、定年制の一般的現状等諸般の事情を検討したうえ、上告会社においては、女子従業員の担当職務は相当広範囲にわたつていて、従業員の努力と上告会社の活用策いかんによつては貢献度を上げうる職種が数多く含まれており、女子従業員各個人の能力等の評価を離れて、その全体を上告会社に対する貢献度の上がらない従業員と断定する根拠はないこと、しかも、女子従業員について労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡が生じていると認めるべき根拠はないこと、少なくとも六〇歳前後までは、男女とも通常の職務であれば企業経営上要求される職務遂行能力に欠けるところはなく、各個人の労働能力の差異に応じた取扱がされるのは格別、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないことなど、上告会社の企業経営上の観点から定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由は認められない旨認定判断したものであり、右認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができる。そうすると、原審の確定した事実関係のもとにおいて、上告会社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効であると解するのが相当である(憲法一四条一項、民法一条ノ二参照)。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。所論引用の判例は事案を異にし、本件には適切でない。論旨は、いずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 寺田治郎 裁判官 環昌一 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己)

・憲法14条は例示列挙
+判例(S48.4.4)
理由
弁護人大貫大八の上告趣意中違憲をいう点について
所論は、刑法二〇〇条は憲法一四条に違反して無効であるから、被告人の本件所為に対し刑法二〇〇条を適用した原判決は、憲法の解釈を誤つたものであるというのである。
よつて案ずるに、憲法一四条一項は、国民に対し法の下の平等を保障した規定であつて、同項後段列挙の事項は例示的なものであること、およびこの平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきことは、当裁判所大法廷判決(昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日・民集一八巻四号六七六頁)の示すとおりである。そして、刑法二〇〇条は、自己または配偶者の直系尊属を殺した者は死刑または無期懲役に処する旨を規定しており、被害者と加害者との間における特別な身分関係の存在に基づき、同法一九九条の定める普通殺人の所為と同じ類型の行為に対してその刑を加重した、いわゆる加重的身分犯の規定であつて(最高裁昭和三〇年(あ)第三二六三号同三一年五月二四日第一小法廷判決・刑集一〇巻五号七三四頁)、このように刑法一九九条のほかに同法二〇〇条をおくことは、憲法一四条一項の意味における差別的取扱いにあたるというべきである。そこで、刑法二〇〇条が憲法の右条項に違反するかどうかが問題となるのであるが、それは右のような差別的取扱いが合理的な根拠に基づくものであるかどうかによつて決せられるわけである。
当裁判所は、昭和二五年一〇月以来、刑法二〇〇条が憲法一三条、一四条一項、二四条二項等に違反するという主張に対し、その然らざる旨の判断を示している。もつとも、最初に刑法二〇〇条が憲法一四条に違反しないと判示した大法廷判決(昭和二四年(れ)第二一〇五号同二五年一〇月二五日・刑集四巻一〇号二一二六頁)も、法定刑が厳に過ぎる憾みがないではない旨を括弧書において判示していたほか、情状特に憫諒すべきものがあつたと推測される事案において、合憲性に触れることなく別の理由で同条の適用を排除した事例も存しないわけではない(最高裁昭和二八年(あ)第一一二六号同三二年二月二〇日大法廷判決・刑集一一巻二号八二四頁、同三六年(あ)第二四八六号同三八年一二月二四日第三小法廷判決・刑集一七巻一二号二五三七頁)。また、現行刑法は、明治四〇年、大日本帝国憲法のもとで、第二三回帝国議会の協賛により制定されたものであつて、昭和二二年、日本国憲法のもとにおける第一回国会において、憲法の理念に適合するようにその一部が改正された際にも、刑法二〇〇条はその改正から除外され、以来今日まで同条に関し格別の立法上の措置は講ぜられていないのであるが、そもそも同条設置の思想的背景には、中国古法制に渕源しわが国の律令制度や徳川幕府の法制にも見られる尊属殺重罰の思想が存在すると解されるほか、特に同条が配偶者の尊属に対する罪をも包含している点は、日本国憲法により廃止された「家」の制度と深い関連を有していたものと認められるのである。さらに、諸外国の立法例を見るに、右の中国古法制のほかローマ古法制などにも親殺し厳罰の思想があつたもののごとくであるが、近代にいたつてかかる思想はしだいにその影をひそめ、尊属殺重罰の規定を当初から有しない国も少なくない。そして、かつて尊属殺重罰規定を有した諸国においても近時しだいにこれを廃止しまたは緩和しつつあり、また、単に尊属殺のみを重く罰することをせず、卑属、配偶者等の殺害とあわせて近親殺なる加重要件をもつ犯罪類型として規定する方策の講ぜられている例も少なからず見受けられる現状である。最近発表されたわが国における「改正刑法草案」にも、尊属殺重罰の規定はおかれていない。
このような点にかんがみ、当裁判所は、所論刑法二〇〇条の憲法適合性につきあらためて検討することとし、まず同条の立法目的につき、これが憲法一四条一項の許容する合理性を有するか否かを判断すると、次のように考えられる。
刑法二〇〇条の立法目的は、尊属を卑属またはその配偶者が殺害することをもつて一般に高度の社会的道義的非難に値するものとし、かかる所為を通常の殺人の場合より厳重に処罰し、もつて特に強くこれを禁圧しようとするにあるものと解される。ところで、およそ、親族は、婚姻と血縁とを主たる基盤とし、互いに自然的な敬愛と親密の情によつて結ばれていると同時に、その間おのずから長幼の別や責任の分担に伴う一定の秩序が存し、通常、卑属は父母、祖父母等の直系尊属により養育されて成人するのみならず、尊属は、社会的にも卑属の所為につき法律上、道義上の責任を負うのであつて、尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義というべく、このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は、刑法上の保護に値するものといわなければならない。しかるに、自己または配偶者の直系尊属を殺害するがごとき行為はかかる結合の破壊であつて、それ自体人倫の大本に反し、かかる行為をあえてした者の背倫理性は特に重い非難に値するということができる。
このような点を考えれば、尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべきであるとして、このことをその処罰に反映させても、あながち不合理であるとはいえない。そこで、被害者が尊属であることを犯情のひとつとして具体的事件の量刑上重視することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもつてただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがつてまた、憲法一四条一項に違反するということもできないものと解する。
さて、右のとおり、普通殺のほかに尊属殺という特別の罪を設け、その刑を加重すること自体はただちに違憲であるとはいえないのであるが、しかしながら、刑罰加重の程度いかんによつては、かかる差別の合理性を否定すべき場合がないとはいえない。すなわち、加重の程度が極端であつて、前示のごとき立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法一四条一項に違反して無効であるとしなければならない
この観点から刑法二〇〇条をみるに、同条の法定刑は死刑および無期懲役刑のみであり、普通殺人罪に関する同法一九九条の法定刑が、死刑、無期懲役刑のほか三年以上の有期懲役刑となつているのと比較して、刑種選択の範囲が極めて重い刑に限られていることは明らかである。もつとも、現行刑法にはいくつかの減軽規定が存し、これによつて法定刑を修正しうるのであるが、現行法上許される二回の減軽を加えても、尊属殺につき有罪とされた卑属に対して刑を言い渡すべきときには、処断刑の下限は懲役三年六月を下ることがなく、その結果として、いかに酌量すべき情状があろうとも法律上刑の執行を猶予することはできないのであり、普通殺の場合とは著しい対照をなすものといわなければならない。
もとより、卑属が、責むべきところのない尊属を故なく殺害するがごときは厳重に処罰すべく、いささかも仮借すべきではないが、かかる場合でも普通殺人罪の規定の適用によつてその目的を達することは不可能ではない。その反面、尊属でありながら卑属に対して非道の行為に出で、ついには卑属をして尊属を殺害する事態に立ち至らしめる事例も見られ、かかる場合、卑属の行為は必ずしも現行法の定める尊属殺の重刑をもつて臨むほどの峻厳な非難には値しないものということができる。
量刑の実状をみても、尊属殺の罪のみにより法定刑を科せられる事例はほとんどなく、その大部分が減軽を加えられており、なかでも現行法上許される二回の減軽を加えられる例が少なくないのみか、その処断刑の下限である懲役三年六月の刑の宣告される場合も決して稀ではない。このことは、卑属の背倫理性が必ずしも常に大であるとはいえないことを示すとともに、尊属殺の法定刑が極端に重きに失していることをも窺わせるものである。
このようにみてくると、尊属殺の法定刑は、それが死刑または無期懲役刑に限られている点(現行刑法上、これは外患誘致罪を除いて最も重いものである。)においてあまりにも厳しいものというべく、上記のごとき立法目的、すなわち、尊属に対する敬愛や報恩という自然的情愛ないし普遍的倫理の維持尊重の観点のみをもつてしては、これにつき十分納得すべき説明がつきかねるところであり、合理的根拠に基づく差別的取扱いとして正当化することはとうていできない。
以上のしだいで、刑法二〇〇条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法一九九条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法一四条一項に違反して無効であるとしなければならず、したがつて、尊属殺にも刑法一九九条を適用するのほかはない。この見解に反する当審従来の判例はこれを変更する。
そこで、これと見解を異にし、刑法二〇〇条は憲法に違反しないとして、被告人の本件所為に同条を適用している原判決は、憲法の解釈を誤つたものにほかならず、かつ、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、所論は結局理由がある。
その余の上告趣意について
所論は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
よつて、刑訴法四〇五条一号後段、四一〇条一項本文により原判決を破棄し、同法四一三条但書により被告事件についてさらに判決することとする。
原判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の所為は刑法一九九条に該当するので、所定刑中有期懲役刑を選択し、右は心神耗弱の状態における行為であるから同法三九条二項、六八条三号により法律上の減軽をし、その刑期範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、なお、被告人は少女のころに実父から破倫の行為を受け、以後本件にいたるまで一〇余年間これと夫婦同様の生活を強いられ、その間数人の子までできるという悲惨な境遇にあつたにもかかわらず、本件以外になんらの非行も見られないこと、本件発生の直前、たまたま正常な結婚の機会にめぐりあつたのに、実父がこれを嫌い、あくまでも被告人を自己の支配下に置き醜行を継続しようとしたのが本件の縁由であること、このため実父から旬日余にわたつて脅迫虐待を受け、懊悩煩悶の極にあつたところ、いわれのない実父の暴言に触発され、忌まわしい境遇から逃れようとしてついに本件にいたつたこと、犯行後ただちに自首したほか再犯のおそれが考えられないことなど、諸般の情状にかんがみ、同法二五条一項一号によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、第一審および原審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととして主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官岡原昌男の補足意見、裁判官田中二郎、同下村三郎、同色川幸太郎、同大隅健一郎、同小川信雄、同坂本吉勝の各意見および裁判官下田武三の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

補足意見以下は省略。

2.男女平等取扱い法理

+(男女同一賃金の原則)
第四条  使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

4条の射程外の部分
・賃金以外の労働条件
+判例(東京地判S41.12.20)住友セメント事件
理   由
一、雇傭関係及び結婚退職制
原告主張一及び三の事実は当事者間に争がない。
成立に争のない乙第二号証(念書の様式)及び<証拠>によれば、被告が昭和三三年四月会社の方針として爾後の女子職員の採用処遇につき被告主張の結婚退職制を定め、これに基き女子労働者を採用したことが認められ、この認定を左右すべき確証はない。原告が、本採用される前である昭和三五年八月一〇日「結婚したときは退職する。」旨の念書を差入れたことは当事者間に争がない。これによれば、被告は原告が結婚したときこれを解雇し得る旨の労働契約が成立したというべきである。右は労働者の退職に関する事項であるから、労基法にいう労働条件に該当する。

二、結婚退職制と公序との関係
被告の主張によれば、結婚退職制は、慣行であつて、組合の承認により労働協約と同等の効力を有し、しからずとするも、労働者の規範意識に支持されて就業規則と同等の効力を有するから、被告はこれに基き原告と右契約をなしたというにある。
(一) 結婚退職制の法的内容
このような労働協約又は就業規則と同等の効力を有する規範準則が存在するとしても、その内容は性別による差別待遇と結婚の自由に対する制限とを含むものである。
1 (性別による差別待遇)結婚退職制によると、結婚は男子労働者の解雇事由でなく、女子労働者のみの解雇事由であるから、右は労働条件につき性別による差別待遇をしたことに帰着する。
2 (結婚の自由の制限)結婚退職制によれば、女子労働者は雇傭関係継続中結婚しない旨を約したことに帰着するのであり、換言すれば、結婚に際しなお雇傭関係の継続を望んでいる女子労働者に対しても使用者からその終了を求め得るのである。右は女子労働者の結婚の自由を制限するものというべきである。その理由は次のとおりである。
結婚後も主婦として活動するだけではなく、なお賃金労働者として職場にとどまり労働を継続する意思を有する女子労働者が多く存することは顕著な事実である。統計をみると、成立に争のない乙第七号証の二(労働省婦人少年局発行「婦人労働の実情・一九六二年」三八、三九頁)によれば、女子労働者の中に占める有夫者の割合は逐年上昇し昭和三七年において二一・七%を占め、なお昭和三六年一月から昭和三七年九月までの単純平均によれば非農林業就業者中雇傭者であつて配偶者のある女子は二一九万人に及ぶことが明らかである。かように多数の既婚女子労働者がなおその労働を継続する主たる理由が、自己の才能を生かし社会人としての経験を積み社会に貢献するにあると、生活費を得るにあるとを問わず、その労働を継続しようとする意思は尊重されるべきである。
我国の現状にあつては、男子労働者の労働賃金のみによつてその妻子等の通常の生活の資をまかなえないことが屡々あるから、この場合この男子労働者と結婚した女子労働者はなお労働を継続する経済的必要がある。女子労働者はこの場合結婚退職制により解雇されても直ちに生活の資を求めて再就職せざるを得ない。ところが、前示乙第七号証の二(五八頁から六三頁まで)によると、既婚、したがつて学校新卒者に比し高年である女子労働者の就職の機会は狭められる一方、賃金額の決定についても、当該企業における勤続期間が重要な要素をなす年功賃金制の下では、仮に再就職の機会が得られたとしても、その労働条件は従前に比し著しく低下することが明らかである。したがつて、女子労働者は結婚に際しこの事実を予想すべきものといわなければならない。以上のような次第で女子労働者は結婚退職制の下では、結婚によりその意に反して労働賃金収入を全部失うか又は運がよくてもその相当部分を失うものである。かくして、結婚を退職事由と定めることは、女子労働者に対し結婚するか、又は自己の才能を生かしつつ社会に貢献し生活の資を確保するために従前の職に止まるかの選択を迫る結果に帰着し、かかる精神的、経済的理由により配偶者の選択、結婚の時期等につき結婚の自由を著しく制約するものと断ずべきである。
近年若年労働力の需給関係が変化し全国的にみて求人数が求職数を大幅に上廻り、中学、高校新卒の女子もその例に洩れないことは顕著な事実である。しかし、この事実から推してかかる女子は結婚退職制を採用する企業とそうでない企業とを選択する自由があるとして前示結論を左右することはできない。すなわち、若年女子の労働力の需給関係は、地域及び企業により差があり、求職者はその意思に関係なく適性その他の精神的肉体的諸条件、住宅。家庭事情等により、求職の範囲を自ら制限されるのである。また、成立に争のない乙第六号証の二(労働省婦人少年局発行「女子事務職員実態調査報告。一九六一年五月」二六頁)によれば、女子の結婚退職規定を有する事業所は総数の八%(内訳。製造業は七・三%、金融保険業は二〇・二%)に及ぶことが明らかである。かような要因を考えるとき、女子求職者が前示のような選択の自由を有するとは到底いえない。また使用者が女子労働者の雇入に際し結婚退職制を明示した場合もこの結論を左右しない。
(二) 公の秩序
1 (性別による差別待遇の禁止)両性の本質的平等を実現すべく、国家と国民との関係のみならず、国民相互の関係においても性別を理由とする合理性なき差別待遇を禁止することは、法の根本原理である。憲法一四条は国家と国民との関係において、民法一条の二は国民相互の関係においてこれを直接明示する労基法三条は国籍、信条又は社会的身分を理由とする。差別を禁止し、同法四条は性別を理由とする賃金の差別を禁止する。ところで、労基法上性別を理由として賃金以外の労働条件の差別を禁止する規定はなく、却つて、同法一九条、六一条ないし六八条等は女子の保護のため男子と異なる労働条件を定めている。したがつて、労基法は性別を理由とする労働条件の合理的差別を許容する一方、前示の根本原理に鑑み、性別を理由とする合理性を欠く差別を禁止するものと解せられる。以上述べたことから明らかなとおり、この禁止は労働法の公の秩序を構成し、労働条件に関する性別を理由とする合理性を欠く差別待遇を定める労働協約、就業規則、労働契約は、いずれも民法九〇条に違反しその効力を生じないというべきである。
2 (結婚の自由の保障)家庭は、国家社会の重要な一単位であり、法秩序の重要な一部である。適時に適当な配遇者を選択し家庭を建設し、正義衡平に従つた労働条件のもとに労働しつつ人たるに値する家族生活を維持発展させることは人間の幸福の一つであるかような法秩序の形成並びに幸福追求を妨げる政治的経済的社会的要因のうち合理性を欠くものを除去することも、また法の根本原理であつて、憲法一三条、二四条、二五条、二七条はこれを示す。したがつて、配偶者の選択に関する自由、結婚の時期に関する自由等結婚の自由は重要な法秩序の形成に関連しかつ基本的人権の一つとして尊重されるべく、これを合理的理由なく制限することは、国民相互の法律関係にあつても、法律上禁止されるものと解すべきである。以上の理由により、この禁止は公の秩序を構成し、これに反する労働協約、就業規則、労働契約はいずれも民法九〇条に違反し効力を生じないというべきである。

(三) 合理的理由による差別又は制限
1 (非能率)被告主張のように、男子職員と女子職員との職種を截然区別し女子職員を被告主張のような補助的事務のみに従事させることが合理的差別といえるか否かはしばらくおく。本件において被告の主張の前提として、既婚女子労働の非能率の責を一般的に女子のみに帰せしめるには、女子は結婚後労働能率が結婚前に比し一般に低下すること、その低下の程度は同一の条件の下における男子よりも甚しいこと、その原因は少くとも使用者側及び国家社会の側に存せず、専ら女子労働者の結婚という事実のみに存することを立証すべきである。この認定に当り、労基法四条の立法趣旨により、女子労働者は一般的平均的に低能率であるとの社会的偏見の排除が要請されること、同法六五条、六六条により既婚女子労働者は出産育児に関し休業請求権を有し、その限度での労務の不提供すなわち、使用者側からみれば非能率が許されていることは充分に尊重されなければならない。しかるとき、本件にあつては、<証拠>によるも右各事実を肯認するに足らず、その他この事実を認めるに足る証拠がない。しかも、前示の補助的事務の内容に徴すると、これに従事する女子労働者が結婚したからとて労働能率が当然に低下するとは推認できない。
もし、既婚女子労働者の一部に労働能率の低下した者が生ずれば、監督者その他被告側において遅滞なくこれを発見確認できるものと推認される。この場合、被告は能率低下の原因を探究し、その責が被告に存せず、もつぱら当該女子労働者に存するときは、かかる者に対して労働協約又は、就業規則等に定める所要の処置を個別的にとれば足りるものと解される。
したがつて、既婚女子労働者の非能率を理由に、勤務成績の優劣を問わず一律にこれを企業から排除することは合理性がない。
2 (賃金)結婚退職制の根拠として被告の主張する事実、すなわち被告において男女同一賃金制に徹しているので、補助的事務に従事する長期勤続の既婚、高年の女子職員に対し、より責任の重い事務に従事する男子職員と比較して不相当に高額の賃金を支払つているとの事実につき判断する。結婚退職制採用後である昭和三五年以降被告主張の年令別最低基本給及び中途採用者初任給につき約三割の男女の賃金格差が設けられたことは被告の自陳するところである。右の格差が勤務時間又は労務内容等の差に基く合理的なものであることの立証はない。したがつて、この点についての被告の主張は事実関係について前提を欠くものというべきである。しかも、仮に、被告主張のように長期勤続既婚女子職員がより責任の重い男子職員に比し高額の賃金を得、しかもこれにつき男子職員からその是正を求められるとの事態が存するとしても、右は主として勤続年数により機械的な昇給を伴う年功賃金制のもたらした結果であるから、むしろその是止のためには、男女を問わず各職員の職務ないし労働の価値に応じた合理的な賃金体系を制定することが適当であるといわなければならない。労基法三条の趣旨は、女子労働者が一般的平均的に低能率であること等過去の社会的偏見によつて不利益待遇をすることを禁止するけれども、性別によらず、職務、技能、能率等の差に応じた賃金格差を否定するものではない。かかる措置をとらないで、年功賃金制の有する若干の短所を理由として女子労働者を結婚と同時に一律に企業から排除し、もつて前示差別待遇を行ない、結婚の自由を制限することは、なんら合理性がない。
3 (その他の合理性)前示補助的事務の内容自体に徴しても、特定宗教における聖職者、巫女等と異なり、これに従事する者を独身者に限定しなければならない理由はない。その他結婚退職制に合理性を認めるに足りる資料はない。
(四) 結婚退職制は公の秩序に反する。
以上述べたとおり、女子労働者のみにつき結婚を退職事由とすることは、性別を理由とする差別をなし、かつ、結婚の自由を制限するものであつて、しかもその合理的根拠を見出し得ないから、労働協約、就業規則、労働契約中かかる部分は、公の秩序に違反しその効力を否定されるべきものといわなければならない。
結婚退職制につき、組合がこれを承認し多数の女子労働者がこれに賛同して退職し、原告もまたこれを熟知して雇傭されたとの被告の主張はそれ自体理由がない。けだし、民法九〇条は公の秩序等に反する一切の法律行為の効力を否定するものであつて、関係当事者がこれに同意したか否かを問わないからである。(法例二条参照)。
三、解雇の意思表示の効力
原告に対する本件解雇の意思表示が結婚退職制を根拠とし、あるいはその実効をおさめるための措置であることは被告の自認するところであるから、たとえ、それが就業規則にいう業務上の都合に該当するものであつても、右制度が公の秩序に反する以上、本件解雇の意思表示は無効といわなければならない。
四、結論
よつて、原告はなお被告に対し雇傭契約上の権利を有するところ、被告これはを争うものである。そして、被告における賃金支払の方法及び原告の賃金月額は原告主張二のとおりであることは当事者間に争がない。
したがつて、雇傭契約上の地位の確認及び昭和三九年三月二一日以降の賃金として主文第2項記載の金員の支払を求める原告の請求はすべて理由があるから、これを認容すべきである。訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。(沖野威 高山晨 田中康久)

・昇格差別
+判例(東京地判H2.7.4)社会保険診療報酬支払基金事件
理由
一 はじめに、不法行為に基づく損害賠償請求について判断する。
1 憲法一四条は、法の下の平等の基本原理を定め、これを受けて労働基準法三条は国籍、信条又は社会的身分を理由とする労働条件についての差別的取扱いを禁止し、同法四条は女子であることを理由として賃金について男子と差別的取扱いをしてはならないとしている。これら労働基準法の規定の文言の上からは、女子であることを理由として、賃金以外の労働条件について差別的取扱いをすることは直接禁止の対象とされていないが、右規定の趣旨は、賃金以外の労働条件についても、性別を理由とする合理的理由のない差別的取扱いを許容するものではないと解され、労働条件に関する合理的理由のない男女差別の禁止は、民法九〇条にいう公の秩序として確立しているものというべきである。したがって、本件で問題とされている昇格についても、合理的理由なしに男女を差別的に取り扱った場合には、公の秩序に反する行為として違法であるとの評価を免れない。そして、男女が平等に取り扱われるという期待ないし利益は、不法行為における被侵害利益として法的保護に値すると解すべきであるから、右のような昇格における差別につき被告に故意又は過失があったときは、不法行為が成立する

2 そこで、このような見地から、本件において不法行為が成立するか否かを検討するに、まず、次の事実は、当事者間に争いがない。
(一) 被告は、原告らの主張1のとおり社会保険等の診療報酬の審査、支払を行う機関であり、原告らは、その主張のとおり、それぞれ被告支部に入所して就労し、昭和五三年一月一日現在五等級に在級してその後はそれぞれ主張のとおりの等級・号となっている。被告には全基労と基金労組の二つの労働組合があり、原告らは全基労に所属している。
(二) 被告の職員は、原告らの主張2に記載するような業務に従事しているが、右業務は毎月定められた日程に沿って処理され、これに従事する職員に男女の区別はない。そして、毎年の職員採用試験は男女同一に扱っており、支部における採用は男性に比べ女性が多く、昭和五三年六月から昭和五四年五月までの採用者数は男性八六名、女性二一一名となっている。
(三) 原告らの主張3に記載のとおり、被告においては、職務が一等級から七等級に区分され、この職務の等級に対応して給料表も一等級から七等級まで定められ、各等級の職務が規定されている。そして、下位等級から上位等級へ格上げすることを昇格というが、昇格に伴って給料が上がる仕組みとなっている。昇格の要件については、職員給与規定付属の基準に「必要経験年数又は必要在級年数を良好な成績で勤務したものでなければならない。」と定められている。
次に、当事者間に争いのない事実と、成立に争いのない甲第三号証の一ないし八、第四号証の一ないし三、第二二号証の一、第八号証、乙第一号証、第九五ないし第一〇二号証、第一〇八号しょう、原本の存在及び成立ともに争いのない甲第二二号証の二、乙第五ないし八号証、第三九号証、証人n、同o(第一、二回)、同p、同q、同rの各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) 昭和二三年に被告が設立されてまもなく、東京都支部に職員組合が結成され、その後、逐次支部単位に職員組合が結成され、昭和二五年には右各職員組合を支部とする全国単一組織の全国社会保険診療報酬支払基金職員組合が発足し、昭和三一年に全国社会保険診療報酬支払基金労働組合(全基労)と改称した。
ところが、昭和三九年ころ全基労からの脱退者が全国的に続出し、右脱退者により基金支部ごとに労働組合が結成され、同年五月には右組合を支部として被告の本部及び支部の全事務所にわたる全国単一組織の社会保険診療報酬支払基金労働組合(基金労組)が発足した。
(二) 右組合分裂以降、組合間において組合員獲得活動が活発化していたところ、昭和五〇年七月ころ、被告岡山支部において基金労組所属の女子職員が基金労組を脱退して全基労に加入したことに端を発して部落差別問題に発展し、組合間に紛争が拡大した。これを契機に岡山においては昭和五一年六月に、兵庫では同年一〇月にそれぞれ人権侵害反対共闘会議が結成され、両共闘会議と右部落差別問題に関する管理責任を追及されていた被告の岡山県基金支部及び兵庫県基金支部との間に会合が持たれた。そして、岡山県における同年九月二二日開催の会合において、被告理事長は支払基金人権侵害反対共闘会議及び全基労に対し、労働組合別にその所属によって人事、賃金、昇格及び昇任差別、その他の職場八分をすみやかに改め、そのために全基労中央及び各支部と協議し、早急に解決することを約束する旨の確認文書(以下「九・二二確認」という。)を作成、交付した。
(三) ところで、被告の職員給与規程上は、職員の昇格について男女の性別によってその適用基準を別にしているわけではないが、昭和二三年に被告が発足して以来、昇格につき男女間に格差が生じていた。そこで、全基労は、右九・二二確認以降、各支部において、基金労組所属の男子職員の昇格実績を基準にして、全基労所属の男子職員のそれとの格差の是正を求めると同時に、女子職員についても格差を一挙に是正するよう要求した。
(四) 他方、九・二二確認を契機として、中労委の仲介による和解交渉が、昭和五一年一〇月二五日から開始された。その交渉項目は労使双方で持ち寄ったが、双方に相当の差があったため、結局、全基労が同年一一月一〇日付けをもって中労委会長宛に提出した要請書に記載された一〇〇項目を交渉項目とし、うち四〇項目を中労委関与事項、残る六〇項目を労使間の自主交渉事項とした。これにより、男子職員の組合間差別問題は中労委関与事項、男女格差の解消問題は自主交渉事項となった。
そして、全基労は、組合間差別の問題については、組合分裂があった昭和三九年から被告の差別により不利益を被ってきたことを理由に、男子職員の三等級及び四等級への昇格人事において、基金労組との差別の是正、回復措置として、全基労所属の男子職員について、基金労組の男子職員の平均経験年数を基準として選考抜き一律昇格の措置を取ることを求め、また、男女差の解消問題については、全基労と協議の上、基準を定めて遅くとも昭和五二年一二月末までに是正することを要求した。これに対し、被告は全基労の要求には応じられないとの姿勢であったため、労使間の交渉は難航した。中労委関与の和解交渉は昭和五三年一月二五日まで続けられ、被告は、中労委の強い勧告により同日一・二五協定を締結するに至った。
(五) 一・二五協定の内容は多岐にわたったが、組合間差別の回復措置としては、当時四等級又は五等級であった全基労組合員kほか四九名の男子職員につき、三等級又は四等級への選考抜き一律昇格の措置を取ることが主であった。右選考抜き一律昇格の具体的内容は、次のとおりであった。
(1) 三等級への昇格
基金労組の男子職員で昭和四二年八月から昭和五二年三月までの間に三等級に昇格した者の昇格時における経験年数(前歴加算等により修正したもの)の全国平均値である二一年一月を超えることを昇格の要件とする。この要件を満たす者のうち、当時四等級であった五名中二名については昭和五三年一月一日付けで、残りの三名については同年七月一日付けでそれぞれ三等級に発令し、できる限り早期に係長にするよう努力する(係長発令までは調査員とする。)。右要件を満たす者のうち、当時五等級であった一五名については、同日付けで四等級にした上、同年七月一日付けで三等級に発令し、できる限り多くの者を係長にするよう努力する(係長発令までは調査員とする。)。
(2) 四等級への昇格
基金労組の男子職員で昭和四二年八月から昭和五二年三月までの間に四等級に昇格した者の昇格時における経験年数の各支部別平均値(別表「四等級昇格の支部別平均勤続年数表」記載のとおりである。)を超えることを昇格の要件とする。この要件を満たす者(三等級の要件を満たす者を除く。)三〇名を昭和五三年一月一日付けで四等級に発令し、同年四月一日までに班長とする。
(3) 必要在級年数の起算日
いずれの昇格についても、上位等級への昇格に当たっての必要在級年数の起算日は、各平均勤続年数に達した日の翌月一日(「達した日」が月の初日の場合はその日)とする。
一・二五協定の差別是正措置としては、右昇格のほか、男女を問わないで給料の号の格差を調整する措置があったが、五等級在級者についての調整に当たっては、男子職員は経験年数が一三年で五等級に昇給した者を基準とし、女子職員については経験年数一八年の者を基準とした。
これらの措置等を定める以外に、一・二五協定では、前記昭和五二年一一月一〇日付け要請書に掲げた事項のうち右協定で合意されなかった事項をすべて継続交渉事項としたが、男女差の解消問題は、その一つであった。
なお、原告j、同hを除く当時全基労に所属していた一六名の原告は、いずれも五等級に在級し、三等級又は四等級への昇格の要件を満たしていた。また、原告a、同b、同c、同d、同e、同i及び同fは、給料の号の調整を受けた上、被告に対し、一・二五協定における自己に関する協定内容に同意する旨の同意書を差し入れた。
(六) 右のとおり、一・二五協定において、基金労組の男子職員の平均経験年数を昇格の要件とする選考抜き一律昇格の措置を取ったため、当然のことながら、基金労組所属の男子職員で、その経験年数において右要件を満たしながら三等級又は四等級へ昇格していない者が出てきた。そこで、基金労組は、これを逆差別であるとして、被告に対して直ちにその是正を求めたため、被告は、基金労組との間において、基金労組所属の四等級又は五等級の男子職員について、全基労所属の男子職員に対する選考抜き一律昇格と同様の昇格措置をすることを約した二・二八確認を締結した。
右二・二八確認の昇格措置の基準は、ほぼ一・二五協定と同一であったが、三等級昇格対象者の発令時期の点で一・二五協定では問題とならなかった要件が定められた。すなわち、経験年数二一年一月以上の三等級昇格対象者の発令時期につき、〈1〉経験年数二四年六月以上であること、〈2〉昭和五三年一二月三一日現在四等級であり、四等級の職務についていたこと、〈3〉同日現在四等級昇格後六月を経過していたこと、以上の三つの要件を設け、三要件とも満たす者を昭和五三年一月一日付け、〈1〉と〈3〉を満たすが、〈2〉の要件を欠く者を同年四月一日付け、その余の者を同年七月一日付けとした。
女子職員の処遇については、二・二八確認においても男女格差の解消問題を含め継続交渉事項とされた。
なお、二・二八確認においても、給料の号の格差の調整がなされ、当時基金労組に所属していた原告jは、五等級に在級し、三等級への昇格要件を満たしていたが、自己にかかわる給与調整等の措置に同意し、今後一切異議を申し立てない旨の同意書を差し入れた。
(七) さらに、被告は、同年三月一六日、全基労及び基金労組のいずれにも属しない非組織労働者について右措置をしないことは、非組織労働者であることを理由として差別的取扱いをしたことになり、しかも、右差別的取扱いをすることにつき格別の合理的理由はないとして、全基労の要求に従い、右非組織労働者四名について、二・二八確認と同一の基準で選考抜き一律昇格措置を取る旨の三・一六確認を締結した。
(八) その後、被告は、昭和五四年一二月二七日に基金労組との間において、二・二八確認により基金労組所属の男子職員についてなされた選考抜き一律昇格を同労組所属の女子職員については措置しないことを当然の前提として、給料の号の調整をすることとし、二・二八確認の際継続交渉事項とされた女子組合員の処遇に関し、基金労組において今後異議申立てを行わず、他に一切の請求をしない旨の一二・二七確認を締結した。そして、当時も基金労組組合員であった原告jは、給料の号の調整を受け、被告に対し、右確認内容につき同意すると共に、今後一切異議申立てをしない旨の同意書を差し入れた。

3 右事実によれば、被告の職員は男女が同一の採用試験で採用され、その後各人が従事する業務内容も、男女の区別なく同一であったところ、被告は、全基労との間において一・二五協定を締結して、全基労所属の男子職員で四等級及び五等級在級者について、勤務成績や能力に基づく選考をすることなく、勤続年数という基準に準拠して一律に昇格させる措置を講じ、続いて基金労組との間において二・二八確認を締結して、基金労組所属の男子職員で四等級及び五等級在級者について、同様に選考をしないで、同様の基準に準拠して一律に昇格させ(昇格発令時期に関する一・二五協定との相違については、暫く措く。)、さらに、全基労との間において三・一六確認を締結して、非組織労働者であったため、右基準に該当しながら右の昇格措置が取られなかった男子職員について、同様の昇格措置を講じた。これにより被告は、四等級及び五等級在級のすべての男子職員について、勤続年数を基準とした選考抜き一律昇格の措置をしたことになる。ところが、被告は、女子職員については、右昇格措置が取られた男子職員と同一の等級に在級し、右の昇格基準に該当する者があったにもかかわらず、原告らを含むこれら右基準に該当する女子職員に対し、なんらの昇格措置も講じなかったものである。
そうすると、原告ら女子職員は、昇格に関して、右協定及び二つの確認により差別的取扱いを受けたものといわざるを得ず、被告は、右取扱いをすることにより、同じ昇格要件を満たす男子職員と女子職員との間の昇格に格差が生じる結果になることを認識していたものということができる。したがって、この格差の発生につき合理的な理由がない限り、女子職員につき昇格措置を講じなかった被告の不作為は、前述のとおり公の秩序に反するものとして不法作為を構成し、被告は、その責任を負わなければならない。被告は、客観的に違法とされる事実の発生の認識がなかったから故意がないと主張するが、同一の昇格要件を満たす男女に格差が生じること自体の認識があったことは明らかであるから、その結果が客観的に違法であるとの認識が被告になかったとしても、不法行為の要件である故意の存在を否定することはできない。

4 そこで、女子職員について本件昇格措置を講じなかったことにつき、合理的理由があり、違法性がない旨の被告の主張について、検討する。
(一) 被告は、全基労との間の一・二五協定において男女差の解消を段階的に是正する基準を定める旨の労働協約を締結したが、右労働協約が解約されていないのであるから、女子職員について男子職員と同一の昇格措置を取らなくとも違法でないと主張する。
前記認定事実によると、昭和二三年の被告設立以来、昇格制度運用の実績上、男女間に格差が生じていたので、全基労は、各支部において、基金労組所属の男子職員の昇格実績を基準にして、全基労所属の男子職員のそれとの格差のみならず、女子職員との格差をも解消すべく要求をしていた。そして、中労委の仲介による和解交渉において、昭和五一年一一月一〇日に中労委に対し要請書を提出し、女子職員について男女差の解消を図るために、被告に対し、全基労と協議の上基準を定めて遅くとも昭和五二年一二月末までに是正することを要求した。この要求が、一・二五協定において、今後継続して交渉する事項とされたものである。右の事実経過からみると、一・二五協定における男女差の解消という継続交渉事項の内容は、被告と全基労の協議により、基準を定めて男女格差を是正する措置を講じることであり、その際の基準としては段階的ないしは漸進的に男女格差を解消する基準も考慮されていたものと認められる。
しかしながら、本件昇格措置が前記のとおり勤続年数のみを基準とする選考抜き一律昇格という性格のもので、極めて明確な昇格要件を定めて男子職員を一挙に昇格させたにもかかわらず、同一の要件を満たす女子職員については段階的にしか昇格させないというのは、それ自体女性差別であり、その趣旨で労働協約が締結されたとすれば、その協約の効力はそのまま認めることはできない。そうだとすれば、仮に原告らの所属する全基労が、本件昇格差別がされることを認識した上で被告主張の趣旨の労働協約を締結したとしても、原告らとの関係において、右協約締結により本件昇格措置を講じないという被告の取扱いが正当化されるものではない。さらに付け加えるならば、前記の事実経過に照らすと、全基労は、右協定の締結時においては、本件昇格措置が男子職員全員について行われることを予測していたとは認められず、女子職員が新たに差別的取扱いを受けることを考えに入れた上で、右の男女差の解消につき継続交渉とする旨の条項が締結されたものではないということができる。したがって、被告主張の事情は、被告が女子職員について選考抜き一律昇格措置を取らないことの合理的理由となるものではないことは明らかである。したがって、被告の右主張は、理由がない。
(二) 次に、被告は、本件協定及び確認における男子職員のみについての選考抜き一律昇格措置は男子職員間に生じた組合間差別ないしは逆差別の是正のためになされたものであるが、女子職員についてはそもそも組合間差別が存在しないのであるから、右措置を講じないという被告の取扱いには合理的理由があると主張する。前記認定事実によると、全基労は、組合分裂があった昭和三九年から被告の組合間差別により不利益を被ってきたので、昭和五一年ころから男子職員の三等級及び四等級への昇格人事において、その差別の是正、回復措置として、被告に対し、基金労組の男子職員の平均経験年数を基準とする選考抜き一律昇格を全基労所属の男子職員について措置すべきことを求めた。これに対し、被告は、中労委の強い勧告により一・二五協定を締結して、組合間差別の回復措置として、全基労の五〇名の男子職員につき、その要求どおりの経験年数要件による選考抜き一律昇格を措置することとなった。ところが、この措置を知った基金労組は、それが基金労組所属の男子職員でその経験年数において右経験年数要件と同一の基準にある者に対していわゆる逆差別による不利益取扱いをもたらすとして、直ちに右逆差別の是正を求めたため、被告は、基金労組との間において、選考抜き一律昇格を措置した全基労所属の男性職員と同一基準に該当する基金労組所属の男性職員について同様の措置をすることを約した二・二八確認を締結した。さらに、被告は、非組織労働者に対する差別的取扱いを避ける趣旨から、全基労の要求に従い、三・一六確認を締結したものである。
右によれば、確かに、三・一六確認によって男子職員全員に対する実施が完了した選考抜き一律昇格措置は、被告主張のとおり男子職員間に生じた組合間差別の是正に端を発し、男子職員間における平等を実現するという趣旨で行われたものということができる。そして、弁論の全趣旨によれば、女子職員については、男子職員との格差はともかく、組合間の差別は存在せず、その是正の要求はなかったものと認められる。そうすると、男子職員については組合間に格差があり、それに対する是正措置として本件昇格措置を講じる必要があったが、女子職員についてはもともと組合間差別がなく、なんらの措置も必要でなかったものであり、被告の措置は男女別にそれぞれ同性の職員間の平等化を図る目的のためにされたのであるから、それなりに合理性があるという考え方もできそうである。
しかしながら、本件昇格措置が男子職員のみに講じられた結果、右措置が取られる前には同じ五等級に在級して同一の業務に従事していた男子職員と女子職員との間に格差が生じ、前者は一定の経験年数を超えていることを理由に三等級又は四等級に昇格し、後者は同一の経験年数に達していても五等級に据え置かれることになったもので、この昇格については勤務成績等を問題としていないのであるから、右措置による男女間の昇格上の格差自体について合理的な説明を加えることは困難である。そうすると、本件昇格措置の結果として生じた男女間の格差は、結局のところ性別を理由とする差別となんら異なるところはなく、本件昇格措置を講じた意図ないし動機がいかに正当であっても、右の格差の存在につき合理的理由があるとすることはできない。被告は、このような原告らの考え方を、ひたすら理念的男女平等観に駆られて結果の平等だけを追及するものと非難するが、被告の主張は、男女を区別してそれぞれ同性の職員同士でのみ平等を考え、男女相互間の平等を顧みない点で問題があるといわざるを得ないのであって、男女間に格差が生じたこと自体に合理的理由がない以上、原告らが男女平等の理念の実現のために結果の平等を追及するのは当然である。
したがって、被告の右主張は、理由がない。
(三) さらに、被告は、本件昇格措置に関する男女別の取扱いは、公序に反するものではないと主張するが、労働基準法三条及び四条に関する主張については、前記1に述べたとおりであるから、被告が女子職員について本件昇格措置をしない理由として主張する点について検討する。
被告は、まず、本件昇格措置は被告の規定に反する違法な人事処遇であるから、性別を問わず繰り返すことはできないと主張する。確かに前記認定事実によれば、本件では、昇格の時点においては等級と結びついた係長又は班長の空きの有無を問わずに、その意味では職務の定数を無視して、勤務成績等による選考をしないで一律に昇格させたのであるから、被告の職員給与規程等に反して異常ともいえる昇格措置であるが、それだからといってその効力がないというものではなく、女性差別の是正のために再度女子職員について実施することが許されないものでないことは明らかである。したがって、右の主張は被告の取扱いにつき合理性を認める根拠とはなり得ない。
次に、被告は、本件昇格措置を男子職員についてのみ講じ、女子職員については段階的是正を図ることとしたのは、全基労及び基金労組の要求に応じたものであり、差別的取扱いの決定的主体は右労働組合であって、被告には責めはなく、被告の取扱いは原告らが女性であることを理由に差別したものではないと主張する。しかし、いかに労働組合の要求に応じたものであるからといって、その結果としての差別につき他に合理的理由がなく、女性であること以外に原因がなければ、女性差別にほかならず、被告はその責任を免れないのであって、被告主張のような事情があるからといって、本件昇格に関する差別が女性を理由としたものでなく、公序に反しないなどという立論は成り立たない。
被告はさらに、全基労との間で男女差の解消について継続交渉事項とする旨の労働協約が成立したのであるから、全基労所属の原告らについて本件昇格措置を取ることは、労働協約に抵触するから許されないし、基金労組との間でも女子職員については本件昇格措置を取らないこととしたのであるから、当時基金労組に所属していた原告二名につきその後脱退したからといって昇格させるのは、基金労組所属の女子職員を不当に差別することになり許されない、と主張する。しかし、右労働協約は女性差別の結果が発生することを認識した上で締結されたものでないことは、前述のとおりであり、その趣旨が本件昇格差別の発生後において女子職員に昇格措置を取らないこととしたものでないことは明らかである。また、被告が基金労組を脱退した原告二名のみについて昇格措置を講じるとすれば、他の基金労組所属の女子職員に対し不当に差別することになるが、それは一部の職員に対してのみ昇格措置を講じるという新たな差別を行うからに過ぎず、被告の主張事実は、原告らについて本件昇格措置を講じることが許されない理由には到底なり得ない。
以上によれば、本件男女別の取扱いが公序に反しないという被告の主張は、理由がない。
(四) 被告は、原告らが本件昇格措置を要求することは、信義則に反すると主張するので、これにつき判断する。
まず、原告七名について、給料の号の調整を受けた上で、男女差を段階的に是正する基準を定立することを含む一・二五協定に異議なく同意したから、その格差を一挙になくすことを請求するのは信義則に反すると主張し、確かに右原告らは前記認定のとおり同意書を提出しているが、もともと右の協定の締結に当たっては、前述のとおり本件昇格差別の存在を前提としていたものではないから、右差別の存在が明らかになった時点でその是正を求めることに問題はなく、それが男女格差を一挙になくそうとするものであっても、信義に反するとはいえない。
次に、被告は、原告jは女子職員について本件昇格措置を取らないことを前提として、一二・二七確認に基づく給料の号の調整に異議を留めることなく同意したのであるから、基金労組を脱退したからといって右昇格措置を求めるのは、信義則違反であると主張する。前記認定事実によれば、被告の主張するとおり、原告jは男子職員について取られた本件昇格措置を女子職員には講じないことを前提とする一二・二七確認の内容に同意したものであるが、公序に反する行為である男女差別について、その是正を段階的かつ漸進的方法によることに同意したからといって、その後差別を一挙に是正するよう訴求することを許さないというような効力を認めるべきではなく、右同意の存在も信義則違反の根拠となるものではない。
被告はさらに、本件昇格措置当時存在した男女格差は、長年の実績が累績してできたもので、その是正も長期間を要するのは当然であったため、原告らはそれぞれその所属する労働組合を通じて選考抜き一律昇格の代替措置を被告に要求して、これを講じることとした協定の締結に同意したのに、今更選考抜き一律昇格を求めるのは信義に反する、と主張する。しかしながら、本件昇格措置が取られる以前に存在した男女格差が長年の実績の累積であるとしても、本件において問題とされている男女格差は、一・二五協定、二・二五確認及び三・一六確認によって行われた選考抜き一律昇格に基づいて、同一等級にいた男女が同一の要件を満たすにもかかわらず、一方のみが昇格することによって新たに生じた格差である。したがって、以前から存在した男女格差が勤務成績等に基づく正当なものであって、本件昇格措置が取られた男子職員のみが不当に差別されていた事実が認められるのであればともかく、そのような事実が立証されない以上、本件昇格措置により新たに生じた格差の是正が長年の格差を一挙に解消する結果をもたらすことになるとしても、その是正措置を求めることが信義則に反するというのは相当でない。もっとも、被告の主張するように、昇格は職務の変更を意味するから、本来は職務等級の定数に空きがないと措置できないものであるが、そもそも男子職員について実施された選考抜き一律昇格においても、前述のとおり昇格措置を講じる時点では定数を無視していたのであるから、女子職員についてのみ定数の空きを待って段階的に長期間をかけて昇格させる方策を取るしかないということはできない。そして、原告らが選考抜き一律昇格の代替措置を求め、これを講じることとした協定に同意したからといって、本来の是正を求める請求が妨げられるものでないことは、先に述べたとおりである。そうすると、被告の右主張も、信義則違反を構成するものではない。
右によれば、被告の信義則に反する旨の主張は、理由がない。
(五) 以上のとおりであるから、本件昇格措置に関する男女別の取扱いが違法ではない旨の主張は、いずれも失当であり、被告の不作為は不法行為に該当するといわなければならない。

5 次に、原告jの請求にかかる不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の主張について検討する。
原告らは、右主張が時機に後れているから、却下されるべきであると主張するが、本件訴訟の完結を遅延させるものとは認められないから、原告らの右主張は採用できない。
そこで、消滅時効の主張の当否につき判断するに、前述のとおり、二・二八確認においては、本件昇格措置により生じたものを含めて、男女格差の解消が継続交渉事項とされ、当時基金労組組合員であった原告jもこれに同意していたところ、昭和五四年一二月二七日の一二・二七確認に至るまで交渉の進展はなく、同確認によって初めてその交渉の結果が現れ、給料の号の調整等の措置が取られたものである。したがって、原告jとしては、本件昇格措置による女性差別の事実を認識したとしても、その是正を右継続交渉に委ねるのは自然な成行きであって、これによる是正に期待できなくなったときに損害回復のための権利行使が現実化すると考えるのが相当であり、その意味で同原告が損害の発生を認識したのは右一二・二七確認のときであると解すべきである。そして、原告jが訴えを提起したのは昭和五六年一二月二五日であることは記録上明らかであるから、消滅時効は成立しないことになる。そればかりでなく、前記判断のとおり、本件男女差別は昭和五三年三月一六日の三・一六確認によって完成されたものであるから、右確認の内容を知らなければ損害賠償請求権の消滅時効が進行しないところ、同原告は三・一六確認当時も基金労組組合員であり、右確認は被告と全基労との間の確認であることからすると、右確認締結後まもない期間内にその内容を把握したとも思われないし、原告jが訴えを提起した日から遡って三年以上前に右事実を知ったという的確な証拠も存在しない。したがって、被告の消滅時効の主張は理由がない。

6 そこで、原告らの損害について判断する。
(一) 差額賃金相当損害金
原告らの昭和五一年一〇月一日現在の勤続年数は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告らについて二・二八確認による選考抜き一律昇格の措置が適用されて昇格し、その後慣行どおりの定期昇格をした場合、原告らの昭和五三年一月一日からのあるべき等級・号及び賃金額が、別紙差額賃金計算表「是正さるべき賃金」欄中の「等級・号」欄及び「賃金月額」欄に記載のとおりとなること、ただし、原告d、同h、同jについては昭和五三年一月から六月までは別紙差額賃金計算表の二のとおりとなることを認めることができる。そして、原告らの昭和五三年一月一日からの現実の等級・号及び賃金額が、差額賃金計算表「現行賃金」欄中の「等級・号」欄及び「賃金月額」欄に記載のとおりであること、賃金及び期末手当の支払日が原告ら主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
そうすると、原告らは、被告の不法行為により、別紙差額賃金計算表「差額賃金計」欄記載のとおり(ただし、原告d、同h、同jについては同表の二により修正)の金額すなわち別紙認容額一覧表(一)「金額」欄記載の金額の差額賃金に相当する損害を被ったことになる(ただし、原告mの認容額一覧表(一)の昭和五三年一月分の金額は、損害額から請求控除額一万五八四〇円を差し引いた金額である。)。そして、原告a、同b、同c、同d、同e、同f、同g、同hについては、本件口頭弁論終結後においても、別紙差額賃金計算表の平成元年九月の「差額賃金月額」欄記載のとおりの金額すなわち別紙認容額一覧表(二)記載の金額の差額賃金に相当する損害が毎月発生することになる(この金額は原告らの定期昇給等により減少していくことが予測される。)。
なお、原告らは、一・二五協定において勤続二四年六月以上の者は昭和五三年一月一日付けで三等級に発令することとされた旨主張するが、右協定の内容は前述のとおりであり、原告らの右主張事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、原告d、同h、同jの発令時期については、二・二八確認における要件を適用すべきである。
(二) 差額退職金相当損害金
原告j及び同iが、原告ら主張の日に退職したことは当事者間に争いがなく、右原告らに本件昇格が適用された場合の退職金が別紙認容額一覧表(三)「是正賃金による退職金」欄記載のとおりであり、現実に支給を受けた退職金が同表「支給退職金」欄記載のとおりであることは、弁論の全趣旨により認められる。したがって、右原告らは、被告の不法行為により、同表「退職金差額」欄記載のとおりの退職金に相当する損害を被ったことになる。
(三) 慰藉料
原告らは、女性であるがために選考抜き一律昇格措置を受けられなかったもので、これにより精神的苦痛を被ったことを推認することができる。そこで、慰籍料額につき検討するに、本件不法行為は、男子職員の一部に一回限り実施した本件昇格措置を原告らに対しては取っていないという不作為であること、本件昇格措置は、労働組合の要求に応じて組合間差別を是正する意図で行われたものであること、男女差の解消につき継続して交渉することとされ、それに同意した原告らもいたことなどの前記認定事実、その他諸般の事情を考慮すると、原告一人当たり一〇万円をもって相当とする。
(四) 弁護士費用
原告らが本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人弁護士に依頼し、その報酬を支払う旨約したことは、弁論の全趣旨により認められるところ、本件訴訟の内容、経過及び認容額その他諸般の事情を勘案すると、本件と相当因果関係のある損害として、各原告について別紙認容額一覧表(四)「弁護士費用」欄記載の各金額を認めるのが相当である。
7 以上のとおりであるから、原告の不法行為に基づく損害賠償請求は、6で判断した損害額の賠償を求める限度で理由があることになる。ただし、本件口頭弁論終結後の差額賃金相当額の損害については、将来における事情の変動により減少することが予測されることを勘案し、予め請求する必要があるのは本判決確定までと解するのが相当であり、そうすると、その後の損害の請求に係る訴えは訴訟要件を欠くことになる。
なお、原告らの金員請求については、他の根拠に基づく請求で右理由のある限度額を超えるものはない(債務不履行に基づく慰籍料及び弁護士費用は、仮に認められるとしても不法行為に基づく額を超えることはないし、将来の請求についても判断が異なることはない。)から、これ以上の判断を必要としない。

二 次に、原告らの昇格等の確認請求の当否について判断する。
1 原告らは、労働基準法四条、一三条を根拠に、男子職員に対する選考抜き一律昇格措置が女子職員である原告らにも講じられ、現実に昇格したことになるとして、昇格等の確認請求をする。しかしながら、当裁判所は、右規定を根拠とする確認請求は、次に述べるとおり理由がないものと考える。
被告における昇格とは、前記のとおり、職務の複雑、困難性及び責任の度合いに基づいて区分された職務の等級を下位から上位へ格上げすることであり、前掲乙第六号証によると、被告における職員の職務の等級の決定は、理事長が行うことになっている。したがって、被告の職員に対する昇格は、原則として職務と一体になった等級を被告の人事上の裁量によって変更するものであり、あくまで被告の裁量権の行使であるといわざるを得ない。もっとも、本件においては、前述のとおり職務と直接に結び付かないにもかかわらず等級の変更を認めているから、その意味では本件昇格は、例外的に単なる賃金の引上げという性格のものであるとみられそうでもある。しかし、本件昇格措置における五等級から四等級への昇格についてみると、前述のとおり昭和五三年一月一日に四等級に発令して同年四月一日までに班長とするというもので、職務と等級の分離は三か月程度の暫定的な措置に過ぎず、また、三等級への昇格については、前述のように係長発令まで調査員とすることにより、一応両者が結びついたものとしている。したがって、両者の関連性は、本件においてもなお失われていないということができる。本件昇格措置が右のような性格である以上、これを男子職員についてのみ講じたことが男女差別であっても、女子職員については被告の決定がなければ本件昇格措置が取られたことにならないのが原則であり、この決定がないにもかかわらず昇格したものと扱うには、明確な根拠が必要なはずである。
原告らは、その根拠として労働基準法四条、一三条を挙げるが、本件は昇格における男女差別であって、同法四条違反を構成する賃金差別とは別個の問題であるから、同条は根拠となり得ない。また、本件における差別は昇格措置を取らないという不作為をその内容とするから、同法に定める基準に達しない労働条件を無効とし、無効となった部分につき同法に定める基準による旨を規定している同法一三条の文言に照らすと、同条の適用があると解することには問題があるばかりでなく、仮に同条を適用することができ、その結果女子職員について本件昇格をさせないという労働条件が無効となると解したところで、無効となった部分を補充すべき基準を同法の中に見出すことはできない。原告らは、労働基準法三条及び四条の趣旨は性別による労働条件の差別も禁止しているのであるから、この趣旨が基準となって労働条件の空白をうめる効果が生じ、男子職員についての労働条件が女子職員にも適用されると説明するのかも知れないが、そのような法解釈には相当が無理があり、解釈の域を超えていると評さざるを得ない。さらに、男女雇用機会均等法も、昇格を含む昇進については均等な取扱いをするように努めなければならないとし、努力義務を定めるにとどまっている。
これらの点を考慮すると、被告の昇格決定がない以上、原告らの主張する根拠によっては、本件昇格措置により原告らも昇格したものと扱うことはできないというべきである。したがって、原告らの右主張は、理由がない。
2 原告らは、確認請求の根拠として、債務不履行も主張するが、仮に被告が使用者として労働契約に基づき原告ら労働者を平等に取り扱う義務を負うとしても、その債務の不履行により損害賠償請求権が発生することは格別、原告らが昇格したものと取り扱われるという効果を生じるいわれはない。したがって、債務不履行を根拠とする確認請求も、理由がない。
三 以上によれば、原告らの本件請求は、差額賃金相当損害金、差額退職金相当損害金、慰籍料及び弁護士費用の請求については、一で判断した限度で理由があり、差額賃金相当損害金及び差額退職金相当損害金に対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求も理由があるが、昇格等の確認請求は理由がない。また、将来の差額賃金相当損害金の請求のうち本判決の確定後のものに係る訴えは、訴訟要件を欠いている。
よって、原告らの請求を右理由のある限度で認容し、訴訟要件を欠く部分に係る訴えを却下し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行とその免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
民事第19部
(裁判官 相良朋紀 裁判官 酒井正史 裁判官 阿部正幸)

3.均等法制定とその後の改正
(1)均等法の制定
(2)1997年改正・2006年改正

・格差の放置
+判例(東京地判H14.2.20)野村証券男女差別事件

++解説
《解  説》
一 Xら一三名は、昭和三二年から昭和四〇年にかけて大手証券会社(旧Y)に入社した高卒女性社員である(中途採用を含む。うち二名は弁論終結時に既に退職)が、同社が賃金、昇格において違法な男女差別をしているとして、同社を相手に、①総合職掌「指導職一級」の職位にあるものとして取り扱われる労働契約上の地位にあることの確認、②入社後一三年次に課長代理に昇格した総合職掌として退職慰労金規程及び退職年金規程の適用を受ける労働契約上の地位にあることの確認、③同期同学歴入社男性従業員との差額賃金及び差額退職一時金(ないし同額の損害賠償金)、慰謝料、弁護士費用(総額約六億七〇〇〇万円)、④退職した者について、退職年金額が同期同学歴入社男性従業員と同一であることの確認、を求めた。本訴係属中、Yは、吸収分割により旧Yの営業を承継し、本件訴訟を引き受けたため、旧Yは脱退した(以下、旧Y、Yを併せて「会社」という。)。
なお、会社は、原告らの入社当時、職位は男性社員にのみ適用し、女性社員については、待遇扱いとしていたが、昭和六一年にコース別人事制度を導入し、基幹的業務を行う社員を「総合職」と、定型的・補助的業務を行う社員を「一般職」と位置づけ、男性社員は総合職に女性社員は一般職に属するものとし、昭和六二年には一般職から総合職への転換を可能とする職種転換制度を導入した。その後平成六年には、それまでの総合職を「総合職掌」と、「一般職」を「一般職掌」と変更し、総合職掌を、会社の基幹的業務に従事する者で一種外務員資格を有し転勤がある者とし、一般職掌を、補助的・定型的業務に従事する者で原則として転居を伴う異動はない者とした。
この間、昭和六〇年に「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女性労働者の福祉の増進に関する法律」(以下「旧均等法」という。)が制定されたが、同法では、募集、採用、配置、昇進等雇用における男女差別の規制は事業主の努力義務とされている。その後平成九年六月に「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「均等法」という。)が成立したが(平成一一年四月一日から施行)、同法は、「事業主は、労働者の配置、昇進及び教育訓練については、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない。」(六条)などとし、差別禁止を法的義務とした。
二(一) Xらの主張の要旨は、以下のとおりである。
会社においては、高卒入社の男性社員は、入社後一三年次に課長代理に自動的に昇格しているが、女性社員はこれから排除されており、この昇格格差が賃金格差に影響している。Xらは、同期同学歴の男性社員と同一の労働条件で会社に雇用されたにもかかわらず、このような格差が生じているのは男女差別であり、憲法一四条、労働基準法三条、四条、均等法六条、民法九〇条に違反する。
Xらが同期同学歴の男性社員と同様入社後一三年次に課長代理に昇格していれば、Xは総合職掌「指導職一級」(従前の課長代理に相当する。)であり、会社の退職金規程及び退職年金規程上もそのように扱われるべきであり、退職した者の年金額も同期同学歴の男性社員と同額であるから、それぞれその地位又は額の確認を求める。また、Xらは、同期同学歴の男性社員との差額賃金、差額退職金又はこれと同額の損害賠償請求権を有するし、さらに慰謝料、弁護士費用の請求権も有する。
(二) これに対し、会社は、Xらは給付訴訟を提起することにより紛争の抜本的解決を図ることができるから確認の訴えについては確認の利益がないし、Xらを定型的・補助的業務に従事する事務職として採用したもので、基幹的業務に従事する者として採用した者と異なる処遇をするのは当然であり、男女差別はないなどと主張した。

三 本判決は、以下のとおり判断して、Xらの慰謝料請求、弁護士費用請求を一部認容した(均等法施行前に退職した者の請求は棄却)。
(一) 確認請求について
Xらの総合職掌「指導職一級」の地位にあることの確認請求は、その地位が賃金等の基本たる法律関係であるから、その地位についての危険・不安定を除去するために確認を求めることができ、確認の利益がある。しかし、課長代理に昇格した総合職掌として会社の退職慰労金及び退職年金規程の適用を受ける地位にあることの確認請求は、その地位は退職した時点のものであるところ、Xらは現在会社に在職しているから、その地位は現存する法律関係とはいえず、確認の利益がないし、退職したXらがする退職年金額の確認請求も、給付訴訟が提起できるし、年金額それ自体は数額の問題であり基本たる権利又は法律関係とはいえないから、確認の利益がない

(二) 男女差別について
(1) 会社においては、高卒男性社員は、入社後一三年次にその大半が課長代理に昇格しているのに対し、高卒女性社員はそのように昇格していないから、男女間に格差がある。
(2) 会社の行う証券業務は多種多様であり、これを基幹的業務と定型的・補助的業務とに明確かつ截然と区別することは困難で、その差異は、処理の困難度の高いものから低いものまで様々あるという相対的なものである。
会社は、高卒社員につき、男女の性の違いを前提に男女をコース別に採用し、そのコースに従い男性社員については主に処理の困難度の高い業務に従事させ、勤務地も限定しないものとして処遇し、女性社員については、主に処理の困難度の低い業務に従事させ、勤務地を限定するとしたもので、この男女コース別の処遇に伴い、昇格、賃金について格差が生じたものである。
(3) このような男女のコース別の採用、処遇は、性による差別を禁止した憲法一四条の趣旨に反するが、憲法一四条は、民法九〇条のような私的自治に対する一般的制限規定の適用を介して間接的に適用があるにとどまるから、その差別が民法九〇条の公序に反するかどうかを検討すべきである。
社員の募集、採用に関する条件は労基法三条の定める労働条件ではなく、労基法四条は性による賃金の差別を禁止しているにとどまるから、男女のコース別の採用、処遇による賃金の違いによる賃金の格差がこれらに直接違反するとはいえない
Xらが入社した当時は、旧均等法のような規定もなく、企業に採用の自由があること、女性について全国的な異動を行うことは考え難かったことなどからすれば、会社の男女のコース別の採用、処遇が不合理とはいえない
会社の昭和六一年度の人事制度、平成六年の人事制度は、男女のコース別の処遇を維持するためのものであり、これにより男女のコース別処遇が改められたとはいえない。
(4) 会社は、平成九年に均等法が制定され、平成一一年四月一日から施行されているのであるから、この時点以降も男女のコース別の処遇を位置することは、配置における差別を禁止した均等法六条に違反するとともに民法九〇条の公序に反する
職種転換制度は、一般職ないし一般職掌から総合職ないし総合職掌への転換のみを認めるもので互換性がないこと、上司の推薦と試験への合格を必要とすることからして、女性に特別の条件を課すもので、同制度により配置における男女の差別を正当化することはできない
(5) Xらの総合職掌「指導職一級」の職位にあるものとして取り扱われる労働契約上の地位確認請求は、高卒入社後一三年次で課長代理に昇格させるとの昇格基準が労働契約の内容となっていたとはいえないし、会社にそのような義務があるともいえず、また,社員の昇格についての会社の総合裁量的判断は尊重されるべきであること等からして、労基法一三条に基づく昇格請求権があるともいえないから,理由がない。
(6) Xらの差額賃金等の請求権は均等法が施行された平成一一年四月一日以降のものが問題となるが、労基法四条から差額賃金等請求権が直接発生するとはいえないし、Xら入社当時の男女のコース別の採用、処遇が公序に反するといえないこと等からすれば労基法一三条に基づく差額賃金等請求権があるともいえない
(7) 会社は、均等法施行以後も男女のコース別の処遇を維持していたから、過失があり、Xらの被った損害を賠償する義務があるが、それまでの違法とはいえない男女のコース別の処遇により男性社員と女性社員では知識、経験を異にしているから、男性社員と女性社員との賃金等の格差がそのままXらの損害であるとはいえず、その具体的な損害額を確定するのは困難であり、慰謝料の算定に当たって考慮する
Xらの慰謝料としては、会社のした男女差別の態様、期間、男性社員との賃金等の格差の額、Xらの有する外務員資格の種別等を考慮すると、一人当たり四九〇万円から三五〇万円が相当であり、弁護士費用はその一割が相当である(認容額の合計は約五六〇〇万円)。
なお、均等法施行前に退職した者は、差額賃金等請求権も損害賠償請求権もない。

四 コース別雇用管理を行っている企業は少なくないが、実態は男女別の雇用管理となっているのではないかとの指摘もあり(菅野「雇用機会均等法の一年」ジュリ八八一号四四頁)、厚生労働省は、コース別雇用管理についての留意事項を発表している(村木「コース等で区分した雇用管理についての留意事項及び改正均等法の運用状況」経営法曹研究会報三三号二三頁)。
男女のコース別雇用管理について、東京地判昭61・12・4本誌六二五号一一三頁(日本鉄鋼連盟事件。評釈として、松田・ジュリ八八一号五四頁、坂本・判評三四〇号五五頁等)は、これを違法とはいえないとしたが、当時は旧均等法の時代であり、同判決は,旧均等法では配置等についての男女均等取扱いは事業主の努力義務にとどめられていたことを考慮したものであった。
本判決は、これを一歩進め、男女平等取扱いが事業主の法的義務とされた均等法下では、男女のコース別管理を維持することは均等法六条に違反し、公序に反するとしたものであり、企業のコース別雇用管理の在り方に一石を投じたものといえよう。
なお、女子社員が違法な男女差別があるとしてその是正等を求めた大阪地判平12・7・31本誌一〇八〇号一二六頁(住友電気工業事件。同判決への意見書として、西谷・労旬一五〇九号五九頁、山田・同号六八頁がある。)は、男女のコース雇用管理について、高卒男子は将来の幹部候補要員とする趣旨で全社採用を、高卒女子は定型的補助的業務に従事させることを予定して事業所採用をしたケースについて、原告らが採用された昭和四〇年代ころの社会意識や女子の勤務年数等からして女子をこのように位置づけたことが公序に反するとはいえず、その後の是正義務があるともいえないとして棄却している。
男女差別に関する裁判例は多数に上るが、これらについては、前掲大阪地判本誌一〇八〇号一二六頁のコメントを参照されたい。本件は、双方から控訴された由であり、上級審の判断を注目したい。

+判例(東京高判H20.1.31)兼松男女差別事件

++解説
《解  説》
1 本件は,被控訴人に対し,控訴人らが,①控訴人らと同期の一般職の男性社員との間に賃金格差があるのは,違法な男女差別によるものである,②被控訴人は,平成元年8月から定年を57歳から60歳に延長するのと併せて55歳に達した事務職を専任職に転換させその賃金を引き下げたが,これは違法な年齢及び男女差別である(対象者はX1),③被控訴人は,平成9年4月から55歳に達した社員の調整給及び付加給を引き下げたが,これは違法な年齢及び男女差別である(対象者は控訴人X2ないしX4),と主張して,(1)一般職の男性社員に適用されている一般職標準本俸表の適用を受ける地位にあることの確認(その後退職したX1,X6は取り下げた。),(2)ア 控訴人らと同年齢の一般職の標準本俸(月例賃金,一時金)及び退職金と控訴人らが現に受領した本俸(月例賃金,一時金)との差額及び退職金との差額の支払(本俸の差額請求者は控訴人ら全員。退職金の差額請求者は,X1,X6),イ 定年延長に伴う55歳からの月例賃金引き下げについて引き下げ前との差額の支払(請求者はX1),ウ 55歳からの調整給及び付加給引き下げについて,引き下げ前との差額の支払(請求者はX2ないしX4),(3)慰謝料及び弁護士費用の支払(請求者は控訴人ら全員),(4)付帯請求として遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である(差額分は賃金又は不法行為〔民法709条〕もしくは債務不履行〔民法415条〕に基づく賃金相当額の損害賠償金として請求)。
原審(東京地判平15.11.5労判867号19頁)は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。そこで,控訴人らはこれを不服として控訴した。
当審において,X2,X3はいずれも定年退職を迎えたため,上記の請求を取り下げ,上記(2)アのうち退職金の差額請求を追加し,更に,X1,X6を除く4名の控訴人らは,平成15年8月から平成19年2月までの本俸(月例賃金及び一時金)の差額の請求(ただし,X2は,退職した平成15年9月までの請求)を拡張し,X2ないしX4は,55歳からの調整給及び付加給引き下げについて引き下げ前との差額の請求を拡張した。

2 本判決は,前記の請求についての訴えの確認の利益について,被控訴人が,平成9年4月から新人事制度を導入し,職掌を再編するとともに各職掌ごとに職務等級を設定したから,「被控訴人の給与規定に基づく一般職標準本俸表」は現在既に存在せず,既に存在しない地位について雇用関係上の地位にあることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠くもので,不適法であるとして,原判決中,この訴えについて本案判断をして請求を棄却した部分を取り消し,この請求に関する訴えを却下した。
次に,(2)アの請求については,男女差別の有無及び違法性について,概略次のとおり判断した。
勤続期間が近似すると推認される同年齢の男女の社員間,あるいは,職務内容や困難度に同質性があり,一方の職務を他方が引き継ぐことが相互に繰り返し行われる男女の社員間において賃金について相当な格差がある場合には,その格差が生じたことについて合理的な理由が認められない限り,性の違いによって生じたものと推認することができると解される本件において,事務職社員と一般職社員との間に賃金に相当の格差があり,事務職の女性は定年まで勤務しても,育成途中にあると見られる27歳の一般職の賃金に達することはない。控訴人らが損害賠償を請求する期間の始期とする平成4年4月1日の時点において,入社以来34年11月勤続していたX1(55歳),27年勤続していたX3(45歳),26年勤続していたX4(44歳)の関係では,同控訴人らの職務内容に照らし,同人らと職務内容や困難度を截然と区別できないという意味で同質性があると推認される当時の一般1級中の若年者である30歳程度の男性の一般職との間にすら賃金についての相当な格差があったことに合理的な理由が認められず,性の違いによって生じたものと推認され,X5の関係では,同人が勤続15年を経た平成7年4月1日の時点において,同様であったと認められる。
男女の差によって賃金を差別するこのような状態を形成,維持した被控訴人の措置は,労働基準法4条,不法行為の違法性の基準とすべき雇用関係についての私法秩序に反する違法な行為であり,被控訴人の措置は,違法な行為と評価することができ,その後違法行為が継続しているというべきである。
上記の期間の一般職の給与体系及び事務職の給与体系は,職掌別人事制度導入前の男女のコース別のA体系(男性)及びB体系(女性)が基本的に維持されたものであり,相当な賃金格差は,A体系,B体系の賃金格差をそのまま引き継いだものであるところ,一部成約業務を担当していた長期勤続の女性社員や履行業務であっても経験を積んで専門知識や一定程度の交渉力,語学力により重要な仕事を行っている女性社員については,旧一般1級の男子社員と同じ職務,同等の困難度の職務を行うことがあったものと推認され,上記4名もその中に含まれていたものである。そうすると,女性社員の勤続年数が一般的に極端に短く,処理の困難度の低い定型的,補助的な業務を中心として担当しており,男性社員の職務と截然とした差異があったことに対応するA体系とB体系をそのまま引き継いだ一般職の給与体系と事務職の給与体系の間の格差の合理性を基礎付ける事実は平成4年4月1日の時点で上記年齢の旧一般1級との関係では既に失われていたものである。
X2については,平成4年4月1日以降,専門性が必要な職務を担当していないことなどから,前記のような給与の格差を違法ということはできない。X6は,平成4年4月1日の時点において10年勤続(30歳)で,退職した平成8年7月10日の時点において約14年3月勤続(34歳)であり,同人の上記勤続年数,この間の同人の担当職務の内容に照らし,給与の格差を違法ということはできない。
次に,新人事制度が導入された平成9年4月1日の時点において,入社以来32年勤続のX3(50歳),31年勤続のX4(49歳),17年勤続の控訴人X5(39歳)の関係では,同控訴人らの職務内容に照らし,同人らの賃金と同年齢の男性新一般1級の賃金との間にすら大きな格差があったことに合理的な理由は認められず,性の違いによって生じたものと推認され,上記3名の控訴人らについて男女の性の違いによって賃金を差別するこのような状態を形成,維持した被控訴人の措置は,労働基準法4条,不法行為の違法性判断の基準とすべき雇用関係についての私法秩序に反する違法な行為であり,被控訴人には少なくとも過失があるものというべきであり,その後違法行為が継続しているというべきである。
なお,職掌別人事制度の導入と併せて旧転換制度が設けられたが,その運用の実情は転換の要件が厳しく,転換後の格付けも低いもので,給与の格差を実質的に是正するものとは認められず,また,新人事制度に,新転換制度が伴っていること,特に事務職掌から一般職掌への転換制度があることも,同様であり,違法性の判断に影響を与えるものではない
次に,専任職賃金カット(被控訴人の従業員の定年は57歳であったが,60歳定年制を定める「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が平成元年10月1日施行されることとなり,60歳定年制の導入を行う必要が生じたことなどから,被控訴人は,同年7月11日,組合との間で「定年延長並びに人事制度に関する覚書」を締結し,定年延長並びに人事制度の改定について合意し,就業規則等を改定して,これを同年8月1日から実施した。その内容の1つとして,一般職・管理職・事務職・特務職の社員で満55歳の誕生日を迎えた者は翌月より専任職に転換する。専任職の給与〔月俸〕は,専任職に転換する直前の〔本俸+調整手当+資格手当〕の額の80パーセントとした。この給与減額措置を専任職賃金カットという。)の違法性,付加給・調整給カット(新人事制度の一環として,新人事制度での当該社員の基本給が従前の制度で決定された月例給〔本俸,調整手当,資格手当,住宅手当,家族手当の合計額〕よりも下回る場合,その差額を付加給,調整給として支給するが,調整給の支給対象者は,55歳未満の社員とされたことから,55歳に達すると,付加給,調整給が支給されなくなった。これを,付加給・調整給カットという。)の違法性についての判断は,原判決のとおりであり,控訴人らの主張は採用できない。

3 その上で,上記(2)アの請求にかかる差額賃金相当の損害(退職金の差額相当分以外)については,控訴人X1,X3,X4との関係では平成4年4月1日以降,X5との関係では平成7年4月1日以降,民事訴訟法248条の精神に鑑み,各控訴人につき,月例賃金及び夏冬の一時金を併せて1か月10万円(年額120万円)の限度の損害額を認定するのが相当であると判断し,更に,X1,X3について,退職金減少分の損害(32万7000円と85万0200円)を肯定し,更に上記5名について,慰謝料(120万円から180万円),弁護士費用の損害を肯定した。

4 本件はいわゆるコース別人事制度の違法性が争われた事案である。被控訴人において,昭和60年1月までは,男女で賃金体系(A体系とB体系)を異にしていた。昭和60年1月,社員を職掌により一般職と事務職に区分する職掌別人事制度という新人事制度を導入した。一般職には一部女性も採用されたが,事務職は全員が女性であり,職掌転換制度(旧転換制度)を導入したものの,一般職の給与体系はそれまでのA体系で,事務職の給与体系はそれまでのB体系が引き継がれたものであった。更に,平成9年4月新人事制度を導入し,職掌を再編成し,転換制度を改定した(新転換制度)が,29歳ころまでは昇給率に男女で格段の差があった男女のコース別のA体系とB体系を,職掌別人事制度における一般職の給与体系と事務職の給与体系を介して,概ね引き継いだものであった。
本判決は,被控訴人において,控訴人ら女性事務職が現に担当していた仕事の内容を個別的に認定し,男性一般職の職務との比較,男女間の給与格差の程度,転換制度の内容及び実情,法律の改正状況等を考慮した上,平成4年4月1日以降,相当な格差があったことに合理的な理由が認められず,性の違いによって生じたものと推認され,男女の差によって賃金を差別するこのような状態を形成,維持した被控訴人の措置は,労働基準法4条,不法行為の違法性の基準とすべき雇用関係についての私法秩序に反する違法な行為であり,少なくとも過失が認められると判断した。
コース別人事制度に関する主な裁判例としては,東京地判昭61.12.4判タ625号113頁,判時1215号3頁〔日本鉄鉱連盟事件〕,大阪地判平12.11.20判タ1069号109頁,労判797号15頁〔商工組合中央金庫事件〕,大阪地判平12.7.31判タ1080号126頁,労判792号48頁〔住友電気工業事件〕,大阪地判平13.3.28判タ1101号121頁,労判807号10頁〔住友化学工業事件〕,東京地判平14.2.20判タ1089号78頁,判時1781号34頁〔野村証券事件〕,大阪地判平17.3.28判タ1189号98頁,労判898号40頁〔住友金属工業事件〕などがある。
このうち,日本鉄鉱連盟事件に関する上記判決は,もっとも早い時期になされた裁判例であるが,男女別コース制が憲法14条の趣旨には合致しないこと,昭和44年ないしは49年当時においては民法90条に反しているとまでは言えないこと,基本給の引き上げ及び一時金の支給係数について男女に差を設けた協定が民法90条に違反して無効であることなどを判示した。野村証券事件に関する上記判決は,男女別コース制の違法性を肯定した上,差額賃金請求権の請求は否定し,慰謝料の額の算定にあたってそれを考慮した。
参考文献としては,家田愛子・法時77巻6号127頁(本件の第1審判決の評釈),菅野和夫『労働法〔第7版補正版〕』146頁,渡辺昭=小野寺規夫編『裁判実務大系(5)労働訴訟法』43頁〔原啓一郎〕,宗宮英俊=萩尾保繁編『現代裁判法大系(21)労働基準・労働災害』14頁〔飯塚宏〕,西谷敏・季労193号103頁,片岡昇先生還暦記念『労働法学の理論と課題』382頁〔浜田冨士郎〕,石田眞・判時1797号210頁,中窪裕也・ジュリ1258号195頁,山田省三・ジュリ1246号202頁,川田知子・労判827号15頁,伊藤由紀子・判タ1136号49頁,中島通子・ジュリ1237号89頁,井上幸夫・季労204号115頁などがある。
本判決は,実務上参考となる裁判例と考えられるので,紹介する。

第2節 均等待遇の原則

1.労働条件

+(均等待遇)
第三条  使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

労働条件とは雇入れ後における労働条件のことである!!!!

2.差別の理由

・理由の競合の場合
+判例(千葉地判H6.5.23)東京電力千葉事件

++解説
《解  説》
一 Xら一三名は、いずれもY(東京電力株式会社)の従業員である(但し、一名は訴訟中に死亡したため、相続人が承継した。)。本件は、Xらが、日本共産党員または同党支持者であることを理由に、Yから、仕事上及び私生活上の種々の差別ないし人権侵害を受けてきたと主張して、Yに対し、主として不法行為に基づいて、昭和四八年一〇月分から平成五年三月分までの財産的損害(同期入社同学歴従業員の平均的賃金との差額相当額と主張している金額)の賠償並びに精神的苦痛に対する慰謝料の支払い、名誉の回復処分及び弁護士費用の支払い等を請求した事案である。
二 Xらの主張の要旨は次のとおりである。
①Xらは、遅くとも昭和四四年以前から、Yにより、職級、職位、資格の点で著しく低位に置かれ、また定期昇給額及び賞与の補正における査定で低位に査定され、その結果著しく低額の賃金を支給されている。②Yは、反共労務政策を有し、共産党またはその支持者を嫌悪しているが、右の賃金関係処遇格差は、右反共労務政策の一環として、Xらが共産党員または同党支持者であることを唯一の理由として他の従業員と差別している結果である。③このような理由による差別は、Xらの能力及び実績に応じて公平に処遇され差別的取扱いを受けないことを期待する法的利益を侵害する行為であり、憲法一四条、一九条、二一条、労働基準法三条、民法九〇条に違反し、不法行為であるとともに、雇用契約上の債務不履行でもある。④その結果、Xらは、差別がなければ受け得べきであった賃金と現実の賃金額との差額相当の損害を被ったが、同期同学歴入社者中の中位者が受けている賃金額が本来受け得べきであった賃金額に該当する。⑤仮に右の差額の一部はYの正当な裁量により生じたものとすれば、中位者との差額を基準として、Yの違法な差別意思と正当な裁量の寄与割合に応じて損害額が定められるべきである。⑥Yは、①の差別のほか、Xらに対し、転向強要、社宅入居差別、研修からの排除、仕事の取上げ、職場八分、私生活への干渉等の人権侵害行為をしているが、これも②の理由による違法な差別である。⑦よって、Xらは、財産的損害である昭和四八年一〇月支給分以降の前記中位者との賃金額の差額の支払い並びに慰謝料の支払い、名誉回復のための謝罪広告、弁護士費用の支払い等を請求する。

三 Yの主張の要旨は、次のとおりである。
①Yの賃金体系は年功序列給ではなく職務給制度であるから、同期入社者間でも賃金額に格差が生ずるのは当然であり、中位者との比較をして格差の実情を見ることには意味がない。②そして、Yには反共労務政策といわれるものはなく、Xらに対する処遇は、Xらの資質業績が著しく劣悪であったことを正当に考課査定した結果であり、違法な点はない。③仮に、差別意思がありこれがXらの処遇に影響を及ぼしたとしても、統計上の中位者との格差のすべてが差別意思に基づくものであることにはならないのであり、格差のうちどの部分が差別による格差であるかは確定できないのであるから、財産的損害は立証されていないというべきである。④Xらの主張するそのほかの各種人権侵害行為については、そのような事実はない。⑤不法行為に基づく損害賠償等の請求中、本件訴え提起の日(昭和五一年一〇月一三日)より三年以上前の被告の行為を原因とする請求権については、民法七二四条の短期消滅時効が完成している。なお、⑥訴えの変更に異議があり、また、Xらの請求原因は特定されていない。

四 本判決は、大要、以下のように認定判示して、Xらの財産的損害及び慰謝料の各請求を一部認容し、弁護士費用の請求を全額認容し、謝罪広告請求は棄却した。
1 賃金格差の存在について
Xらの賃金額と同期同学歴のYの従業員の平均的賃金の間には著しい格差が存在し、Xらは職級、資格及び職位においても本件の係争期間中それぞれの同期同学歴従業員のうちで最低というべき処遇を受けている。
2 反共労務政策について
Yは、公益的事業で基幹電力事業を担うYの企業防衛の見地から、共産党員または同党支持者であると認定した従業員に対しては、職級、資格、役職位及び定期昇給、賞与における査定をことさら低位に置くこと等の差別的取扱いをして、一方ではこのような不利益を免れるための転向を促すとともに、他方で他の従業員が共産党員または同党支持者になることを抑制することを労務政策の一つとして来た
3 Xらが反共労務政策の対象であることについて
Yは、早くからXらを共産党員または同党支持者と認定していた。
4 反共労務政策と賃金関係処遇格差の因果関係について
右の1ないし3と、Xらがそろって最低というべき処遇を受けているという事態は通常の考課査定の結果としての処遇格差とは到底考えにくいものであること等に照すと、Yは、Xらに対し、Xらが共産党員または同党支持者であることを理由の一つとして、他の従業員よりも賃金関係の処遇面で低い処遇を行ってきたものと推認するのが相当である。
5 Yの②の主張について
Xらには、それぞれある程度消極的評価の理由となり得る出来事があったことを認めることができ、また、上司から見て強調性、柔軟性、融和性等の点で水準に至らないと評価されていた面があり、これらが考課査定上の消極的要素となっていたものとうかがわれる。しかし、前者はいずれも特段重大視するほどのものとはいえないし、後者も、その程度が著しいほどのものであったとは到底認められないから、Xらの勤務ぶりに関するYの立証によっても、右4のように推認することを覆すことはできない。
6 賃金関係処遇差別の違法性等について
労働基準法三条及びYと東電労組との間の労働協約六条により、Xらは、政治的思想だけによっては職級、職位、資格及び査定の面でほかの従業員と差別的処遇を受けることがないという期待的利益を有するのであり、右期待的利益は法律上の保護に値する利益であるということができる。ところが、Yは、Xら主張の期間、継続的に、Xらに対し、右法律及び労働協約の各規定に違反し、Xらの右期待的利益を侵害する行為をしたといわざるを得ないから、右行為は違法であり、これによりXらが被った損害がある場合には、これを賠償する義務がある。
7 消滅時効の抗弁について
消滅時効の抗弁は、右6の損害のうち財産上の損害の賠償請求権については、採用することができない。なぜなら、賃金差別による財産上の損害は、差別行為があった時に将来分まで確定的な逸失利益として一時に発生するのではなく、毎回の賃金支払期に具体的、確定的に発生すると解するべきであるからである。もっとも、そのほかの各種人権侵害行為を請求原因とする慰謝料等の請求等については、本件訴え提起の日から三年前である昭和四八年一〇月一三日より前になされたという人権侵害行為による慰謝料請求権等は、仮にそのような人権侵害があったとしても、本件訴え提起の時までに消滅時効が完成しているというべきである。
8 そのほかの各種人権侵害行為による慰謝料請求等について
前記7の消滅時効との関係で、昭和四八年一〇月一三日以降の出来事について見ると、Xらの主張は、いずれも独立の不法行為を構成する事実があったとまで立証されていないが、前記6の賃金関係の違法な処遇による慰謝料の請求につきその額を定めるについて斟酌すべき出来事があったことは認めることができる。
9 財産的損害について
①Yの従業員に対する職級、資格及び役職位の各任用並びに査定の関係の処遇は、Yの賃金体系によれば、Xらに支給される賃金額に直接消極的に反映するのであるから、その結果、Xらは、右差別的処遇がなかったと仮定した場合に支給されたであろう想定的賃金の額より低額の賃金を支給され続けてきたということができる。従って、Xらは、これにより、右想定的賃金と実際に支払われた賃金との差額に相当する財産上の損害を被ったことが明らかである。②この財産的損害は、右の想定的賃金に条件付けられるものであるから、その数額を高度の確実性のある程度に認定することは必ずしも容易ではないが、本件では、①のように財産的損害が発生していること自体は明らかであるから、本件の証拠上認められる諸般の実情を基礎として、社会通念及び経験則に基づき可能な限り合理性のある損害額を認定して損害の公平な分担を図ることが要請される事案であり、この場合、相当程度確実性のあるものとして損害額を認定するためには、この点について立証責任を負担するXらにとって相当控え目な認定をせざるを得ない場合もある。③この場合、統計上認められる平均的賃金は、損害額を認定するための基礎として採用に値するものというべきである。④ところで、本件においては、Yは従業員の賃金関係処遇資料を開示していないから、前記のような平均的処遇を受けている具体的な従業員は事実上特定不可能であり、従って、Xらが右平均的処遇を受けている特定の従業員と具体的に同等の能力を有し、業績を挙げてきたことあるいは挙げ得たことは立証されていない。次に、Xらの能力及び業績は、Y主張のように劣悪であったとまでは到底認めることができないが、Xらが統計上の平均的処遇を受ける蓋然性のある程度の能力業績の状況にあったことについては、立証が足りない。⑤結局、Xらについてはいずれも平均的賃金の支払いを受ける蓋然性があったことまでを認定することはできないのであり、右平均的賃金と比較した場合のXらに対する係争期間における賃金関係の低い処遇は、その全部が違法な差別による結果生じたものではなく、Xらの能力、業績、資質に対する正当な考課査定の結果として生じた部分を含みその両者が混在した結果であると考えられる。⑥そして、双方の影響割合を確実に認定するに足りる証拠はなく、どちらの影響が優越しているともいうことはできないが、証拠に照して検討すると、前記のように平均的賃金を基準とし、他方でXらに対する処遇が現実には同期同学歴従業員中最低というべきものに該当することに鑑みると、違法差別により生じた部分は、相当控え目に見ても、係争期間を通じて、右平均的賃金とXらの実際賃金(すなわち最低というべき賃金)の間の格差の少なくとも三割程度は存在すると認めるのが相当である。
10 精神的損害について
慰謝料の請求は、いずれも一五〇万円(但し、死亡者一名は一〇〇万円)の程度で理由がある。
11 謝罪広告等について
本件の場合、謝罪広告等を命ずる必要性はないものと認めることができる。
12 弁護士費用について
Xらの請求する弁護士費用は、本件の不法行為と相当因果関係のある損害に当たると認めることができる。

五 本判決は、東京電力訴訟といわれる訴訟のうち、前橋地裁判決(平5・8・24本誌八二九号六八頁)、甲府地裁判決(平5・12・22本誌八四九号八七頁)及び長野地裁判決(平6・3・31本誌八六三号七九頁)に次ぐ四件目の判決であり、このほかに東京地裁、横浜地裁に同種事件が係属中であり、いわゆる二次訴訟も係属している。これらの事件では、Xら主張のような反共労務政策の有無及びこれが各事件の原告らに対するマイナスの処遇に反映しているかどうかが前提の争点とされ、更にこれが肯定される場合の財産上の損害(逸失利益)の有無数額が主要な争点を構成しているが、前記の三件の判決では、右の前提は積極に認定されており、この点では本判決も同様の結論に到達している。そして、後者の争点については、各事件の原告らはいずれも同期同学歴従業員の平均的賃金と各原告の実際の賃金額との差額が逸失利益に該当すると主張しているが、前橋地裁判決及び長野地裁判決では、原告らの賃金額と平均的賃金額との差額には違法な差別により生じた部分と正当な査定により生じた部分が含まれているところその割合を特定区別することができないから、結局損害額の立証が足りず、逸失利益の請求は認められないとされたのに対して、甲府地裁判決では、被告において各原告の業務実績または職務遂行能力が標準者に対する処遇の年功序列的運用からはずれる程度に劣悪であることを立証しない限り平均的賃金との差額そのものを逸失利益として認めることができるとされ、実際に大部分の原告らに対し平均的賃金額との差額そのものが逸失利益の損害として認容された。本判決は、前記のように判示して、右の平均的賃金額との差額のうち控え目に見ても三割は違法差別により生じたものであると認定し、この限度で逸失利益の請求を認容したものであるが、この点が本判決の主要な特徴である。オールオアナッシングというのでなく、このような手法による解決の可能性は、別の事件に関する本誌の解説中でも言及されていたところであり(本誌八〇〇号一一四頁)、理論的には種々の観点から説明され得るところであろうが(小倉顕・最判解説昭和六三年度一七五頁及びそこに引用されている文献参照。比較的最近のものとしては、最判平4・6・25民集四六巻四号四〇〇頁に関する本井巽・私法判例リマークス一九九三〈下〉五六頁に簡潔に要約されている。)、実際には交通事故等の損害賠償請求訴訟においてしばしば問題とされている方法である。本判決は、本件のようなやや特殊な損害賠償請求訴訟にこれを応用し、損害の上限と下限を押さえた上、その範囲内の一部を認容した事例として注目されるところであるが、その判示に照らすと、前橋地裁判決及び長野地裁判決で立証が足りないとされた差別意思により生じた低賃金部分の特定区別について、事実的因果関係認定の問題として、控え目に見れば少なくとも三割の限度でこれを特定区別することができると認定されたものと理解することができるであろう(本判決によれば、違法な差別と正当な考課査定の影響がどちらが優越しているともいえないとされているから、五割という線も思い浮かぶように思われるが、控え目にという要請のほかに、本判決の指摘する統計上の問題点(平均的処遇への集中傾向は極めて顕著であるとまではいえない)及び原告らに対する考課査定事項上の留意点(一般管理職の下位から上位に任用され得る時期であるため一般的職務遂行能力以外の適性が斟酌される時期である)等が右割合の認定に際して考慮されたものであろう。)。なお、「民事訴訟手続に関する改正要綱試案」では、「損害の生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、すべての事情を評価して、相当と認める損害額を定めることができるもとする。」ことが提案されており、現在までのところ強い反対意見はないようである。本件の損害の問題は、前記のように係属中の同種事件及び二次訴訟もあり、右改正提案の帰すうとの関係でも注目されるところである。
そのほかの争点については、個々の人権侵害行為の有無の事実認定の点は別として、おおむね右の三判決と同旨の認定判示がなされている。これらの点については、前記本誌の判例紹介の解説中の参考文献のほか、前橋地裁判決に対する判例評釈である中山和久・判例評論四二四号二二二頁を、また継続的不法行為による慰謝料請求権の消滅時効に関する最判平6・1・20裁時一一一五号一頁を参照されたい。

3.差別に対する救済と立証責任

立証責任は原告が負うのが民事訴訟法上の原則となるが、差別意思の立証が現実には困難であることに鑑み、裁判所は立証責任の一部を被告会社側に転換している!
信条を理由とする賃金差別の事案では、労働者側が使用者の差別意思を大量観察的にある程度立証できれば賃金差別が信条を理由とするものであると一応推定し、使用者側は信条以外の理由の存在を具体的に立証してその推定を覆す!!

+判例(名古屋地判H8.3.13)中部電力事件

+判例()

+判例()

第3節 性差別~男女平等法

1.男女同一賃金の原則

+(男女同一賃金の原則)
第四条  使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

(1)「賃金」
+第十一条  この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

+判例(東京高判H12.12.22)芝信用金庫事件
要旨
事案概要  信用金庫Yで勤続二八年から四〇年である女性社員Xら一三名(一名は提訴後定年退職、三名は一審判決後定年退職)が、副参事(新人事制度では課長職)への昇格と課長への昇進についてはXらと同期同給与年齢の男性社員の間のみならず、男性社員と女性社員との間で著しい格差があり、男性社員は昇格試験制度の枠外で昇格を認める例外的措置がとられて副参事に昇格していたこと、女性は単純反復な職務に配置され、その結果、男女間で研修に差が生じ、管理職に必要な職務ローテーションが男性社員だけに実施されていたこと等から、女性であることのみを理由として昇格及び昇進その他の処遇において差別的取扱いを受けたとして、(1)同期同給与年齢の男性社員のうち最も遅く課長職に昇格・昇進した者と同時期に昇格・昇進したものとして、課長職の資格と職位にあることの確認及び差額賃金の支払(主位的請求)を、(2)女性であることを理由とする職務配置等の差別的処遇に対して不法行為に基づく損害賠償(予備的請求)を請求したケースの控訴審で、(1)については、請求を一部認容した原審が支持されて、Xらのうち既に退職した四名及び最も若年の一名を除く者について、労働契約の本質及び労働基準法一三条の規定の類推適用により課長職の資格を有することの確認請求及び差額賃金の支払請求、また退職した四名についても昇格を前提として退職金額と実際に支払を受けた金額との差額について請求についてXらの控訴が一部認容された事例。なお、(2)については、一審では請求が棄却されていたが、Yは使用する職員を介してXらに対し、故意若しくは過失により年功加味的運用について差別をしたものと認められることから、民法七一五条一項に基づく慰謝料等の請求について、Xらの控訴が一部認容された。

判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-男女別コ-ス制・配置・昇格等差別〕
一審被告は、男性職員に対しては、管理者となるために必修ともいうべき職務ローテーションを実施していたのに対し、女性職員に対しては、これの対象外としていたのであるから、男性職員と女性職員との間における差別的取扱いをしていたとの疑念を生じさせ、このことは、とりもなおさず、一審被告には女性職員を管理者に登用する意思がなかったことを推認させるものである。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-男女別コ-ス制・配置・昇格等差別〕
一審原告らの主張のうち、(1)基幹的業務からの排除(職務配置差別)については、一審被告においては、女性職員に基幹的業務ともいうべき得意先係や融資受付のような業務を殆ど担当させて来(ママ)なかったところ、融資受付及び得意先業務は常時顧客を相手にした業務であるから、顧客との関わりのなかで業務を遂行しなければならず、内勤業務とは異なった外勤業務としての特質及び高度の業務知識を兼ね備えていなければならないことや、女性職員の勤務期間・勤務場所、女性労働及び主婦としての役割分担等に関する考え方の時代的背景の下で考慮判断されるべき問題を含んでいるので、一審原告ら女性職員を融資受付及び得意先係に配置するか否かは、一審被告の高度な人事政策に属するものというべきであり、男性職員を右のような職務に配置しながら一審原告らをそのような職務に配置しなかったからといって、直ちに一審被告が女性であることを理由とした差別的職務配置をしてきたものとまで断ずることはできないこと、(2)研修差別については、男女雇用機会均等法施行前においては、新入職員に対する研修を男性職員と女性職員とに分けて実施しており、その内容も、男性職員のそれは一審被告の業務のほぼ全般に及んでいたのに対し、女性職員のそれは、配属される職務を反映して、比較的定型的、課長職に昇格しておらず、諸般の事情に照らしても、昇格を妨げるべき事情の認められない場合には、当該一審原告らについては、昇格試験において、男性職員が受けた人事考課に関する優遇を受けられないなどの差別を受けたため、そうでなければ昇格することができたと認められる時期に昇格することができなかったものと推認するのが相当であり(年功加味的運用差別)、一審原告らと同期同給与年齢の男性職員の実際の昇格状況、一審原告らにおける昇格を妨げるべき事情の有無等について、一審原告らごとに個別具体的に検討し、昇格の成否について判断を加えることになる。
〔労働契約-労働契約の期間〕
人事考課に代えて昇格試験制度が導入された昭和五三年一〇月以後は、原則として昇格試験に合格することが昇格するための必要な要件とされたところ、合格者については昇格により給与の増額が伴うため予算措置が当然必要となり、一審被告にとって恒常的に人件費の増大に繋がることや、業務の効率かつ適切な遂行のために求められる人員数とその配置、将来の経営見通し等とも密接に関連し、一審被告の経営基盤を大きく左右するものであるから、合否の基準すなわち合格点をどこに設定するかについては、右の諸事情を総合的に考慮してすべきものであり、昇格に関する判断については、一審被告の経営判断に基づく裁量を最大限に尊重しなければならないことはいうまでもない。
しかし一審被告が採用している職能資格制度においては、資格と職位とが峻別され、資格は職務能力とそれに対応した賃金の問題であるのに対して、昇進は職務能力とそれに応じた役職(職位)への配置の問題であり、給与面に関しては、後者は役職手当(責任加給)の有無に関連するのみであるのに対し、前者は本人給の問題であって性格を異にしている特に、前述した一審被告における処遇、給与体系の下では、定例給与のうちの本給は、新人事政策が導入されるまでは、各年度ごとに各資格別に定められた「普通職員本人給表」によって支給される本人給と、昇格基準に基づいて取得した職能資格等級に対し支給される資格給とによって構成されており、また、新人事制度導入以降は、満五年の移行措置期間が存したものの、基本給と資格給とによって構成されているのであるから、資格と定例給与とは対応関係にあるということができる。資格付けの目的は、職位(役職)付与の基準としての性格をも有するものであるが、いかなる職員にいかなる給与額を支給するかという職能給与制の機能をも有しており、新旧人事制度のいずれにおいても、昇格するか否かは定例給与に直接影響を及ぼすものである。このように、昇格の有無は、賃金の多寡を直接左右するものであるから、職員について、女性であるが故に昇格について不利益に差別することは、女性であることを理由として、賃金について不利益な差別的取扱いを行っているという側面を有するとみることができる。〔中略〕
一審被告においては、副参事の受験資格者である男子職員の一部に対しては、副参事昇格試験等における人事考課において優遇し、優遇を受けた男子職員が昇格試験導入前においては人事考課のみの評価により昇格し、昇格試験導入後はその試験に合格して副参事(新人事制度における課長職)に昇格を果たしているのであるから、女性職員である一審原告らに対しても同様な措置を講じられたことにより、一審原告らも同期同給与年齢の男性職員と同様な時期に副参事昇格試験に合格していると認められる事情にあるときには、一審原告らが副参事試験を受験しながら不合格となり、従前の主事資格に据え置かれるというその後の行為は、労働基準法一三条の規定に反し無効となり、当該一審原告らは、労働契約の本質及び労働基準法一三条の規定の類推適用により、副参事の地位に昇格したのと同一の法的効果を求める権利を有するものというべきである。
(三) 前記に説示したとおりであるとすれば、差別された労働者は、将来における差額賃金や退職金額に関する紛争及び給付される年金額に関する問題について抜本的な解決を図るため昇格後の資格を有することの確認を求める訴えの利益があるものというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約の期間〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
一審被告の女子職員に対する人事考課における差別により、一審原告ら(ただし、この項においては、一審原告Xを除く。)は、本来昇格すべきである時期に昇格できなかったのであるから、昇格していたことを前提にして支給される本人給及び資格給と実際に支給を受けた賃金等の差額について、労働契約に基づき差額賃金(未払賃金)として、また、退職した一審原告らは、さらに昇格を前提とした退職金額と実際に支給を受けた金額との差額について、差額退職金としてそれぞれ請求することができる。

+判例(東京高判H19.6.28)昭和シェル石油賃金差別事件

(2)差別の理由
・差別意思
+判例(東京地判H4.8.27)日ソ図書館事件
要旨
事案概要  女子社員と入社時期および入社年齢が比較的近接している男子社員四名との賃金格差につき、年齢・勤続年数を同じくする男女間の賃金格差が合理的理由となりうるのは、その提供する労働の質および量に差がある場合に限られるとし、本件については女子であることのみを理由とするもので労基法四条に違反するとされ、不法行為による損害賠償の支払いが命ぜられた事例
判決理由 〔労基法の基本原則-男女同一賃金〕
以上によれば、被告は、遅くとも昭和四七年一月頃以降、原告の基本給を本件男子社員四名の平均基本給までに是正すべきであったにもかかわらず、これを放置して適切な是正措置を講じなかったもので、その結果として、原告の基本給と本件男子社員四名の基本給との間に格差が生じたことが認められるから、原告が主張する昭和五七年度以降の本件賃金格差は、原告が女子であることのみを理由としたものか又は原告が共稼ぎであって家計の主たる維持者でないことを理由としたもので、一か月当たりの賃金格差の金額も決して少なくないことを加味すれば、労働基準法四条に違反する違法な賃金差別というほかはなく、しかも、適切な是正措置を講じなかったことについて被告に過失のあることは免れないから、不法行為に当たると解するのが相当であり、したがって、原告は、被告に対して、右賃金差別と相当因果関係に立つ損害の賠償を請求し得るものというべきである。

←差額について賃金請求権を有するものではない点に注意!!!!!!!
・10年以上の経過という価格是正のために必要な期間の経過後から認めた点も。

・家族手当について常に夫を世帯主とみなすという制度運用!
+判例(仙台高判H4.1.10)岩手銀行事件
理由
(争いのないこと)
一 控訴人銀行の本件当時における給与規程三六条、三七条、三九条の二として別紙添付(別表四)のような規程条項があること、請求の原因1、3、4の(一)、5の(一)(二)、被控訴人の夫aが昭和五四年一二月の市議会議員選挙により当選し、昭和五五年一月以降一関市議会議員として議員報酬を受け、所得税法上の扶養控除対象限度額を超える所得があるようになったこと、控訴人銀行が本件規程三六条二項本文後段により、男子行員に対しては、妻に所得税法上の扶養控除対象限度額を超える所得があるかどうかにかかわらず、家族手当、世帯手当等を支給してきたが、被控訴人のような共働きの女子行員に対しては実際に子を扶養するなどしていても夫に右限度額を超える所得があると右手当等の支給をしていないこと、以上は当事者間に争いがない。

(規程三六条一項の世帯主とは生計維持者であること)
二 いずれも成立に争いのない乙第一一号証、同第三七、同第三八号証によれば、住民登録法、住民基本台帳法等には、世帯及び世帯主について格別の概念規定は見当たらず、社会通念による事実認定にまかされ、住民登録法下では「世帯主とは世帯の主宰者であり、当該世帯の生計を維持する責任者である。戸主とか戸籍の筆頭者が当然に世帯主となるのではない。父や夫が当然に世帯主となるのでもない。妻や子が世帯の生計の維持について責任を負うものであるときは、夫や父ではなく、妻または子がそれぞれ当該世帯の世帯主である。」などとされ、生計維持者が世帯主として扱われていた(「生計維持者説」と仮称する)が、住民基本台帳法下になってからは、例えば自治省行政局長等から各都道府県知事あて昭和四二年一〇月四日付通知のうちの住民基本台帳事務処理要領では、住民票上の世帯主を決めるにつき「世帯とは、居住と生計をともにする社会生活上の単位である。世帯を構成する者のうちで、その世帯を主宰する者が世帯主である。」「その世帯を主宰する者とは、主として世帯の生計を維持する者であって、その世帯を代表する者として社会通念上妥当とみとめられる者と解する。」旨解説されていて、この解説の限りでは、住民基本台帳下の本件当時における住民票上の世帯主の認定については、「主として世帯の生計を維持する者」であることと同時に、「世帯を代表する者」であることが社会通念上認められなければならない(「併存説」と仮称する)ということが一般的行政解釈のようである。しかし同時に戸籍の筆頭者または祭具等の承継者であるからといって必ず世帯主となるものではないとされていること、また昭和四三年三月二六日付自治振興課長から各都道府県総務部長宛通知などは、世帯主の認定の基準について「世帯主の認定に当たっては、当該世帯の実態に即し、次の具体例を参照のうえ認定されたい」として、いくつかの具体例を挙示しているが、それらの例の中には併存説というよりも「主として生計の維持をしている」ことに重点を置いていると解されるもの、特に「夫が不具廃疾等のため無収入で、妻が主として世帯の生計を維持している場合は、妻が世帯主」であるとされている事例などがあり、これらは生計維持者という経済的側面に重点を置く立場(生計維持者説)によっていると解されること、そうかと思うと、外国人と日本人との混合世帯にお
いては、事実上外国人が世帯主であるときでも、住民票上、外国人を世帯主とせず、日本人の世帯員のうちで世帯主にもっとも近い地位にある者を世帯主としてまず表示する扱いになっていて、この場合は対外的形式的な面をより重視する正に「代表者説」によっているといえること、以上のようなことが認定される。巷間「世帯持だから大変だ。」、「所帯を持つことになれば苦労が多い。」「大所帯を抱えているから大変だ。」とか「一家を構えている身だから大変だ。」などという場合は「主たる生計維持者」である世帯主なるが故に経済的負担が重く、大変であるというような意味合いであって、「世帯を代表する者」であるということとはほとんど関係がない。このように「世帯主」概念は一義的に明確なものであるという訳ではない。世帯主であるかどうかということを社会通念に従って認定するといっても、その概念は生計維持者としての立場を重視する場合と世帯の代表者としての立場を重視する場合とで相違し、その用いられる場面によって異なるものであると解される。そして、本件手当等が法的に賃金性をもつものであると共に経済的には生活扶助給付の性質をもつものであること後記のとおりである。だがしかし、生活扶助給付といっても、生活保護法による生活扶助給付については、同法三一条三項が原則として「世帯単位に計算し、世帯主又はこれに準ずる者に対して交付する。」旨規定しているところ、ここにいう交付の相手(給付の対象は世帯)なる世帯主とは世帯の代表者(又は準代表者)であることに重点を置いていることは明らかである。これは緊急でかつ国民多数の要保護世帯に対する扶助事務を画一迅速に処理する必要からくる当然の帰結である。しかしながら、本件のような私企業の雇傭契約ないし労務契約における家族手当等については、事務処理の規模も遥かに小型で受給者の緊急性(困窮の程度)も格段に低いといわなければならないので、右の場合とは大いに相違する。したがって、本件規程三六条一項にいう「世帯主」は、事務処理の画一、迅速性という便宜によらずに、世帯の生計という経済面にもっぱら関係する家族手当及び世帯手当等の支給対象者の認定という場面において捉えなければならず、当然に世帯の代表者というよりも生計の維持者であるかどうかという点に重点が置かれるべきである。
以上、本件規程三六条一項の「世帯主たる行員」とは「主として生計を維持する者である行員」を指称するものであると認めることが社会通念に最もよく適する。それ故に同条二項本文前段の「世帯主たる行員とは、自己の収入をもって、一家の生計を維持する者をいい」とあるのは、一項の「世帯主たる行員」の概念を生計維持者説により把握すべきことの説明としての条項であり、代表者説または併存説によらないものであると認めるを相当とする。したがって、同条項をして、夫婦と子で構成され、夫婦の一方のみに収入がある世帯の具体例であるとするものではない。もっとも、控訴人銀行は「本件規程三六条一項の家族手当支給対象者の「世帯主」の範囲は、自治省等の前記住民基本台帳事務処理要領(併存説)に依拠して規定され、同条二項本文前段は夫婦と子で構成され、夫婦の一方だけが稼働しているという一般的世帯の場合の例示であり、夫婦共働きの世帯には適用されない。このことは労組も従組も共に同意し、従業員もその旨承知している」旨主張し、証人eの証言は右主張に添うものであるけれども、前示乙第一一号証、証人f、同gの各証言及び弁論の全趣旨に照らし措信できない。他に右認定を覆して控訴人銀行の右主張を認めるに足りる証拠はない。

(被控訴人は「生計維持者」で子の扶養者であること)
三 そこで、被控訴人世帯の場合をみてみるに、いずれも成立に争いのない甲第四五号証、同第五三ないし第五九号証、同第六二号証、乙第一三号証、同第一六号証の一ないし一〇、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六〇、第六一号証、被控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、本件当時、dは住民票上世帯主(死亡するまで)とされていたが、一関東映に勤め、その収入は月額約五万円、aは昭和五六年一月以降は市議会議員の報酬として昭和五五年度は二七九万一五〇〇円(控除対象配偶者無し、扶養親族なし、社会保険料等の金額二一万三〇〇〇円、源泉徴収税額三五万九一六〇円)、昭和五七年度は三一七万六五〇〇円(控除対象配偶者無し、扶養親族なし、社会保険料等の金額二四万六〇〇〇円、源泉徴収税額五二万八四〇〇円)の各支払を受けており、昭和五八年九月二一日支給の報酬(給料)は二〇万五〇〇〇円で、所得税三万四一〇〇円、社会保険料二万一〇〇〇円、預金二万円、慶弔会費等三〇〇〇円の控除があり、差引支給額は一二万六九〇〇円であること、被控訴人の昭和五五年一二月の給与の支給額は合計三〇万八一一九円(税込み、家族手当八〇〇〇円、世帯手当一万〇一〇〇円を含む。)で、年間支払を受けた給与額は昭和五五年度は五七七万二四〇三円(源泉徴収税額三九万六二〇〇円、控除対象配偶者無し、老人扶養親族一(母c)、その他の扶養親族一(b)、社会保険料等控除分の金額二六万九八一九円、生命保険料控除額五万円)、昭和五六年度は五七三万六三八三円(源泉徴収税額三八万〇八〇〇円、社会保険料等控除分三一万七九九八円、生命保険料控除額五万円、本件手当等を含まない。その他は前年度と同様)、昭和五七年度は六二三万一二五二円(源泉徴収税額四六万四七〇〇円、社会保険料等控除分三一万四七七四円、生命保険料控除額五万円、その他は前年度と同様)であること、その後の年度においてもa及び被控訴人の各収入は昭和五七年度におけるような比較差において推移しているであろうこと、他に被控訴人世帯においては収入のある者はいないこと、消費による支出については、通常の世帯に比べてaの政治活動に関連するものが特別必要であるという以外は格別問題視すべきことは見当たらない(bは生育盛りの女子で教育費、食費等がかかることも通常家庭と別段変りはないであろう)こと、d死亡後は住民票の世帯主は変更の届出によりaがなっていること、以上のことが認められ、これによると、本件当時、被控訴人方世帯の代表者としての世帯主は、d生存中は同人であり、同人死亡後はaであるが、主たる生計維持者は被控訴人であり、bは主として被控訴人によって扶養されていると認めるのが相当である。したがって、被控訴人は本件規程三六条二項本文前段の「自己の収入をもって、一家の生計を維持する者」に該当し、同規程三九条の二(廃止前)による子を扶養して世帯を構成している行員に当たると認めることができる。

(妻たる行員に支給制限があること)
四 控訴人銀行は仮定的に「被控訴人が自己の収入をもって、一家の生計を維持する者」であるとしても、本件規程三六条二項本文後段の規定により(世帯手当にも類推適用)妻たる行員である被控訴人に対しては世帯手当等の支給はできない」旨抗争し、被控訴人方世帯が共働きで夫aは市議会議員としての報酬を受け、昭和五五年一月一日以降所得税法に規定される扶養控除対象限度額を超える所得があることになったことは争いのないこと前示のとおりであるから、被控訴人は右規定により、同日以降は前叙認定のところにもかかわらず、本件家族手当等の支給を受けられないことになる。

労基法上の賃金であること)
五 本件手当等が配偶者や子など扶養親族を有する世帯主たる行員に限られ支給されるものであること及び成立に争いのない乙第三九号証から窺知される家族手当等の果している社会経済における一般的役割に徴すると、本件手当等が行員の具体的労働に対する対価(報酬)という性格を離れ、控訴人銀行の行員に対する生活扶助給付、生計補助給付であるという経済的性格をもつものであることは明らかであるしかしながら、これら手当等は、支給条件、基準等について控訴人銀行の裁量に任せられているものではなく、就業規則(給与規程)により規定され、労働協約によって決められていて、控訴人銀行は、これら規定により所定の要件を具備する者に対しては法的に一律の支払義務を負担し、一方該当行員はこれら手当等の受給権(支払請求権)を取得すると解することができる。このことからすると、本件手当等は労基法一一条にいう「労働の対償」に当たる賃金であると認めるを相当とする。

労基法四条違反であること)
六 本件手当等が労基法一一条の賃金であることは右のとおりであるから、これらは同法四条による直接規制を受けるものといわなければならない。
労基法四条は、憲法一四条一項の理念に基づきこれを私企業等の労使関係における賃金について具体的に規律具現した条文であり、かつまたこれに違反したときは労基法一一九条一号による刑事罰の対象となるなど、いずれにしても、明らかに強行規定であり、公序に関する規定であると解される。したがって、一般的に、労基法四条に違反する就業規則及びこれによる労働契約の賃金条項は民法九〇条(一条ノ二)により無効であるといわなければならない。
控訴人銀行は本件規程三六条二項本文後段を根拠にして、男子行員に対しては、妻に収入(所得税法上の扶養控除対象限度額を超える所得)があっても、本件手当等を支給してきたが、被控訴人のような共働きの女子行員に対しては、生計維持者であるかどうかにかかわらず、実際に子を扶養するなどしていても夫に収入(右限度額を超える所得)があると本件手当等の支給をしていないというのだから、このような取扱いは男女の性別のみによる賃金の差別扱いであると認めざるを得ない。控訴人銀行は本件規程三六条二項本文後段及びこれによる本件手当等対象者認定上の取扱いは社会通念に則った規定であり、社会的許容性の範囲内にあるから、民法九〇条の公序良俗に反するものではない旨その合理性を主張する。
社会通念、社会的許容性とか公序良俗という概念は、もともと不確定概念で、宗教、民族の違いなどのほか、国内でも時(代)と地域(都市、地方など)により認識や理解に相違のあることは否定できない。しかしながら、これら概念は不確定なるが故に発展的動態において捉えねばならない。そうでないと、旧態は旧態のままで社会の進歩発展は望み得ないことになるからであるそれは私的自治の支配する私企業の労使関係における賃金等労働条件を規律する法的基準としても同様である。そして、たとえ控訴人銀行の本店のある岩手県盛岡市をはじめ東北地方の平均的住民の観念が、本件規程三六条二項本文後段の定めまたはその趣旨を、その制定当時、さらにはその以前から現在に至るも当り前のこととして容認し、これに依拠した取扱いを許容しているとしても、日本国憲法一四条一項(法の下の平等)は、性別により政治的、経済的または社会的関係において差別されない旨定め、男女不二たるべく、男女平等の理念を示している。労基法四条男女同一賃金の原則は右憲法の理念に基づく具体的規律規定である。そして、それは理念ではあっても達成可能な理念であるから、この理念達成という趣旨に悖るような観念は、「社会通念」「社会的許容性」「公の秩序善良の風俗」として、前記規程条項及びこれによる取扱いの法的評価の基準とすることはできないものといわなければならない
したがって、本件規程三六条二項本文後段の取扱いをめぐり、これまで労使間で異議が挟まれることもなく過ごされて来たし、労働基準監督署などからも違法の指摘を受けることなく過ぎてきたとしても、同条項本文後段による右のような取扱いを、社会通念に則り、社会的許容性の範囲内であり、公序良俗に反しないなどという訳にはいかない。また、同条項本文後段の規定が自治省の「住民基本台帳事務処理要領」及び「世帯主の認定の基準」で示された「夫が不具廃疾等のため無収入で妻が主として世帯の生計を維持している場合は、妻が世帯主」であるという事例に比較して妻が世帯主である場合を「夫に収入があっても所得税法上の扶養控除対象限度額以下であれば妻が世帯主である」というまでに緩和しているから、社会通念に合致し、社会的許容限度内であるなどとも結論づけられない。夫婦のどちらが生計維持者であるかを具体的に認定するとなると、家庭のプライバシーにわたることに立ち入って調査しなければならなくなるため、予め画一的に規定しておく必要があるといっても、これまた、調査対象行員において、右認定に必要な程度の家庭内情況の開示を拒絶するものとはとうてい思案できないし、また必要な限度ならばやむを得ないことでもある。
その他本件規程三六条二項本文後段の規定及びこれによる本件手当等の男女差別扱いをして、合理性があるとするような特別な事情も見当たらないので、結局右条項及びこれによる控訴人銀行と被控訴人間の労働契約の本件手当等の給付関係条項は強行規定である労基法四条に違反し、民法九〇条(一条ノ二)により無効であるといわなければならない。

(結論)
七 よって、控訴人銀行は被控訴人に対し、給与規程及び労働協約に基づき別紙添付の別表一ないし三記載の家族手当、世帯手当、賞与及びこれらに対する年六分の割合による各遅延損害金の支払義務があるところ、被控訴人の当審における附帯控訴により請求拡張した部分を除く請求を認容した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないので棄却し、右拡張部分の請求は理由があるので、さらにこれを認容することとし、同附帯控訴に基づき原判決をその限度で変更し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九六条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 三井喜彦 裁判官 武藤冬士己 裁判官 小野貞夫)

・実際に一家の家計の主たる担い手である者を手当の支給対象とする運用がなされていれば本城違反とはならない!!
+判例(東京地判H1.1.26)日産自動車家族手当事件

・世帯主でない労働者の賃金を頭打ちに。
+判例(東京地判H6.6.16)三陽物産事件

(3)差別に対する救済と立証責任
①差別がなかった場合支給されるべき賃金額が客観的に明らかな場合
→男性の賃金額が労働契約の内容になる!
+(この法律違反の契約)
第十三条  この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

②使用者の査定が介在し、算定基準が明確でない場合
→不法行為に基づく損害賠償請求

2.男女雇用機会均等法

+(性別を理由とする差別の禁止)
第五条  事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
第六条  事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
一  労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
二  住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
三  労働者の職種及び雇用形態の変更
四  退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

(1)性別による差別の禁止
a)募集・採用
b)配置・昇進・教育訓練・定年・解雇・雇止め
c)間接差別

(2)女性労働者に関する規定
a)妊娠出産等による差別の禁止
+(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第九条  事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2  事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3  事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項 の規定による休業を請求し、又は同項 若しくは同条第二項 の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4  妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

b)婚姻による差別の禁止
c)母体健康管理措置

(3)ポジティブ・アクション
+(女性労働者に係る措置に関する特例)
第八条  前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。

(4)セクシュアルハラスメント

(5)均等法違反の効果
・私法上違法無効とされる他にも

+(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第二十九条  厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
2  前項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。
(公表)
第三十条  厚生労働大臣は、第五条から第七条まで、第九条第一項から第三項まで、第十一条第一項、第十二条及び第十三条第一項の規定に違反している事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

第4節 その他の雇用平等法理

1.年齢差別
2.障害者差別
3.雇用形態に基づく差別
(1)同一労働同一賃金の原則

・同一労働同一賃金の原則が直接的に控除を形成することは否定しつつ!その原則の根底にある「均等待遇の理念」により、同一労働でありながら著しい賃金格差があることは公序違反となりうる!!!
+判例(長野地上田支判H8.3.15)丸子警報事件
第三 当裁判所の判断
一1 原告らは、本件において、被告が行う男女差別行為の内実として、臨時従業員制度自体が名目的なものであって、男女差別行為が臨時従業員制度の名のもとに行われていると主張するのに対し、被告は、体質的に受注産業性が強く雇用調整の必要性が高いことなどから現在の被告における臨時従業員制度には合理的存在理由がある旨主張するので、まず、この点につき判断する。
2 原告らにおいて、臨時従業員制度が形骸化していることを示す事情として主張する事実のうち、
(一) 原告らを含む女性臨時社員は、雇用契約における雇用期間が二か月と定められているが、これまで、臨時社員の側の意思で自ら退社する場合を除くと、これが反復・継続する形で更新され、被告会社の側の都合で更新拒絶をしたことはないこと 
(二) 右のような形での雇用期間は、短い者もいるが、原告らのように数年から二五年を越える者まで存在すること
(三) 女性臨時社員の多くは、少なくとも現在では、女性正社員と同じ組立ラインに配属され、同様の仕事に従事していること 
は当事者間に争いがない。
また、証拠(原告永井喜ぬ代、同田村慶子、証人高野守行、甲四〇から五六、六二から七二)によれば、
(四) 原告ら女性臨時社員の採用の際には、被告の担当者から正社員と臨時社員の地位の違いなどの細かい説明はなされず、むしろ、雇用期間については二か月が前提ではあってもその更新が当然予定され、希望すれば長期間勤務できるような話がなされており、少なくとも事情のよくわからない新規採用の臨時女性社員にとっては自己の身分について明確な認識を持ち難い状況にあったこと
(五) その後の二か月ごとの契約更新も、雇用契約書が作成されて原告らに交付されはするものの、その作成は被告側に預けた印鑑を用いて形式的に繰り返されてきたこと
の各事実を認めることができる。
そうすると、このような状況では、雇用された臨時社員側からみれば、同じラインにいる女性正社員との差を感じず、臨時社員という地位が名目的であると感じるのは無理からぬところである。
3 しかし、前記前提事実に加え、証拠(証人高野守行、同櫻井誠、同宮沢博、甲八三、乙四〇から四三、乙九〇)によれば、臨時従業員制度につき以下の事実も認めることができる。
(一) 被告の主たる業務は自動車用ホーン・リレーその他の部品製造であるが、これは自動車メーカーの下請的仕事であって景気変動による受注の変化は避けられず、また、同種の製品を製造する会社は他にも存在するため、その下請会社間での競争に勝ち残るため機械による自動化などによる合理化の必要性もあること
(二) そもそも、被告が昭和四二年ころから女性臨時社員を大量に採用したのは、当時被告会社が自動車の普及に伴う受注増に応じて製造ラインを増やしたため人員増加の必要が生じたものの、若年層の求人が難しかったことから、比較的年齢の高い家庭の主婦をその担い手として採用したためであること
(三) 当初から予定されていたかどうかは明らかでないが、右の経過により採用された臨時社員が、雇用期間の長期化に伴い、それまで女性正社員の担当していたラインの仕事を何ら劣ることなく遂行するようになり、そのため、被告会社は、遅くとも昭和五〇年以降、ラインに従事する女性正社員の新規採用をやめ、ライン要員はすべて女性臨時社員として採用することとしたこと
(四) 昭和四七年以降、男性臨時社員は、七名採用されているが、うち三名は入社時六〇歳以上であり、他の者も四二歳以上であって、これらの者は、いずれも正社員になっておらず、雇用期間も一年前後以下の者が四名で、最長約八年六月であること
4 前項の事実によれば、被告会社において雇用調整の必要性があることは肯認することができ、その雇用調整の最も問題となるのが組立ライン要員であることは容易に推認できるところである。そして、被告は、臨時従業員制度を、基本的には女性臨時社員による製造ライン要員の採用形態として、景気による雇用需要の変動へも対応し易いものとして捉えてきたものと言うことができ、この点で臨時従業員制度の存在意義を認めることができるから、これを単なる名目的なものと判断することはできない
5 原告らは、被告が臨時社員に対しこれまで現実に被告の都合による更新拒絶をしたことがないという点を指摘するが、被告の業種自体が景気変動の影響を受け易いものであること、これまでも確実に従業員数が減ってきていることからすれば、将来において自然退職との兼合いで従業員削減による合理化の必要が生じ得ることは容易に予想されるところであるから、この点は右判断に影響を及ぼすものではない(これまでに更新拒絶がなかったことも、その必要がまったくなかったのか、必要性は生じたものの、更新拒絶によって発生する問題等との比較考慮から、自然退職による人員減少を期待してとりあえず更新拒絶を避けて切り抜けてきただけなのかも問題である。)。
また、雇用期間の更新が相当期間繰り返されることにより、その雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならないと認められ、雇い止めによる更新拒絶が解雇権の濫用にあたるとして許されない場合があるとしても、その濫用の評価において、例えば整理解雇を必要とするような場合には、臨時社員に対しては正社員と異なった基準が考えられるし、そもそも、そのような状態になっていない臨時社員の雇用期間を更新しないことで人員削減もできるのであるから、臨時従業員制度自体が無意味ということにはならない。
6 さらに、原告らは、被告の臨時従業員制度が労働組合弱体化のための不当労働行為として用いられてきたのであり、その意味で名目的であるとの主張もするようである。
しかしながら、被告における労働組合がその実体を備えて活動を始めたのは、すでにかなりの数の臨時社員が採用された後である昭和四八年のことであると認められる上(証人内田純一、甲七八)、経営者側としては、組立ライン要員として同様の仕事ができる以上正社員よりも賃金が低い臨時社員を雇いたいという要求は通常考えられることであり、逆に、労働組合側とすれば、当時の組織状況や運動論を別にすると、臨時社員を組合員に取り込めば組合員の確保に問題もない(現に平成二年からは臨時社員にも組合員資格を与えている。証人内田純一、甲七五)のであるから、この臨時従業員制度ないし臨時社員の採用自体が不当労働行為であると推認すべき事情は見当たらず、原告らの主張は採用できない。
7 なお、原告らは、臨時社員と正社員の業務が同一ないし同価値であることも原告らが名目的な臨時社員であることの理由としているが、右のとおり、雇用期間の点で「臨時」にする意義が認められる以上、ここではこの点をさらに問題にする必要はない。

二 被告における臨時従業員制度が名目的なものと言えないことは前記のとおりであるが、原告らは、被告の原告らに対する違法な差別行為が臨時従業員制度の名のもとに行われていると主張し、その違法性を(1)男女差別、(2)身分による差別、(3)同一(価値)労働同一賃金原則違反の三つの観点から指摘しているので、以下順次検討する。

三 男女差別について
1 まず、被告の臨時従業員制度においては正社員と臨時社員の賃金体系が異なり、臨時社員の賃金が同時期に採用された正社員に比して低いことは前記前提事実記載のとおりであるので、被告がこの臨時従業員制度の運用において労働基準法四条等で禁止される男女差別を行なっているかどうかについて検討する。
この場合、原告らを二つに分けて考慮する必要がある。すなわち、昭和五〇年ころ以降は、もはや組立ライン要員としての正社員の採用はなく、被告は、臨時従業員制度を、基本的には女性臨時社員による組立ライン要員の採用形態として捉え、その他の業務について正社員を採用するという体制が確立していると見られるのに対し、それ以前の原告荻原よし子、同永井喜ぬ代及び同今井かつ子が採用された昭和四三年当時は、組立ライン要員として女性正社員が採用されており、女性臨時社員はその補佐的、準備的要員として採用されていたのであって、この両者では臨時従業員制度の持つ意味自体変化しているとも考えられるからである。
2 昭和五〇年ころ以降採用された原告らについて
(一) 昭和五〇年ころ以降、被告が、臨時従業員制度を主として組立ライン要員の採用形態として捉え、これに原告らを含む既婚女性を採用し、正社員については採用自体少ないものの、主として男性ないし未婚女性を採用していることは前記前提事実記載のとおりである。そして、このような採用形態とした理由として、被告は、(1)ラインの組立作業は単純な繰返し作業であるが、このような作業については女性の方が適している、(2)中高年の家庭の主婦を対象とした採用が容易である、との理由を主張している。しかし、前者の適性があるか否かは本来個人的問題であり、性による適正の有無が科学的に正当であるか否かも疑問である上、仮にこれが統計的には認められるとしても、そのことを理由に個人の適性を無視して性を区別基準とすることはまさに不当な男女差別をもたらす原因となるものであって妥当ではない。また、後者の採用の容易性は、募集の結果そのような人々が集まったという結果としては考えられることであっても、そもそもそのような人しか採用しないことを正当化する理由になるものではない。これらの点では、臨時社員に中高年の主婦のみを採用し、男性又は未婚女性を採用しないことには合理的理由がないということにはなる。
しかしながら、これはライン要員たる臨時社員として男性又は未婚女性を採用しないことが不合理であるということにとどまり、臨時社員たる原告らの差別の問題にはならない。原告らが違法に差別されているというためには、まさに原告らが採用される際に、女性であることを理由に男性とは異なる不利益な扱いを受け、これが法規範に違反していると認められることが必要なのであるところが、本件においては、前記のとおり、昭和五〇年ころ以降は、臨時社員はライン要員、正社員はその他の業務というように予定される職種が異なり、その募集・採用方法も異なっていたほか、正社員の採用が極めて少なくなっていたという事情が存在するところ、原告らはライン要員としての募集に対して採用されたのであるから、そもそも原告らが採用される際に、男女差別がなければ正社員として採用されたというような状況ではない。したがって、原告らが男性であったとすれば、むしろ被告における採用の対象にならなかったと考えられるのであり、原告らが主張するように、正社員として採用されたはずであるのに、女性であるが故に不利益な取扱いを受けたとは認めることはできない
(二) 右のとおり採用時における差別は認められないとしても、さらに、その後の待遇における男女差別の問題は生じ得るところである。そして、原告らは、臨時社員として採用された男性は正社員となったのに対し、女性臨時社員については正社員となる制度がないとして、男性臨時社員との差別を主張する。しかし、被告において男性臨時社員については一定期間で正社員に採用するというような制度も慣例も認められないこと、そもそも昭和四七年以降採用された男性臨時社員は七名(このうち嘱託ではない臨時社員は一部)であるところ、これらの者は誰も正社員となっていないこと、昭和四三、四年に合計三名の男性臨時社員が正社員になっているが、それぞれ個別に正社員として採用する事情が存在している(甲八三、乙九〇)のに対し、原告らにおいてはいずれもそのような個別の事情が主張されていないことからすると、臨時社員内部における男女差別があったものと認めることはできない
また、原告らにおいて男女を問わず正社員との待遇差別を主張する部分は、臨時従業員制度の存在意義が認められる以上、正社員と臨時社員とでは前提となる雇用契約が異なるのであるから、臨時従業員制度において正社員と臨時社員に賃金格差を設けることが違法かどうかの問題であって、男女差別の問題ではないと言うべきである。
3 昭和四三年に採用された原告らについて
この当時、被告は既婚女性を臨時社員として採用していたのであり、このことに必ずしも合理性がないことは前記のとおりである上、当時はライン要員として正社員も採用していたのであるから、原告らが正社員として採用される余地が全くなかったという状況でもないと考えられる。したがって、原告らが正社員ではなく臨時社員として採用されたことが、労働基準法三条、四条で禁止する差別的取扱いに該当するとすれば、違法な差別となり得ることになる。
しかしながら、ここでもこれを違法な差別ということはできない。
すなわち、労働基準法三条及び四条は、いずれも雇入れ後の労働条件についての差別を禁止するものであり、雇い入れの自由を制限するものではないと解するのが相当である。この点、「同一価値労働に対する男女労働者同一賃金に関する条約」が昭和二六年にILOで採択され、昭和四二年に日本も批准するなど、これを初めとする男女差別をなくそうとする動きは国際的な流れであることは公知の事実であり、最近ではいわゆる男女雇用機会均等法が立法化されるなど、男女平等については雇入れについても法的な規制をすることが要請されつつあると見られるが、募集・採用については未だ事業主の努力義務を定めたに留まるものと理解され、これに反することが直ちに違法であると言うことはできないのであり、未だ社会的な情勢も現在と異なる昭和四三年当時であれば、なおさら雇入れにおける男女平等が公序良俗として要請されていたとは言い難い
そして、本件においては、被告において景気の変動等に対応するため臨時社員を採用することに合理性が認められることは前記のとおりであり、その際臨時社員を組立ライン要員たる正社員の補佐的、準備的業務に充てるということも当然被告の決定し得る事柄であるから、採用時の区別は、結局のところ、正社員として誰を採用するか、臨時社員として誰を採用するかといった採用自体の問題であると言わざるを得ない。したがって、この被告の行為を違法であると評価することはできない。
この点、女性臨時社員も女性正社員もいずれも被告の従業員であることに変わりはないから、単純な採用差別ではなく、採用することを前提としたその後の待遇の差別であると見る余地がありそうにも考えられる。しかし、採用手続が全く同じであって、同時に同じ手続で入社しながら自己の意思にかかわらず振り分けられたなどの特段の事情があれば格別、異なった採用手続で個別に雇用契約を結んでいる以上契約締結の自由の範囲内であると言わざるを得ない。

四 身分による差別について
1 原告らは、「臨時者という名目的な地位」が差別的取扱いを禁止する労働基準法三条に定める「社会的身分」にあたる旨主張する。しかし、臨時社員が名目的とは言えないことは前記のとおりであるから、結局は「正社員」「臨時社員」といった区別が身分による差別にあたるかどうかという問題である。
そうすると、労働基準法三条に定める社会的身分とは、生来的なものにせよ、後天的なものにせよ、自己の意思によって逃れることのできない社会的な分類を指すものであり、「正社員」「臨時社員」の区別は、雇用契約の内容の差異から生じる契約上の地位であるから、同条に定める身分には該当しないと言わざるを得ない。何らかの理由で区別して採用し、その地位に留めているとすれば、その採用ないし地位に留めることの区別理由自体が問題とされるべきであり、その結果として生じた地位に基づく差別と評価されるものではない。
2 原告らは、「既婚」「未婚」の区別が「社会的身分」による差別であるとも主張するが、これが社会的身分ないしそれに準ずるものであるとしても、結局は男女差別とほぼ同じ主張であるから(原告ら自身、女性についてのみ既婚・未婚の区別をすることはまさに男女差別であると主張している。)、前記男女差別の項で述べたところと同様の理由で、違法な差別とは認められないこととなる。

五 同一(価値)労働同一賃金原則違反について
1 原告らは、原告ら臨時社員と正社員の労働ないし労働価値が同一であるから、被告が原告らに正社員と異なった低い賃金を支払うことは同一(価値)労働同一賃金の原則に反して違法であると主張する。これは、臨時従業員制度において正社員と臨時社員の賃金格差を設ける行為自体が違法であるかどうかの問題であり、原告らの主張する同一(価値)労働同一賃金の原則が、法規範として存在しているかどうかの問題である。
2 しかしながら、同一(価値)労働同一賃金の原則が、労働関係を規律する一般的な法規範として存在していると認めることはできない
すなわち、使用者が雇用契約においてどのように賃金を定めるかは、基本的には契約自由の原則が支配する領域であり、労働者と使用者との力関係の差に着目して労働者保護のために立法化された各種労働法規上の規制を見ても、労働基準法三条、四条のような差別禁止規定や賃金の最低限を保障する最低賃金法は存在するものの、同一(価値)労働同一賃金の原則についてこれを明言する実定法の規定は未だ存在しないそれでは、明文の法規はなくとも「公の秩序」としてこの原則が存在すると考えるべきかと言うと、これについても否定せざるを得ない。それは、これまでのわが国の多くの企業においては、年功序列による賃金体系を基本とし、さらに職歴による賃金の加算や、扶養家族手当の支給などさまざまな制度を設けてきたのであって、同一(価値)労働に単純に同一賃金を支給してきたわけではないし、昨今の企業においては、従来の年功序列ではない給与体系を採用しようという動きも見られるが、そこでも同一(価値)労働同一賃金といった基準が単純に適用されているとは必ずしも言えない状況であるからである。しかも、同一価値の労働には同一の賃金を支払うべきであると言っても、特に職種が異なる労働を比べるような場合、その労働価値が同一であるか否かを客観性をもって評価判定することは、人の労働というものの性質上著しい困難を伴うことは明らかである。本件においても、原告ら臨時社員とその他の作業に従事する男性正社員との業務内容の差異について、原告らはその価値に差はない旨主張し、被告は質的に男性正社員の業務が高度であるとして激しく争っているところであるが、証拠(原告永井喜ぬ代、同田村慶子、証人宮沢博、検証の結果(第一回)、甲九一、一一二から一一八、乙七二から七五)によれば、原告らの組立ラインにおける作業は、繰返しの作業ではあるものの、短時間に多数の工程をこなす必要があるものでかなりの熟練を要すること、そもそもホーン等の製品製造を主たる業務とする被告において、ライン作業は基幹的部分とも言える重要性をもっていることは明らかであり、他の種々の業務に携わっている男性正社員に比べて一概に労働価値が低いなどと言えるものではないと考えられるが、これをまったく同一の価値と評価すべきか、何パーセントは男性正社員の労働の価値が高いと評価すべきかということは極めて困難な問題である。要するに、この同一(価値)労働同一賃金の原則は、後述するように不合理な賃金格差を是正するための一個の指導理念とはなり得ても、これに反する賃金格差が直ちに違法となるという意味での公序とみなすことはできないと言わなければならない。
3 このように、同一(価値)労働同一賃金の原則は、労働関係を一般的に規律する法規範として存在すると考えることはできないけれども、賃金格差が現に存在しその違法性が争われているときは、その違法性の判断にあたり、この原則の理念が考慮されないで良いというわけでは決してない。 
けだし、労働基準法三条、四条のような差別禁止規定は、直接的には社会的身分や性による差別を禁止しているものではあるが、その根底には、およそ人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在していると解される。それは言わば、人格の価値を平等と見る市民法の不偏的な原則と考えるべきものである前記のような年齢給、生活給制度との整合性や労働の価値の判断の困難性から、労働基準法における明文の規定こそ見送られたものの、その草案の段階では、右の如き理念に基づき同一(価値)労働同一賃金の原則が掲げられていたことも想起されなければならない。 
したがって、同一(価値)労働同一賃金の原則の基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において、ひとつの重要な判断要素として考慮されるべきものであって、その理念に反する賃金格差は、使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗違反の違法を招来する場合があると言うべきである。 

 六 右の観点から、本件における原告ら女性臨時社員と正社員との賃金格差について検討する。
これまで述べた本件における状況、すなわち、原告らライン作業に従事する臨時社員と、同じライン作業に従事する女性正社員の業務とを比べると、従事する職種、作業の内容、勤務時間及び日数並びにいわゆるQCサークル活動への関与などすべてが同様であること、臨時社員の勤務年数も長い者では二五年を超えており、長年働き続けるつもりで勤務しているという点でも女性正社員と何ら変わりがないこと、女性臨時社員の採用の際にも、その後の契約更新においても、少なくとも採用される原告らの側においては、自己の身分について明確な認識を持ち難い状況であったことなどにかんがみれば、原告ら臨時社員の提供する労働内容は、その外形面においても、被告への帰属意識という内面においても、被告会社の女性正社員と全く同一であると言える。したがって、正社員の賃金が前提事実記載のとおり年功序列によって上昇するのであれば、臨時社員においても正社員と同様ないしこれに準じた年功序列的な賃金の上昇を期待し、勤務年数を重ねるに従ってその期待からの不満を増大させるのも無理からぬところである。
このような場合、使用者たる被告においては、一定年月以上勤務した臨時社員には正社員となる途を用意するか、あるいは臨時社員の地位はそのままとしても、同一労働に従事させる以上は正社員に準じた年功序列制の賃金体系を設ける必要があったと言うべきである。しかるに、原告らを臨時社員として採用したままこれを固定化し、二か月ごとの雇用期間の更新を形式的に繰り返すことにより、女性正社員との顕著な賃金格差を維持拡大しつつ長期間の雇用を継続したことは、前述した同一(価値)労働同一賃金の原則の根底にある均等待遇の理念に違反する格差であり、単に妥当性を欠くというにとどまらず公序良俗違反として違法となるものと言うべきである(なお、前提事実記載のとおり、臨時社員にもその勤続年数に応じその基本給ABCの三段階の区分が設けられていたが、その額の差はわずかで、かつ勤続一〇年以上は一律であることから、正社員の年功序列制に準ずるものとは到底言えない。)。
もっとも、均等待遇の理念も抽象的なものであって、均等に扱うための前提となる諸要素の判断に幅がある以上は、その幅の範囲内における待遇の差に使用者側の裁量も認めざるを得ないところである。したがって、本件においても、原告ら臨時社員と女性正社員の賃金格差がすべて違法となるというものではない。前提要素として最も重要な労働内容が同一であること、一定期間以上勤務した臨時社員については年功という要素も正社員と同様に考慮すべきであること、その他本件に現れた一切の事情に加え、被告において同一(価値)労働同一賃金の原則が公序ではないということのほか賃金格差を正当化する事情を何ら主張立証していないことも考慮すれば、原告らの賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の八割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を明らかに越え、その限度において被告の裁量が公序良俗違反として違法となると判断すべきである。

七 損害額の算定
1 原告ら臨時社員の賃金
(一) 各年における臨時社員の基本給の日額、これに特別手当を加算した日額、出勤日数がそれぞれ別紙四「賃金計算基本数値一覧」の各該当欄記載のとおりであること、また、一時金が「基本給日額×月間出勤日数×倍率+評価額」の計算式で定められ、その各項目の数字(評価額は最低値)が各年ごとに同別紙の「臨時社員一時金計算式」部分に記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
(二) 右数値をもとに、原告らが受け取った日給合計及び一時金を併せた各年の賃金額を計算すれば、別紙五から七「臨時社員の賃金計算表(平成二年から平成七年まで)」に記載のとおりとなる。ただし、残業手当については原告らは請求しておらず、また、原告らの個別の欠勤、遅刻等については被告が主張しないので、これらにより生じる変動は無視する。
また、原告直井和子が平成七年五月三一日に退職し、同年四月から退職日までの出勤日数が四二日であること、原告深井八重子が平成六年三月二八日に退職したこと、また、原告直井和子の日額が平成六年四月以降昇給しなかったことは当事者間に争いがないので、同原告らにおいては、その数字を前提とする。
2 女性正社員の賃金
(一) 女性正社員のうち別紙八から十「正社員の賃金計算表(平成2年から平成7年)」の「氏名」欄記載の女性正社員の基準内賃金月額が同各表の「月額」欄記載のとおりであること、正社員の一時金が「基準内賃金×倍率+評価額」の計算式で定められ、その各項目の数字(評価額は最低値)が各年ごとに別紙四「賃金計算基本数値一覧」の「正社員一時金計算式」部分に記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
また、弁論の全趣旨によれば、被告が支払いを予定していた各年の初任給月額が別紙八から十「正社員の賃金計算表(平成2年から平成7年)」の各表「月額」欄最下段の額であると認め、あるいは想定することができる。
(二) 女性正社員の賃金が年功序列であることは前記前提事実記載のとおりであるが、現実に毎年女性正社員が採用されているわけではないので、各年における正社員の賃金は現実には存在しない。しかしながら、損害計算の前提としては、現実に判明する勤続年数が最も短い正社員の月額賃金と、初任給月額とを勤続年数で均等に案分した額であると考えるのが相当である(原告らは、基準内賃金が一〇〇円単位であるとして割り振っているが、概念上の数値であるから、一〇〇円未満の端数があっても均等に割り振るのが妥当である。)。
(三) 右数値をもとに、女性正社員が受け取ったであろう各年の賃金額(ただし、残業手当等による増減を無視)を計算すれば、別紙八から十「正社員の賃金計算表(平成2年から平成7年)」の各表「合計」欄記載のとおりとなる。
3 原告直井和子及び同深井八重子の退職金
同原告らが受け取った退職金が、それぞれ二五万一〇〇〇円及び一八万七〇〇〇円であること、
原告直井 17,000×14.75=251,000
原告深井 17,000×11=187,000
及び、勤続が同じ正社員が退職したときに受け取るであろう退職金がそれぞれ一五二万六〇〇〇円及び一〇三万五〇〇〇円であること
178,000×1/2×14.75×1.1=1,526,000
171,000×1/2×11×1.1=1,035,000は当事者間に争いがない。
4 差額
右1項で計算した各原告の賃金額と、2項で計算した女性正社員の各年の賃金の八割(別紙八から十「正社員の賃金計算表(平成2年から平成7年まで)」の「8割」欄記載の額)との差額は、各年ごとに計算すると別紙一「損害額一覧表」の平成2年から平成7年の各欄記載のとおりであり(途中退職者はその期間に応じて計算する。)、また、原告直井和子及び同深井八重子の右3項記載の退職金について、同様の方法により計算すると、同別紙「退職金」欄記載のとおりである。それぞれの合計は同別紙「認容額」欄記載のとおりであって、これが被告の違法行為により各原告に生じた賃金格差相当の損害額となる。
5 慰謝料
原告らは、被告の違法行為により精神的損害を被ったとして慰謝料を請求しているが、その違法行為の内容は賃金格差を設けることによって経済的損害を生じさせたものであるから、その経済的損害が補填されれば他に慰謝料請求権は発生しないと解するのが相当である。
6 弁護士費用
原告らの本件請求は不法行為に基づく損害賠償であるが、実質は差額賃金の請求であって賃金差額以上の弁護士費用が被告の行為に基づく相当因果関係のある損害と認めることはできない。
八 結論
以上によれば、別紙当事者目録番号1から26の各原告の請求は、別紙一「損害額一覧表」の「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する遅延損害金を請求する限度で理由があり、同目録番号27及び28の各原告の請求はいずれも全部理由がない。
(裁判長裁判官北澤貞男 裁判官林正宏 裁判官鹿野伸二)

++解説
《解  説》
Xら二八名は自動車部品製造会社Yに二か月の雇用契約により採用され、更新を続けた女子臨時社員であるが(最古参者は昭和四三年一月採用)、労働内容が正社員と同様であるのに、賃金の額において違法に差別を受けたと主張し、不法行為に基づき、平成二年一〇月以降の差額賃金相当の損害金、慰謝料及び弁護士費用の賠償を求めて出訴した。
本訴においてXらは、Yが男性は既婚・未婚を問わず正社員とし、女性に対してのみ未婚者は正社員、既婚者は臨時社員として採用するのは労基法四条で禁止される性差別であり、既婚・未婚で差別するのは同法三条で禁止される社会的身分による差別である、正社員と臨時社員が同一(価値)労働に従事しているのに、臨時社員に低い賃金を支払うのは同一(価値)労働同一賃金の原則という公序良俗に反すると主張した。
これに対しYは、雇用量の調整手段として臨時雇用という形態での短期的な労働契約は是認されるが、中高年の家庭の主婦は、一般的に勤続年数が短期であり、雇用調整の必要が生じた場合の対応が容易であること、組立ラインの仕事は単純な繰返し作業で、忍耐強い女性の方が適性があること、Yは採用において男女差別をしておらず、その後の賃金格差は、労働の内容・質のほか、雇用期間・人事異動の有無等で違いがあり、合理的なものであることなどの反論をした。
本判決は、Yが自動車会社の下請的仕事をしており、景気変動による受注の変化が避けられず、雇用調整の必要性があることは肯認できるから、臨時従業員制度の存在意義を認めることはできると述べたうえ、Yにおいて採用の際の男女差別、臨時社員内部における男女差別ともあったとはいえないとした。そして、正社員、臨時社員の区別は、雇用契約の内容の差異から生じる契約上の地位であるから、労基法三条の「社会的身分」に当たらず、既婚・未婚の区別は、結局は男女差別と同じ問題であるとしてXらの主張を排斥した。Xらの主張する同一(価値)労働同一賃金原則については、労働関係を一般的に規律する法規範として存在すると考えることはできないが、賃金格差が存在しその違法性が争われている場合、違法性の判断に当たり、この原則の理念が考慮されないで良いというわけではないと述べた。そして本件において、Xらの賃金が同じ勤続年数の女性正社員の八割以下となるときは、Yの裁量が公序良俗違反として違法になると判断し、Xらの賃金格差による損害として正社員の八割を下回った分を認め(Xらのうち二名を除く)、慰謝料及び弁護士費用の各請求は棄却した。
最近、男女間の賃金格差を違法として争う事案が増え、これを認める裁判例が現れている(東京地判平2・7・4本誌七三一号六一頁、仙台高判平4・1・10本誌七七七号八七頁、東京地判平4・8・27本誌七六五号六一頁、東京地判平6・6・15本誌八四六号一一一頁等)。本件も、賃金の男女差別を理由に提訴された事案であるところ、本判決は、Yにおける男女差別の存在は否定した。しかし、女性正社員と女性臨時社員との間の賃金格差が後者が前者の八割を下回る分について差別を違法としたものであり、この点に本判決の特色が見られる。なお、八割を基準とした点についての説明は見られないので、今後、同種の事案において、どのような基準が形成されていくかが注目される点である。男女間の賃金格差については、松田保彦「女子の賃金差別」労働法の争点〔新版〕二七〇頁、最高裁事務総局・労働関係民事裁判例概観上巻一一四頁を参照されたい。

(2)パートタイム労働法による規制
・「フルタイムパート」についてもパートタイム労働法の「趣旨が考慮されるべき」

a)差別的取り扱いの禁止
b)賃金の決定
c)教育訓練・福利厚生施設
d)通常の労働者への転換

(3)労働者派遣法による規制

(4)有期契約に関する労働契約法上の規制

労働契約法
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二十条  有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。


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