会社法 事例で考える会社法 事例3 消えた報酬


1.初めに

+(取締役の報酬等)
第三百六十一条  取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める
一  報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二  報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三  報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
2  監査等委員会設置会社においては、前項各号に掲げる事項は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して定めなければならない。
3  監査等委員である各取締役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、第一項の報酬等の範囲内において、監査等委員である取締役の協議によって定める。
4  第一項第二号又は第三号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
5  監査等委員である取締役は、株主総会において、監査等委員である取締役の報酬等について意見を述べることができる。
6  監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の報酬等について監査等委員会の意見を述べることができる。

+判例(H4.12.18)
理由
上告代理人佐々木信行の上告理由について
株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。この理は、取締役の職務内容に著しい変更があり、それを前提に右株主総会決議がされた場合であっても異ならない
これを本件についてみるのに、原審の適法に確定した事実関係によると、(一) 被上告会社は、倉庫業を営む株式会社であり、上告人は、昭和四五年一二月から昭和六〇年六月一四日に任期満了により退任するまで被上告会社の取締役であった、(二) 被上告会社においては、その定款に取締役の報酬は株主総会の決議をもって定める旨の規定があり、株主総会の決議によって取締役報酬総額の上限が定められ、取締役会において各取締役に期間を定めずに毎月定額の報酬を支払う旨の決議がされ、その決議に従って上告人に対し毎月末日限り定額の報酬が支払われており、その額は昭和五八年一二月現在五〇万円であった、(三) 被上告会社の株主総会は、昭和五九年七月一三日、上告人が常勤取締役から非常勤取締役に変更されたことを前提として上告人の報酬につきこれを無報酬とする旨を決議したが、上告人はこれに同意していなかった、というのであるから、株主総会において上告人の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議がされたことによって、上告人がその任期中の報酬の請求権を失うことはないというべきである。
したがって、右株主総会決議によって、上告人は、その翌日である昭和五九年七月一四日以降の取締役報酬請求権を失ったとして、上告人の本訴請求のうち同日から上告人が取締役を退任した昭和六〇年六月一四日までの報酬及び各月分の報酬についての翌月一日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める部分を棄却すべきものとした原審の判断は、株式会社の取締役の報酬についての法令の解釈適用を誤ったものというべきであり、この違法が原判決の結論に影響することは明らかである。論旨は理由があり、原判決中の上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして、前記事実関係の下においては、上告人の本訴請求は理由があるので、右部分を棄却した第一審判決を取り消し、昭和五九年七月一四日から昭和六〇年六月一四日までの間の報酬合計五五二万三六五六円及びこれに対する各月分についての翌月一日以降支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分についても上告人の請求を認容すべきものである。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

++解説
《解  説》
一 本判決は、具体的な額が定められた取締役の報酬を、株主総会決議によって一方的に変更することの可否が争点となった取締役報酬請求事件について、具体的に定まった取締役報酬を一方的に無報酬に変更することができないことを判示した最高裁の判決である。
原告は、被告株式会社の取締役であり、毎月月末に定額の報酬を支給されていたが、常勤の取締役から非常勤取締役に職務を変更されたことに伴い、取締役会の支給停止の決議、その後の株主総会の原告の報酬を無報酬とする旨の決議に基づき、原告は取締役を退任するまで報酬を支給されなかった。そこで、原告が右の期間の取締役報酬を請求した。
一審は、取締役の職務内容に変更が生じたときには、次の営業年度から取締役報酬を無報酬に変更することができるとして、支給停止後の新営業年度からの報酬請求は棄却し、二審(判時一三七三号一三三頁)は、取締役の職務内容の著しい変更を前提として株主総会で決議したときは、例外的に、同意なくして将来に向かって減額ないし無報酬とすることができるとして、株主総会までの報酬請求の限度で認容した。
これに対し、本判決は、判決要旨のとおり判示して、原告の請求を認容した。
二 商法二六九条は取締役の報酬は、定款で定めるか株主総会決議で定めることとしているので、有償委任契約であっても、それだけでは、抽象的な報酬請求権があるにすぎず、定款あるいは株主総会決議で具体的な報酬金額が定められなければ具体的な報酬請求権は発生しないことになる。しかし、株主総会決議等によって報酬額が定められたときには、それが会社と取締役間の契約内容となり、当事者の一方が他方の同意なしにこれを変更することができない。この点は、学説もほとんど異論がない(大隅=今井・会社法論(第三版)中巻一六七頁、味村=品川・役員報酬の実務(改訂版)九七頁など)。判例(最二小判昭31・10・5集民二三号四〇九頁)も取締役報酬を一方的に変更することができないことを明らかにしている(取締役会決議によって減額した事案)。
右の判例の事案は、取締役会決議によって報酬を減額し、また、取締役の職務内容変更を伴わない事案であったため、株主総会決議によって、職務に著しい変更があったことを理由とする場合は例外とならないかが争われたのが本件である。
この点について、大阪地判昭58・11・29本誌五一五号一六二頁は、常勤取締役であった者が同意して非常勤取締役となり、それに伴い一方的に報酬を取締役会の決議によって減額されたという事案において、任期中に当該取締役の承諾の下に従前担当していた業務執行を担当しなくなってその職務内容に変更が生ずる等の事情の変更があった場合には、例外的に一方的に報酬を減額することができる旨を判示して、報酬の減額を認めた。この判決は、事情変更の原則を適用して、一方的な取締役報酬の減額を認めたものと理解されている。本件の原判決は、取締役報酬が職務執行の対価であるから、職務内容に著しい変更があれば報酬もそれに応じた変更を加える必要があること、株主総会に報酬金額を定める権限があることを理由とするだけであって、それ以上の根拠を示していないが、右大阪地判と同様の考え方に立つものであろうか。学説中にも、職務内容の著しい変更に応じて、取締役の業務執行と対価たる報酬の間に甚だしい不均衡を生じ、従来の契約をそのまま存続させることが信義衡平の原則に反する結果となる場合には取締役報酬の変更は認められるとするもの(加美「判批」判評三九二号四三頁)もある。
これに対し、本判決は、右の場合も例外とならないことを明らかにしたものである。取締役の報酬額の変更は、会社と取締役間の契約の変更の問題であって、会社の組織に関する問題ではないから、会社内部の意思決定手続を履践することは取締役と会社間の契約を一方的に変更し得る理由とならないし(前記最二小判の場合とは、報酬額の決定に関する会社の意思決定機関が報酬の変更を決議したという点では異ならない。)、任期中の役職の変更は稀なことではなく、また、報酬額の定めが当事者を拘束する期間も最大二年とそれほど長期でないことから、取締役としての職務の変更は、事情変更の原則が問題となるような場合ではないとしたものであろう。学説も、職務の変更の場合に事情変更の原則を適用して報酬額の変更を認めることには消極のものが多い(宮島「判批」法研六二巻一一号一一九頁、川島「判批」ひろば四五巻二号七五頁など)。
本判決は、直接には無報酬に変更することを否定したものである。そして、取締役である限り、その役職にかかわらず一定の取締役としての職務及び責任を有するのであるから、役職の変更は、無報酬とするのを相当とするような事情の変更とは考えられず、無報酬化については減額とは同一ではないが、本判決は、契約の拘束力を理由とするところからすると、減額についても同様であろう。また、各取締役の報酬が役職ごとに定められているような場合などに報酬変更についての黙示の同意があると見られる、そのような場合には報酬の減額も可能とする学説(味村=品川・前掲一〇〇頁、大隅=今井・前掲一七一頁など)、裁判例(東京地判平2・4・20本誌七六五号二二三頁、判時一三五〇号一三八頁)があるが、本判決は、黙示の同意がある場合の報酬の減額を否定するものでもないと考えられる。
本判決は、原則的な報酬額の決定機関である株主総会の決議により、取締役としての職務の著しい変更を理由とする場合であっても、いったん決定された取締役の報酬額を一方的に変更できないことを確認したものとして実務上参考となろう。本判決の判批として、弥永・法教一五二号一四六頁、西山・平4重判解説(ジュリ一〇二四号)一一九頁がある。

Ⅱ 報酬請求権の成立

+判例(S60.3.26)
理由
上告人の上告理由について
所論の点に関する原審の事実認定は、記録に照らし、正当として是認することができる。そして、右事実関係のもとにおいて、
昭和六〇年三月二六日判決 昭和五九年(オ)第一一〇〇号
(1) 商法二六九条の規定の趣旨は取締役の報酬額について取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止する点にあるから、株主総会の決議で取締役全員の報酬の総額を定め、その具体的な配分は取締役会の決定に委ねることができ、株主総会の決議で各取締役の報酬額を個別に定めることまでは必要でなく、この理は、使用人兼務取締役が取締役として受ける報酬額の決定についても、少なくとも被上告会社のように使用人として受ける給与の体系が明確に確立されており、かつ、使用人として受ける給与がそれによつて支給されている限り、同様であるということができる、(2) 右のように使用人として受ける給与の体系が明確に確立されている場合においては、使用人兼務取締役について、別に使用人として給与を受けることを予定しつつ、取締役として受ける報酬額のみを株主総会で決議することとしても、取締役としての実質的な意味における報酬が過多でないかどうかについて株主総会がその監視機能を十分に果たせなくなるとは考えられないから、右のような内容の本件株主総会決議が商法二六九条の脱法行為にあたるとはいえない、(3) 代表取締役以外の通常の取締役が当該会社の使用人を兼ねることが会社の機関の本質に反し許されないということもできない、とした原審の判断もまた、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はなく、所論引用の判例の趣旨に抵触するところもない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(木戸口久治 伊藤正己 安岡滿彦 長島敦)

Ⅲ 参考判例の理解と本問事実へのあてはめ

Ⅳ 継続的契約としての任用契約

+(解任)
第三百三十九条  役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2  前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

Ⅴ 減額の成否について
事前の同意を認めるかどうか

Ⅵ 会計処理の変更について


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